小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

BCGの副反応(総説)

2018年02月11日 09時02分02秒 | 予防接種
 BCGは唯一、「生きた細菌」を注射する予防接種です。
 ですから、副反応も他のワクチンとはちょっと異なります。
 とくに、免疫不全症という基礎疾患がある場合は、BCG菌が増殖して「発症」してしまうリスクがあります。
 わかりやすく、かつ詳細に解説してくれている記事「小児科診療 UP-to-DATE」から引用・抜粋させていただきます。

※ 下線は私が引きました。

■ BCG 接種による副反応について
2018年1月17日:ラジオNIKKEI
 東京都立小児総合医療センター 呼吸器科・結核科 医長 宮川 知士

 BCG は生きた菌を接種するという点で他のワクチンとは異なっています。接種された BCG 菌は接種部位の皮下において拡散して、リンパを介して腋下やその他のリンパ節を通っていきます。一部は接種した際に針痕の出血があることからも判るように、血管内に入り、血液に混じって全身へと運ばれます。さらには、接種部位に留まっているものもあると思われます。接種された BCG 菌は数年を経てから副反応を認める場合も知られているので、年単位で生存し続けると考えられています。
 BCG の副反応は、必ずしも菌を検出することができないので、本当にそれが BCG によるものであったのか、結局判らない場合も結構あります。しかし、これからお話しする副反応は、以前から良く知られているもので、自然に軽快するものから、放置できない重大事象まであります。
 代表的な BCG の副反応を頻度が高い順に挙げますと、まず腋下の リンパ節腫脹、以下、接種部位の過剰反応、全身に見られる発疹がこれに続きます。これらは比較的よく見られ、ほとんどが比較的軽症で自然に治癒するため、経過観察で十分なも のが多いとされます。一方、骨関節炎は、外科的介入も含めて長い経過の治療観察を必要とするので、重大な副反応です。更に、免疫不全を有するお子さんにおける全身性の BCG 感染症は、時として命にかかわるものです。
 それでは、代表的な副反応について、それぞれ解説します。

【リンパ節腫脹】
 接種されたBCG菌は、リンパを経て、まず接種部位の所属リンパ節の腋下リンパ節に到達します。左上腕に接種されるので、左腋下のやや前胸部にかかる位置のリンパ節が腫脹することが多 く、また鎖骨上窩のリンパ節が腫脹することもよくあります。多くは、接種から 4 ヶ月内外で認められるとされますが、それ以降に気付かれる場合もあります。
 腫脹したリンパ節の自然経過は、腫れ方の程度によって異なります。
・直径2cm以下の場合:月単位で次第に縮小し、1 年もすると腫れが気にならない位に改善します。
・直径2cmを超える場合:大きさにもよりますが、早くて 1 週間ないし 2 ヶ月位経ってから、内容物が軟らかくなり、表皮が発赤し、更に表皮が赤紫色となる頃には、黄色い乾酪性物質が透けて見え、数日以内に内容物が排出されます。排出された内容を培養すると、約半数の割合で抗酸菌が検出され、更に特殊な PCR 検査を行うことにより、BCG 菌であると同定されます。処置としては、局所の清潔を心がけ、二次感染を防止することで十分です。

【局所の過剰反応】
 局所の過剰反応は、BCG 接種の 1 ヶ月頃に見られる正常針痕反応に続発して、接種部位に分厚い黄色い「かさぶた」ができたり、接種部位の周囲に粟粒大の発疹が集簇して発生するものです。 また、接種部位における皮下の硬結や、接種部位周囲にリンパ節様のしこりが見られることもあります。多くは、経過観察によって、数ヶ月の経過で消退しますが、局所の反応が極めて強いと考えられる場合に、最長 2 ヶ月をめどにイソニアジド内服を行うこともありますが、 必ずしも著効しないので、生きた菌による副反応ではないものも含まれると考えられます。
 これらの過剰反応や先に述べたリンパ節腫脹は、BCG 接種後、半年以上経過してから気付かれることもあり、ウイルス感染症による発熱や予防接種など、免疫状態を変化させる要因が引き金になっている可能性も考えられます。リンパ節が自壊して採取された検体の培養結果で、 抗酸菌がピラジナミドのみ耐性である場合には、わが国で用いられている東京株の BCG 菌ではないかと疑うことが診断上有効です。

【発疹】
 発疹は BCG 接種後 1 ヶ月から 3 ヶ月位の間にみられることが多いようです。BCG によるものでないかと紹介されてくるお子さんが、本当に BCG による発疹かどうかを鑑別するのは結構難しいと思います。第1に、その発疹が BCG 菌そのものによるものなのか、それとも BCG の死菌の成分や、また BCG ワクチンに含まれる菌以外の成分によるものなのかというのも判らない上、乳児においては発疹を伴うウイルス感染症が多いことや、あせもをはじめとする発疹も多いからです。
 しかし、発疹が全身性、つまり体幹に加えて四肢にも分布していて、これに加えて接種部位やその周囲の過剰反応が伴っていれば、まずBCGによる発疹を疑います。皮膚症状だけであれば、 まず 1 週間経過観察して、発疹が消退傾向にあれば、そのまま無治療で観察とします。2 か月程度で、ごく軽度の色素沈着を残して消退することが多いようです。
 これに対して、発疹が結節性の丘疹として認められる場合には、菌そのものが組織反応の原因であるとして、イソニアジドによる治療を開始します。治療開始後、1~2 週間で明らかな縮小・ 痂皮化が認められることが多いです。なお、顔面特に眼瞼周囲に小丘疹が多発する場合にも初期から治療を開始しています。

【骨炎・関節炎】
 骨炎・関節炎は BCG 菌の副反応のうちで最近問題となっているものです。接種後 1 年位してから発生することが多いようです。主に長管骨の骨端に発生することが多く、膝関節や肩関節な どの関節炎を伴いますが、長管骨以外の骨にも発生することがあります。乳幼児が急に歩かなく なったり、関節が腫れているなどの症状を見た場合に、以前は結核性の骨関節炎として外科的掻爬を受けたりすることもあったようですが、BCG 菌が同定可能な PCR 法が可能になって以来、 2000 年頃から BCG 骨関節炎の報告例が増加しました。
 発生頻度は、全国調査で年間 10 例未満ですが、抗結核薬による化学療法のほかに掻爬など外科的介入を必要とすることも多いので、見逃してはならない副反応です。関節液や骨の生検で抗酸菌が検出された場合、先に述べたピラジナミド耐性の特性や、最近はインターフェロンγ遊離試験が行えるので、それが陰性であることが判ればBCG菌であるという診断に近づけます。免疫異常がない発症例も多く見られますが、慢性肉芽腫症インターフェロンγレセプター1 異常症による抗酸菌への免疫異常を有する児が骨炎をきっかけに発見されることもあるの で、免疫系の検査は必須です。
 BCG の直接接種により、接種時期が 3~6 ヶ月と早くなったことが、BCG 骨関節炎の増加と関連しているのではないかという意見もありましたが、発生頻度が低い副反応であることもあり、今後の動向を観察する必要があり ます。

【全身性感染症】
 全身感染症としての BCG 副反応は、血行性に多臓器に播種して胸部 CT で見るとヒト型結核菌による粟粒結核のような様相を呈します。慢性肉芽腫症重症複合型免疫不全症など、先天性の免疫不全症だけでなく、ステロイド治療による免疫不全症でも同様の症状が見られたという報告があります。抗結核薬による治療が必要で、時に致命的となることもあります。
 日本においてBCG 接種を生後3ヶ月以降としているのは、この重篤な副反応を回避するためであり、そのために 2005 年以降の BCG 直接接種によってコッホ現象の診療が必要となっているのです。
 以上、BCG 接種による副反応についてお話しました。一般的に経過観察や治療を行う上で、抗酸菌による病巣の変化は数ヶ月から数年にわたる期間を必要とすることが多いので、対処に難渋する場合には専門家に相談するのが良いと思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その症状は病気なのか、違うのか?

