小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

風邪診療で忘れてはいけない「家族性地中海熱」

2025年02月23日 07時12分35秒 | 予防接種
以前「発熱を繰り返す小児・・・家族性地中海熱?」(2022年08月11日)というブログを書きました。
風邪に紛れて発熱を繰り返す病気で、診断までに平均9.1年かかる、
コルヒチンという薬が特効薬的に有効(100%ではありません)。
わたし的結論は「発熱・痛み・CRP高値を繰り返す子どもを診たら、家族性地中海熱(FMF)を疑う習慣をつける」というものでした。

この病気の記事が目に留まりましたので紹介します。
患者さんが自ら語った“病気を抱えた生活”は、医学書には書かれていない「社会・家族の無理解からくるつらさ」が垣間見えます。
診断までになんと36年かかったとのこと・・・。


▢ 診断まで36年―高熱と痛みを繰り返す希少疾患「家族性地中海熱」 患者が抱える課題は
2024年11月28日:Medical Note)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 家族性地中海熱は、発作的に起こる発熱や腹痛、胸痛、関節痛などの症状が繰り返される自己炎症性疾患(自然免疫系の異常により炎症が起こる病気)の1つです。発作を引き起こす主な原因として、ストレスや疲労、月経などが挙げられます。発作予防のためには無理のない生活を送ることが大切ですが、周囲からの理解が得られずにつらい思いをしている患者さんは多くいらっしゃいます。
 また、発作後はたちまち元気になったように見えるため、周囲から病気であることを信じてもらえないという方もいます。家族性地中海熱の当事者であり、自己炎症疾患友の会(以下「患者会」)代表を務める足立理緒さんは、「家族性地中海熱という病気を正しく知り、本人の言葉を信じてほしい」と語ります。足立さんに家族性地中海熱の患者さんを取り巻く現状と思いについて伺います。

▶ 生後6カ月で始まった発熱―診断遅れで臓器障害も
 発熱が始まったのは生後6カ月の頃でした。2〜3日間続く高熱を毎月繰り返し、関東のあらゆる病院を受診しましたが、「赤ちゃんは熱を出しやすいからね」と言われて終わっていました。看護師だった母親は、もし感染症なら自分にもうつるはずだと何カ所もの病院で訴えましたが、「親が神経質になるからストレスを感じて発熱しているのだ」と言われたこともあると聞いています。父と祖父にも同じような症状があったので、やはり体質なのかなと思い5歳を機に受診をやめたそうです。その後も毎月のように発熱を繰り返し、19歳の時に発熱と同時に腹痛や胸痛、関節痛が出現。熱もなかなか下がらなかったため病院を受診し1カ月ほど入院しましたが、結局原因は分かりませんでした。
 32歳で結婚して岐阜県に引っ越した頃、発熱と猛烈な胸の痛みに襲われ、病院を受診し、名古屋大学医学部附属病院を紹介されました。そこで、不明熱として総合診療科に数年間通院していた時、ふと主治医から「もしかして家族に外国人の方がいる?」と聞かれました。家族性地中海熱は地中海沿岸に多くみられる遺伝性の病気です。そこで祖父がイギリス人であること、祖父とその子どもにあたる父も同じ症状を持っていたことを伝え、初めて家族性地中海熱が疑われました。家族性地中海熱の治療薬であるコルヒチンを試してみたところ薬が著効し、36歳で家族性地中海熱の診断に至りました。
 診断の遅れにより全身の炎症が長年繰り返されてしまったことで、現在は臓器障害を併発しています。発熱や腹痛がある期間は食事ができないので、解熱後に取り戻すように食べるということを30年以上繰り返していたために脂肪肝となり、肝硬変をきたしてしまいました。また、胸膜炎から心膜炎に至り、心不全も発症しています。

▶ うそをついているのではないか…得られない周囲の理解
 発熱などの発作症状が起こると心臓や肝臓にダメージを与えてしまうため、発作を予防するために毎日の服薬と、発作のきっかけとなる因子を避けることを心がけています。発作のきっかけは人によって異なりますが、ストレスや疲労が共通因子として挙げられます。私の場合、けがをすると防御反応による炎症で発作が起こってしまうので、けがにも注意しています。
 日常生活で無理をしないことは発作予防のために大切なのですが、周囲からは怠けていると誤解されがちです。また、解熱後は何事もなかったかのように元気に見えるため、「うそをついているのではないか」「精神的な問題ではないのか」と言われることが多いのは家族性地中海熱患者の共通の悩みです。私は子どもの頃、毎月発熱で学校を休んでいると、担任から呼び出されて「なぜ学校に来ないのだ。保健室でもよいからきちんと通いなさい」と言われたことがあります。ひどいときには学校に行ったら「もう来ないと思った」と言われ、机が片づけられていたこともありました家族性地中海熱という病気であることを周りにきちんと伝えてもなかなか理解が得られず、学校や仕事に行けなくなってしまう方はとても多いです。
 家族にさえ理解してもらえない方も多く、患者会の皆さんはよく「敵は身内」とおっしゃいます。「どうして学校/仕事に行かないのだ」「どうして動けないのだ」など、理由を問われるのがとてもつらいという話をよく耳にします。家族性地中海熱は、発作期間とそうでないときの体調に差が大きいことが特徴です。主治医から病気の説明を受けて頭では理解していても、実際に目の前にすると信じられない気持ちが勝ってしまうのかもしれません。
 誤解されがちな病気であるからこそ、私たちには1人でも多くの理解者が必要です。家族に疑われるのは非常につらいことですし、それがストレスとなり発作を誘発させてしまうこともあります。せめてご家族の皆さんには、どうかよき理解者であってほしいと願います。

▶ 「感染する病気」との誤解も
 家族性地中海熱は主症状が発熱なので、感染症と間違われやすい病気です。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行により、社会全体が「発熱」に対して敏感になりました。発熱のたびに新型コロナを疑われて検査や隔離をされた、通常の受診もできなくなった、新型コロナかもしれないからしばらく学校に来ないように言われた――といった話を多く耳にしました。発熱を繰り返していることを理由に会社を解雇されてしまった方もいます。特に地方の場合、一度失業してしまうと正社員としての再就職が難しく、そこから貧困に陥ってしまうこともあります。
 新型コロナが落ち着いてきた今でさえ、「熱があるなら近寄らないで」と言われることもあると聞きます。家族性地中海熱は感染症ではないので当然人にうつることはないのですが、本人がそう言ってもなかなか信じてもらえない現状があります。新型コロナの流行を通して、家族性地中海熱に対する差別的な風潮がより顕著になってしまったように感じます。家族性地中海熱は昔に比べて社会的認知度は上がってきていますが、患者会として今後は正しい情報・知識を広めていく必要性を感じています。少しでも多くの人に家族性地中海熱について正しく知っていただけたらうれしいです。

▶ 誤情報の“増殖”を危惧―「知識の普及」に取り組む
 以前に比べて家族性地中海熱の社会的認知度が上がってきた分、病気に関する誤った情報がどんどん増えていることは大きな課題です。患者同士がSNSなどで情報交換を行っているのを見ていて思うのが、とにかく情報が古く、正確でないことです。どの患者も自分の主治医から言われたことを咀嚼そしゃくし、情報を共有し合っていますが、その主治医が持っている情報が、自己炎症性疾患の研究班*や学会が公表している情報とはまったく異なる知識や独自の見解である場合があるのです。研究班の医師たちもそうした現状を非常に危惧されています。
 どこから情報を得るかによって、患者の将来は大きく変わってしまいます。誤った診断・治療により私のように重い症状が残ってしまった方もいます。患者会には数カ月おきに研究班から直接新しい情報が伝わってくるので、家族性地中海熱と診断されたらまずは患者会に入って情報を得てもらいたいと思います。ただ、家族性地中海熱は遺伝性疾患であることから個人情報を明かすことに抵抗を感じる方も多くいらっしゃいます。そのため、患者会では会員/非会員の枠を取り払って、当事者であれば誰でも参加できるオンライン講演会を開催するなどの取り組みを行っています。正しく新しい知識を普及するために、患者が適切な情報にアクセスしやすい環境を整備することが今の目標です。
 私が「赤ちゃんだから熱を出しやすい」と言われて診断がつかなかったように、いまだに原因不明と言われ、親御さんが必死になっていろいろな病院を受診してようやく診断に至ったという話をよく聞きます。社会的認知度が上がってきていても、いまだに子どもや親のせいにされてしまう現状をとても悔しく感じますし、この現状は何とかして変えなければならないと思っています。患者会のスタッフには、私を含め重い臓器障害を併発しているスタッフが多く所属しています。これから家族性地中海熱と診断されてくる子どもたちには、どうか私たちのように重症になる前に助かってほしいというのが、患者会スタッフ全員の願いです。


・・・記事の中で「主治医の持っている知識が古い」との指摘がありました。
医学は日進月歩で、私が医師になった35年前には治療不可能であった疾患に特効薬が登場して「治らない病気が治るようになった」ことを時に耳にすると、隔世の感があります。
 開業医とはいえ、日々のアップデートが欠かせないと心を引き締めたいと思います。
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重症度の構図は「COVID-19>インフルエンザ・RSV」で変わらず

2025年02月20日 06時24分24秒 | 予防接種
「新型コロナ」がいつの間にか「コロナ」と呼ばれるようになり、
「パンデミックの脅威は去った」という世論に落ちついたかのように見えます。
皆さんの周囲ではどうですか?

