徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザワクチン情報-8:日本で開発中の「経鼻不活化ワクチン」

2015年09月04日 07時59分57秒 | 小児科診療
 インフルエンザワクチンの種類を整理してみますと・・・

①経皮不活化ワクチン
②経鼻生ワクチン
(③経鼻不活化ワクチン)

 となり、日本で認可され皆さん接種しているのは①です。
 米国では2003年に②が導入されましたが、日本は未導入(前項参照)。
 ③は現在日本で開発中のワクチンなのでカッコつきです。
 その関連記事を(長文で専門用語が出てきます);

■ インフルエンザの次世代経鼻ワクチンを開発中
(naturejapan:2015年2月26日)
 国立感染症研究所感染病理部の長谷川秀樹部長は、“インフルエンザにかからない”“インフルエンザウイルスの変異にも対応できる(交叉防御能のある)”“新型インフルエンザにも使える”“副反応の少ない”次世代ワクチンの研究の第一人者で、健康な人に参加してもらう臨床研究で成果を上げている。
 長谷川部長が研究しているのは鼻の粘膜に噴霧する経鼻ワクチン。現在、日本ではインフルエンザワクチンは注射しか承認されておらず、米国で2003年に承認された経鼻ワクチンはインフルエンザウイルスを弱毒化した生ワクチンで、発熱などの副反応があり、2歳から49歳にしか使えない
 では、なぜ経鼻ワクチンなのか。一つの理由はもともとインフルエンザウイルスがせきやくしゃみなどの飛沫を通じ、鼻や口、喉といった上気道から感染するからだ。このような経路から自然感染した場合には、主に粘膜で分泌型IgA抗体が分泌され、血液中でIgG抗体が増えて、ウイルスやウイルスに乗っ取られた細胞に対応する。この自然感染の免疫応答は、不活化ワクチンの皮下注射よりも抗体産生能や交叉防御能が高く、それが粘膜の分泌型IgA抗体の有無によることが1960年代からの研究で知られている。「経鼻ワクチンは自然感染と同様に全身の粘膜に分泌型IgA抗体を誘導し、交叉防御効果も高めます。また、何よりも痛くないのがメリットです」(長谷川部長)。
 ただし、注射用のワクチンを鼻に直接噴霧しても免疫を誘導する力が弱いため、免疫誘導する粘膜ワクチンアジュバント(補助剤)が必要になる。かつてコレラと大腸菌の毒素が粘膜ワクチンアジュバントとして使われたが、この経鼻ワクチンの治験で顔面神経麻痺の副反応が表れ、細菌毒素由来の粘膜ワクチンアジュバントは使われなくなった。長谷川部長らは、2000年代半ばにToll様受容体(Toll like receptor)のリガンドとなる合成2本鎖RNAに可能性を見出した。「インフルエンザウイルスのようなRNAウイルスは増殖時にRNAからRNAを作るのに2本鎖RNAを作ります。ヒトの体内には2本鎖RNAは存在せず、2本鎖RNAを認識するToll様受容体が刺激されると自然免疫が誘導されます。つまり、RNAウイルスの2本鎖RNA自体にアジュバント作用があるわけです。そこで必要に応じて合成2本鎖RNAを経鼻ワクチンに付加して免疫を誘導することにしました」(長谷川部長)。


50名のボランティアによる臨床研究の結果:
3週間あけて2回の経鼻ワクチンの噴霧により、42日後には血中抗体価が4.25倍、陽転率が43.5%以上、抗体保有率が76.1%となり、ヨーロッパでのワクチン承認の基準を突破した。さらに注射では誘導されない鼻腔洗浄液中の抗体が誘導された。

