カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・ベツレヘムの星のアクセサリーその2

2023-07-09 07:34:13 | 突発お題

 真珠貝は、巧く削り出すと繊細で美麗な星の姿を産み出す。勿論その姿は極めて脆く、僅かな鑿の打ち違いで容易く失われてしまうと修道士は言った。そして細工を行う際に対する極めて困難と忍耐を要する作業の源は、神に対する深い愛と敬虔な信仰心なのだと誇らしげに言葉を続けた。
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骨董品に関する物語・ヴィクトリア朝のティーカップトリオ

2023-06-16 20:58:58 | 突発お題

 青い花模様の入った白い皿に同じ模様の茶碗を乗せて特別に調合したお茶を注ぐ。更に同じ模様の皿に乗せた焼き菓子を用意して幸せになれる魔法をかけるのだと母は言った。その頃の私には母の言う魔法が何の変哲もない日常だったのが不満で、掛け替えのないものだとは気付かなかった。
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骨董品に関する物語・ヴィクトリア朝のゼリーモールド

2023-06-11 23:20:46 | 突発お題

 粉から作るプリンを猛烈に偏愛する友人から昔のゼリー型を購入したので試食に来いと誘われた。以前バケツプリンを型から抜いた際に自重で崩壊した際の騒動を考えると気は進まなかったが今度は大丈夫だとドヤ顔で断言してくる、何でも寒天を使う事で強度の問題を解決したのだそうだ。
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骨董品に関する物語・年季の入ったアニョーパスカル型

2023-05-29 20:17:33 | 突発お題

 とある地方では、生命の復活と豊穣を祈る春の祭りに子羊の形をした焼き菓子を作るのだと奴は言う。何で子羊そのものを食べないのかと俺が疑問を述べると、きっと昔は春先に産まれたばかりの子羊を屠るような景気の良い真似が出来なかったのだろうなどと、実に奴らしい答えが返ってきた。
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骨董品に関する物語・すずらんのボンボニエール

2023-05-29 20:09:14 | 突発お題

 小さい頃から仲の良い女友達は私の結婚を泣いて喜び、お祝いとにすずらんの花模様が美しい骨董品の菓子器を贈ってきた。もう一人の友達は何故か複雑な表情で菓子器を眺めると、まあ綺麗な花だよねすずらんは、と呟いた。だから私はスズランが猛毒を持つ花だと知っている事を口にしない。
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骨董品に関する物語・スターリングシルバーのコーンピック

2023-04-29 19:44:45 | 突発お題

 作法に厳しい祖母から茹でたトウモロコシだけは直接かぶりついても構わないと言われていた僕は、両端に銀製の持ち手を差し込んだトウモロコシの芯を回して粒を齧り取るのが大好きだった。やがて祖母が亡くなり作法を子供に伝える齢になった僕は、時々孫と一緒にトウモロコシを齧る。
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骨董品に関する物語・ヴィクトリア朝の涙壺

2023-04-29 19:42:53 | 突発お題

 仕事を理由に母を顧みず、臨終の床にすら駆け付けようとはしなかった父が母と同じ病に倒れ、長患いの末に亡くなった時、私はただ冷ややかにその死を見送った。そして遺品を整理していた時に書斎の鍵付き引き出しから恋文の束と乾きかけた涙壺を見出した時、ようやく涙を流したのだ。
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骨董品に関する物語・菫模様のエッグスタンド

2023-04-08 12:25:16 | 突発お題

 卵の茹で具合と食べ方に対して異様なまでの執着を示す悪友に、俺が課題で作ったエッグスタンドを欲しいと言われた。失敗作だからこれは駄目だと何度も断ったら勝手に持っていかれた。ちなみに失敗作だったので奴が使ったら妙なものが孵ったそうだが、取り合えず俺のせいではないと思う。
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骨董品に関する物語・木版画のたっぷり入った「初級天文学」

2023-03-24 20:32:05 | 突発お題

 学生時代の級友に、数学と天文学が得意と言うよりは愛していると称するべき相手がいた。この曖昧な世界に於いてそれらは揺るぎない法則であり、世界を読み解き神に近付く手段であるのだと。だが奴は若くして事故で命を落とし、遺された本には天使を思わせる白い羽が挟まれていた。
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骨董品に関する物語・世界中の女神や妖精を手彩色図版で紹介した「女神と妖精 神話の女性史」

2023-03-24 19:31:16 | 突発お題

 幼い頃に母を亡くしたという作家の描く女性は幽玄かつ儚い、そして時には心臓を掴まれる程に艶めかしい存在であり、筆名も相まって特に年若い読者は作者に美しい女性の姿を連想するらしいが、現在残る作家の写真には、線こそ細いが髪を分け眼鏡を掛けた中年男性の姿が映っている。
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