小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

魚アレルギーの症状はいろいろ

2024年08月17日 05時58分00秒 | 食物アレルギー
魚アレルギー、実はちょっと複雑で、
出現する症状にもバリエーションがあります。
なかなかひとことでは説明が難しい…
以前調べてこちらにまとめました。

ごく簡単に云うと、以下の3つに分けられます。
・一般的な魚アレルギー
・アニサキスアレルギー
・ヒスタミン中毒

さて、魚アレルギーを扱った記事が目に留まりました。
知識のアップデートとして読んでみました。

なかなかわかりにくい文章ですが、
原因となるアレルゲンコンポーネントが魚のパルブアルブミンの場合は、
感作経路が湿疹(アトピー性皮膚炎)を介した皮膚であると考えられ、
アトピー性皮膚炎の治療を行うと改善が期待できる、
といったところでしょうか。

<ポイント>
・魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多い。
・魚アレルギーには症状のバリエーションがある;
 ✓ 口腔アレルギー症候群(OAS)
 ✓ 即時型アレルギー(じんましんなど)
 ✓ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
・主な抗原として筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある。報告ではパルブアルブミンと魚ゼラチンを検査した。
・Cyp c 1(コイのパルブアルブミン)検出例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。パルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高い。
・アトピー性皮膚炎の治療と食事指導を行った結果、Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。
・Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。

こんなエピソードがあります。
近年、若者に魚アレルギーが増えているとの報告があり、
その原因を解析した結果、どうやら「居酒屋でのバイト」が関連しているらしい…
つまり、魚を手で触る機会が多い人たちに魚アレルギーが発症している。
そしてバイトを辞めると、徐々にアレルギー症状が出なくなっていくことが多い、
との報告も耳にしました。
どうやら“経皮感作”による食物アレルギーは皮膚の治療をしっかりすれば改善が期待できる、
という共通項がありそうです。

■ 魚アレルギー、原因抗原により臨床症状に違い
2024年8月:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 島根大学病院皮膚科の越智康之氏らは、同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原同定と臨床症状および予後について検討。その結果、「Cyp c 1検出群では全例に湿疹病変の既往があり、パルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高い」「原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある」ことなどを第122回日本皮膚科学会(6月1~4日)で報告した。

▶ 口腔アレルギー症候群が多い
 諸外国と比べ魚介類の摂取量が多く魚を生で摂取する機会も多い日本では、魚アレルギーの頻度が高い。魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多いが、蕁麻疹などの即時型アレルギー症状や食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を呈することもある。
 魚アレルギーの主な抗原としては、筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある
 今回、越智氏らは同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原、臨床症状、予後について検討した。
 対象は、2009~22年に同科を受診した魚アレルギー患者24例(男性8例、女性16例、平均年齢14.9歳)。各種魚によるプリック-プリックテストを実施し、CAP-FEIA法を用いて原因抗原およびコイのパルブアルブミンであるCyp c 1魚ゼラチンを検査。臨床症状や患者背景を明らかにするとともに予後を解析した。

▶ 24例中16例でCyp c 1を検出
 解析の結果、臨床症状はOASが12例、蕁麻疹が10例、口唇腫脹が2例、FDEIAが1例に認められた。越智氏は「蕁麻疹や口唇腫脹に分類した患者の多くは乳幼児であり、言葉を発せられないためこのように分類したが、実際にはOASから始まって蕁麻疹が出現した可能性が高いと考えられる」と説明した。
 基礎疾患としてはアトピー性皮膚炎が18例(75%)、乳児湿疹が2例、手湿疹が1例で、3例には基礎疾患が認められなかった。
 Cyp c 1は24例中16例で検出され、8例では検出されなかった。
 アトピー性病変および基礎疾患を有する症例ではその治療を行った上で、Cyp c 1が検出された症例に対してはパルブアルブミン含量に基づく食事指導を実施した。基礎疾患がなかった3例では皮膚テストで摂取可能な魚を検索して食事指導を行った。
 Cyp c 1検出の有無別に予後(完治:まったく食事制限が必要ない、軽快:食事制限が一部解除できた、不変:食事制限が全く解除できなかった)を検討したところ、Cyp c 1検出例では完治が6例、軽快が5例、不変が2例、不明が3例。Cyp c 1非検出例ではいずれも2例ずつだった。
 Cyp c 1検出16例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。一方、Cyp c 1非検出例では湿疹病変が認められたのは5例のみだった。同氏は「このことからパルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高いと考えられた」と指摘した。

▶ Cyp c 1検出の7割で症状が改善
 Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。Cyp c 1非検出例のうち完治または軽快したのは8例中4例(50%)で、完治した2例はいずれも湿疹合併例だった。
 Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した。その結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。越智氏は「各種魚の特異的IgE抗体を測定することで、保険適用外のCyp c 1検査の代替になる可能性がある」と述べた。
 以上から、同氏は「今回検討した魚アレルギーの24例では22例に口腔周辺症状が認められ、24例中21例で湿疹病変の既往が認められた。Cyp c 1検出群では16例全例に湿疹病変の既往があり、これはパルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高いという既報(千貫祐子ほか、Monthly Book Derma 2021: 307: 13)の結果を支持している。魚コラーゲンを原因抗原としている症例はFDEIAの臨床症状を呈しており、原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある。湿疹病変の既往がない3例はいずれもパルブアルブミン以外が原因抗原と考えられ、コラーゲンが原因抗原であることが判明している症例以外については今後アレルゲンコンポーネントを解析していく必要がある」とまとめた。

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アナフィラキシー対応は「注射」から「鼻スプレーへ」

2024年08月02日 08時16分39秒 | 食物アレルギー
私は小児科専門医&アレルギー専門医です。
医療医学の進歩に後れを取らないよう、
日々情報収集のアンテナを張っています。

そんな中で、画期的な記事を見つけました。
それは「アナフィラキシー」対応に、
現在の注射剤ではなく鼻スプレー剤が登場したという内容。

アレルギー症状の最重症型である「アナフィラキシー」の処置として、
現在は「エピペン」という注射剤が有名になっています。

これは医療関係者以外の一般市民でも使用可能で、
学校現場などでも教職員他が研修を受けて対応できるようにしています。

しかし実際には、ふだん扱ったことのない注射を具合の悪い子どもにするというハードルが高く、
タイミングよく使用されないことがしばしば報告されています。

そこに「鼻スプレー剤」の登場!

これは今までのハードルを一気に取り払うくらいのインパクトがあります。
実用化が待ち遠しいですね。


■ 「アナフィラキシー」に鼻にスプレーするタイプの薬で効果確認
2024年7月30日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 重いアレルギー症状が出た場合、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、鼻にスプレーするタイプの薬でも同等の効果が確認できたとする、治験の結果を開発を進めるグループがまとめたことが分かりました。この治験は、国立病院機構相模原病院と製薬会社のグループが行いました。
 食物などのアレルギーで「アナフィラキシー」と呼ばれる重い症状が起きた際には、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、注射をためらうなどして投与が遅れるケースがあると指摘されています。
 グループでは、海外の製薬会社が開発を進める鼻にスプレーをするタイプの治療薬について、国内で最終段階の治験を行い、アナフィラキシーの症状が出た6歳から17歳までの子ども15人にこの薬を投与しました。
 その結果、15人のうち14人で5分以内に症状が和らぎ始め、最終的に全員の症状が治まったということで、いずれも重い副作用などはみられませんでした。
 これまでの研究で鼻からの投与で十分な量の薬が吸収されることが確認されているということで、グループでは、今回の治験で自己注射薬と同等の効果があることが確認できたとしています。
 国内で開発を進める製薬会社では、今年度中に国に承認申請を行うことを目指しているということです。
国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏センター長は「注射薬は一般の人や教職員が使うときにどうしても抵抗感があるが、点鼻型の薬が実用化できる見通しがたったと考えている」と話していました。

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卵・牛乳アレルギー除去解除の安全な開始量・維持量は?