 そして、マウスやカニクイザルの実験で、季節性インフルエンザや新型インフルエンザのさまざまなウイルス株を用いて、経鼻ワクチンが上気道での感染そのものを防ぐこと、肺にウイルスが入っても肺炎を起こさないこと、変異ウイルスに対する交叉防御能を持つことを確認し、2010年から健康なボランティアに参加してもらう臨床研究を始めた。
 2012年に終わった季節性インフルエンザウイルスH3N2の全粒子不活化ワクチン(アジュバントなし)の研究では、50名のボランティアに3週間あけて2回の経鼻ワクチンを噴霧したところ、42日後には血中抗体価が4倍以上に上がった。「ヨーロッパでのワクチンの承認基準は血中抗体価の平均が2.5倍以上、陽転率が40%以上、抗体保有率が70%以上で、これをすべてクリアし、さらに鼻腔洗浄液(鼻を生理食塩水で洗った液)中での抗体価も3倍以上になりました。また、交叉防御能も上がっていることが確認できました」。
 続いて、これまでに感染経験がない=免疫記憶がないH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスの全粒子不活化ワクチンを作製して、63名のボランティアに同様の間隔で2回噴霧する臨床研究を行った。ところが、血中抗体価も陽転率も抗体保有率も上記の研究のようには上がらなかった。「がっかりしましたが、この試験で抗体を産生する形質細胞の血中での数が全員で増えていたので、何らかの刺激に応答していることがわかりました。そこで、H5N1ワクチンにはアジュバントを付加し、接種スケジュールも変えて8か月後にもう1回接種しました。すると血中抗体価も陽転率も抗体保有率も大幅に上がりました」。
 上記の結果から、長谷川部長は、まずは季節性インフルエンザの経鼻ワクチンの開発を進めたいと考えている。「H5N1新型インフルエンザウイルスに関しては3回接種とその期間がネックで、アジュバントもさらに工夫が必要です。ニーズの高い季節性インフルエンザワクチンを製薬企業とともに実用化する準備を始めています」。
 このように作製した経鼻ワクチンの研究開発を進める一方で、長谷川部長らはIgA抗体の構造や大きさ、量とウイルスを中和する能力や交叉防御能の関係も調べている。IgA抗体は血中では単量体で、粘膜では2量体あるいは多量体が多いことはすでに知られているが、「鼻腔洗浄液中でIgA抗体の2量体や多量体がどのくらいの割合になっているのか、データが出つつあります」。また、インフルエンザウイルス株に反応しやすいIgA抗体の形や大きさ、ウイルスとの結合部の詳細な構造も解析中だ。近々発表されるであろう、この成果が免疫学やワクチンの作製に大きな影響を与えることが期待される。
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インフルエンザワクチン情報-7:未来の「万能ワクチン」

2015年09月04日 07時45分55秒 | 小児科診療
 インフルエンザワクチンを毎年接種しなければならないのは、「ウイルスがマイナーチェンジを繰り返す」ためで、ウイルスとワクチンのいたちごっこ状態。
 では、変化しない部位に対するワクチンを作れば解決するんじゃないか?と素朴な疑問が生まれます。
 そうなんです、ずっと研究されてきたのですが、なかなかうまくいきませんでした。
 しかしようやく、期待できるデータが報告されました;

