小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

風邪を引いたら抗生物質?

2016年11月23日 05時43分52秒 | 感染症
 もう20年くらい前になるでしょうか。
 某テレビ局で「抗生物質(=抗菌薬)乱用は耐性菌発生を助長するのでよくない」という内容の番組を作ろうとしたところ、番組スタッフ内で「え?抗生物質ってかぜ薬でしょ」という認識が根強く、作成に至らなかったという話を耳にしました。

 その後、徐々に「抗生物質の適正使用」という考え方が普及・浸透してきましたが、現在でも当院の周囲では風邪を引いて受診すると咳鼻水止めの他に抗生物質、果ては抗アレルギー薬まで“全部入り”のセット処方がなされる医院が少なからず存在します。

 紹介する論文は、抗菌薬処方を減らしても気道合併症がわずかに増加するものの、全身性の重症合併症リスクは増加しなかった、という内容です。
 解析対象はなんと4550万人!

■ 気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ
ケアネット:2016/07/14
 気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。

◇ 延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡
 Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。
 気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。

◇ 抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ
 英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。
 診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。
 気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。
 そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。
 これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。


<原著論文>
Gulliford MC, et al. BMJ. 2016;354:i3410.
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溶連菌性咽頭炎への最良の抗菌薬は?

2016年11月22日 08時02分04秒 | アレルギー性鼻炎
 溶連菌性咽頭炎は、真夏を除いて一年中発生する感染症です。
 「喉が痛い」「気持ち悪くて吐いた」という訴えを聴くと、小児科医はピンときます。
 必ずしも高熱は出ず、咳や鼻水も目立ちません。
 お腹を痛がることもありますが、下痢はしません。

 典型的な診察所見は・・・
 喉がただれたように真っ赤で痛そう(扁桃に白苔が付くことは多くありません)。
 あごのリンパ節を触れると腫れて痛がります。
 お腹をさわっても、感染性胃腸炎のようにフニャフニャの力の入らないお腹ではありません。

 こんな患者さんに喉の検査をすると、ほとんどの例で溶連菌が陽性に出ます。
 陽性者には、こんな説明をしています;

 「風邪の原因の9割はウイルスで残りの1割が細菌です。その細菌類の代表がこの溶連菌です。」
 「溶連菌は細菌ですから“抗菌薬”(=抗生物質)が直接効いてくれるので、今日処方する薬を飲むと1〜2日で症状が治まります。」
 「症状が治まって安心して薬をやめてしまうとぶり返すことや腎臓に合併症が出ることがありますので、処方された分を最後まで飲みきってください。」

 さて、治療に使う抗菌薬は、従来は「ペニシリン系10日間投与」がずっとスタンダードでした。
 しかし近年、セフェム系5日間でも同等の効果が得られることが報告され、普及しつつあります。
 というわけで、まだ喧々諤々の治療法ですが、ここに紹介する論文はたくさんの論文を集めて解析したもの。
 結論から申し上げると、
・症状消失という点では薬剤間で差がない
・耐性菌発生とコストという点ではペニシリン系がまだ有利
 と想定内のものでした。
 一方で重症合併症であるリウマチ熱の発症例がまれになったことから、一部の小児科医から「抗菌薬不要論」も出てきています。
 やはりこの議論、なかなか結論が出ませんね。

■ A群レンサ球菌咽頭炎に最良の抗菌薬は?
ケアネット:2016/10/17
 咽頭スワブでのA群β溶血性レンサ球菌(GABHS)陽性者において、咽頭痛に対する抗菌薬のベネフィットは限られ、抗菌薬が適応となる場合にどの薬剤を選択するのが最良なのかは明らかになっていない。今回、オーストラリア・クイーンズランド大学のMieke L van Driel氏らが19件の無作為化二重盲検比較試験を評価し、GABHSによる扁桃咽頭炎の治療におけるセファロスポリンとマクロライドをペニシリンと比較したところ、症状消失には臨床関連の差が認められなかったことが示された。著者らは、「今回の結果から、コストの低さと耐性のなさを考慮すると、成人・小児ともにペニシリンがまだ第1選択とみなすことができる」と記している。The Cochrane database of systematic reviews誌オンライン版2016年9月11日号に掲載。
 著者らは、症状(痛み・熱)の緩和、罹病期間の短縮、再発の予防、合併症(化膿性の合併症、急性リウマチ熱、レンサ球菌感染後糸球体腎炎)の予防における各抗菌薬の効果比較のエビデンスと、副作用発現率の比較およびレンサ球菌に対する抗菌薬治療のリスク・ベネフィットに関するエビデンスを評価した。
 CENTRAL(2016年第3版)、MEDLINE Ovid(1946年~2016年3月第3週)、EMBASE Elsevier(1974年~2016年3月)、トムソン・ロイターのWeb of Science(2010年~2016年3月)、臨床試験登録を検索し、「臨床的治癒」「臨床的再発」「合併症または有害事象、もしくは両方」のうち1つ以上を報告している無作為化二重盲検比較試験を選択した。
 主な結果は以下のとおり。

