小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「バイバイ、おねしょ!」(冨部志保子著)

2016年07月21日 15時42分31秒 | 小児医療
バイバイ、おねしょ!」朝日新聞出版、2015年発行。

夜尿症関連本の紹介です。
著者はライターで、以下の夜尿症専門医を取材してまとめた内容です。
近年発行される夜尿症関連の本が少ない中、「夜尿症治療の今」を知るよい資料となっています。

・池田裕一先生(昭和大学藤が丘病院小児科准教授)
・榎本信哉先生(えのもとクリニック院長)
・大友義之先生(順天堂大学附属練馬病院小児科先任准教授)
・河内明宏先生(滋賀医科大学泌尿器科教授)
・田村節子先生(東京成徳大学心理学研究科教授)
・西美和先生(広島赤十字・原爆病院小児科)
・服部益冶先生(兵庫医科大学小児科教授)
・吉田茂先生(医療法人葵鐘会副理事長)

夜尿症ガイドライン2016を読んで」でも書きましたが、夜尿症治療でずっと気になっていたことがあります。
それは「デスモプレシン療法の適応」。
夜尿症専門医の講演を聴いていると、「第一選択はアラーム療法とデスモプレシン療法のどちらか」「アラーム療法とデスモプレシン療法の併用が治療成績がよい」と、対象を選ばずにデスモプレシン療法を行うような言い方が多いのです。

しかし、デスモプレシンは抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの誘導体であり、その適応は添付文書によると「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」となっています。また「重要な基本的注意」の項目に「本剤による治療を 1 週間以上続ける場合には、血漿浸透圧及び血清ナトリウム値の検査を実施すること」「本剤使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、翌朝尿浸透圧の平均値が 800mOsm/L 以下あるいは 尿比重の平均値が 1.022 以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」などと記されています。

つまり、純粋な膀胱型には適応にならないはずなんです。
なぜ、アバウトな表現でお茶を濁しているのだろう・・・?

しかし、この本を読んでその疑問が氷解しました。
日本では治療方針を決定する前に、まず病型分類(多尿型/膀胱型/混合型)ありき、ですが、欧米ではあまり気にせずに患者さんのモチベーションを考慮して決めてきた歴史があるようです。
だから、どちらの治療方針を選択するかは、病型よりも患者さんの希望が優先されそうな雰囲気があることが記されています。

な〜んだ。
でも、そんなんでいいの?

最も近年、日本の病型分類が欧米で評価されつつあるとの記載もありました。
う〜ん、いいのか悪いのか、ハッキリ書いてほしい!

と消化不良を起こすような内容です(^^;)。
今はアラーム療法が普及しつつある過度期なので、おそらく専門家の間でも混乱しているのでしょう。

それから、「抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度」と記載されていました。
私の外来に来る患者さんは、だいたい就学前後になっても毎晩夜尿がある重症例なので、正直言って薬物治療の手応えがありません。半年くらい通院して治らないのでドロップアウトし、それから1年位するとまた相談に見えて治療を再開し、やはり治らないのでドロップアウトし・・・これを繰り返しているうちにいつの間にか治る、というパターンが多い印象です。

つまり、重症例では治療介入した場合と自然経過とどれだけ違うんだろう、という素朴な疑問が、実は治療者側にもあるのです。
なので、私が期待するのはアラーム療法。
でも家族が不眠症に陥り疲弊して長続きしません(T_T)。

<参考>「おねしょ卒業!プロジェクト」(運営:フェリング・ファーマ株式会社)

<メモ> ・・・気になったところを抜粋

■ 睡眠中の尿量と膀胱容量は変わる(吉田茂Dr.)
・成長とともに昼は起きて夜は眠るというリズムができてくる3-4歳になると、抗利尿ホルモンの分泌は日中は少なく、夜眠っている間には多くなるという一定のサイクルが生まれる。
・眠っている間はリラックスしているため膀胱壁がゆるみ、オシッコをたくさんためられるようになる。たとえば4歳くらいになると昼間に比べて1.5-2倍ほど多くのオシッコをためることができるようになる。
・4歳では、昼間と比較して夜間睡眠中の尿量は50-60%へ減り、膀胱容量は1.5-2倍に増える。

■ 夜尿症の原因には3つの要素がある(西美和Dr.)
①夜間尿量(多尿)
②膀胱容量(少ない)
③覚醒障害(オシッコがあふれそうになっても目が覚めない)

・小学校低学年では、夜尿症は2:1の比率で男児に多い。
・両親のどちらかが夜尿症だった場合、40%の子どもに夜尿が、両親2人とも夜尿症だった場合は70%の子どもに夜尿症が発症したという報告がある。

■ 自然に治るのを待つ?(吉田茂Dr.)
・夜尿症の自然治癒率は年間10-15%
・小学校入学時に夜尿があれば、約1/2の確率で小学校高学年になっても夜尿が残る。
・治療を受けると治癒率が2-3倍高くなり、1年で50%、2年で70%、3年で80%以上と治癒率が向上する。

