小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

2023年秋、中国で流行した“謎の肺炎”はマイコプラズマだった…

2024年08月24日 06時45分01秒 | 感染症
…ことを思い出しました。
初めてこのニュースを聞いたときに、
「コロナとは別のパンデミックか?」
と驚きましたが、記事を読んでみると、
「それまで抑制されてきた他の感染症が猛威を振るっている」
状況と分析されていました。

この辺を扱った堀向健太Dr.のコメント記事を紹介します。

<ポイント>
・マイコプラズマは一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因。
・マイコプラズマ肺炎は発熱、咳、倦怠感などが主な症状で、頑固な咳がもっとも有名、しかし症状が比較的軽いケースも多く、社会活動を続けるため「歩く肺炎」とも呼ばれる。
・潜伏期間が一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで通常2~3週間(インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日)。
・2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があり、その主因はマイコプラズマだった。北京では、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していた。
・マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性がある。
・マイコプラズマ肺炎の治療には抗生物質が用いられ、しかし一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がない。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されるが、中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたした。
・マイコプラズマに対するワクチンはありません。

現在、臨床現場で困っているのは「薬剤耐性」と「抗生物質供給不足」ですね。
具体的にいうと、治療の際に「薬が効かない」「薬が手に入らない」という状況です。


■ 久しぶりに始まったマイコプラズマ肺炎の流行。先に流行した世界各地の状況はどうだったのか?
堀向健太:大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
2024/8/13:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 近年、コロナウイルス、インフルエンザ、溶連菌、アデノウイルスなど、さまざまな感染症が流行する中、新たに流行が始まったのが『マイコプラズマ肺炎』です。東京でも、マイコプラズマ肺炎が、大きく増えてきています。

マイコプラズマ肺炎の流行状況:東京都感染症情報センター 

 マイコプラズマは決して新しい感染症ではありません。
 一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因だという報告もあります。

 ではなぜ、マイコプラズマ肺炎が注目されているのでしょうか?

▶ マイコプラズマ肺炎が数年ぶりに世界的に流行し、日本でも増加が予想されていました

 マイコプラズマ肺炎は通常、3~7年ごとに流行し、その流行は1~2年続くことが知られています。しかし、ここ数年はマイコプラズマ肺炎の流行がありませんでした。特に大きな流行としては8年ぶりです。

 他の感染症と同じように、コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染症対策を徹底して、感染が収まっていたことも一因でしょう。長期間流行がなかったため、多くの人がマイコプラズマに対する免疫を十分に持っていない状態になっているのです。これは、インフルエンザでも同様の現象が起きています。

 2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があったことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

 この感染症の原因は、マイコプラズマではないかと考えられ、そして中国の北京では、2023年9月に患者数が急増したことが報告されました。実に、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していたとされています。

 さらに、マイコプラズマ肺炎の流行は世界各地、デンマーク、フランス、オランダなどの国々でも症例が増加しました。日本でも増加することが十分予想されていたのです。

▶ マイコプラズマ肺炎は軽症でも感染を広げる可能性があり、「LAMP法」という高精度な検査が保険適用となっています

 マイコプラズマ肺炎の症状は、一般的な肺炎と似ています。発熱、咳、倦怠感などが主な症状です。その中でも、頑固な咳がもっとも有名です。しかし、マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」とも呼ばれ、症状が比較的軽いケースも多いため、気づかないうちに感染を広げてしまう可能性があります。

 最近まで、小児科外来でマイコプラズマ肺炎の確定診断を行うことは、時間と手間がかかる作業でした。しかし、最近になって新しい検査方法「LAMP法」が普及してきています。LAMP法は、マイコプラズマを高い精度で検出できる方法で、最近になって保険適用も認められました。最大の利点は、高い感度(検出力)にあります。つまり、マイコプラズマを見逃す確率が低いのです。しかし、LAMP法にも課題があります。この検査は通常、専門の検査機関で行われるため、結果が出るまでに数日かかることがあるのです。

 また、マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性もあります。・・・

▶ マイコプラズマ肺炎の治療に必要な抗菌薬が不足気味です。大規模な流行になった場合、適切な治療が困難になる可能性をはらんでいます

 マイコプラズマ肺炎の治療には、抗生物質が用いられますが、一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がありません。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されます。

 しかし、ここにも問題があります。中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたしました

 日本でも過去に同様にマイコプラズマ耐性化が問題視されました。最近は耐性率が低下してきていますが、注意は必要でしょう。さらに、テトラサイクリン系抗生物質はマイコプラズマに有効性が高いものの、妊婦や8歳未満の小児への使用が難しいという課題もあります。

 そして、抗菌薬や咳止めなど、基本的な薬剤が不足していることも大きな問題です。大きな流行になるほど、適切な治療を行うことが難しくなることが予想されます。

 薬剤データベースを確認すると、最もよく使われる『クラリスロマイシン』の多くが、出荷停止や限定出荷になっていることがわかります。

▶ マイコプラズマは予防接種がありません。基本的な感染対策を行いながら、症状が続く場合は医療機関に相談しましょう

 残念ながら、マイコプラズマに対する予防接種はありません。しかし、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策で感染のリスクを下げることができます。

 潜伏期間が、一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで、通常2~3週間です。例えば、インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日であることを考えると、長く感じるでしょう。逆に、数日前に家族が発熱や咳があって他の家族が同じような症状が今日始まったのであれば、マイコプラズマらしくはないということも言えます。

・・・

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エムポックス(旧称:サル痘)の現在

2024年08月22日 06時30分43秒 | 感染症
ニュースで「エムポックス」という単語を頻繁に聞くようになりました。
日本では実感が湧きませんが、WHOは危機感を持って報道しています。

それを扱った記事を紹介します。
現在流行している株は致死率10%と従来の1%より高く、子どもの患者が多い、
なんと性感染する株も出現したとのこと。

既に撲滅された天然痘に対するワクチンが有効であり、日本でも認可されています。
日本人もこのワクチンを接種する日が来るのでしょうか。

<ポイント>
・エムポックスは人獣共通感染症であり、動物からヒトに感染する。1958年にデンマークの研究所にいたサルで初めて確認されたためサル痘と名づけられたが、実際の自然宿主はわかっておらず、アフリカの熱帯雨林に生息する小型哺乳類ではないかと考えられている。
・エムポックスウイルスは天然痘と同じオルソポックスウイルス属のDNAウイルスだが、エムポックスは天然痘よりはるかに重症度が低く、感染力も弱い。
・症状の特徴は、発疹(水疱や膿疱となって痛みやかゆみを伴う)、リンパ節の腫れ、発熱。
・コンゴ民主共和国では、2024年に入ってからの患者数が1万5600人以上にのぼり537人が死亡、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダなど、これまでエムポックスが確認されたことのない近隣諸国にも広がっている。
・アフリカの一部地域でのエムポックスの急増と、性感染しうるエムポックスウイルスの新しい株の広まりは、アフリカのみならず地球全体にとって緊急事態。
・エムポックスウイルスには「クレードI」と「クレードII」の2系統がある。現在の大流行を引き起こしているのはクレードIで、患者の10人に1人が死亡、クレードIIは2022年に流行したもので、致死率は1%未満。
・今回の大流行では「クレードIb」という新しいサブクレードが出現したことが緊急事態宣言の動機となった。また、コンゴ民主共和国での感染者と死亡者の多くが15歳未満であることから、特に子どもが影響を受けやすい。
・感染様式は接触感染(ウイルスに汚染されたモノを直接触る)、潜伏期間は3〜17日で、エムポックスの症状がある人は「発疹が完全に治癒し、新しい皮膚の層ができるまで」はほかの人に感染させてしまう可能性がある。
・2022年に流行した際は、男性と性交渉を行う男性の感染が圧倒的に多かった。
・WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会が推奨しているワクチンは3種類あり、いずれも本来は天然痘のワクチンで、現在、世界では「MVA-BN(ジンネオス)」と「LC16」の2種類が使われている。日本ではLC16が天然痘のワクチンとして承認されていたが、2022年にエムポックスの予防の効能が追加承認された。こちらは1回接種。


■ 「エムポックス」はどう広まる? WHOが「緊急事態」を宣言
旧称「サル痘」、2022年より致死率の高いウイルスが流行、子どもの感染や死亡が多い
2024.08.20:National Geographic)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 アフリカでのエムポックスの流行を受け、世界保健機関(WHO)は国際保健規則(IHR)に基づく緊急委員会を開催した。コンゴ民主共和国では、2024年に入ってからの患者数が1万5600人以上にのぼり、537人が死亡している。心配なのは、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダなど、これまでエムポックスが確認されたことのない近隣諸国にも広がっていることだ。この状況を重く見たWHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。
 緊急委員会のディミー・オゴイナ委員長は声明で、「アフリカの一部地域でのエムポックスの急増と、性感染しうるエムポックスウイルスの新しい株の広まりは、アフリカのみならず地球全体にとって緊急事態だ」と述べた。
・・・
▶ エムポックスとは何か?
 エムポックスは最近まで「サル痘」と呼ばれていた。この病気を引き起こすエムポックスウイルスは天然痘と同じオルソポックスウイルス属のDNAウイルスだが、エムポックスは天然痘よりはるかに重症度が低く、感染力も弱い
 WHOによれば、エムポックスの症状の特徴は、発疹(水疱や膿疱となって痛みやかゆみを伴う)、リンパ節の腫れ、発熱だ。
 エムポックスウイルスには「クレードI」と「クレードII」の2系統がある現在の大流行を引き起こしているのはクレードIで、患者の10人に1人が死亡する。クレードIIは2022年に流行したもので、現在流行しているものに比べて致死率ははるかに低く、1%未満だ。
 今回の大流行では、「クレードIb」という新しいサブクレードが出現したことが緊急事態宣言の動機となった。また、コンゴ民主共和国での感染者と死亡者の多くが15歳未満であることから、特に子どもが影響を受けやすいと考えられている。
 エムポックスは人獣共通感染症であり、動物からヒトに感染する。1958年にデンマークの研究所にいたサルで初めて確認されたためサル痘と名づけられたが、実際の自然宿主はわかっておらず、アフリカの熱帯雨林に生息する小型哺乳類ではないかと考えられている。エムポックスウイルスは多くの哺乳類に感染することができるが、野生動物から分離されたのは2回だけだ。(参考記事:「年270万人が死亡する動物由来感染症 動物から人へどううつる?」)
 ヒトへの感染が初めて確認されたのは1970年で、コンゴ民主共和国の男児が感染した。以来、ほとんどの感染はアフリカの西部と中央部で起きている。

▶ エムポックスはどのように広がるのか?
 どちらの系統のエムポックスも、ウイルスに感染した動物や、ウイルスに汚染されたもの(衣類、寝具、タオルなど)に直接触れることで感染する。
 ウイルスに感染した人との濃厚接触によっても感染する。キス、会話によって飛び散る飛沫に触れたり吸い込んだりする、感染者の皮膚や口、性器にできた病変に直接触れるなどだ。
 病変の部位は「小さなウイルス工場」だと、米疾病対策センター(CDC)の疫学者であるアンドレア・マッコラム氏は言う。CDCによれば、潜伏期間は3〜17日で、エムポックスの症状がある人は、「発疹が完全に治癒し、新しい皮膚の層ができるまで」はほかの人に感染させてしまう可能性があるという。(参考記事:「飼い犬がサル痘に感染、初の報告、ペットや野生動物に広まるのか」)

▶ エムポックスは性感染症?
 2022年に流行した際は、男性と性交渉を行う男性の感染が圧倒的に多かった。公衆衛生当局にとって、このコミュニティーに汚名を着せることなく人々に情報を伝えるのは難しい課題だった。
・・・しかし、エムポックスは性行為だけで広まる感染症ではないことを示す証拠があると、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のウイルス学者であるバーナード・モス氏は言う。症状が出ている人がいれば、皮膚どうしの接触(性行為を含む)や、ベッドシーツやタオルや衣服との接触によって広まるのだ。
 実際、アフリカでの過去の集団感染では、あらゆる年齢層の女性や子どもや男性が感染している。・・・

▶ 検査は受けられる? ワクチンはある?
 エムポックスの検査は受けられる。検体の採取は、病変の部位を綿棒でぬぐうだけだ。CDCは、エムポックスと思われる発疹がある場合のみ検査を受けるよう勧めている。
 現在、WHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会が推奨しているワクチンは3種類あり、いずれも本来は天然痘のワクチンだ。このうち、現在、世界では「MVA-BN(ジンネオス)」と「LC16」の2種類が使われている
 米国で使われているのはジンネオスで、4週間間隔で2回の接種が必要だ。米国保健福祉省は(感染した人との濃厚接触が疑われるなど)リスクが高い人に対して接種を奨励しており、必ず2回とも接種を受けるよう呼びかけている。
 日本ではLC16が天然痘のワクチンとして承認されていたが、2022年にエムポックスの予防の効能が追加承認された。こちらは1回接種だ。
 良い知らせもある。米保健福祉省によれば、すでにワクチン接種を完了している人や、以前にクレードIIのエムポックスに感染した人は、「クレードIのエムポックスに感染しても重症化しにくいことが期待される」という。
 しかし、AP通信によれば、ワクチンはエムポックスの流行地域であるアフリカの国々で足りていないという。WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したことで、WHOは加盟国にエムポックスへの対処法を勧告することが可能になり、資金援助や政治的な支援も始まることになる。

