徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザワクチン、卵アレルギー患者は打っていい?

2024年11月19日 06時47分59秒 | 小児科診療
前項と同じ話題を扱った記事が目に留まりましたので、
こちらも紹介します。

卵アレルギーが重症(アナフィラキシーを起こすタイプ)であっても接種は可能、
とする一方で、
アレルギー疾患(とくに気管支喘息)患者では、その疾患のコントロールが不十分な場合は要注意、
というコメントもあります。

これはどういうことか?

一つは、もともとのアレルギー疾患のコントロールが悪いと、
ワクチン接種後に体調が悪くなった場合、
アレルギー疾患の急性増悪なのか、
ワクチンの副反応なのか、
判断が難しくなる…つまり“紛れ込み”現象を懸念してのこと。

もう一つは、コントロール不良の喘息があると、
食物アレルギーの症状が重篤になる傾向があるため、
喘息の要素は限りなく小さくしておくべきだ、との考えです。

学校給食でアレルギー食品を間違って食べて命を落とす悲しいニュースがありましたが、
その生徒達はほとんど喘息患者であることは、
アレルギー専門医の中で常識です。

以上、この記事は一歩踏み込んだ内容になっていますね。

ですから昨今、新型コロナワクチン接種の際に、
問診のみで内科診察を省略する空気が一般化しましたが、
申告だけでは事故が起こる可能性があります。

なぜかというと、
小児科医である私は予防接種の際に内科診察を欠かさず行っていますが、
「体調は良好です」
と親が申告しても聴診すると喘鳴があることが稀に経験されるからです。

そのようなお子さんにワクチンを接種して具合が悪くなった場合、
事前の診察がなければ「ワクチン副反応によるアナフィラキシー」と診断されてしまい、
本当は問題ないはずなのにワクチンが悪者になり、
ワクチン反対派の恰好の餌食になってしまうでしょう。


<ポイント>
・鶏卵アレルギー患者にインフルエンザワクチンは禁忌ではない!
・重度の鶏卵アレルギー患者でも接種が可能
・気管支喘息がコントロール不良である場合はリスクが高くなるため、
 接種前に良好なコントロールを得ることが重要。
・保護者や接種医が強い不安を抱く場合には、要注意者への対応に準じ、慎重な観察と緊急時の体制を整える。


▢ インフルエンザワクチン、鶏卵アレルギー患者は打っていい?
2023/11/24:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);

【症例】3歳男児。重度の鶏卵アレルギーがあり、これまでインフルエンザワクチンを接種したことがない。今回、インフルエンザワクチンの接種について相談するために来院した。この患者にインフルエンザワクチンを接種してよいのか?

【解説】
 インフルエンザワクチンは、孵化鶏卵にワクチン株を接種して培養されることから、微量の卵白アルブミンが混入する可能性があるとされていたが、近年の報告では鶏卵アレルギー患者に対するインフルエンザワクチンの安全性の報告がいくつかなされており、重度の鶏卵アレルギーを有するこの男児でも、接種が可能であると考えられる。
 注意点として、『予防接種ガイドライン2023年度版』では、「気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アレルギー体質などだけでは、接種不適当者にはならないが、気管支喘息がコントロール不良である場合はリスクが高くなり、喘息も含めて、これらの疾患がコントロール不良である場合はワクチン副反応との鑑別が困難になる。したがって、接種前に良好なコントロールを得ることが重要である」と記載されている。
 このため、この症例ではほかのアレルギー疾患の合併がないか、ある場合にはコントロールされているかどうかを判断することが大切である。保護者や接種医が強い不安を抱く場合には、要注意者への対応に準じ、慎重な観察と緊急時の体制を整える。接種の可否判定に困る際は、専門施設への紹介が推奨される。
 一方、ワクチン接種後のアナフィラキシーはまれではあるものの予測不可能で誰にでも起こりうるため、接種する医療機関は常日頃から緊急時薬などを整えておくことが大切である。

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卵アレルギーとインフルエンザワクチン

2024年11月18日 08時06分27秒 | 小児科診療
古くて新しい話題です。

私が医師になった頃(30年以上前)は、
卵アレルギー患者さんはインフルエンザワクチン禁忌(接種してはいけない!)という時代でした。

時は流れ、インフルエンザワクチンに含まれる卵成分は極微量のため、
卵アレルギー患者でも問題なく接種可能とされるようになり、
WHOからも安全宣言が出されました。

でも、昔は
「投与してはいけない!」
という薬を
「問題ないからどんどん投与してください」
といわれても、
できあがった社会通念と医師の頭の中はそう簡単には変われません。

その理由の一つに、
最新情報は「安全である」と謳っても、
添付文書(薬のトリセツ)には「要注意」という文言が残っていて、
まだ医師の判断に影響を与え続けているのです。

たとえばこちら
「接種要注意者」の項目の(6)に、
「鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のもの に対して、アレルギーを呈するおそれのある者」
と記載されています。

また厚労省発行の「インフルエンザ予防接種ガイドライン」にも、
「接種不適当者」の項目に、
「卵等でアナフィラキシーショックをおこした既往歴のある者にも、接種を行わない。」
とハッキリ書かれています。

こんな風に書かれると、医師は接種しにくいですよね。

ただし、このガイドラインは現在改訂中で、
最新版「B類疾病予防接種ガイドライン2024年度版」は2024年11月下旬に発行されるようです。
記載内容がどう変わっているのか、要確認です。

WEB情報では「アナフィラキシーを起こすような卵アレルギー患者さんも安全にインフルエンザワクチンは接種できます」と明言していますが、ルールが変わっていない以上、それに従うのが保険診療医です。

現実的な対応として小児科医の私は、
卵を食べても無症状、あるいは軽症(皮膚症状のみ)の患者さんは接種しています。
でも微量を食べてもアナフィラキシーを発症する方は病院に紹介し、
万全の体制のもとに接種することを提案しています。

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