■ 他の病気が隠れているかも(大友義之Dr.、池田裕一Dr.)
・昼間にオシッコを漏らしてしまうときは泌尿器科の病気が疑われる。
・就学前後の子どもが日中ウンチを漏らすようだと消化器・脊椎系の病気を考える必要がある。
・睡眠時無呼吸症候群では夜間の尿量が増えるため夜尿の原因になることがある。
・脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症などが原因になることがある。見分けるポイントは、日中にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状があるかどうか。

■ 備えあれば憂いなし(田村節子Dr.)
・学童期におねしょパンツ? ・・・これらを利用することで夜尿が長引くという報告はない。
・寝具の工夫:敷き布団の上に介護用の防水シーツをかぶせるのが一般的、しかし防水シーツは吸収性がないのでその上にバスタオルを敷いて、さらに通常のシーツで全体を包む。防水シーツだけでなく、敷き布団の上に敷く紙製の使い捨てパッドも様々なサイズのものが販売されている。
・ウエストからももの当たりまで防水加工を施した裏布が縫い付けられている防水パジャマズボンも市販されている。夜尿量の多い子どもは、紙パンツやおねしょパンツなどの吸収力のあるものを着けてから、防水パジャマズボンを着用するなど、重ね着で対処を。

■ お泊まり行事対策(榎本信哉Dr.)
・宿泊行事直前に受診しても夜尿症対策は無理、せめて半年前に来てほしい。
・担任の先生に協力を:事前に相談して、寝る前の排尿や薬の服用をサポートしてもらう。みんなが寝静まった後で別室に寝かせ、オムツに履き替えさせてもらい、もし夜尿をしていたら朝方に処理していただくようにお願いするのもあり。
・薬の管理と生活習慣:行事には薬を持って行く(日頃夜尿アラーム療法を行っている場合は、この時だけ薬に変えてもらう)、夕方以降は水分を控え、寝る前にはトイレに行く。
・パジャマ/寝具対策:パジャマのズボンはオシッコの跡がついても目立たないよう黒や紺色など濃い色に。パンツに尿失禁用パッドを着け、さらにもう一枚パンツを重ねるなど、夜尿をしても目立たない衣服を着せ、寝具がぐっしょり濡れないように配慮すべし。

■ おねしょ布団の管理方法(城山ふとん店:宮崎県延岡市)
①お湯をかける:お風呂場でおねしょの部分にだけ、40℃くらいのぬるま湯をゆっくりかけ、これを2-3回、においが消えるまで繰り返す。熱湯はNG。オシッコの成分であるタンパク質は70℃くらいで固まってしまうため、においを取るためにはぬるま湯を使って洗い流し、その後、タオルでたたくようにして水分を取っておく。
②重曹をかける:時間があまり経っていない場合は、重曹をおねしょ布団に振りかけ、尿を吸い取る。完全に吸い取ったら重曹を払い、ビネガースプレーを吹き付けながら乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ ビネガースプレー:ホワイトビネガー(食用酢)と水を1:4で混ぜる
③クエン酸を利用:スプレーボトルに入れたクエン酸水をおねしょで汚れた布団にスプレーし、オシッコのアルカリ性を中和させた後、乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ クエン酸水:クエン酸粉末小さじ2杯と水400mlをスプレーボトルの中で溶かす
④紙おむつを利用:市販のオムツをおねしょで汚れた布団に当て、その上で足踏みをする。
⑤天日干し&丸洗い

■ まずは生活改善(西美和Dr.)
・抗利尿ホルモンは夜11時くらいの深い睡眠中に出る。
・1日の水分の取り方:体に取り込んだ水分が膀胱に到達するまでには2-3時間かかるため、夕食から練るまでの3時間は水分を取らないようにする。朝起きてから昼食までの間にコップ2杯くらい水を飲み、給食のときも水分をたっぷり摂取し、その後は夕食に駆けて飲む量を控えめにして、夕食後には飲まない、というリズムを心がける。夜の水分制限だけは必須
・夜、どうしても飲みたいときは、コップ1杯程度に抑えるか、冷蔵庫の氷1-2個を口の中で溶かして喉を潤す。
・秋から冬に悪化するのは冷えが一因。冷えは腎臓でつくられる尿量を増すほか、膀胱の縮小(ふくらみにくくなる)にもつながる。対策として、寝る前にお風呂に入ってから出を暖める、布団をあらかじめ暖めておく、等。

■ 病型分類と治療法の関係(西美和Dr.)
・日本では従来、治療前に厳密に病型分類を行い、多尿型には抗利尿ホルモン薬、膀胱型には夜尿アラームか抗コリン薬で治療してきた。
・日本以外の世界各国では昔からこうした病型分類はせず、最初から抗利尿ホルモン薬価、夜尿アラームのどちらかを患者さんに選んでもらうという方法がとられてきた。
 そして、しばらく経って効果が十分でないようなら、今度は医師の判断で抗利尿ホルモン薬を飲んでいた患者さんは夜尿アラーム療法に、夜尿アラーム療法を行っていた患者さんは抗利尿ホルモン薬に切り替えて治療を続けてきた。
・こうした歴史を持つ欧米でも、最近は明らかに尿量が多い子どもには抗利尿ホルモン薬で治療を開始した方がよいという考えも出てきているので、日本の病型分類が見直される動きがある。