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マイコプラズマの薬剤耐性事情(2024年)

2024年08月20日 07時22分12秒 | 感染症
マイコプラズマが流行しています。
そして小児科医の間では、
「薬が効かない」
と囁かれています。

第一選択のマクロライド系の手応えなし、
第二選択のTFLX(オゼックス)の切れも悪い…
残るはテトラサイクリン系のMINOの出番か?
しかし8歳未満にはMINOは処方できない…。

マイコプラズマの薬剤耐性状況を今一度確認しておきましょう。

<ポイント>
・肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M. pneumoniae)は, マクロライド系抗菌薬, テトラサイクリン系抗菌薬, ニューキノロン系抗菌薬に感受性を有していたが, 2000年以降にマクロライド耐性M. pneumoniae株が出現して増加した。
・マクロライド耐性株の検出率は小児において高率なため, 推奨される抗菌薬を含めて診療ガイドラインの内容も年齢により差異がある。
・2011~2012年の流行時には, 83%がマクロライド耐性であったとの報告がある。
・マクロライド耐性率は, 2012年をピークに低下傾向にある。
・M. pneumoniaeは, P1タンパク遺伝子の相違により, 1型, 2型系統に分類され、1型系統はマクロライド耐性遺伝子の保有率が高かったが, 2型系統の耐性遺伝子保有は低率である。
・わが国の診療ガイドライン等では, M. pneumoniae肺炎外来治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬が推奨され, 48時間以上臨床的に改善がみられない場合は, テトラサイクリン系抗菌薬(小児では8歳以上)や, ニューキノロン系抗菌薬(小児ではトスフロキサシン)に変更することがおおむね共通して記載されている。
・小児呼吸器感染症診療ガイドライン202212)では, Qプローブ法でマクロライド耐性遺伝子が検出されている場合は, トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬を選択肢に考慮すべきとの記載がある。
・マイコプラズマ肺炎に関して, わが国の感染症サーベイランスのデータでは, 2020年4月以降ほとんど報告されない状況が持続したが, 2023年秋以降にわが国でもM. pneumoniae肺炎の報告がみられるようになった。
・1型あるいは2型のいずれが立ち上がってくるのか, マクロライド感受性について感受性株・耐性株のいずれが多くを占めるのかは,臨床現場に多大な影響を及ぼす可能性がある。

…マクロライド系抗菌薬耐性は、抗菌薬の使いすぎというより、流行するマイコプラズマのサブグループの影響を大きく受けるということですね。

■ 診療ガイドライン等に基づくマイコプラズマ肺炎治療の現況
(IASR Vol. 45 p10-12: 2024年1月号)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 感染症診療ガイドラインの策定には, 地域における年齢による病原微生物の検出頻度等の疫学データならびに, 各微生物の抗菌薬感受性に関する情報が必要である。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M. pneumoniae)は, マクロライド系抗菌薬, テトラサイクリン系抗菌薬, ニューキノロン系抗菌薬に感受性を有していたが, 2000年以降にマクロライド耐性M. pneumoniae株が出現1-3)して増加したマクロライド耐性株の検出率は, 世界的に地域差があり, さらに小児において高率なため, 推奨される抗菌薬を含めて診療ガイドラインの内容も, 国内外および年齢により差異がある。さらに, 2020年以降世界的に流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 多くの感染症罹患率に多大な影響をきたした。M. pneumoniaeに関しても, COVID-19パンデミック前に比較して, 検出率が激減した報告4,5)が多い。

1. マクロライド耐性状況の推移
 2000年以降に小児科領域を中心に出現したマクロライド耐性M. pneumoniaeは, その後増加がみられ, 成人では当初マクロライド耐性株は検出されなかったが, 小児科領域を追随するペースで耐性株が増加した。2011~2012年の流行時には, 83%がマクロライド耐性であったとの報告2)があり, 大流行に関してマクロライド耐性M. pneumoniae株の蔓延が要因の1つと認識されている。マクロライド耐性率は, 2012年をピークに低下傾向にある。一方, M. pneumoniaeは, P1タンパク遺伝子の相違により, 1型, 2型系統に分類され, 1型系統と2型系統の交代期に大流行が起こる可能性も指摘6,7)されている。2011~2012年にかけて流行の主であった1型系統の検出比率が2015年後半より減少し, 代わって2型系統の検出比率が増加している。1型系統はマクロライド耐性遺伝子の保有率が高かったが, 2型系統の耐性遺伝子保有は低率である7)。これが, マクロライド耐性株の低下の主因と考えられる。
 マクロライド耐性M. pneumoniaeの検出率には世界的に地域差があり, 東アジアでの検出率が高く, 2017年頃までの状況は, Waitesらの総説1)に詳しい。その後のメタアナリシス等の報告を表18,9)に示すが, アジアを含めて西太平洋地域からの検出率が高い。わが国を含めて, 2010年代後半以降のマクロライド耐性率は減少傾向7)にある。

2. COVID-19パンデミック前後におけるM. pneumoniae検出状況
 2017~2021年の調査期間についてM. pneumoniae検出状況を比較したデータ4)によると, 2020年4月~2021年3月の期間では, 2017年~2020年3月までの期間と比較して, ヨーロッパ, アジア, アメリカ, オセアニアともにM. pneumoniaeの検出が激減していた。中国北京の小児病院において, 2016~2021年の期間にM. pneumoniae検出率を比較したデータ5)でも, 2019年は17.6%, 2020年は8.9%, 2021年は5.0%と激減している。

3. M. pneumoniae肺炎診療ガイドライン等
 現在, わが国で公表されている診療ガイドライン等で, M. pneumoniae肺炎の項を含むものは, JAID/JSC感染症ガイド2023(日本感染症学会・日本化学療法学会)10), 成人肺炎診療ガイドライン2017(日本呼吸器学会, 改訂中)11), 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会)12), M. pneumoniae肺炎に対する治療指針(日本マイコプラズマ学会)13)がある。海外では, American Thoracic Society(ATS)およびInfectious Diseases Society of America(IDSA)14)やAmerican Academy of Pediatrics(AAP)15)より, 市中肺炎やM. pneumoniae肺炎に対する抗菌薬療法が推奨されている。
 わが国の診療ガイドライン等では, M. pneumoniae肺炎外来治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌薬が推奨され, 48時間以上臨床的に改善がみられない場合は, テトラサイクリン系抗菌薬(小児では8歳以上)や, ニューキノロン系抗菌薬(小児ではトスフロキサシン)に変更することがおおむね共通して記載されている。一方で, ATSとIDSAによるガイドライン14)には, マクロライド耐性M. pneumoniaeに関する記述や耐性菌感染症を考慮した治療についての言及はみられない。AAPによるRed Book 2021-202415)でも, マクロライド耐性M. pneumoniae株についての記載はあるものの, ニューキノロン系抗菌薬を使用することは推奨されていない。
 さらに小児呼吸器感染症診療ガイドライン202212)では, Qプローブ法でマクロライド耐性遺伝子が検出されている場合は, トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬を選択肢に考慮すべきとの記載がある。当院で施行したQプローブ法(Smart Gene)に関する検討では, 細胞培養法(国立感染症研究所細菌第二部で実施)に対するSmart Geneの感度, 特異度は, 各々98.0%, 100%であった。さらに, 培養で得られた菌株を用いた23S rRNA遺伝子塩基配列分析によるマクロライド耐性遺伝子同定とSmart Geneによる耐性遺伝子変異検出とを比較すると, 感度, 特異度は, 各々100%, 97.4%であった。新型コロナウイルス病原体検出の過程で, Qプローブ法検査機器が以前より普及しており, 今後耐性遺伝子の有無を確認したうえで, より適切な抗菌薬療法に寄与することが期待される。
 マイコプラズマ肺炎に関して, わが国の感染症サーベイランス(本号特集および本号8ページ参照)のデータでは, 2020年4月以降ほとんど報告されない状況が持続したが, 2023年秋以降にわが国でもM. pneumoniae肺炎の報告がみられるようになり, 今後の流行が予測される。2020年春に, こつぜんと検出されなくなったM. pneumoniae感染症であるが, 再流行する場合に, 前述した1型あるいは2型のいずれが立ち上がってくるのか, マクロライド感受性について感受性株・耐性株のいずれが多くを占めるのかは, 感染症疫学的にも興味深いが, 臨床現場に多大な影響を及ぼす可能性がある。現在のわが国の医薬品流通状況に関して, 鎮咳薬, 去痰薬のみならず, 抗菌薬に関しても出荷制限が反復されている16-21)。このような状況下で, 2011~2012年や2016年のような規模でM. pneumoniae肺炎の流行が生じると, 処方薬不足など, 現場がさらに混乱する事態になることが危惧される。
(若葉こどもクリニック 山崎 勉)

もう一つ、ダイレクトにマクロライド耐性の記述がある記事も紹介します。

<ポイント>
・日本では, 1型と2型菌が10年程度の間隔で交互に優位になる現象が観察されている。1990年代は2型菌の分離が多かったが, 2000年代になると1型菌が優位になった。その後, 2010年代後半からは再び2型が多く分離されている。
・M. pneumoniaeの2つの系統の出現の割合は, マクロライド耐性の動向にも関連している。東アジア地域では, 2000年以降にM. pneumoniaeのマクロライド耐性化が問題となったが, 耐性菌の大部分は1型菌であった。
・これは1型の方が2型の菌よりも耐性化しやすいということではなく, 1型菌が2000年代に多く出現していたためであると考えられる。2000年代は分離株の耐性率が増加した時期で, 臨床でのマクロライド系抗菌薬の使用量が多かったと推測される。この時期に多く出現していた1型菌は, 2型菌よりマクロライド系抗菌薬による選択圧を受ける機会が多かったため, 2型菌より1型菌の耐性化が進んだのであろう。
・国内で分離される2型菌はマクロライド耐性化があまり進んでおらず, 2010年代後半からは2型菌の出現が増えたため, 分離株全体としてマクロライド耐性率が低下している。
・現在も抗菌薬の使用量が多いとみられる中国では, 2型菌もマクロライド耐性化が進んでいることが報告されている。

この記事の中では2010年代後半からは薬剤耐性率の低い2型菌が多いとされています。
では現在の耐性状況は?という疑問が残ります。

■ 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向
(IASR Vol. 45 p6-8: 2024年1月号)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
これらの方法で分析するとM. pneumoniaeは2つの系統に分かれ, 遺伝子型は図1中の表のような関係になる。例えば, 実験室標準株として普及しているM129株とFH株は, ゲノム解析でT1-1とT2-Bクレードに属し, p1遺伝子型はそれぞれ1型と2型, MLVA型は4572と3662, MLST型はST1とST2である。M129株とFH株は1950~1960年代に分離された古い菌株であり, 最近分離される菌株の型は, これらとは少し異なっている。・・・
 ・・・本では, 1型と2型菌が10年程度の間隔で交互に優位になる現象が観察されている(図2)。1990年代は2型菌の分離が多かったが, 2000年代になると1型菌が優位になった。その後, 2010年代後半からは再び2型が多く分離されている。1990年代に分離されていた2型菌のp1遺伝子はFH株と同じ古い2型だが, 2010年代後半から出現している2型菌のp1遺伝子は, ほとんどが2c型か2j型で, P1とP40/P90のアミノ酸配列が少し変化している。したがって, 現在出現している2型菌は1990年代に出現していた2型菌と同じものが再出現しているのではない6)。
 M. pneumoniaeの2つの系統の出現の割合は, マクロライド耐性の動向にも関連している。東アジア地域では, 2000年以降にM. pneumoniaeのマクロライド耐性化が問題となったが, 耐性菌の大部分は1型菌であった。これは1型の方が2型の菌よりも耐性化しやすいということではなく, 1型菌が2000年代に多く出現していたためであると考えられる(図2)。2000年代は分離株の耐性率が増加した時期で, 臨床でのマクロライド系抗菌薬の使用量が多かったと推測される。この時期に多く出現していた1型菌は, 2型菌よりマクロライド系抗菌薬による選択圧を受ける機会が多かったため, 2型菌より1型菌の耐性化が進んだのであろう。国内で分離されるマクロライド耐性の1型菌は, T1-3またはT1-3Rクレードに属する株が多い。一方, 国内で分離される2型菌はマクロライド耐性化があまり進んでおらず, 2010年代後半からは2型菌の出現が増えたため, 分離株全体としてマクロライド耐性率が低下している。2型菌の出現が増加した正確な要因は不明だが, 2016年からの薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン等によって抗菌薬の使用が抑制され, 感受性菌による発症例が増えたことや, 1型菌に対して集団免疫が形成され, 流行菌が2型菌にシフトしたことなどが考えられる。一方, 現在も抗菌薬の使用量が多いとみられる中国では, 2型菌もマクロライド耐性化が進んでいることが報告されている7)。今後, 国内でも2型菌のマクロライド耐性の動向を監視するとともに, ゲノム解析によって分離株の系統関係を調べ, 伝播経路を追跡するべきであろう。
 (国立感染症研究所細菌第二部 見理 剛)
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その青っぱな、抗生物質が必要な副鼻腔炎ですか?