2024年07月28日 07時17分49秒 | 食物アレルギー
乳児期に発症した食物アレルギー(卵・牛乳)の治療方針は、
一旦は症状が出ないレベルで除去し、
1歳過ぎに除去解除を試みるのがふつうです。
ただし解除の時期は重症度によりアレンジされますので、
必ず主治医の指示を守ってください。

では除去解除の際、どれくらいの量を試すのが適切なのでしょう?
ガイドラインでは一応、グラム単位で量の設定がされていますが、
その数字に関してはいまだに議論の対象で、
学会に参加していると今後もエビデンスにより変わる雰囲気が感じられます。

当院では、食物アレルギーの軽症例(皮膚症状のみ)だけを診療しています。
なのでグラム単位の指導はしていません。
除去解除、あるいは再開する際は、ケースバイケースではありますが、

・少量摂取で無症状、大量摂取で症状出現
 → 無症状レベルの量から漸増していく

・微量摂取でも症状出現
 → “舐める程度”からはじめ、漸増していく

ルールとして以下のことを指示します;

・同量を複数回試して症状が出ないことを確認する
・増量する際は2倍以内とする

つまり「石橋を叩いて渡る」イメージですね。
これらを守っていただければ、安全に除去解除が進められます。
・・・少なくとも私の経験では。

そんなタイミングで、以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・従来は域値(症状が出現する量)に近い量で開始していたが、症状が出現してしまうことが一定数いた。
・極微量開始法は、症状が出現するリスクが少ない。
・極微量開始・継続法でも、その後の耐性獲得(症状が出なくなること)が得られた。
・極微量開始・継続法は、安全に行うことができ、かつ耐性獲得もできる有効な方法である。

当院の方法との違いは、
微量摂取可能例はどんどん増量していかなくても、
症状が出現しない量を食べ続けることにより、
いずれ耐性獲得が期待できる、
という点でしょうか。

■ 経口免疫療法の至適開始量が判明〜卵・牛乳アレルギー
2023年12月06日:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。

▶ 閾値の1万分の1~10分の1で開始
 食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
 大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。

表. 開始量と維持量のパターンによる分類


▶ アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
 検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。

図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合

(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。


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意外なところに隠れているアレルゲン物質〜家のホコリにクルミ、洗顔料に小麦・トウモロコシ!

2023年08月14日 10時33分29秒 | 食物アレルギー
約15年前、食物アレルギーの原因というか、
感作ルートが明らかになりました。
それは「バリアの壊れた皮膚」、つまり湿疹です。

バリアの壊れた皮膚から侵入する物質(たんぱく質)を、
人の免疫システムは“敵”と見なして排除しようとします。
このやり取りが繰り返されると、
人の身体はその物質を受け付けない体質に変化します。
これがアレルゲンとアレルギーの関係であり、
皮膚から侵入 → アレルギー成立という現象を“経皮感作”と呼びます。

注目されたのが乳児湿疹です。
生後数ヶ月の赤ちゃんに湿疹が出てくると、
部屋の中に存在するアレルゲン物質が皮膚に付着を繰り返し、
“経皮感作”が成立してしまうのです。

乳児アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが多い現象が、
これで説明できるようになりました。
実際に乳児湿疹をしっかり治療すると、
食物アレルギー発生率が下がることが報告されています。

え、うちではしっかり掃除しているからそんなことは起こらない?

いえいえ、部屋の中にはダニアレルゲンや、
それを上回る卵の微粒子がたくさん存在しているのです。

▢ 100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出
100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されました。
しかも、鶏卵アレルゲンがダニアレルゲンよりも高濃度で検出されました。
エコチル調査パイロット調査に参加している子どもの寝具を掃除機で埃を吸い取り、埃中のチリダニアレルゲン、鶏卵アレルゲンの量を調べました100%の子どもの寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出され、それら全ての家庭でダニアレルゲン量よりも高濃度で検出しました。この研究成果は、2019年3月5日に日本アレルギー学会公式英文雑誌であるAllergology Internationalより発表されました。

さて近年、ナッツアレルギーが急増していることが関連学会で話題になっています。

▢ 食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?
堀向健太:医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

従来の食物アレルギーベスト3は、
1.鶏卵
2.牛乳
3.小麦
が定番でしたが、現在は小麦を抜いてナッツが3位に躍り出ました。
その中でもクルミの増加が著しい。
これはクルミの輸入量と比例しており、
クルミが日本人の食生活に浸透してきた弊害とも言えます。

さて、クルミのアレルゲンは室内に存在するのでしょうか?
答えは YES です。

▢ 家庭内のほこりにクルミアレルゲン
 比企野綾子(2023年07月18日:Medical Tribune
 日本では近年、クルミアレルギー患者が急増している。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの安戸裕貴氏、センター長の大矢幸弘氏らは、同センターアレルギーセンターを受診した小児の家庭内のほこりを調査した結果、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在を確認したと、Allergol Int(2023年6月29日オンライン版)に報告。「クルミアレルギー発症との因果関係を示すものではないが、家庭内のほこりにクルミアレルゲンが存在することが示された」としている。

◆ リビングルームと子供用ベッドからほこりを採取
 食物アレルギーの発症要因として、環境中の食物アレルゲンの存在が注目されている。これまでに大矢氏らは、3歳児の寝具を調べたところ、全例から鶏卵アレルゲンが検出されたことを報告している(Allergol Int 2019; 68: 391-393)。しかし、過去に環境中のクルミアレルゲンについて検討した研究はほとんどない。そこで今回、家庭内のほこりに含まれるクルミアレルゲンについて調査した。
 対象は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの外来を受診した小児(年齢中央値6.9歳、範囲1.6~16.6歳)の家庭のうち、食物アレルギーの患児がいる32家庭およびいない13家庭。食物アレルギーの内訳は、クルミアレルギーが11家庭、ピーナツアレルギーが13家庭、卵アレルギーが18家庭(複数回答あり)だった。
 家庭におけるクルミの摂取状況は、2021年8月と11月にアンケートを実施して調査。ほこり採取日前の6週間分について、週平均の摂取量を算出した。
 ほこりの採取はスタッフが各家庭を訪問し行った。リビングルーム、子供用ベッドの上のほこりを同一手法で採取し、ELISA法でほこり中のクルミアレルゲン量を測定した。
 クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1への感作については、ほこり採取日の前後1年以内に測定されたJug r 1特異的IgE値を用いた。

◆ Jug r 1感作陽性児の50%で、ベッドのほこりにクルミアレルゲン
 検討の結果、約3分の1の家庭(リビングルーム13家庭、子供用ベッド14家庭)で、家庭内のほこりから環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンが高レベル(200μg/g以上、最大6万μg/g)で検出された。
 また、家庭内におけるクルミの消費量が4g/週未満の家庭と比べ、4g/週以上の家庭ではリビングルームと子供用ベッドの両方でほこりに含まれるクルミアレルゲンの量が有意に多かった(順にP=0.0053、P=0.0025)。
 さらに、クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1に対する感作が陰性だった子供のベッド(9家庭)のほこりからは、クルミアレルゲンが検出されなかった。一方、Jug r 1に対する感作が陽性だった子供のベッドの半数(6家庭中3家庭)で、ほこりからクルミアレルゲンが検出された
 以上から、安戸氏らは「家庭内のほこりにはクルミアレルゲンが存在しており、小児のクルミアレルゲン感作と関連する可能性が示唆された」と結論。その上で、「昨今のクルミアレルギー患者の増加の一因として、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在が考えられ、今後注視していく必要がある」と付言している。

