小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」を読んでみました。

2018年11月23日 15時45分17秒 | アトピー性皮膚炎
 今までは、日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインは2つ存在していました。
 一つは日本皮膚科学会作成「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」(皮膚科専門医向け)、もう一つは日本アレルギー学会作成「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015」(非皮膚科専門医向け)。

 2018年、春のアレルギー学会で「皮膚科と内科が協力してガイドラインを一つにまとめている、夏以降に発表される予定」という情報が耳に入りました。
 今までのガイドラインと何が異なるかというと、

・乳幼児は従来、成人よりステロイド軟膏のランク(強さ)を1つ弱いものに下げて使用するとされてきたが、今回、皮疹の重症度により軟膏のランクを決めることとし、年齢で区別しなくなった。
・ステロイド軟膏は従来1日2回塗布が基本であったが、1日1回塗布でも差がないことがわかってきたことが記載される。

 と聞きました。
 ほかには、経皮感作のこと、プロアクティブ療法がどれくらい詳しく書かれているんだろう・・・楽しみにして待つこと数ヶ月、ようやく日の目を見ました。
 日本皮膚科学会のHPからダウンロード可能です。

 早速読んでみました。
 まず、ガイドラインが一つに統一され、「これだけ読めばよい」という現実をうれしく思いました。
 そして上述の情報通りのことが記載されていました。
 それから、小児アトピー性皮膚炎に関して<小児における注意事項>が設けられて解説されており、大変役に立ちます。
 「乳児脂漏性皮膚炎でも一旦改善の後、またはそのままアトピー性皮膚炎に移行していく例があるとされるが、これは、生後1ヶ月の時点では定義上アトピー性皮膚炎とは診断できないだけで、すでに発症していると考えてよい」
 という記載は大胆ですね。

 ただ、プロアクティブ療法に関してはジレンマが残ったままです。
 当院は「小児科・アレルギー科」を標榜していますので、赤ちゃんの湿疹がメインです。
 乳児早期の生後3ヶ月頃から治療が必要になりますが、顔面から発症しますので、顔面に数週間の間はステロイド軟膏を塗り続ける事になります。
 一方、ステロイド軟膏の眼合併症である眼圧上昇・緑内障については、危険性を述べるだけで「どこまでの使用が安全なのか?」が示されていません。
 つまり、「治療は必要だけど安全性は担保されていないから、自己責任でやってね」というスタンスなのです。
 これではガイドラインとして不完全、片手落ちといわざるを得ません・・・残念。


<メモ>

アトピー素因における「家族歴, 既往歴」では蕁麻疹を考慮しない。

→ アトピー素因とはアレルギー体質と言い換えてもよい概念ですが、アレルギー疾患というイメージのある蕁麻疹は、実はアレルギーの関与が証明できるものは1割程度と少ないため、アレルギー疾患に含まないということですね。

小児アトピー性皮膚炎が自然に治る率は?
1.2006-2008年、横浜市・千葉市・福岡市の乳幼児健診でのデータ;
・生後4ヶ月検診でアトピー性皮膚炎と診断された児は16.2%。
・1歳6ヶ月検診では、そのうち70%が寛解していた。
・1歳6ヶ月児の約50%が3歳時までに治癒していた。
2.大島らの報告;
・1 歳未満で小児アレルギー 専門医によりアトピー性皮膚炎と診断された 169 人の乳児を 4年間追跡したところ,症状は 51%で改善,34%で消失していた。
3.阿南らの報告;
・自然寛解は 2~3 歳ごろから認められ,50%が自然寛解に到達する年齢は 8〜9歳,16歳を過ぎると全体の約 90%が自然寛解する。
4.若森らの報告;
・小学 1 年生の時にみられたアトピー性皮膚炎の 4分の 3は中学校入学時に寛解していた。

※ 寛解率に影響する因子(CQ18より)
・寛解率が高くなる因子として、軽症なこと、発症年齢が高いこと、屈側部に皮疹がないこと、食物アレルギーがないこと、郊外に住んでいることなどが挙げられる。
・病院を受診した患者の調査よりも、健診における有症率の調査の方が軽症例が多く、寛解する割合は高い傾向が見られた。


乳児(2歳未満)の皮疹の特徴
・乳児早期には,頬,額,頭の露出部にまず乾燥,次いで潮紅を生じるのが始まりである。
・病勢が強いと潮紅は強まり丘疹が出現すると同時に痒みが生じて搔くために皮疹は傷つけられ湿潤性となり痂皮をつくる。
・同時に皮疹は拡がり,耳周囲,口囲,頬,顎など顔面全体に及ぶ。
・顔面の症状にやや遅れて頸部,腋窩,肘窩,膝窩などの間擦部に滲出性紅斑が生じ,さらに,胸腹部,背部,四肢にも紅斑,丘疹が出現する。