2018年02月10日 22時37分38秒 | 医療問題
 興味深い記事が目にとまりました。
 「身体化障害」「転換性障害」は、「ストレスに対する反応」「他人にアピールする目的」などである程度理解可能ですが、「虚偽性障害」はもっと深い心の闇の存在を伺わせます。
 私個人としては、やはり「愛が足りない、愛が欲しい」症候群ではないかと感じています。

■ 「身体化障害と転換性障害と虚偽性障害と詐病の違いは?」より
2017/11/6:日経メディカル
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジフテリアは過去の感染症ではない。

2018年02月10日 20時17分47秒 | 感染症
 日本では過去の病気と考えられているジフテリア。
 喉の強い炎症で窒息死する怖い感染症です。
 3種混合の予防接種開始後に激減し、現在の四種混合に引き継がれてその状態が維持されています。

 思い起こせばソ連崩壊後、予防接種率低下に伴いロシアで流行したことを記憶しています。
 さらに近年、迫害されている民族「ロヒンギャ」の間で発生しているという記事が目に止まりました。

■ バングラデシュでジフテリアが急速に蔓延
2017年12月08日:メディカル・トリビューン
 世界保健機関(WHO)は12月6日、バングラデシュ南東部コックスバザール周辺の仮設キャンプに収容されたロヒンギャ難民の間でジフテリアが急速に広がっていると警告を発した。国境なき医師団(MSF)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)などにより、110例超がジフテリアと診断、うち6例が死亡したと報告されている。

◇ ジフテリア診断例は氷山の一角
 WHOバングラデュ担当のNavaratnasamy Paranietharan氏は「これらは氷山の一角にすぎない可能性がある。ロヒンギャ難民はワクチン接種率が低い感染症に対して極めて脆弱な集団であり、ジフテリア以外にもコレラ、麻疹、風疹など、感染症の温床となる環境下にある」と警告している。
 WHOでは先日まで、ロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの35万人超に麻疹・風疹混合ワクチンを投与、70万人超に経口コレラワクチンを投与するという、難民とコミュニティを感染症から守るキャンペーンを行っていたが、同氏は「今やジフテリアについても同様の措置を講じる必要がある」と指摘している。
 今年(2017年)8月以降、ミャンマーからバングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民は62万4,000人を超え、飲料水、衛生的な環境、公共医療サービスなどへのアクセスが制限された環境で密集して生活しており、さらに人数は増え続けている。
 WHOはバングラデシュ保健家族福祉省および国連児童基金(UNICEF)と協力して、非常に感染性が強い呼吸器疾患の流行を防ぐために効果的な治療と適切な防止法を提供している。3団体は患者の診断と治療、薬剤の適正な供給の確保をサポートし、6年以内に5種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、B型肝炎ウイルス、インフルエンザ菌b型)ワクチンと肺炎球菌ワクチンをロヒンギャ難民と受け入れコミュニティの全ての小児に接種するキャンペーンを準備中であるという。
 既に、WHOでは今週末までにバングラデシュに届く予定の最初の1,000バイアルのジフテリア抗毒素(抗生物質と混合済み)を調達したという。これによってジフテリア毒素を中和し、ジフテリア感染者の命を救うことができる。
 同氏は「われわれは普段、協力団体とともに健康な労働者が容易に医療にアクセスでき、病気の人に十分なベッドと薬剤を確保するために活動している。しかし、今回のような感染症の流行をコントロールする唯一の方法は、ワクチン接種により感染症から小児を保護することである」と述べている。



 このようなニュースを見聞きして、ワクチン反対派の方々はどう考えるのでしょう。
 「ワクチンは危険だから自然感染の方がよい」と主張し続けるのでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

HPVワクチン情報アップデート(2018年2月10日)

2018年02月10日 08時16分32秒 | 予防接種
 昨日、HPVワクチンの真実を追究し、最高峰の科学雑誌「ネイチャー」から表彰された村中医師の著作が出版されました。

□ 「10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」 2018/2/9 村中 璃子 (著)

 反対派の“非科学的”な所作が検証された内容です。
 真剣に考えている方にはお勧めの本です。

 そんなタイミングで、HPVワクチンの現況を扱った記事を見つけましたので紹介します。
 微妙な問題なので、コメントは避けます。
 各自、読んで考えてみてください。

※ 下線は私が引きました。

■ 今、子宮頸がんワクチン問題ってどうなっているの?
2018/01/17:QLife
 2017年11月30日、医師でジャーナリストの村中璃子さんがジョン・マドックス賞を受賞しました。ジョン・マドックス賞とは、イギリスの科学誌「ネイチャー」元編集長であるジョン・マドックス氏の功績を称え、設立されたもの。健全な科学とエビデンスを広めるために、障害や敵意にさらされながらも貢献した個人に与えられる国際的な賞として、2012年に始まりました。
 村中さんは、HPVワクチンの安全性を検証する情報を発信し続けてきたことが評価され、2017年の受賞者となりました。今回のニュースな言葉では、そもそも子宮頸がんとはどんな病気で、何が問題となっているのか、まとめます。

◇ 子宮頸がんとは
 子宮頸がんは女性の子宮の出口付近、膣との接続部にできるがんのことを指します。このがんは、主に性行為によりヒト乳頭腫(パピローマ)ウイルス(HPV)に感染することで発生します。国立がん研究センターによる予測値1)では2017年に子宮頸がんに罹った人は1万1,300人、死亡者は3,000人となっています。

グラフ:子宮頸がん死亡者数(1958-2016)

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

 女性特有のがんである子宮頸がんは乳がん、卵巣がん、子宮体がんと比較して原因が明確であるため予防も含め対策が可能ながんといえます。

◇ 子宮頸がんの検診と予防(ワクチン)
 ただ、欧米では子宮頸がん検診の受診率が7割以上といわれているなかで、日本では検診の受診率は4割弱に過ぎませんでした。2)
 一番効率的な対策はHPVへの感染そのものを防ぐことです。現在、HPVは100種類以上の型あり、これらはまず感染する部位によって皮膚感染型と粘膜感染型に分けられます。子宮頸がんは粘膜感染型のHPVによって起こります。
 そうしたなかで2006年にアメリカで初めて登場したのがHPVの感染を防ぐHPVワクチンです。日本でも2009年10月にサーバリックス、2011年7月にガーダシルの2種類のワクチンが承認され、その後発売されました。
 ちなみにこの2種類のワクチンはサーバリックスがHPVの16型、18型、ガーダシルが6型、11型、16型、18型の感染を予防する効果があるとされています。このうちHPVの16型、18型は発がんの高リスクタイプのウイルスであることが分かっています。
 現在HPVワクチンは世界100か国以上で使用されています。

◇ 子宮頸がんワクチンの助成制度と推奨の中止
 厚生労働省では2010年からこのワクチンの接種を行う市町村に助成を開始しました。この結果、接種対象となった小学校高学年から高校生の女性は低額あるいは無料で接種できるようになりました。2013年4月には、HPVワクチンは予防接種法に基づく定期接種の対象となりました。
 定期接種ワクチンにはA類疾病とB類疾病があり、集団予防に重点を置き、接種者本人の努力義務や国による推奨があるのがA類疾病です。HPV感染症はこのA類疾病となっています。
 しかし、2013年、6月14日に開催された第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と第2回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議で、HPVワクチン接種後にワクチンとの因果関係を否定できない持続的な痛みなどを訴える人が発生したことが報告されました。
 合同会議では定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されませんでしたが、発生頻度などがより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に推奨すべきではないとの結論に達しました。

画像:厚労省 子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ (平成25年6月版)キャプチャ


 現在でもHPVワクチンは予防接種法に定める定期接種対象のワクチンで、小学校6年生から高校1年生までは無料で接種が可能です。ただ、国は予防接種法に定めている責務である啓発や知識普及活動をHPVワクチンに関しては当面積極的には行わないというものです。

◇ 国内での副反応報告と専門家の見解
 それから4年が経過し、現時点まで推奨の中止は続いています。この間、専門家による一定の見解の合意は得られています。
 まず問題となった持続的な痛みや運動障害などの副反応(ワクチンの場合、副作用を医学的には副反応と表記します)は2013年9月末時点で130例にのぼりました。これを発生頻度に換算すると、接種回数10万回当たり約1.5件という計算になります。3)
 翌2014年1月20日と7月4日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の第7回と第10回の副反応検討部会ではこれらの副作用を審議しました。
 その結果、発症時期や症状、その経過などに統一性がなく、神経疾患、中毒、過剰な免疫反応などワクチンを原因とすることでは説明がつかず、「機能性身体症状」と考えられると出席委員の合意が得られました。つまりワクチン接種後に発生したと報告されている持続的な痛みは、ワクチンとの因果関係は薄いとの評価を下しています。
 この機能性身体症状とは、より平たく説明すると、痛みなどの何らかの症状がありながら、病院で検査をしてもその症状に一致する何らかの検査値の異常などが見つからない原因不明の症状というものです。

主な症状は、

1.痛み、感覚が鈍い、しびれる等の知覚に関するもの
2.力が入らない、安定して歩けない、手足や体が勝手に動く、けいれんする等の運動に関するもの
3.動悸、下痢など自律神経に関するもの
の3つです。