■ インフルエンザの「万能ワクチン」開発に前進、研究
(AFP=時事:2015/08/25)
 インフルエンザの多様なウイルス株に対して有効に作用するワクチンの開発に向けた大きな一歩を踏み出したとする研究論文2件が24日、世界的に権威のある学術誌にそれぞれ発表された。
 「万能ワクチン」は、インフルエンザに対する予防接種の取り組みの至上目標となっている。世界保健機関(WHO)によると、絶えず形を変えるインフルエンザウイルスにより、毎年最大50万人が死亡しているという。
 既存のワクチンは、常に突然変異を繰り返すインフルエンザウイルスの一部をターゲットとしているため、製薬会社や保健当局は毎年、新しいワクチンを調合する必要がある。
 英医学誌「ネイチャー・メディスン」と米科学誌サイエンスで発表された2件の研究では、インフルエンザウイルスの従来のワクチンとは異なり、より不変性が高い部分を再現する最新ワクチンを、マウス、フェレット、サルなどを用いてそれぞれ試験した。
 この不変性の高い部分とは、インフルエンザウイルスの表面にあるスパイク状のタンパク質「赤血球凝集素(ヘマグルチニン、HA)」の茎部。先端の「頭部」が変化してもほぼ同じ状態のままであることが、科学者らの間では長年知られていた。
 だがこれまで、この茎部を用いて実験動物や人間で免疫反応を誘発することは不可能だった。この免疫反応によって、ウイルスは無力化されるか、体が感染細胞を攻撃して破壊することが可能となる。
 今回の研究で、米国立衛生研究所(NIH)ワクチン研究センターのハディ・ヤシン氏率いるチームは、HAの茎部を用いて免疫反応を発生させるために、「フェリチン」と呼ばれるナノ粒子サイズのタンパク質を、頭部のないHA茎部に「接ぎ木」した。
□ 「胸躍る進歩」
 次段階では、マウスとフェレットにワクチンを接種し、その後、強毒性のH5N1型「鳥インフルエンザ」ウイルスを注射した。H5N1型は、人間の致死率が5割を超えるが、伝染性はそれほど高くない。
 実験の結果、マウスはH5N1型インフルエンザから完全に保護されたことが分かった。また、インフルエンザワクチンの人間での有効性を予測するのに最適とされる動物種のフェレットの大半も発病しなかった。
 さらに、1回目の実験で生存したマウスから採取した抗体を新しいマウス群に注射したところ、このマウス群の大半でも発病はみられなかった。マウス群には、致死量となるはずの鳥インフルエンザウイルスが注射された。
 オランダのクルセル・ワクチン研究所のアントニエッタ・インパグリアッツォ氏が率いたもう1件の研究でも、HAの「茎部だけ」のワクチンを作製する同様のアプローチが採用された。
 ワクチンはマウスで有効性を示したほか、サルでも、高水準の抗体を誘発させ、H1N1型ウイルス感染後の発熱を大幅に緩和した。H1N1型は、鳥インフルより致死率がはるかに低いが、伝染性は非常に高い。
 今回の研究に参加していない他の科学者らは、万能ワクチンへの重大な一歩と研究成果を評価する一方で、臨床試験にたどり着くまでには、おそらく長年にわたって多大な研究を積み重ねる必要があるとの見解を示している。
 英オックスフォード大学のサラ・ギルバート氏は「これは胸躍る進歩だが、今回の最新ワクチンが、人間でどのくらい有効に機能するかを調べるための臨床実験が必要」と述べ、その段階に到達するにはあと数年かかると続けた。
 NIHの米国立アレルギー感染症研究所のシニアアドバイザー、デービッド・モレンズ氏は、ネイチャー・メディスン誌に掲載された研究について「これは、このワクチンのアプローチに関する重要な概念実証だ」としながら、「この種の免疫を誘発できれば、ワクチンを接種した人は理論上、鳥や哺乳類などの保菌動物からまだ出現していないものを含む全てのインフルエンザウイルスから保護される可能性がある」と説明した。


 実用化にはまだ時間がかかりそうですね。
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インフルエンザワクチン情報-6:そろそろ登場?経鼻生ワクチン

2015年09月04日 07時38分20秒 | 小児科診療
 日本で接種されているのは「不活化インフルエンザワクチン」ですが、米国では随分前から「経鼻生ワクチン」も導入されています。
 花からシュッとスプレーするだけなので痛くないし、1年に1回だけでいいし、不活化より高い有効率が期待されます。
 その生ワクチンが、数年以内に日本にも登場しそうな雰囲気;

第一三共 4価の鼻腔噴霧型インフルエンザ弱毒生ワクチンを日本に導入
(ミクス online:2015/09/03)
 第一三共は9月2日、4種類のインフルエンザウイルスを含む鼻腔噴霧型インフルエンザ弱毒生ワクチンについて、英アストラゼネカの子会社のメディミューンとの間で、日本での開発、販売に関するライセンス契約を締結したと発表した。 季節性インフルエンザの予防に用いるもの。2014年から15年の流行期に国内治験が行われており、申請時期は未定だが、北里第一三共ワクチンが承認申請準備中にある。承認されれば、アストラゼネカが第一三共に製品を供給し、第一三共が販売・流通を担う。
 現在の季節性インフルエンザワクチンは3価(A型2種類、B型1種類)だが、今回第一三共が導入するワクチンはA型2種類、B型2種類の4価。WHOが推奨する株を用いて作られる。同ワクチンはメディミューンが開発し、アストラゼネカが米国ではFluMist、欧州ではFluenz Tetraの製品名で販売している。


