お手製の「Pseudo(まがいもん)UST」。。。とんでもない道具が発明されました。
GWもそろそろ終わりです。
この連休中ハープカスタマイズを行う上で革命的なツールを体験しましたので紹介したいと思います。
■おさらい
ハープをカスタマイズするうえで重要な技術が二つあります。
●リードを希望する形に整形する技術
あげみ(Gap)にまつわる話
Reed Profile
Gap, Reed Profile調整
●エンボス(又はサイジングと言います)の技術。
Emboss エンボス そして近藤楽器
Emboss 2nd と Squealing 対策について
リード形状(あげみ含む)の調整は、ほぼ必須と言っても過言ではありません(あくまでもカスタマイズする人にとっての話です)。
しかし、これにエンボスが加わる事で 10Holes は箱から出したままで使う(Out of the box)のでは体験出来ないようなレスポンスが得られるようになります。
しかし、エンボスを行うにはそれなりにやっかいな問題がつきまといます。
■エンボスを行う上での問題
スロットのヘリのみを潰したいのですが、どうしてもリードを押し下げてしまいます。
これだけリードを変形させても根元付近には確りとエンボスで来ません。
陥没したリードを後から戻してあげればよいのですが、金属疲労を考えるとリカバリしないに越した事はありません。
また、リカバリしてもリードがスロットよりも下に入り込みやすくなります。
小さな音量で吹く分にはOver Bendはし易いのですが強く吹くと息が詰まり易くなりがちです。
これは一気に戻すのではなく、プリンキングとリカバリを何度も行い、更に日を置いて同じ事を行う事で解決できます。
森のなかまはリード先端よりも根元付近にエンボスを施すことが重要と考えています。
経験的に根元付近から息漏れする量が多いと Bend, Over Bend時に耳障りなSquealingが発生し易くなります。
また、リード先端付近ばかりをタイトにするとリードがスロットにぶつかってしまい発音し難くなります。
これらの問題を解決するためにも根元を重点的にエンボスしたいので、以前は苦肉の策としてスパナを使って別途で根元付近をエンボスしていました。
Emboss 2nd と Squealing 対策についてより
結構めんどくさい上に、別途エンボスするためエッジに段差が出来てしまうため何らかの改善が必要と思い日々悶々と考えていたのでありました。
USTに近いイメージは確かにありましたが、それを具現化する努力は特にしていませんでした。
■Dick Sjoebergさんの UST
さて隔月で発行される
Mel Bay's Harmonica Session ですが今回 Kinya Pollard さんの記事に
Dick Sjoeberg さんによる"UST(
Ultimate
Sizing
Tool)"という究極に素晴らしいツールが紹介されていました。
Harmonica Workbench: Size Matters by Kinya Pollard
最初はKinyaさんのページで写真を見た時は正直。。
「あぁ、こんなのもあるんだ」
としか思いませんでした。
体調もよろしくなく仕事が忙しかった事もありますが、人間鈍感になると好きな領域でもこうも鈍くなるのですね。
GWに入り改めて記事を読み直してみるとUSTの凄さが脳内でありありと分かってきます。
ひょっとしてこれは本当に最終兵器なのでは。。
ということで直ぐにでもUSTを使ってみたくなったのですが、KinyaさんのページにはDickさん御本人のコメントで「注文はメールで問い合わせて下さい」とあるので時間がかかりそうです。。。
ということで、似たようなものでも良いから作って試してみたくなったのです。
■PUST(Pseudo:まがいもん)を作る
要件としては真鍮製のリードプレートのスロットを押して凹ませることです。
更にスロットと接触するところを綺麗に磨いておけば、エンボスした箇所も綺麗になることでしょう。
本当はステンレス等で作れれば良いのでしょうが、森のなかまは、ステンレスのように硬い金属を加工する道具を殆どもっていません。
ということで、なるたけ切削作業を減らす為に代用品を加工しようと考えました。
お気に入りのKTCのスパナをベースに始めようかと思ったのですがメッキで綺麗なツールを加工するのには忍びなかったので、あれこれ考えた結果「後腐れのない100均のレンチ」を使う事にしました。
4-5本入って100円という恐ろしいパフォーマンスの100均レンチ。。上が加工前のもの。下が加工したものです。
後端部の早回し用の座がねは邪魔なので取りましたが、これを取るのが一番大変だったかも(笑)。。。
基本的にリベット止めされているようなモノなのでコジってボロボロにして取りました。力技です。
上の部分がPUSTになるところです。
側面にアールを付けて、先端が64-66度くらいになるようにエッジをつけています。
原材料として「焼き入れ加工した鉄」みたいな事が書いてありましたので、ダイヤモンドやすりで荒削りし、気長にペーパーで仕上げようと考えていました。
実際1時間くらい万力無しでガリガリやっていました(笑)。
しかし疲れて来たので保護眼鏡をつけてリュータで削ってしまいます。もの凄く楽です。
しかし、リュータは気をつけないと回転面から部材が滑ってしまいエッジ付近が甘くなってしまうので、最終的には手で仕上げます。
仕上げのペーパーは#800から初めて#2000番と「