しかし科学データはその認識に「待った」をかけています。
そんな論文を扱った記事を紹介します。

論文著者の結論は、
「新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスやRSウイルスよりもはるかに多くの感染者を出し、短期入院リスクや死亡リスクの上昇など、より重篤な転帰をもたらした」
とのことです。

▢ 米国ではCOVID-19が依然として健康上の大きな脅威
HealthDay News:2025/02/20:Care Net)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  
 新型コロナウイルスは依然として米国人の健康に対する脅威であり、インフルエンザウイルスやRSウイルスよりも多くの感染と死亡を引き起こしていることが、新たな研究で示唆された。米国退役軍人省(VA)ポートランド医療システムのKristina Bajema氏らが「JAMA Internal Medicine」に1月27日報告したこの研究によると、2023/2024年の風邪・インフルエンザシーズン中に米国退役軍人保健局(VHA)で治療を受けた呼吸器感染症患者の5人中3人(60.3%)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患していたという。
 この研究でBajema氏らは、呼吸器感染症の2022/2023年シーズンと2023/2024年シーズンのVHAの医療記録を後ろ向きに解析し、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の重症度を比較した。対象は、2022年8月1日から2023年3月31日、または2023年8月1日から2024年3月31日の間に、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の検査を同日に受け、いずれかの診断を受けたが入院はしなかった退役軍人とした。
 その結果、2022/2023年コホート(6万8,581人)の66.2%、2023/2024年コホート(7万2,939人)の60.3%がCOVID-19の診断を受けていたことが明らかになった。一方、インフルエンザとRSウイルス感染症の診断を受けた割合は、2022/2023年コホートでそれぞれ24.7%と9.1%、2023/2024年コホートで26.4%と13.4%であった。2023/2024年シーズンにおける診断から30日間での入院リスクは、COVID-19で16.2%、インフルエンザで16.3%と同程度であった(RSウイルス感染症では14.3%)。
 2022/2023年シーズンにおける診断から30日間の死亡率は、COVID-19で1.0%、インフルエンザで0.7%、RSウイルス感染症で0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症をわずかに上回った。しかし、2023/2024年シーズンでの同死亡率は、それぞれ0.9%、0.7%、0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症と類似していた。
 一方、180日間の累積死亡率は、両シーズンともCOVID-19で最も高く、2022/2023年シーズンでは3.1%、2023/2024年シーズンでは2.9%に達した。2022/2023年シーズンでは、COVID-19とインフルエンザの180日間の死亡リスク差(RD)は1.1%(95%信頼区間0.6〜1.5)、COVID-19とRSウイルス感染症のRDも1.1%(同0.6〜1.4)、2023/2024年シーズンでは、それぞれ0.8%(同0.3〜1.2)、0.6%(同0.1〜1.1)と推定された。これに対し、インフルエンザとRSウイルス感染症の180日間の死亡リスクに有意な差は見られなかった。
 このほか、両シーズンとも、COVID-19ワクチンの未接種者は、インフルエンザワクチンの未接種者よりも死亡リスクが高い傾向にあったことも示された。一方、ワクチン接種者の間では、COVID-19とインフルエンザの死亡リスクに有意な差は認められなかった。
 Bajema氏は、「新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスやRSウイルスよりもはるかに多くの感染者を出し、短期入院リスクや死亡リスクの上昇など、より重篤な転帰をもたらした」と話す。研究グループは、「ワクチン接種は今も、ウイルス性の呼吸器疾患、特に新型コロナウイルスのオミクロン株の影響を最小限に抑えるための重要な戦略である」と結論付けている。

<原著論文>
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成人におけるRSV感染症の重症度

2025年02月14日 06時05分10秒 | 予防接種
RSウイルスによる呼吸器感染症は、乳児が重症化(細気管支炎)して入院してしまう、と認識されてきました。
ところが近年、高齢者にも悪さをすることが分かってきました。
そしてワクチンまで開発されています。

しかしピンとこない方も多いのではないでしょうか?
皆さんご存知のインフルエンザとRSウイルスを比較した記事が目に留まりましたので紹介します。

この解析では、60歳以上でインフルエンザよりハイリスクという結果でした。

<ポイント>
・RSV感染症は入院中だけではなく長期アウトカムにおいてもインフルエンザと同等以上の健康上の脅威がある。
・RSV群はインフルエンザ群と比較して、入院中に機械的人工換気を必要とするリスクが高い。
・院内死亡率はRSV群とインフルエンザ群で同等。
・60歳以上で、RSV群がインフルエンザ群よりも1年以内の院内死亡、再入院、全死亡のリスクが高い。

▢ RSV感染症vs.インフル、重症度と転帰を比較~日本の成人5万7千例
2025/02/14:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 RSウイルス(RSV)は小児だけでなく成人にも重大な影響を及ぼすが、成人のRSV感染症の入院患者の重症度や転帰に関する報告は少ない。今回、東京科学大学の井上 紀彦氏らがRSV感染症とインフルエンザの成人入院患者を比較した後ろ向き観察研究の結果、RSV感染症は入院中だけではなく長期アウトカムにおいてもインフルエンザと同等以上の健康上の脅威が示された。Infectious Diseases誌オンライン版2025年2月4日号に掲載。
 本研究では、日本のDPCシステムに基づく358病院の請求データを基に、2010年4月~2022年3月にRSV感染症またはインフルエンザで入院した18歳以上の5万6,980例を対象とした。短期アウトカムは入院中の重症度指標として医療資源(ICU入室、酸素補充、機械的人口換気、体外膜酸素療法)利用率および院内死亡率とし、長期アウトカムは生存者の退院後1年以内の再入院および入院後1年以内の全死亡とした。逆確率重み付けによる調整後、ポアソン回帰を用いてリスクを推定した。
 主な結果は以下のとおり。

RSV群はインフルエンザ群と比較して、入院中に機械的人工換気を必要とするリスクが高かった(9.7% vs.7.0%、リスク比[RR]:1.35、95%信頼区間[CI]:1.08~1.67)。
院内死亡率はRSV群とインフルエンザ群で同等であった(7.5% vs.6.6%、RR:1.05、95%CI:0.82~1.34)。
・RSV群はインフルエンザ群と比較して、生存者の退院後1年以内の再入院リスク(34.0% vs.28.9%、RR:1.19、95%CI:1.07~1.32)および入院後1年以内の全死亡リスク(12.9% vs.10.3%、RR:1.17、95%CI:1.02~1.36)が高かった。
・年齢層別解析では、60歳以上で、RSV群がインフルエンザ群よりも1年以内の院内死亡、再入院、全死亡のリスクが高かった
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昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性へ〜風疹ワクチンクーポンは2025年2月末まで〜

2025年02月09日 16時29分09秒 | 予防接種
締め切りまであと2週間。

▢ 記者絶句…「まさか自分が」 じゅうぶんな風しん抗体無くワクチン接種対象… 風しん抗体検査とワクチン接種原則無料のクーポン券有効期限は2025年2月末
2025/2/8:感染症・予防接種ナビ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

◆ クーポン使用期限は2月末まで
 厚生労働省は、風しんワクチンの定期接種の機会がなかった 昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性を対象に、風しんの抗体検査と予防接種を原則無料で実施しています。対象者には、お住まいの自治体からクーポン券が配布されています。風しんは、成人がかかると症状が重くなることがある他、妊娠初期の妊婦さんに感染させてしまうと、生まれてくる赤ちゃんの目や耳、心臓に障害が起きることがあります。対象年代の男性は、過去に公的なワクチン接種を受けていないため、風しんに対し、じゅうぶんな抗体を持っていない可能性があります。

◆ 風しんとは
 風しんは、感染者の飛まつ(唾液のしぶき)などによって他の人にうつる、・・・風しんウイルスによって引き起こされる感染症です。感染すると、約2〜3週間後に発熱や発しん、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。子どもは比較的症状が軽いのですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの合併症が、2,000〜5,000人に1人位の割合で発生することがあります。妊娠早期の妊婦が風しんに感染すると、出生児が先天性風しん症候群(眼や耳、心臓に障害が出ること)になる可能性があります。大人になって感染すると無症状~軽症のことが多いですが、まれに重篤な合併症を併発することがあります。また、無症状でも他人に風しんをうつすことがあるので、感染を拡大させないためには、社会全体が免疫を持つこと(=抗体保有率が高いこと)が重要です。 

◆ “先天性風しん症候群”を防ぐために 
 2024年10月、本メディア記者が、大阪府済生会中津病院の安井良則医師と共に訪れた名古屋で、風疹をなくそうの会 『hand in hand』共同代表の可児佳代さんから、風しんについて、お話を伺う機会がありました。可児さんは、自身が妊娠初期に感染したことで、お子さんが“先天性風しん症候群”を発症した経験を講演会などを通じ、広く訴え続けています。 “先天性風しん症候群”は、先天性心疾患・難聴・白内障などと言った障害を引き起こす可能性があります。風しんは、新型コロナウイルス感染症の流行以後、大きな流行を見せていませんが、2012年から2013年には大きな流行を見せ、2012年10月~2014年10月に、45人の先天性風しん症候群の患者が報告されています。 可児さんは「“先天性風しん症候群”をはじめ、風しんに対し、ある程度の知識をお持ちの方は、妊娠機会のある女性が多い印象ですが、男性は、風しんに関して、知識が少ないケースも見受けられます。妊婦さんが注意していても、ワクチンを接種していなかったり、免疫の無い男性が家庭にウイルスを持ち込んでしまう恐れもあります。“先天性風しん症候群”を防ぐため、男性にも、知って頂きたい感染症です」と話します。 
 厚生労働省はHPで、「現在、配布中のクーポンは、昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの“男性”が対象で、この年代の男性の皆様がこれから抗体検査を受け、必要な予防接種を受けると、免疫を持っている人が増え、風しんの流行はなくなると言われている」として、クーポンを使用しての検査を呼び掛けています。 

