小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「薬禍の歳月 ~サリドマイド事件・50年~」by NHK-BS

2015年03月29日 15時52分39秒 | 予防接種
 現代医学の闇である薬害事件を追った番組です。
 悪いのは薬とその使用を許可した国なのに・・・
 被害者本人が一生苦しむことになり、親は罪悪感にさいなまれて一家離散する例も珍しくありません。
 50年経過した現在、想定外の新たな健康被害も重なってきました。
 まるでポリオワクチンの副反応にみられる後麻痺のようだと感じました。

■ 薬禍の歳月~サリドマイド事件・50年~
(NHK-BS:2015.2.21放送)
 日本の薬害事件の嚆矢(こうし)とされる「サリドマイド事件」。安全と宣伝された薬を飲んだ母親から、重い奇形を背負った子どもが次々と生まれた。その責任を国と企業に問うた裁判は、因果関係を巡って10年ものあいだ争った末、和解に終わった。それから40年。裁判を闘った親達の多くはこの世を去り、当時、子どもだった被害者の平均年齢は50歳を超えた。事件は何をもたらしたのか、そして、被害者は、薬害を背負った人生をどう生きたのか。今、被害者みずからの手によって、その問い直しが始まろうとしている。去年6月、サリドマイド被害者を対象にした国による実態調査の結果が公表された。最新の医療機器を使った検診や、聞き取り調査などによって浮かび上がったのは、これまで知られてこなかった多様な障害の数々だった。外形的な奇形に留まらない内臓や骨、血管などの奇形、障害を補うための無理な体の使用による二次障害。40年前には想像だにしなかった被害の発生が裏付けられたのである。
 番組は、最新の調査報告で裏付けられたサリドマイド被害の実態を報告。事件に再び向き合い始めた被害者らの姿を見つめながら、半世紀を経ていまなお続く「薬禍の歳月」を描く。


 印象に残った人物と言葉。



 牧場で肉体労働をする体格のよい男性。
 上肢はなく、肩から手が出ている状態。彼は病院(施設?)の前に捨てられ、親の顔を知りません。施設を転々として生きながらえてきました。

「オレは薬害裁判の“和解”に反対だ。刑事事件として実刑判決が出なければ、奴らは反省しない。だから今でも薬害が後を絶たないんだ。俺たち被害者が生き地獄を味わっている間、金で解決するとタカをくくっている製薬会社の犯人達は、のうのうといい生活をしてるじゃないか。何度も死にたいと思ったが、施設を渡り歩くと“生きたくても生きられない”病気(筋ジストロフィーなど)の連中も見る羽目になり、オレよりもっとつらい思いをしていても生きようとする姿を見ていると、自殺なんかできなくなるんだ。でも、今でも生き地獄であることには変わりない。」

 この発言には返す言葉が見つかりません。
 国はどう答えるんだろう。
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「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」(日本小児アレルギー学会作成)

2015年03月07日 06時33分24秒 | 食物アレルギー
 乳児期発症の食物アレルギーは一生モノではなく、成長過程で治っていくことが圧倒的に多い病態です。
 ですから、タイミングをはかって除去していたアレルゲン食物を解除する作業が必要となります。
 じんま疹などの皮膚症状のみの場合は家庭でも可、しかしアナフィラキシーなど重症化の可能性がある患者さんは医師の監督下に医療機関で行わなければなりません。
 当院は入院施設のない開業医なので、皮膚症状のみの軽症者で家庭で試すのが不安な方には外来待合室で食べていただき、30分様子を見て問題なければ帰宅していただいていました。
 一方、皮膚症状だけでなく咳込み(呼吸器症状)や嘔吐(消化器症状)を伴う患者さんは入院施設のある総合病院小児科へ紹介していました。

 悩ましいのが「離乳食開始前にアレルギー検査をして陽性に出たので除去を指示され、食べたことがない」患者さん。
 「何が起こるのか予測がつかない」のです。

 そこで、件名の本を確認の意味で通読してみました。
 この本は、それまで医療機関ごとにバラバラだった食物経口負荷試験の標準化を期して学会主導で作成されたガイドラインです。

 ムムム・・・重症者中心の記載であり、入院しての食物負荷試験が基本。
 外来での食物負荷試験に関する記述は乏しく、それでも抽出すると「1~2時間かけて摂取、最終摂取後2時間程度観察してから帰宅させる」と病院の外来では可能だけど、開業医では施行困難な設定になっていました。
 それに、私が行っていた「待合室で一度食べてみて30分様子を見て問題なければ帰宅」という単回摂取は「食物負荷試験とは呼ばない」と明言しています。
 あっ、そう。
 なんだか、「入院施設のない開業医レベルでは食物負荷試験はやるべきではない」と言われているような・・・(苦笑)。

