小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

食物アレルギーの最前線2025(by 伊藤浩明Dr.)

2025年02月25日 07時49分21秒 | 食物アレルギー
食物アレルギーの分野は日進月歩の勢いがあり、
アレルギー専門医といえどもアップデートを欠かせません。

2025.2.24に伊藤浩明Dr.の市民公開講座を視聴しました。
伊藤先生は小児食物アレルギーのリーダー&ご意見番の1人です。
今までに何回も講演を聴いたことがありますが、いつも新しい発見があります。
今回も講演メモを備忘録として残しておきます。

話題は、
・ナッツアレルギーが増えて、とくにクルミが激増
・全身症状を示す果物アレルギーのGRP
・FPIES
・乳児食物アレルギー発症の最重要因子は“本人の湿疹”
・各種アレルゲン粉末・風リーズドライ食品を利用した食物アレルギーへの介入
等々。

▢ IgE抗体が関与する食物アレルギーには4タイプ
1.食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
・原因食物(鶏卵・牛乳・小麦など)を食べると湿疹が悪化する。
2.即時型症状
・原因食物を食べるとアレルギー症状(じんましん、咳、腹痛、アナフィラキシー)が出る。
3.口腔アレルギー症候群(OAS、oral allergy syndrome)
・果物や豆乳を摂取すると口の中がかゆくなる。
・花粉症が原因で発症する食物アレルギーという病態から花粉・食物アレルギー症候群(PFAS,  pollen-food allergy syndrome)と呼ばれることもあるが、ほぼ同義。
4.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA,  food-dependent exercise-induced anaphylaxis)
・原因食物(小麦や甲殻類など)を食べた後に運動 → じんましん、呼吸困難、アナフィラキシーが出現。
・食べただけでは症状が出ない、運動しただけでは症状は出ない。

▢ エピペン®が必要な症状
 → 下記の症状の一つでも当てはまったら使用&救急車を要請すべし。
1.消化器症状:嘔吐反復、ガマンできない腹痛
2.呼吸器症状:喉・胸がしめつけられる、息がしにくい、声がかすれる、犬が吠えるような咳/持続する強い咳込み、ゼーゼーする呼吸
3.全身の症状:唇や爪が青白い、尿や便を漏らす、意識朦朧、ぐったり、脈が触れにくい/不規則、
★ 皮膚症状は参考にしないところがポイント!

▢ 即時型アレルギーで病院を受診した原因食物(2024年)
 → 木の実(とくにクルミ)が増えてきた。
①鶏卵:26.7%、②木の実類(クルミ:15.2%):24.6%、③牛乳:13.4%、④小麦:8.1%、⑤落花生:7.0%

▢ 増えてきた木の実アレルギーの特徴
・症状が激しいことが多い、少量でもアナフィラキシーを起こす(とくにカシューナッツ)。
・幼児期(2-3歳)ではじめて食べたときにアナフィラキシーを起こすことがある。
・クルミに反応するヒトはペカンナッツ(ピーカンナッツ)にも反応しやすい(交差反応)。
・カシューナッツに反応するヒトはピスタチオにも反応しやすい(交差反応)。
・ピスタチオはスイーツ系に入っていることが増えてきた。
・マカダミアナッツ・アレルギーも増えてきた。
・アーモンドは強い症状が出ることは少ない。

▢ 果物アレルギーが増えてきた、タイプを見分けるべし
 → PFASの病態を取ることがほとんどだがアレルゲン・コンポーネントにより症状の強さが異なることに注意
1.口の中の症状のみ:口腔アレルギー症候群
・シラカンバ・ハンノキ(PR-10) → リンゴ、モモ、サクランボ
・カモガヤ・ハルガヤ(プロフィリン) → トマト、スイカ、メロン、オレンジ
2.全身症状
・ヒノキ・スギ(GRP) → モモ、リンゴ、オレンジ
★ モモのアレルゲン・コンポーネントにはPR-10とGRPがあるが、反応するコンポーネントにより症状の強さが異なる。GRPに反応するヒトは加熱加工品でも強い全身症状が出る(最近増えてきている)。

▢ 他の珍しい野菜類アレルギー
・稀ではあるが、ネギ・タマネギ、ジャガイモ、カボチャ、エノキダケなどのアレルギーも存在する。
・ペクチン(ジャムで使用される半固形の増粘多糖類)アレルギーも存在し、カシューナッツと交差反応することが多い。

▢ 消化管アレルギー(新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症)
・原因食物;
 ✓ ミルク:新生児・乳児期早期(※)
 ✓ 卵黄(固形):離乳食期
・病型;
1.FPIAP(food protein-induced allergic protocolitis)血便のみ・・・軽症で早めに改善
2.FPE(food protein-induced enteropathy)持続する消化吸収不良(体重増加不良±嘔吐)・・・頻度は稀
3.FPIES(food protein-induced enterocolitis syndrome)嘔吐(±下痢、血便)・・・最も多い
・検査;特異的IgE抗体陰性、末梢血好酸球増多、ALST(アレルゲンリンパ球刺激試験)陽性
・治療;原因食物除去 → 多くは3歳までに寛解
※ 血便が出た乳児に対して除去解除する際に(1歳前後)、一度ミルク特異的IgE抗体をチェックすべし、約2割ほど陽性者が出る印象、それでも負荷試験で即時型反応が出ないことがあるが・・・(伊藤Dr.)

▢ 食物アレルギー発症の予測スコア
・リスク因子を点数化(合計20点)
 8点:本人の湿疹
 4点:兄姉の食物アレルギー
 3点:母の食物アレルギー
 2点:8-12月生まれ(秋冬生まれの赤ちゃんはアレルギーが多い)
 1点:第1子、父アトピー性皮膚炎、母アトピー性皮膚炎
・14点以上で発症率30%以上(乳幼児健診受診者の3%)

▢ 妊娠中のアレルゲン制限はマイナスに働く
・母乳中に鶏卵が検出された母親の子どもは鶏卵アレルギーが少ない。

▢ 生後すぐにスキンケアを始めるとアトピー性皮膚炎を予防できる
・湿疹/アトピー性皮膚炎の発症は1/3減少した → アトピー性皮膚炎発症は予防できる。
・鶏卵への感作は減らせなかった → 食物アレルギー発症は予防できない。

▢ 乳児アトピー性皮膚炎を早期に積極的に治療して食物アレルギーを予防
・卵アレルギーが減少した(41.9% → 31.4%)が圧倒的に有効というほどではない(PACI study)。

▢ アレルゲン食物早期摂取によるアレルギー発症予防は可能
・ピーナッツアレルギー減少:17.2% → 3.2%(5歳時)(LEAP study:アトピー性皮膚炎または卵アレルギー患者に生後4-10ヶ月よりピーナッツ蛋白6g/週以上)
・鶏卵アレルギー減少(12ヶ月時)40%弱 → 10%弱(PETIT study:アトピー性皮膚炎に生後6ヶ月から微量、生後10ヶ月から増量)
・牛乳アレルギー減少(6ヶ月時)約7% → 約1%(SPADE study:普通児に生後1-2ヶ月間ミルク10ml/日以上)

▢ 食物アレルギーの診断NOW
・誘発症状の確認+特異的IgE抗体の証明で診断する
・引き続き重症度診断と指導
 ✓ 安全摂取可能量を決定 ・・・少量でも食べられる量を続けることで早く治る
 ✓ 除去解除に向けた食事指導(経口免疫療法)

▢ (医療機関用)粉末・フリーズドライ食品を利用した負荷試験・経口免疫療法のメリット
1.医師にとって
・プロトコールの標準化が可能
・誤差の少ない微量摂取
・細かい指導の手間を削減する
・医師の責任の下で摂取する
2.養育者にとって
・調理・計量の手間を省略できる
・マスキングが容易
・自分が食べさせたもので、という自責の念が減る
3.患児にとって
・「食べ物」に対する負の感情を抱きにくい
・「食べること」を強要されない

▢ 粉末・フリーズドライ食品例:微量のアレルゲンをマスキングながら除去解除が可能
(株)たまこな:たまこな25、たまこな250、たまこな750
(株)fufumuPaquPa® ・・・ 加熱卵黄・卵白 0.5g/個
             ピーナッツ・ナッツ 0.2g/個
             えび・かに 0.5g/個
(株)ビー・ケースチャイルカップたまご 2.5mg加熱全卵タンパク
         ミルステップegg 1・2・3 

▢ 重症食物アレルギーの到達目標は完全寛解でなくても・・・
・ゼロとイチでは大違い:
 ✓ コンタミネーションを気にしなくてよい。
 ✓ 表示に書かれていなければ食べてよいと判断できる。
・1/4量(卵1/4個、牛乳50ml、パン1/4枚)食べられたら人生困らない
 ✓ 見た目で「食べたい」と思うものは何でも食べられる

