もう20年くらい前になるでしょうか。
某テレビ局で「抗生物質(=抗菌薬)乱用は耐性菌発生を助長するのでよくない」という内容の番組を作ろうとしたところ、番組スタッフ内で「え?抗生物質ってかぜ薬でしょ」という認識が根強く、作成に至らなかったという話を耳にしました。
その後、徐々に「抗生物質の適正使用」という考え方が普及・浸透してきましたが、現在でも当院の周囲では風邪を引いて受診すると咳鼻水止めの他に抗生物質、果ては抗アレルギー薬まで“全部入り”のセット処方がなされる医院が少なからず存在します。
紹介する論文は、抗菌薬処方を減らしても気道合併症がわずかに増加するものの、全身性の重症合併症リスクは増加しなかった、という内容です。
解析対象はなんと4550万人!
■ 気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ
(ケアネット:2016/07/14)
気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。
◇ 延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡
Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。
気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。
◇ 抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ
英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。
診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。
気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。
そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。
これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。
<原著論文>
・Gulliford MC, et al. BMJ. 2016;354:i3410.
某テレビ局で「抗生物質(=抗菌薬)乱用は耐性菌発生を助長するのでよくない」という内容の番組を作ろうとしたところ、番組スタッフ内で「え?抗生物質ってかぜ薬でしょ」という認識が根強く、作成に至らなかったという話を耳にしました。
その後、徐々に「抗生物質の適正使用」という考え方が普及・浸透してきましたが、現在でも当院の周囲では風邪を引いて受診すると咳鼻水止めの他に抗生物質、果ては抗アレルギー薬まで“全部入り”のセット処方がなされる医院が少なからず存在します。
紹介する論文は、抗菌薬処方を減らしても気道合併症がわずかに増加するものの、全身性の重症合併症リスクは増加しなかった、という内容です。
解析対象はなんと4550万人!
■ 気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ
(ケアネット:2016/07/14)
気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。
◇ 延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡
Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。
気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。
◇ 抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ
英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。
診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。
気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。
そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。
これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。
<原著論文>
・Gulliford MC, et al. BMJ. 2016;354:i3410.