取りあえず狼の姿をした幻獣を還してから、今度は地味な色合いの小鳥を呼び出するハリー。通常は物告げ鳥と呼ばれるその小鳥は、遠く離れた相手に召還者の言葉をそのまま伝えることが出来るのだ。
街道沿いの関所に向けて小鳥を放ってから、ハリーは先程からの成り行きを木立の上から眺めやり、気を揉んでいたに違いない相手に向かって言った。
「もう大丈夫です、兄上」
ハリーが召喚したものより少し大きめの鳥は明らかに動揺し、何とか普通の鳥であるかのように振る舞おうとしたが、もう一度”兄上”と呼ばれると、観念したように舞い降りてきてハリーの肩に止まった。
『ばれていたのか』
「あからさますぎます」
『その、ハリーが心配で』
「それも判っています」
にべもない言葉に項垂れる鳥に、でも嬉しかったですと付け加えるハリー。
「それにしても兄上、先ほどは動かないでいて下さって助かりました。あの騒々しい男はともかく、もう一人の大男が本気で動いていたら厄介でしたから」
『あれは…… 、咄嗟のことで動けなかった』
それに、確かにあの大男の方から相当の重圧を感じたと続ける鳥。ハリーも頷いた。
「恐らく、ただ者ではないのでしょうね。まあギリアムとか言う騒々しい男の方も、ある意味ただ者ではありませんでしたが、あれは…… 」
そこまで言うとハリーは不意に眉根を僅かに寄せた表情で無言となり、数秒後、私の鳥が警備兵の詰め所に到着したようですと呟いた。
自分を襲った二人組の男について物告げ鳥を通じて詳しく説明するハリーに、警備兵たちは口々に憤りながら必ず見つけ出してやりますと請け合ってくれる。
取りあえず二人については警備兵たちに任せることにして、ハリーは既に開き直って姿を隠そうともしなくなった兄の物告げ鳥と更に旅路を進めていくことになった。
やがて関所を越え、ローランド自治領からフランク国の辺境に足を踏み入れたハリーは、自分の肩に止まった兄の物告げ鳥に向かって名残惜しげに宣言する。
「兄上、暫しのお別れです。ここより先は我らローランドの守護が及ばぬ地。兄上といえども物告げ鳥の姿を維持することは出来ないでしょう」
見るからに影が薄くなっている鳥は残念そうに頷くと、不安を隠さぬまま呟いた。
「ああ、だが道中は気をつけるんだぞ、あの二人もまだ捕まっていないそうだし」
ええ、気をつけますと答えると殆ど同時に、鳥の姿だけでなく、鳥を通じて確かに感じていた兄の気配も幻のように消え失せる。ここからは文字通り、ただ一人で王都を目指すことになるのだ。
「さて、と…… 」
街道沿いの関所に向けて小鳥を放ってから、ハリーは先程からの成り行きを木立の上から眺めやり、気を揉んでいたに違いない相手に向かって言った。
「もう大丈夫です、兄上」
ハリーが召喚したものより少し大きめの鳥は明らかに動揺し、何とか普通の鳥であるかのように振る舞おうとしたが、もう一度”兄上”と呼ばれると、観念したように舞い降りてきてハリーの肩に止まった。
『ばれていたのか』
「あからさますぎます」
『その、ハリーが心配で』
「それも判っています」
にべもない言葉に項垂れる鳥に、でも嬉しかったですと付け加えるハリー。
「それにしても兄上、先ほどは動かないでいて下さって助かりました。あの騒々しい男はともかく、もう一人の大男が本気で動いていたら厄介でしたから」
『あれは…… 、咄嗟のことで動けなかった』
それに、確かにあの大男の方から相当の重圧を感じたと続ける鳥。ハリーも頷いた。
「恐らく、ただ者ではないのでしょうね。まあギリアムとか言う騒々しい男の方も、ある意味ただ者ではありませんでしたが、あれは…… 」
そこまで言うとハリーは不意に眉根を僅かに寄せた表情で無言となり、数秒後、私の鳥が警備兵の詰め所に到着したようですと呟いた。
自分を襲った二人組の男について物告げ鳥を通じて詳しく説明するハリーに、警備兵たちは口々に憤りながら必ず見つけ出してやりますと請け合ってくれる。
取りあえず二人については警備兵たちに任せることにして、ハリーは既に開き直って姿を隠そうともしなくなった兄の物告げ鳥と更に旅路を進めていくことになった。
やがて関所を越え、ローランド自治領からフランク国の辺境に足を踏み入れたハリーは、自分の肩に止まった兄の物告げ鳥に向かって名残惜しげに宣言する。
「兄上、暫しのお別れです。ここより先は我らローランドの守護が及ばぬ地。兄上といえども物告げ鳥の姿を維持することは出来ないでしょう」
見るからに影が薄くなっている鳥は残念そうに頷くと、不安を隠さぬまま呟いた。
「ああ、だが道中は気をつけるんだぞ、あの二人もまだ捕まっていないそうだし」
ええ、気をつけますと答えると殆ど同時に、鳥の姿だけでなく、鳥を通じて確かに感じていた兄の気配も幻のように消え失せる。ここからは文字通り、ただ一人で王都を目指すことになるのだ。
「さて、と…… 」