2023年08月13日 18時36分32秒 | 感染症
副鼻腔炎は一般的に「ちくのう症」と呼ばれています。

風邪症状に続く青っぱな、鼻づまり…
耳鼻科を受診すると例外なく「副鼻腔炎」として抗生物質を処方されます。
症状が長引くと、別の抗生物質に変更され、
それでも治らないと、また別の抗生物質へ変更、
それでも治らないと、気がつく元の抗生物質が処方されています。

抗生物質を乱用する開業医は高齢医師に多いとされていますが、
当地域では圧倒的に耳鼻科医が多い印象があります。

さて、青っぱな=ちくのう症、なのでしょうか。
実は「3割は細菌感染ではなく抗生物質無効」という報告があります。

▢ 急性副鼻腔炎の抗菌薬、3割の児で無効なわけ
 米・University of Pittsburgh School of MedicineのNader Shaikh氏らは、小児の急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療において、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって有効性が異なるか否かを検討するランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、3割の患児で抗菌薬の有効性が低かったとし、その理由が明らかになったとJAMA(2023; 330: 349-358)に報告した。
◆ 層別ランダム割付で、抗菌薬群とプラセボ群を比較
 急性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎は、症状の大部分が重複する。また、急性副鼻腔炎と診断された患児の中には、抗菌薬による治療効果がほとんど認められないケースがある。
 Shaikh氏らは、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって、抗菌薬治療を行うか否かを判断できるかについて検討する目的でRCTを実施した。
 対象は、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに従い2016年2月~22年4月に米国のプライマリケア6施設で急性副鼻腔炎と診断された患児のうち、急性副鼻腔炎が持続または増悪した515例(2~11歳)。小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS、0~40点)の初回スコアが9点以上の者を組み入れた。症状の持続は11~30日間症状(鼻、咳、または両方)が改善しない例、増悪はウイルス性上気道炎から回復したとみられる患児で、症状改善から6〜10日の間に鼻や咳の症状が再燃した例、または新たに発熱が出現した例と定義した。
 対象を、抗菌薬群〔アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラネート(6.4mg/kg/日)〕とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、10日間経口投与した。色付き(黄色または緑色)の鼻水の有無および咽頭拭い液の細胞培養による細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌)の有無で層別化した。
 主要評価項目は、診断後10日間のPRSSスコアに基づく症状の程度とした。
◆ モラクセラ菌検出の有無は抗菌薬の有効性に関連せず
 515例のうち選別基準を満たした510例(2~5歳64%、男性54%)を解析したところ、平均PRSSスコアはプラセボ群(250例)の10.60点(95%CI 10.27~10.93点)に対し、抗菌薬群(240例)では9.04点(同8.71~9.37点)と有意に低かった(群間差-1.69点、95%CI -2.07~-1.31点)。
 症状消失までの期間は、プラセボ群の9.0日に対し、抗菌薬群では7.0日と有意に短かった(P=0.003)。
 上咽頭で細菌が検出された患児は355例(72%)、検出されなかった患児は138例(28%)だった。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、細菌検出児の-1.95点(95%CI -2.40~-1.51点)に対し、非検出児では-0.88点(95%CI -1.63~-0.12点)と、抗菌薬による治療効果が低いことが示された(交互作用のP=0.02)。
 色付きの鼻汁が出た患児は333例(67%)、透明な鼻汁が出た患児は163例(33%)。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、それぞれ-1.62点(95%CI -2.09~-1.16点)、-1.70点(同-2.38~-1.03点)で、鼻汁の色の有無で治療効果に有意差はなかった(交互作用のP=0.52)。
 さらに探索的解析の結果、治療効果の大部分はインフルエンザ菌と肺炎球菌の存在によるもので、モラクセラ菌検出の有無と抗菌薬の有効性に関連はなかった
 以上を踏まえ、Shaikh氏らは「上咽頭に細菌を保有していなかった28%の患児では、抗菌薬治療の効果が低かった。急性副鼻腔炎患児における抗菌薬の不適切使用を減らす合理的な方法は、処方を診断時に上咽頭に細菌を保有している患児に限定することである」と結論している。

つまり、副鼻腔炎(ちくのう症)かどうかは鼻水の色ではわからない、
青っぱなの場合でも、3割は細菌感染ではなく、
そのような例に抗生物質を投与しても経過は変わらない(自然に治るので効いた感じはあります)、
ということです。
抗生物質を多用するなら、細菌培養検査を併用すべきでしょうね。

同じ報告を紹介した記事が他にもありましたので引用します。
「抗生物質適正使用」という視点から、注目される内容なのでしょう。

▢ 鼻水の「色」によって抗生物質を使うのは誤り? 米国医師会雑誌が報告
 石原藤樹/「北品川藤クリニック」院長
2023/8/13:日刊ゲンダイ
 風邪症状が長引く原因のひとつが副鼻腔炎、いわゆる「蓄膿症」です。鼻の奥の副鼻腔と呼ばれる空洞に細菌などが増殖して炎症を起こし、膿がたまるのです。 
 蓄膿は鼻詰まりや頭痛の原因になりますし、喉の奥に流れ込んだ鼻汁が、咳や痰がらみなどを起こす場合もあります。長引く蓄膿はぜんそくを悪化させたりすることも知られています。
  通常、細菌感染に伴う蓄膿に対しては抗菌剤(抗生物質など)が使用されます。一番多く使われるのは抗生物質のペニシリンです。 
 ただ、“どういう患者さんに抗菌剤を使用するべきか”という点については、まだ専門家でも見解が分かれています。透明な鼻水に色が付き、黄色や緑色の粘稠(ねんちゅう)な状態になることは蓄膿の特徴のひとつとして考えられています。 
 それでは、そうした症状があれば抗菌剤を使用してよいのでしょうか?
 今年の米国医師会の医学誌に、小児の蓄膿症に対して、鼻水の色で抗菌剤を使用した場合と、鼻汁の細菌培養検査を行って原因となる菌が検出されたときに限って抗菌剤を使用した場合とを比較した、臨床試験の結果が報告されています。 
 それによると、培養で菌が検出された場合に限って抗菌剤を使用すると症状が早く改善しましたが、鼻水の色が変わった場合に抗菌剤を使用しても、そうした改善効果は見られませんでした鼻水の色での診断は、実際にはあまり当てにはならないようです。 

もうひとつ。

▢ 鼻腔ぬぐい液の細菌検査で小児での抗菌薬使用の削減へ
2023年08月07日:Medical Tribune)(HealthDay News 2023年7月26日)
 副鼻腔炎が疑われる小児には、その原因菌であることが多い3種類の細菌の検査をすることで、不要な抗菌薬の処方を回避できる可能性を示したランダム化比較試験(RCT)の結果が報告された。このRCTは米ピッツバーグ大学小児科学およびクリニカル・トランスレーショナル・サイエンス教授のNader Shaikh氏らが実施したもので、詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月25日号に掲載された。
 副鼻腔炎は小児に頻発する疾患で、鼻づまりや鼻水、不快感、呼吸困難などの症状が現れるが、治療しなくても治る場合が多い。しかし、現状では、抗菌薬が有効な患児を予測する良い方法はなく、必要のない患児にも抗菌薬が処方されることがある。Shaikh氏は、「抗菌薬の効かない耐性菌は重大な公衆衛生上の問題だ。不必要な抗菌薬の処方を減らすべきだ」と話す。また、「抗菌薬には下痢などの副作用を伴うことがあるが、腸内細菌叢に対する抗菌薬の長期的な影響についてもよく分かっていない。したがって、小児の症状の原因が細菌感染ではない場合、抗菌薬で治療することのメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性もある」と指摘する。
 今回のRCTでは、2016年2月から2022年4月の間に副鼻腔炎に罹患した2〜11歳の小児510人(2〜5歳が64%、男児54%)を対象に、副鼻腔炎の主な原因菌とされる3種類の細菌〔肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)〕への感染や、色(黄、緑)の付いた鼻汁の有無で抗菌薬の使用によりもたらされるベネフィットが異なるのかが検討された。対象者は、10日にわたって抗菌薬(アモキシシリン90mg/kg/日・クラブラン酸6.4mg/kg/日)を投与する群(254人)とプラセボを投与する群(256人)のいずれかにランダムに割り付けられた。また、試験開始時と終了時に対象小児から鼻腔ぬぐい液を採取し、3種類の細菌の検査を行った。
 その結果、小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS)で評価した症状スコアの平均点は、抗菌薬群の方がプラセボ群よりも有意に低く〔9.04点対10.60点、群間差−1.69、95%信頼区間(CI)−2.07〜−1.31〕、また、症状が寛解するまでの時間も抗菌薬群の方が有意に短いことが示された(7.0日対9.0日、P=0.003)。鼻腔ぬぐい液から対象とした細菌が検出されなかった小児(抗菌薬群73人、プラセボ群65人)では、プラセボ群と比較した症状スコアの差が−0.88点(95%CI −1.63〜−0.12)であったのに対し、細菌が検出された小児(抗菌薬群173人、プラセボ群182人)でのスコアの差は−1.95点(同−2.40〜−1.51)であり、細菌が検出されなかった小児に抗菌薬を投与しても、細菌が検出された小児と同程度のベネフィットは得られないことが示された。こうした結果から、鼻腔ぬぐい液を用いた細菌検査は、抗菌薬投与の効果が期待できる小児を特定し、効果が期待できない小児に対する抗菌薬の処方を回避できる、シンプルかつ効果的な方法であることが示唆された。
 さらにShaikh氏によると、医師たちの間では一般的に黄色あるいは緑色の鼻汁は細菌感染のサインと考えられているが、今回の研究では、鼻汁の色の有無により、抗菌薬の効果に有意な差は認められないことが示された。このことは、鼻汁の色を基に抗菌薬の処方を決めるべきではないことを意味する
 Shaikh氏らは、鼻腔ぬぐい液を使って副鼻腔炎の原因菌の有無を迅速に検査できる検査法の開発に興味を示しており、「われわれの研究結果は、診断の向上や抗菌薬処方の削減のために、副鼻腔炎の症状が認められる小児の治療に細菌検査を導入することを支持するものだ」と述べている。
 一方、付随論評の著者の一人で米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学教授のAaron Milstone氏は、「現状では、抗菌薬の有効性を判断する上で役立つ、安価で広範に導入できる検査法は存在しない」と話す。また、鼻の中に存在する細菌が、必ずしも重症の感染症の兆候を示すわけではないことを指摘し、「もし、小児の鼻腔ぬぐい液の迅速検査が利用できるのであれば、必要以上に頻繁に検査が行われるようになり、抗菌薬の使用頻度が減るどころか増える可能性がある」との見方を示す。さらに、そのような検査法は、メリットが小さいにもかかわらず医療コストの増大につながる可能性もあるとしている。
 Milstone氏によると、ほとんどの副鼻腔炎は自然に治癒する。また、下痢などの抗菌薬の副作用は、親や子どもにとっては副鼻腔炎の症状よりもつらい場合もある。同氏は、「副鼻腔炎は極めて高頻度に生じる疾患だ。また、抗菌薬の効果が得られたとしても、その効果はさほど大きなものではない。したがって、子どもが副鼻腔炎を発症した場合、親は子どもの回復を辛抱強く待つ必要があり、それには時間がかかることを理解しておくべきだ」と話している。

<原著>

さて、小児科医である私はどの様に治療しているのかを公開します。
私は青っぱなの患者でも抗生物質は基本的に使いません。
その代わりに漢方薬を処方します。
風邪の初期の水っぱな(透明鼻汁)には小青竜湯、
何日か経過し、白く濁った鼻水になったら葛根湯加川芎辛夷へ変更、
それでもよくならなくて、青っぱなになったら小柴胡湯を併用、
小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷を2週間投与しても治りきらない場合は、
辛夷清肺湯を2週間投与。
…全例とは言いませんが、だいたいこれで治ります。
とくに、小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷の組み合わせは著効例が多い印象があります。

あ、漢方薬を飲ませるコツもアドバイスしていますが、
どうやっても飲めない患者さんは、たぶん耳鼻科へ流れていると思われます。


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with コロナ時代の“かぜ”の自然歴

2023年06月04日 12時26分06秒 | 感染症
一過性の軽症ウイルス感染症で気道がターゲットになるタイプを、
私たちは「急性上気道炎」と呼んでいます。
一般的には“かぜ”ですね。

毎年春になると、新たに集団生活(入園)を始めた乳幼児が“かぜ”をもらい、
小児科外来はにぎわいます。

集団生活の中では誰かしら風邪をひいていて、
それが一種類ではなく複数ありますので、
何回も風邪をもらってしまい、
登園する日数より休んでいる日数の多い子どもも出てきます。
治りきる前に次の風邪をもらうと症状が切れずにつながってしまうのですね。

心配した保護者が、
「ずっと風邪をひいています」
「この子はどこかおかしいのでしょうか」
と聞いてきます。

私の答えは、
「元気であれば心配いりません」
「いくつかの風邪を繰り返しているだけでしょう」
「鼻水をよく観察すると、それがわかります」
「風邪の初期は水っぱなで透明、数日すると白く濁ってきます」
「それとともに痰が絡んで咳も出ます」
「咳鼻痰がダラダラ続きながら治っていきます」
「もし、鼻水が透明になったら、それは次の風邪の始まりです」
といった感じです。
すると保護者はうんうん頷いて納得してくれます。
「私はこの状態を“入園症候群”と呼んでいます」
と付け加えることもあります。

さて、学生時代の講義では“かぜ”について教えてもらった記憶がありません。
珍しくて重症化する病気は試験のヤマなので覚えましたが、
実際に働き始めるとめったに出会いません。
日々診療する風邪に関してはスルーでした。
だから、風邪に関する知識は医師になってから勉強したり、経験したりしたものです。