・ペニシリンとセファロスポリン(7試験)、ペニシリンとマクロライド(6試験)、ペニシリンとカルバセフェム(3試験)、ペニシリンとスルホンアミドを比較した1試験、クリンダマイシンとアンピシリンを比較した1試験、アジスロマイシンとアモキシシリンを小児で比較した1試験の合計19試験(無作為化された参加者5,839例)を評価した。
・すべての試験で臨床転帰が報告されていたが、無作為化、割り付けの隠蔽化、盲検化に関する報告は十分ではなかった。
・GRADEシステムを用いて評価されたエビデンス全体の質は、intention-to-treat (ITT)分析における「症状消失」では低く、評価可能な参加者における「症状消失」と有害事象では非常に低かった。
症状消失には差があり、セファロスポリンがペニシリンより優れていた(評価可能な患者の症状消失なしのOR:0.51、95%CI:0.27~0.97;number needed to treat for benefit[NNTB] 20、N=5、n=1,660;非常に質の低いエビデンス)。しかし、ITT解析では統計学的に有意ではなかった(OR:0.79、95%CI:0.55~1.12;N=5、n=2,018;質の低いエビデンス)。
臨床的再発については、セファロスポリンがペニシリンと比べて少なかった(OR:0.55、95%CI 0.30~0.99;NNTB 50、N=4、n=1,386;質の低いエビデンス)が、これは成人だけで認められ(OR:0.42、95%CI:0.20~0.88;NNTB 33、N=2、n=770)、NNTBが高かった。
・どのアウトカムにおいても、マクロライドとペニシリンに差はなかった。
・小児における1件の未発表試験において、アモキシシリン10日間投与と比べて、アジスロマイシン単回投与のほうが高い治癒率を認めた(OR:0.29、95%CI:0.11~0.73;NNTB 18、N=1、n=482)が、ITT解析(OR:0.76、95%CI:0.55~1.05; N=1、n=673)や、長期フォローアップ(評価可能な患者の分析でのOR:0.88、95%CI :0.43~1.82、N=1、n=422)では差はなかった。
小児では、アジスロマイシンがアモキシシリンより有害事象が多かった(OR:2.67、95%CI:1.78~3.99;N=1、n=673)。
・ペニシリンと比較してカルバセフェムの治療後の症状消失は、成人と小児全体(ITT解析でのOR:0.70、95%CI:0.49~0.99;NNTB 14、N=3、n=795)、および小児のサブグループ解析(OR:0.57、95%CI:0.33~0.99;NNTB 8、N=1、n=233)では優れていたが、成人のサブグループ解析(OR:0.75、95%CI:0.46~1.22、N=2、n=562)ではそうではなかった。
小児では、マクロライドがペニシリンより有害事象が多かった(OR:2.33、95%CI:1.06~5.15;N=1、n=489)。
・長期合併症が報告されていなかったため、稀ではあるが重大な合併症を避けるために、どの抗菌薬が優れているのかは不明であった


<原著論文>
van Driel ML, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11.

 当院では、長らくペニシリン系抗菌薬(ワイドシリン)を使用してきましたが、10日間と長く服用すると、開始後7日間頃に5%程度の頻度で薬疹が発症します。
 これを避けるため、数年前にセフェム系5日間コースへ変更しました。
 正確な統計は取っていませんが、薬疹例はほとんど認めなくなり、一方で再燃例は少し目立つようになった印象があります。
 短期間に3回以上反復する例では、家族健診を行ったり、漢方薬を併用したりしています。
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喘息における環境整備の意義を再確認

2016年11月21日 09時16分26秒 | 気管支喘息
 古くて新しい「喘息発作」の予防対策としての環境整備。
 悪さするのはダニだけではなく、ペットのふけや唾液、カビ類、揮発性化学物質など色々あります。
 近年の研究では、残念ながら環境整備(≒そうじ)が「喘息発症」を予防する効果は否定的とアレルギー系の学会で聞きガッカリしました。
 しかし依然として発作予防としては有効のようです;

■ 家を清潔にすると子どもの喘息を改善できる可能性
HealthDay News:2016/11/21ケアネット
 室内のアレルゲンを低減することが子どもの喘息管理に役立ち、薬物療法の必要性を減少できる可能性があるという米国小児科学会(AAP)の報告が、「Pediatrics」11月号に掲載された。
 子どもの喘息では、感染症が症状の誘因となることもあるが、今回の報告では環境要因に着目した。アレルギー検査により喘息の誘因を特定し、それに基づいて環境を調整することが重要になるという。
 たとえば、喘息小児の6割はチリダニアレルギーがあり、カーペットとぬいぐるみを除去することが役立つ可能性がある。ダニの制御には、HEPAフィルターを用いた空気清浄機を使うこと、子どもの布団を防ダニカバーで覆うこと、寝具類を熱い湯で定期的に洗うことも有効である。
 一方、ネコアレルギーもよくみられる誘因だが、この場合、アレルゲンは空気中に広がり極めて付着しやすいため、ネコの新しい飼い主を探す以外の選択肢はない。一部の子どもでは、室内の汚染物質が喘息を誘発することもある。特に喫煙は主要な寄与因子であり、少なくとも家の中では喫煙しないことが鍵となる。
 本報告の共著者である米ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生大学院(ボルティモア)のElizabeth Matsui氏は、「こうした環境要因に対するアプローチは、子どもの喘息管理に不可欠である。これにより薬物療法と同程度の効果を得ることができ、少なくとも長期管理薬の必要性を低減できる」と話す。
 今回の報告書では、ほかにも以下の点が重要だとされている。

・喘息小児の約半数はカビに感受性がある。
・持続性喘息がある小児の3分の2はネコ・イヌにアレルギーがある。
・ゴキブリ・ネズミの糞も一般的なアレルギー性喘息の誘因。都市部の貧困家庭では、ネズミのアレルゲン濃度は郊外の家の1,000倍高い可能性がある。
・ガスストーブなどのガス器具も、喘息を増悪させる可能性がある。
・芳香剤や洗剤に含まれる化学物質は気道を刺激することが多く、喘息発作につながる。

<原著論文>
Elizabeth C, et al. Pediatrics. 2016; 138: e20162589.
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