小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「セファゾリンの悪夢」に思う。

2019年12月24日 06時30分33秒 | 糖質制限
必要な薬が手に入らない・・・医療現場でこんな事態が発生しています。
問題になっている薬はセファゾリンという抗菌薬(=抗生物質)。
術後の感染予防に使われているそうです。

なぜ、こんな事態になったのでしょう。
ワクチンなら“検定落ち”で予定された生産量より少なくなり、
不足するという事態は時々経験しますが、
抗菌薬生産にはそんなトラブル発生は考えにくい。
単純に需要と供給の問題でしょうか。

関連記事が目にとまりました。
その中で気になった箇所を抜粋します;

「度重なる薬価の引き下げや、感染症から非感染症疾患へと疾病構造が変化したことなどにより、抗菌薬市場はこの30年で約4分の1に縮小している。抗菌薬は慢性疾患などに比べて投与日数が短いことも相まって、他の領域の薬剤よりも収益性が悪化。」
「セファゾリンを含めた一部の抗菌薬では、製造コストが薬価を上回っている現状」

やはり、製薬会社が作りたくても作れない裏事情が垣間見えます。
収益が上がらなければ生産を止めざるを得ない、これは民間会社では当たり前のこと。

以前、ワクチンについて調べているとき、ワクチン反対派の主張にこんなキャッチフレーズがありました;

「ワクチンは製薬会社利益のための陰謀である」

しかし、利益がなければ会社は存続できず、ワクチン生産が途絶えてしまいます。
事実、HIVワクチンがなかなかできないのは、アフリカの貧困地域での流行のため収益が見込めないからという事情があるとされています。

度を過ぎた反対運動は、自分たちの首を真綿で絞める行為につながることを認識し、控えていただくことを切に希望します。
まあ、実際に儲けすぎている例があれば、それは糾弾されてしかるべきですが。