 また検討会では機能性身体症状のケースについて「接種後1か月以上経過してから発症している症例は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」、「機能性身体症状が慢性に経過する場合は、接種以外の要因が関与している」とも判断しています。

◇ 海外での副反応報告と各国・専門機関の見解
 厚生労働省では、この後も海外でのワクチンの副作用発生状況なども調査しています。アメリカ、イギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの事例が報告されましたが、機能性身体症状と似通っている神経症状などの発生頻度はHPVワクチンの接種で増加したという報告はありませんでした。4)
 また、欧州医薬品庁5)、イギリス医薬品庁6)、フランス医薬品・保健製品安全庁7)、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)8)、世界保健機関(WHO)9)などもHPVワクチンの安全性に問題はないとの報告書を公表しています。
 イギリス医薬品庁の報告では、HPVワクチン接種後の機能性身体症状と同様の症状の発生頻度は、むしろワクチンを接種していない人よりも低いと結論付けています。
 さらに、健康問題を扱う国連の専門機関であるWHOの「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」は2015年の声明9)で、日本での接種の推奨中止について「若い女性達は(ワクチン接種によって)予防しうるHPV関連のがんに対して無防備になっている。ワクチンの安全性に関する諮問委員会が以前指摘したように、弱いエビデンスに基づく政策決定は、安全かつ有効なワクチンを使用しないことにつながり、実害をもたらしうる」と非難めいた調子の指摘を行っています。
 一方、日本国内では2016年4月に日本小児科学会をはじめとする学術団体17団体がHPVワクチンの積極的な接種推奨を求める見解を公表10)しています。

画像:ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解(予防接種推進専門協議会)


◇ 子宮頸がんワクチンはこれからどうなるのか
 さて、最近の状況ですが、2017年12月22日、第32回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成29年度第10回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議が開催されました。
 そこではHPVワクチンに関して接種対象者やその保護者向けの一般的な情報提供パンフレットと接種対象者に接種を受ける直前に情報提供パンフレット、医療従事者向け情報提供パンフレットを改定するための素案が提出されました。
 改定素案では、3種類のパンフレットとも国内でのワクチンによる効果推計、副反応疑い報告の実態、副反応時の救済制度の実際とその利用状況などの詳細な情報が新たに付け加えられました。
 推奨中止の原因となった接種後の疼痛、しびれなどの慢性的な症状について、改定素案でも「機能性身体症状であると考えられています」と記述し、因果関係については「『接種後1か月以上経過してから発症している人は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい』と専門家によって評価されています。またHPVワクチン接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を有する方が一定数存在したこと、が明らかとなっています」と否定的な表現を新たに盛り込みました。
 委員からは素案を肯定的に評価する声が多数を占めましたが、「接種を受ける人はおおよそ中学生であり、保護者との理解能力には差があることから、両者を分けたパンフレット作成が必要ではないか」「接種者・保護者向けパンフレット素案は、一般の方がより理解しやすい工夫が必要」などの意見もあり、委員からの追加意見などを年内中に収集し、新たな素案を作成することになりました。
 また、これらの情報提供について関連学会、文部科学省を通じた学校養護教諭、各地医師会会員など幅広い情報提供を進めるべきとの意見が相次ぎました。厚生労働省はこの点も今後検討する見通しです。
 ただ、焦点となっている推奨の中止を解除するかについては、合同会議の審議では触れられませんでした。また、改定素案では問題が起きてから記載されている国としては中止に関する文言が継続して掲載されていることから、まだ先は見えていません。

※ 編集部追記:厚労省は2018年1月18日付けで、新たなパンフレットを公表しました。
 ⇒ ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種に関するリーフレットについて

1) 国立がん研究センター「2017年のがん統計予測
2) OECD,OECD Health Data 2013,June 2013
3) 厚生労働省「ワクチン接種後の副反応と疑われる疾患の発生状況等について
4) 厚生労働省「子宮頸がん予防ワクチンの安全性に関する海外の状況
5) the EMA communication that the CHMP confirms that HPV vaccines do not cause CRPS or POTS
6) MHRA (Medicines and Healthcare products Regulatory Agency) PUBLIC ASSESSMENT REPORT
7) http://ansm.sante.fr/S-informer/Actualite/Vaccination-contre-les-infections-a-HPV-et-risque-de-maladies-auto-immunes-une-etude-Cnamts-ANSM-rassurante-Point-d-information
8) Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)Summary Report
9) Global Advisory Committee on Vaccine safety Statement on Safety of HPV vaccines
10) http://vaccine-kyogikai.umin.jp/pdf/20160418_HPV-vaccine-opinion.pdf

<参考リンク>
QLife家庭の医学 子宮頸がん
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 (HPVワクチン副反応被害判定調査会)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労働基準法を遵守すると、約7割の産婦人科が破綻

2018年02月10日 07時30分18秒 | 医療問題
 日本の医療は医師のボランティア精神に頼ることで維持されてきました。
 しかし医師を“労働者”として考えると、現状のエンドレス労働は労働基準法に明らかに違反しています。

 人並み以上の体力がなければ、40歳以降病院勤務医を続けることは困難です。
 私も身体を壊してドロップアウトした一人であり、開業することにより夜の勤務(眠れない当直)から解放されました。

 しかし開業医となった現在も、診療レベルを維持するために日々医学知識のアップデートが欠かせません。
 仕事の準備(医学関連の情報収集)に費やす時間は、毎日数時間。
 これを労働時間に含むと判断すると、私は一生涯“過重労働”から逃れられないことになります。

 産婦人科の現状を報告する記事を紹介します。
 労働基準法を遵守すると、約7割の産婦人科施設でマンパワー不足となり運営不能となる、という当たり前すぎる内容です。
 現場の医師から見ると「何を今更・・・」という感が無きにしも非ずですが、果たして厚労省がこれをどう解決していくのか、見物ではあります;

■ 労基法の遵守で約7割の施設が運営不能に 〜勤務シミュレーションに基づく試算
2018年02月06日:メディカル・トリビューン
 日本産婦人科医会常務理事で日本医科大学教授の中井章人氏は、政府が進める働き方改革の一環として、医療機関における労働基準法(以下、労基法)を遵守することによって産婦人科勤務医の労働環境の改善が期待されると歓迎。その一方、現状のまま遵守すれば勤務医を抱える多くの施設で大幅な医師不足となり、68%の施設が運営できなくなる事態を招くとする勤務シミュレーションの結果を、日本産科婦人科学会が1月21日に東京都で開いた「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革公開フォーラム」で指摘した。

◇ 施設の二極化が進行中
 中井氏は冒頭、同医会が昨年(2017年)実施した施設情報調査における周産期医療の実態を紹介した。分娩取り扱い施設数および産科医師数の推移を見ると、いずれも一般病院と診療所で減少の一途をたどる一方、総合周産期母子医療センターおよび地域周産期母子医療センターでは増加していた。また、施設ごとの分娩数については一般病院で減少し、診療所ではわずかに減少。それに対し、両周産期センターでは増加傾向にあり、診療所と周産期センターの二極化が進んでいる。

◇ 宿直1.4回分、74時間が超過勤務
 このような産科医療を取り巻く実態に関連し、これまで同学会および同医会は産婦人科勤務医の勤務条件の改善や医療再生などを提言してきた。
 医師の宿日直勤務と労基法に関する厚生労働省労働基準局の通知(2005年)では、宿直は週1回(日直は月1回)を限度とし、病院の定時巡回などの軽度または短時間の業務に限るとしている。さらに、応急患者の診療または入院、患者の死亡、出産などといった昼間と同様の労働が常態化したものは許可していない。
 しかし、同医会勤務医部会が行ったアンケート(2017年、暫定値)では、産婦人科医の平均宿直回数は1カ月の上限を上回る5.7回であることが分かった。
 さらに1カ月の平均在院時間は295時間(休憩時間22時間含まず)と、労基法で定める176時間を上回り、宿直1.4回分、74時間が超過勤務となった。

