小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

新設される「小児かかりつけ診察料」について

2016年02月21日 06時48分47秒 | 小児医療
 2016年春の診療報酬改定(提供される医療の値段を決める会議)で「小児かかりつけ診察料」という項目が新たに設定されたそうです。
 記事(2016/2/16:日経メディカル

 気になるのは「患者からの電話などによる問い合わせに原則常時対応する」という箇所。
 これは24時間対応するという意味ですから、医師は夜中でも起こされて対応を迫られることになります。
 「時間外対応加算1または2」の内容は以下の通り;


・時間外対応加算1:標榜時間外において常時、患者からの電話等による問い合わせに応じる。
・時間外対応加算2:標榜時間外の準夜帯において、患者からの電話等による問い合わせに応じる。休日、深夜又は早朝は留守番電話等で対応しても差し支えない。


 昨今、救急医療を担当する医師たちが疲弊するというニュースが多くなりました。
 そのような当直明けの連続勤務が常態化した過酷な勤務医生活に別れを告げて(あるいは体を壊して)開業するのは40歳前後。
 私もその一人ですが、齢40を迎えた体には、当直明けの連続勤務がきつい。いや、頭がボーッとして使い物にならず、患者さんに迷惑をかけるリスクもあります。
 飛行機のパイロットにこのような勤務体制を強いたらどうなるか・・・お分かりですね。

 そして現在の開業医の平均年齢は60歳くらいといわれています。
 24時間労働を迫るこの指示は、労働基準法に違反していないのでしょうか?

 先日、国会議員が育休を取る取らないで話題になりました。
 私の印象は「恵まれた環境だなあ~」というもの。
 だって、開業医の私が育休を取ると、医院の収入はゼロになり、生活できなくなります。
 その間の職員給与を保障したり、私の代わりに誰か派遣してくれる制度はありません。
 従業員側は産休・育休と権利を主張しますが、雇用者側にはその権利が事実上存在しないのです。
 両方の立場を経験した私としては、不公平さを感じざるを得ません。
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小児のIgE陽性者の4分の1がアレルギー疾患と縁がない(つまり疑陽性)。

2016年02月21日 06時29分18秒 | アレルギー性鼻炎
 年度末となり、食物アレルギーの連絡票(小学校・保育園・幼稚園のアレルギー疾患管理指導表の類)の更新時期になり、当院でも、書類を携えて来院する患者さんが散見されます。
 以前は“アレルギー検査信仰”ともいうべき、検査結果提出を義務づける園が多く、検査結果と症状は必ずしも一致しないことを説明してもなかなか理解してもらえず苦労しましたが、最近は減ってきました。

 先日、下記の記事が目に止まりました。
 IgE陽性を判断材料に診断を進めると過剰診断に陥る危険性を示した論文です。

■ 小児のIgE感作と疾患の関連 4分の1が疾患を有さず
2015/11/17:ケアネット
 小児は皮膚炎、喘息および鼻炎に罹患することが多いが、それらの有病率は年齢とともに変化する。また、IgE抗体保有と疾患との関連もよくわかっていない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のNatalia Ballardini氏らは、感作と疾患との関連を明らかにする目的で、出生コホート研究にて16歳まで追跡された小児を調査した。その結果、特異的IgE抗体は小児期全体における皮膚炎およびアレルギー性疾患の複数罹患と関連していること、また4歳からの喘息および鼻炎と強く関連していたことを報告した。一方で、IgE感作を認める小児の23%が、小児期にいかなる疾患も呈しないことも判明したという。

 対象は、スウェーデンの出生コホート研究BAMSEに登録された小児2,607例であった。
 1~16歳の間6評価時点で、親の報告に基づき皮膚炎、喘息、鼻炎の罹患を確認した。また、4、8、16歳時の採血結果からIgE感作の有無を調査。一般的な食物または吸入アレルゲンに対するアレルゲン特異的IgE≧0.35kUA/Lの場合を感作ありと定義した。
 一般化推定方程式を用い、感作による皮膚炎、喘息、鼻炎および複数罹患のオッズ比を算出した。
 主な結果は以下のとおり。

・16歳までに少なくとも1回の感作が報告された小児は、51%であった。
・感作を受けている小児の約4分の1(23%)が、いかなる疾患も有していなかった。
・潜在的な交絡因子を補正後、感作と次の有意な関連が認められた。
 (1)小児期全体に及ぶ皮膚炎
 (2)1~16歳時の皮膚炎・喘息・鼻炎の複数罹患(オッズ比:5.11、95%信頼区間[CI]:3.99~6.55)
 (3)4~16歳における喘息および鼻炎

(原著論文)Ballardini N, et al. Allergy. 2015 Oct 27.