→ ときに、顔面皮疹の目立たない、四肢体幹中心の湿疹乳児に出会うのですが、これはアトピー性皮膚炎と決めつけない方がよいようですね。

皮疹の性質:急性病変と慢性病変を分けて考える。

急性病変)いままさに出現した皮疹としては紅斑丘疹とがある.これらには表皮内に小水疱を多く持つものがあり,それが湿潤性紅斑漿液性丘疹である.それらの悪化または搔破によって表皮が破壊されると滲出液が出て,痂皮となる。
慢性病変)主に搔破の影響で変化した皮疹である。搔破を繰り返すと機械的刺激により皮膚が肥厚し, 苔癬化病変痒疹結節をつくる。


除外すべき皮膚疾患と鑑別ポイント

皮脂欠乏性湿疹
 アトピー性皮膚炎も皮膚の乾燥によって湿疹が生じる疾患で,冬に悪化することも多いが,経過や皮疹の分布,性状などから鑑別する。


→ この記載だけではよくわかりませんが・・・?

Wiskott-Aldrich 症候群
 免疫不全(T細胞機能不全),血小板減少,難治性湿疹を三主徴とする。生後 6カ月までにアトピー性皮膚炎に似た湿疹が顔面や四肢屈側などに出現する。血小板減少による紫斑もみられる。伝染性膿痂疹,単純疱疹,カンジダ症などの感染症を繰り返す。


→ アトピー性皮膚炎様湿疹+α には注意すべし。

高 IgE症候群
 黄色ブドウ球菌を始めとする細菌による皮膚膿瘍(冷膿瘍)と肺炎(肺囊胞),アトピー性皮膚炎様の湿疹病変,血清 IgEの高値がみられる。高 IgE症候群の皮疹とアトピー性皮膚炎の皮疹との臨床的な鑑別は容易ではない。


→ これもアトピー性皮膚炎様湿疹+α に注意。

ステロイド外用薬治療と皮膚科専門医への紹介のタイミング
 4週間程度外用を行っても皮疹の改善がみられない症例,重症例に関しては皮膚科専門医への紹介が望ましい。


→ ということは、ステロイド軟膏連日塗布は4週間までは許容されるということですね。

ステロイド軟膏の年齢による使い分け
 乳幼児,小児において,年齢によってランクを下げる必要はないが,短期間で効果が表れやすいので使用期間に注意する。


→ ここが大きく変わった点です。従来のガイドラインでは、乳幼児には無条件で成人より1ランク弱い軟膏を使用すると記載されてきました。今回初めて、年齢による使い分けが撤廃されたことになります。
 今まで,乳児でロコイド軟膏をしっかり塗ってもよくならない湿疹はすべて皮膚科へ誘導してきたのですが、苔癬化病変にははじめからリンデロンVを使ってよいことになり、診療範囲が広がります。

ステロイド軟膏の外用回数
 急性増悪の場合には 1 日 2 回(朝,夕:入浴後)を原則とする。
 炎症が落ち着いてきたら 1 日 1 回に外用回数を減らし,寛解導入を目指す。
 1 日 2 回外用と 1 回外用の効果の差の有無についてはさらなるエビデンスの集積が必要であるが,1 日 2 回外用と 1 回外用で効果に差がないとするランダム化比較試験(RCT: Randomized control trial)やシステマティックレビューも複数ある。
 一般的には 1 日 1 回の外用でも十分な効果があると考えられ,外用回数が少なければ,外用アドヒアランスが向上することも期待できるため,急性増悪した皮疹には 1 日 2 回外用させて早く軽快させ,軽快したら寛解を目指して 1 日 1 回外用させるようにするのがよい。


→ 私が主に診療している生後6ヶ月未満の早期乳児には、この文章の使い方は合わないような気がします。アトピー性皮膚炎の初発は、生後数ヶ月頃からはじまる顔面の痒い湿疹で、それがどんどん体幹・四肢へ広がっていきます。つまり、乳児早期は急性増悪・病変拡大の時期であり、定常状態ではないのです。ですから、1日1回に減らすと皮膚の赤みが出てきて、塗布間隔を開けられなくなると思われます。
 プロアクティブ療法施行中の患者さんには、実際に塗っているお母さん(あるいは養育者)に「ステロイド軟膏を塗る前になると皮膚科赤みを帯びてきますか?」と質問します。「はい、赤くなります」という回答の場合は塗布間隔をそのまま維持し、「いいえ、赤くなりません」という回答の場合は塗布間隔を開けます。お母さんに決めてもらうので、納得の上の治療となります。

ステロイド軟膏の顔への使用
 顔については,原則としてミディアムクラス(IV群)以下のステロイド外用薬を使用するが,重症の皮膚炎に対しては,重症度に応じたランクの薬剤を用いて速やかに寛解に導入した後,漸減あるいは間歇投与へ移行するようにし,さらにタクロリムス軟膏外用への移行に向けて努力する。