先日、WEBセミナーを聞いていたら、
「風邪の自然歴」に始まり、乳幼児のウイルス性気道感染症、covid-19 前後の変化、漢方治療の応用などの解説がありました。

■ 「covid-19 新興後の子どもの呼吸器ウイルス感染症と漢方薬への期待」
(松江赤十字病院感染症科 成相昭吉Dr)

わかりやすかったので、ここにメモを残しておきます。

鼻水+湿性咳嗽±発熱=“かぜ”の始まり
・“かぜ”は呼吸器ウイルス感染症、急性上気道炎と同じ意味。
・ここで大切なのはか「鼻水」ではじまること。
・急性上気道炎が細菌感染により生じたという報告はこれまでにない(※1)。

乳幼児による続発症のない上気道炎の自然歴(※2)
・2-4日の潜伏期の後発熱・鼻漏・咳嗽で発症する。
・発熱は3日以内に解熱する。
・解熱すると鼻漏・鼻閉・咳嗽は増強する。
・諸症状は9日以内に消退し、10日を超えない(10 day mark)。

乳幼児の“かぜ”に続発する合併症
・肺炎球菌とインフルエンザ菌が原因
1.急性中耳炎
・発症1‐2日後に、不機嫌、耳痛、鼓膜膨隆で発症する。
2.市中肺炎
・4日以上発熱持続、または1日解熱後に再発熱する。
・夜間の睡眠に影響する湿性咳嗽。
3.細菌性副鼻腔炎
・“かぜ”のあと、1や2の続発がなく、10 day mark を超えて、夜間も湿性咳嗽を認める。
・“鼻水の色”は病的意味を持たない。

 アデノウイルスは感染後長期(半年?)に咽頭に潜在することから、咳嗽を認める症例から複数検出されたうちのアデノウイルスは、そこにいるだけの可能性がある(※3)

 ライノウイルスについて
・エンベロープを持たないRNAウイルスで A, B, C の3種に分かれる。
・C種は2006年に確認された。
・A種は70以上、B種は20以上、C種は50以上、併せて160を超える遺伝子型が確認されている。
・対応する気道上皮細胞受容体は、A種・B種が糖たんぱく質 ICAM-1(intercellular adhesion molechle 1)、C種は膜貫通型タンパク質 CDHR3(cadherin related family member 3)。
・下気道炎(喘鳴を認めた症例)ではC種が3/4、A種が1/4というフィンランドからの報告がある。
・全年齢層の“かぜ”の1/3を占める。小児の呼吸器疾患の原因ウイルスとしても最多。
・飛沫感染・接触感染・エアロゾル感染で伝播し、潜伏期は1~3日。
・軽度の上気道炎から重い喘鳴疾患と多様な病像を形成する。
・気道の炎症病変は免疫応答による間接的気道上皮損傷と考えられている。
・自然免疫から逃れるすべを持つ(免疫逃避)ため、ワクチンも抗ウイルス薬も創薬困難。
・母子免疫は無効(生後間もなくから感染する)。
・ライノウイルスには「生後1年で9回感染する」(※4)、「生後1年に4回顕性感染する」(※5)というデータあり。
★ RSVの母子免疫有効期間は生後2週間程度。

 “易感冒児”とは?
・年間6回以上風邪をひく子ども
・インターフェロンγ産生が弱い可能性がある(※6)。
・乳児早期の無症候性ライノウイルス感染症が、乳児期後半以降に“易感冒児”になる端緒となる可能性あり。

▢ RSウイルスについて
・1956年にチンパンジーから検出、1957年に小児から検出された。ウイルス分離で培養細胞を融合させた合胞体(syncytium, シンシチウム)を作ることから命名された。
・エンベロープを持つRNAウイルス。
・エンベロープにあるG蛋白の抗原性の相違からA株とB株のサブグループに分類され、さらにそれぞれに10を超える遺伝子型がある。
・A株とB株の毒力に差はない。
・飛沫・接触感染で広がる。潜伏期は3-6日。1歳までに60%、2歳までに100%が感染する。
・不顕性感染・潜伏感染はないとされている。
・中和抗体による感染阻止効果は完全でないため、幼児期までに2-3回は再感染する。

RSウイルス細気管支炎
・1歳未満の気道感染症による初発喘鳴を細気管支炎とすると、その原因ウイルスの筆頭がRSVで約80%を占める。
・下気道炎を形成するのは“自然免疫反応によるサイトカインストーム”と考えられている。
・細気管支上皮の壊死、線毛上皮の脱落、細気管支周囲への炎症細胞浸潤、粘膜下組織の浮腫、粘液分泌亢進などにより、細気管支が狭窄・閉塞し呼吸障害を惹起する。
・臨床経過;感染乳幼児の20-40%が下気道炎に至り、1‐2%が入院となる。
(潜伏期)4-5日
  ↓
(上気道炎)2-3日:発熱、鼻汁
  ↓
(下気道炎)4-5日:咳、喘鳴、呼吸困難
  ↓ 
(回復期)

喘息発作出現日と感染ウイルスの種類(※7)
・ライノウイルス/エンテロウイルスD68:風邪を発症してすぐに増悪(1.4日後)
・RSV/ヒトメタニューモウイルス:風邪を発症後3-4日後に増悪(4.1日後)

 呼気性喘鳴を認めた乳幼児におけるウイルス検出
・生後6か月まではRSVが圧倒的に多い。
・生後6か月以降ははRVCが優勢になる。
・RSVは4歳までの急性喘鳴に関与する。

RSV下気道炎の病型
・境界線があるが一連のスペクトラムをなす:
 ✓1歳までは細気管支炎
 ✓1歳を超えると喘息発作
・異なる病態が形成される理由は?
→ 初回感染の自然免疫応答が強力なためか…。

 covid-19 と喘息発作
・covid-19 は喘息増悪をほとんど起こさない。
・他のウイルス同時検出例では下気道狭窄をきたす例が多く、酸素投与・呼吸補助を必要とする例が多く、ICU入室例も多かった。

オミクロン株と熱性けいれん
・デルタ株以前:デルタ株:オミクロン株以降の熱性けいれん発生率は1.3:3.1:13.4%。

突発性発疹だけ、コロナ前後で変化がなかった
・突発性発疹の原因ウイルスはHHV-6とHHV-7。
・HHV-6 は1986年に発見され、1988年に突発性発疹の原因ウイルスであることが判明した。
・HHV-6 は現在は塩基配列・抗原性の違いによりHHV-6AとHHV-6Bに分けられ、HHV-6Bが突発性発疹の原因ウイルス。
・HHV-7 は1990年に発見された。HHV-7の初感染はHHV-6Bより遅く、幼児にピークを認める、2度目の突発性発疹として経験することが多い。
・既感染健康成人唾液からHHV-7は検出されるが、HHV-6Bは検出されない。
→ HHV-6Bの感染源は集団保育乳幼児・同胞の唾液(突発疹回復期・3-5歳幼児)、HHV-7の感染源は既感染者(両親)唾液。

熱性けいれんとIL-1β
・熱性けいれん例ではIL-1βによる痙攣閾値低下が関与している(※8)。
・麻黄湯は炎症サイトカイン(TNFα、IL-6、IL-1β、IFN-β)を抑制する。
・上気道炎に対する初期治療として、38℃以上の発熱を認める子どもに麻黄湯を投与すると熱性けいれん発症を減らせるのではないか?


<参考>
※1)Kronman MP, et al. Pediatrics 134: e956-e965, 2014
※2)Wald ER, et al. Pediatrics 2013; 132: e262-280
※3)J Virol 83: 2417-2328, 2009
※4)Pediatr Infec Dis J. 2015; 34; 907-909
※5)Pediatrics. 2016; 138: e20161309
※6)Thomas M, et al. Amburatory Pediatrics 2002; 2: 261
※7)成相昭吉. 日小呼誌 2021; 32: 47-54
※8)福田光成. 脳と発達 2018; 50: 327-335
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発熱を繰り返す小児・・・ PFAPA?

2022年08月11日 16時36分37秒 | 感染症
発熱を繰り返す子どもを診たとき、ただの風邪の反復ではないことがあります。
前項目の「家族性地中海熱」がその一つですが、毎月1回ペースの痛みを伴う発熱発作、でした。

他にPFAPAという病気も考えておく必要があります。
PFAPAって?
・・・ periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis の略で、日本語に訳すと「周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群」となります。症状を並べただけ病名なので、内容がバレバレです。
つまり、「発熱すると口内炎ができやすく、診察を受けると喉が赤い・リンパ節が腫れている、これを繰り返す子ども」ということ。

発熱・喉が赤い・リンパ節が腫れる・・・これはふつうの風邪です。
保育園・幼稚園に入るとしばらく風邪を繰り返すパターン(私は「入園症候群」と呼んでいます)と区別できません。
口内炎を伴う、というのが特徴かな。

この病気について以前にも調べたこともあるのですが、成長とともに目立たなくなるので、診断する意味があるの?と疑問に思った記憶があります。

さて、気を取り直して基本情報を拾ってみました(参考1と2より)。

【概念】
・周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎を主症状とし、主に幼児期に発症する、最も頻度の高い非遺伝性の自己炎症性疾患。

【疫学】
・頻度不明
・遺伝性なし
・発症年齢:3-4歳が多い(成人発症例もある)

【原因】
・不明

【症状】
・主症状は3-6日間続く周期性発熱発作で、3-8週間毎に繰り返し、間欠期には無症状。
・アフタ性口内炎、頚部リンパ節炎、(白苔を伴う)扁桃炎・咽頭炎などの随伴所見のいくつかを認める。

<Federらの105例の検討>
・男児:62%
・平均発症年齢:3歳4ヶ月(5歳以下が80%)
(口内炎)38%
(咽頭炎)85% 
(頚部リンパ節腫脹)62%
(頭痛)42%
(嘔吐)27%
(軽度の腹痛)41%

【検査所見】
・発作時:好中球優位の白血球数増加、CRP高値
・間欠期:異常なし

【診断】(参考2より)


【合併症】
・特になし

【治療】
・発作時の副腎皮質ステロイド薬が(9割以上で)有効。PSL:0.5-1.0mg/kgを発熱発作時に1-2回内服(2回目は発熱が頓挫しない場合に12-24時間後に内服)
・しかしステロイド薬投与により発作間隔が短くなり、発熱以外の症状が残存する場合があるなどの問題がある。
・ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるシメチジンや、ロイコトリエン拮抗薬が一部の症例に有効。
・内科的治療に抵抗する例には扁桃摘出術が行われる(寛解率70-80%)。

【予後】
・通常4-8年で治癒し、予後は良好(成長・発達障害を認めない)。


ちょっとちょっと・・・
頻度不明、原因不明、治療はステロイドが効くけど、発熱間隔が短くなる・・・これでは診断する意味が感じられません。
診断フローチャートも除外診断がメインに見えます。
口内炎の頻度も38%と高くなく、認めなくても否定はできません。
扁桃摘出術は昔から扁桃炎を繰り返す子どもに行われてきた処置ですし。

昔の小児科医は、
・風邪を引くと抗生物質を処方、
・高熱が続くとステロイドを処方し、
・日常生活に支障が出るほど発熱回数が多いと扁桃摘出術を勧めていました。
って、PFAPAの治療そのものではありませんか!?

かくいう私も発熱・扁桃炎・中耳炎を繰り返す虚弱児でありました。
耳鼻科で「扁桃腺を取りましょう」といわれたものの、躊躇して決めかねている内に熱を出さなくなったので、今でも扁桃は残っています。
成長に伴い寛解する、を体現しているのかもしれません。

以上、なんだかなあ、という昔の感想が変わらなかったPFAPAのお話でした。


<参考>
(難病情報センター)
2.自己炎症性疾患診療ガイドライン2017(日本小児リウマチ学会)
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発熱を繰り返す小児・・・家族性地中海熱?

