父の大切にしていた銀製のカップと瓜二つの品物を古道具屋で見付けたので買い求め、当の父に見せると愕然とした表情となるなり、まだ残っていたのかと呟いてから黙り込んでしまったので、カップに彫られた名前が父の祖母、つまり私の曾祖母ではなく私の名前である理由を聞き損ねた。
『針の先で何体の天使がダンスを踊れるか』という有名な神学上の命題があるが、正解は世界に存在する天使全員と奴は言った。質量とは無縁の存在である天使は例え何体集まろうと針の先に溢れ返ることはないと。そして同じようにロケットペンダント内の空間に俺の全世界があるのだと。
金色の十字架があしらわれたロケットペンダントは裏蓋が硝子製で、病床の母はこの中に貴方の大切なものを入れて何時でも見られるようにしておきなさいと渡してくれた。出来ることなら彼女の魂が祝福された国に旅立つ際に、その欠片でも此処に残して欲しいというのは我儘だろうか。