◇ 遵守するなら16人必要
 そこで中井氏は、労基法で定める宿日直の条件に基づき、分娩取り扱い施設で必要な勤務医数を試算した。
 その結果、毎日1人で宿日直を担当する施設(1カ月当たりの宿直必要回数30~31回、日直必要回数8~10回)では、産科医8人の確保が求められた。総合周産期センターで毎日最低2人が宿日直を行う場合は16人が、非常勤医による宿日直と常勤医の自宅待機を行う一般病院では4人がそれぞれ必要であることが分かった。
 ただし医師数には育児中の女性医師がを含まれており、教育・研修の時間や有給休暇、宿日直が1人体制の施設における緊急時の自宅待機者の呼び出しは除外されている。
 同氏は国が定める基準を満たすには交替制勤務もありうるとし、1日3交代・各2人体制の勤務表を組んでみたところ、人数が足りず1カ月当たり4日間外来診療に医師を割り当てることができないことが想定された。そのため1日3交代制を導入し、労基法内の勤務時間とすると、外来、手術担当、病棟担当も含めて16人(有給休暇は含まず)の産科医が必要であるとした。

◇ 全国規模で医師数が多い施設から移動しても改善せず
 実際に交代勤務が可能な分娩取り扱い施設はわずか7%である(前出アンケート)。前述の産科医16人以上を確保できている施設は、総合周産期医療センター107施設中41施設(38%)にすぎず、16人未満の66施設は計432人を追加確保する必要があった。また地域周産期医療センターについては、700件以上の分娩を取り扱う71施設のうち、16人以上確保できている施設は9施設にとどまった。分娩700件未満の227施設中では16人以上が12施設で、16人未満であった215施設については分娩数を考慮し、8人での宿日直体制に縮小した試算でも、その人数に満たない施設数は163に上った。
 今回の試算から、両周産期医療センターで交代勤務を導入するには、追加で1,545人の医師を確保する必要があることが示された。改善策として、非常勤医を含めると不足数は約1,300人と若干改善されたが、全国規模で医師数の多い施設から少ない施設へ移動したとしても総合周産期医療センターで約150人、地域周産期医療センターで約800人が不足。そのため、全体で68%の施設が運営できなくなると試算された。
 中井氏は「労基法の遵守は、勤務医の労働環境の改善に役立つことが期待できる」とした。その一方で、今回の試算結果を踏まえ、多くの勤務医を抱える周産期母子医療センターでは大幅な医師不足に陥ること、医師数を急激に増やすのは人員的・経済的に困難であることなどの問題点を指摘。「日本産婦人科医会として、宿直業務の捉え方や時間外労働の上限などの課題解決に取り組むと同時に、経済的な側面からも検討を進めていきたい」との見解を示した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?

2018年02月10日 06時36分08秒 | 気管支喘息
 長引く咳には喘息が隠れていることがあります。
 しかし、いわゆる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を伴う呼吸因難発作が全例で見られるわけではありません。
 では非典型例をどうやって診断するのか?
 それは「肺機能検査」であり、「呼気NO(FeNO)検査」であります。
 これらの検査は数字で客観的に評価が可能です。
 
 肺機能検査は、末梢気道の状態が評価できます。
 喘息患者では、発作状態でなくても末梢気道が健常者より狭くなっているのです。
 当院でも肺機能検査をやっています。小学生以降、検査可能です。

 FeNOは喘息の本態である「好酸球性炎症」の程度を反映します。
 しかし、当院では導入しておりません(器械が100万円もするので)。

 そのFeNOに関する記事を紹介します。
 内容はCOPDと喘息のオーバーラップ例にFeNOを検査すると喘息の要素がどれくらい関与しているかわかるので便利であり、原因不明の遷延性咳嗽例でFeNOが上昇していれば吸入ステロイドが有効かもしれない、とのこと;

※ 下線は私が引きました。

■ 喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?
2017年12月12日:メディカル・トリビューン
◇ 研究の背景:FeNOは好酸球性炎症を反映する検査指標
 呼吸器内科では、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を測定することがある。特殊な機器が必要だが、検査自体は驚くほど簡単である。詳しい機序は割愛させていただくが、FeNOは好酸球性炎症を反映するもので、数値が上昇しているほど「喘息らしい」といえる。判断基準についてはいろいろな意見があるが、37ppb以上ではその可能性が高いと考えてよく※、50ppbなら間違いなく好酸球性炎症ありと判断してよいだろう。
 近年、喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップ(asthma and COPD overlap;ACO)という疾患概念が登場している。日本呼吸器学会はこのオーバーラップ疾患のガイドラインについて、11月にパブリックコメントを募集していた。これら閉塞性肺疾患を診断する上で、FeNOはかなり役立つのだ。では、どう役立つのか。
 COPDの治療の根幹は、吸入長時間作用性抗コリン薬である。この薬は気管支平滑筋を弛緩させて、気道を広げる。それによって長期的に1秒量が底上げされる効果が得られる。ひいては、COPD患者の増悪リスクや死亡リスクも軽減する(N Engl J Med 2008;359:1543-1554)。一方、喘息の治療の根幹は、吸入ステロイド薬(ICS)である。気道の好酸球性炎症を緩和して、気管支攣縮を抑制する。これによって、喘鳴や呼吸困難感などの呼吸器症状を軽減し、さらなる喘息発作のスパイラルを断ち切ることができる。
 もしCOPDと喘息の両者が合併しているとしても、目の前の患者がどのくらいの割合でそれらを有しているかはすぐには分からない。それらを見分ける指標としてFeNOはある程度有効と考えられているわけだ。すなわち、FeNOが高ければ喘息コンポーネントがあるといえる。たとえCOPDらしい患者でも、FeNOが高ければICSが有効かもしれない好酸球性炎症には薬理学的に吸入長時間作用性抗コリン薬よりもICSの方が効くだろう、そういう簡単な考えである。
 さて、慢性咳嗽や非特異的呼吸器症状を呈する患者においても、この手法は妥当だろうか。つまり、よく分からない呼吸器疾患患者でFeNOが上昇しておれば、ICSは効くだろうか。この疑問に一石を投じたのが今回紹介する研究である(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)。

◇ 研究のポイント1:典型的な喘息患者を除外
 この研究は、非特異的呼吸器症状を有する患者を対象としており、典型的な喘息患者は除外されている。具体的には、未診断の18~80歳で、咳嗽や呼吸困難感などの呼吸器症状を伴い、気道可逆性が20%未満の患者を組み入れている。
 典型的な喘息を除外できているのかは少し疑問が残るが、呼吸器疾患のある患者で気道可逆性10%などのように厳しい基準を設けると、結構な頻度で組み入れができなくなる。咳喘息や好酸球性気管支炎では気道可逆性が中途半端な値になることもあり、10%近辺の数値になることもある。議論の余地はあるかもしれないが、ICSが効果的な典型的喘息ではない非特異的集団を対象にしたいという意図は伝わる。
 試験デザインは、二重盲検プラセボ対照比較試験である。治療群に投与されたのはベクロメタゾン(商品名キュバール)である(1日当たり800μg)。プラセボと1:1でランダムに割り付けられた。また、FeNO測定値は25ppb、40ppbの2値で区切って3群に層別化している。1次エンドポイントは、喘息コントロール質問票(ACQ7)の平均スコア変化とした。ACQ7は喘息の症状を患者に問診したもので、QOLを反映していると思ってもらえればよい。FeNOが高い群においてACQ7の変化が大きいと、ICSの効果があると考えられるわけだ。
 1年余りの試験期間仲に294例の患者が登録され、148例がICS群、146例がプラセボ群に割り付けられた。吸入薬の研究では吸入手技の問題もあってプロトコル違反が多くなるのだが、本研究ではそういった除外例を加味すると214例が解析対象になった(ICS群114例、プラセボ群100例)。

◇ 研究のポイント2:原因が好酸球性炎症らしい患者ほどICSが効果的
 結果は、ベースラインのFeNOと治療集団の間には有意な相関性が見られ、ベースラインのFeNOが上昇するごとにICS群はプラセボ群よりもACQ7の変化が大きくなった(P=0.044)。つまり、非特異的呼吸器症状の原因が好酸球性炎症らしい患者であるほど、ICSが効果的だったということだ。

表. ACQ7の変化

(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)

 実は、今回の研究とは"逆の観点"が過去に報告されている。逆というのは、ステロイドが効果を発揮する咳嗽(咳喘息、好酸球性気管支炎、アトピー咳嗽など)と発揮しない咳嗽の患者のFeNOを調べ、その測定値にどのくらい差があるか見たものだ(Chest 2016;149:1042-1051)。治療結果から先にアプローチして、FeNOをアウトカムにしている。
 この研究によると、ステロイド反応性咳嗽のFeNO値中央値はステロイド不応性咳嗽よりも有意に高い水準だった〔32.0 ppb (四分位範囲19.0~65.0ppb) vs. 15.0 ppb(同11.0~22.0ppb), P<0.01〕。このステロイド反応性咳嗽の診断において、FeNO 31.5ppbをカットオフ値にすると、感度・特異度はそれぞれ54.0%、91.4%で、陽性的中率89.3%、陰性的中率60.0%だった。
 つまり、ステロイドの有効性から見た解析でも、FeNOを層別化した解析でも、類似の結果が得られているといえる。

