歩く・見る・食べる・そして少し考える・・・

近所を歩く、遠くの町を歩く、見たこと食べたこと、感じたことを思いつくままに・・・。おじさんのひとりごと

成瀬巳喜男の『銀座化粧』で婦人民主クラブから独身婦人連盟を思い出し“一杯のかけそば”に声援

2016年02月26日 | 映画の話し
前回の続きです。

『銀座化粧』のお話です。

バーの客に支払う金が無い云われ、友達と待ち合わせているからと、別の居酒屋まで「付け馬」として付いていき逃げられたり。

バーのママから借金返済の相談をされて、心当たりのある男に援助を頼んだら、倉庫で関係を迫られ拒絶したり。

お妾さんしていた過去に、旦那の子供を胎み、産む際に生死を彷徨い、その時の旦那の対応に感謝し、落ちぶれ別れたいま、時々金の無心に来るが、それなりに対応していたり。

水商売の女としては、脇が甘く、金の為なら嫌な男でも受け入れる女でも無く、過去に恩にはそれなりに感謝の気持ちを忘れない。

ヒロイン雪子は、狡さもなく、こころ優しく、島崎藤村の詩集を口ずさむ、とても素敵な女性なのです。42歳になっても、清き乙女心を残した女性なのです。

現実には、ちょっと有り得ないような設定? でも、世の男として、成瀬巳喜男として、きっと、そんな女性がいて欲しいとの、願望が創りだした雪子さん。

そんな、雪子の前に、理想的な男性が現れます。元女給仲間の静江が“純愛相手”と称する男が上京し、旦那の都合で、静江は雪子に東京案内を頼むのでした。

それで、横道に逸れますが、静江が案内できない理由として、“婦人民主クラブの用で”との台詞があります。

1946年に宮本百合子、佐多稲子、山室民子、関鑑子、羽仁説子、松岡洋子、加藤シヅエらによって結成された団体です。さり気なく時事ネタを潜り込ませています。

“婦人民主クラブ”で思い出すのは、“ドクフレン”です。“毒婦”ではなく、“独婦”で、独身婦人連盟のことです。

終戦直後は、結婚適齢期の男女比に不均衡があったのです。戦争で男が大量に死んだ為に、男が2百数十万人不足していたのです。結婚できない女性が大量に発生していたのです。

ですから、男にとっては選り取り見取りで、女性にとっては選り好みしづらい環境だったのです。平和になって死の恐怖から解放され、反動として生に目覚め、性に目覚め、男と女は日ごと夜ごと励み、ベビーブームが起きたのでした。

そういう背景があっての、雪子の男性選び、結婚願望、フツウの家庭、ふつうの奥様願望なのです。

それで、純愛相手は長野の大地主の次男“京助”、測候所の職員で、若くてハンサムで、夜空の星を愛し、詩を愛し、モーパッサンを愛し、とても、とても、純情で純粋で世間離れしている男なのです。

雪子は、もう、一目惚れで、結婚を考えたりするのですが、小学生の息子が一時行方不明となり、店の女給仲間で、妹のように可愛がっていた“京子”(香川京子)に京助の世話を頼むのでした。

そして、そして、京助と京子は一晩で、こころを通わせ、結婚の約束をしてしまい、雪子の儚い夢は破れるのでした。京子と比べたら、雪子は条件が悪すぎるのです。

それにしても、若くて美しくて、純情可憐そうで、女給とは思えない、見えない、京子役の香川京子です。1931年12月の生まれですから、このとき19歳です。我が茨城県は行方市の出身。

それで、夢破れた雪子ですが、元の旦那が訪ねて来て、金の無心をされる前に、雪子から、

『お金ならダメよ!・・・私もこころを入れ直して、しっかり働くわ、結局、今となれば春雄だけがあたしの頼みの綱』

と、語るのです。母と息子と二人で生きていく決意を固めたのです。

息子が唄う、春が来たの歌声が流、川岸には芽吹いた柳、店に向かう雪子の後ろ姿のシーンでエンドマークとなります。

始まりの季節、春で、終わらせた処に、監督の意図を感じたのですが、考えたら(ちょっとだけ)公開が4月14日でしたので、単なる製作時期によるものかも?

この後、世の中はほどなくして高度成長の時代に突入し、雪子もパトロンの必要もなく、自分で店を持ち、春雄も立派に成長し夢を叶え科学者となったと、思ったり、したのです。

田中絹代は、それなりに好演していました。原節子のような美人でもなく?強い個性もなく?小柄で可愛らしいのですが、色気はあまりなく?それなりに、フツウの日本女性を演じることのできる女優だと思います。

始めから、終わりまで、楽しめました、面白かったです。白黒で観る昔の銀座界隈の風景が、とても、とても、懐かしかったです。

そして、そして、春雄の、坊ちゃん刈り、半ズボン姿に、昔の自分の姿を見ているような感覚になりました。

そば屋にひとりで入り、夕食の“かけそば”を注文するシーン、ガンバレ!と声を掛けたくなりました。そして、“かけそば”を手繰りたくなりました。


はい、これで、『銀座化粧』を終わります。


それでは、また。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする