小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「舌下免疫療法で重篤な副反応はなし」

2015年05月26日 04時31分58秒 | 花粉症
 昨年秋解禁になったスギ花粉症舌下免疫療法。
 実際に行った症例報告が第116回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会でなされ、頻度は多いけど治療を中止するほど重篤なものはなく安全な方法であることが示されました。

 興味深かったのは、胃腸症状が出た際は飲み込み法から吐き出し方へ変更することによって解決したということ。
 食物アレルギーの急速減感作療法を行う小児科医からは、治療中の胃腸症状が好酸球性胃腸炎に繋がる例が報告されており、スギ花粉症舌下免疫療法の講習を受けた際に「飲み込み法」が採用されたことに違和感を覚えた私です。
 この情報をもっと啓蒙していただきたいですね。

■ 舌下免疫療法で重篤な副反応はなし ゆたクリニックからスギ花粉症207例の実臨床経過を報告
[2015年5月25日:MTProより]
 スギ花粉症に対する舌下免疫療法(SLIT)は,昨年10月に実臨床に導入された。ただし,副反応の懸念からSLITを躊躇する医師は少なくない。ゆたクリニック(三重県津市)は,花粉飛散期の今年3月末まで観察できた207例の経過を検討したところ,副反応の頻度は口腔内・喉の症状,鼻症状,耳の症状などを中心に頻度は約4割であったが,大半は重篤でなく,1カ月以内に消失していたことを報告した。今回の検討結果は,SLITの導入開始から今春の花粉シーズンにおける経過などを,いち早く発表した実臨床報告として注目されるものである。

舌のぴりぴり感,口腔内の痒みが多く,舌下後数分~数時間で消失
 同クリニックでは,SLITを導入したスギ花粉症患者には,症状や自宅におけるSLIT施行状況,副反応に関する舌下免疫療法の最新問診票に記載してもらい,再診時に医師が口頭で確認することにしている。
 今回,同問診票からSLITのスギ花粉アレルゲンエキス増量期,維持期,花粉飛散期における副反応の詳細を明らかにして今後の対応を探ることを目的に,承認された昨年10月以降にSLITを導入した207例を対象に今年3月末までの経過を検討した。その結果,副反応報告は207例中84例(40.5%)から寄せられ,
・口腔内・喉の症状は207例中56例(27.1%),
・鼻症状は29例(14.0%),
・耳の症状(痒み)は20例(9.7%),
・眼の症状は14例(6.8%,そのうち眼の痒みは13例)
などであった。
 口腔内・喉の症状で特徴的であったのは,
・舌のぴりぴり感22例(10.6%),
・口腔内・喉の痒み17例(8.2%),
・口腔内・喉の違和感15例(7.2%),
・舌下の腫れ12例(6.0%)など,
 鼻症状では
・鼻水(鼻汁)19例(9.2%),
・くしゃみ13例(6.3%),
・鼻閉7例(3.4%)
 などであった。その他では,胃腸障害が7例(3.4%)であった。
 これらの副反応のほとんどはWorld Allergy Organization(WAO)分類ではgrade1であった(ただし,症状的にはgrade1だが,患者の自己判断で抗ヒスタミン薬を服用した症例が数例あり,分類上はgrade2となるため)。舌下後,数分~数時間で消失していた。
 SLITのスギ花粉アレルゲンエキス増量期は207例中52例(25.0%),維持期は61例(29.3%)と頻度は高いが,花粉飛散期は4例(2.5%)は低かった。増量期で10例以上の報告があった副反応は,舌のぴりぴり感15例,鼻水17例,くしゃみ11例,維持期では口腔内・喉の痒みと舌下の腫れがそれぞれ13例,まぶたの腫れ10例であった。

腫れ継続例には抗ヒスタミン薬内服,胃腸症状には吐き出し法を指示
 副反応の出現期間別に分析した結果,83.3%が1カ月以内(1週間以内34.5%,1~2週間未満25.0%,2週間~1カ月未満23.8%)に消失していることが分かった。副反応が2カ月以上継続したのは5例で,症状は喉の違和感や痒み,口の痒み,胃腸症状であった。また,年齢,スギ花粉特異的IgE抗体,服用率では副反応の有無に有意差はなかった。
 以上から,副反応に対する同クリニックの方針は,舌下や口腔内,下口唇の腫れに対しては,
①腫れが30分以内の場合は経過観察
②腫れが継続する場合は抗ヒスタミン薬内服
-としており,現在は全例で消失している。また,胃腸症状に対しては飲み込み法から吐き出し法に変更したことで改善または消失に至っている。
 最後に,小川氏は「同クリニックにおける副反応報告は,添付文書に記載されている頻度よりも高かったが,重篤なものはなく,アレルゲンエキス量が多い海外の副反応報告よりも少なかった」と述べた。