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大人の食物アレルギーその3「GRPアレルギー」

2025年02月15日 14時37分01秒 | 食物アレルギー
大人の食物アレルギーその3は「GRPアレルギー」です。
一般の方には馴染みのない単語ですね。
いや医師の中でもアレルギー専門医以外はおそらく知らないと思われます。

GRPはアレルゲンコンポーネントの一つです。
前項目のPFASは基本的に口腔内にとどまる軽い症状ですが、
中には果物や野菜を食べると激しい全身症状で発症する患者さんがいます。
その原因を探求して見つけられたのがGRPです。

ポイントは「モモやウメで全身じんま疹が出る人は危険」です。


▢ ジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーNSAIDs服用で症状悪化? 一般的なIgE抗体検査をすり抜ける全身性アレルギー
2025/02/13:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);


図1 ジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーの特徴

 20歳代男性のA男は、ある日、モモを食べると蕁麻疹が出ることに気が付いた。先日も同じことがあったため、食物アレルギーを疑い近医を受診。キットを用いた特異的IgE抗体検査でモモは陰性だったため、直接の原因は分からなかったが、それ以降A男はモモを口にするのを何となく控えていた。しかし、その後も原因が分からぬまま、蕁麻疹や顔面潮紅が現れることがあり、次第に「体調の問題で、疲れがあると蕁麻疹が出やすいのかもしれない」などと思うようになった。
 ある朝、A男は朝食に梅干しとお茶漬けを食べた。また頭痛があり、前日から続けて市販の頭痛薬(NSAIDs)を服用した。仕事に遅刻しそうだったため、A男は走って駅まで向かった。すると、食後1時間を経過したあたりで蕁麻疹が現れ、顔のほてりを自覚した。A男は「いつもの症状か」と楽観視していたが、症状はみるみる悪化。眼瞼浮腫や鼻閉、呼吸困難も現れ、救急搬送された。救急外来では、食物アレルギーによるアナフィラキシーショックが疑われ、治療が行われた。
 後日、A男は専門医に紹介され、上記のエピソードからモモの特異的IgE抗体検査、ウメとモモの粗抽出液を用いたプリックテストを実施した。特異的IgE抗体検査は陰性だったものの、プリックテストではウメとモモが陽性に。さらに詳細な検査により、ウメとモモのジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーと診断された。専門医は、これらの原因食物について、加工品も含めた除去指導を実施。誤って口にしたときに備えて、抗ヒスタミン薬とエピペンを処方し、携帯するよう伝えた。
「モモを食べると蕁麻疹が出るが、キットを用いた特異的IgE抗体検査は陰性」
「加熱・加工した果物でも蕁麻疹が出る」
「運動やNSAIDsの服用を契機に症状が悪化し、アナフィラキシーに至った」
──もし、原因不明のアレルギー患者からこういったエピソードを聞いたら、GRPアレルギーを疑ってほしい。
 GRPアレルギーは、約10年前に原因物質が同定された比較的新規のアレルギー疾患だ。植物ホルモンのジベレリンにより誘導される、抗菌ペプチドの一つであるGRPを原因とする。日本では、ウメやモモを原因とするGRPアレルギー患者が多い。一般的に、果物や野菜の主要アレルゲンはPR-10やプロフィリンといった蛋白質だが、GRPアレルギー患者の多くは、これらのアレルゲンに対する特異的IgE抗体検査で陰性となるため、長らく原因アレルゲンが不明だった。
 本邦のGRPアレルギー研究をリードしてきた、昭和大学医学部皮膚科教授の猪又直子氏によると、「自験例では、果物アレルギーの患者100人のうち、PR-10やプロフィリンの特異的IgE抗体検査が陰性の患者が20人おり、そのうちGRP陽性の患者が13人(65%)いた。原因不明の果物アレルギー患者の多くに、GRPアレルギーが潜んでいる可能性がある」という(図2)。


図2 日本人の果物アレルギー患者に占めるGRPアレルギー患者の割合
(Inomata N, et al. 2020を基に編集部作成)

▶ NSAIDsの服用や運動といったCo-factorに注意
 モモのアレルギーと言えば、カバノキ科花粉症との交差反応で生じる花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)が比較的よく知られている(関連記事:特定の季節に起こる頭痛や倦怠感、原因判明の契機となった食物アレルギー)。PFASは、主に口や喉に痒みやしびれが生じる口腔内アレルギー症候群(OAS)が主な病態で、アナフィラキシーまで進展するケースは少ない(表1)。上述の通り、PR-10やプロフィリンが原因アレルゲンで、これらは消化酵素で分解されるからだ。同様にこれらのアレルゲンは熱にも弱いため、加熱したものであれば口にすることができる。
 PR-10やプロフィリンに比べ、GRPは消化酵素や熱に耐性だ。そのため、GRPアレルギーの患者は、蕁麻疹や眼瞼浮腫のほかアナフィラキシーやショックなど、全身性かつ重大な症状に発展しやすい治療法は原因食物の除去指導だが、GRPアレルギーの場合は缶詰なども含めた、加工された原因食物も含めて避けるよう指導する必要がある
 「特にうっかり口にしてしまいやすいのがウメの加工品。日本では、市販のお弁当や総菜などにウメの加工品が入っていることが多い。また、梅ジュースと梅酒は飲料として加工されているため、患者はウメを喫食しているという意識が薄くなる」と猪又氏は指導の際の注意点を述べる。万が一、原因食物を喫食したときに備え、抗ヒスタミン薬や
エピペンを処方し、携帯するよう指導するのもポイントになる。


表1 異なるアレルゲンが誘導するモモアレルギーの違い

 昭和大学の猪又直子氏は「原因不明のアナフィラキシーを発症した患者では、GRPアレルギーを疑ってほしい」と語る。
 猪又氏は「GRPアレルギーは重篤な症状に発展するにもかかわらず、一般的な検査では見逃されやすいのが課題だ」と語る。その理由として、
(1)標準的な特異的IgE抗体検査キットで使用されているリコンビナント抗原に、GRPが含まれておらず陰性になる、
(2)粗抽出液を用いた検査を行っても、粗抽出液に抗原が十分含まれておらず陰性になることがある
──ことが挙げられる。
 さらに、GRPアレルギーに加え、PR-10やプロフィリンを原因アレルゲンとするPFASも持つ患者では、標準的な特異的IgE抗体検査で陽性になる。その結果、GRPアレルギーの可能性に触れられないまま、「生の果物を避ければよい」など、PFASに対する療養指導だけをされてしまう懸念があるという。
 「モモを原因とする食物アレルギーを疑う患者で、特に蕁麻疹や顔面・眼瞼浮腫、喉頭絞扼感や呼吸困難感、意識障害といった全身症状の既往を認めたら、GRPアレルギーも疑ってほしい」と猪又氏。GRPアレルギーの診断にはプリックテストが必要だが、「検査によりアナフィラキシーやショックを発症する可能性もあるため、GRPアレルギーを疑ったら専門医に紹介するのが望ましいだろう」と続ける。
 加えて、GRPアレルギーの患者では、
運動NSAIDs服用といったCo-factorにより、重大な症状が引き起こされることが分かっている。コムギや甲殻類アレルギーの患者に特徴的な、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の病態も備えているというわけだ。特に注意したいのがNSAIDsの服用だ。FDEIAはCo-factorによって腸管バリア機能障害が生じ、抗原の吸収が促進されることが、症状誘発や増悪を引き起こす一つの原因だとされている。猪又氏によれば、「運動後に比べて、NSAIDs服用後の方がより抗原を吸収しやすい傾向があることが分かりつつある」という。
 GRPアレルギーは成人の報告が多いものの、近年は小児でも報告が増えてきている。特に、中高生では部活動の最中にアナフィラキシーを発症するケースもある。GRPアレルギーは発見されにくい上、症状によっては命を脅かすような疾患にもなる。原因不明だったり、口腔内にとどまらない全身性のアレルギー症状を訴える患者がいたら、食事歴と症状からGRPアレルギーを疑い、専門医へ精査を依頼することが重要になる。

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大人の食物アレルギーその2「PFAS」(花粉-食物アレルギー症候群)

2025年02月15日 14時34分59秒 | 食物アレルギー
大人の食物アレルギーその2は「PFAS」(“ピーファス”と読みます)、
花粉-食物アレルギー症候群の略称です。

この病名の患者さんはたくさんいます。
なぜかというと花粉症とリンクしているから。

スギ花粉症では少ないのですが、
カバノキ科(ハンノキやシラカバ)花粉症の人に合併しやすい病態です。

実際の症状は、
「果物や野菜を食べると口の中が痒くなる」
「でも全身じんま疹などの激しい症状は出ない」
「生で食べると症状が出るけど、加工品やジュースでは出ない」
というもので、
「あっ、わたしも!」
という方、結構多いと思われます。

ではPFASを扱った記事を紹介します。

<ポイント>
・特定の食物の蛋白質が花粉抗原と類似した構造を持っているため、交差反応によって食物の蛋白質も抗原として認識され、アレルギー症状が誘導される。
・PFASの症状は、口腔や咽頭の痒みやしびれといった症状が主であり、これは口腔アレルギー症候群(OAS)とも呼ばれる。
・抗原のPR-10やプロフィリンは体内の酵素で分解されるため、多くの場合は全身性アレルギーには至らず症状が口腔内にとどまる。
・「カバノキ科花粉関連大豆アレルギー」の患者には特に注意がいる。
✓ 抗原のPR-10やプロフィリンは熱にも不安定なため、例えば、加工した上で十分に火を通す味噌の場合、喫食しても症状はほとんどない。
✓ 湯豆腐も、加工したものに火を通しているため、人によっては症状が出ることなく食べることが可能。
✓ だが、豆乳については液体のため咀嚼の必要がなく、原因アレルゲンが十分に分解されず直接体内に取り込まれるためか、アナフィラキシーなどの全身症状に発展しやすい。
✓ 加熱しない冷ややっこや、もやしの炒め物といった加熱しているものの生に近い状態の大豆を喫食すると、症状が重くなりやすい。
・普段喫食して症状が軽くても、花粉の暴露期間が蓄積するシーズンの後半では症状が重くなることもある。
・くしゃみや目の痒みといった典型的な花粉症の症状以外に、頭痛や消化器症状、皮膚症状、熱・だるさといった呼吸器外症状を抱えている重篤な花粉症患者に、PFASが高頻度に合併している。その一つが過敏性腸症候群(IBS)様症状で、原因食物を食べることで症状が誘発される患者もいれば、花粉を吸入して嚥下することより症状が増悪する患者もいる。10~20歳代の女性で特定の時期に「だるい」「朝が起きられない」「動悸がある」といった訴えがあり、起立性調節障害や精神疾患が疑われていた患者に、PFASを合併する重症な花粉症が隠れていることがある。

大人の花粉症患者さんの中には、鼻と目の症状だけではなく全身症状(だるい、熱っぽい、ボーッとする)を訴える方もいますが、そのような人には合併しやすいとのこと。


▢ 特定の季節に起こる頭痛や倦怠感、原因判明の契機となった食物アレルギー


図1 花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)の特徴

 20歳代女性のA子は、毎年、3月中旬から4月末ごろまで咳や咽頭痛、頭痛、倦怠感といった症状がある。特に春先は新年度の準備で忙しく、体調を崩しがちだ。A子は「精神的に疲れているのだろう」と思ったが、長引く咳が気になり近医の内科を受診した。器質的疾患は見られず、上気道炎と診断されたが、症状はあまり改善しない。「疲れているから、かぜもよくなりにくいのかな」とA子は考えた。
 5月に入り大型連休を迎え、A子は気晴らしに人気のカフェに行くことにした。カフェでは豆乳で作ったバナナジュースとパンケーキを食べ、1時間ほどが経過したところで顔面の紅潮、瞼の腫れ、ひどい鼻づまり、両手掌の発赤やかゆみが現れた。普段、食後にこのような症状が出たことはなく、A子は違和感を覚えた。歩いて帰宅中、急に呼吸が苦しくなり意識が朦朧としていたところ、通りすがりの人が異変に気付き救急搬送された。救急外来では、食物アレルギーによるアナフィラキシーショックが疑われ、治療が行われた。
 後日、A子は専門医に紹介され、複数のアレルゲン候補の特異的IgE抗体検査を実施したところ、大豆のアレルゲンであるGly m 4が陽性だった。さらに詳細な問診により、もやしや冷ややっこを食べた際に口が痒くなることも判明し、豆乳がアナフィラキシーの原因であったと診断された。専門医は加熱や加工処理が十分に加えられていない大豆製品(豆乳、豆腐、もやし、枝豆)の除去指導を実施し、特に豆乳が入った食品は厳格に避けるように指導した。誤って口にしたときに備えて、抗ヒスタミン薬とエピペンを処方し、携帯するよう伝えた。
 A子はこれまで「アレルギーとは無縁の人生だ」と思っていたが、特異的IgE抗体検査ではカバノキ科花粉も陽性だった。そのため、カバノキ科花粉の感作で生じる、カバノキ科花粉関連大豆アレルギーと診断された。以降、毎年カバノキ科花粉の飛散時期である3~4月は花粉回避策、体調管理(疲れをためないこと)、抗ヒスタミン薬に加えてその他の抗アレルギー薬などを使用するようにしたところ、咳、咽頭痛、頭痛や倦怠感などの上気道炎のような症状がなくなりQOLが改善した。

▶ 豆乳はアナフィラキシーに至る可能性も
 日本の国民病とも言える花粉症において、よく知られている合併症が花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)だ。特定の食物の蛋白質が花粉抗原と類似した構造を持っているため、交差反応によって食物の蛋白質も抗原として認識され、アレルギー症状が誘導される。交差反応の例は表1の通り(関連記事:花粉-食物アレルギー症候群もアレルギーマーチの1つ)。


表1 花粉-食物アレルギー症候群に関与する花粉と植物性食品(「食物アレルギー診療ガイドライン2021」を一部改変)

 相模原病院臨床研究センターの福冨友馬氏は「豆乳は液体で即座に体内に取り込まれるためか、アナフィラキシーなどに発展しやすい」と語る。
 PFASの症状は、口腔や咽頭の痒みやしびれといった症状が主であり、これは口腔アレルギー症候群(OAS)とも呼ばれる抗原のPR-10やプロフィリンは体内の酵素で分解されるため、多くの場合は全身性アレルギーには至らず症状が口腔内にとどまるからだ。
 しかし、「カバノキ科花粉関連大豆アレルギーの患者には特に注意がいる」と話すのは、国立病院機構相模原病院臨床研究センターの福冨友馬氏。通常、カバノキ科花粉関連大豆アレルギー患者が大豆食品を喫食しても、他のPFASと同様に症状は口腔内にとどまる。だが、豆乳については「液体のため咀嚼の必要がなく、原因アレルゲンが十分に分解されず直接体内に取り込まれるためか、アナフィラキシーなどの全身症状に発展しやすい」と福冨氏は注意を促す。
 もっとも、豆乳に注意する点以外は他のPFAS患者と対応は変わらず、「患者の生活の質を損なわないために、除去は最小限にとどめる」のが指導の基本だ。抗原のPR-10やプロフィリンは熱にも不安定なため、例えば、加工した上で十分に火を通す味噌の場合、喫食しても症状はほとんどない。また、湯豆腐も、加工したものに火を通しているため、人によっては症状が出ることなく食べることが可能だという。
・・・
 一方、加熱しない冷ややっこや、もやしの炒め物といった加熱しているものの生に近い状態の大豆を喫食すると、症状が重くなりやすい。あいち小児保健医療総合センターセンター長の伊藤浩明氏は、「成人のPFAS患者は、原因食物の加工度合いによって喫食後の症状に違いが出ることを経験的に分かっていることが多い。患者の経験値に合わせて除去の程度も変えることで、患者のヘルスリテラシーを高めつつ、患者の負担が減りQOLが向上する」と述べる。
 その上で、患者によっては体調や花粉の飛散時期によって、症状の出方が異なる可能性を伝えたい。伊藤氏によると、「普段喫食して症状が軽くても、花粉の暴露期間が蓄積するシーズンの後半では症状が重くなることもある。必要に応じて抗ヒスタミン薬を服用するよう、指導することもポイントだ」という。
 例えば、カバノキ科花粉症(シラカンバとハンノキ属)では咽頭症状を来しやすく、花粉の飛散時期は3~4月がピークとなる。「豆乳によるアナフィラキシーを発症する患者は、花粉の飛散ピーク後の5~6月に多い印象だ」と福冨氏は述べる。

▶ だるさや消化器症状の背景にPFASを合併する重症花粉症の可能性
 「花粉症は、一般的に考えられているよりも症状が多様な疾患であるため、しばしば他疾患だと誤診されていることがある」と福冨氏は言う。同氏らの研究では、くしゃみや目の痒みといった典型的な花粉症の症状以外に、頭痛や消化器症状、皮膚症状、熱・だるさといった呼吸器外症状を抱えている重篤な花粉症患者に、PFASが高頻度に合併していることが明らかになっている(Fukutomi Y, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2024;12:1495-1506.e7.)。その一つが過敏性腸症候群(IBS)様症状で、原因食物を食べることで症状が誘発される患者もいれば、花粉を吸入して嚥下することより症状が増悪する患者もいる
 さらに福冨氏によると、10~20歳代の女性で特定の時期に「だるい」「朝が起きられない」「動悸がある」といった訴えがあり、起立性調節障害や精神疾患が疑われていた患者に、PFASを合併する重症な花粉症が隠れていることがあるという。実際に、花粉飛散時期に花粉症治療を強化するだけで、起立性調節障害や精神疾患を想起させる症状がある程度改善した症例も同氏は経験したとのことだ。
 「夏から秋にかけて飛散する花粉もあるため、一年の大半において全身性の体調不良を感じている花粉症患者も少なくない。特にPFAS合併例では、不定愁訴にも耳を傾けて花粉症による全身症状の可能性を疑ってほしい」と福冨氏は話している。



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大人の食物アレルギーその1「FPIES」(食物蛋白誘発胃腸炎)

2025年02月15日 14時32分37秒 | 食物アレルギー
「食物アレルギー」と聞くと、子どもの病気というイメージがあります。
しかし近年、大人の食物アレルギーが話題になるようになってきました。

食物アレルギーには診療ガイドラインが作成されているのですが、
当初は「小児の食物アレルギー診療ガイドライン」という名称だったものが、
ある時期から“小児”をはずして「食物アレルギー診療ガイドライン」に変更され、
時代の流れを感じたものです。

さて、大人の食物アレルギーは子どもと比べると、ちょっと複雑なメカニズムが背景にあります。

アレルゲン研究が進むとともに、
一つの食材には複数のアレルゲン成分が存在することがわかり、
それを「アレルゲンコンポーネント」と呼ぶようになりました。

そして「アレルゲンコンポーネント」はいろいろな食材に共通して存在し、
「交差反応性」を表現していることも判明しました。

さらに「アレルゲンコンポーネント」は花粉アレルゲンと三次構造が似ていることがあり、
ある花粉アレルゲンに反応する人は、
ある食材のアレルゲンコンポーネントを花粉と勘違いして反応し、
症状が出てしまうというカラクリもわかってきました。

これらのことを頭の中で整理するのは大変です。
それを扱った記事を3回に分けて紹介します;

最初に取りあげるのは食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)・・・「エフパイス」と読みます。
これはアレルゲンとなる食材を食べてから数時間後にお腹の症状が出るタイプ。
ふつう食物アレルギーは食べるとすぐにじんま疹などの皮膚症状が出るのが典型的ですが、
食べてから発症するまでに時間がかかり、皮膚症状はないのが特徴です。
そしてこのタイプはアレルギー血液検査では陽性に出ないことも大きなポイント。

このタイプ、小児アレルギー領域では「卵黄アレルギー」で注目されています。
卵アレルギーと聞くと「卵白がメイン、食べるとじんま疹」というイメージです。
でも、卵白は食べても無症状、しかし卵黄を食べると数時間後に繰り返し嘔吐する、
という例が多く報告され、この疾患概念が生まれました。

記事ではカキアレルギーを取りあげています。

<ポイント>
・FPIESは、皮膚や呼吸器症状を伴う即時型アレルギーとは異なり、嘔吐や下痢といった消化器症状が中心で、原因食物の喫食から発症まで1~6時間と時間がかかる。
・乳幼児や小児のFPIESでは、原因食物として卵や牛乳、小麦、貝など、多くの食物が挙げられている。
・成人のFPIESでは、貝、甲殻類、魚と比較的限られるのが特徴。
・成人の魚介類アレルギー患者の中にもFPIESの人が潜在的に存在する可能性がある。成人のFPIESの原因食物としては、本邦では特にカキの頻度が高い。
・20~40歳代の女性で発症することが多く、その症状は腹部の張りや腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状が中心。
・FPIESはIgE抗体を介さない「非IgE依存性食物アレルギー」のため、IgEを検出するふつうのアレルギー血液検査では診断できない。診断には経口負荷試験(直接その食材を食べて症状が出るかどうか確認する)が必要。
・そのため診断までに時間がかかりがちで、成人のFPIESは診断されるまで平均10年かかり、その間に6~8回、原因食物の喫食に伴うエピソードを経験しているという報告もある。
・急性期の治療は輸液などの循環血液量の回復が主で、長期的な管理は原因食物の除去指導が基本。
・幼児や小児ではFPIESの発症後、成長とともに完治することが多いが、成人では一度発症すると完治することはない。


▢ 運悪くカキに“あたり”続ける若年女性は、非IgE依存性アレルギーかも
2025/02/10:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 広島県出身で30歳代女性のA子・・・夕食にカキフライを食べた深夜、ひどい腹痛と下痢、吐き気が生じた。フライに火があまり通っていなかったことによる食中毒を疑い、翌日は自宅で安静にしていた。後日、A子は実家に帰省し、生カキを食べたところ、数時間後、またもひどい腹痛と下痢を起こした。感染性胃腸炎を疑い、近医を受診したが原因は分からず、一緒に食べた家族には何の症状もない。「最近、私は運悪くカキに“あたる”」とA子は感じた。
 その後もA子は、カキでおなかを壊すことが何回か続いた。その度にひどい腹痛を伴うため、主治医に相談したところ、「カキのアレルギーかもしれないが、うちではカキのIgE抗体検査はできない」と言われ、専門医に紹介された。紹介先では、
(1)これまで問題なくカキを喫食できていたが突然発症した、
(2)カキ喫食時に毎回発症する、
(3)喫食後、数時間たって発症する、
(4)ひどい腹痛、下痢、吐き気の症状を呈する
──といったエピソードから「食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)」が疑われた。
 カキの経口負荷試験を実施したところ、摂取数時間後に腹痛と下痢症状を認めたため、カキを原因とするFPIESと診断。加熱したものやオイスターソースなども含め、今後、カキを除去するよう指導した。なお、カキの特異的IgE抗体検査は陰性だった。


図1 食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の特徴(取材を基に編集部作成)

 「カキに“あたりやすい”」
 「居酒屋で刺し身を食べるとおなかをよく壊す」
 「子どもの頃からカニが大好きだったのに、最近、食べると体調を崩す」
──これらは、成人のFPIESを疑うきっかけになる特徴的なエピソードだ。
 近年、小児の食物アレルギーとして認知度が高まりつつあるFPIES。皮膚や呼吸器症状を伴う即時型アレルギーとは異なり、嘔吐や下痢といった消化器症状が中心で、原因食物の喫食から発症まで1~6時間と時間がかかることから、「見つかりにくい食物アレルギー」の一つとされている(関連記事:卵黄が原因の食物蛋白誘発胃腸炎患者、卵白は食べてもいい?)。
 しかし研究が進むにつれ、どうやら成人にも一定数、FPIES患者が存在することが分かってきた。米国の研究では、18歳未満におけるFPIESの推定有症率は0.5%程度だが、18歳以上の成人でも0.22%存在すると報告されている(Nowak-Wegrzyn A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019;144:1128-30.)。
 国立成育医療センターの森田英明氏によると、「本邦ではまだ、成人FPIES患者の大規模な疫学調査は行われていないが、魚介類アレルギーがあると申告した成人117人のうち、約2割がFPIESと考えられる特徴を有していたという報告があるWatanabe S, et al. Allergol Int. 2024;73:275-81.)。成人の魚介類アレルギー患者の中に、FPIESの人が潜在的に存在する可能性が示された」と述べる。
 FPIESはIgE抗体を介さない「非IgE依存性食物アレルギー」だ。詳細な発症メカニズムは明らかになっていないが、現時点では、原因食物の蛋白質を消化管で吸収することで発症し、セロトニンが病態形成に関与している可能性が示唆されている。急性期の治療は輸液などの循環血液量の回復が主で、長期的な管理は原因食物の除去指導が基本となる(関連記事:アドレナリン無効の食物アレルギー、どう対処する?)。
 なお、一般的には、食物アレルギーと言えば「IgE依存性アレルギー」を指すことが多く、IgE非依存性のFPIESは食物アレルギーの特殊型とされている。日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン2021」では、食物アレルギーを「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義しており、「近年、明らかになりつつある非IgE依存性の食物アレルギーもその中に記載されている」と森田氏は話す。

▶ 消化器症状を訴える患者をFPIESと疑うには?
 乳幼児や小児のFPIESでは、原因食物として卵や牛乳、小麦、貝など、多くの食物が挙げられている。それに対し、成人のFPIESでは、貝、甲殻類、魚と比較的限られるのが特徴だ(表1)。成人では、20~40歳代の女性で発症することが多く、その症状は腹部の張りや腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状が中心となる。乳幼児や小児ではFPIESの発症後、成長とともに完治することが多いが、成人では一度発症すると完治することはないとされている。


表1 乳幼児・小児と成人におけるFPIESの特徴の比較(取材を基に編集部作成)

 では、プライマリ・ケアの現場では、成人のFPIESをどのように疑えばよいのか。森田氏によると、成人のFPIESの原因食物としては、本邦では特にカキの頻度が高いという。カキの喫食による消化器症状では、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が最も多いと考えられ、「1回の消化器症状のみでFPIESを鑑別することは正直難しい」(同氏)。それでも、「患者から『カキによく“あたる”』『私だけ運悪く“あたる”』といったエピソードを聞いたら、FPIESを想起してほしい」と続ける。現在の本邦の衛生環境を考えると、喫食したカキが毎回ノロウイルスなどに汚染されているとは考えにくい上、食事を共にした人の集団感染がなければ、食中毒の可能性が下がるためだ。
 「それまで問題なくカキを食べられていたのにもかかわらず、成人になって突然発症することもFPIESを疑うポイントになる」と森田氏。「一般的に食物アレルギーと言えば、蕁麻疹や呼吸器症状を認めるIgE依存型アレルギーが想起されることが多い。蕁麻疹や呼吸器症状がなくても、喫食後数時間で生じる消化器症状が食物アレルギーによる可能性もあると考えて、症状が苦しそうであれば専門医に紹介してほしい」(同氏)。
 とはいえ、成人のFPIESは、乳幼児や小児以上に発見しにくい疾患であるのも事実。海外では、成人のFPIESは診断されるまで平均10年かかり、その間に6~8回、原因食物の喫食に伴うエピソードを経験しているという報告もあるHua A, et al. J Allergy Clin Immunol Glob. 2024;3:100304)。FPIESはひどい痛みを伴う消化器症状を引き起こすことが多く、診断が遅れるほど患者は理由が分からない苦しみを受けることになる。・・・

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魚アレルギーの話題〜パルブアルブミンは経皮感作が多い〜

2024年12月08日 13時03分36秒 | 食物アレルギー
レルギー専門医である私にとって、
魚アレルギーは捉えどころがない・・・という印象があります。

以前調べてまとめたのがこちら
実は魚アレルギーには3種類あって、
1.魚アレルギー
2.アニサキスアレルギー
3.ヒスタミン中毒
それを知らないと患者さんに十分な説明ができません。

珍しく魚アレルギーを扱った記事が目に留まりましたので、
読んでみました。

内容は1の魚アレルギー内の話題で、
①口腔アレルギー症候群:口腔内のイガイガ感中心
②じんましん
③食物依存性運動誘発アナフィラキシー:特定の魚を食べる&運動で症状が出る
と3つに分け、それぞれアレルゲンが異なるのではないか、と言及しています。

魚のアレルゲンはパルブアルブミンとコラーゲンが代表的ですが、
パルブアルブミンは経皮感作、
コラーゲンは経皮感作以外、
の傾向があるとのこと。

経皮感作例では除去&湿疹病変をしっかり治療すると、
治る可能性が高いことも判明。

これは以前から指摘されてきたことで、
記事中に登場する千貫先生は、
「症状は侵入経路を再現するような場所に出る」
とセミナーでよく話されていますね。

<ポイント>
・魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多いが、蕁麻疹などの即時型アレルギー症状や食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を呈することもある。
・魚アレルギーの主な抗原としては、筋形質蛋白質であるパルブアルブミンコラーゲンが知られている。
・Cyp c 1(コイのパルブアルブミン)検出16例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。一方、Cyp c 1非検出例では湿疹病変が認められたのは5/8例のみだった。
・パルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高いと考えられた。
・Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。
 → パルブアルブミンはアジ・カレイ粗抗原特異的IgE抗体で代用できるかもしれない。
・魚コラーゲンを原因抗原としている症例はFDEIA症状を呈し、原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある。

▢ 魚アレルギー、原因抗原により臨床症状に違い
2024年11月:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 島根大学病院皮膚科の越智康之氏らは、同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原同定と臨床症状および予後について検討。その結果、「Cyp c 1検出群では全例に湿疹病変の既往があり、パルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高い」「原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある」ことなどを第122回日本皮膚科学会(6月1~4日)で報告した。

▶ 口腔アレルギー症候群が多い
 諸外国と比べ魚介類の摂取量が多く魚を生で摂取する機会も多い日本では、魚アレルギーの頻度が高い。魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多いが、蕁麻疹などの即時型アレルギー症状や食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を呈することもある。
 魚アレルギーの主な抗原としては、筋形質蛋白質であるパルブアルブミンコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある。
 今回、越智氏らは同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原、臨床症状、予後について検討した。
 対象は、2009~22年に同科を受診した魚アレルギー患者24例(男性8例、女性16例、平均年齢14.9歳)。各種魚によるプリック-プリックテストを実施し、CAP-FEIA法を用いて原因抗原およびコイのパルブアルブミンであるCyp c 1、魚ゼラチンを検査。臨床症状や患者背景を明らかにするとともに予後を解析した。

▶ 24例中16例でCyp c 1を検出
 解析の結果、臨床症状はOASが12例、蕁麻疹が10例、口唇腫脹が2例、FDEIAが1例に認められた。越智氏は「蕁麻疹や口唇腫脹に分類した患者の多くは乳幼児であり、言葉を発せられないためこのように分類したが、実際にはOASから始まって蕁麻疹が出現した可能性が高いと考えられる」と説明した。
 基礎疾患としてはアトピー性皮膚炎が18例(75%)、乳児湿疹が2例、手湿疹が1例で、3例には基礎疾患が認められなかった。
 Cyp c 1は24例中16例で検出され、8例では検出されなかった。
 アトピー性病変および基礎疾患を有する症例ではその治療を行った上で、Cyp c 1が検出された症例に対してはパルブアルブミン含量に基づく食事指導を実施した。基礎疾患がなかった3例では皮膚テストで摂取可能な魚を検索して食事指導を行った。
 Cyp c 1検出の有無別に予後(完治:まったく食事制限が必要ない、軽快:食事制限が一部解除できた、不変:食事制限が全く解除できなかった)を検討したところ、Cyp c 1検出例では完治が6例、軽快が5例、不変が2例、不明が3例。Cyp c 1非検出例ではいずれも2例ずつだった。
 Cyp c 1検出16例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。一方、Cyp c 1非検出例では湿疹病変が認められたのは5例のみだった。同氏は「このことからパルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高いと考えられた」と指摘した。

▶ Cyp c 1検出の7割で症状が改善
 Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。Cyp c 1非検出例のうち完治または軽快したのは8例中4例(50%)で、完治した2例はいずれも湿疹合併例だった。
 Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した。その結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。越智氏は「各種魚の特異的IgE抗体を測定することで、保険適用外のCyp c 1検査の代替になる可能性がある」と述べた。
 以上から、同氏は「今回検討した魚アレルギーの24例では22例に口腔周辺症状が認められ、24例中21例で湿疹病変の既往が認められた。Cyp c 1検出群では16例全例に湿疹病変の既往があり、これはパルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高いという既報(千貫祐子ほか、Monthly Book Derma 2021: 307: 13)の結果を支持している。魚コラーゲンを原因抗原としている症例はFDEIAの臨床症状を呈しており、原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある。湿疹病変の既往がない3例はいずれもパルブアルブミン以外が原因抗原と考えられ、コラーゲンが原因抗原であることが判明している症例以外については今後アレルゲンコンポーネントを解析していく必要がある」とまとめた。

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「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?

2024年11月13日 15時19分24秒 | 食物アレルギー
食物アレルギーを心配して受診する患者さんは、
数字で白黒つけたいと血液検査(特異的IgE抗体)を希望されます。

また、乳幼児に給食を提供する保育園からは、
「保育園で出すすべての食材のアレルギー検査をしてください」
なんてとんでもない要求もありました。

アレルギー検査で陽性でも、
実際に食べて症状が出るとは限りません。
食べて症状が出なければそれが真実です。

ですから当院では、
「食べても症状が出ない食材は検査しない」
という方針です。

これがなかなか理解されず、
「検査してくれなかった」
と悪い口コミを何度書き込まれたことか…。

逆に、花粉症が心配でアレルギーのスクリーニング検査をした際、
食物アレルゲンの項目で陽性になるものがあっても、
実際に食べて症状が出なければ食物アレルギーと診断しません。
検査の機会がなければ、その患者さんは食物アレルギーと縁のない生活を続けていたはずですから。

つまり、症状とアレルギー検査の間にはギャップ・ブラックボックスが存在するのです。
ちょっと複雑ですが、解説を試みてみます。


1.アレルゲン・コンポーネント

一つの食材に存在するアレルゲン(アレルギーの原因成分)は一つではありません。
たいてい複数のアレルゲンが存在し、
その一つ一つを“アレルゲン・コンポーネント”と呼んでいます。

そして各コンポーネントは、アレルギー反応を起こす力も異なります。
つまり、
このコンポーネントに反応するヒトは激しい症状を起こし、
こちらのコンポーネントに反応するヒトは軽い症状で済む、
あちらのコンポーネントに反応する人は症状が出ない、
という現象があり得るのです。

さらに各コンポーネントは、その食材に同量含まれているわけではありません。
多かったり、少なかったり。

アレルギー検査に用いるアレルゲンは、
その食材をすりつぶして抽出したモノなので、
多量含まれれば陽性に出やすいし、
少量しか含まれなければ陽性に出にくい、
という事情もあります。

以上、単純でないことがおわかりいただけたと思います。
すると以下のような現象に遭遇することがあります;

例1)アレルギー検査(特異的IgE抗体)陽性だけど、食べても無症状。
 → アレルゲン性のないコンポーネントに反応するタイプ。

例2)アレルギー検査(特異的IgE抗体)弱陽性だけど、微量食べるとアナフィラキシー。
 → 症状が強く出るアレルゲン・コンポーネントに反応するヒトで、
 かつそのコンポーネントは食材に少ししか含まれていないので強陽性になりにくい。

2.検査試薬は生のアレルゲンから抽出している

アレルギー検査に用いる試薬は、生の食材から抽出しています。
しかし我々は、その食材を生のまま食べるとは限りません。

そしてアレルゲンは加熱・加工により変性し、
アレルゲン性が弱くなることがよくあります。

例えば「コメ」。
ふつう、炊いて食べます。
生で食べるヒトはいないですよね。
しかし検査試薬は生のコメから抽出したモノなので、
アレルギー反応を起こさない成分を検出している可能性があります。

3.IgG4抗体の存在

アレルギー症状を引き起こす血液中の抗体は「IgE抗体」です。
でも血液中にはこのIgE抗体の反応を邪魔する抗体が存在し、
それが「IgG4抗体」です。
英語では blocking antibody,  日本語では“遮断抗体”とか呼ばれます。

アレルゲンが二つのIgE抗体と結合すると、アレルギー反応が始まります。
でもそれを邪魔するIgG4抗体が存在し、
アレルゲンがIgG4抗体と結合してしまうと、
IgE抗体をたくさん持っていても反応できません。

血液検査ではIgE抗体だけ測定しています。
IgG4抗体は保険適応がないので検査できません。

つまりIgE抗体だけを測定しても、
その人がアレルギー反応を起こすかどうか、
正確にはわからないのです。

このIgG4抗体は「食べることによって産生される」抗体です。
ですから、「少量食べても無症状、たくさん食べると症状が出る場合」は、
症状が出ない程度の量を食べ続ける方が有利、
IgG4抗体が増えてくればいずれたくさん食べられるようになる(耐性獲得)可能性が高くなります。
少量食べられるのに「検査が陽性だから完全除去」では治りが遅くなります。

これは近年判明してきた事実であり、
「症状が出ない程度の量を食べ続けると、将来の治りがよくなる(食べられるようになる)」
ことがアレルギー専門医の常識となっています。

4.腸管消化吸収能力の発達

アレルゲンとして作用するタンパク質の分子量は1万〜7万程度とされています。
これより大きくても小さくても、IgE抗体が捉えることができないので、
アレルギー反応が起こりにくい、つまり症状が出にくいことになります。

乳児期は消化吸収能力が低いためタンパク質が分解しきれず、
アレルゲンとして作用しやすい分子量のまま吸収されてしまいます。

しかし1歳以降はその能力が発達し、
1歳半の離乳食完了頃には大人と同じものを食べられる、
すなわち大人と同程度の消化吸収能力になるため、
アレルゲンとして作用しやすい分子量よりさらに小さく分解されて吸収されるようになります。

するとIgE抗体があっても、反応する大きさのアレルゲンが入ってこないのですから、
アレルギー反応は起こらず、アレルギー症状は出ません。


…以上の4つの理由により、特異的IgE抗体陽性でも症状が出ない状況があり得るのです。
アレルギー検査の評価方法は単純ではないことがおわかりいただけたでしょうか?

最後に最新の食物アレルギーの治療・管理方法を紹介します。
基本原則は「正しい診断による必要最小限の原因食物の除去」です。

では「正しい診断」とは?
 → 食べて症状が出ること(食物負荷試験を含む)+ 特異的IgE抗体陽性

では「必要最小限の除去」とは?
 → 食べると症状が出る食物だけを除去、
 原因食物でも症状が出ない程度の量を食べ続ける

ということです。

同じ食物アレルギー患者さんの中でも、
重症度は異なり食べられる量も異なります。

例えば「卵」。
卵アレルギー患者さんの中で症状が出てしまう卵白量は、
 微量(0.2-0.3g) → 5%
 少量(4g)     → 50%
 中等量(20g)  → 90%
というデータがあります。
逆に上記の数字以外のヒトは卵アレルギーと診断されているけど食べられます。
つまり卵アレルギー患者さんの95%は微量(0.2-0.3g)食べても無症状、
そして10%の患者さんは20g(卵半分)食べても大丈夫。

例えば「牛乳」。
牛乳アレルギー患者さんで症状が出てしまう量は、
 微量(0.1-0.2mL) → 5%
 少量(4mL)     → 50%
 中等量(50mL)  → 90%
であり、牛乳アレルギー患者さんの95%は微量(0.1-0.2mL)を飲んでも無症状です。

ただし、あなたが上記のどれに当てはまるか自己判断して食べる・飲むのは危険です。
主治医に相談してください。
なぜかというと、食物アレルギーにアトピー性皮膚炎や気管支喘息を合併している場合、
それらの治療を十分に行うことが食物アレルギー診療の前提だからです。

さて、この項目のテーマである、
「食物アレルゲンの検査(IgE抗体)陽性だから除去してください」は正しい?
の答えは、
「検査で陽性だけでは除去が必要かどうか判断できません」
「食べて症状が出るヒトにのみ検査に意味があります」
となります。

<参考>
▢ 食物アレルギーの治療・管理の原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」(食物アレルギー研究会)
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魚アレルギーの症状はいろいろ

2024年08月17日 05時58分00秒 | 食物アレルギー
魚アレルギー、実はちょっと複雑で、
出現する症状にもバリエーションがあります。
なかなかひとことでは説明が難しい…
以前調べてこちらにまとめました。

ごく簡単に云うと、以下の3つに分けられます。
・一般的な魚アレルギー
・アニサキスアレルギー
・ヒスタミン中毒

さて、魚アレルギーを扱った記事が目に留まりました。
知識のアップデートとして読んでみました。

なかなかわかりにくい文章ですが、
原因となるアレルゲンコンポーネントが魚のパルブアルブミンの場合は、
感作経路が湿疹(アトピー性皮膚炎)を介した皮膚であると考えられ、
アトピー性皮膚炎の治療を行うと改善が期待できる、
といったところでしょうか。

<ポイント>
・魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多い。
・魚アレルギーには症状のバリエーションがある;
 ✓ 口腔アレルギー症候群(OAS)
 ✓ 即時型アレルギー(じんましんなど)
 ✓ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
・主な抗原として筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある。報告ではパルブアルブミンと魚ゼラチンを検査した。
・Cyp c 1(コイのパルブアルブミン)検出例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。パルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高い。
・アトピー性皮膚炎の治療と食事指導を行った結果、Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。
・Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。

こんなエピソードがあります。
近年、若者に魚アレルギーが増えているとの報告があり、
その原因を解析した結果、どうやら「居酒屋でのバイト」が関連しているらしい…
つまり、魚を手で触る機会が多い人たちに魚アレルギーが発症している。
そしてバイトを辞めると、徐々にアレルギー症状が出なくなっていくことが多い、
との報告も耳にしました。
どうやら“経皮感作”による食物アレルギーは皮膚の治療をしっかりすれば改善が期待できる、
という共通項がありそうです。

■ 魚アレルギー、原因抗原により臨床症状に違い
2024年8月:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 島根大学病院皮膚科の越智康之氏らは、同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原同定と臨床症状および予後について検討。その結果、「Cyp c 1検出群では全例に湿疹病変の既往があり、パルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高い」「原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある」ことなどを第122回日本皮膚科学会(6月1~4日)で報告した。

▶ 口腔アレルギー症候群が多い
 諸外国と比べ魚介類の摂取量が多く魚を生で摂取する機会も多い日本では、魚アレルギーの頻度が高い。魚アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS)を呈することが多いが、蕁麻疹などの即時型アレルギー症状や食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を呈することもある。
 魚アレルギーの主な抗原としては、筋形質蛋白質であるパルブアルブミンやコラーゲンが知られているが、感作経路などにより臨床症状に違いが出る可能性がある
 今回、越智氏らは同科を受診した魚アレルギー患者を対象に原因抗原、臨床症状、予後について検討した。
 対象は、2009~22年に同科を受診した魚アレルギー患者24例(男性8例、女性16例、平均年齢14.9歳)。各種魚によるプリック-プリックテストを実施し、CAP-FEIA法を用いて原因抗原およびコイのパルブアルブミンであるCyp c 1魚ゼラチンを検査。臨床症状や患者背景を明らかにするとともに予後を解析した。

▶ 24例中16例でCyp c 1を検出
 解析の結果、臨床症状はOASが12例、蕁麻疹が10例、口唇腫脹が2例、FDEIAが1例に認められた。越智氏は「蕁麻疹や口唇腫脹に分類した患者の多くは乳幼児であり、言葉を発せられないためこのように分類したが、実際にはOASから始まって蕁麻疹が出現した可能性が高いと考えられる」と説明した。
 基礎疾患としてはアトピー性皮膚炎が18例(75%)、乳児湿疹が2例、手湿疹が1例で、3例には基礎疾患が認められなかった。
 Cyp c 1は24例中16例で検出され、8例では検出されなかった。
 アトピー性病変および基礎疾患を有する症例ではその治療を行った上で、Cyp c 1が検出された症例に対してはパルブアルブミン含量に基づく食事指導を実施した。基礎疾患がなかった3例では皮膚テストで摂取可能な魚を検索して食事指導を行った。
 Cyp c 1検出の有無別に予後(完治:まったく食事制限が必要ない、軽快:食事制限が一部解除できた、不変:食事制限が全く解除できなかった)を検討したところ、Cyp c 1検出例では完治が6例、軽快が5例、不変が2例、不明が3例。Cyp c 1非検出例ではいずれも2例ずつだった。
 Cyp c 1検出16例では全例にアトピー性皮膚炎や手湿疹などの湿疹病変が認められた。一方、Cyp c 1非検出例では湿疹病変が認められたのは5例のみだった。同氏は「このことからパルブアルブミンによる魚アレルギーでは経皮的感作の可能性が高いと考えられた」と指摘した。

▶ Cyp c 1検出の7割で症状が改善
 Cyp c 1検出例のうち完治または軽快したのは16例中11例(69%)で、多くに臨床症状の改善が認められた。Cyp c 1非検出例のうち完治または軽快したのは8例中4例(50%)で、完治した2例はいずれも湿疹合併例だった。
 Cyp c 1検出群と各種魚(アジ、サバ、カレイ、マグロ、サケ、イワシ)特異的IgE抗体の関連についても検討した。その結果、Cyp c 1検出群ではアジ、カレイの粗抗原へのIgE抗体は全例で陽性だった。Cyp c 1 IgE抗体価のクラスとマグロ以外の魚種のIgE抗体価のクラスには統計学的に有意な相関が見られた。越智氏は「各種魚の特異的IgE抗体を測定することで、保険適用外のCyp c 1検査の代替になる可能性がある」と述べた。
 以上から、同氏は「今回検討した魚アレルギーの24例では22例に口腔周辺症状が認められ、24例中21例で湿疹病変の既往が認められた。Cyp c 1検出群では16例全例に湿疹病変の既往があり、これはパルブアルブミンが原因の魚アレルギーでは経皮感作が成立している可能性が高いという既報(千貫祐子ほか、Monthly Book Derma 2021: 307: 13)の結果を支持している。魚コラーゲンを原因抗原としている症例はFDEIAの臨床症状を呈しており、原因抗原により臨床症状に違いが見られる可能性がある。湿疹病変の既往がない3例はいずれもパルブアルブミン以外が原因抗原と考えられ、コラーゲンが原因抗原であることが判明している症例以外については今後アレルゲンコンポーネントを解析していく必要がある」とまとめた。

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アナフィラキシー対応は「注射」から「鼻スプレーへ」

2024年08月02日 08時16分39秒 | 食物アレルギー
私は小児科専門医&アレルギー専門医です。
医療医学の進歩に後れを取らないよう、
日々情報収集のアンテナを張っています。

そんな中で、画期的な記事を見つけました。
それは「アナフィラキシー」対応に、
現在の注射剤ではなく鼻スプレー剤が登場したという内容。

アレルギー症状の最重症型である「アナフィラキシー」の処置として、
現在は「エピペン」という注射剤が有名になっています。

これは医療関係者以外の一般市民でも使用可能で、
学校現場などでも教職員他が研修を受けて対応できるようにしています。

しかし実際には、ふだん扱ったことのない注射を具合の悪い子どもにするというハードルが高く、
タイミングよく使用されないことがしばしば報告されています。

そこに「鼻スプレー剤」の登場!

これは今までのハードルを一気に取り払うくらいのインパクトがあります。
実用化が待ち遠しいですね。


■ 「アナフィラキシー」に鼻にスプレーするタイプの薬で効果確認
2024年7月30日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 重いアレルギー症状が出た場合、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、鼻にスプレーするタイプの薬でも同等の効果が確認できたとする、治験の結果を開発を進めるグループがまとめたことが分かりました。この治験は、国立病院機構相模原病院と製薬会社のグループが行いました。
 食物などのアレルギーで「アナフィラキシー」と呼ばれる重い症状が起きた際には、現在、緊急用の自己注射薬が使われていますが、注射をためらうなどして投与が遅れるケースがあると指摘されています。
 グループでは、海外の製薬会社が開発を進める鼻にスプレーをするタイプの治療薬について、国内で最終段階の治験を行い、アナフィラキシーの症状が出た6歳から17歳までの子ども15人にこの薬を投与しました。
 その結果、15人のうち14人で5分以内に症状が和らぎ始め、最終的に全員の症状が治まったということで、いずれも重い副作用などはみられませんでした。
 これまでの研究で鼻からの投与で十分な量の薬が吸収されることが確認されているということで、グループでは、今回の治験で自己注射薬と同等の効果があることが確認できたとしています。
 国内で開発を進める製薬会社では、今年度中に国に承認申請を行うことを目指しているということです。
国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏センター長は「注射薬は一般の人や教職員が使うときにどうしても抵抗感があるが、点鼻型の薬が実用化できる見通しがたったと考えている」と話していました。

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卵・牛乳アレルギー除去解除の安全な開始量・維持量は?

2024年07月28日 07時17分49秒 | 食物アレルギー
乳児期に発症した食物アレルギー(卵・牛乳)の治療方針は、
一旦は症状が出ないレベルで除去し、
1歳過ぎに除去解除を試みるのがふつうです。
ただし解除の時期は重症度によりアレンジされますので、
必ず主治医の指示を守ってください。

では除去解除の際、どれくらいの量を試すのが適切なのでしょう?
ガイドラインでは一応、グラム単位で量の設定がされていますが、
その数字に関してはいまだに議論の対象で、
学会に参加していると今後もエビデンスにより変わる雰囲気が感じられます。

当院では、食物アレルギーの軽症例(皮膚症状のみ)だけを診療しています。
なのでグラム単位の指導はしていません。
除去解除、あるいは再開する際は、ケースバイケースではありますが、

・少量摂取で無症状、大量摂取で症状出現
 → 無症状レベルの量から漸増していく

・微量摂取でも症状出現
 → “舐める程度”からはじめ、漸増していく

ルールとして以下のことを指示します;

・同量を複数回試して症状が出ないことを確認する
・増量する際は2倍以内とする

つまり「石橋を叩いて渡る」イメージですね。
これらを守っていただければ、安全に除去解除が進められます。
・・・少なくとも私の経験では。

そんなタイミングで、以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・従来は域値(症状が出現する量)に近い量で開始していたが、症状が出現してしまうことが一定数いた。
・極微量開始法は、症状が出現するリスクが少ない。
・極微量開始・継続法でも、その後の耐性獲得(症状が出なくなること)が得られた。
・極微量開始・継続法は、安全に行うことができ、かつ耐性獲得もできる有効な方法である。

当院の方法との違いは、
微量摂取可能例はどんどん増量していかなくても、
症状が出現しない量を食べ続けることにより、
いずれ耐性獲得が期待できる、
という点でしょうか。

■ 経口免疫療法の至適開始量が判明〜卵・牛乳アレルギー
2023年12月06日:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。

▶ 閾値の1万分の1~10分の1で開始
 食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
 大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。

表. 開始量と維持量のパターンによる分類


▶ アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
 検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。

図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合

(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。


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意外なところに隠れているアレルゲン物質〜家のホコリにクルミ、洗顔料に小麦・トウモロコシ!

2023年08月14日 10時33分29秒 | 食物アレルギー
約15年前、食物アレルギーの原因というか、
感作ルートが明らかになりました。
それは「バリアの壊れた皮膚」、つまり湿疹です。

バリアの壊れた皮膚から侵入する物質(たんぱく質)を、
人の免疫システムは“敵”と見なして排除しようとします。
このやり取りが繰り返されると、
人の身体はその物質を受け付けない体質に変化します。
これがアレルゲンとアレルギーの関係であり、
皮膚から侵入 → アレルギー成立という現象を“経皮感作”と呼びます。

注目されたのが乳児湿疹です。
生後数ヶ月の赤ちゃんに湿疹が出てくると、
部屋の中に存在するアレルゲン物質が皮膚に付着を繰り返し、
“経皮感作”が成立してしまうのです。

乳児アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが多い現象が、
これで説明できるようになりました。
実際に乳児湿疹をしっかり治療すると、
食物アレルギー発生率が下がることが報告されています。

え、うちではしっかり掃除しているからそんなことは起こらない?

いえいえ、部屋の中にはダニアレルゲンや、
それを上回る卵の微粒子がたくさん存在しているのです。

▢ 100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出
100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されました。
しかも、鶏卵アレルゲンがダニアレルゲンよりも高濃度で検出されました。
エコチル調査パイロット調査に参加している子どもの寝具を掃除機で埃を吸い取り、埃中のチリダニアレルゲン、鶏卵アレルゲンの量を調べました100%の子どもの寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出され、それら全ての家庭でダニアレルゲン量よりも高濃度で検出しました。この研究成果は、2019年3月5日に日本アレルギー学会公式英文雑誌であるAllergology Internationalより発表されました。

さて近年、ナッツアレルギーが急増していることが関連学会で話題になっています。

▢ 食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?
堀向健太:医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

従来の食物アレルギーベスト3は、
1.鶏卵
2.牛乳
3.小麦
が定番でしたが、現在は小麦を抜いてナッツが3位に躍り出ました。
その中でもクルミの増加が著しい。
これはクルミの輸入量と比例しており、
クルミが日本人の食生活に浸透してきた弊害とも言えます。

さて、クルミのアレルゲンは室内に存在するのでしょうか?
答えは YES です。

▢ 家庭内のほこりにクルミアレルゲン
 比企野綾子(2023年07月18日:Medical Tribune
 日本では近年、クルミアレルギー患者が急増している。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの安戸裕貴氏、センター長の大矢幸弘氏らは、同センターアレルギーセンターを受診した小児の家庭内のほこりを調査した結果、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在を確認したと、Allergol Int(2023年6月29日オンライン版)に報告。「クルミアレルギー発症との因果関係を示すものではないが、家庭内のほこりにクルミアレルゲンが存在することが示された」としている。

◆ リビングルームと子供用ベッドからほこりを採取
 食物アレルギーの発症要因として、環境中の食物アレルゲンの存在が注目されている。これまでに大矢氏らは、3歳児の寝具を調べたところ、全例から鶏卵アレルゲンが検出されたことを報告している(Allergol Int 2019; 68: 391-393)。しかし、過去に環境中のクルミアレルゲンについて検討した研究はほとんどない。そこで今回、家庭内のほこりに含まれるクルミアレルゲンについて調査した。
 対象は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの外来を受診した小児(年齢中央値6.9歳、範囲1.6~16.6歳)の家庭のうち、食物アレルギーの患児がいる32家庭およびいない13家庭。食物アレルギーの内訳は、クルミアレルギーが11家庭、ピーナツアレルギーが13家庭、卵アレルギーが18家庭(複数回答あり)だった。
 家庭におけるクルミの摂取状況は、2021年8月と11月にアンケートを実施して調査。ほこり採取日前の6週間分について、週平均の摂取量を算出した。
 ほこりの採取はスタッフが各家庭を訪問し行った。リビングルーム、子供用ベッドの上のほこりを同一手法で採取し、ELISA法でほこり中のクルミアレルゲン量を測定した。
 クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1への感作については、ほこり採取日の前後1年以内に測定されたJug r 1特異的IgE値を用いた。

◆ Jug r 1感作陽性児の50%で、ベッドのほこりにクルミアレルゲン
 検討の結果、約3分の1の家庭(リビングルーム13家庭、子供用ベッド14家庭)で、家庭内のほこりから環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンが高レベル(200μg/g以上、最大6万μg/g)で検出された。
 また、家庭内におけるクルミの消費量が4g/週未満の家庭と比べ、4g/週以上の家庭ではリビングルームと子供用ベッドの両方でほこりに含まれるクルミアレルゲンの量が有意に多かった(順にP=0.0053、P=0.0025)。
 さらに、クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1に対する感作が陰性だった子供のベッド(9家庭)のほこりからは、クルミアレルゲンが検出されなかった。一方、Jug r 1に対する感作が陽性だった子供のベッドの半数(6家庭中3家庭)で、ほこりからクルミアレルゲンが検出された
 以上から、安戸氏らは「家庭内のほこりにはクルミアレルゲンが存在しており、小児のクルミアレルゲン感作と関連する可能性が示唆された」と結論。その上で、「昨今のクルミアレルギー患者の増加の一因として、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在が考えられ、今後注視していく必要がある」と付言している。

次は洗顔料に含まれるトウモロコシ成分で感作され、
トルティーヤを食べたらアナフィラキシー(重度のアレルギー症状)を発症した報告例を紹介します。

▢ 洗顔料のトウモロコシ成分に注意!トルティーヤでアナフィラキシーを起こした一例
・・・トウモロコシによるアナフィラキシーショック症例が、第52回日本皮膚免疫アレルギー学会(2022年12月16〜18日)で報告された。発表した京都府立医科大学附属病院皮膚科の谷口正和氏は、スクラブ洗顔料中のトウモロコシ成分による感作に注意を呼び掛けている。
◆ 摂取の15分後にアナフィラキシーを発現
 患者は51歳女性。幼児期からアトピー性皮膚炎を有していたが、食物アレルギーの既往はなかった。メキシコ料理店でトルティーヤ(トウモロコシ粉で作る薄焼きパン)を食べ、店を出て15分ほど歩いたときに頸部発赤、全身瘙痒、呼吸困難が出現、血圧低下がみられたため救急車を要請した。・・・原因精査の目的で京都府立大学皮膚科を受診した。
 谷口氏が血液検査を行ったところ、総IgEは3,075IU/mLと高かった。抗原特異的IgEではヤケヒョウダニとハウスダストIが高値(クラス6)を示したが、これはアトピー性皮膚炎の原因と考えられた。注目すべきはトウモロコシがクラス3と高い点であった。
◆ トルティーヤとトウモロコシアレルゲンがプリックテスト陽性
 次に、メキシコ料理店で供された玉ネギやチキン、トルティーヤやカルニータス(豚肉のラード煮込み)などに絞ってプリックテストを行った。すると、トルティーヤと「トリイ」トウモロコシ(診断用アレルゲン皮内エキス)のみ15分後判定で陽性だった。そして患者に日常生活を尋ねると、トウモロコシ成分の入った洗顔料の使用が判明した。また、前年までトウモロコシ入り食物繊維食品を摂取していたことも分かった。・・・再度のプリック検査を施行した。・・・陽性を示したのは、22品目中コーンスターチ、トウモロコシ缶詰、トウモロコシ生のみ。トウモロコシ含有洗顔料のスクラブパックは陰性だった
・・・
◆ 疑われるトウモロコシ含有洗顔料による感作
 以上から、本症例はトウモロコシアレルギーと診断された。以前は普通にトウモロコシを食べられていたので、トウモロコシ含有洗顔料で感作され、大量のトルティーヤでアナフィラキシーが生じたと谷口氏は考えた。感作経路は立証できなかったが、トウモロコシ摂取と洗顔料使用は控えるよう説明したという。
 一般に食物アレルギーの感作経路としては、
①経口:消化管粘膜で感作
②経気道:花粉に感作しそれに交叉性を持つ食物の摂取で症状が現れる
ーの両者が多数を占める。ところが近年、成人発症の食物アレルギーとして、
③経皮感作
が注目されている。健常な皮膚は分子量500 Da(ダルトン)以下の物質しか通過できない。トウモロコシの主なアレルゲンであるプロフィリンやLTP(lipid transfer protein)などはどれも9kDa以上で、本来、皮膚バリアを突破できないはずだ。・・・
 しかし、本症例にはアトピー性皮膚炎の既往があり、またスクラブ洗顔料で顔面をこすることで角質が除去され、バリア機能が低下していたそのため、食物抗原が皮膚を通過、経皮感作が成立してアレルギーを発症したのでないかと、同氏は推測している。
◆ 食品を含む洗顔料では食物アレルギーに注意する必要がある
 トウモロコシアレルギーの報告数は多くない1)。比較的まれな食物アレルギーといえるだろう。同大学病院皮膚科では、たまたま成人発症トウモロコシアレルギー症例を経験しており2)、容易にトウモロコシを疑うことができた。
 選考症例はトウモロコシ含有せっけんで洗顔しており、経皮感作後のアレルギー発症という流れも同じだった。今回の症例では、患者が日常使用していたスクラブ洗顔料にトウモロコシの穂軸の粒子が含まれていた。洗顔料はプリックテストで陽性にならず、トウモロコシ穂軸成分は入手できなかったため、経皮感作の証明はかなわなかった。しかし谷口氏は、食品成分を含有する洗顔料の使用については、食物アレルギーに細心の注意が必要だと述べている。

トウモロコシ成分以外にも、洗顔料に入っている食物成分に感作されてアレルギー症状を誘発した例が報告されています。
有名なのが、2010頃話題になった「茶のしずく石けん事件」

▢ 『茶のしずく石けん事件』とは?食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!

▢ 茶のしずく石鹸(加水分解コムギ)によるアレルギー~小麦アレルギー

他のアレルゲンの報告例の紹介はこちらにも;

▢ 洗顔料に含有する食物抗原によるアレルギー~小麦以外の例

というわけで、今回のブログのポイントは、
・湿疹病変はしっかり治療してツルツルすべすべが望ましい。
・食品成分の入った洗顔料・スキンケア製品は避けるべし。
でした。

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