歳を取ると細かい字が読み辛くなるとぼやいた私に、店主は柄に精緻な細工が入った拡大鏡を幾つか取り出して来て、正直者と嘘つきのどちらが良いかと尋ねてくる。正直者は正確だが冷酷に、嘘つきは優しい虚偽を浮かび上がらせ伝えてくる、もちろん真実はお客さん次第だと。私は普通の拡大鏡を選んだ。
巡礼地で購入した鍔のない剣を思わせる形をした栞は実際にペーパーナイフとして使う事が出来た。そして結果的に刃の付いていない刀身で相手を刻むような物言いをしてくる彼女との縁を断ち切る手助けをしてくれた。彼女は今でも己の鍔のない剣を鞘に納められぬままでいるのだろうか。
奇跡の泉の巡礼から戻った彼からの土産は可憐な花の意匠をあしらったペーパーナイフだった。実は栞にもなるのだと自慢気に教えてくれた彼とはその年に別れる事になったが、彼との縁が切れた今でもそのペーパーナイフは栞として本から私の記憶が消えてしまわないように扶けてくれる。