■ 治療方針の変化(服部益冶Dr.)
数年前までは、最初に家庭でのチェックや測定を基にしっかりと夜尿症の病型分類をして、膀胱容量が少ないタイプの子どもには非薬物療法、夜間尿量の多いタイプには薬物療法と、治療方法が決められていたが、最近ではどちらのタイプにどちらの治療を行っても治療成績は大きく変わらないことがわかってきた。そのため、今はかつてほど病型分類に時間を駆けることが少なくなっている

■ 抗利尿ホルモン製剤(経口)(大友義之Dr.)
・1ヶ月時点では半数以上の子どもに効果が見られなかったが、2ヶ月目には7割以上に効果が現れた。
・有効例では一気に薬をやめるのではなく、段階的に減量した後にやめることで中止後の再発リスクが低くなる。具体的には、服用して2-3ヶ月間夜尿がなくなったら、毎日の服用を2日に1回に減らし、それでさらに2ヶ月以上継続して夜尿がなければ晴れて卒業となる。
・2ヶ月目でも効果が乏しい場合には薬剤を増量し、それでも効果が不十分な場合は、ほかの薬剤もしくは夜尿アラーム療法と併用することになる。
抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度
・服用の仕方:舌の下に置くと、ふわっと溶けて口の粘膜からも吸収させるようになっているので、ゴクンと飲み込んでしまうと体内への吸収率が低下してしまう。夜、歯を磨いた後にこの薬を口に入れ、水を使わずに口の中で溶かすようにして飲むのがポイント。服用後はうがいも避けるべし。

■ 夜尿アラーム療法(河内明宏Dr.)
・夜尿アラームにより夜尿症が治っていくプロセス;
①アラームが鳴る→ (子どもが気づかない場合は声をかける)→
②中枢神経が「起きる」と「ガマンする」の2方向に働く→
③子どもは眠りが深いため、ガマンする方向が優位になる。
この①②③を繰り返すうちに、だんだん寝ていても朝まで膀胱にオシッコをためておけるようになる、というわけ。
・治療開始後、1-2ヶ月で膀胱容量は約1.5倍に増加する。治癒率は65-70%で、中止後の再発率は10-20%。
・治療対象は、昼間におもらし症状のない8歳以上の患者で、これを2-3ヶ月続けるうちに膀胱にためられる尿量が増え、夜尿が治る場合が少なくない。
・もともと日本では、睡眠を妨げるのは夜尿症の治療に逆効果という考えから、夜尿アラームはなかなか普及しなかったが、欧米では1960年代から使われてきたポピュラーな方法
・オシッコが出てアラームがそれを知らせても子どもが気づかない場合は、ご家族が声をかけてあげてください。一晩のうちに何度も夜尿をする場合、そのたびにご家族が起きるのは大変なので、1回だけアラームを使うのでかまいません。

■ 中高生の夜尿(池田Dr.)
・中学生の3-5%、高校生の1-3%に、月に数回以上夜尿がある。
・学童期の夜尿が男子に多いのに対して、青年期・成人期の夜尿症患者は女子にも多い。
・20歳を過ぎても夜尿が治りきらない場合を「成人型夜尿症」といい、100-200人に一人存在する。
・二次性夜尿は1割以下。
夜尿がクセのようになっている子どもにとっては、実は夜尿って気持ちのいいことでもある
・日常生活の注意点:尿意を感じたら必ずトイレへ行く、排尿後に気づいた場合はパンツやオムツを自分で取り替える、濡れてしまったパンツやシーツはなるべく自分で洗濯する。

■ 専門医の診療が必要な場合(榎本Dr.)
・昼間のおもらしや頻尿、尿意切迫感など「過活動性膀胱」症状がある場合→ 専門医のもとで抗コリン薬 ・・・副作用(便秘と残尿)が出ると夜尿を悪化させる一因になり得る。
・抗利尿ホルモン薬、夜尿アラーム、抗コリン薬で効果不十分例→ 専門医のもとで三環系抗うつ薬 ・・・心臓や肝臓への副作用が出やすい。

■ オシッコは汚くない?(池田Dr.)
・そもそも子どもにはウンチもオシッコも自分の体から出てくるものなので、キタナイものだという感覚がない。それをキタナイと思うのは社会的な価値観である。つまり、子どもは「夜尿は恥ずかしいことだよ」「トイレでしなきゃ馬鹿にされるよ」と周囲の大人たちからすり込まれて初めて、これは恥ずかしいことなんだという感覚になる。

■ 治療の5原則(服部益冶先生)
「怒らない」「起こさない」「焦らない」「ほめる」「比べない」
・夜尿症から卒業する子は、みんな治療に自主的に取り組む子。
・夜尿症の治療は3歩進んで2歩下がるの繰り返し。
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「第33回日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会」見聞記。

