カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

090「あかとんぼ」より ・ 消える群れ

2014-10-05 19:12:32 | 和モノ好きさんに100のお題
 子供の頃は秋空を黒く埋め尽くすほどのトンボの群れが見られたが、季節外に水を抜かれるようになった学校のプールがトンボの生育の受け皿を果たさなくなってからは激減したらしい。

 どんな巨大な群れも次代に生命を繋ぐ術を絶たれればいずれは消滅するのだと、人間に滅ばされてた幾多の群れは無言で語る。
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089「行商人」より ・ 昔の名前

2014-10-04 20:35:24 | 和モノ好きさんに100のお題
 うちの応接間にあった高い棚には通いの薬売りが中身を補充する薬箱が置いてあって、定期的に現れる薬売りは「子供さんに」とゴム風船をおまけにつけてくれることがあった。風船には正露丸や何やら薬の名前や商標が印刷されていたが、一つだけ女性の名前と読めない漢字があったのでお爺ちゃんに聞いたら顔色を変え、その晩から体調を崩してしまった。

 結局お爺ちゃんはそれから寝たきりになり、春を待たずに亡くなったのだが、その間中、とうに鬼籍に入っていた祖母ではない女性の名前を呼びながら許しを請い続けていたという。
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088「日本一!」より ・ ズバッと参上!

2014-10-03 18:51:29 | 和モノ好きさんに100のお題
「親友の仇を探し回って旅を続ける、『だが、日本じゃ二番だ』が決まり文句の特撮ヒーロ一知ってる?」
「知ってる、でもラストは知らない」
「大概ああいう話って、実は仇が身近な相手だったり死んだと思った大事な人が仇だったりするよな」
「まあ展開的に一番盛り上がるから、シティーハンターとか砂の薔薇とか、傭兵たちの挽歌も確かそんなオチだったような記憶が」
「お約束って大事だよな、ところであの話のラストは?」
「知らん」
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087「投げる」より ・ 美しき泉の精

2014-10-02 21:00:24 | 和モノ好きさんに100のお題
 絶対にモノを投げ入れてはいけないと友人に教えられていた泉にうっかり石を蹴り込んだら、とても綺麗な精霊様が青筋を立てながら現れ、この唐揚げ容器を落としたのは貴方ですかと訊ねて来た。違うと答えると今度は靴を片方、更に違うと答えると空缶を示してきた。それでも違うと答えると、貴方は正直で良い人のようだからだから全部捨てておいて下さいねと姿を消した。

 同じ目に遭った友人は、ここでぶち切れてゴミを放置して帰ったら、それから水の溜まっている場所なら風呂場からコップに至るまで青筋立てた精霊様が現れ続けてノイローゼになりかけたそうだ。
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086「帰り道」より ・ ウイークエンドシャッフル

2014-10-01 17:53:11 | 和モノ好きさんに100のお題
 ほろ酔い加減だったせいか道を間違えたらしく、自宅に戻ったら靴箱の上の招き猫が木彫りの熊に変わっていた。この前は冷蔵庫のコーラが烏龍茶になっていたなと思いつつ部屋に入る。
 明らかに今まで暮らしていた場所ではないのだが同時に紛れもなく俺の部屋、ただし俺ではないこの世界の俺が暮らしていた部屋。一体どういう理由で時々世界が入れ替わるのか理由は知らないが、幸いにも甚大なズレはないので取りあえず新しい世界でも大きな破綻のないまま暮らすことが出来る。だからこの件について深く考えるのはとうに止めた。

 ちなみに、それぞれの世界の俺自身に会った事はない。
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085「賽銭(さいせん)泥棒」より ・ 神様御不在

2014-09-30 21:46:23 | 和モノ好きさんに100のお題
 日本の神社は何となくだがどんな地方の社でも、例えば天神様を祀っていれば参拝時に天神様自身が神社やご神体を依り代に来臨なされるイメージがあるが、中国では関帝廟など有名な神様を祀った小さな廟は、実は関帝とは何の関わりもない生前にいくばくかの徳を積んだ死者の霊が在駐しているらしい。
 考えてみれば中国のみならず世界中に廟を祀られた関帝はいちいち全部の廟を回るのも大変な気がするし、関帝廟に参拝する人々の願いを叶える事で死者も更に徳を積んでより高位の廟に栄転出来るのだそうだが、それでも何処か釈然としないモノを感じる。

 ちなみにキリスト教、と言うかカトリックには守護天使および聖人という、実にきめ細かい分野に特化したお助けシステムが確立されている。
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084「刺青(いれずみ)」より ・ 這い寄る蝙蝠

2014-09-29 20:50:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 有能だが扱いが難しいと評判の夢魔を粘り強い交渉の末に使い魔にしたのはいいが、肌に焼き付けた蝙蝠型の契約印が勝手にあちこち動き回るのが困りものだ。服で隠れる部分ならまだしも、露出している顔や手指を殊更に移動してみせるのは絶対に嫌がらせでやっているに違いない。
 師匠に相談しても「粋なボディーアートじゃないか」と他人事のように笑うばかりだ。
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083「水」より ・ 消えないモノ

2014-09-28 21:25:47 | 和モノ好きさんに100のお題
 水はね、流れないと色々な物を溜めこむから怖いんだよ。
 幼なじみは言った。
 更に、長い間かけて奥底に蓄積してきた汚泥が何かの弾みでかき混ぜられて水面に浮かび上がってくるのはもっと怖いよと言葉は続く。

 ねえ判る?アンタが何の気なしに吐いてきた毒が死んだ後まで私を何度でも苦しめるんだよ!
 そう叫ぶと、いつものように幼なじみの姿は消えた。

 幼なじみが、私の気紛れと暴言に付き合わされるのはもう耐えられないと遺書を残して郊外の沼に身を投げてから、もう十年以上の年月が経っている。
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082「虫の音」より ・ やがて哀しき

2014-09-27 22:05:33 | 和モノ好きさんに100のお題
 鈴虫を捕まえたら口数の多いやつだったらしく、キュウリと一緒に籠に入れておいたら水っぽいからゼリーを食わせろだのメスを連れて来いだの要求を突きつけてきて鬱陶しいことこの上ない。たまらずに籠を引っくり返して追い出したら近所に居着いたのか延々とメスがいないと愚痴を垂れ流す。これは面倒なものを捕まえてしまったと後悔しても遅かった。
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081「あぜ道」より ・ 花埋め

2014-09-26 22:57:44 | 和モノ好きさんに100のお題
 毎年田植えと稲刈りの手伝いに行くお爺ちゃんの田んぼは蓮華を肥料として植えていて、苗を植え付ける直前まで一面に紅い絨毯を敷き詰めたようでとても綺麗なのだが、田植えが終わって瑞々しい緑色をした苗が並んだ頃には、当然のように掘り返されて跡形もなくなってしまうのが哀しかった。
 だから、今年の秋は蓮華の種を少しだけ持ち返って庭の花壇の片隅に蒔いた。そして春、あらゆる花芽を駆逐して花壇一面に紅い絨毯が敷き詰められることになった。

 少し意味合いが違う気もするが、「やはり野に置け蓮華草」という言葉を思い出した。
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