次は洗顔料に含まれるトウモロコシ成分で感作され、
トルティーヤを食べたらアナフィラキシー(重度のアレルギー症状)を発症した報告例を紹介します。

▢ 洗顔料のトウモロコシ成分に注意!トルティーヤでアナフィラキシーを起こした一例
・・・トウモロコシによるアナフィラキシーショック症例が、第52回日本皮膚免疫アレルギー学会(2022年12月16〜18日)で報告された。発表した京都府立医科大学附属病院皮膚科の谷口正和氏は、スクラブ洗顔料中のトウモロコシ成分による感作に注意を呼び掛けている。
◆ 摂取の15分後にアナフィラキシーを発現
 患者は51歳女性。幼児期からアトピー性皮膚炎を有していたが、食物アレルギーの既往はなかった。メキシコ料理店でトルティーヤ(トウモロコシ粉で作る薄焼きパン)を食べ、店を出て15分ほど歩いたときに頸部発赤、全身瘙痒、呼吸困難が出現、血圧低下がみられたため救急車を要請した。・・・原因精査の目的で京都府立大学皮膚科を受診した。
 谷口氏が血液検査を行ったところ、総IgEは3,075IU/mLと高かった。抗原特異的IgEではヤケヒョウダニとハウスダストIが高値(クラス6)を示したが、これはアトピー性皮膚炎の原因と考えられた。注目すべきはトウモロコシがクラス3と高い点であった。
◆ トルティーヤとトウモロコシアレルゲンがプリックテスト陽性
 次に、メキシコ料理店で供された玉ネギやチキン、トルティーヤやカルニータス(豚肉のラード煮込み)などに絞ってプリックテストを行った。すると、トルティーヤと「トリイ」トウモロコシ(診断用アレルゲン皮内エキス)のみ15分後判定で陽性だった。そして患者に日常生活を尋ねると、トウモロコシ成分の入った洗顔料の使用が判明した。また、前年までトウモロコシ入り食物繊維食品を摂取していたことも分かった。・・・再度のプリック検査を施行した。・・・陽性を示したのは、22品目中コーンスターチ、トウモロコシ缶詰、トウモロコシ生のみ。トウモロコシ含有洗顔料のスクラブパックは陰性だった
・・・
◆ 疑われるトウモロコシ含有洗顔料による感作
 以上から、本症例はトウモロコシアレルギーと診断された。以前は普通にトウモロコシを食べられていたので、トウモロコシ含有洗顔料で感作され、大量のトルティーヤでアナフィラキシーが生じたと谷口氏は考えた。感作経路は立証できなかったが、トウモロコシ摂取と洗顔料使用は控えるよう説明したという。
 一般に食物アレルギーの感作経路としては、
①経口:消化管粘膜で感作
②経気道:花粉に感作しそれに交叉性を持つ食物の摂取で症状が現れる
ーの両者が多数を占める。ところが近年、成人発症の食物アレルギーとして、
③経皮感作
が注目されている。健常な皮膚は分子量500 Da(ダルトン)以下の物質しか通過できない。トウモロコシの主なアレルゲンであるプロフィリンやLTP(lipid transfer protein)などはどれも9kDa以上で、本来、皮膚バリアを突破できないはずだ。・・・
 しかし、本症例にはアトピー性皮膚炎の既往があり、またスクラブ洗顔料で顔面をこすることで角質が除去され、バリア機能が低下していたそのため、食物抗原が皮膚を通過、経皮感作が成立してアレルギーを発症したのでないかと、同氏は推測している。
◆ 食品を含む洗顔料では食物アレルギーに注意する必要がある
 トウモロコシアレルギーの報告数は多くない1)。比較的まれな食物アレルギーといえるだろう。同大学病院皮膚科では、たまたま成人発症トウモロコシアレルギー症例を経験しており2)、容易にトウモロコシを疑うことができた。
 選考症例はトウモロコシ含有せっけんで洗顔しており、経皮感作後のアレルギー発症という流れも同じだった。今回の症例では、患者が日常使用していたスクラブ洗顔料にトウモロコシの穂軸の粒子が含まれていた。洗顔料はプリックテストで陽性にならず、トウモロコシ穂軸成分は入手できなかったため、経皮感作の証明はかなわなかった。しかし谷口氏は、食品成分を含有する洗顔料の使用については、食物アレルギーに細心の注意が必要だと述べている。

トウモロコシ成分以外にも、洗顔料に入っている食物成分に感作されてアレルギー症状を誘発した例が報告されています。
有名なのが、2010頃話題になった「茶のしずく石けん事件」

▢ 『茶のしずく石けん事件』とは?食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!

▢ 茶のしずく石鹸(加水分解コムギ)によるアレルギー~小麦アレルギー

他のアレルゲンの報告例の紹介はこちらにも;

▢ 洗顔料に含有する食物抗原によるアレルギー~小麦以外の例

というわけで、今回のブログのポイントは、
・湿疹病変はしっかり治療してツルツルすべすべが望ましい。
・食品成分の入った洗顔料・スキンケア製品は避けるべし。
でした。

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魚アレルギー(アップデート2023年②)

2023年02月23日 16時09分08秒 | 食物アレルギー
ふたたび魚アレルギーのアップデート。

第23回食物アレルギー研究会で、
近藤康人Dr(藤田医科大学ばんため病院)によるレクチャーを聴講しましたので、
メモを残しておきます。

近藤先生のレクチャーは今までに何回も聞いたことがありますが、
理論派というか、重箱の隅をつつくような内容で、
いつも驚かされ、
「そ、そこまで必要ですか?」
と聞きたくなる私です。

今回は診断のコツと食事指導を中心に話されました。

▢ 魚アレルギーの年齢別症状傾向
・乳幼児期は皮膚症状中心
・学童期以降はアナフィラキシーや口腔アレルギー症状も見られるようになる

▢ 魚アレルギーの内訳
・真の魚アレルギー
・ヒスタミン中毒
・アニサキスアレルギー

▢ ヒスタミン中毒
・魚が死ぬとヒスタミン産生菌が繁殖する。
・魚肉中のヒスチジン(アミノ酸の一種)が菌により分解されてヒスタミンになる。
・ヒスタミンを多量に含む魚を食べた直後~1時間以内に、
 吐き気、顔面紅潮、発汗、頭痛、発熱、蕁麻疹などを起こす。
・ヒスタミン感受性には個人差がある。成人より小児の方が影響を受けやすい。
・ヒスタミン過敏症状は調理法により変わる。アルコールや酸(レモン、酢)を一緒に接種すると吸収が促進される。

▢ ヒスタミンの性質
・ヒスタミンは加熱調理しても壊れない。
・凍結中は安定している。
・冷凍中は増えないが、解凍すると酵素の作用により増える。
・10℃よりも25℃~35℃で増えやすい。

▢ 魚肉中のヒスチジン含有量
・赤身魚で多い
(例)キハダマグロ、ブリ、カツオ、マカジキ、マサバ、メバチ、カタクチイワシ
・白身魚で少ない
(例)アンコウ、マダイ、イシガレイ、メバル、マフグ、ヒラメ、メカジキ
※コイは白身魚ではあるが多め

▢ 魚アレルギーの主要アレルゲンはβ-パルブアルブミンである。
・β-パルブアルブミン:Gad c 1, Onc m 1, Sal s 1等:陽性率60-90%
・アルドラーゼA:(省略):13-37%
・β‐エノラーゼ:(省略):10-56%
・コラーゲンーα:Lat c 6, Sal s 6:陽性率22%

