小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「食物アレルギー診療ガイドライン2016」のポイント

2017年01月21日 07時42分33秒 | 食物アレルギー
 食物アレルギーガイドラインが改定されました。
 小児アレルギー疾患の中でも食物アレルギーの分野は日進月歩なので、10年前の常識が今や非常識・・・目が離せません。
 紹介記事「安易な食物除去はNG、湿疹の管理も忘れずに」(日経メディカル:2017.1.17)からポイントを抜粋させていただきます。

 開業医の視点からすると、開業医でも可能な食物負荷試験のルールがようやく設定された、という印象です。
 今までのガイドラインはアナフィラキシーを起こす重症者の死亡事故を防ぐという点が重視されたため、病院レベルでしか実施できない食物負荷試験方法のみ記載されてきましたので。

 思い起こせば、喘息のガイドラインも当初は理念が先走って実際の診療と解離した内容でしたが、改定を重ねてようやく臨床現場に沿ったものになってきた経緯があり、似てますね(^^;)。

 問題として残るのは、食物アレルギーの原因食物を食べられるようになった状態には「耐性獲得」と「脱感作」の2種類が存在することの理解・指導の徹底化です。
 「耐性獲得」とは、「治った」状態。
 「脱感作」とは、負荷試験で義務的に食べて続けていると症状が出なくなるけど、食べるのをやめてしばらくするとまた症状が出る状態。
 患者さんや、非専門医にはわかりにくい病態です。
 これをどう区別して管理・指導していくのか・・・。
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NIH(アメリカ国立衛生研究所)がピーナツアレルギー予防に指針、なんと「食べさせて予防」!

2017年01月15日 08時52分49秒 | 食物アレルギー
 ピーナッツ・アレルギーはアメリカで毎年数十人の死亡者を出す、危険な食物アレルギーです。
 日本で言えばソバアレルギーのイメージが近いですね。

 さて、そのピーナッツ・アレルギー予防にアメリカ政府が指針を出しました。
 なんと従来行われてきた除去と真逆の「乳児早期からの摂取を推奨」というコペルニクス的展開で、さらにすでに湿疹や卵アレルギーのあるハイリスク患者さんも含むという大胆なもの(ただし専門医の管理下でという条件付)。
 これは、卵アレルギー予防に早期摂取が有効、という流れと同じですね。

■ ピーナツアレルギー予防に指針、NIH 〜発症予防に早期からのピーナツ摂取を推奨
2017.01.06:Medical Tribune
 米国立衛生研究所(NIH)は1月5日、小児科医や家庭医などの医療従事者を対象としたピーナツアレルギー予防に関する臨床ガイドライン(GL)をJ Allergy Clin Immunol(2017; 139: 29-44)などに発表した。ピーナツアレルギーの発症を予防するために、高リスク児を含む乳児に対し、早期にピーナツが含まれる食品を与えることを推奨している。同GLは2010年に発行された米国の食物アレルギー診断・管理GLのピーナツアレルギー予防に関する追補版としてまとめられたもの。昨年(2016年)3月に公表された草案(関連記事)に対するパブリックコメントが反映された最終版となる。

◇ 「重度の湿疹+卵アレルギー」の高リスク児にも検査の上で摂取を推奨
 同GLは、2015年2月に報告されたLEAP試験(関連記事)の結果を受けて策定された。生後4~11カ月の高リスク乳児約600例を対象とした同試験では、ピーナツの早期摂取によって5歳までにピーナツアレルギーを発症するリスクが81%減少することが示された。
 GLでは、ピーナツアレルギーを発症するリスクの高さを、
① 重度の湿疹、卵アレルギーのいずれか、または両方がある乳幼児
② 軽度~中等度の湿疹がある乳幼児
③ 湿疹または食物アレルギーのない乳幼児
―の3段階に分類。
最もリスクが高い①に対しても、特異的血中IgE検査(sIgE)および/または皮膚プリックテストを実施し、必要に応じて食物経口負荷試験を実施した上で、生後4~6カ月にピーナツが含まれる食品を与えることを推奨している。また、②に対しては生後6カ月前後に、③に対しては各家庭の希望や文化、習慣に応じて適切な時期に、ピーナツが含まれる食品を与えることが推奨されている。
 なお、草案では①の高リスク児に対する検査アルゴリズムにおいて、皮膚プリックテストで膨疹の直径が大きくピーナツアレルギーの可能性が高い乳児には「ピーナツの摂取を回避すべき」とされていたが、最終版のアルゴリズムでは「専門医による評価と管理を継続すべき」と変更されるなど、推奨内容の一部が変更されている。
 米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)アレルギー・免疫・移植部門のDaniel Rotrosen氏は「LEAP試験によって明らかにされた(ピーナツの早期摂取による)ベネフィットは極めて大きく、科学的な信頼性も高かったことから、ピーナツアレルギー予防に関する指針を策定することで同試験から得られた知見を活かす必要性に迫られた」と、今回のGL策定の背景について説明している。
 同GLの草案は昨年3月に公表され、その後45日間に104件のパブリックコメントが寄せられたという。今回発表された最終版にはその一部が反映されたとしている。