◆ 記者が検査「まさか自分が…」
 可児さんのお話を伺った、記者は、昭和54年1月生まれのクーポン対象者。記者自身、母親から、「“三日はしか(風しん)”の様な症状が出たことが、小さい頃にあった。医師にも、“三日はしか(風しん)”だろう」と言われて育っていたので、クーポンの存在は認識しながらも、検査は受けていませんでした。しかし、可児さんのお話を受けて、念のため、2024年の年末休みを利用し、検査を受けることに。その後、1週間ほどで出た検査結果は、“抗体価4.6”。ワクチン接種対象と言うことが判明(※6.0未満が接種対象)。
 検査結果に絶句しました。現在、風しん含有ワクチンの供給が円滑とは言えない状況にあるため、クリニックにワクチンの在庫状況を確認。クリニックからは、『在庫に、ある程度の余裕がある。ワクチン自体の有効期限もあるため、接種した方が良い』との回答で、年明けの1月中旬にワクチンを接種しました。検査結果には「まさか自分が…」と驚きました。過去に感染したことがあると思い込み、検査が遅れたことに反省しています。私のように、クーポンが配布された年代の方で、私同様の方も、いらっしゃると思います。ぜひ、検査を受けて頂ければと考えています。 

◆ 感染症に詳しい医師は…
 感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「対象年代の男性は、勤務時間の関係などから、なかなか検査ができないとの声も聴きます。しかし、医療に携わる方は、特に意識を高く持って頂きたいものです。40年以上前に、“三日はしか(風しん)”疑いの罹患歴があったとのことですが、当時は、症状で、何となく診断されてしまったケースもあったと思います。現在は、抗体検査をすれば、すぐに結果は分かります。“抗体価4.6”と言う数値は、抗体が無いことも無いと言ったラインですが、接種が必要なラインではあります。風しん含有ワクチンのMRワクチンについては、定期接種のお子さんが優先との考えは変わりませんが、対象年代の男性が、抗体検査を受け、必要なワクチン接種を受けると、免疫を持っている人が増え、風しんの流行はなくなると言われています。
 間もなく、クーポン券の使用期限を迎えます。お子さんと社会を守るためにも、抗体検査と必要な方がワクチンを接種することを勧めます」としています。 

◆ 国の風しん対策制度“
 風しん第5期定期接種” 2019年から、国は、風しんワクチンの定期接種の機会がなかった 昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの“男性”を対象に、風しんの抗体検査と予防接種を原則無料で実施しています。この事業は、“風しん第5期定期接種”と呼ばれています。対象者は、自治体から配布されたクーポン(原則無料)を使用し、医療機関で、まず抗体検査を行います。検査の結果、じゅうぶんな抗体がないと判断された場合は、無料でワクチンを接種できます。 

◆ まとめ
 風しんワクチンの定期接種の機会がなかった昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性には、お住いの市区町村からクーポン券が送付されています。抗体検査は、医療機関で行いますが、勤務先の健康診断や人間ドックで受けられる場合もありますので、気になる方は、勤務先や医療機関に問い合わせてみてください。
 検査の結果、じゅうぶんな抗体量が無いと判断された方は、ワクチンが原則無料で接種できます。クーポンの期限は、2025年2月末となっています。分からないことがある方は、お住いの自治体に問い合わせてみてください。 

引用 厚生労働省:風しんの追加的対策について 取材 大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏
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生後1ヶ月未満の赤ちゃんの風邪〜重症肝炎を起こすエコーウイルス感染症〜

2025年02月09日 16時23分02秒 | 予防接種
“エコーウイルス”という名前は、小児科医にとって夏風邪であるヘルパンギーナの原因の一つ、くらいの認識です。
しかし近年、新生児に重症肝炎を起こす原因として注目されてきました。
それを扱った記事を紹介します。

重症化するのは新生児(生後1ヶ月までの赤ちゃん)のようです。
生後1ヶ月未満の赤ちゃんが風邪を引く場合、たいていは家族からです。
外出を控え、風邪を引いている兄弟姉妹を近づけないことくらいしかできませんね。

もし、風邪症状がでて、あるいは熱が出てつらそうなら小児科(小児科専門医)を受診してください。
小児科医は生後1ヶ月未満の発熱患者さんを診たとき、
「ただの風邪ですね」
とは言いません。
他の病気の可能性がないかどうか、疑います。
哺乳量が落ちたり、グズリが目立つ場合は病院へ紹介し、
スクリーニング検査を受けてもらいます。

同じ小児科でも“小児科標榜医”(専門は小児科以外だけど小児も診ますよというスタンス)を受診すると、
「風邪かな〜」
と(意味のない)抗生物質を処方されて様子観察、になりがちです。
これは赤ちゃんにとって危険な診療です。


▢ 赤ちゃん3人死亡「エコーウイルス11型」検出 国が調査へ
2025年1月25日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 国立感染症研究所などによりますと、去年8月以降、関東地方で、生まれて1か月以内の赤ちゃんが急性肝不全などを発症して入院し、亡くなるケースが3人報告されたということです。
 医療機関などで調べたところ、3人から「エコーウイルス11型」と呼ばれるウイルスが検出されました。かぜの原因となるウイルスの一種で、新生児が感染するとまれに髄膜炎や心筋炎など重い症状を起こし、最悪の場合亡くなることもあります。
 国内の感染状況は法律で国への報告対象になっていないため詳しくは分かっていませんが、国立感染症研究所によりますと、髄膜炎の検査で見つかったケースなど去年は軽症を含めて90例以上報告されています。
 ただ、過去7年間で死亡例が複数報告されたのは去年だけだということで、国はほかにも重症や死亡のケースがないか、全国的な調査を実施するとしています。
 このウイルスをめぐっては、ヨーロッパを中心に感染した新生児が急性肝不全などを発症して亡くなるケースが3年前から相次いで報告されていました。
 国立感染症研究所感染症疫学センターの神垣太郎サーベイランス総括研究官は「ウイルスの性質が変化し、感染したときの症状が重くなっているかどうか現時点のデータでは分からない。今後の調査で重症化する子どもの割合や原因などが明らかになれば、必要な対策を検討できると思う」と話しています。

▶ 小児科医「せっけん使った手洗い徹底を」
 エコーウイルス11型の家庭での注意点について、神戸市立西神戸医療センター小児科の松原康策部長に聞きました。
 関東地方で急性肝不全などを発症して亡くなる患者が相次いだ去年8月以降、松原部長らのグループはこのウイルスに感染した生後7日から50日までの4人の赤ちゃんを診療したということです。
 4人とも髄膜炎など重い症状を起こして入院しましたが、治療の結果、全員が後遺症なく回復したということです。
 松原部長は「いわゆる夏かぜの原因として以前から知られているウイルスで、感染しても通常は発熱が2、3日続いて治ることが多い。国内の詳しい感染状況が分からないので、このウイルスに注意を払わなければならない状況かどうか現時点ではっきりしたことを言うのは難しい。国内外の報告を見ると生まれて1か月を過ぎた場合重症化するケースは多くはないので過度に警戒する必要はないと思う。一方、重症化のリスクが高いとされる生まれてまもない赤ちゃんや早産の赤ちゃんについてはできるだけ感染を避けるよう対策することが大切だ。患者との接触や便などを通じて感染するが、アルコール消毒だけではだめなので、せっけんを使った手洗いを徹底するよう心がけてほしい」と話していました。

<参考>
概要
ヨーロッパでは 2022 年から新生児のエコーウイルス 11(Echovirus 11、以下 E11)に
よる重症感染症が複数報告され、急性肝不全を伴うことが特徴的で死亡例も複数報告され ている 1)。
日本においても 2024 年夏以降東京などで、E11 による新生児重症肝炎やそれに伴う死 亡例の情報があるため、特に小児科ならびに新生児科診療に関わる医療従事者に対して注 意喚起を行う。
エコーウイルス 11(E11)について
E11 はピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する(+)鎖の一本鎖 RNA をゲノ
ムにもつウイルスである。コクサッキーウイルスなど他のエンテロウイルス属と同様に、 普通感冒、ヘルパンギーナなどの自然軽快する軽症感染症や、時に無菌性髄膜炎、脳炎、 心筋炎などの重症感染症の原因となる。一方で、E11 を含む非ポリオ型エンテロウイルス の特徴として、感染しても多くの場合は無症状である。糞口感染および接触感染、飛沫感 染を起こす。エンベロープを有さないため、消毒用エタノールによる消毒では効果が不十 分である。潜伏期間は通常 3~6 日である。
新生児の重症 E11 感染症について
新生児が E11 に感染すると、敗血症、心筋炎、髄膜炎などの重篤な疾患を発症すること
がある。新生児の重症 E11 感染症の特徴的な臨床像は、黄疸、肝腫大、腹水、および出血 傾向を示す劇症肝炎である 2)。また、髄膜炎や心筋炎の報告もある 2)。国内でも過去に報 告がある 3)。
過去に報告された新生児の E11 感染症では、垂直感染(出生前の経胎盤感染や出産時感 染)、出生後の水平感染、保育所での水平感染 4)や医療従事者による新生児集中治療室での アウトブレイク 5)が報告されている。授乳による感染の可能性も報告されている 2)。
疫学情報
2022 年 7 月から 2023 年にかけてフランスでは肝不全と高い致命率の新生児重症 E11 感
染症が増加していることが 2023 年 6 月に欧州連合/欧州経済領域加盟国に報告されると、
他の加盟国からも同様の報告が相次いだ 2)。重症例に関連する E11 の配列は、2022 年に 出現した新しい変異系統株(以下、新系統 1)にクラスター化していた 1)。同時期(2023 年)にイタリアで同じ新系統1に関連する重症肝炎の 2 症例が報告され 6)、 全ゲノム解析 により、重症で致死的な症例はすべて組換え E11 に関連していることが示された 6)。 2023 年 7 月、欧州疾病予防管理センターは、フランスで初めて検出された新系統1がより重篤 な疾患と関連しているかどうかを評価するため、新生児重症 E11 感染症に関するサーベイ ランスを強化した 2)。スペインでは新系統1による新生児における重症化との関連は認め られていない 7)。
一方、中国湖北省、広東省では 2019 年に、新系統1ではない E11 による新生児の出血
8) 性肝炎症候群の複数例の報告がある 。
今後日本においても E11 感染症流行の動向に注意を払う必要があるが、2024 年 11 月 24 日現在、国立感染症研究所が全国の都道府県市の地方衛生研究所等から報告された病原 体検出情報をまとめた病原微生物検出情報によると、2024 年第 34 週以降に、複数の無菌 性髄膜炎患者から E11 が検出されている 9)。
医療従事者の皆様へ 国内でも、活気不良・哺乳不良を主訴に来院し、凝固障害、血球減少、黄疸・急性肝不
全、腎障害を含む多臓器不全や高フェリチン血症(血球貪食性リンパ組織球症)などの重 篤な症候を呈し、鼻咽頭ぬぐい液を用いた Multiplex PCR にてライノウイルス/エンテロウ イルス、髄液でエンテロウイルスが検出されている重症の新生児症例が経験されている 10)。 有症状者との接触歴が明確でないこともある。新生児の重症肝不全や心筋炎、無菌性髄膜 炎などの重症患者を診療した場合、可及的に急性期の血漿(血清)、咽頭ぬぐい液、尿、便、 髄液、全血等の検体を小分けで凍結保存しておくことで病原体検索に繋がる可能性がある。 検査が可能な機関にすぐに臨床検体を搬送できる場合は、凍結せずに冷蔵で搬送する方が 望ましい。原因不明の肝機能障害(AST 又は ALT が 500 U/L を超える)を認める児につ いては、日本小児科学会を窓口とした病原体の検索が可能な場合がある。詳細は、日本小 児科学会ホームページ(各種活動>予防接種・感染症情報> 原因不明の小児の急性肝炎につ いて)をご参照いただきたい。また、エンテロウイルスであった場合、アルコール消毒で は効果が不十分であることに留意し、特におむつ交換や沐浴に際し石鹸と流水による手指 衛生、環境整備を行う必要がある。

<参考文献>
  1. 1)  Grapin M, Mirand A, Pinquier D,et.al. Severe and fatal neonatal infections linked to a new
    variant of echovirus 11, France, July 2022 to April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300253.
  2. 2)  Enropean Center for Disease Prevention and Control (ECDC). "Epidemiological update: Echovirus 11 infections in neonates". https://www.ecdc.europa.eu/en/news-
    events/epidemiological-update-echovirus-11-infections-neonates(参照 2024-11-21)
  3. 3)  Hirade T, Abe Y, Ito S, et.al. Congenital Echovirus 11 Infection in a Neonate. Pediatr
    Infect Dis J 2023; 42: 1002-1006.
  4. 4)  Bina Rai S, Wan Mansor H, Vasantha T, et.al. An outbreak of echovirus 11 amongst
    neonates in a confinement home in Penang, Malaysia. Med J Malaysia 2007; 62: 223-226.
  5. 5)  Ho S Y, Chiu C H, Huang Y C, et.al. Investigation and successful control of an echovirus
    11 outbreak in neonatal intensive care units. Pediatr Neonatol 2020; 61: 180-187.
  6. 6)  Piralla A, Borghesi A, Di Comite A, et.al. Fulminant echovirus 11 hepatitis in male non-
    identical twins in northern Italy, April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300289.
  7. 7)  Fernandez-Garcia M D, Garcia-Ibanez N, Camacho J, et.al. Enhanced echovirus 11 genomic surveillance in neonatal infections in Spain following a European alert reveals new recombinant forms linked to severe cases, 2019 to 2023. Euro Surveill 2024;
    29 :2400221.
  8. 8)  Wang P, Xu Y, Liu M, et.al. Risk factors and early markers for echovirus type 11 associated
    haemorrhage-hepatitis syndrome in neonates, a retrospective cohort study. Front Pediatr
    2023; 11: 1063558.
  9. 9)  病原微生物検出情報(IASR). "週別無菌性髄膜炎患者からの主なウイルス分離・検出
報 告 数 、2020~2024 年". https://kansen-
levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data16j.pdf(参照 2024-11-21)
10) 松井俊大、幾瀬樹、庄司健介、他:エンテロウイルスによる新生児重症感染症. 病原微
生 物 検 出 情 報 (IASR). https://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/entero-iasrs/13018- 539p01.html (参照 2024-12-06)
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“風邪シロップ”には砂糖がいっぱい入ってます!

2025年02月09日 15時56分18秒 | 予防接種
薬嫌いのこども用に「単シロップ」という液体が用意されています。
シロップのかぜ薬に混ぜたり、粉薬を溶かす際に使ったり・・・。

でもある時期から私は「単シロップ」を使わなくなりました。
その成分が「50%砂糖水」であることを知ったからです。

子どものシロップ剤は「苦い薬を強引に甘くする」ために入っています。
やはり昔のことですが、某県立小児医療センターに勤務していた当時、
当直医師が自分で薬を調合していました。
薬剤師さんの数が少なくて、当直人員がいなかったのですね。

自分で調合するので、“味見”ができました。
ふだん何気なく処方しているかぜ薬の数々、
「フ〜ン、こんな味なんだ」
「これ、甘過ぎ!」
などと深夜の薬剤室で1人で盛り上がっていました。

さて、子どもの薬にどれだけ砂糖が入っているか、
興味深い内容を扱った記事が目に留まりましたので、紹介します。

あれ? 単シロップ1ml中には0.85gの白糖が入っていると書かれてます。
私の記憶より多い!


▢ 意外と知らない子どもの薬の〝砂糖の量〟どのくらい?虫歯の可能性も
朽木誠一郎:朝日新聞デジタル企画報道部
 「おくすり飲めて偉いね」そんな言葉を2歳になる我が子にかけている時、ふと感じた「なぜ飲めるのか」という疑問。その答えが「シロップで甘いから」だとしたら、あれ、子ども用の薬には砂糖がたくさん入っている?虫歯の可能性もある? 取材すると、かねてから注意喚起されているテーマであることがわかりました。

▶ おくすり飲めたのなんで?
 保育園に通う2歳半の我が子は、接する人が増えたためか、かぜとまではいかないものの、よく鼻をぐずぐずさせるようになりました。子どもが鼻をかめるようになるのは一般的に2~3歳と言われ、うちでも練習を始めましたが、まだ上手にできません。
 鼻水をティッシュを使って(体になるべく負担のないように)しぼるように出したり、鼻吸い機を使って出したりしていますが、対症療法感は否めません。気になる時はかかりつけ医を受診し、鼻の通りをよくするシロップの飲み薬を処方してもらうこともあります。
 最初はイヤがっていた我が子ですが、なだめすかし、飲めたら「おくすり飲めて偉いね」とほめそやし……という親の努力により、薬を飲めるようになりました。よかったよかった――とホッとしたところでふと疑問に思ったのが、「なぜ飲めるのか」ということ。
 好き嫌いがあり、例えば果物などもちょっとでも酸っぱいと食べない、このアンコントローラブルな生き物が、すんなり薬を飲むのはおそらく「シロップで甘いから」でしょう。
 あれ、ということは、子ども用の薬には砂糖がたくさん入っている? 飲んだら歯磨きしなきゃいけない?
 薬の成分表をチェックしてみると、そこにはやはり「白糖」「カラメル」といった文言が並んでいました。ちなみに、このような砂糖類は薬の有効成分以外に当たるため、医薬品添加剤として記されます。ただし、添加物であるため、この砂糖類が何g含まれるか、何kcalかなどは、添付文書にも明記されていません。
  
▶ 「就寝前の服用」とあるが…
 そのままでは飲みづらい薬の味を整えるために、調剤に用いられる「単シロップ」という製品(これは医療用医薬品に該当します)には、1ml中白糖0.85gが含まれます。カロリーにすると、1mlあたり約3.4kcalになります。
 薬にもよりますが、仮にうちの2歳の子どもが飲むシロップの量を5mlとすると、白糖約4.3g、17kcalということに。もちろん、実際には希釈されたり他の成分を添加されたりして、シロップをそのまま飲むわけではないので、これはあくまで最大量の目安ということになるでしょう。
 実際の薬にはどのくらいの砂糖類が含まれているかについては、1996年と古い報告(※)ですが、シロップ液状総合感冒薬10社12種類を調査したところ、9社10種類は23%から48%のスクロースを含有しており、1社で製造されている2種類にはスクロースもグルコースも含まれていなかったということです。

※日本で市販されている小児用シロップ液状総合感冒剤の歯垢内酸産生性 - 東北大学歯学雑 Vol.15,No.2,1996

 このような薬を、処方によっては1日数回服用し、「就寝前の服用」が指示される場合もあります。白糖のような砂糖類は、もちろん、虫歯の原因になります。子どもが「寝る前にスティックシュガー1本分の砂糖を口にする」と考えた場合、親としては当然「虫歯になりそう」「歯磨きをさせなければ」という発想になるはずです。
 少なくとも、小児用の薬の「甘味」のもととなる物質が何なのか、保護者による添付文書の確認が必要であると言えるでしょう。
 また、前述の研究では、摂取後に水で7回うがいしても、虫歯の歯垢pHは低下したままだったということです。このように、「うがいだけでは効果が乏しい」という落とし穴もあるため、複数の歯科医師に話を聞くと、歯科領域ではかねてから注意喚起されているテーマであるようでした。
  
▶ うがいのみでは予防できない
 虫歯(う蝕)が起きるメカニズムは、まず、う蝕原性細菌である「ミュータンスレンサ球菌」が砂糖(スクロース)を基にグルカンという物質を産生し、このグルカンを利用してバイオフィルム(細菌が身を守るために形成する膜)を作ります。
 さらにこれを基に他のさまざまな細菌や物質を取り入れて歯垢(デンタルプラーク)が作られます。ミュータンス菌は歯垢の中で食物中などの糖類を代謝して酸を産生し、この酸により歯の表面が脱灰(カルシウムが溶出する現象)され、う蝕を発症します。
 なお、デンタルプラークは、その中で産生される酸が唾液により希釈されたり、拡散されたりすることを妨げるので、デンタルプラークの直下でう蝕が発症するのは、そのためだということです。
 星野さんは「薬に入っているからといって、砂糖などがう蝕の原因にならないという根拠がありません」「糖類は多くの細菌のエネルギー源であり、これを代謝してエネルギー源としており、その結果として酸を産生してしまうので、う蝕の原因となる可能性があると考えるのが自然です」と説明します。
 「大人は錠剤で飲むので、糖衣錠だったとしても口腔内に留まる時間が短く、食後などに服用したとしてもその後に歯磨きをするので、ほぼ影響はないと思います。
 一方で、子どもは粉だったり、シロップだったりで口腔内にとどまる時間が錠剤・カプセルに比べると長く、発熱してぐったりしているときに飲ませる場合は歯磨きができないなどの問題があり、大人に比べるとう蝕になるリスクは高くなると思われます」
 前述の研究では、「摂取後に水で7回うがいしても、虫歯の歯垢pHは低下したままだった」とされています。これはつまり、歯垢の中のミュータンス菌がスクロースを材料に盛んに酸を作っていること、うがい程度では簡単に虫歯を予防できないことを意味しています。
 また、この研究では、うがいで口の中のスクロースを洗い流しても、菌の中に取り込まれたスクロースにより酸が作られ続けることが示唆されています。
 星野さんは「該当するような服用薬がある場合は、服用後必ず歯磨きをしてもらうことが虫歯予防のためには重要になります」と指摘します。
 「低年齢の子どもの場合は食後すぐに眠くなってしまうことも多いので、食事から薬の服用、歯磨きまでの流れを一連にしてしまうのが良いでしょう。また、錠剤やカプセルでの服用が可能な子どもの場合には、シロップや粉薬からの変更が可能な場合には変更してもらうのも一つの手段と思われます」
 このように、飲ませた後にはしっかり歯磨きをする必要がありそうですが、うちの子は歯磨きが苦手で毎回、大騒ぎ。うっかり飲ませ忘れて2回、歯磨きをさせる惨事が引き起こされないように、親も注意しなければ、と気を引き締めた次第です。



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妊婦へのRSウイルスワクチン「アブリスボ®」は赤ちゃんの命を守る

2025年02月09日 15時44分59秒 | 予防接種
RSウイルス=乳児の気管支炎、というイメージがありますが、
近年、高齢者でも重症化することが判明し、ワクチンが造られました。

では乳児のワクチンは?
〜こちらもあります。
しかし赤ちゃん本人に接種するのではなく妊婦さんに接種し、
母体の作った抗体が胎盤・臍帯を通じてお腹の赤ちゃんに移行することにより生まれてくる赤ちゃんを守る、という画期的手法です。

2024年春に接種可能となりましたが、
予防接種に不安を持つ国民である日本ではなかなか浸透しません。
その状況を扱った記事が目に留まりましたので、紹介します。

<ポイント>
・ワクチン名:アブリスボ®
・対象:妊娠24~36週の妊婦(推奨:妊娠28~36週)
・効果:
 ✓ 発症予防:生後3カ月以内で57.1%、半年以内で51.3%
 ✓ 重症化予防:生後3ヶ月以内で81.8%、半年以内で69.4%
・効果発現までの期間:接種から2週間経過しないと赤ちゃんに抗体が移行しない
・副反応:一般のワクチンと同じ
・費用:3万円台

一つの文章にまとめると、
「年に乳幼児全体のおよそ5%がかかり、その4分の1が入院など重症化する感染症に対して、生後半年までにかかるのを半分以上、より重いものは7割以上予防することができる、1回3万円台の費用の予防接種」、
です。

▢ 昨年から開始、RSウイルスワクチン「打った方がいい?」迷っている間に起きた妊娠出産の〝予定外〟のこと
(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
2025/2/4:WITHNEWS)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年に国内で接種が新しく始まった、乳幼児の呼吸器感染症の原因「RSウイルス」に対するワクチン。有効性が示されていますが、接種には推奨される期間があり、また費用が3万円台で比較的、高額という特徴もあります。第二子の妊娠中、接種を迷っている間に、記者の家庭に起きた“予定外”の出来事とは? 専門家への取材を交え、このワクチンについて考えます。 

▶ 接種にはお勧め期間があるが・・・

 今秋、妻が妊娠26週を迎えた頃のことです。妊婦健診で案内されたという「RSウイルスワクチン」についての相談を受けました。


※  RSウイルスとは、主に乳幼児が感染する、呼吸器感染症の原因ウイルスの一つです。ここ数年は3月ごろから感染が拡大する傾向にあります。 厚生労働省によれば、発症の中心は0歳児と1歳児です。感染経路は接触感染と飛沫感染で、空気感染はしないと考えられています。 生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1度は感染するとされています。症状は発熱や鼻水といった軽いものから、肺炎と重いものまでさまざまです。 通常は感染してから2~8日の潜伏期間を経て発症、多くは軽症で自然に良くなりますがが、重くなる場合には後から咳がひどくなる、喘鳴(ぜーぜー・ひゅーひゅーする音)が出る、呼吸困難となるなどの症状が出現します。 RSウイルスに初めて感染するときには、より重症化しやすいと言われています。特に生後6カ月以内にRSウイルスに感染した場合、肺炎など重い症状になる場合があるということです。 生後1カ月未満の赤ちゃんが感染した場合は、典型的な症状以外にさまざまな症状が出るために、診断が困難な場合があり、突然死につながる無呼吸発作を起こすこともあると言います。また、気管支ぜん息などの後遺症が残る場合もあります。 
※ 日本における乳幼児への調査(※)では、2歳未満の乳幼児のうち、毎年約12万~14万人がRSウイルス感染症と診断され、その約4分の1が入院を必要とすると推定されています。2歳未満の乳幼児の入院は、基礎疾患を持たない場合も多く、生後1~2カ月時点でピークになります。 

 このRSウイルスには、生まれてくる子のRSウイルス感染症の予防を目的に妊婦に接種するワクチンがあります。国内では2024年1月に承認され、ファイザー株式会社が「アブリスボ」という名前で5月末から販売しています。 ワクチンを接種すると、お母さんにウイルスと戦う抗体ができて、その抗体が胎盤を経由してお腹の中の赤ちゃんに移行する、という免疫獲得の仕組みです。赤ちゃんは生後すぐは免疫系が未熟なため、お母さんの抗体をもらうことで、病気にかかりにくくなります。 日本やアメリカなど18カ国の妊婦7千人超を対象に実施した治験の結果では、発症を予防する効果は生後3カ月以内で57.1%(重症になることを予防する効果は81.8%)、半年以内で51.3%(同69.4%)でした。 ただし、接種する場合には注意点もあります。まずは、臨床試験においてワクチンの有効性が検証されているのは生後6カ月までであること。 そして、お母さんが接種した後、14日以内に生まれた赤ちゃんにおける有効性は確立していないことです。14日以内に生まれた場合、赤ちゃんへのお母さんからの抗体の移行が不十分である可能性があるためです。 そのため、ファイザー社はこのワクチンについて、妊娠24~36週の妊婦への接種が認められている一方、臨床試験において妊娠28~36週に接種した場合の有効率がより高い傾向にあったことから、「妊娠28~36週の間に接種することが望ましい」としています。 我が家の場合は、この接種のおすすめ期間が、後に思わぬ形でネックになりました。 

▶ 迷っている間に“予定外”の出産
 このワクチンは小児についてはインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンなどと同様に任意接種(定期接種の対象外の予防接種を本人や保護者の希望で受けること)です。 接種の副反応は、ファイザー社によれば、重篤なものでは「ショックやアナフィラキシー(いずれも頻度不明)」。 その他、注射部位の疼痛(40.6%)、頭痛(31.0%)、筋肉痛(26.5%)などがあり、多くが軽度から中等度の副反応で、発現から2~3日で消失した、ということです。これは一般的なワクチンと大きく変わりません。 
 もう一つ、気になるのは費用です。任意接種の場合、おたふくかぜワクチンのように自治体などの公費補助がなければ自費となるため、現在、補助のないアブリスボの接種費用はおおむね3万円台です。この金額は医療機関によるため、3万円台後半のところもあります。 
 「年に乳幼児全体のおよそ5%がかかり、その4分の1が入院など重症化する」感染症に対して、「生後半年までにかかるのを半分以上、より重いものは7割以上予防する」ことができる、1回3万円台の費用の予防接種。これをするかどうかというのは、親にとって、新しい選択肢が増えたがゆえの悩みになりました。
 我が家では、夫婦で話し合い、「生まれてくる赤ちゃんに対してできることはなるべくしたい」という結論に。すべての医療機関で接種できるわけではなく、出産予定の医療機関では接種できなかったため、妊婦の妻も受診しやすい場所にあるクリニックを探し始めました。 見つかったものの、接種できる曜日が限られていたり、医療従事者をしている妻の仕事となかなか休みが合わなかったりと、ここで少し時間が経ってしまいました。 さらに年末年始による医療機関の休診も重なり、それでもなんとか予約が取れて、接種予定は34、5週あたりに。
 しかし、ここで予想外の事態が発生しました。 妻が切迫早産(妊娠37週未満で出産する=早産になる危険性が高い状態)となり、まさに接種予定の時期に、緊急入院となったのです。 そのため、接種はキャンセル。予断を許さない状況の中、保育園に通う上の子を私がしばらくワンオペでみることになり、このワクチンへの対応は後回しに。 入院して絶対安静を続け、妻は無事出産しました。そのため、結局このワクチンの接種はできませんでした。やや小さく生まれた子どももそれ以外は元気。ひと安心しつつも、やはり妊娠・出産は命懸けのものだという思いを新たにしました。 
 しかし、話はここで終わりません。母子共に退院してほどなく、上の子がかぜを引きました。その後、生まれたばかりの下の子が38度の発熱。早産だったこともあり、大事をとって入院になってしまったのです。 検査の結果、原因はRSウイルスや新型コロナ、インフルエンザなどではないということでしたが、「何かあったときに手遅れにならないように」と下の子はそれから3日間、退院したばかりの病院でまた入院生活を送りました。 
 今回はRSウイルス他、原因のはっきりした病気ではなかったという診断であり、乳幼児のかぜの原因になる病原体は他にも多数あるため、これらのワクチンを接種していても予防できなかった可能性もあると思われます。 ただ、生まれたばかりの赤ちゃんが入院になるとどうなるかは身にしみてわかりました。何よりまず、この世界に出てきたばかりの小さな命が、とても心配になるということ。 そして、小さい上の子がいる状態で、出産直後の妻と、赤ちゃんの入院に対応するため、付き添い一つとっても誰が行くか、その間、かぜ症状で登園できない上の子の子守りをどうするかなど、調整はとても大変でした。