▢ パルブアルブミン(PA)
・ほぼすべての魚種の筋肉中に広く存在する
・両生類や鳥類の筋肉中にも存在するCa結合性蛋白質
・加熱や酸の処理に安定

▢ アレルギーは白身魚の方が起きやすい
(赤身魚)回遊魚は絶えず大量の酸素を必要とすることから、筋肉中にミオグロビンを多く持つため、赤身になる。
(白身魚)身動きせずに獲物を待ち伏せして狩猟する白身魚は、赤身魚に比べると、酸素の消費量はとても低いため、筋肉は赤身魚ほどミオグロビンを含まないため、白身になる。

▢ パルブアルブミン(PA)含有量
(PA高値)キンメダイ、トビウオ、ウスメバル、アカムツ、マアジ、イサキ、マダイ、アカカマス
(PA低値)ギンザケ、メカジキ、カツオ、メバチマグロ、キハダマグロ

★二つ前の項目(千貫祐子Dr)紹介のPA含有量データと比較してみましょう;
マアジ(11.6-19.7)
ハモ(5.7-13.7)
ウナギ(10.2)
メバル(8.9-9.8)
アカアマダイ(3.9-9.6)
キンメダイ(6.9)
イサキ(4.4-6.8)
トビウオ(2.8-6.5)
マイワシ(2.6-3.4)
マサバ(2.4)
メバチマグロ(0.33)
カツオ(0.25)
トラフグ(0.1‐0.2)
・・・あれ、アカウオ関連のメバルが近藤Drの紹介データには入っていませんね。こんな風に比較しないとわからないことがあります。

▢ ほかの魚との交差反応性
・魚アレルギー患者が別の魚を食べたときにアレルギーを起こす確率(臨床的交差反応性)は~50%。
・硬骨魚類アレルギー→ほかの硬骨魚類アレルギー:~50%
          →軟骨魚類アレルギー:<5%
・食事指導に魚の生物学分類は利用できるか? → No!
 生物学分類表は魚のアレルゲン性と一致していない。
 魚の生物学分類は真の進化の過程を反映していない。
 見た目で(胸鰭に対する腹鰭の位置)分類されている。

▢ 魚除去食での栄養学的問題
・ビタミンD摂取不足→卵黄、きくらげ、干しシイタケで補充
 もしくは、カツオの缶詰やメカジキが食べられれば補うことができる
・n-3系多価不飽和脂肪酸(EPAやDHA)の摂取不足
・カルシウム不足→牛乳などで補充

▢ 症状の出やすい魚
・タイやカレイが高率…PA高値
・カジキ、カツオ、ツナ缶は低率…PA低値
・多魚腫に反応する場合もPAが原因であることが多く、カツオ、カジキ、マグロ、ツナ缶などから試すのがよい。

▢ 魚アレルギーの食事生活指導
・カツオ、いりこなどのだしの除去は不要なことが多い。
・ツナ缶は高温高圧処理で低アレルゲン化されており、多くの場合摂取可能である。
・学校行事で魚市場などへ行く際は、魚アレルゲンを吸入すると呼吸器症状を起こしうるので、マスク着用など防御対策が必要。
・カルシウム、ビタミンDの補充は前述

▢ エビアレルギーの診断に特異的IgEは信頼できない。

▢ エビアレルギーの原因はトロポミオシンファミリーであり、相同性が高いが、
 臨床的交差反応リスクとトロポミオシンのアミノ酸配列の相動性は一致しない。

▢ エビアレルギー患者の臨床的交差反応性:
・カニアレルギー:64.7%
・イカアレルギー:17.5%
・タコアレルギー:20.3%
・ホタテアレルギー:19.6%

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木の実類アレルギー(アップデート2023年)

2023年02月23日 14時44分19秒 | 食物アレルギー
第23回食物アレルギー研究会(2023年)で「木の実類アレルギー」のレクチャーがありましたので、メモを書き留めておきます。

木の実類アレルギーは近年増加し注目されています。
輸入量・摂取量がそのまま反映されているようです。

よく相談を受けるのが、
「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
とか、
「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
等々。
※ピーナッツ(落花生)は厳密にはナッツ類ではなく豆類です。

さて、これらの要望にどう応えればよいのでしょう、
というテーマを頭に入れつつ、聴講しました。

▢ 木の実類アレルギーの有病率
・アメリカ:(小児)2.3%、(成人)0.4%
・日本:(1歳)0.1%、(6歳)3.3%

▢ 木の実類は食物アレルギーの原因第三位(2020年のデータ)
・過去15年間で約7倍に増加した。
・木の実類の中でも、クルミ(7%)とカシューナッツ(2.9%)の増加が著しい。
・木の実類によるアナフィラキシー報告も増えている。

▢ 木の実類アレルギーの発症年齢
・アメリカ:3.0歳(中央値)
・スペイン:6.5歳(平均値)
・ポルトガル:3.1歳(平均値)
・日本:(クルミ)3.5歳/(カシューナッツ)5.0歳(中央値)
・・・しかし日本では1‐2歳の新規発症食物アレルギーの原因食物において木の実類は第二位。
→卵牛乳小麦より発症年齢は遅く、乳幼児期に新規発症することが多い。

▢ クルミとカシューナッツは経口負荷試験で陽性に出やすく重篤化しやすい。

▢ 年齢とともに複数の木の実類に反応する例が増えてくる。
・二つ以上のナッツにアレルギーのある例は約60%(小児例、2020)。

▢ ピスタチオとカシューナッツの関係
・ピスタチオアレルギーの97%がカシューナッツアレルギー
・カシューナッツアレルギーの83.3%がピスタチオアレルギー

▢ ペカンナッツとクルミの関係
・ペカンアレルギーの97%がくるみアレルギー
・クルミアレルギーの75%がペカンアレルギー

▢ アレルゲンコンポーネントによる診断
・Prolamin内の2S albumin類が有用
(例)Ana o 3(カシューナッツ)、Jug r 1(クルミ)…すでに検査可能
   Cor a 14(ヘーゼルナッツ)…next coming!
・Cupin内のVicilins(7S globulin)類
(例)Mac i 1(マカダミアナッツ)…next coming!
・Cupin内のLegumins(11S globulin)類
(例)Pur du 6(アーモンド)…next coming!

▢ マカダミアナッツ特異的IgEはアナフィラキシーの予測に有用

さて聴講後、最初の疑問は解けるでしょうか?

「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
→血液検査でクルミ特異的IgEを検査し、陽性なら Jug r 1 を追加検査して判定可能

「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
→現在検査フローが確立されているのは、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミの3つ。
 それ以外は参考程度で、経口負荷試験(実際に食べて症状が出るかどうか判定)が必要になる。

という答えになります。

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食物アレルギー予防からみた離乳食の進め方

2019年05月11日 07時35分48秒 | 食物アレルギー
 湿疹〜アトピー性皮膚炎で治療中の赤ちゃんのお母さんから、離乳食の進め方の相談をよく受けます。
 アレルゲンになりやすい、卵、大豆、小麦などをいつからはじめたらよいのか?