→ どれくらいの期間と塗布量までが安全なのか、目安を示した欲しかったです。

ステロイド軟膏の眼への副作用について
 眼周囲の病変に対するステロイド外用薬の副作用として問題となるのは,白内障と緑内障である。
 ステロイド外用薬の眼周囲への使用は,アトピー性皮膚炎患者における白内障のリスクを高めるとは言えないと考えられる。アトピー性皮膚炎患者にみられる白内障は,ステロイド忌避による顔面皮疹の悪化や叩打癖,原病による顔の皮疹の炎症などが誘因と考えられる。
 ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており,緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが,弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる。眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意する必要があるが,十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要であり,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである。また,これらの眼合併症が懸念される場合は,眼科との連携が重要である。


→ これは、日本皮膚科学会作成の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016」の記載と変わりません。私としては「ロコイド軟膏なら○週間までは安全」と明記して欲しかったのですが、まだデータがないようですね。

プロアクティブ療法はアトピー性皮膚炎の皮膚症状の評価に精通した医師によるか,あるいは皮膚症状の評価に精通した医師と連携して行われることが望ましい

→ ごもっとも。しかし当院の治療では改善悪く、近隣の皮膚科専門医に紹介しても、より強いランクのステロイド軟膏によるリアクティブ療法に変更される傾向があります。皮膚科学会内で意見を統一していただきたいものです。

抗ヒスタミン薬の分類
 抗ヒスタミン薬には,抗コリン作用や鎮静作用が比較的強い鎮静性抗ヒスタミン薬(第一世代)と,眠気・インペアー
ドパフォーマンス(眠気の自覚を伴わない集中力,判断力,作業能率等の低下)・倦怠感などが少なく抗コリン作用のない非鎮静性抗ヒスタミン薬(非鎮静性第二世代)がある。脳内 H1受容体占拠率の程度により,
・50%以上を鎮静性
・50〜20%を軽度鎮静性
・20%以下を非鎮静性
と 3 群に分け,第二世代はおおむね 30%以下。


入浴とアトピー性皮膚炎
・湯の温度が42℃以上でそう痒が惹起されるため、入浴・シャワー浴時は38〜40℃がよい。
・発汗や体のほてりが収まったら速やかに保湿剤を塗布する。
・皮脂の融点は約30℃であり、温めのお湯でも皮脂はある程度除去できる。


→ 世界を見渡すと、砂漠や草原で生活している人々は毎日お風呂に入る習慣はなく、年に数回という民族もいます。だからといって彼らが皆、痒い湿疹で悩まされているわけではなく、ふつうに生活できています。
 ですから、ケースバイケースで適切な方法を探る、というスタンスを持てばよいと思います。

接触皮膚炎(=かぶれ)を疑うタイミング
・アトピー性皮膚炎の治療への反応が期待通りでない場合。
・皮疹の分布が典型的でない場合。
・成人例では最近になって発症あるいは悪化した場合。


食物除去は医学的根拠がなければ推奨されない。
・アレルゲンになりやすいという理由で特定食物を除去することは推奨されない。
・アレルゲンになりやすい食物というだけで、摂取する食物の種類を制限することはアトピー性皮膚炎の治療のために有効ではない。
・食物除去を行うためには、アトピー性皮膚炎に対して抗炎症治療を十分に行った上でアレルゲン除去試験を行うべきである。


→ しかし巷では未だに「検査結果信仰」がはびこっていて困ります。

妊婦・授乳婦への食事制限(アレルゲン除去)は児のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではない。
・2000年当時、米国小児科学会は妊婦へのアレルゲン除去食を推奨した。
・2006年および2008年に妊婦・授乳婦へのアレルゲン除去食によるRCTのシステマティック・レビューが報告され、妊婦や授乳婦のアレルゲン除去による食事制限は、生後から18ヶ月児までのアトピー性皮膚炎の発症を抑制する効果はないとされた。


→ 私がアレルギー専門医になって四半世紀が経過していますが、この「予防としてのアレルゲン除去の正否」が一番変わった点ですね。食物アレルギーを予防するためにも治療するためにも、アレルゲンを除去するより注意しながら積極的に食べる方向に180°変わりました。

発汗活動は、アトピー性皮膚炎の症状をよい方向にも悪い方向にも導く。
 発汗を避ける指導は必要なく、むしろ発汗後の汗対策指導を重視すべきである。
(汗の利点)
・汗の主要な構成要素:電解質(塩化ナトリウム,カリウム等),重炭酸ナトリウム(HCO3-),尿素,ピルビン酸,乳酸,抗菌ペプチド,プロテアーゼ,プロテアーゼ阻害物質がある。
・尿素と乳酸は天然保湿因子として角層の水分保持に関わる。汗に由来する乳酸ナトリウムは天然保湿因子として機能し,特に角層上層に多く含まれるため皮表の保湿に大きく関わると考えられる。
・尿素の汗中濃度は血漿中と同程度を示し,持続的な角層の保湿に関わる他,角層の剝脱を調節する作用がある。
・その他,汗のシステインプロテアーゼ阻害,セリンプロテアー ゼ阻害作用はシステインプロテアーゼ抗原のダニ抗原(Derf1), キウイフルーツ抗原(アクチニジン)を失活するとともに,過剰なセリンプロテアーゼ活性に伴う角層の脆弱性を回復する効果が期待できる。
・汗に含まれる抗菌ペプチドは皮膚表面の感染防御にも関わる。
(汗の欠点)
・これら汗のもたらす利点は発汗後の時間経過とともに損なわれる。
・気化できず皮表に残存する余剰な汗に混入するマラセチア由来抗原が症状悪化につながると懸念されている。