2016年07月18日 07時50分10秒 | 食物アレルギー
2016.7.16/17に仙台市で開催された学会へ参加してきましたので体験記を少々。

この学会は「小児アレルギーエデュケーター(PAE)制度」の母体であり、小児科医だけでなくメディカルスタッフ(看護師/薬剤師/管理栄養士など)の参加も多いことが特徴です。

会場では群馬大学小児科アレルギーグループの先輩後輩にお会いし、大学時代の同級生と旧交を温め、電子カルテで知り合ったDr.とも再会しました。
みんな勉強熱心で偉いなあ。
今年PAEの資格を取得した当院スタッフも、若い友人が何人もできてうれしそうです(^^)。

PAEを取り巻く問題点も耳にしました。
PAEは合格率30%とハードルの高い資格であり、取得後も研修などでお金がかかりますが、診療報酬にまったく反映されません。
当院ではアトピー性皮膚炎のスキンケア指導/チェックにひとり1回数十分かけています。
が、報酬は風邪と同じなので赤字になります(T_T)。

医師と異なり看護師さんは専門性が低いのでいろいろな科を経験します。
大病院ではPAEの資格をせっかく取得したのに他の病棟に移動させられてしまうという事例があります。
ある病院では脳神経外科にPAEが2人いるけど、小児科にはいないという困った現象も。
それから医師も人事異動がありますので、PAEを目指して勉強していたメディカルスタッフが突然指導医を失い、資格取得を断念せざるを得ないという事例もありました。

ハードルの高い資格であればあるほど、それを守る環境整備の必要性も感じました。

前置きはこのくらいにして、学会内容について。

<7/16(土)>
■ シンポジウム1「災害時のアレルギー患者への支援活動を考える〜東日本大震災と熊本地震での経験から」
 非常に興味深い内容でした。
 まず災害時の超急性期に問題になるのは食物アレルギー。食べられるものが手に入らず、避難所で「○○は食べられません」と言うと「こんな非常時に何を言ってるんだ」「わがまま」と認識される傾向があり、つらい思いをして自宅にとどまるか車中泊を選択する傾向あり。
 医療者側も、患者さんがどこにいるのか把握ができないという大きなハードルに支援が阻まれます。
 連絡網がないのです。
 支援物質があっても配れないというジレンマ。

 東日本大震災の時は、避難所を個別訪問するしかありませんでした。
 熊本地震では、津波がなかったので道路が生きており、拠点病院に支援物質を集積し、それをメディアで広報して取りに来てもらう体制を取りました。
 
 災害時に活躍したのは「患者の会」でした。横のつながりを利用してどこにいるのか把握しピンポイントで支援物質を配達することができました。
 行政や医療者もアレルギー専門ではないので、超急性期は「救命」にエネルギーを集中せざるを得ません。やはり当事者間が自分を守る術をふだんから用意しておくことの重要性が再認識されました。
 ふだん特定の食物を除去している場合でも「重症度がどの程度か」知っておくことも大切です。「食べたことがないけど検査で陽性だから除去している」のと「負荷試験をしてこれくらいの量でこの程度の症状が出ることがわかっている」のでは、災害時極限状況に置かれた際、雲泥の差があります。

 講演を聴いていて「患者さんをあらかじめ登録して災害時に生かせないものだろうか?」とずっと考えていました。
 すると、次の午後のシンポジウム2にそのヒントがありました。

■ シンポジウム2「教育機関におけるアナフィラキシー対応を考える」
 この十数年の間に食物アレルギーの医学は日進月歩ですが、行政が追いついてこない。
 とくに学校関係の文部科学省の腰が重いことを各講演から感じました。
 ガイドラインを作成しても普及しないことが関連学会の悩みでもあります。

 その要因は、現場の医師にも責任の一端が。
 「アレルギー科」を標榜している開業医院のうち、アレルギー専門医(アレルギー学会に所属し試験を受けて合格した医師)は3割にとどまるのです。ほかは・・・経営・集客目的で標榜されている傾向がなきにしもあらず。
 一応専門医の私でも、毎回学会に参加し、関連書籍を読む努力を怠ると知識・常識が遅れてしまうことを実感しています。数年前に秋のアレルギー学会は「アレルギー講習会」と名前を変え、トレーニングに特化したほどです。
 でも、アレルギー学会の会員でもなく、研修も受けず、資格もない医師が「アレルギー科」を標榜しているのです。その診療内容に歴然の差はあって当然でしょう。

 複数の演者が「アレルギー疾患生活管理指導表」を取り上げ、問題点を指摘したことが印象に残りました。
 この書類は、患者を把握し誤食事故を起こさないことが第一の目的ですが、除去食の必要性を検証する目的もあります。
□ 【入園・入学前に知っておきたい! 子どものアレルギー対策(4)】園や学校との情報共有には「生活管理指導表」を活用(2015.3.10:日本経済新聞