 実は、卵に関して言うと、推奨開始時期は結構変化してきました。
① 私が小児科医になった30年前は、卵の開始は5〜6ヶ月(だったらしい)。
② 食物アレルギーが社会問題化した頃から、少し遅れて7〜8ヶ月になり、
③ つい先日、5〜6ヶ月に戻りました(「授乳・離乳の支援ガイド2019改訂版」⇩)。

 

 上のお子さんがアトピー性皮膚炎や食物アレルギーだった場合、次に生まれてくる子どものアレルギーが心配になります。
 まず、「食べなければ予防できるのではないか」と考え、妊娠中/授乳中のお母さんの食事制限や、生まれた赤ちゃんの離乳食制限など、いろいろ検討されました。
 この時期の世界各国のガイドライン(以下GL)はアレルゲンになりやすい食材は制限する傾向がありました。
 しかしその結果、意外なことに「制限しても食物アレルギーは予防できない」ことが判明しました。

 そして2008年、Lackにより二重抗原曝露仮説が登場し、「口から入ると栄養になるけど、皮膚から微量入ると食物アレルギー体質を作る」ことが判明しました。
 つまり、「食べないことは食物アレルギー予防にならず、食べることが予防になる」「開始を遅らせると口より先に皮膚から入ってしまうと食物アレルギーのリスクが高くなる」「皮膚から入る前に口から入れてしまえ」ということ。
 今までの常識が覆されたのです。

 「時代は食物除去から乳児期早期摂取開始へ」

 アレルギー学会に参加すると、この議論が白熱していることを肌で感じるのですが、アレルギー専門医でない小児科医やパラメディカルからは、今でも「卵はゆっくり開始しましょう」という指導が行われているのが現状です。
 患者さんは「医者によって言うことが違う!」と混乱してしがちであり、申し訳なく思います。

 では具体的にいつからどのようにはじめるのがベストなのか?
 最新情報をまとめた論考を日本小児アレルギー学会誌に見つけたので、抜粋・メモしておきます。

★ 「乳児期早期摂取開始による食物アレルギーの発症予防」(日小ア誌 2019;33:12-19)
  夏目統(浜松医科大学小児科)


 結論から申し上げると、「加熱卵を生後6ヶ月頃に少量から開始するのがよい」ようですね。
 注意事項として、「生卵ではなく加熱卵」であり、「遅く開始するのはよくないけど、早すぎるのもよくないらしい・・・現時点では生後6ヶ月が適切」がポイントです。

<メモ>

ポイント
・食物摂取は経腸管感作ではなく、おもに経口免疫寛容をもたらす。
・早期摂取を開始する上で、即時型アレルギー反応の誘発に配慮する必要がある。
・二重アレルゲン暴露仮説(Lack, 2008年)が「食物除去から乳児期早期摂取開始へ」とパラダイムシフトを起こした。

LEAP study(2015年)
 乳児期早期からの摂取開始により食物アレルギーの発症が予防されることがRCTで証明された。
 アトピー性皮膚炎もしくは卵アレルギーをもつ生後4〜10ヶ月の乳児を対象に、生後4〜10ヶ月から5歳までピーナッツたんぱく質を摂取する群と、5歳までピーナッツを除去する群の2群に割り付け、5歳時点のピーナッツアレルギーの発症率を比較したもの。結果:ピーナッツアレルギーの発症は早期摂取群3.2%、除去群17.2%と有意差を認めた。
※ LEAP:Learning Early about Peanut Allergy

□ 「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」(日本小児アレルギー学会、2017年6月)(解説
 アトピー性皮膚炎に罹患した乳児全例を対象に生後6ヶ月から微量の鶏卵摂取開始を推奨

制限から早期摂取へ
(2000年)米国小児科学会:乳製品は1歳まで、卵は2歳まで、魚・ナッツ類は3歳まで摂取を避けるよう推奨。
(2008年以降)各国GLでは食物除去は推奨しない、へ変化
(2015年以降)LEAP Study を元に「即時型アレルギー反応の誘発に注意する」という条件つきで、ピーナッツアレルギーの多い国ではピーナッツの早期摂取を推奨するコンセンサス・ステートメントが発表された。

卵の乳児期早期摂取開始について
 2013〜2017年に発表された6つのRCTのメタアナリシスから、負荷試験で診断された卵アレルギーの発症は早期摂取により risk ratio(RR)0.59と有意に減少することが示された。ただし、これらの研究は「誰」「何を」「いつから」開始するかがバラバラであった。
 有害事象は「生卵」を用いた報告では有意に増え、加熱卵を用いた報告(EAT study, PETIT study)では増えなかった。LEAP study では摂取開始時に感作が強いほど予防効果は高いが、摂取開始時期だけで見ると生後6〜9ヶ月に摂取開始した児の予防効果が高かったと報告されている。
 一方で、生後6ヶ月未満から開始した方がそれ以降に開始したのに比べてより食物アレルギーの発症を予防したとする研究成果は現時点で存在しない。

2018年時点での各国GL
(米国、NIAID)湿疹の重症度で層別化し、重症の湿疹であれば生後4〜6ヶ月までにピーナッツの摂取を開始することを推奨(卵にはノーコメント)。
(ヨーロッパ、ESPGHAN)ピーナッツに関しては早期摂取開始が推奨されているが鶏卵についてはコメントされていない。小麦については1歳までに摂取開始することを推奨しているが、セリアック病を念頭にグルテンの大量摂取は推奨しない。
(オーストラリア、ASCIA)卵やピーナッツだけでなく、すべての食品を生後12ヶ月までに摂取開始することを全乳児に対して推奨。卵については生卵での摂取はすべきではないと言及し、一部で生後8ヶ月までに開始するという文章も含まれている。
(イギリス、SACN/COT)生後6ヶ月からのピーナッツと鶏卵の摂取開始を推奨。
(アジア、APAPARI)ピーナッツに関しては積極的な早期摂取の推奨は行わない。卵に関しては湿疹の重症度に合わせて早期摂取を推奨し、重症湿疹を伴う場合は生後5〜6ヶ月より加熱卵を摂取開始することを推奨。

卵早期摂取開始はハイリスク児限定か、乳児全体か?
 卵に関してはアトピー性皮膚炎乳児を対象とした研究でより有効性が高い結果が出ているが、リスクの低い字を対象とした研究だけでメタアナリシスを行ってもRR0.68と予防効果が示されている。
→ 乳児全体としてもよい。

早期摂取開始の歳にスクリーニング検査は必要か?
 オーストラリア、日本、イギリスではスクリーニングの必要性の記載がない。ただし、オーストラリアとイギリスでは受診してもよいかもしれないと記載。
 欧米ではコスト面から検討されており、スクリーニングは推奨されないと結論づけている。
 日本小児アレルギー学会の「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」では、ハイリスクの児はスクリーニング検査なしで少しずつ食べ始めることが推奨されている。
※ スクリーニング検査を行った場合、アトピー性皮膚炎乳児の65%が卵白特異的IgE抗体が陽性になるが、陽性例に対して、①除去とするか、②負荷試験を行い判断するかでコストも異なってくる。

鶏卵摂取開始の量について
(日本、小児アレルギー学会の提言)PETIT study の「生後6ヶ月からゆで全卵0.2g、9ヶ月からはゆで全卵1.1g相当を摂取」することを紹介し、卵黄から開始するという受容しやすい方法も併記している。
(オーストラリア、ASCIA)ティースプーン1/4杯の固ゆで卵から摂取開始

※ 著者(夏目Dr.)の私見:
 「ゆで卵白を米1粒(0.01〜0.03g程度)から開始して5〜10粒くらいに増やしてください。冷凍保存でもよいです。」

※ 私(ブログ管理人)の指導:
 「はじめはゆで卵の卵黄をなめさせてみてください。無症状ならひとかけらを食べさせましょう。少しずつ増やしていき、10口くらい食べても大丈夫なら、次は卵白にトライ、やはりなめるところからはじめましょう」


開始後の増量法
 離乳食GLには導入後の明確な増量法の記載はない。
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食物アレルゲン〜「第5回総合アレルギー講習会」より