2022年08月11日 14時01分58秒 | 感染症
乳幼児が保育園・幼稚園に入園すると、風邪を繰り返し引く現象は、
小児科医が経験する毎年の年中行事です。

しかしその中に混じって珍しい病気が隠れていることがあります。
気になるのが「家族性地中海熱」(familial Mediterranean fever、FMF)と「周期性発熱症候群」(PFAPA)ですが、まず前者について取り上げます。

家族性地中海熱厚生労働省の資料より)

【概要】
・発作性の発熱や随伴症として漿膜炎による激しい疼痛を特徴とする自己炎症性疾患。

疫学】(参考5より)
・地中海のユダヤ人やトルコ人、アルメニア人などに多い。
・日本人では10万人に一人、500-1000人程度。

【原因・機序】
・MEFV遺伝子が疾患関連遺伝子として知られているが、その発症メカニズムは明らかになっていない。発症には他の因子も関与していると考えられている。
・炎症経路の一つであるインフラマソームの働きを抑えるパイリンの異常で発症する。(参考5より)インフラマソームには通常、抑制役の分子が付着しているが、パイリンに変異があるとその抑制役の分子が付着できなくなり炎症が進行する。
・(参考5より)常染色体劣性遺伝、といわれてきたが常染色体優性遺伝患者も見つかっている。孤発例もある。

【症状】

(典型例)
・突然高熱を認め、半日から3日間持続する。
・発熱間隔は4週間毎(2-6週間)が多い。
・随伴症状:漿膜炎による激しい腹痛や胸背部痛。胸痛により呼吸が浅くなる。関節炎や丹毒様皮疹を伴うことがある。

(非典型例あるいは不完全型
・発熱期間が1-2週間(〜数週間)。
・上肢の関節症状などを伴いやすい。

(参考2より)


【検査所見】
・発作時:CRP、血清アミロイドAの著明高値。
・間欠期:CRP、血清アミロイドAは陰性。

【診断基準】

1.臨床所見
①必須項目:12〜72時間続く38℃以上の発熱を3回以上繰り替えす。発熱時にはCRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認め、発作間欠期にはこれらが消失する。
②補助項目
i)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める;
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎
d 心膜炎
e 精巣漿膜炎
f 髄膜炎による頭痛
ii)コルヒチンの予防内服により発作が消失あるいは軽減する

2.MEFV遺伝子解析
1)臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的にFMF典型例と診断する。
2)繰り返す発熱のみ、あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMFあるいはFMF非典型例と診断する。
a)Exon10の変異(M694I, M680I, M694V, V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合には、FMF と診断する。
b)Exon 10 以外の変異(E84K, E148Q, L110P-E148Q, P369S-R408Q, R202Q, G304R, S503C)(ヘテロ の変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。
c)変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする。

【治療法】
・根治療法はない。副腎皮質ステロイド薬は無効。
・発作抑制にはコルヒチンが約90%以上で奏効する。発作時ではなく継続的に予防投与する。
・コルヒチン無効例では抗 IL-1 療法(カナキヌマブ)やTNF-α阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプト)、サリドマイドなどが有効。

【予後】
・無治療で炎症が反復するとアミロイドーシスを合併することがある。
・(参考5より)アミロイドーシス合併頻度は3-4%。

こちらの記事によると、以下の特徴もあるそうです;

・未診断例では不必要な検査が行われたり、無効な治療がなされたり、さらには開腹手術を複数回経験する症例もあります。
・発作時疼痛の種類は患者さんによりほぼ固定しており、疼痛の部位も一定であることが多いのが特徴です。
・日本人の調査では、発症年齢の平均値は19.6±15.3歳、成人発症例37.3%。
(0-9歳)25.4%
(10-19歳)37.3%
(20-29歳)17.2%
(30-39歳)6.7%
(40-49歳)6.7%
(50歳〜)6.0%
・・・だいたい10歳くらいまでに6-7割、20歳までに9割が発症(参考5より)
・発症からFMFと診断されるまでの期間は9.1±9.3年。
・発症早期の小児患者ではFMF典型例としての症状が揃っていない可能性がある。
・発作は心理的ストレスや疲労、女性では月経が発作の引き金となることが報告されている。
・発作時の腹膜炎は2/3の患者にみられ、あまりに激しい腹痛のため、急性虫垂炎や急性胆のう炎など急性腹症との鑑別が困難となり、開腹手術を受けたことのある患者さんも少なくない。
・発作時の胸膜炎による胸痛は、呼吸苦や咳嗽を伴うこともあり、重症例では胸水貯留を認める。胸痛の部位は常に固定していることが多く、同一患者では同じ時期に胸痛と腹痛の両方を認めることはまれ。
・発作時の関節炎は下肢の大関節(股関節、膝関節、足関節)に単関節炎で発症することが多く、関節リウマチと異なり非破壊性の関節炎である。
・その他の症状:心膜炎、精巣漿膜炎。下肢(とくに足関節部)の丹毒様皮疹。無菌性髄膜炎に伴う頭痛。
・典型例・非典型例ともに、発作時には白血球数増加、血沈値亢進、CRP高値、血清アミロイド(SAA)高値など強い炎症反応を示すが、発作間欠期には正常化するため、診断を難しくする一因になっている。
・治療としてコルヒチンが推奨されるが抵抗例もあり、コルヒチン抵抗性の治療選択肢として抗IL-1β製剤(カナキヌマブ、イラリス®添付文書)が挙げられる。
・長期間にわたる炎症は消化管や腎におけるアミロイドーシスの進展を招き、生命予後に影響する可能性がある。アミロイドーシスを合併例の発症から治療までの平均期間は20.1±4.5年と長く、早期診断・治療が必要である。

参考3は、抗IL-1β製剤の紹介です。
イラリス®をコルヒチン抵抗性症例に投与した臨床研究(参考3)では、寛解率が61.3%(プラセボ群6.3%)。

以上を読んできて、ふだんよく診療している風邪を反復する子どもたちと何が違うかなあ・・・という視点で見ると、
・発熱と痛みを繰り返し、咳嗽鼻汁が目立たない。
・炎症反応(CRP)高値。
といったところ。つまり、「発熱・痛み・CRP高値を繰り返す子どもを診たら、家族性地中海熱(FMF)を疑う」習慣をつける、ということですね。

<参考>
1.266 家族性地中海熱(厚生労働省)
2.繰り返す発熱と腹痛・胸痛・関節炎に出会ったら~知っておきたい家族性地中海熱(FMF)の臨床像
 谷内江 昭宏:金沢大学附属病院 副病院長
(2022.08.03:日経メディカル)
 古賀 智裕:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子標的医学センター
(2022.08.10:日経メディカル)
4.家族性地中海熱(日本リウマチ学会)
5.家族性地中海熱 東京医科歯科大学発生発達病態学分野小児科教授:森尾友宏(ドクターサロンン65巻3月号:2021)

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溶連菌性咽頭炎診療アップデート、2019

2019年11月04日 07時56分43秒 | 感染症
 溶連菌性咽頭炎は小児科の日常診療でよく遭遇する感染症の一つです。
 私の診断法は、

・「喉が痛い」という訴え。
・口蓋垂(いわゆる“のどちんこ”)中心にただれたように赤くなる。
・頚部リンパ節が腫れて触ると痛がる。
・気持ち悪い/お腹が痛い(でも下痢はしない)。


を重視しています。そして参考項目として、

・熱はあってもなくてもよい。
・咳が目立たない。


もあります。
小児科医にとって、
喉が真っ赤、でも咳は目立たずお腹の症状を訴えるは溶連菌を疑うサイン
なのです。
上記のような患者さんを診察すると、迅速検査で確認して陽性なら抗菌薬治療を行います。

下記記事には「細菌性咽頭炎を疑うためのツール」という表がありますが、それに私の基準を照らし合わせると・・・



必ずしも4点の「溶連菌の可能性」となる例は多くないことに気づきます。
なぜかなと考えると、この基準は外国のもので、日本のように医療機関にフリーアクセスではないと思われ、すると「何日か市販薬で様子を見ていたけどよくなる気配がなく心配なので受診」というパターンが多く、症状・所見が完成された例が多い可能性があります。
日本では個人差はあるものの、調子が悪いとすぐに小児科を受診する傾向がありますので、「白苔を伴う扁桃の発赤」になる前の「口蓋垂のただれたような発赤」時点で受診する方が圧倒的に多いのです。実際に「白苔を伴う扁桃の発赤」に出会うこともありますが非常に希であり、「よくぞここまで受診せずに我慢したなあ」とかわいそうに思ってしまいます。

むしろ私は、というより一般小児科専門医は、
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大 → アデノウイルス感染
・白苔(膿栓)を伴う扁桃腫大+顕著な頚部リンパ節腫大 → EBウイルス感染
が頭に浮かぶのがふつうです。
いわゆる扁桃腺に膿が付着している場合、一般のイメージと異なり必ずしも細菌感染ではないのです。


急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠
2019/10/16:ケアネット)より一部抜粋
 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、
(1)感染臓器、
(2)想定される起炎菌(ターゲット)、
(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。
また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。

患者情報
 40歳、男性(会社員)
 現病歴:高血圧
 血圧推移:130/70台
 既往歴:15歳時に虫垂炎にて手術
 主訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹
 処方内容
 1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後
 2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後
 3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後
 4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽

症例のポイント
 この患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。
 まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。
 この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。
 そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。

<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>

(文献2より改変)

処方提案と経過
 電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。
 確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。
 薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。

<参考文献>
1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.
2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.
3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.



抗菌薬の選択は、昔から議論の的でした。
定番はペニシリン系を10日間投与です。
不思議なことに何十年もこの治療が第一選択であるにもかかわらず、溶連菌に対する薬剤耐性化はゼロなんです。
なぜ耐性化しないのかを研究すると、逆に耐性化のメカニズムが解明されるのではないか、とさえ思ってしまいます。

さて当院でも長らくペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン(略号はAMPC)×10日間で治療してきました。
でも5年ほど前に、セフェム系抗菌薬×5日間に切り替えました。
理由は薬疹を避けるためです。
AMPCを使用すると、飲みはじめて1週間目頃に薬疹(手足に分布する1cm弱の赤い斑点)が出ることがあります。
当院で統計を取ったところ、約5%の頻度でした。
つまり、100人治療すると、5人に薬疹が発症することになります。
これは無視できない数字です。
セフェム系抗菌薬に変更してからは、ほとんど経験しなくなりました。

近年は「ペニシリン系抗菌薬1日4回投与×5日間でも1日3回投与×10日間と治療効果に差がない」という論文も出てきました。
今後、少しずつ変わる可能性があります。


溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?
2019/05/15:日経メディカル)より一部抜粋
松永 展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 年長児が溶連菌と診断された際の抗菌薬投与法について解説します。
 溶連菌感染症では、発熱および咽頭痛などの臨床症状に加え、迅速診断キットを用いた診断が推奨されています。診断後の抗菌薬使用の目的は以下となります。

・溶連菌感染症発病から9日以内の抗菌薬開始で、急性リウマチ熱(Acute rheumatic fever: ARF)を予防できます1)。急性糸球体腎炎は抗菌薬使用しても予防できないため、血尿を認めた際に再診するよう伝えることも大切です。
・溶連菌感染症による諸症状は、一般的に3〜4日続きます。抗菌薬使用により、症状が半日から1日短くなるといわれています2)。筆者の経験では、翌日には多くの児が軽快する印象があります。
・抗菌薬を投与し除菌することで、周囲への感染伝播を防止できます。治療後24時間経過すれば、他者への感染リスクはなくなるため、集団生活に戻れます。保護者も早期に職場復帰できます。
 溶連菌感染症に対する治療として、米国感染症学会(IDSA)のガイドラインではペニシリン系抗菌薬が推奨されています3)。日本の『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』でも、A群溶血性レンサ球菌(GAS)咽頭炎にはアモキシシリン(AMPC)が第一選択の抗菌薬として推奨されています4)。セフェム系の使用を推奨する論文もありますが、重篤なペニシリンアレルギーの既往がない限りは、使用する根拠は明らかではありません。
 感染症診療の原則は、まず抗菌薬が必要な疾患であるかを判断し、必要な場合は、患者治療が安全かつ確実に行われる中で、最も狭域な抗菌スペクトラムを持つ抗菌薬を選択することです。不必要に広いスペクトラムの抗菌薬を投与することで、人体に共生している大切な常在菌を減少させたり、気付かぬうちに他の菌の耐性を生じてしまいます。
 実際、AMPC10日間もしくはセフェム系抗菌薬5日間によるGAS咽頭炎後の除菌率、再発率を比較した研究では、除菌率はAMPC治療群で高く、再発率に差はなかったとあります5)。また、一部のセフェム系抗菌薬には、低血糖や痙攣などの症状を引き起こす副作用があります。ピボキシル基を有する抗菌薬投与による重篤な低カルニチン血症と低血糖について、PMDAより注意喚起がなされています6)。
 以上のような個に対しての治療成績や副作用、全体に対しての有益性から、溶連菌感染症に対する治療は、ペニシリン系抗菌薬が推奨されます。

◇ ペニシリンへの耐性化は進んでいないか?
 とはいえ、日本の溶連菌治療は、本当にペニシリンでいいのでしょうか? 国内の溶連菌の感受性を、多くの病院が参加する、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の結果(外来検体:試行版)からお示しします。
 日本でも、ペニシリン系にほぼ100%感受性があります。第3世代セフェムも100%感受性があります。一方、クリンダマイシンやエリスロマイシンに感受性を有するのは、それぞれ84.2%、63.4%でした。つまり日本では、溶連菌感染症に対して、ペニシリンとセフェムは感受性を確認しなくても使用可能となります。重症ペニシリンアレルギー(アナフィラキシーショックなど)がある場合は、第1世代セフェム、クリンダマイシン、マクロライド系が推奨されますが3)、耐性の問題から、使用する際は感受性検査結果などを参考に使用するとよいでしょう。錠剤を服用できない児には、マクロライドも考慮されますが、さらに耐性率が高いため注意が必要です。第3世代セフェムは前述の低カルニチン血症などに注意が必要です。
 次に抗菌薬の使用法についてお示しします。『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』では、AMPCの小児投与量は30~50mg/kg/日・分2~3とあります。米国では50mg/kg(最大1g)の1日1回投与・10日間も推奨されています。溶連菌感染症は、治療後、比較的速やかに集団生活に戻ることができます。抗菌薬は10日間内服する必要がありますので、1日1回もしくは2回投与が各種ガイドラインで推奨されていることは、心強いことです。一方、錠剤が飲めない年長児は、散剤やドライシロップを使用することになります。20kgの児をアモキシシリン40mg/kg・10%製剤で治療する場合、総量は8gとなり、服用はかなり大変です。20%製剤の使用も考慮されますが、現実的には2回投与がリーズナブルかつエビデンスを持った治療法と考えます。
 最後に、投与後の注意点をお示しいたします。溶連菌感染症は、皮疹を生じることがあります。手掌や前腕などを中心に、ザラザラした掻痒感のある皮疹です。ペニシリンアレルギーやEBウイルス感染症へのペニシリン投与による皮疹との鑑別も重要となります。しかし、症状が軽度の場合は、ペニシリンの治療で速やかに改善するので、慎重な経過観察を行うことも大切です。アレルギーのためにペニシリンが使えず、セフェム系を使用した際は、セフェム系抗菌薬の使用で、5〜10%に皮疹が生じることがあります。
 まとめると、溶連菌の抗菌薬治療のポイントは下記の通りになります。