私の考察:なんでもかんでもICSではダメだが・・・
 FeNOはICSの効果を担保してくれるバイオマーカーであると私自身も確信している。実際、これぞという診断ができない、FeNOが40ppbの患者にICSを処方すると、慢性咳嗽がピタリと止まることがある。咳喘息を診ているのかもしれないが、咳喘息やアトピー咳嗽の基準に合致しない例も結構いる。そういう取りこぼし例の全例にICSを投与しても問題ないのかどうかは分からない。「過ぎたるは及ばざるがごとし」の可能性もあるので注意が必要だ。ICSは副作用が少ないと思われているが、嗄声や口腔内カンジダ症などは結構多い。致死的な影響はないため、さほど気に留めない医師は多いと思うが、なんでもかんでもICSを処方して無用な合併症を増やすのはよくない
 今回の臨床研究でいえることは、FeNOが高値であることがICSを使用する後押しになるということであって、慢性呼吸器症状を呈している原因不明の疾患に、試しにICSを処方してよいと断言するものではない。
 ただ、国内のガイドライン(日本呼吸器学会『咳嗽に関するガイドライン第2版』2012年)では、症状から咳喘息かアトピー咳嗽を疑ったときに、ICSを2週間トライするという手法が容認されている。診断の付かない呼吸器疾患において、どのラインからICSを処方するかという問題は、いまだコントロバーシャルなのだ。
 実地診療ではせめて好酸球性炎症を疑えるラインに到達したいところなので、やはりそのためにはFeNOを測定することをぜひとも試していただきたい。

※日本人のFeNOの正常上限は37ppbと考えられている(Allergol Int 2011;60:331-337
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2018年春のヒノキ花粉飛散は過去最大?

2018年02月09日 06時19分05秒 | 花粉症
 春の花粉症は、おおまかに「3月まではスギがメイン、4月からはヒノキがメイン」です。
 リアルタイムの花粉飛散情報をみていて毎年感じるのは、スギとヒノキの花粉が区別されていないもどかしさ。
 とそんなタイミングで、ヒノキの花粉も調査されるようになっていたことを知りました。
 今年は多いんですね(T_T)。

※ 下線は私が引きました。

■ヒノキ花粉も過去最大 〜 雄花着花量調査結果
2018.2.8:タウンニュースさがみはら緑区版
◇ スギ同様平均を多く上回る
 自然環境保全センター(厚木市)は2月1日に、スギ(昨年12月に調査)に続き、花粉の飛散量を予測する上で根拠となる、ヒノキの雄花の着花量の調査結果を発表した。それによると、”昨年の5倍増”と予想されたスギ同様、今年の春のヒノキの花粉の飛散量は、かなり多いと予想している。
 近年スギに加え、花粉症の原因となるヒノキの花粉が増えている。ヒノキは植栽された時期が新しく、雄花をつける樹齢に達する樹木が近年増えているからだ。
 同センターは、こうした状況を踏まえ、2012年度からヒノキの雄花の着花量の調査を実施。一昨年度初めて調査結果を公表し、全国で初めてヒノキの雄花量による花粉飛散予測を行った。調査は県内40カ所のヒノキ林で実施した。
 それによると今年度、着花点数の平均値は80・8点。昨年度の34・1点を大幅に上回っている。調査を始めてから6年間の平均値は、50・1点で、今回の結果が過去最高の点数を記録した。また、40カ所の内、緑区が位置する県北部が87・8点と県内で最も高い結果となっている。
 同センターによると、「昨年夏の気象(横浜地方気象台「海老名観測所」)では、7月の平均気温は平年の108%、降水量は66%、日照時間が平年の113%と、雄花が多くなる条件となったためと推測する」と話す。一方、8月の平均気温は平年並みだったが、降水量は平年の106%と多く、日照時間も平年比95%と雄花が少なくなる気象条件だったが、過去最高の着花点数となった結果に対し、同センターは「直接の関係はまだわからないが、7月の猛暑が影響していると考えられる」と話した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安全なレベルの喫煙は存在しない。

2018年02月07日 06時54分58秒 | 医療問題
 喫煙の害は、本人にとどまらない社会悪です。
 「これくらいは・・・」という考え方も甘い、健康被害が否定できないという報告を紹介します。

 結論:「1日1本のみの喫煙でも、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが予想以上に高い(1日20本喫煙による増加リスクの約半分)。心血管疾患に関して安全なレベルの喫煙は存在しないので、喫煙者はこれらの疾患のリスクを有意に減らすためには喫煙本数を減らすのではなくて、喫煙を止めるべきである」
 「電子タバコも安全とは言えない」

※ 下線は私が引きました。

■ 安全なレベルの喫煙は存在しない
2018年02月05日:メディカル・トリビューン
◇ 研究の背景:喫煙本数による冠動脈疾患・脳卒中リスクの定量化
 全世界で約10億人の成人が喫煙している。英国では喫煙者の26%が禁煙ではなくて喫煙量を減らしたいと希望し、2013年と2014年に喫煙者の40〜41%が以前より喫煙量を減らしたという報告がなされた。2009~14年に全喫煙者に占める1日にたばこを1〜5本しか喫煙しない人の割合が18.2%から23.6%に増加した。米国でも2005~15年に全喫煙者に占める1日の喫煙量が10本未満の人の割合が16%から27%に増加した(BMJ 2018; 360: j5855)。
 一般的にニコチンやタール含有量の少ないたばこ(軽いたばこ)では、喫煙本数が少なければ比較的安全であると信じられているが、実際は間違っている。米国の成人2万4,658人の10%が「軽いたばこは有害ではない」と答え、軽いたばこの喫煙者のうち「喫煙習慣が多くの害に関連している」と考えていたのはわずか35%であった。
 わが国でも「喫煙量を減らした量に比例して害が減る」と考える喫煙者が多く、「喫煙本数を減らす」、「軽いたばこに変更する」、最近では「加熱式たばこに変更する」ことで喫煙による害を減らそうとするケースがよく見受けられる。実際、肺がんでは喫煙本数を1日20本から1本に減らすことでリスクは5%に減少する(Environ Health Perspect 2011; 119: 1616-1621)と報告されている(それでもかなりリスクが高い)。しかし、これまでの研究で、喫煙本数と心血管疾患の関係は非線形であり、喫煙本数を減らしても減らした量に比例してリスクは減らないことが示されている(前掲論文、BMJ 2004; 328: 980-983、Prog Cardiovasc Dis 2003; 46: 31-38)。
 今回取り上げた論文では、1日1〜5本の少ない喫煙本数における冠動脈疾患と脳卒中のリスクを定量化するために喫煙量と心血管疾患の関連を検討した(BMJ 2018; 360; j5855)。

◇ 研究のポイント:1日1本のみの喫煙でも、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが予想以上に高い
 1946〜2015年5月にMedlineに登録されたイベント数が50以上のコホート研究を検索し、141件のコホート研究を含む55報についてシステマチックレビューとメタ解析を行った。
 その結果、喫煙未経験者に対する冠動脈疾患の相対リスク(RR)は、男性では1日1本で1.48倍、1日20本で2.04倍〔交絡因子調整後のRR(aRR)1.74倍、 2.27倍〕。女性では1日1本で1.57倍、1日20本で2.84倍(同2.19倍、 3.95倍)であった。1日20本の喫煙によって増加するリスクに対する1日1本の喫煙によって増加するリスクの割合(過剰相対リスク)は、男性で46%(調整後過剰相対リスク53%)、女性で31%(同38%)であった(図1)。

図1. 少量の喫煙(1日1本・5本)による冠動脈疾患および脳卒中リスクの増加( 141件のコホート研究を対象としたメタ解析)

(BMJ 2018; 360; j3984)

 喫煙未経験者に対する脳卒中のRRは、男性では1日1本で1.25倍、1日20本で1.64倍(aRR 1.30倍、1.56倍)、女性ではそれぞれ1.31倍、2.16倍(同1.46倍、2.42倍)であった。1日20本の喫煙によって増加するリスクに対する1日1本の喫煙によって増加するリスクの割合(過剰相対リスク)は、男性で41%(調整後過剰相対リスク64%)、女性で34%(同36%)であった(図1)。
 結論として、1日1本のみの喫煙でも、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが予想以上に高い(1日20本喫煙による増加リスクの約半分)という結果となった。心血管疾患に関して安全なレベルの喫煙は存在しないので、喫煙者はこれらの疾患のリスクを有意に減らすためには喫煙本数を減らすのではなくて、喫煙を止めるべきである