2018年12月20日 07時02分35秒 | 食物アレルギー
 前項に引きつづき、「第5回総合アレルギー講習会」(2018.12.15-16)テキストを読んで目にとまったことをメモしたものです。
 基礎医学の分野でのアレルギーも、私がアレルギー学会専門医になった四半世紀前から当然進歩しています。
 基本中の基本である、Coombs &Gellによるアレルギー分類が、現在はタイプIVが4つに再分類されていることを最近知り、驚きました。
 インターロイキン(IL)の数はどんどん増えて、現在IL-33が話題になっています。
 アレルギーの発症機序は複雑なのでさておき、この項目では主にアレルゲン情報をまとめました。

 近年、アレルゲンコンポーネント情報も充実してきました。
 従来のアレルギー検査では、検査陽性と症状出現が必ずしも一致しなくて医師も患者も混乱していました。コンポーネントを検査できるようになるにつれ、診断精度・一致率が上がることが期待できます。
 しかし、より複雑になり検査の読み方も単純ではなく、やはり習熟する必要があります。
 例えば、シラカバのアレルゲンコンポーネントBet v 2(=プロフィリン)は他の植物・果実に交差反応性があるので、検査するとたくさんの項目が弱陽性に出る傾向がありますが、実際に食べても症状が出ないヒトが珍しくありません。これを知らない非専門医は「検査陽性だから食べてはいけません」と簡単に言ってしまうので、困ってしまいます。


<メモ>

I型アレルギー(Coombs&Gell分類)の即時型反応と遅発型反応
(即時型反応)食直後〜2時間
・脱顆粒:ヒスタミン、セロトニン
・産生放出:ロイコトリエン、プロスタグランジン
(遅発型反応)食後数時間〜
・産生放出:Th2サイトカイン、ケモカインなど

食物アレルゲンとは?
・IgE依存性(I型アレルギー):IgE受容体を架橋できる、TCR(T細胞受容体)に結合できる
→ たんぱく質>高分子多糖類、ポリアミノ酸、低分子化合物(ハプテン)
・IgE非依存性(IV型アレルギー):TCRに結合できる
→ たんぱく質、低分子化合物(ハプテン)

エピトープ(抗原決定基)とは?
・T細胞エピトープ:アレルゲンたんぱく質中の連続した5-8アミノ酸のペプチド。結合した抗原提示細胞(樹状細胞など)が抗原をエンドサイトーシスで取り込み、消化・分解してMHCクラスII分子よりナイーブT細胞のTCRに提示する。
・B細胞エピトープ(Igエピトープ):アレルゲンたんぱく質中の1-6個の単糖の糖鎖・8-18アミノ酸のペプチド(連続・不連続)。IgEエピトープの多くはたんぱく質の表面に位置する。構造的エピトープは変性すると壊れる。

一般的な食物アレルゲンの特徴
・多量に存在(種子貯蔵たんぱく質など)
・加工や調理(熱)に安定(S-S結合が多い)
・消化酵素抵抗性(ペプシン、キモトリプシンなど)
・分子量10kDa〜70kDa(FceRI架橋可能な大きさ)

食品アレルゲンと各種処理に対する安定性の差
1.加熱
(加熱に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG、α-カゼイン、α-LA
・ピーナッツ:Ala h 1、Ala h 2
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz tripsin inhibitor
・タラ:parvalbumin
・エビ:tropomyosin
・モモ:Lipid transfactoy
(加熱に不安定)
・果物・野菜
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG

2.酸
(酸に安定)
・卵白:ovalbumin
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:65kDa
(酸に不安定)
・果物

3.消化酵素
(消化酵素に安定)
・卵白:ovomucoid
・牛乳:β-LG
・ピーナッツ:Ala h 1, Ala h 2, peanut lectin
・米:RP16kD
・ソバ:16kD、24kD
・大豆:Kunitz trypsin inhibitor, soy lectin
・タラ:parvalbumin

アレルゲン命名法
由来する植物または動物の学名から決定される。
学名の「属」の最初の3文字、「種」の最初の1文字、(基本的に)同定順の数字・番号

(例)食物(学名) → たんぱく質名(アレルゲン名)
・ニワトリ(Gallus domesticus) → オボムコイド(Gal d 1)、オボアルブミン(Gal d 2)
・ウシ(Bos domesticus) → α-ラクトアルブミン(Bos d 4)、αS1-カゼイン(Bos d 9)
・小麦(Triticum aestivum) → プロフィリン(Tri a 14)、ω5-グリアジン(Tri a 19)
・ソバ(Fagopyum esculentum) → 2sアルブミン(Fag e 2)、7sピシリン(Fag e 3)
・落花生(Arachis hypogea) → 2sアルブミン(Ara h 2)、11sグロブリン(Ara h 3)

※ 数字には例外がある。交差反応性によって関連するコンポーネントがある場合は、そのアレルゲン番号がまだ利用可能であれば同じ数となる。

<参考>
WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-Committee
Allergome

鶏卵アレルゲン(Gallus domesticus)
★ アレルゲン名:略号:分子量(kDa):含量(%)
(卵白)
・Ovomucoid(OVM):Gal d 1:28:11
・Ovalbumin(OVA):Gal d 2:45:54
・Ovotransferrin(OVT):Gal d 3:76.6:12
・Lysozyme:Gal d 4:14.3:3.4
(卵黄)
・Chicken Serum Albumin:Gal d 5:69

牛乳アレルゲン(Bos domesticus)
・α-Lactalbumin:Bos d 4:14.2:4
・β-Lactoglobulin:Bos d 5:18.3:10
・Caseins:Bos d 8:20-30:80
(カゼインのコンポーネントはBos d 9-12にさらに分類されている)

小麦アレルゲン(Triticum aestivum)
(塩可溶性アレルゲン)・・・パン職人喘息、アトピー性皮膚炎、小麦接触じんま疹患者で同定
・Non-specific lipid transfer protein 1(Tri a 14):9:ー
・Dimeric α-amylase Inhibitor 0.19(Tri a 28):13:ー
・Thiol reductase homologue(Tri a 27):27:ー
(塩不溶性アレルゲン)・・・食物依存性運動誘発アナフィラキシー患者で同定
・ω5-Gliadin(Tri a 19):65:ー
・High molecular weight glutenin subunits:Tri a 26:88

果物・野菜アレルゲン
★ Panallergen:他の植物との交差反応性を有するアレルゲン
※ アレルゲン:分子量(kDa):交差反応する食物:特徴
・β-1,3-glucanase(PR-2):33-39:バナナ、オリーブ:糖タンパク質(CCDの一種)、ラテックスHev b 2と交差
・Chitinases(PR-3,4), Hevein-like protein(PR-7):32, 20:ラテックス、アボガト、バナナ、カブ:キチン結合部位の相同性が高い


魚類・甲殻類アレルゲン
(魚類アレルゲン)
・Parvalbumin:38:ー
(甲殻類アレルゲン)
・Tropomyosin:38:ー
※ トロポミオシンは、甲殻類、軟体類(タコ、イカ、貝)、節足動物(ダニ、ゴキブリ)と高い相同性を有する。

アレルゲンスーパーファミリー(食物アレルギー)
共通の起源から進化してきたタンパク質は同じファミリーに分類される共通の基本構造を有しているため交差反応をきたしやすい。
(植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・プロラミン:穀類のプロラミン、Bifunctional inhibitor, 2Sアルブミン、Non-specific lipid-transfer proteins(nsLTP)
・クーピン:ビクリン、レグミン
・Bet v 1-like:Bet v 1
・Profilin-like:プロフィリン
(動植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・EF-hand:ポルカルチン、パルブアルブミン
(動物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー)
・Tropomyosin-like:トロポミオシン