・基本はペニシリン。各種ガイドラインでは、1日1回もしくは2回投与が推奨されている。
・溶連菌感染症自体でも発疹が生ずる
・ペニシリンアレルギーの際は、第1世代セフェムもしくはクリンダマイシンを推奨。

【参考文献】
1) Catanzaro FJ, et al. Am J Med. 1954;17:749-56.
2) Brink WR, et al. Am J Med. 1951;10:300-8.
3) Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55:e86-102.
4) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』(協和企画、2016年)
5) 清水博, 他.日本小児科学会雑誌. 2013;117(10):1569-73.
6) 医薬品医療機器総合機構「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」



さらに、「頻回再発例」が問題になることもしばしば。
下記記事によると、「再発」ではなく、「同じ溶連菌ではあるが、別の株による再感染」の方が多い、ようです。
ですから治療は、
・抗菌薬が効かなくて再発したので別の抗菌薬を選択
ではなく、
・同じ抗菌薬(ペニシリン系)を選択して問題ない
ということになります。

もう一つここで問題になるのが「保菌者」です。
「症状は乏しいけど心配だから検査してください」と希望されて検査、結果は陽性、というパターン。
ふつうのウイルス性の風邪だけど、検査をするとたまたまそこにいた溶連菌が検出されてしまいます。

喉にいるけど感染を起こしていない(免疫反応〜炎症を起こしていない)という状態。
これだけでは治療の必要はないと昔からいわれてきました。
例外として、家族内感染を反復する場合で、保菌者も一緒に除菌しなければ悪循環が断ち切れないときは治療適応になります。
記事の中で、米国小児科学会による「保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌」推奨が紹介されています;
1.急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合
2.集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合
3.急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合
に限定。
私は3の後半部分しか経験がありません。


繰り返す溶連菌感染症と思いきや…
2019/08/28:日経メディカル
松永展明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
 溶連菌迅速検査にて繰り返し陽性になる場合について解説します。
 まず、「溶連菌咽頭炎を繰り返しやすい人」がいるのか、気になるところです。溶連菌自体は、集団生活や家庭内で伝播するため、繰り返し発症しやすいことは指摘されています。しかし、反復感染の個人(宿主)レベルでのリスク因子の報告は今のところありません。また、きちんと10日間内服したのに再燃したようにみえることがあります。その際は、同じ抗菌薬治療でいいのか? 耐性になることはないのか? とても大切なポイントです。
 実は、再燃した場合には、最初の感染時と同じ菌株による発症はまれであるといわれています1)。すなわち、再燃したようにみえても他の菌株に再感染しているというわけです。さらに、再感染時の原因菌株に対しても、最初の菌株と同様、ペニシリンが効果的であることも知られています。前回解説した通り、本邦でも溶連菌に対するペニシリン感受性は100%です(関連記事:溶連菌治療は本当にペニシリンでいいのか?)。つまり、繰り返し溶連菌感染症を生じた場合でも、同じペニシリンを用いた治療を行えばいいのです。
 ところで、小児の10~30%は溶連菌を保菌していると報告されてます2)。さらに、冬から春にかけて、20%の学童が保菌し、半年以上保菌し続けるとの報告もあります3)。
 その間に発熱した場合、ウイルス感染症だとしても溶連菌を保菌しているため、溶連菌感染症の迅速検査が陽性になってしまいます。そのため、前述の通り、溶連菌感染症の診断に広く使用されているCenter criteria(発熱38℃以上、咳がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃炎)を参考に、小児の溶連菌感染症では口蓋や後部咽頭領域のリンパ組織に所見が限局することや、扁桃や咽頭滲出物を認めないことが多い点を考慮しつつ、季節や周囲の流行も含めて迅速検査の適応を決めることが大切です。適応を十分に考慮せずに検査を実施すると擬陽性の症例が多くなり、不必要な抗菌薬治療が選択されかねないからです。
 ところで、これほど保菌率が高いとなると次に、保菌状態が人体に悪影響を及ぼすかが気になります。ヒトは細菌と一緒に存在することでメリットを得ています。これを共生といいます。正常細菌叢のバランスが崩れると、感染症のリスクが増えてくることもあります。つまり、多くの場合、保菌状態では、その細菌を排除する必要はありません。むしろ、バランスを取って上手に付き合っていく必要があるのです。
 溶連菌保菌状態のみではリウマチ熱の危険もないため、積極的に除菌する必要はありません。むしろ、溶連菌感染症を繰り返していると誤って判断し、必要以上の診療を行うことの方が問題という報告もあります。
 米国小児科学会では、保菌患者に対して抗菌薬を投与し除菌する事を勧めるのは、急性リウマチ熱または急性糸球体腎炎のアウトブレイクがある場合、集団で溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクが認められる場合、急性リウマチ熱の家族歴がある場合、数週間にわたって家族内で症候性溶連菌性咽頭炎を繰り返している場合に限定されています4)。
 このようにウイルス感染症を否定した上で、溶連菌による咽頭炎を本当に繰り返している患児に対しては、どう対応すべきでしょうか。リウマチ熱の既往がある児では、抗菌薬の予防継続投与が推奨されていますが、それ以外では非推奨です。最終手段として扁桃摘出も選択肢となるかもしれませんが、リスクとベネフィットをよく比較すると、利益があると考えられるのは、本当に少数といわれていますので、慎重に対応したいところです5)。
 まとめると、繰り返す溶連菌感染症の治療のポイントは下記の通りになります。

・溶連菌感染症は反復することがあるが、異なる菌株の再感染がほとんどで、治療は同じペニシリン系を使用する。
・5~10%の小児がA群β溶血性連鎖球菌を保菌している。特に集団生活児の保菌リスクは高い。そのため、溶連菌保菌状態の児の感冒に対し溶連菌感染症の治療を行うことを避けるべく、流行や咽頭所見を参考に、迅速検査の適応を見極めることが重要。
・保菌状態のみでは、合併症のリスクは基本的にない。

【参考文献】
1)Gerber MA, Tanz RR, Kabat W, et al. Potential mechanisms for failure to eradicate group A streptococci from the pharynx. Pediatrics 1999; 104:911–7.
2)Tanz RR, Shulman ST. Chronic pharyngeal carriage of group A streptococci. The Pediatric infectious disease journal. 2007;26:175-6.
3)Martin JM, Green M, Barbadora KA, Wald ER. Group A streptococci among school-aged children: clinical characteristics and the carrier state. Pediatrics 2004; 114:1212–9.
4)Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55:1279-82.
5)Paradise JL, Bluestone CD, Colborn DK, Bernard BS, Rockette HE,Kurs-Lasky M. Tonsillectomy and adenotonsillectomy for recurrent throat infection in moderately affected children. Pediatrics. 2002;110:7–15.



<追記>
 溶連菌に関する記事をもう一つ見つけました。
 新型の溶連菌らしいです。
 溶連菌性咽頭炎の時、発症数日後に赤い細かい皮疹が出てかゆくなることがあります。これは溶連菌が産生する「発赤毒素」が悪さをするため。文中の「猩紅熱」とは、この皮疹が全身に広がる状態を言います(なぜか口の周りだけ健康皮膚が残る“口囲蒼白”という現象が観察されます)。
 “emm遺伝子”の種類により分類され、この変異が発赤毒素の産生量を増加させる変異につながることを初めて知りました。
 報告はイングランド発ですが、遠くない未来に日本にも侵入するのでしょう。

新型のレンサ球菌による猩紅熱が英国で流行
HealthDay News:ケアネット:2019/09/27
 新しい型のA群溶血性レンサ球菌(A群レンサ球菌)が、2014年以来、英国で流行している猩紅熱の原因菌である可能性が報告された。研究を行った英インペリアル・カレッジ・ロンドンのShiranee Sriskandan氏は、「英国では、新型のA群レンサ球菌が、以前からみられたタイプのA群レンサ球菌に代わって流行するようになったとみられる」と話している。この新型A群レンサ球菌は、以前のA群レンサ球菌に比べ毒性が強くなっているという。研究の詳細は、「Lancet Infectious Diseases」9月10日オンライン版に発表された。
 イングランドでは、猩紅熱の感染者数が2014年の約1万5,000人から2016年には約1万9,000人に増加し、1960年代以降で最大の感染規模となった。猩紅熱は、咽頭炎や細菌が作る毒素による発疹を主症状とする感染症で、小児によく生じ、傾向として3~5月に流行のピークを迎える。ペニシリンなどの抗菌薬で治療が可能だが、治療しないと全身に感染が広がり、死に至る危険性もある。一方、猩紅熱が大流行した2016年には、同じA群レンサ球菌を原因菌とする侵襲性感染症の患者数も、過去5年と比べ1.5倍に増加したという。
 Sriskandan氏らは今回の研究で、猩紅熱の原因菌となっているA群レンサ球菌の“emm遺伝子”の変化と、2014~2016年の地域(ロンドン北西部)および全国(イングランド、ウェールズ)のデータを用いて猩紅熱およびA群レンサ球菌感染症の届出を分析した。
 その結果、2014年のロンドンにおける猩紅熱の感染者数の増加にはA群レンサ球菌のemm3型とemm4型が関連していることが分かった。一方、2015年および2016年の春にみられた咽頭感染例にはemm1型が関連していた。emm1型の感染例の割合は、2014年にはわずか5%だったが、2015年には19%、2016年には33%まで増加していた。また、イングランドおよびウェールズにおける侵襲性のA群レンサ球菌感染症においても、emm1型の割合は2015年に31%だったのに対し、2016年には42%に増加しており、この型が優勢になりつつあることも確認された。
 さらに、emm1型の遺伝子解析からは、2015年および2016年に分離された菌株で27の遺伝子変異が同定された。これらは、猩紅熱などの感染症に罹患した患者にさまざまな症状をもたらす発赤毒素の産生量を増加させる変異とみられた。
 Sriskandan氏によると、この変異が生じたemm1型のA群レンサ球菌(M1UK型と名付けられた)は、他のemm1型のA群レンサ球菌と比べて9倍もの毒素を産生していた。さらに、イングランドとウェールズで分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析から、2016年には全体の84%をM1UK型が占めていたことも判明。世界各国で分離されたemm1型の菌株の遺伝子解析データとの比較からは、M1UK型は英国に限局してみられるが、デンマークや米国でもわずかに検出されていた。
 Sriskandan氏は「喉の感染症や猩紅熱を引き起こすA群レンサ球菌は、まれではあるが侵襲性の高い感染症を引き起こす原因菌でもある。したがって、A群レンサ球菌による喉の感染症や猩紅熱が増えれば、侵襲性感染症も増える可能性がある」と指摘。ただし、「A群レンサ球菌に起因した全ての感染症を予防するためのワクチン開発には長い年月を要するだろう」との予測を示している。
 なお、この新型のA群レンサ球菌には現在広く使用されている抗菌薬が効果を示すことから、薬剤への耐性獲得が感染拡大の要因ではないとみられている。

<原著論文>
・Lynskey NN, et al. Lancet Infect Dis. 2019 Sep 10.
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その小児の急性中耳炎に抗菌薬(抗生物質)は必要ですか?

2019年10月06日 16時29分30秒 | 感染症
 私は小児科医ですが、必要に迫られて中耳炎の診療もしています。
 多くは、風邪を引いて何日か経過後、熱が続き、かつ耳が痛いと訴える子どもたちです。
 私の方針は・・・・

 耳の中を耳鏡で観察し、
・鼓膜が赤い(充血)
・腫れている(膨隆)
・膿が溜まっている(混濁)
 の3つの所見が揃うと抗菌薬(=抗生物質)を処方しています。
 揃わないときは解熱鎮痛剤で様子観察します。
 治療薬はペニシリン系抗菌薬です。5日間服用していただきます。
 服用終了後に治癒確認目的で再度来院を指示します。
 風邪は症状が良くなれば結果オーライですが、中耳炎は所見が消えることを確認する必要があります。
 なぜかというと、膿が溜まっている状態が続く(慢性中耳炎)と、聴力低下のリスクがあるからです。
 数週間後も所見が消えない場合や、中耳炎を反復してもともと耳鼻科に通っている患者さんは、治癒確認もそちらでしてもらうよう指示しています。

 さて、私の治療法は、日本耳鼻科学会から出ている中耳炎診療ガイドラインに合っているのでしょうか。

 小児の急性中耳炎に抗菌薬が必要かどうか問う記事を見つけました。
 自分の診療を振り返り、必要があれば修正する目的で読んでみました。

小児の急性中耳炎に抗菌薬を出しますか?
2019/10/3:日経メディカル
有吉 平(山口大学大学院医学系研究科小児科学講座)

症例:
 3歳男児。数日前から咳嗽、鼻汁があり、昨日から発熱したとのことで小児科外来を受診。
 体温は38.0℃で咳嗽、鼻汁があった。耳痛はなかったが、母親から「最近よく耳を触るんです。中耳炎がないか心配です」と言われたため鼓膜を観察した。すると右の鼓膜が、腫れてはいないものの全体的に発赤していた。右急性中耳炎と診断したが、抗菌薬を処方する必要はあるだろうか……?