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新生児期の飼い犬との触れ合いがアトピー性皮膚炎のリスク低下に関与

2017年01月15日 06時56分06秒 | アトピー性皮膚炎
 卵やピーナツの食物アレルギーは早期に経口接種を開始すると予防できるかもしれない、というのがアレルギー分野でのトピックスの一つ。

 ペットアレルギーはどうでしょうか。
 ネコアレルギーに関しては、長期に接触していると症状がなくなっていく例が存在することが学会レベルで認められたのは、もう15年ほど前になるでしょうか。
 でも、イヌに関してはあまり触れられてきませんでした。

 紹介する報告は、乳児早期、それも新生児期(生まれてから1ヶ月間)にイヌと接触するとアトピー性皮膚炎の発症率が低くなるという、驚きの内容。ただし、お母さんが喘息というハイリスクの場合のみの効果とのこと・・・アレルギー家系でない家庭では差がなく無意味らしい;

■ 新生児期の飼い犬との触れ合いがアトピーのリスク低下に関与
2017/01/10:ケアネット
 デンマーク・コペンハーゲン大学のSunna Thorsteinsdottir氏らは、コペンハーゲン小児喘息前向きコホート研究(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood:COPSAC)から2つの独立した出生コホートを用い、生後3年間における室内犬への曝露がアトピー性皮膚炎発症に影響を及ぼすかどうかを検討した。その結果、新生児の室内犬への曝露はアトピー性皮膚炎のリスク減少と強く関連しており、その関連は飼犬頭数に依存的であることを明らかにした。著者は、「機序は不明だが、今回の結果は胎児のときの曝露量がアトピー性皮膚炎のリスクに影響を及ぼす可能性を提起するもので、疾患の経過について早期における環境要因の重要性を強調するものである」とまとめている。Allergy誌2016年12月号(オンライン版2016年8月9日号)掲載の報告。

 COPSACは、進行中の前向き出生コホート研究で、研究グループは、COPSAC2000から喘息を有する母親から生まれた児411例と、COPSAC2010から任意抽出した児700例のデータを解析した。
 児のアトピー性皮膚炎はHanifin-Rajka基準に従って診断され、親の喘息、皮膚炎または鼻炎の既往歴は自己申告に基づく医師の診断と定義された。8つの吸入性アレルゲンに対する母体の特異血清IgEは、COPSAC2000コホートでは児の出生後、COPSAC2010では妊娠24週に評価された。
 Cox比例ハザード回帰モデルを用い、室内犬への曝露とアトピー性皮膚炎との関連を検討した。
 主な結果は以下のとおり。

・COPSAC2000およびCOPSAC2010の両コホートにおいて、アトピー性皮膚炎のリスクは室内犬曝露がある小児で有意に低かった。COPSAC2000コホートの補正ハザード比(HR)は0.46(95%信頼区間[CI]:0.25~0.87、p=0.02)、COPSAC2010は同0.58(0.36~0.93、p=0.03)であった。
・COPSAC2010において、アトピー性皮膚炎のリスクは飼犬頭数の増加に伴って減少した(補正後HR:0.58、95%CI:0.38~0.89、p=0.01)。
・防御効果は、任意抽出のCOPSAC2010コホートにおいて、アトピー性疾患を有する母親から生まれた児に限定され(補正後HR:0.39、95%CI:0.19~0.82、p=0.01)、アトピー性疾患のない母親から生まれた児ではみられなかった(補正後HR:0.92、95%CI:0.49~1.73、p=0.79)。
・父親のアトピー性疾患の状況、アトピー性皮膚炎のリスクによる影響はみられなかった。
・両コホートとも、室内犬曝露とCD14のT/T遺伝子型との間に、重要な相互作用は認められなかった(COPSAC2000のp=0.36、COPSAC2010のp=0.42)。


<原著論文>
Thorsteinsdottir S, et al. Allergy. 2016;71:1736-1744. Epub 2016 Aug 9.
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B型肝炎ウイルスは日本にどれぐらいいるのか?