「セファゾリンの悪夢」に現場が学ぶべきこと
「えっ、周術期の抗菌薬、これからどうするの?」
 今年3月、国内シェアの約6割を占める日医工(富山県富山市)がセファゾリンの供給を停止したというニュースを目にした時、そんな言葉が浮かんだ。
 筆者は昨年の秋まで、とある総合病院で薬剤師として勤務していた。ご存知の通り、セファゾリンは手術部位感染の起因菌として想定される黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などのグラム陽性菌に優れた抗菌活性があり、スペクトルも狭域であるため、あらゆる領域の術後感染予防抗菌薬として推奨されている。実際に筆者が勤務していた病院でも、数ある静注抗菌薬の中でセファゾリンの処方量は断トツで多かった。そんな臨床上絶対に欠かすことのできない抗菌薬が供給停止となった──。全国の医療機関に及ぼすインパクトは計り知れないだろうと感じた。
 日経メディカル Onlineでは今年の4月と9月に、医師への影響を調査すべく、セファゾリン供給停止に関するアンケート調査を実施している。その結果、4月には42.0%の勤務医が、9月には35.7%の病院勤務医がセファゾリン供給停止の影響を受けていると回答した(関連記事:セファゾリン不足で病院勤務医の4割「困った」、「抗菌薬不足」に解決策はあるか?)。
 では、日医工のセファゾリンを採用している医療機関は、実際どう対応したのか。以前の勤務先の病院薬剤師に話を聞いた。
 まず、院内では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症に対するセファゾリンの使用を最優先とし、術後感染予防抗菌薬としてセファゾリンが登録されていたクリニカルパスを全てアンピシリン・スルバクタムに変更したそうだ。さらに、セファゾリンを処方できる診療科・病棟を総合内科/感染症科、小児科、ICUに限定し、セファゾリンの投与を考慮した場合は総合内科/感染症科にコンサルトするという院内ルールを定めた。そうした対策により、4月のセファゾリンの処方量は、バイアル数にして供給停止前の5%にまで減少。供給停止後も医薬品卸から一定量のセファゾリンを確保でき、代替薬のアンピシリン・スルバクタムは問題なく入手できたことから、目に見える形で患者に影響が及ぶ事態には至らなかったという。しかし、厚生労働省が6月に行った調査によると、一部の医療機関では、セファゾリンや代替薬の入手困難を理由に、手術の延期や患者を受け入れ不能としたケースもあったという。
 日医工は11月25日から段階的にセファゾリンの供給を再開し、2020年1月には供給制限を解除すると発表した。今後の継続的な安定供給に向けて、国内の工場に約15億円の設備投資を行うという。ただ、今回の問題で明らかになった抗菌薬を取り巻く厳しい現状は、もはや個々の製薬会社の企業努力だけではどうにもならないだろう。
 事実、度重なる薬価の引き下げや、感染症から非感染症疾患へと疾病構造が変化したことなどにより、抗菌薬市場はこの30年で約4分の1に縮小している。抗菌薬は慢性疾患などに比べて投与日数が短いことも相まって、他の領域の薬剤よりも収益性が悪化。諸外国も同様の状況に直面しており、その結果、中国やインドなどの特定の国に世界中から原薬や中間体の需要が集中するようになった。
 日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会は8月末に抗菌薬の安定供給に向けた提言書を厚労省に提出し、臨床上安定供給が特に欠かせない抗菌薬の薬価の見直しや国内で製造可能な条件の整備などを求めている。セファゾリンを含めた一部の抗菌薬では、製造コストが薬価を上回っている現状を踏まえると、筆者も薬価の引き上げには賛成だ。しかし、医薬品サプライチェーンのグローバル化が加速する中、一部の抗菌薬だけとはいえ国内生産で賄うのは夢物語のように思える。恐らく、今後も原薬の調達を海外に頼らざるを得ない状況は続くだろう。
 では、今後も抗菌薬の供給不足が発生するたびに、現場では手をこまねくしかないのだろうか。個人的な意見としては、患者への影響をある程度回避するためにも、各医療機関が「抗菌薬不足はいつでも起こり得る」という認識のもと、院内全体でリスクマネジメントに取り組むことが重要ではないかと考える。
 例えば、抗菌薬不足が発生したときのためのマニュアルを作成し、クリニカルパスに使用される抗菌薬の代替薬をあらかじめ複数決めておいたり、いざというときに近隣の医療機関に譲渡を依頼できるような関係を構築するといった、具体的な方策を盛り込んでおく、というのはどうだろうか。
 というのも、今回の供給不足では、医療機関と医薬品卸との関係性により各医療機関で抗菌薬の入手のしやすさに差があることが明らかになったからだ。ある病院では供給停止以降、セファゾリンがほとんど入手できない状況が続いていたが、一方で近隣の病院では使用量を大幅に上回るほどの在庫が確保できており、在庫の一部を譲り受けることになったという。状況によっては、こうした現場レベルでの連携で問題を回避できることもある。
 産官学連携での抗菌薬供給不足に対する取り組みが今後も必要なことは言うまでもない。ただ、抗菌薬不足は、自然災害と同様に、いつ起きてもおかしくない。今回のセファゾリン問題から医療現場が学ぶべきは、自分の身は自分で守る「自助」の意識と、近隣の医療機関で助け合う「共助」の意識を各医療機関が持ち、“有事”に備えておくことではないだろうか。



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「第4回栃木県アレルギー連携フォーラム2019」に参加してきました。

2019年12月20日 08時06分02秒 | アトピー性皮膚炎
 2019.12.19夜、宇都宮で開催された件名のフォーラムに参加してきました。
 栃木県の獨協医科大学にアレルギーセンターが設置され、アレルギー拠点病院として活動しています。
 その連携確認、成績報告の会という位置づけです。

 センター長の吉原Dr.(獨協医科大学小児科教授)から概要が説明され、その後にアレルギーセンターに属する①総合診療科、②眼科、③麻酔科からの演題、最後に④特別講演として谷口正実Dr.(国立相模原病院臨床研究センター長)から成人喘息についてのレクチャーがありました。
 昨年に引きつづき、当院PAE(小児アレルギーエデュケーター)とともに参加しました。

① 総合診療科(本田優希Dr.)からは、薬疹との鑑別に苦慮した風疹症例の経験を報告。
 上気道炎罹患中に薬を飲んだ後に皮疹が出現すると薬疹を疑いがちですが、臨床所見(耳介後部/後頭部リンパ節腫脹)と皮疹の分布と経過(顔面周囲から始まり体幹四肢へ拡大)から風疹の可能性を疑い血液検査で確認できた患者さんのお話でした。
 小児科医は「耳介後部/後頭部リンパ節腫脹」→ 「風疹ではないか?」とピンとくるのですが、一般内科医は先に薬疹が頭に浮かぶようですね。風疹はCRS(先天性風疹症候群)を引き起こすので、見落としは避けたい感染症です。
 皮膚科の先生から「薬疹は顔面から始まり全身へ拡大するという経過は取らない」との解説があり、勉強になりました。
 また、薬疹の出現時期は、
・初めての薬では、投与開始後4〜2週間かかる。
・既に感作されている薬では1〜3日。