▶ 接種を担当する専門家の意見は?
 実際に接種を担当する専門家は、このワクチンに対してどのような意見なのでしょうか。聖路加国際病院女性総合診療部特別顧問で産婦人科医の山中美智子さんに話を聞きました。 同院ではアブリスボの国内接種開始から、300人以上の妊婦に接種をしてきました。同院で出産予定の妊婦は、26週になるタイミングで全員が、RSウイルス感染症やそのワクチンについてメッセージアプリや配布の資料経由で情報提供を受けるそうです。 接種を希望するのは「そのうち4割弱」。ただし、妊婦健診を近隣のクリニックで受ける妊婦もいるので、上乗せになる可能性はあります。接種を迷う妊婦から相談されたときは「『赤ちゃんのことを考えたら、打っておく方がいいのではないでしょうか』とお伝えしますが、強制はしません」と山中さんは話します。 「やはり赤ちゃんが入院になってしまうと、もちろん赤ちゃんが大変なのですが、『親が24時間付き添いになる』といった場合もありますし、お母さん、お父さんの生活も大変なことになってしまいます。そうしたことを避けられる、というメリットもあると思います」 300人以上に接種し、山中さんは「今のところ接種による医療的な対応を要する有害事象は発生していません」と説明します。「他に何かデメリットがあるとしたら?」と尋ねると「費用が比較的、高額であることは挙げられると思います」という返事が。 「これに関しては、よりワクチンが普及するために、公費による補助が望ましいと考えています。そのために、ワクチンの安全性と有効性の検証を、さらに進めていく必要があります」 。
 接種を検討する妊婦に伝えたいこととして「接種から2週間経過しないと、赤ちゃんに抗体が移行しない、というのは大事」だと言います。 「接種の目安の35、6週のギリギリで接種するとなると、どうしてもそこから14日経過せずに生まれてしまう、という場合があります。私の方で取っているデータですと、11月までに接種した280人中、35週接種の28人中6人、36週接種の22人中2人は、14日経過せずに出産となっています」 そのため、同院では「34週くらいまでに打っておく方がいいかなというニュアンスでお伝えしている」ほか、早産が危惧されるようなケースでは、早めの案内をするようにしている、ということでした。 
 一連の経験を踏まえ、私としては、「赤ちゃんのためにできることはやってあげたかった」という気持ちになりました。 また、下の子の入院の際、仕事などを休む調整も大変だったこと、そして、これがこの先、半年は繰り返されるおそれがあることを考えると、一定の割合で予防できるワクチンは、親にとって助かるものです。 その際、やはり何らかの補助があると、我が家の判断はより速やかになったのでは、と感じています。こうした補助により、他のご家庭でも、接種を希望する場合の判断がしやすくなり、結果としてワクチンが行き届きやすくなる、とも考えられます。 昨年のワクチン発売以降、妊婦健診などで説明される機会が増えているであろう、RSウイルス感染症。気になる場合、ワクチン接種の判断に迷う場合は、早めに主治医に相談するということも、大事なことだと思いました。

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糖質を減らすべきか脂質を減らすべきか、それが問題だ

2025年02月03日 07時45分37秒 | 予防接種
私は5年以上前から炭水化物制限(いわゆる“ロカボ”)・糖質制限食を続けています。
それまでは1年に1kgずつ増えてメタボ体格が進行していたのですが、
開始後は標準体重に戻り、維持できていますので、効果は実感しています。
病院で受ける血液検査でも、コレステロールや中性脂肪の値は正常です。

でも、
「脂肪はいくらでも食べていいの?」
という素朴な疑問を持ち続けてきました。

関連書籍を読むと、
「油・脂をたくさん食べても便で排泄されるので問題ない」
「体脂肪になるのは炭水化物・糖質の取り過ぎがメイン」
「コレステロールの値が気になる場合は脂質の種類に気をつけるべし」
という記述であり、ホントかなあ?と納得しきれずにいました。

今回紹介する記事は、糖尿病治療の一環としての食事指導の中で、
糖質と脂質の摂取方法に言及した内容です。

従来の「栄養バランスに気を付けて、カロリー制限をしましょう」から一歩も二歩も進み、
データとコンピュータを駆使して解析し、
数字を提示して食事指導を行う、新しい手法です。

結論を抜粋すると、
・減量に成功するには、糖質と脂質のどちらでもいいから減らす(総エネルギー量を減らす)とよいという人もいれば、・・・摂取する総エネルギー量を減らすだけでは減量が達成できず、糖質、あるいは脂質をしっかりと減らさないといけない人がいる。
ということで、ケースバイケースという玉虫色の結論に至っていますね。
ちょっと期待外れ・・・。


▢ 糖質を減らすべきか脂質を減らすべきか、それが問題だ個別化が進む糖尿病診療
2024/02/06:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 あなたは脂質摂取量を2割減らしたならば、糖質は制限しなくても5~7%の減量を達成できますよ──。そんな食事療法のアドバイスができる日が近づいてきた。
 国立病院機構京都医療センター予防医学研究室長の坂根直樹氏らは、PwCコンサルティンググループが開発した、人体の生理機能をコンピューター上に再現する「Bodylogical」を活用し、糖尿病予備軍にどんな食事療法が減量・血糖改善に向いているかを、個人別に予測できる技術の開発を進めている。坂根氏に話を聞いた。
 これまで糖尿病予備軍の方々への食事指導は、「栄養バランスに気を付けて、カロリー制限をしましょう」という一般的なアドバイスにとどまっていました。だから、糖尿病になりたくないからと、炭水化物を一切とらない極端な食事制限をしてしまう人もいます。今回の研究で、例えば「あなたは、脂質の摂取量を減らせられるのであれば、糖質はそれほど制限しなくても減量できますよ」といった、個々の体質に適したアドバイスができるようになるのです。
 今回の検討は、コンサルティング会社であるPwCコンサルティングが開発したBodylogicalという技術を活用しています。簡単に言えば、人間の体をコンピューター上に再現するもので、業界用語ではデジタルツインといいます。このBodylogicalの機能の一部は論文で報告されていますが、体内の代謝系のプロセスを再現しています。長年、世界中の多くの研究者によって糖や脂肪がどう吸収されるか、吸収された後、どのように細胞に取り込まれるか、インスリンはどう作用するのか、血糖上昇の結果としてHbA1c値はどう変動するのか、といった代謝の因果関係が明らかになっています。これらの因果関係は数式化できるので、体重や空腹時血糖値、インスリン量などを入力すると、血液と筋肉の間で糖や遊離脂肪酸がどれくらい取り込まれるか/放出されるかを、シミュレーションできるようにしたのがBodylogicalです(関連記事:「『仮想の私』で将来の私の病状を予測できる」)。
・・・日本では、健康診断で糖尿病予備軍とされた人を対象に、生活習慣の改善による糖尿病発症抑制を検証した臨床試験であるJ-DOIT1試験が実施されました。この試験には、血糖値や血圧、脂質値のほか、体重や食事の様子など様々なデータがあります。しかもそれは5.5年間フォローしているので、経時的な変化を追えるデータです。そこで、電話による生活習慣介入を1年間行う介入群から非常に良好な結果が得られた「Best responder」29人、効果が得られなかった「Worst responder」30人、体重計と歩数計を貸与するのみの非介入群から背景をマッチさせた53人をピックアップしました。
 そして、まず53人の非介入群のデータを使って、体重を維持するために必要な炭水化物や脂質の量、日本人のHbA1c値の取り得る範囲、インスリンシグナルにおける遊離脂肪酸の阻害効果、糖毒性や脂質毒性、炎症により膵β細胞にどれだけダメージが起こるか、などについて日本人用に調整をしました。その上で、介入群の計59人のデジタルツインを作成しました。
 こうして見いだしたデジタルツインを使って、生活習慣への介入によって体重とHbA1cが4年間でどう変化するかについて、シミュレーションで得られた予測値と実際の測定値を比較したところ、体重は平均で1.0±1.2kg、HbA1c値は平均で0.14±0.18%の誤差の範囲で予測可能なことが確認できました。つまり被験者それぞれのデジタルツインはおよそその人の代謝を再現できるものと考えられる結果です。
 その上で、減量に成功した(体重5~7%減)ある被験者のデジタルツインを使って検討したところ、減量に成功するためには、炭水化物の摂取量を10%減らしたときは脂質を10%ぐらい減らす必要があるし、炭水化物を20%減らしたならば、脂質摂取量はあまり変えなくても減量に成功するというシミュレーション結果が得られました。つまり、この方は炭水化物を大きく減らすことができたら、脂質摂取量を増やしても減らしても体重減少に対する効果はあまり変わらないと予想されるということです。
 一方、別の被験者のデジタルツインでは、炭水化物を10%減らしたとき、脂質も20%近く減らさないと減量に成功しないというシミュレーション結果が得られました。逆に言うと、脂質摂取量を減らしたならば炭水化物の摂取量は減らしても減らさなくても減量成功にはあまり影響しないと推測されます。つまり、この方は5~7%の体重減少を達成するために脂肪を積極的に減らせばよいとアドバイスできることになります。
 減量に成功するには、糖質と脂質のどちらでもいいから減らす(総エネルギー量を減らす)とよいという人もいれば、・・・摂取する総エネルギー量を減らすだけでは減量が達成できず、糖質、あるいは脂質をしっかりと減らさないといけない人がいるということなのです。
・・・
現在の食事療法でよくあるケースとして、炭水化物量をほぼゼロにするといった極端な糖質制限をしてしまうことがあります。・・・「痩せましょう」という指導をすると、「炭水化物をゼロにしなきゃ」「食べる量を大きく減らさなきゃ」と極端な制限をしてしまう人が少なからずいます。ときにそれは健康を害するものにもなりかねません。しかし、こうしたデジタルツインが活用できれば、体内の代謝メカニズムに個人差を加味した「仮想の私」を参考に、一歩踏み込んだアドバイスができるようになるのです。
 近年、医療において重要視されているEBMは、いわば平均値の話です。そのため、実際にやってみると、うまくいく人といかない人が当然出てきます。治療や指導に対する反応性が一人ひとり違うからです。デジタルツインがあれば、その人に最適な治療・指導ができるようになります。今回使用したデジタルツインは、シミュレーションするための根拠は全て数式化されており、結果の根拠が明らかなのが興味深いところだと思っています。
 今回は糖尿病予備軍の方を対象とした研究でしたが、予備軍の方々は代謝的に均一な集団です。ところが、患者になると、血糖値がすごく高くなる人、血圧がすごく高い人、など、様々な病態の人がいて、多様な集団になります。そうした多様な集団でも同じようにシミュレーションできるか、検討していきたいと思っています。また、今後、薬物に関するデータを組み込んでいければ一人ひとりの糖尿病患者の治療の最適化に役立つと期待しています。