◇ 私の考察:健康のためには禁煙は必須

1.1日1箱(20本)の喫煙に比べて1日1本の喫煙では脳卒中リスクは半減するのみ

 前述の通り、肺がんでは喫煙量を減らした比率に応じてリスクが減る(喫煙量を1日20本から1本にすればリスクは5%に減少)ことが報告されている(図2)。同様に心血管疾患でも、喫煙量を1日20本から1本に減らすと心臓発作や脳卒中リスクが5%(20分の1)に減ると考えがちだが、今回のメタ解析では1日1本では20本に比べてリスクの増加が半減するだけであることが示された。

図2. 喫煙によるPM2.5曝露量および喫煙本数と肺がん死亡率、虚血性心疾患・ 心血管疾患・心肺死亡率の相対リスク

(Environ Health Perspect 2011; 119: 1616-1621)

 また過去には、たばこ煙曝露量と虚血性心疾患の用量反応関係は線形ではないと報告されており(図2、3)、今回、冠動脈疾患とともに脳卒中でも同様の結果が示された。

図3. たばこ煙曝露と虚血性心疾患の用量反応関係

(Prog Cardiovasc Dis 2003; 46: 31-38、BMJ 2004; 328: 980-983、)

 多くの喫煙者は、軽いたばこに変更する、喫煙本数を減らすことでたばこの害を減らせると信じているようだが、禁煙を推奨する心血管疾患領域の専門家の間では軽いたばこへの変更や喫煙本数の減少は、喫煙者が期待しているほどのリスク軽減にならないと考えられてきたことが、さらに確実になった。1日1本のたばこでも冠動脈疾患と脳卒中の発症リスクが非常に高くなることを喫煙者に理解してもらう必要がある。

2.加熱式たばこのharm reductionは証明されていない
 喫煙量をわずかに減らしても有意義な健康上の利益はもたらされず、一方でたばこと電子たばこ(わが国ではニコチン入りの電子たばこは発売されていない)あるいは加熱式たばこの二重使用は心血管リスクを上昇させる。「harm reduction」というキーワードを使って加熱式たばこの販売を促進すべきではない。さらに"電子たばこは禁煙率を低下させる"と主張し、"より安全である"と銘打ったたばこ製品(加熱式たばこやニコチン入りの電子たばこ)のマーケティング手法は、若い世代をニコチン依存症に導いてしまう可能性が高い。
 安全な喫煙レベルというものは存在せず、リスク低減商品と銘打った加熱式たばこに変更すれば長期的な冠動脈疾患や脳卒中の健康被害のリスクがほとんどなくなる、または完全になくなると勘違いすべきではない。
 わが国ではニコチン入りの電子たばこの発売は認可されていないため、加熱式たばこが相次いで発売されている。すなわち、わが国は加熱式たばこの実験場となっていると考えられる。米国では米食品医薬品局(FDA)が加熱式たばこを認可しておらず、FDA科学諮問委員会は、IQOSが紙巻たばこ喫煙より害が少ないというフィリップモリスの主張を5対4で否定した

3.禁煙のポイント
 正しい禁煙法と禁煙でやってはいけないことを以下に示す。

<正しい禁煙方法>

① 期日を決めて一気に禁煙を実行する。完全に禁煙する
② ある程度の禁断症状(ニコチン離脱症状)を覚悟する
③ 吸いやすい「行動」をやめる
④ 吸いやすい「環境」をつくらない
⑤ 吸いたくなったら「代わりの行動」を取る
⑥ 自力でできない場合は禁煙補助薬を使用(禁煙外来)

<禁煙でやってはいけないこと>

① だんだんと減らそうとすること
② 軽いたばこに変えること
③ 加熱式たばこ・電子たばこに変えること
④ 「1本くらいなら」と甘く見ること

 能動喫煙も受動喫煙も安全なレベルは存在しないことが証明されているので、健康のためには禁煙は必須である。受動喫煙も軽い喫煙の別の形態であることも考えて受動喫煙防止法を早期に成立させる必要がある。


 もう一つ、タバコ関連の記事を。
 タバコによるがんのリスクを非喫煙者と同等まで下げるためには「男性で21年以上、女性で11年以上禁煙」という報告。

■ 日本の喫煙者のがんリスク、禁煙何年で喫煙歴ゼロと同じに?
2017/11/14:ケアネット
 日本人のがん罹患リスクは、男性で21年以上、女性で11年以上禁煙すれば、喫煙歴のない人と同レベルまで低下することが、東京大学の齋藤 英子氏らによる研究で明らかになった。男性では、20 pack-year※以上のヘビースモーカーにおいても同様の結果であるという。早いうちに禁煙することが、がん予防への近道であると考えられる。Cancer epidemiology誌オンライン版2017年11月2日号の報告。
 東アジアは世界有数のタバコ普及地域であるが、喫煙や禁煙ががんに及ぼす影響についての前向き研究はほとんどない。そこで著者らは、日本における8つの前向きコホート研究(参加者32,000人以上)のデータを用いて、全がんおよび喫煙関連がん罹患リスクに対する禁煙の影響を評価した。
 主な結果は以下のとおり。

・潜在的な交絡因子の調整後、ベースライン以前に21年間以上禁煙していた男性の全がん罹患リスクは、喫煙歴のない人と同じレベルまで低下することが示された(ハザード比:1.01、95%CI:0.91~1.11)。
・20 pack-year以上のヘビースモーカーであった男性でも、21年間以上禁煙した場合、全がん罹患リスクが低下することが示された(ハザード比:1.06、95%CI: 0.92~1.23)。
・ベースライン以前に11年間以上禁煙していた女性の全がん罹患リスクは、喫煙歴のない人と変わらなかった(ハザード比:0.96、95%CI:0.74~1.23)


※pack-year:生涯喫煙量の単位。1日に何箱のタバコを何年間吸い続けたかをかけ合わせて計算する。1 pack-yearは、1日1箱を1年、または2箱を半年吸った量に相当。

<原著論文>
Saito E, et al. Cancer Epidemiol. 2017 Nov 2.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「エンテロウイルスD68」感染症の多様性

2018年02月04日 06時49分23秒 | 感染症
 エンテロウイルスD68は、はじめアメリカでポリオ様麻痺を後遺症として残す感染症として2014年に注目されました。
 その翌年の2015年秋、日本で喘息発作を起こすウイルスとして注目されました。
 どんなウイルスなのでしょう?

 “エンテロ”とは“腸管”という意味です。
 エンテロウイルスとは腸管で増殖するウイルスという意味を含んでいるのですね。
 小児科医にとって、エンテロウイルスは夏風邪の原因としておなじみです。


(「エンテロウイルス(D68):症状・治療法・予防方法について解説」:ミナカラ)より

 夏風邪の代表である「手足口病」「ヘルパンギーナ」の名前もありますね。
 注目すべきは「急性灰白髄炎」。聞き慣れない病名ですが、俗称「ポリオ」と呼ばれています。
 つまり、ポリオもエンテロ有為するの仲間なのです。

 表を眺めるとおわかりのように腸管で増殖するウイルスであるものの、いろんな臓器をターゲットに症状が出現し得ます。
 呼吸器や神経に症状が出てもおかしくありません。




■ エンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎
2017年11月09日:FORTH
 2017年11月1日付で、汎米保健機関(PAHO)より、急性弛緩性麻痺のサーベイランスの中でのエンテロウイルスD68に関連する急性弛緩性脊髄炎の報告が公表されました。

