遺跡はあるが、辿り着くのはとても無理だと地元民に忠告された。
下調べをする限りでは確かに、通常の連中だったら命がいくつあっても足りない難所揃いの道程しか存在せず、それ故に古くから知られている割には手つかずのまま残っていたらしい。つまり、しばしば遺跡荒らしと揶揄されるトレジャーハンターにとってはお宝の山である可能性が極めて高い。挑戦してみる価値はありそうだと判断した俺は準備を整え、平穏とは言いがたい道中を経ながらも何とか遺跡に侵入したのだった。
険しい山中に存在する崩れかけた遺跡。元々が何の施設であったのかを知る者は既に存在しない建物の隙間を縫うように調査を進めると、どうやら何らかの事情で破壊され、そのまま打ち棄てられたらしい建物内には至る所にお宝、つまり通常はジェムと呼ばれるエネルギー結晶体が多数存在していた。むろん、結晶をはめ込まれたエネルギーシステムから外し、無事地上に帰還してこそ俺の『仕事』が完成するわけだから油断はできないのだが、それでもここが上等の餌場であることは間違いない。
そこらの同業者より遙かに有利なことに、俺は古代文明の遺跡から発掘されたエネルギーを探知できるゴーグルを所持していたので、面白いくらいあっさりと暫くは遊んで暮らせそうな量のジェムを採集できた俺は、調子に乗って更に遺跡の奥まで進んでいき、再びゴーグルを装着した時点で失明しかけた。
「な……、なんて光だ」
思わず貴重なゴーグルを投げ捨てて自分の眼球を灼きかけた光のダメージが収まるのを待ち、なんとか視界を取り戻した俺は、恐る恐る光の根源を目指してみることにした。
そこは、荒れ果てた遺跡の中でもかなり原形を留めている部屋だった。空気の流れもあることから察するに、奇跡的に維持システムが働いているのだろう。
「光の正体は、こいつか」
部屋の隅にうずくまるように転がっている、それは二体の人形だった。既に着ている物はぼろぼろとなり、打ち棄てられて久しいことを示していたが、人形本体にはほとんど劣化が見られず、ぱっと見では眠っている人間の子供のように思える。
栗色の巻き毛を持つ十歳くらいの少年を、まっすぐな青い髪の十四歳くらいの少年が抱きしめていて、青い髪の少年には極めて強い光を放つジェムが握られていた。よく見るとジェムはコードのような物と接続されていて、どうやら青い髪の少年はそれを己の胸部から引きずり出したらしい。
「一体、何があったのやら」
どう見ても心中だよなこれはと付け加えながら更に観察を続けると、空恐ろしいことに青い髪の少年の体は未だ機能を停止していないように見えた。恐らく、ジェムを元の位置に戻せば再起動する可能性が高い。そして、本当に動けば金額などつけようもないほどのお宝となるだろう。
さてどうするかと俺は少しの間考え、いつものように己の勘に従うことにした。
俺は青い髪をした少年の手を取り、ジェムを取らぬまま栗色の髪をした少年の手のひらと重ね合わせた。
「こいつは少しばかり俺のポケットには大き過ぎるお宝のようだ」
あんたらの邪魔をするつもりはないから、二人でゆっくり眠りな。そう呟いてから俺は二人に背を向けた。ジェムの収穫は十分すぎるほどにあったし、これ以上がっつくこともあるまい。
それに。
ガキの頃何度も聞かされたお伽話、青い髪をした死天使の話を、俺は思い出していた。
年を取ることも朽ちることもないまま、ただこの世界を彷徨うことを定め付けられた永遠の少年。けして邪悪な存在ではないが、その力の強大さから、しばしば関わった相手に不幸をもたらす存在。
もちろん眼前の人形がその少年である証拠など何もないが、俺は俺の勘に従うことにしているし、その見返りに俺の勘はしばしば俺の命を救ってくれているのだ。
俺は別に地上最高のトレジャーハンターというわけでもないので、この遺跡はいずれ他の誰かが訪れることになるだろう。そのとき、この二人を見つけたそいつがどうするか、その時初めて俺の判断が正しかったのか、あるいはそうでなかったかが分かるだろう。
だが、それは先の話だ。