リードプレートのエッジを磨き」と同じ要領で作業を進め、最後はコンパウンドで磨きました。
見てくれはあまり良くはありませんが、自分で作ったツールや治具というのはなんとなく愛着が湧きそうですよね。。
■PUSTを使う
さっそく使ってみましょう。
あたかも、写真を撮りながら作業をしているようですが、作業中はそんな余裕はありません(笑)。気が散るとろくなことはありませんよね。
写真のリードプレートは「これなんかエンボスに使えない?」と思った道具を片っ端から試すための専用リードプレートですので扱いがかなりぞんざいな状態になっていますがご了承下さい。
実際には Hering の Free Blues をフル加工して気付いた事などをまとめて書いてみました。
基本的な使い方は以下になります。
・PUSTの先端をリードとスロットの間に置きます。リードの根元(リードが固定されている方)から始めましょう。
・PUSTの平らな面をリードの側面にあててガイドとして使います。
・最初は力加減が分からないと思いますので、軽くリードに沿わせながらPUSTをリードの先端方向にスライドさせていきます。
・先端付近はそれほどエンボスする必要がないので、段々と力を抜いていきましょう。
・気を付けないとPUSTが滑り、リードに乗っかり下に押し下げてしまいます。。。
ツールが滑ってしまうのはスパナの時でも経験済みだったので今回は、薄いプラスチック製フィルムの帯をスロットとリードの間に挟むようにしました。
ツールが滑ってもリードが下に沈まないのでリードを下に押し下げてしまう事故が少なくなります。
ただ、リード先端付近だけに帯を挟んでいるとリード中間でたわんでしまい、やはり滑ってしまいます。
可能であればツールとリードを押し上げる帯は一緒にスライド出来れば良いのですが。。。
と思ったら意外にも簡単な方法で解決しました。
その方法を紹介します。
リード根元付近まで帯を差し込んでおきます。
帯はツールよりも少し離れた所で軽く押さえるのがコツです。
ツールをリード先端方向にスライドさせていきます。
この時ツールが帯を押していくので、ツール先端付近には滑ってしまうようなたわみや隙間が無いのです。
先端付近まできました。
ここでツールをプレートから放します。。
あら不思議!
帯はプラスチックの弾性により「パシャッ」とほぼ元の位置に戻ってくれるのです!
ツール先端より少し離れた位置で帯を支えるのは適当に帯が変形してくれる遊びを持たせるためだったのです(エヘン)。
計算づくのように書いていますが、偶然気付いたのであります(すみません)。
気付いた時はチョッと(かなり)嬉しかったです(笑)。
Kinyaさんもおっしゃっていましたが、時々リードがスロットより短い時もあるので、このような使い方もできるのです。
少し細い帯えば長短どのリードにも適応できますね。
スロットの縁が綺麗な線を描いてエンボスされています。
写真では分かり難いかもしれませんが、とても面倒だった根元付近も均一に綺麗にエンボスできています。
正に「エンボスのプロ」のような仕上がりです!
しかも、音叉を使った時のようにリードのリカバリも不要ですので、一度リードの形を決めた後でも手軽に、簡単にエンボスができてしまうのです!
もぉー、これは凄いです。凄過ぎです(本気)!
森のなかまの「なんちゃってマガイもの」ツールでさえこれだけできるので本物のUSTはもっと素晴らしいのかと思います。
■リードを整形する
ついでなのでリードも整形します。
最近はバラした状態でリードを整形する時には道具は殆ど使いません。
爪とヘラ(リードをビーンと弾く)で済ませてしまいます。
予め付いているアーチを取るのが主になるので、裏側からヘラを入れてやさしく力を加えます。
時々リード中央が膨らんでいたりものがあるので曲がっている所を平らにしていきます。
時にはマニキュア用のウッドピックを使う程度でしょうか。
一カ所を強く押す事はせず、優しく全体を考慮しながら作業を進めましょう。
あとは仮組しながら仕上げの調整を行っていきます。
Free Bluesのような安価な10Holesでも、根元を確りとエンボスする事で Over Drawも楽々出せ、息詰りも無い調整ができました。
もちろん Over Bend 等使わないスタイルであれば、より大きな「あげみ」を確保しても息漏れの少ないレスポンスの良いセッティングを整える事が可能です。
■おわりに
久しぶりにハープカスタマイズの投稿でしたが如何でしたでしょうか。
USTの出現はハープカスタマイザーにとってこれまでに無いくらいの朗報です。
まさに、革命、イノベーションと言っても良いと思います。
作業の難易度を下げるばかりか、仕上がりも美しいのです。
美しい仕上がりは明確に体感できませんが、物事を良い方向へと導いてくれているはずです。
また、エンボスを必要な時に簡単、手軽に、しかも短時間で出来てしまう事も見逃せません。
もう「UST無しでハープカスタマイズはしたくない」と言いたくなる程です。
このような素晴らしいツールを発明、紹介して頂いた Dick Sjoebergさん、Kinya Pollardさんの両氏にこの場を借りてお礼を申し上げます。
ありがとうございます。
それでは、みなさんもUSTを入手して思う存分エンボスの効果をお楽しみ下さい。
それでは!
P.S.
ステンレス製のノギスの先端をUSTのように加工すると様々なリード幅であってもスロットの両側を一度にエンボスを施せるのではないかと考えていますが、案外思った程よろしくないのではないのかと妄想しています(笑)。。