◇ アメリカ大陸およびその他の地域における発生状況の概要
 1960年代から、エンテロウイルスの感染者が報告されてきています。(しかし)2014年に、アメリカ合衆国で初めて、感染の流行が記録されるまで(流行は)ありませんでした。
 2014年8月から12月までに、米国疾病対策センターには、エンテロウイルス(EV)D68によって起こる呼吸器疾患の流行に関連して、急性弛緩性脊髄炎(AFM)の増加が報告されました。AFMと報告された患者は120人で、34州に及んでおり、年齢中央値は7.1歳(4.8-12.1歳)、59%が男性、81%が神経症状の発症前に呼吸器疾患を伴っていました。この症状に続いて、いくつもの州で、自然発生的に調査が始められました。(その後)2015年には散発的に患者が発生し、2016年には新たな患者が増えてきました。患者は、アジア、カナダ、ヨーロッパでも確認されました。
 エンテロウイルスD68(EV-D68)は、ライノウイルス(rhinoviruses)の特徴をもち、主に呼吸器に病態を引き起こします。しかし、神経を侵襲する病態の原因としての役割は、あまりよく分かっていません。
 2016年に、ヨーロッパ疾病対策センターは、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリスから、エンテロウイルスに感染した子どもと大人で重症の神経学的な症候群が集団および孤立例として報告されたことを周知しました。このエンテロウイルスはD68でした。
 2017年10月に、アルゼンチンのIHR担当者からEV-D68が関係するAFMが報告されました。2016年第13週から第21週までに、AFMが15人(Buenos Aires(ブエノスアイレス)州で13人、Chubut(チュブット)州で1人、ブエノスアイレス自治市で1人)確認されました。患者は、急性弛緩性麻痺の調査の一環として確認されたため、全員が15歳未満でした。この事例は、2016年第16週から第21週までに、全国で観察された15歳未満の子どもの急性弛緩性麻痺の患者の増加とも一致しました。報告されたAFMの患者15人のうち6人から、EV-D68を、ポリオ中央研究所地域研究所(the Regional Poliovirus Reference Laboratory - INEI - ANLIS )Carlos G. Malbrán博士が確認しました。陽性の結果は、鼻咽頭の吸引による検体から得られました。患者の1人からは、同じ結果が脳脊髄液からも得られました。また、急性弛緩性麻痺の患者2人の糞便検体からはヒトEV B型とEV C型が検出されました。患者1人からは、ライノウイルスC型、別の1人からはコクサッキーウイルスA13型が検出されました。
 ポリオ根絶の背景、2016年4月以降に経口ポリオワクチン(OPV)が3価から2価に移行したこと、急性弛緩性脊髄炎(AFM)はAFPの一形態であること、神経への侵襲性の病態の疫学においてエンテロウイルスが果たす役割に関する知識を深める必要性があることを考え、汎アメリカ保健機関/世界保健機関(PAHO / WHO)は、エンテロウイルスがAFPの鑑別診断として挙げられることを各国の記憶に留めさせています。

<出典>
PAHO. Epidemiological Alert. 1 November 2017
Acute Flaccid Myelitis associated with enterovirus D68 in the context of Acute Flaccid Paralysis surveillance.



■ 不可解なポリオ様疾患の流行の原因はエンテロウイルスD68か?
Univadis Medical News2018.01.25
 2014年、急性弛緩性脊髄炎が米国、デンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で集団発生し始めた。
 『 Eurosurveillance 』に発表された新しいエビデンスから、欧州、米国、カナダ、アジアでの不可解なポリオ様疾患の流行の原因がエンテロウイルスD68(EV-D68)であることが示唆されている。
 EV-D68の大流行は2014年に各国で発生した。最初の流行は米国で検出され、その後にカナダ、欧州、アジアで流行した。同時に、急性弛緩性脊髄炎(AFM)のクラスターの増加が同じ地域で記録された。発症した症例数は米国で最も多かった。より少ない症例数がデンマーク、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国で報告された。専門家は原因解明に窮していた。
 最近、喫煙とがんの因果関係を立証するために使用されたブラッドフォード・ヒル基準を用いて、オーストラリアの研究者らはEV-D68がこうしたAFMのクラスターの原因であるという強力なエビデンスを提示した。
 研究についてコメントした筆頭著者のRaina MacIntyre教授は、公衆衛生策の焦点を感染の予防に当てることができるようEV-D68とAFMとの関連を認める必要がある、と述べた。「EV-D68感染の発生率は世界中で増えており、最近には遺伝的に異なる菌株が進化しています。EV-D68を原因とするこのポリオ様疾患の治療またはワクチンはないため、流行を食い止めるための速やかな行動が重要です。」

<参照>
・Dyda A, Stelzer-Braid S, Adam D, Chughtai AA, MacIntyre CR. The association between acute flaccid myelitis (AFM) and Enterovirus D68 (EV-D68) – what is the evidence for causation? Euro Surveill. 18 January 2018; 23(3). pii: 17-00310. Doi: 10.2807/1560-7917.ES.2018.23.3.17-00310.


<参考>

■ 「エンテロウイルス D68(EV-D68)感染症に関する Q&A」(一般の方向け)(国立感染症研究所)より;
Q2) EV-D68に感染し発症した場合、どんな症状が認められますか?
A2) EV-D68 に感染し発症した場合、発熱や鼻汁、咳といった軽度なものから喘息様発作、呼吸困難等の重度の症状を伴う肺炎を含む様々な呼吸器疾患を呈します。なお、弛緩性麻痺を発症した患者の上気道から EV-D68 が検出された事例が欧米や日本などから報告されており、弛緩性麻痺患者の一部における EV-D68 感染との関連が疑われています。

■ 「エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは」国立感染症研究所

■ 「2015年に発生したエンテロウイルスD68感染症の関与が疑われる急性弛緩性麻痺、重症呼吸不全、小児気管支喘息に関するまとめ」日本小児科学会
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小児アトピー性皮膚炎のマーカー

2018年02月03日 06時33分17秒 | アトピー性皮膚炎
 日々、赤ちゃんの湿疹〜アトピー性皮膚炎を診療しています。
 「乾燥肌」「かゆみ」「発赤」が揃うとアトピー性皮膚炎という診断名が限りなく近づいてきます。
 逆に見ると、これらが揃った湿疹はステロイド軟膏でないと治りません。

 しかし、これが揃わない湿疹もよくみられます。
 赤みはあるけど、痒がらない。
 乾燥感はあるけど、痒がらない。
 触るとザラザラデコボコしているけど、赤みがない。

 これらの湿疹にステロイド軟膏が必要なのかどうか、悩ましい。
 保湿剤/保護剤で様子を見ると一過性で消えていくことも多いので、結果的に「乳児湿疹」ということになります。
 しかし数週間経っても消えない例も散見します。
 その場合、私は皮膚科専門医のフィルターを通すことにしています。
 すると、「洗いすぎ」「汗疹」という見立てが圧倒的に多い。
 やはりアトピー性皮膚炎ではないんだ、と安心する一方で、「汗疹」という診断のもとに当院より強いステロイド軟膏が処方されていることも経験し、苦笑いするしかありません。

 何か客観的な指標はないものか・・・そこで登場するのが「アトピー性皮膚炎のマーカー」としての検査です。
 TARC(thymus and activation-regulated chemokine)が有名ですが、血液検査なので採血が必要です。
 しかも、3歳以下の正常値は高く成長とともに漸減してい矩形黃があるため、1回だけではなく経時的に評価する必要があります。
 元気な赤ちゃんに何回も何回も採血をして泣かせるのは親としてつらく、また採血する方も大変でもあり、当院では行っていません。
 関連記事を紹介します。

■ 小児アトピー性皮膚炎で有望なマーカーは?
2018年02月01日:メディカル・トリビューン
 バイオマーカーとは、病的過程や治療に対する薬理学的反応を客観的に検出し、評価できる特徴を持つ指標と定義されている。アトピー性皮膚炎のバイオマーカーおよびその候補について、国立病院機構三重病院院長の藤澤隆夫氏に解説してもらった。同氏は「扁平上皮細胞がん関連抗原(Squamous cell carcinoma antigen;SCCA)は、病勢を反映するマーカーとして有用である」と述べている。

◇ 生後2日の経皮水分蒸散量増加が将来のリスクに
 アトピー性皮膚炎のバイオマーカーは、

① 診断(鑑別診断、発症前のリスク診断)
② 病勢評価(重症度・臨床経過の客観的指標、治療反応性の指標)
③ エンドタイプ同定(個別化医療、分子標的薬の適応)
④ 予後予測(長期予後の予測、アレルギーマーチの予測の判断)
−などへの利用が期待されている。

 診断にバイオマーカーは必要ないとの意見もあるが、発症前のリスク評価として一定の指標となりうる。例えば、生後2日での経皮水分蒸散量(Transepidermal water loss;TEWL)の増加(乾燥しやすい皮膚)は将来的なアトピー性皮膚炎のリスクである。さらに、TEWL増加が食物アレルギーのリスクにもなる。
 生後早期からの保湿でアトピー性皮膚炎を防げるとの報告は多く、特にTEWL高値の乳児で著明な予防効果が得られたとの報告もある(Allergol Int 2016; 65: 103-108)。まずTEWL値を測定し、必要な乳児に対してのみ保湿を行うという予防法も考えられる。