 食物アレルギーは実際に食べて症状が出る食物を除去するのが基本です。
 しかし中には、検査で陽性だからずっと除去を指導する医師はまだいますし、兄弟が食物アレルギーだからこの子も何となく除去しているというお母さんもいるのが現状です。
 それらについて「本当に除去が必要なのか?」とふるいにかけるのです。

 講演を聴いていて、ふと頭に浮かびました。
 「この管理指導表を災害時に使うことはできないだろうか?」 
 と。

 管理指導表には、食べられない食材と連絡先が記されており、この情報を一元管理すれば、災害時に効率的にアレルギー対応食品を配布できるのではないか。
 書類の最後に「この指導表を災害時の基礎資料として活用することに同意します」という一分をもうけてサインしていただく。
 そうすれば、医療者側も、患者側もメリットだらけ。

 ・・・というアイディアを、相模原の海老澤先生にお話ししておきました。

■ シンポジウム4「アレルギー発症予防への挑戦」
 書き切れないほどのたくさんの情報があり消化不良状態です。
 中でも印象に残ったのは「感染症と喘息」というテーマ。

 RSウイルス感染症に罹り喘鳴(ゼーゼー)+呼吸困難で入院した患者さんが、その後喘息を発症する傾向があることは周知の事実です。
 しかし、アレルギー体質だからRSウイルス感染症が重症化したのか、RSウイルス感染症に罹ったから喘息になりやすいのか、以前から“卵と鶏論争”が続いてきました。
 最新の報告では「ウイルスの種類に関係なく、ウイルス感染の回数が喘息発症と相関する」とのこと。
 RSウイルスに限らず他のウイルスも含めて、風邪を引いてゼーゼーを繰り返すことが喘息発症を近づけるというのです!
 それから、ライノウイルスは秋に喘息発作を誘発することで有名ですが、これは気道上皮細胞がインターフェロンを産生できずに(健常者は産生できる)、気道上皮が壊死に陥り剥がれてしまうためであると説明されました。
 つまり、気道上皮細胞のインターフェロン産生能力が低下している人ほど喘息になりやすいということ。

 それから、「ダニ対策を喘息発症前に行っても予防にならない」という報告にはショックを受けました。
 アレルギー検査をしてダニ特異的IgE抗体陽性者にはダニ・ほこり対策を指導してきたのにそれが否定されてしまうなんて・・・。

■ イブニングシンポジウム1「より良いアトピー性皮膚炎診療を目指して〜TARCの有用性〜」
 「アトピー性皮膚炎と間違えやすい皮膚病」の講演者に「これらの皮膚病にステロイド外用薬を塗ると効くのですか?」と質問したところ「赤みは減るけどアトピー性皮膚炎ほど手応えはないでしょう」とのお答え。「ではステロイド外用薬の反応が乏しい湿疹では皮膚科専門医に紹介・誘導した方がいいのですね」と追加質問すると「その通り、よろしくお願いします。」とのお答えでした。
 ほかはちょっとゆるい講演でした(^^;)。


<7/17(日)>
■ 一般演題「気管支喘息(吸入指導)」
 門前薬局のPAE有資格者の薬剤師さんの発表が印象的でした。
 当院では看護師が指導している内容を、そのまま院外薬剤師が担当していることに驚きました。
 そういう展開もあったか!?
 たしかに、医院ではいくら指導しても収入に反映されませんが、薬剤師はもともと「薬剤指導料」という項目でお金を徴収している事実を思い出し、本来は薬剤師が説明することなんだ、と改めて認識した次第です。
 でも現実は・・・指導できる能力・時間がある薬局は多くないと思われ、演者もそれを認識しており「これから広めていきたい」旨を質疑応答でコメントしていました。

■ 教育講演3「よくわかる小児への免疫療法〜皮下と舌下免疫療法を中心に〜」
 免疫療法を俯瞰し、どうあるべきかを解説した学会ご意見番のお話にただただ頷くばかり。
 いろいろ質問したいことがあったけど、時間切れで次の会場に向かわざるを得なかったことが残念です。

■ 教育セミナー4「臨床現場でのスキンケア指導〜患者さんとのコミュニケーション〜」
 講演者のキャラが興味深い(^^;)。
 すました顔してキツいことをさらっと言うタイプで、一見おとなしそうですが肝の据わった女医さんでした。
 重症アトピー性皮膚炎は親が元気なうちは何とかよくしようとドクターショッピングして治療に積極的ですが、親が年老いて行動が制限されるようになると、患者自身は「引きこもり」状態に陥りやすいという厳しい現状を話されました。
 たいていそのような患者・家族は「医療不信」「ステロイド忌避症」状態となり、民間療法に手を出すももっとひどくなって人生をあきらめてしまうという悪循環に陥りがち。 
 そういう患者さんを診療している医師からの言葉には重みがありました。


 私にしては珍しく、缶詰状態でアレルギーの勉強をした2日間でした。
 充実感とともに帰路についた矢先、トラブルに遭遇。
 東北自動車道に乗り福島県を抜けるところで車が故障し、JAFのお世話になるとは・・・いろんな意味で忘れられない学会出張となりました(^^;)。
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「夜尿症診療ガイドライン2016」を読んで