口腔アレルギー症候群(OAS, Oral Allergy Syndrome)=花粉・食物アレルギー症候群(PFAS, Pollen-associated Food Allergy Syndrome)
果物や生野菜を摂取した直後から、口腔内から喉にかけて、または耳の奥にぴりぴりとかチカチカと異常を感じる。
加熱調理した野菜や缶詰は食べられる。
花粉症患者にみられる食物アレルギー。
回避:違和感を生じる新鮮な果物や野菜の摂取を控える。
軽減策:加熱処理によるアレルゲン低減化、低温殺菌処理されたジュースや缶詰、ジャムは食べられる。

<参考>
Ortolani C, et al. Ann Allergy 1988
Valenta R, Kraft D. JACI 97: 893-895, 1996

シラカンバ花粉コンポーネント「Bet v 1」
・生体防御タンパク質 PR-10
・糖鎖を有しない 分子量17kDa
・加熱や消化酵素に弱い(構造的エピトープ)
・OAS(PFAS)の主要な原因

Bet v 1 ホモログ間のアミノ酸類似性
(凡例)アレルゲン名(植物名)アミノ酸類似性%
 Aln g 1(ハンノキ)81%
 Mal d 1(リンゴ)56%
 Pru p 1(モモ)59%
 Pru ar 1(アンズ)60%
 Pru av 1(サクランボ)59%
 Pyr c 1(西洋ナシ)58%
 Rub i 1(レッド・ラズベリー)56%
 Api g 1(セロリ)42%
 Dau c 1(ニンジン)56%
 Act c 8(ゴールドキウイ)50%
 Act d 8(キウイ)50%
 Sola l 4(トマト)45%
 Cor a 1(ヘーゼルナッツ)73%
 Ara h 8(ピーナッツ)47%
 Gly m 4(大豆)48%
 Vig r 1(緑豆)45%

シラカバのアレルゲンコンポーネント「Bet v 2」=プロフィリン
・真核生物が共通に持つアクチン結合性たんぱく質
・糖鎖を有しない 分子量12-15kDa
・加熱や消化酵素に弱い(臨床症状との関わりは少ない
・カバノキ科とイネ科花粉のPFASに関わる。

プロフィリン間のアミノ酸類似性
 Phl p 12(オオアワガエリ)78%
 Mal d 4(リンゴ)77%
 Pru p 4(モモ)76%
 Pru av 4(サクランボ)75%
 Pyrc 4(西洋ナシ)83%
 Api g 4(セロリ)80%
 Sola l 1(トマト)74%
 Cor a 2(ヘーゼルナッツ)77%
 Ara h 5(ピーナッツ)73%
 Gly m 3(大豆)75%
 Cit s 2(オレンジ)74%
 Cuc m 2(マスクメロン)74%
 Mus a 1(バナナ)78%
※ オレンジ、メロン、バナナではプロフィリンがアレルゲンと考えられている。

LTP(Lipid transfer protein)症候群
・LTPは果実の表皮組織に多く存在する。
(例)Pru p 3(モモ)、Mal d 3(リンゴ)、Pur ar 3(アンズ)、Pru av 3(サクランボ)、Fra a 3(イチゴ)、Pru d 3(プラム)、Rub i 3(レッド・ラズベリー)・・・、Cor a 8(ヘーゼルナッツ)、Jug r 3(クルミ)・・・
加熱に強い(加熱しても食べられない)、消化酵素に強い(全身症状をきたしうる
・回避:缶詰やジャムを含めて果実の摂取を控える。
・軽減策:モモ舌下免疫療法を試みた報告がある(Fernandez-Rivas M, et al. Allergy. 2009 64(6):876-83.)。

魚アレルゲンコンポーネント:パルブアルブミン(Parvalbumin: PA)
・Ef-Handスーパーファミリー
・Caイオンを除くと高次構造が変わり、アレルゲン性も低下する。

タラパルブアルブミン Gad c 1 との類似性
 Lep w 1(カレイ)57-66%
 Cyp c 1(コイ)69-77%
 Onc m 1(ニジマス)47-62%
 Sal s 1(大西洋サケ)54-66%
 Thu a 1(キハダマグロ)66-75%
 Xip g 1(メカジキ)64-73%
 Gad m 1(大西洋タラ)65-72%
 Clu h 1(ニシン)61-71%
 Sar sa 1(マイワシ)61-68%
 Gal d 8(ニワトリ)51-62%
 Ran e 2(トノサマガエル)61-70%
魚アレルゲンの回避と軽減策
・回避:魚アレルギーの患者指導に生物学分類表はアレルゲン性と一致していないため利用できない。
・軽減策:マグロの缶詰(ツナ缶)は、製造過程(加圧加熱殺菌)でアレルゲン性が低減化する(参考⇩)。

<参考>
J Bernhisel-Broadbent, et al.:JACI 90(1992)
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エピペン®の歴史

2018年11月01日 14時54分43秒 | 食物アレルギー
 エピペン®は、小児科医にとっては重症の食物アレルギー患者さん(アナフィラキシー・タイプ)に処方する携帯用薬剤です。
 中身はアドレナリンという、蘇生にも使う劇薬。
 当初は林業に従事する人たちのハチ毒アレルギー用として登場しましたが、その後食物アレルギーにも使えるようになりました。
 その頃は、小児科医でも講習を受けなければ処方できなかったと記憶しています。
 
 所持しているのが患者さん自身であり、エピペン®を使う必要な場合は基本的に患者さんは重症状態。
 自分で注射することが困難なことが多いので、周囲の人たちが注射すべき場面も出てきます。
 こういう場合は家族が行うのが慣例でしたが、学校や遠方ではいつでも家族が駆けつけられるわけではなく、物理的に困難を伴います。
 すると対処が遅れて命取りになる可能性も出てきます。

 この状況を解決するため、患者さんがアナフィラキシーに遭遇した際、“周囲の人たち”も注射してよい、という流れができました。
 はじめは患者さんが搭乗した救急車の救命救急士
 次に学校教師
 次に保育園の保育士
 そして現在は「保育所で教職員が行う場合に限らず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」というところまできました。

 患者さんとその家族、小児科医、学会などによる努力のたまものです。
 ここまでの歴史を群馬大学小児科教授の荒川浩一先生が「群馬小児アレルギー親の会会報 2018.10 No.61」にまとめているのを見つけましたので、メモしておきます。

(1987年)米国FDA(食品医薬品局)で承認され販売開始。
(1996年)米国から輸入し日本で国有林の現場職員に「ハチ刺症によるアナフィラキシー」に“治験的扱い”として所持させ効果を上げた。
(2003年)8月:厚生労働省から承認され販売。適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療」。
(2005年)食物や薬物等によるアナフィラキシー反応」及び「小児」への適応を取得。この時点では保険適応はなく全額自己負担。
(2009年)3月:救命救急士によるエピペン使用が可能となる。
(2009年)7月:「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(文部科学省)において学校教職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)3月:「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」(厚生労働省)保育所職員によるエピペン使用が可能となる。
(2011年)9月:薬価収載され保険適応となる。処方医に対する講習の実施と、未使用製剤の回収が承認条件。
(2013年)6月:NPO法人が非医療従事者(教職員等以外を含む)におけるエピペンの取り扱いを厚生労働省に問い合わせした返答「保育所で教職員が行う場合に限らず、反復継続する意志がない場合には“医業”に当たらず、医師等以外の無資格がエピペンを使用することも可能」。