 だた、当初9割といわれた発症予防効果が、近年落ちているという報告も無きにしも非ず。
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インフルエンザワクチン情報-5:量産可能な未来のワクチン

2015年09月04日 07時30分11秒 | 小児科診療
 現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは鶏卵(それも有精卵)を使用して作られています。
 ですので、量産する場合は有精卵の入手が足かせになってしまいます。
 次のニュースは、これを解決する方法の開発で、有精卵ではなく細胞増殖技術を使ったモノです;

■ インフルワクチン:大量生産可能 予防効果もアップ
(毎日新聞 2015年09月03日)
 増殖能力が高く、ワクチンの迅速な大量生産が可能になるインフルエンザウイルスの作製に成功したと、東京大の河岡義裕教授(ウイルス学)らのチームが英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。予防効果も従来のワクチンより高くなるという。
 インフルエンザワクチンは、ウイルスを鶏の受精卵で増殖させた後、感染力を失わせて作るのが一般的だが、増殖過程で重要なたんぱく質が変異して有効性が下がってしまう問題がある。変異が起きにくい細胞を使っても作れるが、この場合は増殖の速度が遅くワクチン供給に時間がかかる難点があった。
 チームは独自開発した遺伝子操作の手法で、高い増殖能力を持つ可能性のあるウイルスを複数作製。これを変異が起きにくいイヌやアフリカミドリザルの腎細胞へ感染させることを繰り返し、増殖能力の高いウイルスを抽出した。さらに能力を高めるのに必要な遺伝子変異も特定した。
 作製したウイルスを遺伝子操作前と比べると、季節性のH1N1型で最大269倍、H3N2型で9.3倍、パンデミック(世界的大流行)が懸念される新型のH5N1型で221倍、H7N9型で173倍の増殖能力の向上が確認されたという。
 河岡教授は「新型インフルのパンデミックが発生した場合にも、効果の高いワクチンを十分に供給することが可能になる」と話す。【藤野基文】


 この河岡先生、毒性の強いインフルエンザ・ウイルスを作って学会から研究停止の処分を受けたこともあり、私は注視しています。
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インフルエンザワクチン情報-4:2015-16シーズンは新しい4価ワクチン

2015年09月04日 07時24分20秒 | 小児科診療
 前項でも触れましたが、来る2015-16年シーズンのインフルエンザワクチンは3価から4価に変更され、それに伴いワクチン価格も上がります;

■ インフルエンザワクチンが新しく
毎日新聞 2015年09月03日 地方版(富山)
 インフルエンザワクチン接種の時期になってきました。今年度から新しいワクチンが導入されるのでご案内します。これまでは、A型から2種類、B型から1種類の計3種類が含まれたワクチンでした。これを3種の株が含まれるため3価ワクチンといいます。今年度からは、新しく4価ワクチンが導入されることになりました。4価ワクチンになり、従来のA型株2種類に加え、B型株が1種類から2種類に増えます。
 これまでの3価ワクチンは、B型株として山形系統あるいはビクトリア系統のどちらか一方を、その年の流行を予測して選定していました。ところが、近年のインフルエンザの流行は、山形系統とビクトリア系統の混合流行が続いており、WHO(世界保健機関)も2013年から4価ワクチンを推奨していました。そのため世界の動向は、3価ワクチンから4価ワクチンへと移行しています。
 このような流れから、わが国においても、今年度から4価ワクチンが導入されることになりました。今後の研究課題となりますが、3価ワクチンから4価ワクチンに移行することにより、インフルエンザ罹患(りかん)率が減少することが予想されます。
 ワクチンが新しくなることに伴い、接種料金は値上がりしますが、流行の予測がはずれたら効果がないという状況は回避できるものと思います。(「谷川醫院」院長、谷川聖明=富山市)


 問題点は、もともとB型にワクチンは効かないということ。
 つまり、B型株が1つから2つに増えたところで、上乗せ効果が期待できるかどうか、不明です。
 米国では数年前に3価→ 4価に変更していますが、残念ながら「有効率が上がった」という報告は耳にしません。
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