 当初の疑問である、「何が起こるのか予測がつかない」患者さんは「すぐに救急医療体勢に移行できる状態」で行うべき、と読めます。
 開業医で行う場合は近隣にアクセスのよい救急搬送可能な病院が必要。
 しかし当地域の基幹病院は小児病棟を閉鎖してしまい、市外の総合病院へ搬送しなければなりません。以前は5分で救急車搬送できたのに、現在は30分かかってしまいます。
 これではアナフィラキシーショック発生時に救急搬送しても、結果が悪ければ「不十分な体制で危険な医療行為を行った」と非難される可能性があります。
 でも考えてみると、毎日10人以上に行っている予防接種もアナフィラキシーショックの発生の可能性がある医療行為です。
 この矛盾をどう考えるべきか?

 というわけで、このガイドラインを読む限り、残念ながら当院では「離乳食開始前にアレルギー検査をして陽性に出たので除去を指示され、食べたことがない」患者さんの食物負荷試験はできない/行うべきではない、と判断せざるを得ませんでした。


*****************<メモ>***************
 自分自身のための備忘録。

■ 経口負荷試験の保険適応
・2006年:一定の基準を満たした施設において入院で行われる経口負荷試験が健康保険で認可された。
・2008年:外来での負荷試験が保険適応

■ 感作されているが直接的には未摂取の食品の経口負荷試験
・母乳を介する食物除去負荷試験が陽性の場合、その食物アレルゲンを直接摂取するとより強いアレルギー症状が誘発される可能性があるため、初回投与時には感作の程度を参考にして適応を決定し、適応がある場合にも負荷試験に準じて慎重に行う必要がある。
・感作が証明されているが摂取歴のない食品は、原則として1歳を過ぎてから、慎重に負荷試験を行う。

■ アレルゲンの種類と負荷試験の適応
・鶏卵、牛乳、小麦、大豆は、最終の誘発歴から1年経過したら負荷試験の実施を検討する。
・ピーナッツ、木の実、甲殻類、ソバで誘発症状の既往があるものは、原則として負荷試験は行わない。
・コメ、野菜、大豆、イモ、肉類はIgE高値でも無症状であることが多く、これらの食品は乳児でも比較的安全に負荷試験を行うことができる。

■ 特異的IgE抗体の捉え方
・即時型反応を反映するが、非即時型反応には適応できない
・測定法はImmunoCAP®(ファディア株式会社)がもっとも広く使用されており、国際的にも食物特異的IgE抗体価の臨床的な評価がなされているのはこの測定法しかない。
・プロバビリティーカーブ(probability curve)で評価されているのは ImmunoCAP®に基づいたデータだけである。カットオフ値が設定されているのは卵、牛乳、ピーナッツ、クルミ、魚など。

■ 陽性適中率(検査陽性の場合に負荷試験陽性の確率)
・鶏卵、牛乳:プロバビリティーカーブ参照
・小麦:100U/mLでも陽性的中率は75%程度にとどまる。
・大豆:65U/mLで陽性適中率86%という報告もあるが、相関は弱い。
・魚:20U/mLで陽性適中率100%という報告もあるが十分には追試されていない。
・ピーナッツは13U/mL、クルミは18.5U/mLで陽性適中率99%
・アーモンドやゴマは100U/mLでも陽性適中率70%台

■ 非即時型アレルギー反応の検査
・アトピー性皮膚炎の原因診断として、食物抗原を皮膚に貼付するアトピーパッチテスト(atopy patch test, APT)が非即時型反応の推定に有用とする報告もあるが、今のところコンセンサスが得られていない。

■ 耐性獲得後に再発する可能性
・ピーナッツアレルギーでも、乳児期発症例の一部はアウトグローすることがある。しかし、その後の摂取に伴って再発する可能性も同時に指摘されている。
・一度耐性獲得した牛乳アレルギーが、食物依存性運動誘発アナフィラキシーとして再燃した報告もある。
・一度耐性獲得した食品でも、しばらく完全除去をすると反応性が再発する場合もあり、耐性獲得と真の寛解(治癒)との違いは、現時点ではほとんど解明されていない

■ 診療所で負荷試験を行うには
・診療所で実施する場合は、ただちに入院治療に移行できる条件を整えておく。
・他の感染症患者との接触を避け、衛生的に食品を摂取できる場所や時間の工夫が重要である。