2016年07月12日 07時57分38秒 | 小児医療
夜尿症診療ガイドライン2016
編集:日本夜尿症学会
発行:診断と治療社、2016年

夜尿症は小児医療の中で管理が難しい疾患の一つです。
従来の教科書通りの治療を行っても、なかなか手応えがありません。
「治療抵抗例は専門医に紹介」と書いてありますが、群馬県に小児夜尿症専門医は存在しません。

夜尿症は3つの型に分類されてきました。
1.多尿型:尿が多いため朝まで持たずに膀胱から溢れてしまう
2.膀胱型:膀胱が少ししか尿を溜められないため溢れてしまう
3.混合型:多尿型/膀胱型の両方の特徴を満たす

多尿型には抗利尿ホルモン製剤であるデスモプレシン(ミニリンメルト®)が有効ですが、膀胱型は難治です。
膀胱容量を急に大きくするのは無理ですから。

そこで登場したのが「アラーム療法」。
パンツにセンサーをつけ、尿で濡れるとアラームが鳴り(振動が発生する機械もあります)、本人が目覚めるというモノ。これを繰り返すと膀胱に溜められる量が多くなり夜尿症が消えるというのです。

しかし日本で指導されてきた「夜起こさない」方針とは真逆の治療であり、欧米では主流になっているのに関わらず日本への導入は遅れました。
ようやく近年、夜尿症の講演会で「アラーム療法が第一選択」と言われるようになりました。
下記HPは数年前に私なりに整理すべくまとめたものです:

夜尿症

アラーム療法は、器械を患者さんが個人で購入して行うことになります。
ですので、そのノウハウの蓄積が今ひとつ見えてきません。
私も患者さんに勧めて数名トライしていただきましたが、うまく行かずドロップアウト。
本人が起きないので他の家族が目覚めてしまい、みんな寝不足で家庭崩壊しそうになった、とか。

噂では医療機関に行かずにアラーム療法を行い、個人の努力で夜尿症を克服している人も少なからずいるらしい。

そんな折に発表されたガイドライン。
日本夜尿症学会は2004年に診療ガイドラインを作成しており、それを改訂する形で発行された最新情報です。
早速購入して読んでみました。

う〜ん、目から鱗が落ちるという記載は見当たりません。
現在の治療方針をまとめてエビデンスの評価を加えた印象。
私の知りたかった「アラーム療法の具体的なノウハウ」も不十分かなあ・・・残念。

もう一つ、以前から気になっていた事があります。
それは「膀胱型に対するデスモプレシン療法の可否」。
デスモプレシン(ミニリンメルト®)の適応は添付文書によると「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」となっています。
ですから、尿浸透圧/尿比重が正常の患者さんには適応にならず、使用してはいけないはず。
しかし、本ガイドラインにはその辺がハッキリ書かれておらず「夜間多尿型に有効」くらいの表現にとどまっています。治療アルゴリズムによるとアラーム療法抵抗例には「併用」とあっけなく書かれています。
これでいいのかなあ?

<メモ> ・・・目についた箇所を抜粋

■ 年齢と夜尿症
・5歳時に約20%
・5-6歳で約20%
・小学校入学時に10%超
・7歳時に約10%
・小学校低学年で約10%台
・10歳を超えた時点で約5%
・小中学生で約6.4%
・中学校時代には1-3%
・高校入学の段階で約3%

■ 自然治癒
・経年齢的な自然治癒率は毎年約15-17%
・5歳以降、年間10〜15%が自然軽快していく
・治癒のピークは、女性が10-11歳、男性は12-14歳
・毎晩夜尿がある小児では成人まで移行するリスクが高い

■ 治療介入による効果
・治療介入により、自然経過に比べて治癒率を2-3倍高めることができ、治癒までの期間も短縮する。
1年後の治癒率は未介入の場合が10-15%に対し、治療介入例は約50%が治癒する。
治療によりNEからの解放が2年以上短縮できる。

■ 一次性と二次性夜尿症
・一次性:75-90%
・二次性:10-25% ・・・生活上のストレス、精神疾患の併存率が高い。その他、下部尿路感染症、外傷・脂肪腫・脊髄係留症候群などによる神経因性膀胱、糖尿病、尿崩症、尿道狭窄、甲上腺機能亢進症などを考慮する

■ 尿比重
・早朝尿の比重は1.010以下は異常

■ 超音波検査
・夜尿症患者に解剖学的尿路異常を認める割合は1.1-14.5%
・ルーチンのUSは必要ない。治療抵抗性の時のみ行うべきである。

■ 行動療法〜水分摂取制限
・1日水分摂取量の40%を午前中、40%を午後、20%を夜に分配する。

■ 膀胱訓練
・できるだけ排尿を我慢し、徐々に排尿までの間隔を延長する方法
・膀胱訓練は膀胱容量を増大させるが、夜尿症に対する治療効果についての臨床的意義は確立していないが、否定されるものでもない。