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アンガーマネージメント〜仏教の視点〜

2024年12月12日 16時44分07秒 | 予防接種
“アンガーマネージメント”・・・最近よく耳にする言葉です。
私自身、怒りっぽい性格なので関心があります。
今までにもいろいろ、見たり聞いたり読んだりしてきました。

「相手に期待しなければ腹が立たない」
という定番の対応から、
「相手も自分もいつかは死ぬ、と考えれば“まあいいか”と思える」
という究極の捉え方もありました。

坐禅を組んで雑念を払う仏教にも興味があります。
坐禅中も雑念は浮かんでは消えますが、
その極意は「雑念を手放すこと」と昔、
NHKのバラエティ番組“ためしてガッテン“で僧侶がコメントしていました。

そう教えられても、なかなかできませんでした。

僧侶が語るアンガーマネージメントの記事が目に留まりましたので、
紹介します。

<ポイント>
・ブッダは人間が陥りやすいあしき感情として「(とん: むさぼり、限りない欲望)」「(じん: 怒り、妬み、恨みなど)」「(ち: 愚かさ)」の3つを挙げており、これらは「三毒」と呼ばれ、人間が避けるべきものとして説いている。「貪・瞋・痴」はまさに毒であり、私たち自身をむしばみ、身を滅ぼす原因となる。
・貪(欲望)が満たされないときに、瞋(怒り)が生じる。期待が裏切られたときに怒りが生まれる、という点は現代のアンガーマネジメント理論とも一致する。
・人がイライラの火種を抱えてしまうのは『自分に対する執着心』が強すぎるから。自分を大切に思うあまり、『自分が否定される』ことを極端に恐れ、思い通りにいかないときにイライラや怒りが生じるのは、防衛本能の発露である。他人を攻撃することで、大切な自分を守ろうとしている。怒りを防衛感情である。
・仏教が教える怒りへの処方箋は『瞑想』。瞑想とは、心を『無』にしてイライラを抑え込むのではなく、『イライラしている自分を認め、全身で感じる』こと。『今、自分はイライラしている』『このモヤモヤ感は、きっと怒りの感情だ』と、瞑想によって(自身の感情を)客観的に自覚すること。
・怒りやイライラの感情は、抑えつけようとすると反発して大きくなりやすい。しかし、『イライラしている自分』に気づき、『自分は今、イライラし始めている』と認めた瞬間、心を落ち着かせることができる。怒りの感情をコントロールするための有効な方法として、自身の感情に対する「メタ認知」が重要。
・イライラや怒りを鎮めるには、火が燃え上がる前の『種火』のうちに鎮火することが重要である。
・怒りへの対処法として、整理整頓や清掃が効果的である。禅寺には『作務』(整理整頓や清掃)という強力な自己鎮静法がある。作務を徹底して行うことで、心身にたまった怒りや不浄なエネルギーが見事に消えていく。その理由は以下の通り;
1. 全身の筋肉を動かすことで、怒りのエネルギーを物や他人に向けることなく身体外に放出できる。
2. 作務を心の整理整頓や清掃として徹底的に行うことで、心に染みついたモヤモヤや、絡み合った思考が整理されていく。
・怒りを収める呼吸法として「合掌低頭」こそが完璧な型であり、心を整える所作として重要である。合掌とは「両手のひらを顔や胸の前で合わせて拝むこと」、低頭とは「頭を低く下げて礼をすること(お辞儀)」。合掌してお辞儀をしながら深くゆっくり息を吸い込み、そして頭を一番下げた状態で姿勢を保ちながら息をゆっくり吐き出し、次に頭を上げる動作に合わせて、再び深くゆっくり息を吸い込む。アンガーマネジメントの観点からは、合掌低頭をイメージしながらこの呼吸法を2~3回行う。怒っているときは呼吸が速く浅くなりがちだが、この呼吸法を行うことで副交感神経が活性化して体がリラックスし、イライラや怒り(興奮状態)を鎮める効果が期待できる。

・・・仏教的呼吸法「合掌低頭」がマインドフルネスの基本だったのですねえ。


▢ 和尚に学ぶアンガーマネジメントの極意
大浦 裕之(岩手県立中央病院)
2024/12/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 筆者は日頃から、アンガーマネジメントに関する記事や文献、書籍などを通じ、怒りの感情をコントロールする様々な方法を学ぶよう努めています。その中でも、特に多くの学びを得ているのが、愛知県小牧市にある大叢山福厳寺の住職の大愚元勝和尚の教えです。
 大愚和尚は、YouTubeで「大愚和尚の一問一答/Osho Taigu’s Heart of Buddha」というチャンネルを運営されており、そのチャンネル登録者数は2024年11月末時点で69.3万人、投稿動画数は1064本を数えるほどの人気を誇ります。既にご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
 大愚和尚は、仏教の開祖の教えを、禅僧として一般の人々に向けて様々な媒体を通じて発信されています。・・・

▶ 人間が避けるべき「三毒」
 大愚和尚のYouTube動画では、怒りの感情をコントロールする方法について説かれた内容が数多くあります。その中でも、「知らず知らずのうちに身を滅ぼす『悪しき感情』とは何か?」という動画では、人間が抱きやすい悪感情と、その向き合い方について詳しく解説されています。
 大愚和尚によれば、ブッダは人間が陥りやすいあしき感情として、「(とん: むさぼり、限りない欲望)」「(じん: 怒り、妬み、恨みなど)」「(ち: 愚かさ)」の3つを挙げています。これらは「三毒」と呼ばれ、人間が避けるべきものとして説かれています。この貪・瞋・痴」はまさに毒であり、私たち自身をむしばみ、身を滅ぼす原因となるとされています。 
 特に印象的だったのは、貪(欲望)が満たされないときに、瞋(怒り)が生じるという指摘です。貪は「〜すべき」や「過度な期待」とも言い換えることができますが、これらの期待が裏切られたときに怒りが生まれる、という点は現代のアンガーマネジメント理論とも一致しています。ブッダの時代の約2600年前の人間も、現代の私たちと同様の課題を抱えていたこと、そしてブッダが既にアンガーマネジメントに通じる教えを説いていたことに驚きを覚えます。
怒りは防衛感情
 大愚和尚は著書の中で、「人がイライラの火種を抱えてしまうのは、『自分に対する執着心』が強すぎるから」と述べています1)。また、「自分を大切に思うあまり、『自分が否定される』ことを極端に恐れ、思い通りにいかないときにイライラや怒りが生じるのは、防衛本能の発露です。他人を攻撃することで、大切な自分を守ろうとしているのです」と説明し、怒りを防衛感情として位置付けています1)。なお、本連載第5回「脳科学的に見た『怒り』の発生メカニズム」では、怒りの本質について、脳科学の視点から解説しています。ご参照ください。

▶ 感情をメタ認知することが重要
 大愚和尚は、「では、どうすればイライラの種火を消すことができるのでしょうか。仏教が教えるその処方箋は『瞑想です」と述べています1)。ただし、ここで言う瞑想とは、坐禅を組んだり、心を静めて仏に祈ることではありません。大愚和尚は、「瞑想とは、心を『無』にしてイライラを抑え込むのではなく、『イライラしている自分を認め、全身で感じる』ことを指す」としています。「『今、自分はイライラしている』『このモヤモヤ感は、きっと怒りの感情だ』と、瞑想によって(自身の感情を)客観的に自覚することができる」と和尚は説明しています1)。
 さらに、「怒りやイライラの感情は、抑えつけようとすると反発して大きくなりやすい。しかし、『イライラしている自分』に気づき、『自分は今、イライラし始めている』と認めた瞬間、心を落ち着かせることができる」と述べ1)、怒りの感情をコントロールするための有効な方法として、自身の感情に対する「メタ認知」の重要性を強調しています(「メタ認知」については本連載第12回「怒りのコントロールに必須のスキル──『メタ認知』編」をご参照ください)。このように、仏教においてもメタ認知が重視されている点は注目に値します。