という経過の説明も勉強になりました。
小児科医がよく経験するのは、溶連菌性咽頭炎に対してペニシリン系抗菌薬を10日間投与したときです。だいたい、投与開始後1週間前後で出現する印象を持っていたので、今回の説明と合致します。

② 眼科(鈴木重成Dr.)からはアレルギー性眼疾患の概要説明。
 アトピー性白内障の手術動画はリアルでした。レンズを金属先端でグチャグチャに砕いて吸い取り、そこにレンズをはめ込む手技。なんだか目がムズムズしてきました。
 質疑応答で、乳児のアトピー性眼瞼炎の治療について質問させていただきました。
・どのランクのステロイドを使うべきか。
・安全域(期間・量)はどうか。
 しかし、わかってはいたものの、明確な回答は得られませんでした。やはりデータがないようです。ステロイド外用薬の強さよりも、感染症の管理を考えるべきである、眼圧はトノペンという器械があるので外来でも使用可能、患児の目を押して自分の目の硬さと比較する簡易法も紹介してくれました。
 ちなみに、鈴木Dr.は「乳児アトピー性眼瞼炎のステロイド緑内障治療経験はない」そうです。
 いろいろな講演で、注意喚起ばかり聴くのですが、実際の症例提示を見たことがありません。実態はどうなっているのでしょう。
 実は当院近隣医療圏にある眼科開業医・総合病院眼科に「乳児の眼圧測定はできますか?」と電話で確認したことがあるのですが、すべて「対応できない」というご返事でしたので、やはり大学病院とは事情が異なります。
 講演終了後、鈴木Dr.が私の元に来て「こんな眼圧測定器なら小児科外来でも使えるかもしれません」とスマホ画面で紹介してくれました。
 真面目なよい先生です。

③ 麻酔科(大谷太郎Dr.)からは術後アナフィラキシーの報告がありました。
 麻酔科は蘇生のプロですから、事前の準備は完璧です。ただ、緊急手術の場合は情報が不完全なことがあり、頻度は低いながらもアナフィラキシーを避けることができません。
 フロアの内科医から「局所麻酔薬の皮膚テストでは陰性でも、実際に診療で使う量ではアナフィラキシーが起こることがあるが、どこまで事前に検査すべきか」という質問がありましたが、正解はなさそうでした。

④ 特別講演「成人喘息の病態と最適な治療」は新しい情報満載で、とても勉強になりました。
 アレルギー検査をすると、時々カビ類が陽性に出ます。しかし、それをアレルギー疾患と関連づけて説明することは、小児では従来ありませんでした。
 谷口Dr.の勤務する相模原病院の膨大な患者データを解析すると、重症喘息患者のアレルギー検査にある傾向があることが判明したそうです。それは、
・小児〜青年期ではアルテルナリア
・成人期ではアスペルギルス

 の感作率が高いのです。
 アレルギー体質を持つ患者さんの感作の自然史として、
(ダニ/ペット)→ (アルテルナリア)→ (アスペルギルス)
 という構図が見えてきたのでした。
 しかし最近、ダニやアルテルナリアの感作を飛び越えて、いきなりアスペルギルスが陽性になる成人重症例が目立つことに気づき、解析すると、吸入ステロイド薬であるフルチカゾンを500μg/日以上使用例に感作例が多いことがわかりました。
 重症だから感作されるのか、感作されたから重症化したのか・・・ニワトリと卵のどちらが先かという議論になりそうです。
 とにかく、従来の吸入ステロイド一辺倒の治療では、重症例は解決できないことが見え隠れし始めています。
 現時点でのスタンダードの喘息治療は「シムビコートのスマート療法」であるとのコメント。
 それでもコントロール不良例には抗体医薬を考慮します。
 何を選択するかは、血液検査のパラメーターよりも臨床病型で判断する方がヒット率が高いそうです。
 例えば、アスピリン喘息(アメリカではAERD、EUではN-ERD)にはオマリズマブ(ゾレア®)が著効するそうです。
 いくつも認可され、今後も期待される抗体医薬(TSLP、IL33関連)が目白押し。
 ただ、軽症〜中等症を診療する開業医には縁がありません。
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