■ 積極治療
①アラーム療法
②デスモプレシン治療
が第一選択である。アラーム療法は治療に積極的な家族で治療内容を理解した家族に適しており、デスモプレシン治療はアラーム療法に消極的な家族、最近アラーム療法を適切に行ったにもかかわらず効果が得られなかった家族で選択する。
 ICCS(国際小児尿禁制学会)では、MNE(単一症候性夜尿症)に対して、膀胱容量が正常でかつ夜間多尿の症例ではデスモプレシン療法を推奨し、それ以外の症例ではアラーム療法を推奨している。

■ アラーム療法
・就眠中の排尿を気づかせ、覚醒してトイレに行くか、我慢できるようにすることで、夜尿をしないようにする治療する方法。
・作用機序については不明な点が残されており、なぜ夜尿が治るのか未だ完全には解明されていないが、覚醒反応を促すこと、睡眠中の蓄尿量が増大して治ることが報告されている。
・保険診療として認められておらず、アラームは患者家族が実費で購入することになる。医療側も管理指導料などの診療報酬は認められていない。
・有効率:約2/3
・治癒率:62-78%、中止後の再発率は15%であり、他の治療と比較して治癒率が高い(2009年のコクランレビュー)
・日本の報告では、有効率:40-87%、再発率:0-11%
・夜間多尿の患者より、覚醒困難の患者の方がより有効
・治療により夜間の膀胱の蓄尿量が増える
・有効症例においては、睡眠中の膀胱容量が1-2ヶ月で約1.5倍と急速に増加するため、多くの場合、尿意覚醒をせずに朝までもつようになり夜尿が消失する。一方で反応に時間がかかる例もある。
・夜尿するたびにアラームをリセットすることを推奨しているが、一晩に複数回夜尿がある重症例では、最初の1回のみアラームを使用するようにして、まず一晩に1回の夜尿回数になることを目標にすることが望ましい。
・アラームや家人の呼びかけに全く覚醒しない場合もあるが、完全に目覚めさせることが成功率を上げるというエビデンスはないため、起こすときに完全に目を覚まさせることが不可能なら必ずしもしなくてもよい。
・最低14日間連続で夜尿が消失するまでアラーム療法は続ける。これには5-24(おおむね12-16週間)要する。
・アラーム療法を3ヶ月行い、全く効果が見られないならば別の治療を考慮する。
・7-12ヶ月と長期に使用した結果、1年以内に87%が治癒したという報告がある。
・再発のリスクを減らすためにはオーバーラーニングがよいとされている。これは夜尿が消失した時点で、睡眠1時間前に飲水量を増やしてアラーム療法を続行するというもので、これを1ヶ月行って再発芽ないことを確認してアラーム療法を終了する。
・アラームが鳴ったら患者を起こす作業には家族の協力が必須であるので、十分な治療意欲のある患者とその家族に勧めることが望ましい。
・約30%の患者がドロップアウトする。理由は、装着の違和感、他の家族の反対、覚醒できない等。
・治療脱落防止には開始後2-3週目の電話確認が効果的である。
・アラーム療法に用いる機器の種別によって効果に差異があると結論づける十分な証拠はない。
・有害事象:アラームの作動不良、誤作動、音に怖がる、他の家族を起こしてしまう等。
・再発はデスモプレシン治療に比べると1/10と少ないが、再発時には早めにアラーム療法を再開すべきであるという報告がある。

■ デスモプレシン治療
・デスモプレシン酢酸塩は抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの誘導体で、中枢性尿崩症の治療薬とした開発され、1978年に夜尿症に対して効果があることが報告された。
・日本では2003年に点鼻薬が、2012年に経口薬が保険適用となった。
・適応は6歳以上
・口腔内崩壊錠は就寝前30〜60分に服用する。初期量は120μgで開始し、10-14日後に必要であれば最大量である240μgに増量する。
・患者が宿泊行事でデスモプレシンの使用を予定している場合は「事前の試用」が推奨される。すなわち用量調節と、薬が有効だという確証を得るために、行事の少なくとも6週間前からの試用が推奨される。
・効果が不十分の時は、以下のことを再確認する
「正しく服薬遵守ができているか」
「寝る前に排尿をしているか」
「内服後に過剰な飲水をしていないか」
「尿崩症の可能性はないか」
・副作用の水中毒(希釈性低ナトリウム血症)予防のために、服用1時間前から8時間後までの飲水量を240mL以内に制限する。水分を多量に摂取したときはデスモプレシンを使用しないよう説明しておく。
・NEに対してデスモプレシンを使用する場合には、体重、血清電解質、血圧、尿浸透圧をルーチンに測定する必要はない。
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福家先生の講演「小児アトピー性皮膚炎〜診療のポイントと治療への活かし方〜」を聴いてきました。

2016年07月01日 06時15分25秒 | アトピー性皮膚炎
 第6回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会(2016.6.30)に参加し、アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法の伝道師である福家辰樹先生のお話を聴いてきました。