★ 学校教職員や保育所職員の場合は、保護者からの「管理指導表」を得て、ある意味契約を交わして、代理注射を行う図式になっている。


 というわけで、患者さんがアナフィラキシーに遭遇し自分でエピペンを注射できない状況に陥った際は、(限定はされますが)周囲の人たちが注射しても問題ない、という環境が少しずつ整ってきました。
 ただ、医療関係者以外が劇薬の注射をすることは当然躊躇される行為であり、事前の講習やシミュレーションを十分行うことが必要であることは言うまでもありません。
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経皮感作とアレルギーマーチ 2018

2018年09月17日 12時16分57秒 | 食物アレルギー
 2018.9.17にWEB配信されたセミナー「経皮感作とアレルギーマーチの最新の話題」(国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢 幸弘 先生)の備忘録です。

<概要>
 乳幼児の食物アレルギーが湿疹のある子どもに多いのは、食物抗原の経皮感作によるものであることが明らかになるにつれ、アレルギーマーチのとらえ方に大きな変化が生じた。食物抗原の除去・回避による予防策が有効では無く、むしろ経口免疫寛容を誘導する機会を奪うため食物アレルギーの発症リスクを高めることが、前向き観察研究(コホート研究)や介入研究(ランダム化比較試験)によって明らかとなり、アトピー性皮膚炎(AD)児こそ早めにピーナッツや鶏卵などの食物抗原の摂取を開始したほうがよいとの提案が出された。また、湿疹やADの治療に関しても自然に治るのを待って放置するのではなく、早期から積極的に予防や治療を開始したほうが、食物アレルギーを始めアレルギーマーチの予防には有利である可能性が後向き観察研究(ケースコントロール研究)によって示され、今後の前向き研究による実証に期待が集まっている。


 食物アレルギー分野は日進月歩であり、アップデートが欠かせません。
 内容は「すべてのアレルギー疾患予防は湿疹のコントロールに始まる」に尽きます。
 
 講演の中で私がポイントと感じたことを列挙し、コメントを添えてみます;

・すべてのアレルギーの始まりは湿疹である。

・・・経皮感作は正常皮膚ではなく「炎症のある皮膚」で起こります。

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・・・近年、経皮感作が注目されていますが、正常皮膚ではアレルギー感作は成立せず、炎症が起きていてバリア機能が壊れている部位(湿疹/アトピー性皮膚炎)で成立する、また皮膚に限らず炎症が起きていれば消化管でも感作が成立するという、少し広げた概念で説明していました。

・経皮感作を避けて(湿疹の管理)、経口免疫を誘導(アレルゲンになりやすいものは避けるのではなく早期から食べさせる)することが最重要。

・・・この2本柱が、今後の「アレルギー疾患予防」の中心になっていくと思われます。

・保湿ケアは、保湿剤の質(すぐれた保湿能力)よりも、回数が重要であり、1日1回より2回の方が食物アレルギー予防として有効である。

・・・現在、ヒルドイド®の全盛期で、化粧品として流行される傾向があり社会問題にもなっています。しかし最近の論文では、「質より回数」の方が重要であると報告されました。質では差がなく、回数(1日1回塗布より2回塗布がよい)でアトピー性皮膚炎発症が半減したという内容で、これは大矢先生達のグループが発表した「1日1回保湿剤塗布でアトピー性皮膚炎が2/3へ減った」よりも優れた成績です。

・皮膚は分子量500までしか通さないが、アレルゲンはふつう分子量1万以上であり、矛盾を指摘する声があったが、ランゲルハンス細胞が皮膚表面のタイトジャンクションをかいくぐってアレルゲンに触枝を伸ばしている説明されるようになった。

・・・この解説は目から鱗が落ちました。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎が持続するとアレルギーマーチ(喘息、アレルギー性鼻炎など)のリスク因子となる。

・・・今までは、乳児期のアトピー性皮膚炎をしっかりコントロールすると食物アレルギーの発症を予防できることが主でしたが、湿疹を治して維持すると幼児期以降のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎の予防効果も期待できるという成績が次々に発表されるようになりました。つまり、アトピー性皮膚炎は乳児期以降もしっかり治療するに越したことはない、ということです。

アトピー性皮膚炎の早期発症持続食物/吸入アレルゲンへの感作のすべてが気管支喘息発症のリスクである。

・・・下線部のひとつひとつが気管支喘息発症のリスク因子になります。対策はアトピー性皮膚炎を早期にコントロールして持続させないこと、それがアレルゲン感作を予防し、ひいては気管支喘息発症予防になるという構図です。
 結局、「湿疹/アトピー性皮膚炎の治療をなおざりにする限りアレルギー診療は語れない」ということですね。


<メモ>
・・・おもにスライドの標題です。

・鶏卵アレルギーは早期摂取に予防効果がある。

・食物アレルギーは、摂取回避では予防できず、経口免疫寛容の誘導が必要。

・PETIE(Prevention of Egg allergy with Tiny amount InTake):並行して湿疹を治療し、経皮感作を低減した。この時行われたProactive療法で使われたステロイド軟膏は、顔はロコイド®、体幹・四肢はリンデロンV®である。

・食物アレルギーの予防には、皮疹のコントロールによる経皮感作の防止が重要。生後3ヵ月のときアトピー性皮膚炎があると、食物抗原の感作を受ける危険性が6倍高くなる(重症アトピー性皮膚炎では25倍)。

・アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの危険因子である。特に、生後1〜4ヵ月に湿疹を発症した乳児は、3歳の時の食物アレルギーのリスクが高い(生後1-2ヵ月発症では7倍、生後3-4ヵ月発症では4倍)。

・アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は、「相関」ではなく「因果」である。

・乳児のアトピー性皮膚炎はアレルギーマーチのリスク因子。

・湿疹によるバリア低下
  ↓
 湿疹からアレルゲンが侵入
  ↓
 抗原特異的IgE抗体産生
  ↓
 アレルゲンに暴露されると悪化する(食物アレルギー発症、アトピー性皮膚炎増悪)

・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。

・乳児期発症のアトピー性皮膚炎は持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、持続型では6歳時の喘息、鼻炎、吸入抗原への感作リスクが高い。
→ 喘息、鼻炎予防には、ずっとアトピー性皮膚炎をコントロールする必要がある。

・乳幼児期の食物抗原や吸入抗原の感作は10〜12歳のアレルギー性鼻炎のリスクとなる。食物抗原のみの感作では2〜3倍、食物抗原と吸入抗原療法感作では3〜7倍。

・早期発症のアトピー性皮膚炎は気管支喘息のリスクファクターである。

・1歳時に感作を受けていないアトピー性皮膚炎は、3歳時の気管支喘息の危険因子ではないが、アレルギー性鼻炎の危険因子ではある。

・新生児期からの保湿剤によるスキンケアで乳児期発症アトピー性皮膚炎は1/3が抑えられる(2/3は発症)。しかし食物アレルゲンへの感作率に有意さはなかった。

・経皮感作の予防には保湿剤の性能ではなく、回数(1日2回塗布)が大切である。

・これからのアレルギー疾患予防戦略は、
1.卵など食物アレルギー患者の多い食物に関して離乳食の開始を遅らせず、遅くとも生後6ヵ月から開始する。
2.保湿剤で湿疹の発症を予防したり、湿疹ができたら速やかに治療し、プロアクティブ療法で湿疹ゼロを維持する。



 明日からの自分の診療に何が生かせるでしょうか?

1.プロアクティブ療法による厳格な湿疹コントロールを継続
2.アレルゲン化しやすい食物の早期摂取については、これからの研究成果を待とう。現在は「食物アレルギーが心配だから摂取開始を遅らせる」必要がないことを啓蒙。


 ということで。
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