→ 汗をかくことは正常の生理反応、でも放置するとアトピー性皮膚炎の悪化因子になり得るのでケアが必要、ということになります。

細菌とアトピー性皮膚炎
 小児アトピー性皮膚炎の皮膚においては、増悪期には皮膚細菌叢の多様性が低下し、黄色ブドウ球菌の割合が増加する。
抗菌薬内服)感染徴候のないアトピー性皮膚炎に対して抗菌薬内服が有効であったとする報告はなく、抗菌薬内服は勧められない。
ポピドンヨード液)積極的に推奨するだけの医学的根拠に乏しい。補助療法として考慮することもあるが、びらん面に対する刺激による皮膚炎の悪化、アレルギー性接触皮膚炎、アナフィラキシー、甲状腺機能への影響などの可能性があり、安易に行うべきではない。
ブリーチバス療法)次亜塩素酸を使用する。米国を中心に広く行われており、その有用性を示した報告もあり、乾癬の関与が疑われる症例に対しての使用は推奨されるが、効果の検証はまだ不十分であり国内での指針も存在しない。


→ ポピドンヨードやブリーチバス(次亜塩素酸)は消毒療法という位置づけで、皮膚表面の細菌を除去する目的で使用します。
 ここで気になるのが、皮膚の正常細菌叢です。腸管内にも口腔内にも「正常細菌叢」というのがあるのは認知されてきていますが、皮膚にもあります。ふつう、表皮ぶどう球菌が優位で、病的状態になると黄色ブドウ球菌が優位になると耳にしたことがあります。
 消毒するということは、この正常細菌叢を壊す施術でもあります。すると、バランスが崩れて悪い影響が出る可能性も出てきます。ですから、感染症の要素が疑われる場合は除菌は必要かもしれませんが、そうでもない場合は効果より副作用が上回るリスクをはらんでいると思います。

真菌とアトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎患者におけるカンジダやマラセチアに対する特異的IgE抗体の測定やプリックテストの結果から、皮疹の重症化に真菌が関与している可能性が示唆されてきたが、病態との明確な関連性は不明である。
 アトピー性皮膚炎に対する抗真菌薬の治療効果については、抗真菌薬内服が有効であったとする報告、頭頸部の皮疹に対して抗真菌薬の外用が有効であったとの報告があるが、大規模な試験はない。


→ 成人の背中のニキビはマラセチア感染が関与しているとされています。真菌の関与は昔から繰り返し話題になりますが、定着した治療にはなっていないので、少なくともメインの原因ではないのでしょう。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎
 2008年にLackらが提唱した「二重抗原曝露仮説」により食物アレルギー発症における「経皮感作」と「経口免疫寛容」が注目されるようになった。
・乳児アトピー性皮膚炎が食物アレルギー発症のリスクであるとの報告は「経皮感作」説を支持する。
・アレルギーハイリスク児に対する早期スキンケアによる介入によりアトピー性皮膚炎発症予防の可能性が報告されたが、食物アレルゲン感作の予防効果を示すには至っていない。
・アトピー性皮膚炎児では鶏卵の摂取が遅いほど鶏卵アレルギーを発症するリスクが高い。アトピー性皮膚炎乳児において、アトピー性皮膚炎を寛解させた上で、離乳早期の鶏卵摂取が1歳での鶏卵アレルギーの発症率を減少させることを報告し、食物アレルギー発症予防として乳児期における経口免疫寛容の誘導の重要性を示唆した。


<参考>「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」(日本小児アレルギー学会、2017)

→ 10年後のアトピー性皮膚炎&食物アレルギーに対する予防法は、「生まれたときから積極的にスキンケアをして皮膚バリアを保ち、アレルゲンになりやすい食材を加熱したものを早期に開始する」となっているかもしれません。

スギ花粉症とアトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎でスギ花粉に対するアレルギー性鼻炎を有している場合、スギ花粉の接触によりアトピー性皮膚炎を増悪させることがある。その症状は顔面などの皮膚露出部位のみでなく、全身に及ぶことがある。


→ 近年「スギ花粉症皮膚炎」などと呼ばれている病態です。患者さんからの訴えがなくても、こちらからあえて問診すると皮膚の痒みを感じている方はたくさんいます。

カポジ水痘様発疹症
 単純ヘルペスウイルスの初感染あるいは再活性化により発症する。
 通常の単純ヘルペスと異なり、顔・頚部を中心に、湿疹病変上に小水疱や膿疱が多発し、周囲に散布する。発熱、リンパ節腫脹を伴う。抗ウイルス薬(アシクロビルあるいはバラシクロビル内服、アシクロビル点滴)が必要である。


