カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・ボヘミアンガラスのボンボニエール

2024-04-23 19:41:49 | 突発お題

 この黄金の森は嘗て本当に存在していたのだと祖父は僕に語って聞かせた。鹿の王が支配する奥深い森は森に生きるものと訪れるものに恵みと死をもたらす優しく無慈悲な存在であり、この器は森の欠片を基に作り出されたのだと。だからこの器に収められた菓子には森の香りが宿るのだと。
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骨董品に関する物語・本物の貝殻を使った小物入れ

2024-04-23 19:40:22 | 突発お題

 蛤のような二枚貝の殻は、どれほど同じような大きさや型をしていようと決して対になるもの以外とぴったり重なり合うことはないと、彼は丁寧な動作で眼前の二枚貝で出来た小物入れの蓋を開いた。そして微笑みながら、之からもずっと離れる事なく一緒にいるねと呟いてから蓋を閉じる。
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骨董品に関する物語・聖人像、メダイ、フィギュア、フェーブ、クロモスカードなど

2024-04-23 19:38:55 | 突発お題

 人間は往々にして規定額に収まる品物の等価交換より、リスクを含んだ想定外の品物売買に魅力を感じるものだ。それを天使の導きと取るか悪魔の誘惑と取るかは人と場合によるが、生涯で一度も天使の導きも悪魔の囁きも体感したことのない人生は、恐らく不幸であると言わざるを得ない。
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骨董品に関する物語・デスカードと写真のセット

2024-04-23 19:37:16 | 突発お題

 遺されたものは人生を終えた愛する人が確かに存在していた証として墓標を建て、記憶を残そうと絵姿を保存する。やがて絵姿を遺したものがこの世を去り、僅かな記述以外は語られることなく失われた物語を隠した絵姿だけがこの世に遺され、やがて全く異なる物語を生み出していくのだ。
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骨董品に関わる物語・J. J. グランヴィルによる「花の幻想」図版

2024-04-22 06:38:03 | 突発お題

 醜い姿の下級悪魔が愛したのは、俗世の醜さを嫌って睡蓮と化した美しい尼僧だった。彼女の気を惹こうとする悪魔は尼僧に居ないものとして扱われ、魔界の掟に反して他者に愛を抱いた下級悪魔は魔王の裁きを受けるまでもなく、己の裡から絶えず湧き上がる炎に際限なく身を焦がされる。
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骨董品に関わる物語・真鍮とピューターのビアマグ

2024-04-22 06:35:46 | 突発お題

 以前、骨董品店で店番の手伝いをしていた時に暇だったので気を利かせたつもりで店内と展示品のあらかたを綺麗に清掃したら、何故か言われもしないのに余計なことをするなと怒られた。この店には骨董品が長い時間を掛けて纏うことになった歳月の気配を愛する客が訪れる場所なのだと。
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骨董品に関わる物語・水牛の角で出来たルーペ

2024-04-22 06:34:03 | 突発お題

 普段なら人間の眼には見えない世界に焦点を合わせてあるという小さな三連のルーペは、それぞれに異なる容姿の精霊を垣間見る事が出来たが、残り一枚のレンズが嵌めていないホールからは文字通り何も見えず不思議に思って尋ねると、いずれは喇叭を持つ天使が見える筈だと言われた。
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骨董品に関する物語・ハンス・ホルバインの手彩色木版画「死の舞踏」

2024-02-17 17:40:58 | 突発お題

 この世界の総ては時間の経過によって研削され、いずれは跡形も失くなるものだか、人間の心身もその例外には成り得ない。それ故にか、財と権勢を手にした人間の殆どは高価な布や石をあしらった金物で少しでも我が身を覆うのだ。しかし、きらびやかに覆われた肉体はやがて朽ち果て腐り落ち、後に残るのは薄汚れた骨ばかりと成り果てる。
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骨董品に関する物語・すみれのティーカップトリオ

2024-01-06 20:40:55 | 突発お題

 菫の香りに含まれる成分は短時間で人間の嗅覚を失わせる。そのせいか菫の花を眺める度に蘇りかける香りを伴った記憶も、脳裏で完全な像を結ぶ前に消えてしまう。思い出せるのは一面の菫の中で寝転がる顔も名前も、それどころか年齢や性別すら朧気な誰かの姿なのだと彼は寂しそうに呟きながら、精緻な菫が描かれたティーカップを傾ける。
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骨董品に関する物語・シックなステレオヴューワー

2023-11-26 20:41:29 | 突発お題

 ステレオヴューワーのスコープを何度覗いても立体に視えず癇癪を起こした僕に、父は同じように覗きながら、きちんと立体に見えると断言した。あの時感じた遣り場の無い憤りと父に対する断絶の感情は成長した僕が再び覗いたステレオヴューワー画面が立体に見えるようになるまで、絶えず胸の裡にあった。
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