 小児の急性中耳炎への抗菌薬投与に対して、Choosing Wiselyでは以下の推奨が示されている。

<推奨>2~12歳の重症感のない急性中耳炎に対して、経過観察が適切であれば、ルーチンの抗菌薬投与は行わない(米国家庭医学会)

◆推奨の根拠となった主な論文
Lieberthal AS, et al. The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media. Pediatrics. 2013; 131: e964-99.

◎「重症感のない中耳炎」とは、48時間以内の軽度の耳痛や、体温が39℃未満の中耳炎を指す。
◎ 最初から抗菌薬を投与すれば、早期の症状緩和や中耳炎の治癒率向上に、わずかに寄与する可能性がある。一方で、下痢や発疹、アレルギー反応などの副作用や耐性菌の原因となる。
◎ 最初に経過観察することで、抗菌薬の使用量を減らし、副作用や耐性菌を減らすことにつながる。また、治療が遅れたとしても、患者が受ける不利益はわずかである。
◎ 経過観察する場合、発症48~72時間以内に症状の増悪がないか確認する。

解説:経過観察で済むに越したことはない。しかし…

 小児において急性中耳炎はありふれた疾患で、特に保育園に入園したての児ではよくみかける。従来は経口抗菌薬の投与で速やかに治癒する疾患と考えられてきた。しかし、本邦では近年、薬剤耐性菌による難治化が問題となり、抗菌薬の適正使用が重要視されるようになった。
 推奨の根拠となった論文(米国小児科学会の2013年の急性中耳炎診療ガイドライン)によると、急性中耳炎の診断は鼓膜所見と耳痛、耳漏の有無によってなされる。重症度は耳痛の強さと持続時間、39℃以上の発熱の有無で判定し、それに年齢と両側性か否かを考慮し、無治療で経過観察可能かを判定する(表1)。


表1 急性中耳炎が経過観察可能かの判定基準
(Pediatrics 2013; 131: e964-99.を参考に筆者作成)

 本邦の「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」でも、軽症例に限って3日間は抗菌薬の投与は行わず、自然経過を観察することが推奨されている。当ガイドラインでは以下の通り、鼓膜所見と臨床症状によってスコアリングして重症度を判定している(表2)。米国のガイドラインと細かな点は異なっているが、年齢と症状、鼓膜所見で抗菌薬の適応を決定するという点では一致しており、冒頭の症例の場合、いずれのガイドラインに照らし合わせても経過観察可能と判断される。


表2 重症度スコア
(「小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版」[p37]を改変し引用)
軽症:5点以下、中等症:6~11点、重症:12点以上

 ただし、Choosing Wiselyの推奨でも「ルーチンの抗菌薬投与は行わない」と言うにとどまっているように、経過観察はその後の臨床所見の評価が可能であることが前提である。もちろん、感冒と同様に不必要な抗菌薬投与は行うべきではなく、経過観察の重要性を患者に説明することは重要である。しかし、Choosing Wiselyの理念は医療者と患者が対話を通じて、患者にとって真に必要で、かつ副作用の少ない医療の「賢明な選択」を目指すことである。患者にも様々な背景や事情があることを考慮し、医療者が一方的に方針を押し付けることがないよう肝に銘じておくべきである。


 この記事の内容を吟味してみます。
 まず、中耳炎の診断は、
① 鼓膜所見
② 耳痛
③ 耳漏
 の有無で判定される、とあります。

 あれ? 
「耳漏」のところには、以前は「鼓膜混濁」があったはずなのに、いつの間にか入れ替えられていることに気づきました。

 次に重症度は、
① 耳痛の強さと持続時間
② 39℃以上の発熱
 の有無で判定し、それに
④ 年齢
⑤ 両側性か否か
 を考慮、とあります。
 これらを表のスコアで加算していき、その数字で重症度判定をします。

 では、シミュレーションをしてみましょう。

(症例1)1歳男児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜全体が発赤・一部膨隆・混濁している(耳漏はない)


 診断は明白です。
 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜全体発赤(4)
・鼓膜膨隆(4)
・耳漏なし(0)
・年齢(3)
 合計14点で「重症」という評価になります。

 これを「経過観察可能かどうか」の表に当てはめると・・・
・重症
・年齢:生後6ヶ月〜23ヶ月
・罹患側:片側
→ 抗菌薬治療の適応

 となります。
 というわけで、私がふだんよく診るタイプの乳児中耳炎は抗菌薬が必要であると再確認できました。

 ここで気づいたのですが、鼓膜全体が膨隆していると8点、とハイスコアに設定されているのですね。
 鼓膜膨隆は重症所見のポイント、と覚えておきます。
 まあ、中耳炎の時の耳の痛みは、鼓膜がパンパンに張って痛いからですから、当たり前と言えば当たり前。

 もう1パターン提示してみます。
 私が「鼓膜炎レベルで中耳炎まで進んでないから、抗菌薬は不必要。解熱陣痛剤で様子観察し、良くならなかったらまた来てね」と説明している患者さんタイプ。

(症例2)3歳女児
(主訴)咳/鼻水、発熱(38.2℃)、右耳痛
(経過)約1週間前に咳と鼻水がはじまり、数日後に熱が出て、さらにその数日後(昨日)に右耳痛を訴えるようになり、夜間ぐずっていたので来院。診察時は耳痛はなさそうでケロッとしている。
(鼓膜所見)右鼓膜の一部が発赤・膨隆なし・混濁なし(耳漏もない)


 重症度は、
・非持続性耳痛(1)
・発熱(1)
・不機嫌(1)
・鼓膜一部発赤(2)
・鼓膜膨隆なし(0)
・耳漏なし(0)
・年齢(0)
→ 合計5点:軽症

 「経過観察可能かどうか」では、
・重症ではない
・年齢:生後24ヶ月以上
・罹患側:片側
→ 抗菌薬なしで経過観察可能

 はい、こちらも私の方針が間違っていないと再確認できました。


<参考>
乳幼児のかぜ診療で失敗しないコツ
2018/7/25:日経メディカル
日馬 由貴(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)
・・・・・
◇ 急性中耳炎など細菌性の合併症に注意
 乳幼児では気道感染症自体は細菌が原因となることは少ないものの、気道感染症に伴う細菌性合併症は高頻度に発生する。乳幼児期に頻度の高いかぜの細菌性合併症は急性中耳炎であり、特に生後6カ月~12カ月で最も頻度が高い5)。そのため、子どものかぜに対して、ルーチンに鼓膜診察を行う小児科医は多い。
 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会による「小児急性中耳炎ガイドライン2018」は、ガイドラインの使用者を耳鼻咽喉科医だけでなく、小児急性中耳炎の診療に携わる全ての医師に広げている。また、ガイドラインの重症度スコアリングでは、「2歳未満」のスコアが重くなっている。重症度スコアリングで軽症の場合は抗菌薬非投与で経過観察を行うが、中等症、重症の場合には抗菌薬投与を推奨する 6)。
 米国小児科学会では、2歳未満の急性中耳炎は重症化、遷延化しやすいため、両側性の場合には重症度に関係なく、片側性の場合には重症の場合に抗菌薬投与を推奨している 7)。中耳炎が遷延すると、慢性化したり、海面静脈血栓症や脳膿瘍などの引き金となる乳突洞炎を生じたりするため、常に中耳炎を見逃さない心づもりが大切である。
 細菌性副鼻腔炎も乳幼児に起こり得る細菌性の合併症である。結合型肺炎球菌ワクチンが導入される前の疫学研究では、1~5歳児のかぜの9%程度が合併していた8)。データはないが、この頻度は肺炎球菌ワクチンの導入で減少している可能性がある。米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断するよう推奨している。また、偽陽性となることが多いことから、画像診断は通常、行わないこととしている 9)。これは日本のガイドラインにおいても同様で、日本では鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステムが用いられている 10)。

【参考資料】
・・・・・
5) Kaur R et al. Pediatrics. 2017;140(3).
6) 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会・日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会. 小児急性中耳炎ガイドライン2018年版. 金原出版; 2018
7) Lieberthal AS et al. Pediatrics. 2013;131:e964-e99.
8) Aitken M et al. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine. 1998;152:244-8.
9) Wald ER et al. Pediatrics. 2013.132:e262-80.
10) 日本鼻科学会. 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版.(Accessed on 17th July 2018)


 中耳炎は鼓膜所見で診断可能ですが、副鼻腔炎(=蓄膿症)の診断はポイントとなる所見がありません。このため、症状から疑い診療することになります。
 アメリカでは「米国小児科学会はかぜ症状が10日を超えて改善しない場合、症状が悪化する場合、症状が重篤な場合に副鼻腔炎と診断」、日本では「鼻漏、不機嫌・湿性咳嗽、鼻汁・後鼻漏の所見から判断する独自の重症度判定のスコアリングシステム」を使用するよう推奨されています。
 私は、風邪を引くと副鼻腔炎になりやすい小児には漢方薬を併用しています。鼻の奥にたまる鼻汁を減らし、症状を軽減し、中耳炎・副鼻腔炎の予防になります。長期に耳鼻科で抗菌薬を使用している患者さんも半分位の確率で改善します。
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医療機関の麻疹対策で解決できなくて困っていること

2019年09月08日 09時22分51秒 | 感染症
 医療機関における麻疹対策は、日本環境感染学会による「医療関係者のためのワクチンガイドライン2017」に準じて行われます。
 しかし現場では、解決できないこまごまとしたことに悩まされているのが現実です。
 日経メディカルの2018年の記事の中に「医療機関において麻疹対策で困ること」の一覧表を見つけました。
 すべての項目が「あるある」で頷きながら読みました。



 僭越ながら、私見をコメントさせていただきます。

抗体に関すること

・ワクチン接種歴2回後も、麻疹EIA抗体価16を獲得できない職員が1〜2割くらいいる。
→ ワクチンの有効率は100%ではありません。麻疹ワクチンでは1回接種で95%、2回接種で99%とされています。なので、抗体価獲得を目安にするとエンドレスになってしまいます。
 それから、血液検査による抗体価は、ヒトの免疫能力の一部を示すに過ぎません。免疫力は主に細胞性免疫と液性免疫に分類され、抗体価は液性免疫の指標にすぎず、細胞性免疫を評価する方法が現時点ではありません(水痘はあります)。なので、抗体価だけにこだわっても仕方ないという一面があります。
 ではどう考えるべきか?
 ワクチンの効果を考える際に、「集団免疫」という概念があります。
 その集団の中で、ワクチン接種率が一定の数値(集団免疫率)を超えると、病原体が持ち込まれて感染者が出ても広がらないという疫学的事実を重視する手法です。こちらにわかりやすい解説があります。この記事内で、麻疹の集団免疫率は90〜95%となっています。つまり、その集団内で90%以上の免疫獲得者がいれば、感染拡大は防げるということになります。
 以上より、前述の「医療関係者のためのワクチンガイドライン」では、現実的に「2回接種でOK」という基準を設定したのだと思われます。

・抗体価が基準値以上またはワクチンを2回接種している医療従事者へのN95マスクの着用について悩んでいる。
N95マスクは、空気感染対策に特化したマスクで、顔面にすき間なく密着するよう装着します。実際に使用した人の話を聞くと、「息苦しくなるので1時間が限界」だそうです。
 この場合の“悩み”は、医療従事者を麻疹感染から守る目的で悩んでいると想像されます。
 客観的に十分免疫がある医療従事者が、感染対策をどこまですべきか・・・確かに抗体がが十分あるいは2回接種者でも、100%安全とは言い切れません。
 しかし完璧を目指すスタンスを取ると、キリがありません。エボラ出血熱対策のように、宇宙服のような対策を取るという考えさえ出てきそうです。
 極論を置いておき、一般論で考えると“必要ない”となりそうです。
 経験的には、ワクチンを2回接種済みで麻疹を発症した場合、微熱と皮疹程度の軽症で済み、その患者から感染が広がる可能性は高くないと報告されています(Rosen JB, Rota JS, Hickman CJ, et al. Outbreak of mea- sles among persons with prior evidence of immunity, New York City, 2011. Clin Infect Dis 2014 ; 58(9): 1205 - 1210)。

ワクチン接種に関すること

・外部委託業者、取引業者、実習学生、見学者等の対応に苦慮している。
→ これは、外部業者と契約の際に「感染既往あるいは予防接種歴2回を確認しておく必要がある」とされています。しかし実際にはどれだけ行われているのか、データを見たことがありません。最低限、患者さんと一緒にならないよう、院内での動線を別にする方が現実的かもしれません。
 患者さんと接する実習生、見学者は受け入れる前、事前に「“感染既往あるいは予防接種歴2回”の確認」を条件に出せばよいですね。
 それと関連して、医療関係の仕事を目指す人は、感染既往/予防接種歴が確認される時代になりつつあります。逆に言うと、ワクチン拒否家族は、医療関係の仕事に就くことが困難と思われます。これは教育現場にも言えることでしょう。

・ワクチンが不足した場合の優先順位、年齢や優先対象など、多施設の取り決めを知りたい。
→ これも悩ましいですね。ワクチンの優先順位は、時と場合により異なってきます。パンデミックワクチンの優先順位を示したスライドを見つけましたので例として一部抜粋します;