→ この病態、何回か診たことがあります。抗ウイルス薬の内服と点滴の使い分けを記載した欲しかったですね。

<小児における注意事項>

小児アトピー性皮膚炎の臨床像
・小児では成長段階に伴って湿疹病変の部位が変化することに留意する。
・乳児アトピー性皮膚炎(2歳未満)における“慢性”の定義は6ヶ月ではなく2ヶ月である。
・乳児期に重症であった児が必ずしもその後も重症であるとは限らず、1歳から1歳半くらいでほぼ寛解していく児も少なくない。
・幼児期は乳児期から移行していくものと、3歳頃を中心に新たに発症する児がある。
・乳児では頬部を中心とした顔・頭などに始まり、悪化すると首回りから体幹、四肢に拡大する紅斑、浸潤性紅斑が出現する。
・顔面の皮疹は4〜6ヶ月頃をピークとして徐々に落ち着き、頚部や四肢関節部の病変に移行していく。
・幼児期〜学童期の湿疹病変は頚部や四肢関節部位が中心となる。
・思春期以降は成人と同様に頭、頚部、胸、背中などの上半身に皮疹が強くなる傾向がある。


→ これらを考慮に入れた治療スケジュールが必要になります。

経母乳負荷試験
 食物アレルゲンに感作されている乳児アトピー性皮膚炎では、母親が摂取した原因食物により母乳を介して皮疹が悪化することがある。疑わしい場合は診断のために母親に疑わしい食品を除去させて症状の改善を見たら、母親に再度摂取させた状態で母乳を児に与えて症状の悪化の有無を観察する(経母乳負荷試験)。感作があっても母親の除去は必要のない例が多い。


→ 経母乳負荷試験で陽性でも、母親がその食品を完全除去することが必要な例はほとんどないと言われています。

乳児脂漏性皮膚炎とアトピー性皮膚炎
・脂漏部位(乳児では顔面、頭部)に黄色調の落屑を伴う紅斑をきたす湿疹病変で、生後1ヶ月頃に好発しやすい。
・浸出液が見られるような場合はマイルドクラスのステロイド軟膏を外用をすると軽快し、アトピー性皮膚炎のように外用を中止すると再燃を繰り返すということはあまりない。
・一方で、乳児脂漏性皮膚炎でも一旦改善の後、またはそのままアトピー性皮膚炎に移行していく例があるとされるが、これは、生後1ヶ月の時点では定義上アトピー性皮膚炎とは診断できないだけで、すでに発症していると考えてよい。どのように早期に見分けるかであるが、“痒み”があるかどうかは重要なサインとなる。


→ 痒くない湿疹は一過性で自然に落ち着き、痒がる湿疹は遷延悪化し慢性化することを、日々の診療で実感しています。

小児アトピー性皮膚炎と鑑別が必要な疾患
 アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹でない場合、ステロイド外用で改善が乏しい場合は、先天性皮膚疾患(先天性魚鱗癬、Netherton症候群、色素性乾皮症など)との鑑別が必要である。


→ この疾患群は、一般の小児科医は診療経験がありません。なので私は治療の手応えがないと(具体的にはステロイド軟膏を2週間しっかり塗っても改善しない場合)、鑑別診断を含めて皮膚科専門医へ誘導しています。

アトピー性皮膚炎に対する民間療法の現実
・民間療法の定義:医師が医療使節において施行する医療以外の医療の総称。その多くのものは作用機序が科学的には検証されていない。
・アトピー性皮膚炎の67%に何らかの民間療法の経験があったとの報告がある。
アトピー性皮膚炎増悪・重症化による入院例の44%が民間療法による不適切治療が原因であったとの報告がある。
・ホメオパシーレメディの有効性を評価したRCTでは、プラセボ群と比較して有意な改善は認められなかった(つまりホメオパシーはアトピー性皮膚炎に無効)。
※ 代替医療の定義:通常診療の代わりに用いられる医療。
※ 補完療法の定義:通常医療を補完する医療。


→ 民間療法は金儲けという要素が見え隠れします(アトピービジネス)。悪化しても誰も責任を取ってくれませんので、結局病院に泣きつき駆け込み入院する例が後を絶ちません。
 ただ、アトピービジネスが生まれる背景には、患者さんが皮膚科専門医の治療に満足していないという現実があることを忘れてはいけないと思います。

<CQ>(Clinical Question)より抜粋

CQ6:タクロリムス軟膏の外用は皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めるか?
A. 現時点ではタクロリムス軟膏が皮膚癌やリンパ腫の発症リスクに関与するとは言えない(今後さらなる検討が必要)。


→ タクロリムス(プロトピック®)軟膏が登場したとき、「ガン化する可能性を説明した上で使用する」ことが義務づけられていましたが、最近は疑いが晴れてきたようですね。
 ただ、当院では赤ちゃん中心で、2歳以上の患者さんは皮膚科通院をお勧めしていますので、使用する機会がありません。

CQ8:再燃を繰り返すアトピー性皮膚炎の湿疹病変に寛解維持にプロアクティブ療法は安全か?
 ステロイドは16週間、タクロリムスは1年間までの観察期間においては、多くの報告が基剤の外用と比べて有害事象の有意な差はないとしており、比較的安全性の高い治療法であると考えられる。しかしそれ以上の期間での検討がなされておらず、副作用の発現については注意深い観察が必要である。