◇ TARCの問題点は乳幼児で高値であること
 藤澤氏は「最も検討が進んでいるバイオマーカーは、病勢評価に関するものである」と述べている。皮膚については所見で評価するが、バイオマーカーは数値として示されるので客観的な評価の指標となり、治療反応性の評価にも用いられる。病勢評価のバイオマーカーには好酸球数や乳酸脱水素酵素(LDH)、免疫グロブリン(Ig)E値などがあるが、近年は血清活性化制御ケモカイン(TARC/CCL17)など、Th2関連マーカーなども用いられている
 TARCはアトピー性皮膚炎のマーカーとして有用で、既報ではTARCが高値だとアトピー性皮膚炎の重症度(SCORAD)も高く、治療に伴う改善とも連動しており、2つの値に相関が見られた。TARC、好酸球数、LDH、IgEを比較した研究結果からもTARCが最適なマーカーと考えられた。
 しかし、TARCの問題点として乳幼児で高値であることが挙げられる。3歳以下の乳幼児では正常児であってもTARC値は高値(1,000pg/mL超)となるため、他のマーカーで判断しなければならない。
 そこで、考えられるのがSCCAである。SCCAは染色体18q21.3.上の2つの遺伝子(SERPINB3、SERPINB4)にコードされるSCCA1とSCCA2の2種類の蛋白質である。上皮細胞に発現し、子宮頸がんなどの扁平上皮がんで高発現が認められたことから命名され、腫瘍マーカーとして応用された。
 SCCAはヒト気道上皮細胞がTh2サイトカイン(IL-4、IL-13)により刺激されると高発現することが明らかとなり、Th2マーカーとして検討が進んだ(Cytokine 2002; 19: 287-296)。実際に、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では高発現している。ケラチノサイトをIL-4、IL-13で刺激すると、つまり皮膚にTh2の環境があった場合、ケラチノサイトにおいてSCCAが誘導される。

◇ SCCA2が重症度と相関
 藤澤氏らは、小児におけるSCCA1/2の基準値およびアトピー性皮膚炎患者におけるSCCA1/2の臨床的意義を明らかにすることを目的に検討を行った。対象は18歳未満の小児ボランティア〔179例、健康または軽症のアレルギー疾患(喘息58例、アレルギー性鼻炎181例、アトピー性皮膚炎129例)〕と入院加療した重症アトピー性皮膚炎の小児(29例)。ISAAC(The International Study of Asthma and Allergies in Childhood)の質問票を用いてアレルギー疾患を分類し、重症患者については重症度をSCORADで評価、治療前後のSCCA1/2値、TARC値を測定した。
 同氏は「SCCA1/2値は、いずれも年齢による差はなく、健康者、喘息、アレルギー性鼻炎例では低値、アトピー性皮膚炎例では軽症でも有意に上昇し、重症ではさらに高かった。重症度のマーカーとして利用できそうだ」と述べている。SCCA1/2ともにSCORADとの相関はTARC値と同等で、重症患者では治療後に全例で症状の改善とともに低下していた。
 SCORADスコアの変化とバイオマーカーの変化との関連を見ると、TARC値に比べてSCCA1、SCCA2が強く相関しており、さらに、SCCA1に比べてSCCA2の方がより強い相関が見られた。同氏は「特に血清SCCA2はアトピー性皮膚炎の病勢を反映するマーカーとして有用と考えられた」と結論付けている。

◇ エンドタイプと予後予測には有望なマーカーなし
 藤澤氏は「エンドタイプ同定のマーカーとしては、Th2、Th17、Th22などが候補だが、実用性に関しては今後の課題である」と述べている。小児のアトピー性皮膚炎では発症時期がまちまちで、乳児期に発症して小児期には治癒する例もあるが、多くは各年齢層で発症し、それが完治せずに継続することになる。また、非常に高齢の患者も存在する。それを関与するサイトカイン(生物学的製剤のターゲット)によって変化させることができるかどうかは不明である。
 予後予測のマーカーとしては、それぞれのアレルギー感作のパターンなどに可能性はあるが、現在のところ有望なマーカーはないという。同氏は「アレルギーマーチの進展は①アトピー性皮膚炎②食物アレルギー③喘息④アレルギー性鼻炎−の順であることから(J Allergy Clin Immunol 2017; 139: 1723-1734)、アトピー性皮膚炎のマーカーはアレルギーマーチのスタートのマーカーと位置付けられる。将来的には、TEWLなどがアレルギーマーチのマーカーとして活用できることに期待したい」と展望している。


 私が知りたいのは、乳児アトピー性皮膚炎とほかの乳児に見られる湿疹が区別可能かどうか、ですが・・・なかなかハッキリ記載している資料に出会いません。

<参考>

■ アトピー性皮膚炎診療における血清TARC値測定の意義マルホ皮膚科セミナー:2014.8.7

■ TARCとアトピー鑑別試験の違いは何ですか?CRC)より抜粋;
・・・水疱性類天疱瘡や菌状息肉症、血管浮腫、薬疹、膠原病などでも高値となりうるため注意します。

■ アトピー性皮膚炎,蕁麻疹の重症度と診断の客観的評価法アレルギー 61(1), 10 ― 17, 2012)より抜粋;
 血清 TARC の高値はアトピー性皮膚炎に特に特異性が高いことが示されているが、他の疾患では蕁麻疹や炎症性角化症、皮膚 T 細胞リンパ腫、水疱性類天疱瘡などで高値の報告がある 4 )5 )8 )。 特に皮膚 T 細胞リンパ腫は経過が慢性でアトピー性皮膚炎と鑑別が困難な症例もあり注意が必要であるが、逆に、十分な治療にもかかわらず想外の高値が持続する場合などは皮膚T 細胞リンパ腫を疑う契機にもなり得る 5)。なお、血清 TARC の測定は 2008 年よりアトピー性皮膚炎に保険適用となっている。

4)玉置邦彦, 佐伯秀久, 門野岳史, 佐藤伸一, 八田尚人,長谷川稔,他.アトピー性皮膚炎 の病勢指標としての血清 TARC!CCL17 値 についての臨床的検討.日皮会誌 2006; 116:27―39.
5)前田七瀬, 吉田直美, 西野 洋, 片岡葉子. 重症成人アトピー性患者における血清 TARC の 臨 床 的 意 義.J Environ Dermatol Cutan Allergol 2011;5:27―35.
8)Tamaki K, Kakinuma T, Saeki H, Horikawa T, Kataoka Y, Fujisawa T, et al. Serum levels of CCL17!TARC in various skin diseases. J Dermatol 2006; 33: 300―2.

■ アトピー性皮膚炎のバイオマーカー ―病勢指標としての血清 TARC/CCL17 値を中心に―アレルギー 62(2), 131―137, 2013

■ 血清 TARC の高値を認めた新生児―乳児消化管アレルギーの 3 例
アレルギー 61(7), 970―975, 2012)より抜粋;
 CC ケモカインであるTARC は、その受容体 CCR4 を特異的に発現している Th2 細胞に対して遊走活性を有している 3).アトピー性皮膚炎においては,様々な刺激によって表皮角化細胞から産生された TARC が末梢血中の CCR4 発現 Th2 細胞を皮膚へと遊走させ,皮膚炎を惹起すると考えられている 4).また,皮疹の面積と重症度を加味した皮膚症状スコアーである SCORAD 値と血清 TARC 値には正の相関が認められ 5),アトピー性皮膚炎の病勢を示すマーカーとして血清 TARC 値は利用されている。他のアレルギー疾患である気管支喘息においても,気道上皮に TARC の発現が証明されており 6),健常者に比べ有意に血清 TARC が高値である事が報告されている 5).
3)Imai T, Yoshida T, Baba M, Nishimura M,
Kakizaki M, Yoshie O. Molecular cloning of a novel T cell-directed CC chemokine ex- pressed in thymus by signal sequence trap using Epstein-Barr virus vector. J Biol Chem 1996; 271: 21514―21.
4)Kakinuma T, Nakamura K, Wakugawa M, Mitsui H, Tada Y, Saeki H, et al. Thymus and activation-regulated chemokine in atopic dermatitis: Serum thymus and activation- regulated chemokine level is closely related with disease activity. J Allergy Clin Immunol 2001; 107: 535―41.
5)藤澤隆夫,長尾みづほ,野間雪子,鈴木由紀, 古川理恵,井口光正,他.小児アトピー性皮 膚炎の病勢評価マーカーとしての血清 TARC!CCL17 の臨床的有用性.日小児アレ ルギー会誌 2005;19:744―57.
6)星野 誠,中川武正,宮澤輝臣.アレルギー 性炎症 喘息気道での炎症細胞浸潤におけ る TARC と接着分子の関与について.アレ ルギー 2006;55:410.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする