小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「標準予防策」って何?

2020年11月29日 07時53分05秒 | 予防接種
新型コロナウイルス感染症が流行してから、
感染対策の話がテレビで毎日報道されるようになりました。

結局、有効なのは、
・マスク
・手洗い
・三密回避
に尽きる、というところに収まってきている印象があります。

以前から必須とされてきた「うがい」の効果は否定され、
ほぼ消滅してしまいました。

日本人はマスクをすることに抵抗が少ないですが、
欧米ではマスクをする習慣がなく、混乱をきたしています。
彼らにとってマスクをすることは、
・口元を隠すとコミュニケーションがとれない
・口元を隠すと顔がわからないので犯罪の温床となる
という理由で否定的なイメージらしいのです。

しかし新型コロナが、
「飛沫のみならずエアロゾル/マイクロ飛沫で感染するらしい」
「無症状の人からも感染するらしい」
と判明してから事態が一変し、
現在では義務化(ユニバーサルマスク)される国も出てきました。

でもTVに映し出される欧米人達は、
おしなべてマスクをしていませんね。
「マスク義務化反対デモ」というのも起きているようですし。
習慣を変えるのはなかなか難しいようです。

さて医療現場では、感染対策として「標準予防策」(スタンダード・プリコーション)という単語が有名です。
四半世紀前に小児科病棟内の院内感染に悩んでいた私は、感染対策についていろいろ調べたことがありました。
その頃は、アメリカのCDCが提案したユニバーサル・プレコーションからこのスタンダード・プリコーションに移行する時期でした。

標準予防策の定義は、
「全ての人は伝播する病原体を保有していると考え、患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露する恐れのあるときは個人防護具を用いることである」
です。

わかりやすく言うと、
・咳の飛沫には結核菌がいると疑え!
・血液にはHIVがいると疑え!
・便にはコレラ菌がいると疑え!
として対策をとるべし、というモノ。

さて現在、この標準予防策をベースに、その病原体の感染経路を考慮した予防対策(感染経路別予防策)を足すことが一般化されています。

標準予防策+
接触感染なら接触感染予防策、
飛沫感染なら飛沫感染予防策、
空気感染なら空気感染予防策、

といったふうに。
よく耳にする「エアロゾル感染」は新型コロナ騒ぎの中で登場した単語であり、
当然、当時はありませんでした。
まあ、まだ学術的にも正式には認められていないようですが。

では標準予防策は、どの感染経路を想定しているのでしょう?
・咳/唾液は飛沫感染?
・血液は接触感染?
・便は接触感染?
となりますか。

う〜ん、どうも釈然としません。
その理由は、同じ「接触感染」でも侵入場所が異なるから、
一緒にしてしまうと違和感があるのかもしれません。

例えば、
・飛沫感染は鼻・口・目(顔面・気道粘膜)を介する
・血液による接触感染は傷口(血管・血液)を介する
・便による接触感染は口(消化管粘膜)を介する
・空気感染は気道(気道粘膜)を介する
と違うわけです。
この辺が混乱の原因かも。

モヤッとしたものが残るので、五十の手習いとして再確認してみることにしました。

<標準予防策>
・手指衛生
・サージカルマスク
この二つのみ必須で、あとの3つはオプションです;
・グローブ→ 体液に触れるときに装着
・ガウン/エプロン→ 体液に触れる可能性があるときに装着
・ゴーグル/シールド→ 飛沫が出るときに装着
(・患者隔離→ 不要)

なんだ、簡単じゃない。
とりあえず、手指衛生とサージカルマスクをしておけばいいんだ。

と思うなかれ。
この「オプション」が曲者です。
患者さんに相対するとき、処置をするとき、
・グローブが必要か?
・ガウン/エプロンが必要か?
・ゴーグル/シールドが必要か?
とその都度、判断を迫られることになるのです。
そのシチュエーションによりアレンジする能力が求められる高度なスキル。

<標準予防策+飛沫感染予防策>
・手指衛生
・サージカルマスク
の二つが必須であることは同じです。
さらに追加されることは、
・患者隔離(換気個室、患者にマスク)
だけで、ほかのオプションは同じです。

<標準予防策+接触感染予防策>
・手指衛生
・サージカルマスク
の二つが必須であることは同じ、
さらに追加されることは、
・患者隔離(個室)
だけで、ほかのオプションは同じです。

各感染経路予防策を足しても、入院設備のない開業医院では、
標準予防策と飛沫感染対策・接触感染対策はあまり違いがないということになります。

<標準予防策+空気感染予防策>
・手指衛生
・N95マスク(サージカルマスクでは不十分)
の二つが必須、かつ
・患者隔離(換気個室、患者にマスク)
が追加になります。
そして、ほかは同様にオプションです。

ここで初めて「N95マスク」が登場しました。
接触感染・飛沫感染予防策と明らかに一線を画する空気感染予防策。

さて、新型コロナウイルスの「エアロゾル感染」「マイクロ飛沫感染」は、
飛沫感染と空気感染の中間に近い感じで使われています。

なので、N95マスクの必要性が宙ぶらりんになっているのが現状です。
一般診療でN95マスクを常時装着すべしとする意見は耳にしません。
N95マスクとは息苦しさを感じるほど密閉感があり、
連続装着は1時間が限度、と聞いています。

以上、新型コロナ対策は、
「標準予防策+接触/飛沫感染予防策(〜空気感染予防策?)」
とうまくまとめられませんでした

現実には、カゼ症状を訴えて来院された患者さんは、新型コロナを否定できませんので、
「すべての患者さんが新型コロナかもしれない」
と想定して対応するのがベストです。

中山久仁子先生は新型コロナ感染対策について、以下のように述べています;

標準予防策+飛沫感染/接触感染予防策」を実行、
具体的には、
・手指衛生
・有症状患者の診察の際はグローブとガウン/エプロン
・サージカルマスク(+患者にもマスク)
・診察の際はゴーグル/シールド
(・患者隔離:有症状患者は換気個室/患者にマスク)

ここにN95マスクは入っていませんね。
現在、小児科開業医である当院で行っていることと比較すると、
「グローブ装着」をしておりません。

まずいかな?

どうしてこうなったかというと、
新型コロナ騒ぎの当初はグローブが手に入らなかったからです。
そしてグローブがないときは手指衛生で代用可能とされていました。

■ 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第3版)

の15ページに「PPEが不足している状況下における感染管理の考え方」が記載されています。
その表を抜粋しますと・・・手袋の(注 1)に「手袋が使用できない状況では手指衛生で代用」とあります。


医療者が行うグローブ装着には二つの目的があります。
1,接触感染から自分を守る
2,接触感染から患者さん守る
もし2までカバーするなら、一人一人の患者さんの診察ごとにグローブを交換する必要があります。
最近、スーパーのレジ担当者がグローブ(手袋)をしている光景を見かけますが、
各お客さんで毎回交換しない限り、2は期待できません。

果たして医療用グローブを患者さん毎に交換して診療している開業医が現在どれだけいるのか疑問です。
市中感染が広がり、新型コロナの確率が高くなった段階で実施することになると思います。

少し脱線しますが、小児科開業医の感染対策で現在も困っていることは、
「エアロゾル発生の可能性のある処置」
です。
上の表には「N95マスク」が必要とされています。

どうもこの「エアロゾル」の定義が曖昧なので、
「N95マスク」の必要性がどっちつかず、ですねえ。

2020年の2月か3月頃、N95マスクが品不足のため、
日本医師会から医療関係者に「エアロゾル発生処置は控えるように」
という指示が出ました。
現在もN95マスクは潤沢に流通しておらず、
当院でも困っています。

「エアロゾル発生処置」とは、具体的には、
・喘息発作のネブライザー吸入
・乳児の鼻吸引
・乳幼児の採血
などを指します。

口を開けて呼吸したり、咳き込んだり、
乳幼児が泣き叫んで唾液が飛んだりする処置ですね。

このうち、喘息発作の吸入は携帯用吸入器を駐車場の車内で行うことで解決しました。
残りの二つは、まだ見通しが立ちません。

ただ、小児科はふつうの診察でも泣き叫ぶ乳幼児が当たり前のようにいますし、
予防接種の際も乳幼児は大抵泣き叫びます。

この辺を見て見ぬ振りして、処置だけクローズアップして禁止するのは、
いかがなものか・・・というのが現場のつぶやきです。

岡Dr.のわかりやすい解説を見つけましたので、一部抜粋します;
※ 下線は私が引きました。

■ ウィズコロナ時代の適切な感染予防とは?
岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)
 ・・・無症状者も多い新型コロナウイルス(SARS- CoV-2)の感染対策の肝は、ズバリ、全員にPCR! ......ではなく、常にガードを固めて臨むということです。しかし過剰なガードは不自由を伴います。ではどの程度のガードが必要なのでしょうか。そのガ ードこそ標準予防策であり、それを常に徹底するこ とが必要なのです。これが非常に重要で、4本の矢の中でも最重要であり、最終の防衛ラインになる対 策だと考えてください。
 常に標準予防策を守っていれば、後で感染者が判明した時に感染拡大を最小限に抑える ことができます。これはみんなにPCR検査を行うことよりもはるかに重要です。PCRの感度に限界がある以上、いくらPCR検査を行っても感染しているかどうかを完全に把握することはできません。つまり完全な見える化は無理なのです。ですから、「見えてからガード」ではなく常に標準予防策を実施し、その上で疑いのある場合は速やかにオプションである接触・飛沫感染予防策も講じる必要があります。
 標準予防策はスタンダードであり、医療者ならば誰もができなければいけないですし、
行わなくてはならないことです。これを行わないのは、本来は今までであっても「医療者
失格」で、医療の現場に出る資格がないと強く言いたい必須スキルになります。COVID-
19などが疑われた際には、それに加えて、必要となる接触・飛沫対策を追加するのです。

「標準予防策を守ること」を理解できていますか?
 さて、この「標準予防策」がどのようなものか復習してみましょう。定義は、「全ての人は伝播する病原体を保有していると考え、患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露する恐れのあるときは個人防護具を用いることである」です。
 これ、きちんと理解できていたでしょうか。実際、現場には誤解があるように感じます。標準予防策というと、「手洗いだけしてれば、あとは何もしない、いつも通り」と思われがちですが、これは大きな間違いです(もちろん、「いつも通り」がしっかり標準予防策となっているならば、いつも通りでOKですが)。
 本当は非常に頭を使わなくてはならず、状況に応じて感染を防ぐ対策をセレクトしなければならないのが標準予防策です。
 再度、復習しましょう。患者由来の湿性物質との接触が予想されるときには予防具を用います。湿性物質に触るときは、手袋、口・鼻の粘膜が汚染されそうなときはマスク、衣服が汚れそうなときはプラスチックエプロンやガウン、飛沫が目に入りそうなときはアイシールドやゴーグル、顔、目、口、鼻の粘膜が汚染されそうなときはフェイスシールドを着用します。
 すなわち、手袋を着けるのか、ガウンを着るのか、マスクをするのか、それぞれ頭を使って決める必要があり、接触・飛沫・空気感染予防策と比べても実は一番難しいのです。それでも全員ができなければいけません。全ての感染予防策は、標準予防策が土台にあり、必要に応じて、応用として付け足すものなのです。
 例を示しましょう。今、目の前に恐らく感染症を全く発症していないであろう患者がいるとします。その患者に触るとき、手袋は必要でしょうか? それはいりません。しかしながら、その患者は何かの病原体を持っている可能性があります。その患者に触れることで、何かの病原菌を自分の手につけてしまい、さらにはその病原体を他の患者に運んでしまうかもしれません。ですから、仮に手袋を着けなかったとしても、患者に触れる前後にはアルコールで手指消毒をしなければいけません。これが標準予防策の考え方です。
 では、患者にもしどこか傷口があり、血を流している場合、手袋やガウンは必要でしょうか? これは必要になります。血液など、人の体液は常に何らかの感染源になると考えるべきで、血液が付着する可能性がある際は事前に手袋やガウンを着用しなければいけません。また、血液が自分の顔に触れる可能性があればフェイスシールドも必要です。
 こんな場合はどうでしょうか。目の前の患者はCOVID-19の診断を受けてはいませんが咳をしています。この場合、マスクはやはり必要です。咳をするということは、飛沫感染を起こす微生物を持っているかもしれないからです。また、感染症の診断がないからといって、患者のおむつを替える際、まさか素手で触りませんね。便や尿がつくかもしれません。手指衛生をするだけでなく、手袋もガウンもします。
 このように、状況に応じて判断して適切に防護具を着けなければいけません。つまり、全て患者の体液・排せつ物に触れる可能性がある場合は感染性があるものと仮定して、状況に応じた適切な防護策を自分で選ぶのが標準予防策であり、医療従事者はこれを順守しなければいけないのです。
 標準予防でもガウンや手袋、マスクを着けることがあるとならば、接触予防策や飛沫予防策は標準予防策と何が違うのでしょうか。それは、接触飛沫予防策、空気感染予防策で は、既に対象となる微生物が判明していたり、あるいは強く疑われる状況にあるのが前提ということです。ですから、その患者のおむつ交換という場面でなくても、常に接するときは前もって、手袋やガウンを着けて診療をしなければならないというのが接触予防策です。同様に、前もって距離を開け、それが困難ならお互いにサージカルマスクを着ける。
 これが飛沫予防策です。患者が結核だと診断されている場合や強く疑われている状況では可能であれば、陰圧室に入れて、我々は診察室に入る際に空気感染予防用のN-95マスクを着けなければなりません。これが空気感染予防策です。
 医療従事者はこれらの予防策を習熟して、しっかりと対策しなければいけません。これが感染予防の最終防衛ラインです。感染予防策ができていれば、検査で見逃された患者からの感染の拡大も未然に防ぐことが可能になるのです。

COVID-19対策の“特別オプション”
 さらにCOVID-19に対する特別な対策オプションがあります。それがユニバーサルマスクです。先ほど私は、飛沫感染の恐れがある場合の対策として、互いにサージカルマスクを着けることを紹介しました。患者もしくは医療者が咳をしている場合、飛沫感染を起こすリスクがあるため標準予防策としてマスクの着用を選択しますが、COVID-19対策では頭を使わずに誰もが常にマスクを着用します。
 咳の有無、ソーシャルディスタンスの可否によらず、医療機関内にいる全員がマスクを着用することをユニバーサルマスクと呼びます。病院の外来や診療所に入る全ての職員・関係者(可能な患者さんも)はマスクを着けるのです。COVID-19対策では、標準予防策 に加えてユニバーサルマスク着用が標準仕様になります。これはエビデンスもある程度確 立してきており、ユニバーサルマスクを導入する前後で、研究を行った医療施設の医療従 事者のCOVID-19陽性者数が明らかに減ったとする報告があります。というのもCOVID-19は飛沫感染が主体ですが、症状が出る前から感染性があります。つまり、咳をしていなくても通常の会話で生じる飛沫で他人へ感染が起きる恐れがあるのです。サージ カルマスクはそのソースコントロールとして、口から飛沫が放出されるのを抑える効果があります。従ってCOVID-19流行下では、医療従事者はユニバーサルマスクも標準予防策 の一環として行う必要があるのです。

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たくさん登場した新型コロナの検査を、どう使いこなすか?

2020年11月22日 08時55分33秒 | 予防接種
前回の記事で「現在行われている新型コロナ検査はすべて不完全である」と書きました。
しかし、医療現場では手持ちの駒で診療をしなければなりません。
これらの検査をどう使いこなすか、が問われています。

2020年10月に公表された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針:第1版」の図表を参考に考えてみます。



PCR検査は毎日陽性者が報告されているおなじみの検査ですね。
検査には数時間かかり、基本的に検査の翌日に結果が報告されます。
LAMP法は短時間で結果が出ますが、専用の機械(高価!)が必要ですので大病院レベルでないと用意できません。
これから期待できるのは抗原検査で、1時間以内に結果が判明する迅速診断キット(抗原定性)が数種類登場していますが、前記事で記したように感度が低いのが難点です。



次は検査検体の種類です。
すべて上気道から採取しますが、表の3種類が認められています。

鼻咽頭ぬぐい液」は「上咽頭ぬぐい液」とも呼ばれているもので、鼻から綿棒を水平に入れて喉上部の壁に達したらそこをグリグリ拭う、インフルエンザでおなじみの検査です。大人では10cmくらい進めないと到達しません。当然、子どもは嫌がって泣き叫びますし、大人でもむせて咳き込むことが多いので、飛沫感染対策・エアロゾル感染対策が必要です(⇩表5)。これが開業医レベルで検査をしにくい大きなハードルになってきました。

その後登場した「鼻腔ぬぐい液」(専門用語では「鼻前庭ぬぐい液」)。
これは綿棒を鼻の奥まで進めず、入り口付近の2cm奥をグルグル拭うだけでOK。
簡単なので、医療者の監督下に患者さん自身に行ってもらうことも可能です。
この点がすごく大きい。
患者さんにやってもらえるので、医療者は鼻咽頭ぬぐい液の時のように防護具を患者ごとにフル装備する必要がなくなります。
小児科ではどうでしょうか。
お母さんが嫌がる我が子を固定して鼻の入り口を拭う動作はちょっと危険です。
一人、あるいは二人がかりで子どもを動かないようにしっかり抑える必要があります。
当然、子どもは嫌がって泣き叫びますから、飛沫・エアロゾル感染対策が必要になり、その医療スタッフにはフル装備の防護具が必要になります。
「鼻腔ぬぐい液」検査は、内科にとっては福音ですが、残念ながら小児科では有用とはいえません。

他に「唾液」検査も登場しました。
唾液を1〜2ml、吐き出して容器に収める方法です。
患者さん自身にやってもらうので、医療者の防護具は軽装で済みます。
ただ、こちらも上手にできるのは小学生以上でしょう。
幼児には無理そうです。

なお、インフルエンザ迅速診断で行われている「鼻かみ検体」は新型コロナでは認可されていません。

というわけで複数種類の検体が使えるようになり、成人対象の内科では簡便に検査できるようになりましたが、小児科は恩恵に預かれない、フル装備の感染防護具が必要なまま、というのが実情です。






次に検査の流れを見てみましょう。
現在、新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」扱いなので、診療内で行う分は保険適応かつ政府の補助金があるため無料です。
ただし、濃厚接触者でも無く症状もないけど心配だからどうしてもやりたい、という場合は自費になります。


11月から発熱患者の診療、検査をスムーズに行う目的で「診療・検査医療機関」という仕組みが作られ、稼働をはじめました。
しかし私が初めてこのシステムを知ったとき「???」という印象でした。

「発熱患者を診療する医療機関には補助金が支給される」
「補助金は上限20人とし、発熱患者を1人診療するたびに減額される」

エッ? と耳を疑いました。
「発熱患者を診ると増額される」のではなく「減額される」のです。

「どういうことですか?」
と質問すると、
「PCR検査陽性者のベッド確保と同じ考え方」
「発熱患者を診療すると公表すると、かかりつけ患者の受診抑制の可能性が出てくるので、そこを補填する」
という考えなんだそうです。

なるほど、極めて“内科的”な考え方なのですね。
実際に内科開業医では「発熱患者は診ない」ところも出ているそうですから、そこに「発熱患者を診てください」という依頼する代わりにアメを与える、という図式。

しかし、小児科開業医にはこの仕組み、まったく役に立ちません。
小児科開業医は、新型コロナ騒ぎ後も、感染対策を取りながら以前のように発熱患者の診療を続けているところがほとんどです。

11月現在、毎日発熱患者は10人以上来院しています。
「上限20人」は一日中発熱外来を開いて他の患者さんを診療しない設定の場合です。
発熱患者も一般患者も診ている時間帯は数に入りません。
すると、一般小児科が行っている診療では、補助金は限りなくゼロに近くなります。

腹が立つと言うより、あきれてものが言えません。
まあ、少数派の小児科がないがしろにされるのは今に限ったことではありませんので、
「ヤレヤレ・・・」
という感想しか出てきませんね。

というわけで、このヘンな「診療・検査医療機関」に手を挙げる医療機関は1/3程度しかいない、という情報があります。
絵に描いた餅ですね。
もっと現場が協力しやすいシステムに改変していただきたい。

次は症状のある患者さんが来院したときに、どの検査を選択するか、という問題です。



上の表を理解して使いこなすことが現場に要求されています。
複雑なので、この表を横目で見ながら診療することになりそうです。

当院のような小児科開業医を想定して考えてみます。

まず、抗原定量検査は高価な器械を用意する必要があり、抗原定性検査(=迅速検査)は感度が低いので採用は現実的ではありません。
よって、一番一般的なPCR(拡散検出)検査が優先されます。

PCR検査では、検体は「①鼻咽頭ぬぐい液」「②鼻腔ぬぐい液」「③唾液」が選択可能です。
すべて可能なのは小学生中学年以上でしょう。
残念ながら簡便な検査方法は小児科になじみません。
乳児〜未就学児では①が選択されることになり、フル装備の感染防護具が必要。

結局「鼻咽腔ぬぐい液を用いたPCR検査」という当初からの検査方法を選択することになりそうです。
時間と手間がかかるため、PCRセンターが稼働していれば、そちらにお願いする方がスムーズに運ぶと思われます。

最後に、様々な状況により選択すべき検査のフローを提示しておきます。
キーワード「有症状者」「濃厚接触者」「症状出現9日以内か10日以降か」で仕分けが行われます。



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たくさん登場した新型コロナの検査を、どう捉えるか。

2020年11月22日 08時05分23秒 | 予防接種
現在、新型コロナウイルス検査の中心はPCRです。

これは、ウイルスの遺伝子のかけらを検査室で増殖して判定するため、専門技術と時間が必要です。
結果が出るまでに要する時間は、ふつう翌日、自動化した機械では6時間まで短縮されました。

そして、検査の感度(感染している人が陽性に出る確率)は、高く見積もって70%。
以前は50〜70%と言われていました。
「感度70%」ということは、実際に感染していても10人に3人は陰性に出てしまうということ。
ずいぶん頼りない数字ですね。

もう一つ、PCR検査は大きな問題をはらんでいます。
「PCR陽性=感染力がある」ではなく「PCR陽性≠感染力がある」なのです。
ウイルスのかけらでは、感染力・増殖力がありません。

感染力があるかどうかを判定するには「ウイルス培養」が必要であり、この検査がウイルス活性を評価するゴールド・スタンダードであることは医療関係者には常識です。
今回、ウイルス培養がまったく話題にならないのは不思議です。
おそらく、ウイルス培養検査の結果が出るまで待てない、国民も政府も前のめりになっている姿勢がありありと感じられます。

PCR陽性者でも、症状が出てから10日経つと感染力が無くなると報告されています。
PCR陽性=ウイルスのかけらは残存していても、完全体はほぼ消失しているため、感染・増殖能力は無くなっているということですね。

便の中に新型コロナウイルスが検出された、トイレ周囲は要注意!
という情報も流れました。
しかし、ウイルス学では「外膜(=エンベロープ)を有するウイルスは便中ではエンベロープが壊れているので感染性がない」ことが常識らしい。
「エンベロープが壊れている」と言われてもピンとこないと思いますが、身近な例では、アルコール消毒がわかりやすい。
アルコール消毒とは、高濃度のアルコールでウイルスのエンベロープを破壊することに他なりません。
つまり、便中のウイルスはすべてアルコール消毒で失活された状態にあるので、感染力は無い、ということになります。

しかし現在、日本、いや全世界はこのPCR検査に頼り切っています。

さらに、迅速診断キットを含めた抗原検査が登場しました。
この「抗原」とは「ウイルス」を指します。
迅速診断キットの登場で「インフルエンザと同レベルの外来診療ができるようになった!」と私も一度は喜んだのですが、感度の低さを知りがっかりしました。
感度は30〜70%程度、ざっくり見積もって約50%。
つまり、検査をしても実際の感染者の半分しか陽性に出ないのです。
残りの半分は見逃してしまう・・・これでは使い物になりません。

知り合いの小児科医達と情報交換すると、「まだ迅速診断キットは実用レベルではないから採用しない」という意見が多く聞かれます。

それから血液中の抗体検査。
抗体は人体がウイルス感染を受けると、それを除去するため発動する免疫反応の結果として産生される武器です。
一般に、抗体が作られるまでに感染してから1〜2週間かかりますので、現在症状のある患者さんの検査としては役立ちません。
症状が治まった後の感染確認としては有用です。
あるいは、「この地域でどのくらい感染者がいるのか」を調査する目的でも有用ですね。

ただ、問題はこの抗体の動態・推移です。
感染後に抗体値が上昇することは確認されていますが、その量には個人差があることと、産生された抗体がどのくらい持つのか、まだ不明瞭です。

ウイルス感染症の中には、
① 一旦抗体が産生されると一生有効なタイプと、
② 数ヶ月〜数年単位で消えてしまうタイプ
があることがわかっています。

例えば、麻しんや風しんは前者の一生ものタイプ。
例えば、RSウイルスやノロウイスルは一過性のタイプ。

この分かれ目は「全身感染か表面感染か」「ウイルス血症を生じるかどうか」にかかっているとされています。

例えば、麻しんや風しんは潜伏期が長くウイルス血症をきたす。
例えば、RSウイルスは呼吸器系のみ、ノロウイスルは消化器系のみに感染する。

さて、新型コロナウイルスはどちらなのでしょうか?
一部「ウイルス血症をきたす」という考え方もあるようですが、平均5日間という潜伏期からすると、呼吸器系の表面感染の可能性の方が高いのではないかと私は感じています。
すると、感染後抗体ができても長続きしない、という結論になるかもしれません。
この点は、まだ議論中で不明瞭な領域ですね。

以上、新型コロナに対して現在行われている検査はすべて不完全なものです。
検査して陰性だったから安心、抗体があったからもう一生縁が無い、とはとてもいえない代物です。
検査のゴールド・スタンダードは「ウイルス培養」ですが手間暇・費用がかかるので実施されにくいのが現状です。

さて、PCR検査、抗原検査、抗体検査という手持ちの駒をどう使いこなすかが、これからの医療に問われています。
その点については、次の書き込みで取り上げます。

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「乳児湿疹と言われたけど、アトピー性皮膚炎が心配」なお母さんへ。

2020年11月01日 20時23分57秒 | 予防接種
生後数ヶ月の赤ちゃんの顔がカサカサして赤くなり、抱いていると服に顔をこすりつけてくる・・・皮膚科・小児科に行くと「乳児湿疹」と言われて軟膏を処方され、塗るとよくなるけどやめるとまた悪化する・・・これってアトピー性皮膚炎かも?
と不安になっている保護者の方へ。

乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の関係について説明してみます。

乳児湿疹とは、文字通り「乳児」の「湿疹」で、乳児期にできる皮疹をひとくくりにした呼び方で、病気の診断名ではありません。
乳児湿疹の中にはあせも(汗疹)や「かぶれ(接触皮膚炎)、そしてアトピー性皮膚炎も含まれます。

では、どんな「乳児湿疹」がアトピー性皮膚炎の疑いがあるのか?

ちょっとお堅いですが、アトピー性皮膚炎の診断基準をみてみましょう。

1.掻痒(かゆみ)

2.特徴的皮疹と分布
①皮疹は湿疹病変:紅斑(赤い斑点)、丘疹(盛り上がり)、痂皮(かさぶた)、苔癬化(ゴワゴワ)など
②分布:左右対称性、顔面・耳介・首・手足の関節・体
★ 乳児期は、頭、顔に始まりしばしば体・手足に広がる

3.慢性・反復性の経過:乳児では2ヶ月以上、それ以外では6ヶ月以上続く

→ 上記1、2、3の項目を満たすものをアトピー性皮膚炎と診断する。

顔をこすりつけるしぐさ=お母さんの服を使って掻いていることになるので、はじめに書いた症状の赤ちゃんはアトピー性皮膚炎が疑わしい。
ただ、ここで「2ヶ月以上続く」という縛りがありますので、2ヶ月未満の場合は診断できないことになります。

では2ヶ月間、かゆがっているのに治療開始を待たなくてはならないの?
という疑問が湧いてきます。

世界的に使用されている診断基準を見てみましょう。
英国NICEガイドラインの「The U.K.Working Partys diagnostic criteria」によると、乳児期アトピー性皮膚炎の診断基準は、

必須項目:皮膚のかゆみ

さらに、以下の3つ以上を満たす者をアトピー性皮膚炎と定義;

・現在、肘窩や膝窩などの屈曲部、頬部、手足外側のどこかに湿疹がある
・屈曲部、頬部、手足外側のどこかに湿疹ができたことがある
・皮膚乾燥の既往がある
・一親等以内にアレルギー疾患の既往がある

あれ、こちらには「期間」の設定がありませんね。
つまり、「カサカサ肌でかゆい湿疹」が所定の場所にあればアトピー性皮膚炎と診断できることになります。

私は2番目の「The U.K.Working Party's diagnostic criteria」を採用して、最初に例示した赤ちゃんにはアトピー性皮膚炎に準じた治療を速やかに開始しています。

そして1週間でつるつる・すべすべの肌にしてあげます。
その後は保湿剤に切り替えて様子観察しますが、治療をした赤ちゃんの3人に一人は、また湿疹が顔を出してきます。
そのような例には、再度治療をしてつるつるすべすべにしたのち、すぐに治療をやめないでゆっくり減らしていく方法(これを“プロアクティブ療法”といいます)を導入します。
そのうち8〜9割の赤ちゃんが3〜6ヶ月で治療を終了し、保湿剤によるスキンケアだけできれいな肌を維持できるようになります。

湿疹のないつるつるすべすべの肌を保つことにより、食物アレルギーや喘息を予防できることが最近わかってきました。
逆に言うと、不十分な治療でよくなったり悪くなったりを繰り返すと、食物アレルギーや喘息のリスクが高くなるということ。

乳児アトピー性皮膚炎のコントロールが悪いと約3倍喘息になりやすい、
乳児アトピー性皮膚炎をしっかり治療すると食物アレルギー発症が半分になる、
などの研究報告が次々と発表されています。

赤ちゃんに湿疹が出てかゆがるときは、かかりつけの小児科・皮膚科にご相談ください。
できればアレルギー学会認定専門医がベターです。
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