→ 当院では生後数ヶ月の乳児湿疹〜初期アトピー性皮膚炎を主に治療していますが、数ヶ月のうちに週2回ペースまで持って行ける例がほとんどで、その後は「卒業」して継続するかどうかは家族に任せています。
 九州大学皮膚科(古江教授)のHPには「ステロイド軟膏を3日に1回塗るペースなら、長期に使っても副作用は問題にならない」と書いてあるので、私はそれを信じています。

CQ11:アトピー性皮膚炎の病勢マーカーとして血清TARC値は有用か?
・6ヶ月以上15歳未満の小児アトピー性皮膚炎において、血清TARC値はSCORADと有意な相関を示し、治療に伴う変動(改善)ともよく一致したという報告(藤澤ら)がある。
・血清TARC値は小児では年齢が低いほど高くなるので、年齢によって基準値に違いがあることに注意する必要がある。
血清TARC値は水疱性類天疱瘡や菌状息肉症などアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患でも上昇するので、注意が必要である。


→ 当院ではこのTARC測定をしておりません。赤ちゃんに何回も採血するのはされる方もする方も大変です(1回で成功するとは限らないし)。それから、乳児では正常値が変動し、アトピー性皮膚炎以外の病態でも変動するため、評価が難しいというものあります。
 私は、皮膚の状態を「かゆみ」で評価しています。 毎回受診の際に、お母さんに「かゆみ」「睡眠」「満足度」を5点満点で何点か聞いて、評価・指導の参考にしています。

CQ21:石けんを含む洗浄剤の使用はアトピー性皮膚炎の管理に有用か?
(利点)洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚を清潔に保つことは重要である。
(欠点)一方、石けん・洗浄剤の主成分は界面活性剤であり、頻回にわたる誤った使用はかえって皮表脂質や角質細胞間脂質を溶出させ皮膚の乾燥を増悪する可能性がある。石けん使用後の一過性のpH上昇は、一時的にバリア機能を低下させる。さらに、洗浄剤に含有される色素や香料などの添加物は、皮膚への刺激を引き起こす可能性も懸念される。
・乾燥がつよい症例や部位、季節、あるいは石けん・洗浄剤による刺激が強い場合には石けんの使用を最小限とし熱すぎないお湯(38〜40℃)にて十分すすぎを行う。石けん・洗浄剤はなるべく脱脂力が制御されているものを選択する。
・使用する石けん・洗浄剤の種類は、基剤が低刺激性・低アレルギー性、色素や香料などの添加物を可及的に少なくしている、刺激がなく使用感がよい、洗浄後に乾燥の強いものは避ける、などの適切な洗浄剤を選択することが重要である。
・よく泡立てて機械的刺激の少ない方法で皮膚の汚れを落とし、洗浄剤が皮膚に残存しないよう十分にすすぐことも重要である。


→ 石けんについては、医師の間でも意見が異なります。
 積極的に使用し、その後に保湿する派。
 お湯だけで洗い、石けんは使わない派。
 どちらが正しいと言えませんが、まあケースバイケースでしょうか。
 私は前者です。ただし、垢すりで擦って洗うのではなく、百均で購入できる「ほいっぷるん」で泡立てて、指のお腹で撫でるように優しく洗うよう指導しています。 それでも熱心なお母さんは洗いすぎることがあり、乾燥性湿疹ではないけど皮膚が荒れがちな赤ちゃんには一度石けん使用をやめるよう指導すると、一部改善する例があります。

CQ22:乳児の湿疹に沐浴剤は有用か?
・沐浴剤は製品により組成が異なる。
・健常な皮膚には界面活性剤としての作用が低いため使用後に肌を洗い流さなくても炎症を起こすことが少ないが、湿疹部位には刺激が強くなることがあり注意が必要である。湿疹のある児には推奨されない。


→ 沐浴剤は石けんと違って界面活性剤としての作用が少なく、洗い流さなくてもよい点が特徴です。健康な肌にはそれでよいのでしょうが、湿疹病変のある赤ちゃんの肌はバリア機能が低下していますから、強い作用がないものでも化学物質が皮膚に付着し続けることは好ましくないと思われます。

CQ24:アトピー性皮膚炎の治療にブリーチバス療法は勧められるか?
・次亜塩素酸を溶解した風呂に入浴すること。
・現時点では、日本国内では勧められない(製品もデータもない)。
・コクランレビューでは、アトピー性皮膚炎患者における黄色ブドウ球菌の除菌による治療効果を検討したところ、有意に病勢を改善させたのはブリーチバス療法のみであったことを報告している。
・2014年米国皮膚科学会は、中等症〜重症のアトピー性皮膚炎で感染の関与が疑われる症例に対し、治療選択肢としてブリーチバス療法を推奨すると発表した。


CQ25:日焼け止めはアトピー性皮膚炎の悪化予防に勧められるか?
・アトピー性皮膚炎はいわゆる光線過敏症ではないので厳重な遮光は必要ないが、過度の太陽光への暴露は皮疹の悪化因子の一つになるので、サンスクリーン製品を使用すべきである。一般的には紫外線吸収剤を配合しておらず(ノンケミカル)、紫外線散乱剤を含有している製品が適している。ただし、ジクジクした湿潤病変や強い掻破痕への使用は避けるべきである。
(紫外線のメリット)紫外線には皮膚の免疫に関係する細胞の働きを抑制する作用があり、アトピー性皮膚炎の皮疹を軽快させる効果が期待できる。
(紫外線のデメリット)紫外線による皮膚バリア機能低下の可能性がある。
(赤外線のデメリット)赤外線の作用により、皮膚表面温度が上昇し発汗することで湿疹病変の紅斑や痒みが増強する可能性がある。


→ 患者さんからたまに「海水浴へ行ったら湿疹がよくなった」と報告を受けることがあります。ですから、ヒリヒリ痛いほど日焼けしなければ、適度の日光は悪化因子にはならず、むしろ改善因子になり得ると思われます。
 紫外線吸収剤より紫外線散乱剤の方が皮膚への刺激は少ないことが、従来から指摘されてましたが、その通り記述されています。
 「日焼け止めクリームは湿疹の治療軟膏より先に塗るか、後に塗るか」という質問もよく受けますが、私は「軟膏の後」と答えています。この点については、ガイドラインには記載がありませんね。
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成人のRSウイルス感染症

2018年11月20日 10時02分04秒 | 感染症
 RSウイルスは乳幼児が罹ると気管支炎になりやすいことで小児科医の間では有名です。一度罹っただけでは終生免疫は得られず、繰り返し感染することによりだんだん軽症化し、学童以降は咳の頑固な風邪、程度で済むようになります。
 しかし大人になっても罹るかどうかは、小児科の教科書には書いてありません。近年、生まれたお祝いに会いに来た祖父母から風邪をもらって重症化し、それがRSVだった、という話をたまに耳にします。すると、

 「大人もRSVに罹るんだろうか?」

 という素朴な疑問が生まれます。
 その答えとなるWEB配信レクチャーを見つけました。

成人RSウイルス感染症」(坂総合病院 高橋洋Dr.)
ラジオNIKKEI 感染症TODAY

<ポイント>
・成人もRSVに罹患し、高齢者(とくに基礎疾患のある例)はこじれやすい。
・インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが、全身症状(高熱、倦怠感、筋肉痛など)は軽度。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱と低いため、診断には抗体価の評価が必要。
・高齢者肺炎の中でもRSV陽性肺炎例は重症化しやすい。
・RSV陽性肺炎のうち、健常成人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。


 以上、健康成人では問題にはなりませんが、高齢者(とくに基礎疾患保有者)では重症化しやすい注意すべき病原体と言えそうです。しかし迅速検査が役に立たないのはやっかいですね。


<メモ>

RSV感染症の概要
・接触/飛沫感染
・家族内感染が50%
・潜伏期:3〜5日間
・顕性感染90%以上(不顕性感染<10%)・・・ただし乳幼児のデータ
・流行時期は従来冬季であったが、近年は夏から秋にかけての流行も見られる。
・診断方法:
(小児)抗原迅速検査、
(成人)ペア血清で抗体価測定・・・成人では出現するウイルス量が乳幼児の千分の一と非常に少なく、陽性持続期間も数日間のみであるため、迅速検査の陽性率が非常に低い(分権的には20〜30%)。
※ 血清抗体価は乳幼児では上昇が不良な場合も少なくないが、成人では有意に上昇する例がほとんど。

成人でのRSウイルス感染症の疫学
・年間に健常高齢者の5%弱、基礎疾患保有者の6%強が罹患する。
・基礎疾患保有者が感染すると15%で入院が必要になる。
・入院率・死亡率はインフルエンザとほぼ同等である。
・高齢者施設では年間に入居者の5〜10%が罹患し、発症例のうち10〜20%が肺炎を併発する。
・成人肺炎の原因としては1〜10%と報告に幅がある(検査法/流行状況に影響されるためか)。

坂総合病院のデータ
・1年間約300例の成人肺炎例を対象とし抗原迅速検査、PCR、抗体価(ペア血清)を検討。
・流行期間(11月〜4月)のRSV陽性率10%強。
・迅速診断陽性例は全体の20%弱(PCR陽性例では40%弱)
診断には迅速検査では不十分であり抗体価の評価が必要
・RSウイルス関連肺炎例:18例(約6%)

