カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「フルボッコ状態より」・おしまいと、はじまり

2015-02-03 00:29:35 | だからオレは途方に暮れる
 十歳の誕生日に、父さんと母さんが死んでオレだけが生き残った。
 車の事故だった。

 葬式が終わってから親戚連中の誰がオレを引き取るかの話し合いが始まったが、残された遺産や保険金目当てに名乗りを上げたらしい連中も、オレが生まれてからずっと兄弟同然に暮らしてきた狼犬のゴスペルを処分しないなら面倒は見られないとぬかしやがった。

 冗談じゃないコイツと離れるくらいなら死んでやるとわめき散らしてゴスペルにしがみつくオレと、オレを守ろうとしてか親戚連中に向かって威嚇のうなり声を上げるゴスペルの態度で話し合いが中断しかけた時。

「その子はワシが引き取ろう」

 いつの間に現れたのか見覚えのない爺さんがそう言うと場のざわめきがほんの一瞬だけ収まり、すぐに様々な質問や詰問が爺さんに向かって怒濤のごとく浴びせかけられた。
 曰くアンタは誰だ、知らない顔だが何故ここにいる、この子を引き取る権利はあるのか、どうせ遺産目当てだろう。
 そんな罵倒としか受け取れない言葉一つ一つに、爺さんは自分がオレの母方の祖父であること、自宅に訊ねてくるはずの娘一家が事故に遭ったと聞いて飛んできたこと、オレを引き取れるだけの環境は整っていることをきっちりと説明した。

「第一、ここにいる連中は誰一人としてゴスペルまで引き取る余裕はないのだろう。二親に死に別れたばかりの子供から残った家族まで奪い去る気なのか」

 小柄ではあるが異様なまでの迫力を持つ爺さんは、そう言って親戚連中を眺め回した。殆どの親戚は黙り、どうせ遺産目当てだろう、今までこの子に会いに来もしなかったくせにと聞こえよがしにぼやいた相手は爺さんの凄まじい眼光をまともに喰らってすくみ上がった。

 正直言って、その時のオレは爺さんがあまり好きになれず、単にゴスペルと離れずに済むという理由で爺さんの家に住むと決めた。
 爺さんが本当は何を考えていたのか、どんな気持ちで親戚連中の前に現れたのかなど、少しも判っちゃいなかったのだ。

  
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