 不思議に思ったのは、食物アレルギーとの関連に言及されていないこと。
 有意差を持って関連がなかったのか、検討されなかったのか・・・原文を読まないとわかりませんね(^^;)。
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第16回食物アレルギー研究会へ参加してきました。

2016年02月15日 05時52分08秒 | 食物アレルギー
2016.2.14に昭和大学上條講堂で開催された件名の研究会に参加し、まる1日、食物アレルギーにどっぷりつかってきました。

今回は「学校給食におけるアレルギー対応の現状と課題」がメインテーマ。
上記について、医師・学校・教育委員会・文部科学省の各立場から講演がありました。

食物アレルギーの診断をするのは医師ですが、それを患者である子どもの日常生活にどう反映させるか・・・QOLを落とさず、かつ安全を確保する方法がいかに難しく、現在も手探り状態であることを浮き彫りにしたシンポジウムでした。

例えば、重症食物アレルギー児が入学し、彼は給食時間は他の生徒から離され、先生の隣で食べます。誤食事故を防ぐためです。
しかし、安全を期するあまり、学校はボランティアを雇用して彼が誤食しないように見張り、給食時間以外でも彼の机を離しはじめました。
彼はみんなでわいわい楽しいはずの給食時間も、ふだんの学校生活も失ってしまったのです。
確かに以前より安全は確保されたものの、学校生活のQOLは下がりました。

こんな感じです。

一般演題を挟んで、午後は現在改訂中の食物アレルギーガイドラインの中間報告。
診断に関しては、プロバビリティ・カーブの多様性やアレルゲン・コンポーネントによる進歩が紹介されました。
治療に関しては、経口免疫療法の位置づけについては「臨床研究」にとどめ、「一般的な治療」と認められないことが再確認されました。
一時期ブームとなった「食べさせて治す」という方法が、その危険性により時期尚早として沈静化した感があります。

ただ、経口免疫療法~経口負荷試験の間にグレーゾーンがあることを、私を含めて疑問に思っている医師が多いことも無視できません。

経口負荷試験は、毎日食べさせて脱感作状態を作り、それを維持することで治癒を期待する方法。
一方、経口負荷試験は本来は「食べて症状が出るか出ないかの確認」という検査目的ですが、それを定期的に行うことにより、経口負荷試験の緩徐法に近づいてくるのです。
それがどこまで検査で、どこから治療なのか・・・今のところ誰にもわかりません。
今後の臨床研究の大きな課題です。

上記研究会とは別に、前日の2/13に「第54回台東区小児科医会」にも参加しました。
テーマは「食物アレルギー~クリニック外来での食物負荷試験と最近のトピックス」(福岡圭介先生)です。
臨床現場で食物負荷試験を実践されている講師の豊富なノウハウを伝授していただきました。
各食品交換表の使い方や、食品中のアレルゲン量の複雑さに舌を巻きました。

講師に「先生の行われている経口負荷試験は検査ですか、それとも治療の要素を含んでいますか?」と質問したところ、「治療のつもりでやっています。急速減感作ではなく緩徐法に近いという意味で」との返答でした。

この辺がもう少し整理されると、小児科開業医でも経口負荷試験がより安全にできるようになると思います。
それにしても、食物アレルギーの知見は広く深い・・・アレルギー専門医でも日々の研修とアップデートが欠かせない分野です。


<参考HP>
・「食物アレルギー診療の手引き2014」(厚生労働科学研究班)
・「ぜんそく予防のためのよくわかる食物アレルギーの知識&食物アレルギーを正しく知ろう」(2010年、環境再生保全機構)
・「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(H20年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応について」(文部科学省)
・「学校における食物アレルギー対応指針」(H27年、文部科学省)
・「学校給食における食物アレルギー対応の手引き」(H22年度版、愛知県)
 → 2/16に「学校における食物アレルギー対応の手引き」と名前を変えてアップされる予定
・「学校給食会」(各県に設置)
・「よこはま学校食育財団」・・・ネット上で献立の食品の原材料がわかります。
・「栃木市教育委員会の取り組み
 → 有事の際に利用する「アクションカード」の提案と実践
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