■ 負荷食品の具体例
ゆで卵:沸騰してから20分ゆでる(一般の固ゆで卵は煮沸12分程度)。卵黄はゆであがったらすぐに取り出す。時間が経つと卵白オボムコイドが卵黄部分に移行するため。味付けとして、塩(ケチャップでもよい)を用意してもらう。
牛乳:加熱によるアレルゲン性の変化は少ないため、生牛乳で行う。ヨーグルトはアレルゲン性も牛乳と同程度で利用可能。
うどん:ゆでたうどんを50g持参。原材料が小麦粉、水、塩分だけのため負荷食品として使いやすい。めんつゆは、ふだん使っているものを、別の器に入れて持ってきてもらう。

■ 負荷試験のプロトコール
・総負荷量の1/32、1/16、1/8、1/4、1/2を目安に、3~6回程度に分割して漸増摂取する。
・摂取間隔は、15~30分間隔程度を標準とする。総負荷量を1~2時間程度で摂取させる。
・最終摂取後2時間程度は病院内で観察する。
・観察時間内に、口周囲の軽度の発赤や小さい膨疹、わずかな咳など、誘発症状の始まりとも思われる軽微な所見を認めた場合は、適宜観察時間を延長するか、次の摂取量を減らすなど、状況に応じて判断を行う。
・摂取後24時間以上経過してから出現した症状を陽性と判断するには、再現性を証明することが必要である。

■ 負荷試験前に中止すべき薬剤
・抗ヒスタミン薬・・・ 72時間
・β-刺激薬・・・ 12時間
・テオフィリン・・・ 12時間
・経口DSCG・・・ 12時間
・Th2サイトカイン阻害薬・・・ 12時間
・ロイコトリエン受容体拮抗薬・・・ 24時間
・経口ステロイド薬・・・ 1ヶ月程度

■ 負荷試験当日のチェックポイント
・感冒や下痢など急性疾患の場合、治癒後1週間程度までは負荷試験を延期する。
・ウイルス感染症などの伝染性疾患との明らかな接触があった場合も延期する。

■ 負荷試験の開始量
 タンパク質量として、卵で1~500mg、ミルクで0.6~165mg、魚で5~500mg。

■ オプションとしての加工食品
<鶏卵関連>
・卵黄:固ゆで卵(前述)の卵黄を使用。卵黄のつなぎも微量の卵白混入がある。こうしたわずかな卵白の混入を前提として、卵黄負荷試験を行う場合もある。
※ ゆで卵が嫌いな子どもには・・・
・卵ボーロ、クッキー、カステラ、卵白入り練り製品(かまぼこなど):卵の含有量が明確でない点が欠点。
・スクランブルエッグや卵をつなぎに使用したハンバーグ:均一な調理法や摂取量の調整について注意すべし。
・マヨネーズ:卵黄が主であるが、卵白を少量含有する。アレルゲン性は卵白より低いが、加熱処理が行われていないので、生卵に準じて扱う方が安全である。
<牛乳関連食品>
・加熱牛乳、乳クッキー、ミルクパン:カゼイン以外のタンパク質成分の加熱変性を期待して用いられる。
<魚関連食品>
・缶詰(ツナ缶など)高圧下での高温処理のため、タンパク質の変性が起きており、アレルゲン性の低下が生じている。多種の魚に対するアレルギーがあっても摂取できることが多い。

■ 食物アレルギーを有するアトピー性皮膚炎における即時型反応と非即時型反応
 食物負荷試験での報告が二つ;
・即時型:70%、遅発型:25%、混合型:5%(Niggemann)
・即時型:70.4%、非即時型:3.7%、両者陽性:25.9%(森田)

■ アナフィラキシーに対する0.1%アドレナリンの使用法
・0.01mL/kg、0.3~0.5mLを極量とする。
・効果は1~2分から出現し、15~20分で消失する。効果不十分、
あるいは一度軽快した症状が再燃してきた場合には、15~20分後に反復投与する。

■ ガイドラインでは正式に取り扱わない方法
口唇塗布試験(labial food challenge, LFC)
 重症者に対する食物負荷試験の初回摂取時に、負荷食品を下口唇の口内縁部に微量付着させ、塗布局所および全身反応を判定する方法。

経母乳摂取
 母乳中には、母親が摂取した微量(数十ng/mL程度)の食物アレルゲンが分泌される。それが授乳中の患児に誘発症状を引き起こすかどうかを確認するために、母親がアレルゲンと疑われる食品を摂取した後に授乳をして、児の症状出現を観察する。

非即時型反応診断のための連日摂取
 疑われる食品を3~7日間連続摂取して、湿疹など誘発症状の出現を観察する。
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