<参考>
■ 「アトピー性皮膚炎の外用療法-プロアクティブ療法」 (Clinical Derma, 2014年冬号)
■ 「小児アトピー性皮膚炎」(第9回 日本小児耳鼻咽喉科学会)

 相変わらずまじめで腰の低い先生だなあと感心した次第です(^^)。
 講演で印象に残った事項を2つ。

1.異所性汗疱
 中等症以上のアトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法中に、全身の皮疹は軽快したタイミングで手掌/足底にとてもかゆい皮疹が出ることが報告されています。
 なかなかやっかいで、ステロイド外用薬の副作用を疑って治療を弱めると、手湿疹として難治化・遷延化するとのこと。
 福家先生の勤務先である国立成育医療センターでは、II群(Very Strong)をしっかり使って押さえ込むことでしのいでいるそうです。 

 私は汗関係の皮疹が遷延した場合、漢方薬を処方しています。漢方医学では、汗が出やすい状態を「表虚」と捉え、皮膚の機能が落ちていると考えます。その表虚には黄耆という生薬が有効です。多汗症で手の皮が剥けやすい患者さんに黄耆入りの方剤(黄耆建中湯、桂枝加黄耆湯)を飲んでいただくと、汗の出方が変わり改善する例が多く、リピーターが結構います。

 実はこの汗疱、私自身経験があります。中学生〜大学生時代に、夏が近づくと手の指の付け根付近に小さな硬い水疱がいくつかでき、たまらなく痒いのでした。あまりにも痒いので近所の皮膚科も標榜している外科系病院を受診したところ、担当医師は皮膚科の本をペラペラめくって「うん、これが一番近い」と指さしたのが「Hebra湿疹」という、現在は消えてしまった怪しい皮膚病でした(^^;)。何回か通って注射を打ちましたが、効いたような効かないような・・・でドロップアウト。1-2ヶ月くらいで萎んで皮が剥けて自然に治ることがわかり、それ以降は医者に行かずにいます。

2.フィラグリン遺伝子変異による手のしわ(hyperlinearity)
 手掌のしわが多い(掌紋増強、hyperlinearity)患者さんはフィラグリン遺伝子変異が見つかる頻度が高いということを、写真を交えて提示されました。とてもわかりやすい。
 ぜひ診察に取り入れて、手のひらをよく観察したいと思います。


 実は約1年前に、小児難治喘息・アレルギー疾患学会で彼の講演を聴いたことが、当院でプロアクティブ療法を導入するきっかけになりました。
 紆余曲折を経て、最近ようやく手応えを感じつつあります。
 特に生後2ヶ月前後で湿疹の相談にみえる赤ちゃんにしっかりスキンケアを指導するとともに反復遷延例にプロアクティブ療法を導入すると、肌がキレイになってしまうので、アレルギー検査の必要性を忘れてしまうのですね。

 ただ、プロアクティブ療法を勧める課程で、いろいろな疑問が発生しました。
 そのうちのいくつかを講演終了後に質問させていただきました。

□ ステロイド外用薬塗布間隔を開けていく過程で、塗る範囲と塗る量は初期のまま維持すべきか?
 ステロイド外用薬を2週間ほどしっかり塗るとほとんどの皮疹が消えてキレイな肌になります(寛解導入)。
 その後1日おき、2日おきと塗布間隔を開けていくことになりますが、キレイな皮膚にたっぷりステロイド外用薬を塗ることに、どうしても患者さんは抵抗感を覚えてしまいます。相談しながらそれなりに減らしていくのですが・・・しかし、範囲と量を減らしていいとはっきり書いてある文献が見当たらず、困っていました。
 福家先生に質問したところ、「皮疹の改善に伴い、塗布範囲と量が自然に減っていくのはかまわない。FTUの半分位までは大丈夫」との回答をいただき、自分たちの方針が間違っていないことが確認できました。

□ 眼周囲のプロアクティブ療法
 目の周りはステロイド外用薬の副作用による緑内障のリスクがあるので、できるだけ使わないのが原則です。
 しかし、プロアクティブ療法では、湿疹が治った後も定期的に長期間塗ることになり、どうしても副作用が気になってしまいます。
 この質問に、「100%安全と言い切れないが、自分たちの施設ではプロアクティブ療法中のステロイド緑内障の経験はない、2歳以降は緑内障のリスクがないプロトピック軟膏へ変更している」との回答。

□ プロアクティブ療法は何年も続けても安全?
 プロアクティブ療法の維持療法は週2回治療薬を塗る方法です。そこまでたどり着いた患者さんは、どれだけ続けるべきなのか・・・何年続けても安全なのか、疑問がありました。
 福家先生の回答は、「文献では1年以上経過を追った報告はない。アメリカでは、1年以上の処方が許されていないステロイド外用薬もある。ただ、自分たちの施設では年余にわたるプロアクティブ療法中に皮膚萎縮を来した例は経験していない。」とのこと。


 講演終了後は、群馬大学小児科アレルギーグループの先生方と旧交を温めて、帰路につきました。
 充実した一夜になりました。
 明日からの診療に役立てたいと思います。
 
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