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’08/07/28の朝刊記事から
グローバル経済の歪み 安定重視の「日本型」創出を
京大大学院教授 佐伯 啓思
奇妙な金余り
先に開かれた先進国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)では、もっぱら二酸化炭素排出量の削減が焦点となったが、より緊急の今日の課題は、石油等の資源や食料価格の急騰である。
実際、今年に入ってからの石油価格の高騰は著しく、また、食料供給への不安感も急速に高まっている。
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中国、インドという人口大国の急成長による需要の急増が予測されるため、先物市場で価格が高騰しているのだが、それだけではない。
その背景には世界的に過剰な投機的資金の暴走があり、特にアメリカのサブプライムローン問題が資本の迷走に火を付けた。
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今日の経済においては、資本は、長期的な時間をかけてコストを回収する安定した研究開発へ向かうのではなく、グローバルな金融市場で即席の利益を上げる投機に向けられる。
しかも、各国は景気対策としてもっばら貨幣供給に頼るから、ますます世界的に金余りになってしまう。
過剰な資金が貪欲な利益を求めて世界中を駆け巡っているのである。
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これが、株式市場等を舞台に、投資のプロによるマネーゲームに収まっているぶんにはまだよいのだが、過剰資金が、資源や食料という、我々の生活の土台を直撃するとなると事態は深刻だ。
一方ではカネが余り、他方では石油や食料が不足する、という奇妙な事態が出現する。
明らかに、今日の経済は歪んでいる。
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利潤生む道具
このいびつな構造を生み出した一つの要因はグローバル化にほかならない。
グローバル化は、あらゆるレベルで市場競争を促進し、長期的に安定した企業組織や、政府による経済調整を破壊した。
いわゆる構造改革の中で、労働力は激しい競争にさらされ、貨幣は政府の管理を離れて世界中に自由に流れ出るようになった。
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このことを言いかえれば次のようになる。
通常、経済活動は、貨幣(資本)、労働、そして自然資源からなる生産要素を組み合わせて行われるが、通常、それらは完全には市場化されない。
生産要素を市場の需給に合わせて、あまりに不安定な価格変動や供給変化にさらされては困るからである。
だから、労働は、組合や法によって保護され、貨幣は政府(及び中央銀行)が管理し、資源確保に政府が介入し、食料も、ある程度、政府が管理してきた。
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ところが、構造改革は、これらの生産要素をすべて市場化し、自由競争にさらすことを意図しにのであった。
かくて、国によるコントロールを超えた、貨幣の流動化、労働の競争、資源の獲得競争がはじまった。
その結果が、グローバルな金融投機であり、派遣労働やフリーターの登場であり、食料や資源の高騰であった。
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生産要素が生産に使われるのではなく、商品として市場競争にさらされ、利潤を生み出す道具となったわけである。
かくて、貨幣をふんだんに供給できるアメリカ、安い賃金で労働競争力を持つ中国、それに資源を持つロシアが、グローバルな世界において大国となってゆく。
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組織力を生かし
もっとも打撃を受けたのは日本である。
日本の強みは、貨幣(資本)、労働、資源をうまく結び付けて、長期的な生産を可能とする「組織」の力にあった。
そしてその安定的な構造を支えたのが政府であり官僚行政であったが、それらを日本は構造改革によって放棄したのである。
だが、今日のグローバルな経済構造の歪みは著しく、各国ともそれをコントロールすることができない。
いずれあらためて、貨幣、労働、資源という生産要素の管理という課題が正面から論議されるであろう。
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貨幣のグローバルな暴走から、各国の国民的生活や雇用、そして生産組織を保護することが再び要請される。
その時にこそ、雇用や組織の安定に責任を持つ日本的な企業と、生活基盤を整備する公共政策を重視する新たな「日本型のモデル」を提示することが求められるだろう。
撮影機材 Kodak DC4800