優先順位については、専門家等の意見を踏まえ、以下のいずれかの考え方に基づき、政府対策本部が決定
・重症化、死亡を可能な限り抑えることに重点を置く考え方
・我が国の将来を守ることに重点を置く考え方
・重症化、死亡を可能な限り抑えることに重点を置きつつ、併せて我が国の将来を守ることにも重点を置く考え方


東京大学政策ビジョン研究センターのHPに「ワクチン配分の政策と倫理」という論文を見つけました。一部を抜粋します;



WHO、CDCは以下のように提案しています;



上記をまとめると、まず医療担当者、次に社会インフラの管理者、そして一般市民(重症化のリスクの高いヒト〜低いヒトへ:持病のある方>小児>成人>高齢者)
病院内においては、診療継続に必要な人材かつ交代要員がいない職種の順に優先順位も決まることになりそうです。

政府のインフルエンザ対策会議の配付資料から抜粋します;



日本訪問看護財団のHPにも「ワクチン接種事業に関する質問と回答」という項目があり、優先接種対象者について言及しています。

大きな病院ではあらかじめ明文化しているのでしょうか?
検索しても見つかりませんでしたが、2016年8月の関西空港での集団麻疹発症の際に大阪市立大学で院内感染が発生したときの模様が論文化されているのを見つけました。

院内麻疹に対峙する」〜麻疹患者来院に由来した職員の院内麻疹発症、その対策を考える〜
Management of Nosocomial Measles
モダンメディア 63 巻 7 号 10-15, 2017

(麻疹が疑われる外来患者を陰圧室へ入院させ、サージカルマスクの着用を勧めて飛沫の拡散に努めたが、検査部採血室で血液検査を受け、胸部X線検査や心電図検査が実施され、院内を移動したことが、後の2次感染の発症誘引となった。)
(発端症例が来院した約2週後の金曜日に、発端症例が外来受診した時に隣の診察室で診療に従事していた20歳代の医師が発熱と咽頭痛にて感染症内科の外来受診を希望された。遺伝子検査で麻疹の確定診断が得られたが、 受診数日後に発疹出現を確認した。医師は麻疹ワクチン接種が1回のみで抗体価が不十分であったために、翌月に麻疹ワクチン接種が予定されていた。)
(麻疹を発症した医師が外来受診した3日後、検査部採血室の受付担当職員が出勤後に、約3時間通常の業務を行っていたが、全身倦怠感の自覚および皮疹が出現し、感染症内科を受診した。当職員は発端症例が外来受診時に採血室を訪れていた。翌日、遺伝子検査にて麻疹の確定診断が得られた。当職員は麻疹ワクチン2回接種歴の記録があり、前回は約5年前に接種されていた。経過中に発熱はなく皮疹のみが認められ、典型的な経過を示さない修飾麻疹(modified measles)と考えられた。)
(大阪市保健所へ相談を行いながら感染対策を行った。具体的には、潜伏期間の設定、患者や2次発症者に接触した感受性職員の就業制限(最大17日間)ならびに自宅待機(計72名)・・・)
(希望者全員にワクチンを接種できる状況ではなかった。そのため行政と相談し、麻疹ワクチンの対象を接触リストに挙げられた小児と抗体価陰性の職員(若干名)を優先的に実施することとした。)


いろいろな問題(下線部)があり、参考になります。
あ、こちらにすべてまとめられていました。
医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版」(国立感染症研究所 感染症疫学センター 平成30年5月)

・ワクチン接種歴を確認できる母子手帳など持っていない人も多い。
→ 感染対策は「記憶よりも記録を優先」させる必要があり、記録を確認できない場合は抗体価を測定し、必要であればワクチンを接種することになります。

・ワクチン忌避の職員への対応に難渋した。
→ アメリカでは、規定のワクチンを接種していない子どもは学校へ行けません。
 日本も人権尊重と感染対策の優先順位をはっきりさせておくべきでしょう。
 将来的には、医療系教育施設への入学・医療関係職への入職の際にチェックされることになるでしょう。

診断に関すること

・本人から申し出などがなければ曝露の可能性を否定できない。
→ その通りです。また皮疹出現前でも感染力を有することを考えると、風邪と区別つかない患者さんとの接触で発症することもあります。
 これらへの対策は、ワクチン接種率を集団免疫率(90〜95%)以上に上げておくことに尽きます。

・麻疹を診察したことのある医師が少ない。
→ 私も最後に麻疹を診察してから20年くらい経過しています。典型的な経過は一応頭に入っていますが、ワクチン接種者が発症すると軽症で済む(修飾麻疹)ので、逆に診断が難しくなるというジレンマが存在します。皮疹が非典型的となり、診断のゴールドスタンダードとも言えるコプリック(Koplik)斑が出現しない例があるのです。
 もうお手上げ・・・診察室で症状・所見から診断することは困難です。
 現在、確定例の報告は血液検査による抗体価評価が必要とされるようになりました。

・修飾麻疹に関する診断方法を知りたい。
→ 症状と診察所見だけでは診断は不可能です。感染情報と患者さんの行動から推測(例:関空でのアウトブレイクでは空港の利用の有無、ジャスティン・ビーバーのコンサートでのアウトブレイクではコンサートへの参加の有無)し、遺伝子検査あるいは血液検査で評価するしかありません。

対策に関すること

・10年以上、麻疹患者の発生がないのでマニュアル通りに対応できるか不安がある。
→ 備えあれば憂いなし、病院職員のワクチン接種歴と抗体価チェックを行い、必要であればワクチン接種をしておくことに尽きます。
 当院では数年前に済ませております。

・「お見舞いの人」や「付き添い者」への麻疹対策ができていない。
→ これも悩ましい問題です。その都度感染既往やワクチン接種歴の確認をする必要がありますが、実際には困難でしょう。
 しつこく何度でも書きますが、対策はワクチン接種率を集団免疫率以上に保つことに尽きます。
 ワクチン拒否者は、病院内では行動を制限されざるを得ません。

・空気感染対応の外来診察室がない。
→ 一般小児開院では、隔離室と名付けた感染対策の部屋が用意されています。しかし、陰圧室(空気感染対応)はコストがかかりすぎて用意できません。
 おそらく、総合病院でも1つか数部屋しかないと思われます。
 気休めかもしれませんが、当院の隔離室では換気扇を回しっぱなしにしています。

・麻疹疑い患者専用の待合室がなく、発熱患者と一緒になっている。
→ 感染情報で近隣に麻疹が発生している場合は、当院では発熱患者には車の中で待っていただき、ポケベルを渡して順番が来たらお知らせして隔離室に入ってもらうようにしています。2009年の新型インフルエンザ騒動の時に実行しました。
 ただ、総合病院ではこの方法は取りにくいですね。
 某小児科医院では、ふだんから麻疹ワクチン未接種者は待合室を別にしている、という話を聞いたことがあります。

・免疫が十分あるスタッフであったとしても、N95マスクの着用は必要でしょうか。
→ 結論から申し上げると「感染予防を限りなく100%に近づけるなら必要」と言わざるを得ません。
 ワクチン2回接種者でも感染例が存在するからです(軽症で済みますが)。免疫不全患者が入院・通院している高次医療施設では考慮すべきかもしれません。
 基本的に健康な患者さんが通院する一般の小児科医院レベルでは、そこまでしていない施設がほとんどだと思います。

公衆衛生対応に関すること

・パスポートやビザの発行時に、ワクチン未接種者には発行しないくらいの取り組みを国レベルで考えて欲しい。
→ 2020年東京オリンピックを控え、このような声が聞こえてきますね。大会中の暑さや台風ばかりが話題になりますが、感染対策も重要です。
 例えば、ムスリムがメッカへの聖地巡礼する際には髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨されていると聞いたことがあります。
 ただ、実際に行うには、その啓蒙とワクチン拒否者の扱い等、一筋縄ではいかないと思われます。

・定期接種でワクチン接種記録を一元管理できるシステムを国レベルで作って欲しい。
→ マイナンバーカードが候補ですね(賛否両論ですが)。


 ・・・以上、つらつらと書いてきましたが、やはり「国民の95%以上にワクチン2回接種」を実現できれば、上記の悩み・心配のほとんどが解決することを、あらためて実感した次第です。


<参考>
麻疹ワクチン接種、GL陽性基準の適用は困難
2019年03月15日:Medical Tribune
 医療機関における院内感染対策の一環として、日々、患者と接する医療関係者へのワクチン接種が重要とされている。各医療機関で職員向けワクチンプログラムの策定が進められているものの、ワクチン自体の流通量が潤沢でないことや医療機関にかかる費用負担、ワクチン接種推奨者の基準など、その運用に苦慮する面が少なからず見受けられる。山形大学医学部附属病院検査部部長/感染制御部部長の森兼啓太氏は、第34回日本環境感染学会(2月22〜23日)で同学会の『医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版』(以下、GL)に準拠した麻疹抗体価陽性基準の運用は困難であると述べた。

麻疹ワクチン接種記録ありでもGL抗体価陽性基準値を満たさない職員が多数
 同院では、抗体価測定とその値によるワクチン接種の推奨について総務課労務担当が事務的に処理し、職員に対し任意で行っていた。しかし2017年に山形県で麻疹が流行したことを受け、感染制御部においてワクチンプログラムを策定することになり、GLに準拠することを考えたという。
 GLにおける麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘ワクチン接種のフローチャートによると、予防接種記録の有無により推奨者を分類した後、抗体価測定結果に基づき対応を決定する流れが示されている。すなわち、1歳以上で2回の予防接種記録がある場合、抗体価測定は必須でなくワクチン接種不要。2回の記録がない場合、1歳以上で1回の予防接種記録があれば1回のワクチン接種を要する。予防接種記録が全くない場合は抗体価測定を実施し、陽性基準を満たさない場合には1回ワクチン接種を要するというものだ。 
 そこで森兼氏は、総務課労務担当部門に保管されていた2010年以降のワクチン接種記録と2012年以降の抗体価測定結果を収集。同大学卒業の若手医師・看護師については医学部学務課に保管されている学生時代の記録の提供を申請、職員個別に同意を取得した後に収集。その他の職員に関しては、個人で所有している文書による記録(母子手帳など)の提出を求めて収集した。
 同氏は、困難を極めた接種記録情報収集・整理の過程において、麻疹の抗体価が検査センター基準値(EIA法で4.0IU/mL以上)は満たすものの、GLにおける基準値(同 16.0IU/mL以上)を満たさない者が多数いること、その中には2回の麻疹ワクチン接種記録がある者で目立つことに気付いたという。

接種記録のない職員が大多数、接種を要する数は500人以上に
 こうしたことから森兼氏は、GLにおける麻疹のフローチャートを適用することの妥当性を評価する目的で、2017年5月1日時点での同院在職者の麻疹ワクチン接種歴と抗体価記録を統合解析し、GLのフローチャートにのっとり抗体価測定やワクチン接種の必要性を判定した。なお、評価には抗体価を複数回測定している者では最も高い抗体値を、うちワクチン2回接種者については最も低い抗体価を用いた。
 その結果、全職員1,664人のうち、麻疹ワクチン接種記録が2回ある者は66人、1回の者は14人で、接種記録がない者が大多数を占めた。接種記録がない1,584人中抗体価測定を受けたことがない者は456人、抗体価測定を受けたことがある1,128人のうち628人はGL基準を満たす抗体価陽性、563人はGL基準を満たさない抗体価陽性で、抗体価陰性は3人であった(図)。


図. 麻疹ワクチン接種のフローチャートを適用した場合の全職員の内訳(森兼啓太氏提供)

GLの抗体価陽性基準は高過ぎる
 GL基準を満たさない抗体価陽性563人の抗体価(EIA法)を確認したところ、2.0〜3.9IU/mLが19人、4.0〜15.9IU/mLが544人と大多数は検査センター基準値を満たしていた。一方、2回の麻疹ワクチン接種記録がある66人の抗体価を見たところ、GL陽性基準を満たす者はわずか18人(27%)であった(表)。


表. 予防接種記録がない抗体価陽性(基準を満たさない)者と2回予防接種記録保有者の抗体価
(森兼啓太氏提供)

 麻疹ワクチンの接種記録を保有しておらず、抗体価によってその後のワクチン接種の方針を決定せざるをえない者のうち、検査センター基準では抗体価陽性だがGLの基準を満たさないためワクチン接種を要する者が544人。その一方で、2回のワクチン接種記録がある者の73%がGLの抗体価陽性基準よりも抗体価が低下しており、仮にワクチン接種記録がなければ1回接種を要する者に該当する。GL基準を満たさない抗体価陽性者の中には、書面としての接種記録がないものの2回のワクチン接種を受けている者も含まれている可能性も推測される、と森兼氏は考察した。
 それに加えて、同氏は「米疾病対策センター(CDC)をはじめとするさまざまな海外の医療者を対象としたワクチンガイドラインを参照すると、検査センター基準値陽性との記載にとどまっており、それ以上の抗体価を求める記載は見当たらない。また、GLに関するQ&Aにおいて、"基準を満たす陽性"とはワクチンを受けてもブースター効果が働かない程度の高い抗体価を設定、これ以上の判断は各施設に委ねると記載されており、高い抗体価を設定する理由が明瞭ではない」と指摘した。
 以上から同氏は、麻疹の免疫の有無を判断する際の抗体価の基準として、GLの陽性基準は高過ぎるだけでなく、不要なワクチン接種を推奨し、余分なコストも発生させるとし、「GLの陽性基準の適用は困難である」と述べた。
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