坂総合病院における成人RSウイルス肺炎186例の臨床像
・ほぼ通年で陽性例が確認されている。
・病型:市中肺炎(CAP)が2/3、医療・介護関連肺炎(NHCAP)が1/3。
・入院治療例が80%、外来治療例が20%。
・平均年齢77.6歳で他のウイルス関連肺炎例と比較して最も高齢で、大部分が60歳以上に分布している。
→ 高齢者が罹患しやすいということではなく、若年者では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈すべき。
・予後:死亡退院率は6.1%(ただし70歳未満の死亡例はゼロ、70歳代では3.4%、80歳代では6.9%、90歳代では15%と年齢と共に死亡率が上昇)。
・合併感染例は約50%で肺炎球菌やインフルエンザ菌が多い。冬季では肺炎球菌肺炎のうち20%以上がRSウイルスとの合併感染だったシーズンもある。
・RSV単独感染例と混合感染例の予後を比較すると、単独感染例の方が生命予後は明らかに不良だった。
・臨床像:最高体温は平均37.9℃、呼吸器症状(喀痰、咳嗽、喘鳴)は高頻度で、72%で急性期に酸素投与を必要とした。全身症状(食思不振、倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛など)を呈する例は比較的少数にとどまった。
インフルエンザと比較すると、呼吸器症状や低酸素血症は目立つが高熱はきたしにくく全身症状は軽度
・胸部画像所見:多発性、両側性の分布を示す例が過半数を占めるが、陰影自体は通常の浸潤影を呈するケースが多く、スリガラス陰影が主体の例は全体の1/4。
・感染源不明が70%。
・施設入所例が20%であるが施設内流行ではなく散発例。
→ RSウイルスは流行期間においてはごく軽症の上気道炎症状で市中を広く循環しているものと推測される。
・健常人の発症例は10%以下であり、大部分の例は明らかな基礎疾患を有している(慢性呼吸器疾患>脳血管障害後遺症>慢性心疾患>糖尿病・・・)。
・大部分の例で抗菌薬が併用されていた。

ウイルス関連肺炎の病像比較
・初期診断は「誤嚥性肺炎」が37.5%と多い。
・RSV陽性肺炎例と陰性肺炎例を比較すると、陽性例の方が重症になりやすい。
・インフルエンザ陽性肺炎例と比較すると、RSウイルス陽性例の方が死亡率が高く、入院期間も長期化していた。
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エピペン®の歴史

2018年11月01日 14時54分43秒 | 食物アレルギー
 エピペン®は、小児科医にとっては重症の食物アレルギー患者さん(アナフィラキシー・タイプ)に処方する携帯用薬剤です。
 中身はアドレナリンという、蘇生にも使う劇薬。
 当初は林業に従事する人たちのハチ毒アレルギー用として登場しましたが、その後食物アレルギーにも使えるようになりました。
 その頃は、小児科医でも講習を受けなければ処方できなかったと記憶しています。
 
 所持しているのが患者さん自身であり、エピペン®を使う必要な場合は基本的に患者さんは重症状態。
 自分で注射することが困難なことが多いので、周囲の人たちが注射すべき場面も出てきます。
 こういう場合は家族が行うのが慣例でしたが、学校や遠方ではいつでも家族が駆けつけられるわけではなく、物理的に困難を伴います。
 すると対処が遅れて命取りになる可能性も出てきます。

 この状況を解決するため、患者さんがアナフィラキシーに遭遇した際、“周囲の人たち”も注射してよい、という流れができました。
 はじめは患者さんが搭乗した救急車の救命救急士
 次に学校教師
 次に保育園の保育士
 そして現在は「保育所で教職員が行う場合に限らず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」というところまできました。

 患者さんとその家族、小児科医、学会などによる努力のたまものです。
 ここまでの歴史を群馬大学小児科教授の荒川浩一先生が「群馬小児アレルギー親の会会報 2018.10 No.61」にまとめているのを見つけましたので、メモしておきます。

(1987年)米国FDA(食品医薬品局)で承認され販売開始。
(1996年)米国から輸入し日本で国有林の現場職員に「ハチ刺症によるアナフィラキシー」に“治験的扱い”として所持させ効果を上げた。
(2003年)8月:厚生労働省から承認され販売。適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療」。
(2005年)食物や薬物等によるアナフィラキシー反応」及び「小児」への適応を取得。この時点では保険適応はなく全額自己負担。
(2009年)3月:救命救急士によるエピペン使用が可能となる。
(2009年)7月:「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(文部科学省)において学校教職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)3月:「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」(厚生労働省)保育所職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)9月:薬価収載され保険適応となる。処方医に対する講習の実施と、未使用製剤の回収が承認条件。
(2013年)6月:NPO法人が非医療従事者(教職員等以外を含む)におけるエピペンの取り扱いを厚生労働省に問い合わせした返答「保育所で教職員が行う場合に限らず、反復継続する意志がない場合には“医業”に当たらず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」。

★ 学校教職員や保育所職員の場合は、保護者からの「管理指導表」を得て、ある意味契約を交わして、代理注射を行う図式になっている。


 というわけで、患者さんがアナフィラキシーに遭遇し自分でエピペンを注射できない状況に陥った際は、(限定はされますが)周囲の人たちが注射しても問題ない、という環境が少しずつ整ってきました。
 ただ、医療関係者以外が劇薬の注射をすることは当然躊躇される行為であり、事前の講習やシミュレーションを十分行うことが必要であることは言うまでもありません。
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