私の暮らす屋敷で執事を勤めていた男は常に顔の上半分を仮面で覆っていた。何でも酷い傷を隠しているらしく、この屋敷で働いているのも他に行く場所が無いからだと父は言う。やがて私は男と死んだ母が嘗ては恋人同士で、男の傷は父に拠って負わされたのだと知ることになるのだった。
枯れた色彩が嘘吐きだというのはガラス職人である師匠の口癖だった。万物が最初に持ち合わせていた筈の瑞々しさと引換えに、耐え難い程の痛みや悲しみさえ曖昧な感覚に変えてしまうのだと。そして、それ故に枯れた色彩はとても優しく人々の抱いた傷を静かに癒やしてくれるのだと。
また会えるわと彼女は誓い、また会おうねと彼は答えた。生者を容赦なく蝕む病にその身を食い荒らされた姉弟が遺した髪は残された両親によって同じブローチに収められ、末永く観る者の紅涙を絞る事になったが、魂となった二人は約束通りに再会を果たし今度こそ幸せになれただろうか。
くすんだ色彩のブリキ缶に詰められた小物は古いもの、用途の判らない不思議なもの、そして何より日常では何の役にも立たないもの。隙間なく収められた有用なものに囲まれて窒息しそうな日常を送る、無用なものの中でようやく安らぐことが出来る疲れた人の為だけに贈り物を厳選する。
これって百一匹のアレだよなと陶器製の犬を手にした友人が呟く。実は近所で散歩している犬がこの犬種っぽいんだが身体に殆ど黒斑が無くて、額を除くと白犬にしか見えないんだと続けた後、映画だと毛皮商人に狙われていたが黒班が無いと価値的にどうなんだろうと物騒なことをぬかす。
先輩の故郷は昔から鴎の玉子を模した菓子が土産物の人気商品なのだと言う。黄金餡をカステラ生地で包み、ホワイトチョコレートでコーティングしたその菓子は、今では故郷以外の各地でも広く販売されるようになった。ちなみに昔は今と違って鶏卵くらいの大きさがあったとは先輩の談。