▶ 心の修行の意味
 大愚和尚の動画「一問一答/Osho Taigu’s Heart of Buddha『乱れた感情を整え《心のマスター》になる方法』」では、上述のメタ認知によるアンガーマネジメントについて詳しく解説されています。内容は、負の感情コントロールに悩む20歳代の男性が和尚に心の鍛錬法を相談するもので、アンガーマネジメントのトレーニングについて深く考えさせられる動画です。
 初めてこの動画を見たとき、私は非常に衝撃を受けました。大愚和尚は、なぜ感情のコントロールが難しいのかを、スポーツの技術習得に例えながら、丁寧に分かりやすく解説しています。「心のマスター」になることの難しさ、そして諦めずに努力を続ける重要性を力強く説いています。また、怒りを火に例え、「イライラや怒りを鎮めるには、火が燃え上がる前の『種火』のうちに鎮火することが重要」と述べ、その対処法を火事の初期対応になぞらえています。
 この動画は約30分のものですが、自身の怒りのコントロールに悩んでいる方にはぜひご覧いただきたい内容です。時間がない方は、22:57~26:13の3分16秒分だけでも見ていただければと思います(この部分では、具体的な和尚の「処方箋」が紹介されています)。・・・
 この部分で特に印象に残るのは、大愚和尚の以下の言葉(一部抜粋)です。「皆さんは今の仕事に就くために、これまでどれだけ勉強してきましたか? 生業をなすために、どれだけ時間とお金、エネルギーをかけて努力してきたでしょうか? しかし、自分の心を修めるためにそれ(時間とお金とエネルギー)を使う人はほとんどいません。だからこそ、心が未熟なままなのです」。和尚はこう喝破し、「心の修行は、人生をかけて本気で取り組む価値がある」と力説しています。
 この部分は何度見ても新たな気付きを得られ、自分の生き方を見つめ直すヒントが詰まっています。心の修行に取り組む意義を再確認するきっかけとなるでしょう。

▶ 作務がアンガーマネジメントに
 大愚和尚によれば、怒りへの対処法として、整理整頓や清掃が効果的とされています。和尚は次のように述べています1)。「禅寺には『作務』という強力な自己鎮静法があります。作務とは、整理整頓や清掃のことです。作務を徹底して行うことで、心身にたまった怒りや不浄なエネルギーが見事に消えていきます。整理とは、不要なものを捨てること。整頓とは、物を元の位置に戻すこと。そして清掃とは、新品のような輝きを保ち続けることを指します。ただ漠然と掃除をするのではなく、この意義を意識しながら作務に取り組むのです」。
 では、なぜ作務を行うと怒りが鎮まるのでしょうか。大愚和尚は、その理由として以下の2点を挙げています。
1. 全身の筋肉を動かすことで、怒りのエネルギーを物や他人に向けることなく身体外に放出できる。
2. 作務を心の整理整頓や清掃として徹底的に行うことで、心に染みついたモヤモヤや、絡み合った思考が整理されていく。
 大愚和尚は、「どうしようもなく腹が立ったときやキレそうになったとき、その行き場のないエネルギーを物や相手に向けたり押さえ込んだりするのではなく、徹底的に作務を行うことで、心身の鎮静と浄化に役立てるべき」と推奨しています1)。怒るたびに身の回りがきれいになるのは、まさに一石二鳥と言えるでしょう。・・・

▶ アンガーマネジメント的呼吸法
 大愚和尚は、全国各地で一般の方向けに講習会「大愚道場」を開催しています2)。この大愚道場は、講義を聴くだけではなく、参加者が仏教を体感できるワークショップ形式(体験型授業)で行われます。参加者は他の受講者と共に、瞑想の基本である「呼吸や姿勢に意識を向ける」練習を通じて、それが日常生活にどのような変化をもたらすかを実際に体験します。
 昨年の冬、仙台のある総合病院で行ったハラスメント防止対策研修会の翌日に、偶然にも同地で大愚道場が開催されることを知り・・・参加しました。様々な学びがありましたが、その中でも特にお伝えしたいのが呼吸法です。
 怒りを感じたときの対処法として「深呼吸を数回行う」という方法は広く知られていますが、大愚道場ではその基盤となる呼吸法の重要性について学び、実践的なヒントを得ることができました。皆様も、僧侶が「合掌低頭(がっしょうていず)」を行う場面をご覧になったことがあるかと思います。合掌とは「両手のひらを顔や胸の前で合わせて拝むこと」、低頭とは「頭を低く下げて礼をすること(お辞儀)」を意味します。大愚和尚は、この「合掌低頭」こそが挨拶の完璧な型であり、心を整える所作として重要であると述べています1)。
 合掌低頭における呼吸法についてですが、合掌してお辞儀をしながら深くゆっくり息を吸い込みます。そして、頭を一番下げた状態で姿勢を保ちながら、息をゆっくり吐き出します。次に頭を上げる動作に合わせて、再び深くゆっくり息を吸い込みます。この方法により、普段は無意識に行っている呼吸を意識することができ、「マインドフルネス」の基本を体感できます。
 アンガーマネジメントの観点からは、合掌低頭をイメージしながらこの呼吸法を2~3回行うことが勧められます。怒っているときは呼吸が速く浅くなりがちですが、この呼吸法を行うことで、副交感神経が活性化して体がリラックスし、イライラや怒り(興奮状態)を鎮める効果が期待できます。いわゆる「魔の6秒間」をこの呼吸の間にやり過ごすことができるのです。
 怒りのコントロールには、大愚和尚の教えにあるように、自身の感情を認識し、心を落ち着かせる技術が欠かせません。瞑想や作務、呼吸法といった実践的な方法を通じて心を鍛えることが、日々のストレスを軽減し、心の平穏を保つための鍵となるということでした。
・・・

<参考資料>
1) 大愚元勝:『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社、2020)
2) 大愚道場|ワークショップ形式の仏教講座| 佛心宗 大叢山福厳寺
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喘息診療ガイドライン2024

2024年12月04日 05時56分59秒 | 予防接種
この秋(2024年10月)に「喘息予防・管理ガイドライン2024」が発行されました。
成人喘息を扱った、日本の治療の標準です。

今回初めて「クリニカルクエスチョン」が導入されました。
これは近年のガイドラインに必要とされる形式です。

それを扱った記事を紹介します;

<ポイント>
CQ1.ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用?
 → ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])
CQ2.中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは?
 → 中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])
CQ3.FeNOに基づく管理は有用か?
 → FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])
CQ4.喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは?
 → マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])

略称が多くて一般の方にはよくわからないと思われますが…

CQ1は、ICS(吸入ステロイド薬)への追加はLABA(長期間作用型β刺激薬)とLAMA(長時間作用型抗コリン薬)のどちらがよいか、という質問です。β刺激薬は狭くなった気管支を広げる作用があり、抗コリン薬は気管支を狭くしないイメージです。
成人領域ではICS+LABA+LAMAの“トリプル吸入剤”が認可されたのでこのCQが取りあげられました。
小児科領域では抗コリン薬はほとんど使用されておらず、β刺激剤中心ですが、LAMAも同等の効果があるとすると、将来臨床応用されてくる可能性がありますね。

CQ2は、十分量の吸入ステロイド薬を長期間投与すると、副作用が発生するという報告が近年相次いだため取りあげられた質問です。
結論として、漫然と投与を続けるのではなく、減量が可能なら必要最低量で維持することが推奨される内容です。ただ「減量が提案される」としつつも、推奨度Cと一歩腰が引けていますね。
私は小児に対して低用量〜中用量で管理し、年1回の呼吸機能検査で病態を評価し、継続・減量を検討しています。中用量+LTRAでもコントロール不良患者は総合病院小児科へ紹介していますが、ごく稀です。

CQ3はFeNO(呼気一酸化窒素濃度)を用いた喘息管理の是非を問う内容です。
喘息患者では症状がないときも気管支の炎症がくすぶっていますが、FeNOはこの気道炎症の程度を反映するとされています。その数値を評価して管理してよいものかどうか・・・回答は「是」。
私は小児喘息患者でFeNO測定が可能になる小学生以上で年1回、FeNOを評価し、治療に反映させています。目安は20以下は良好、35以上は不良とし、臨床症状と合わせて治療薬の継続・増量・減量をしています。

CQ4は昔流行した抗菌薬(=抗生物質)の併用が有用かどうか、再確認する内容です。
マクロライド系抗菌薬は少量でも気道クリアランス効果があるとされ、併用された時代がありました。
しかし真実は、その頃標準治療であったテオフィリン系薬剤の血中濃度を上げる作用があるため、その薬効が強くなったという背景が判明しました。
今回の検討でも有意な効果は証明できず、この治療法は過去のものとなりました。

…以上、自分の日常診療を振り返るよい機会になったCQですね。


▢ 喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会
2024/12/04:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。

▶ ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用?
 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。
 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。
 そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。
 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。
 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。

▶ 中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは?
 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。
 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。
 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。
 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。
 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。

▶ FeNOに基づく管理は有用か?
 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。
 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。
 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。
 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。
 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。

▶ 喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは?
 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。
 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。
 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。
 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。
 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。

■参考文献
1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.
2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.
3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 2024
4)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.
5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.
6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

(ケアネット 佐藤 亮)
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