カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

080「ゆかた」より ・ 祭りの後、あるいは後の祭り

2014-09-25 20:17:44 | 和モノ好きさんに100のお題
 うちにホ一ムステイしていた留学生の女の子を地元の祭りに連れて行く際、浴衣が着たいと言うので貸したら案の定左前にしたので、「女物の洋服と違って着物の左前は死人の袷だよ」と教えた。
 やがて祭りを楽しんだ帰り道で、その子が声を潜めて「会場に浴衣を着た死人の女の子が結構混じっていたが、あれはそう言う祭なのか?」と訪ねてきたので、この子もそういったものが見えるのかと意外に思いながら「お祭りとか、賑やかなイベントでは珍しくないよ」と答えた。

 あの時の件について、ひょっとして双方の認識には致命的な齟齬があったのではないかと気付いた時、既に彼女は自国に戻った後だった。
コメント

079「かごめかごめ」より ・ 籠女

2014-09-24 19:56:02 | 和モノ好きさんに100のお題
 随分と長い間、目の前をぐるぐると巡るように現れては消える、どこかで見たような顏をした人々の流れのただ中に立ちすくんでいた。 どうして良いのか判らぬ不安の中で大事な人の名をこっそり呼ぶと、不意に人々の流れが止まり、背後から私の名を呼ぶ声。

 思い切って振り返ると、そこにはあの人の笑顔があった。
コメント

078「耳を澄ます」より ・ 海の唄

2014-09-23 18:56:35 | 和モノ好きさんに100のお題
 ひとは誰でも耳の奥に一対の巻貝を飼っていて、故郷を懐かしむように絶えず大古の海の音を奏で続けている。その音色は本当に微かで耳を塞がなければ聴こえないけれど、きっと我々は誰もが、いずれはその海に還るのだ。

 そんな事を子供だった私に話して聞かせてくれた、良く言えばロマンチスト、悪く言えば地に足の付かない夢想家だった父は、ある日「真実の愛」とやらを追いかける為に私たち家族を捨てて家を出て行った。父が言う「太古の海」とやらが地球で最初の生命を生み出した、所謂「原初の海」を意味するのだとしたら、それは煮えたぎる硫化水素だったらしいのだが。
コメント

077「はにわ」より ・ 萬歳埴丸

2014-09-22 20:53:05 | 和モノ好きさんに100のお題
 友人と、昔見ていた子供番組の話をしていた時の話。

 奴は子供の頃、本気で埴輪の顔が怖かったそうだ。
 愛嬌のある顔じゃないかと突っ込んだら、暗い洞のような目と呆けたような口が恐怖の対象だったが、今は慣れたという答えが返ってきた。何しろ周囲が残らずそうなんだから慣れざるを得なかったと。

 これ以上突っ込むと、色々な意味で余計な恐怖を引きずり出してしまいそうなので黙った。
コメント

076「泥団子」より ・ お彼岸

2014-09-21 22:52:02 | 和モノ好きさんに100のお題
 粘土で作ったフェイクスイーツの団子を乾燥させていたら、いつの間にか小さく囓った跡が付いていた。そう言えば今年から仏壇やお墓へのお供え物は全部専用の蝋製品にしたのだったと思い出しつつ、今度は本物の餅米と小豆を使っておはぎを作り、仏壇に供えて数分間だけ目を離したら、案の定綺麗に無くなっていた。私もそうだが、うちの一族は代々お酒を飲まない代わりに甘い物に目が無いのだそうだ。
コメント

075「跳」より ・ 韋駄天

2014-09-20 21:44:11 | 和モノ好きさんに100のお題
 徒競走やマラソンなど、人目がある場所でで走る時は、動かす手足が物凄く重く感じられて全く速度が出せない。だからいつもビリに近いのだが、本当に時々、特に夜の道で、何かが「外れた」感覚と共に凄く早く走れるときがある。
 そんなときに人間とすれ違うと、僕に背後から不意に追い越された相手が驚いたように周囲を見回し、もう一度前を向いた時には視界から消えているのだ。
コメント

074「祟(たた)る」より ・ 弱り目に祟りガミ

2014-09-19 20:08:25 | 和モノ好きさんに100のお題
 祟り神として就任してからの仕事。

 崇られた家系がきちんと七代続くように、祟っている途中で家系が不運やストレスで途絶えないようにと縁を整えたら上司に物淒く怒られた。
 流産で赤子を失った家庭の悲しみを更に深くしてやろうと、速攻で新しい赤子の誕生を縁付けたら始末書を書かされた。
 貴男だけを愛すると誓った相手に去られた女の思いを踏みにじる為に、更に良い男を近付けたら転職を勧められた。

 現在、本気で福の神へのジョブチェンジを考えている。
コメント

073「子守り」より ・ 鬼児(おにご)

2014-09-18 18:02:50 | 和モノ好きさんに100のお題
 公園で友達と一緒に夢中になって鬼ごっこをして遊んでいたら、赤ん坊の妹をベンチに置き忘れた。家に帰った途端、妹がいないと母さんに酷く怒鳴られたので泣きながら再び公園に戻り、眠っていた妹を連れて帰った。
 その日から妹の様子がおかしい。私や母さんが妹を置いて家を出ようとすると決まって激しく泣き出し、そのまま泣き止まなくなったのだ。きっとあのとき、本当の妹は鬼が連れ去って、代わりに鬼の子を置いて行ったのだろう。だからコレは妹じゃない。

 私は家の玄関に飾ってあった重い置き物を両手で持ち上げ、思い切り叩き付けてやった。
コメント

072「ここまでおいで」より ・ 狐面の少女

2014-09-17 21:58:03 | 和モノ好きさんに100のお題
「ここまでおいで」という声が聞こえたので見上げると、電柱の上に赤い着物姿で狐面を被った女の子が座っていた。

 無視して進むと今度は四階建てのビルから「ここまでおいで」、
 更に無視すると二階建ての民家から「ここまでおいで」、
 終いにはすぐ脇のブロック塀に座って「ここまでおいで」。

 家に戻って母に話すと、きっとお前に遊んで欲しかったのだろうと言われた。ごめんなさい色々な意味で無理です。
コメント

071「親子」より ・ 黒と白

2014-09-16 18:21:46 | 和モノ好きさんに100のお題
 子育てを終えたばかりのクロの背中に真っ白な毛玉が乗っていたので抱き上げて観察してみたら、どう見ても犬でも猫でも、そもそも既存のどんな動物にも見えなかったので悩んでいたら、母が「それはスネコスリね」と自信満々で言い故った。取りあえずクロに懐いているようだしと、そのまま飼うことにした。
 それにしても動物図鑑に「スネコスリ」が載っていないのはどうしてだろう。などと、今日もクロの脚に纏い付きまくる、シロと名付けた毛玉を見ながら考える僕だった。
コメント