2017年01月12日 08時39分23秒 | 予防接種
 昨年(2016年)10月に定期接種化されたB型肝炎ワクチン。
 「B型肝炎なんて、うちには関係ないわ」という声が聞かれそうなほど、日常的には縁のない病気と捉えがちですが・・・驚くべきデータが発表されました。

■ 元気な子どもの血液を調べたら5人が感染していた!B型肝炎ウイルスは日本にどれぐらいいるのか?
全国の血液検査から(from Vaccine)

MEDLEY:2016年10月9日
 2016年10月1日から、0歳児を対象にB型肝炎ワクチンの定期接種が始まりました。B型肝炎は肝硬変や肝臓がんの原因になります。感染している人の数を全国で調べた調査から、4歳以上15歳以下の子ども5人に陽性結果が出ていたことが報告されました。

◇ 血液検査でB型肝炎の感染状況を調べる研究
 国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの研究班が、調査結果を医学誌『Vaccine』に報告しました。
 この研究では、2005年から2011年にかけて全国で健康な人から採血し、抗原・抗体検査でB型肝炎ウイルスに感染している人の数を調べました。

◇ 5人の子どもがHBs抗原陽性
 検査の結果、4歳から15歳までの子ども3,000人のうち、HBs抗原が陽性の結果が出た子どもが5人いました。陽性の結果は日本の南部地域で多く見られました。
 HBs抗原が陽性だった子どもの体には、現在B型肝炎ウイルスが体の中にいると考えられます。
 研究班はこの結果から「[...]B型肝炎ウイルスに感染する機会は、特に一部の地域では、我々が考えていたよりも頻繁にある」と述べています。

◇ 2か月以上の子は予防接種に行こう!
 健康な子どももB型肝炎ウイルスに感染していることが確かめられました。仮にこの報告のとおりの割合と考えると、同じ年齢の子どもは全国で1300万人ほどいるので、2万人ほどがB型肝炎ウイルスに感染している計算になります。
 B型肝炎ウイルスの感染経路はおおむね理解されていますが、今年2月に報道された、神戸中央病院で原因不明の感染者が多発した例のように、感染源を特定できない場合も中にはあります。
 B型肝炎の予防にはワクチンが有効です。定期接種は原則として自己負担無料です。生後2か月、3か月、7-8か月の計3回注射します。1歳になると定期接種の対象にならなくなるので、いま対象になる子どもには早めに1回目の注射を打ってください。


<参照文献>
Seroepidemiological study of hepatitis B virus markers in Japan. Vaccine. 2015 Nov 9.

 するとみなさん、「誰からうつったの?」と感染経路が気になります。
 それに対する答えの一つの論文を紹介します;

■ イタリアで減少するB型肝炎、それでも感染した人の特徴は? 22年間の調査結果から
from Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America
MEDLEY:2016年4月2日
 イタリアでは1991年以来、すべての子どもを対象にB型肝炎ワクチンの強制接種が行われています。以後、B型肝炎は減ってきていますが、まだ多くの人に新たにB型肝炎が発生しています。感染に関係する特徴の調査が行われました。

◆22年分の調査データを解析
 B型肝炎を起こすB型肝炎ウイルスは、日常生活で感染することはほとんどありませんが、輸血や性行為などによって人から人へ感染します。感染予防のためにワクチンが日本でも広く使われています。
 研究班は、イタリアの感染監視システムによるデータを使い、解析を行いました。1993年から2014年にかけての急性B型肝炎患者の情報が調査されました。

◆97%は未接種
 次の結果が得られました。
 11,311例の急性B型肝炎症例のうち362例(3.2%)がワクチン接種後の人だった。ワクチン接種を受けていなかった10,949例のうち、213例(1.9%)は強制接種を逃れていた。2,821人(25.8%)は感染のリスクが高いにもかかわらずワクチン接種を受けていなかった。後者のうち最も多く見られたリスク因子はHBs抗原キャリアと同居していること、静脈内注射薬物使用、ホモセクシャルまたはバイセクシャルの行動だった。
すべての子どもがワクチン接種を受けている中で、急性B型肝炎が発症した人のうち、ワクチン接種を受けていた人は3.2%だけでした。つまり急性B型肝炎が発症した人は97%近くがワクチン接種を受けていない人でした。ワクチン接種を受けていなかった人の25.8%には、薬物乱用、ホモセクシャルなど、感染の危険性が高いと考えられる背景がありました。
 研究班は「B型肝炎はワクチンで予防できる疾患であり、感染のリスクが高い人のワクチン接種率を高くするためにさらに努力が必要である」と結論しています。


<参照文献>
Acute hepatitis B after the implementation of universal vaccination in Italy: results from a 22-years surveillance (1993-2014). Clin Infect Dis. 2016 Mar 23.

 この中で子どもに問題になるのは「HBs抗原キャリアと同居していること」です。
 日本では1986年から母親がキャリアの場合は予防措置(垂直感染対策)が行われ、出生児のキャリア化を減らしてきた実績がありますが、父親がキャリアの場合は対象にならず、この感染経路が問題視されるようになり、かつ血液だけではなく体液(汗、涙、湿疹からの浸出液)でも感染が成立することが判明し、これらに対する対策(水平感染対策)としてすべての乳児を対象にB型肝炎ワクチンが定期接種化するに至ったのです。
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