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新興感染症に「地名」「人名」「動物」含まれる名称はNG,WHOが指針

2015年05月12日 05時30分07秒 | 予防接種
 なるほど、と頷けるニュースが流れました。

 病名にはいろいろな由来がありますが、偏見を助長することがあります。
 四半世紀前の研修医時代、総回診の際に「点頭てんかん」という病名でプレゼンしたら、上司から「“てんかん”という病名はできる限り患者の前では使うべきではない、別名の“ウエスト症候群”を使いなさい」と指導されたことがあります。
 病名を使う場合、ある人々にとっては聞きたくない名前である可能性を想像する必要があることを教えられたエピソードとして記憶に残っています。

■ 新興感染症に「地名」「人名」「動物」含まれる名称はNG,WHOが指針 ~特定の国や民族,経済活動などへの影響に配慮
(2015.5.11:MTPro)
 世界保健機関(WHO)は5月8日,研究者や各国保健当局,報道機関に向け新たなヒトにおける感染症の名称を定める上で参考にすべきベストプラクティス(以下,指針)を公表した。疾患名によって特定の国や民族などの印象が損なわれたり,経済活動に悪影響が及んだりするのを回避することが目的だとしている。指針では新たな感染症の名称には特定の地域や国名,人名,動物の名称を含むべきではないとされており,回避すべき名称の具体例には「中東呼吸器疾患(MERS)」や「日本脳炎」「鳥インフルエンザ」などが挙げられている。

◇「クロイツフェルト・ヤコブ病」「レジオネラ症」もNG
 インターネット上のソーシャルメディアなどを通じて即時に地球規模での情報伝達が可能となった現代社会では,いったん疾患名が拡散し,定着すればそれを変更することは難しい。そのため,新たに認知され,公衆衛生上の問題となる可能性のある感染症あるいは症候群を報告する者には適切な疾患名を定めることが求められると,WHOは今回指針を示した背景について説明している。
 WHO事務局長補の福田敬二氏は「近年,幾つかの新興感染症が報告されたが,“ブタインフルエンザ(swine flu)”や“中東呼吸器症候群(MERS)”といった名称は特定の地域や民族のイメージダウンをもたらした。人々の往来や交易が遮断され,食肉用の動物の虐殺にもつながった」と指摘。「こうしたことは,最終的には人々の生命や生活に深刻な影響を及ぼすことになりうる」と述べ,今回の指針の意義を強調している。
 指針では,新たな感染症の疾患名には疾患に起因した症状を示す一般的な用語(呼吸器疾患,神経学的症候群,水様性下痢など)や,症状のより具体的な情報あるいは患者群,重症度,季節性に関する用語(進行性,若年性,重症,冬季など)が含まれるべきとされている。また,新たな感染症の原因が既知の病原菌(コロナウイルス,インフルエンザウイルス,サルモネラ菌など)である場合には,これを疾患名に加えることも求められている。
 一方,疾患名に含むべきではないとされたのは地域や国名(中東呼吸器症候群,スペイン風邪,日本脳炎など),人名(クロイツフェルト・ヤコブ病,シャガス病など),動物の名称(豚インフルエンザ,鳥インフルエンザ,馬脳炎),職業(レジオネラ症など)などに関連した用語。この他,人々の恐怖心を煽る可能性のある「未知の(unknown)」「致死性(fatal)」「伝染性(epidemic)」なども使用すべきでないとの見解が示された。
 なお,新興感染症に関して不適切な名称が公表あるいは使用されたり,名称が定められないままとなっている場合には,WHOが暫定的な疾患名を公表し,その使用を推奨する可能性があるとしている。

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麻疹罹患による免疫抑制は「最大3年」続く恐れがある

2015年05月09日 20時23分42秒 | 感染症

 麻疹(はしか)に罹った後は約1ヶ月間、免疫力が抑制されると教科書に書いてあります。
 そしてこの病態は、予防接種も麻疹罹患後1ヶ月の間隔を開ける根拠となっています。
 ところが、この一過性免疫抑制状態は、より長期間続くというニュースが流れました;

■ はしかの免疫抑制、最大3年続く恐れ
(2015年05月08日:AFP)
 麻疹(はしか)が免疫系に及ぼす悪影響は最大3年にわたり持続する可能性があるとの研究結果を7日、米プリンストン大学(Princeton University)などのチームが発表した。病気から回復した後でも、この期間は、他の感染症や命にかかわる疾患リスクが通常より高くなるという。
 はしか感染により体の自然防御機構の免疫系が数か月にわたり抑制される恐れがあることは、これまでの研究ですでに明らかになっていた。だが、米科学誌サイエンス(Science)に発表された論文によると、ワクチンで予防可能な病気のはしかが、免疫記憶細胞を死滅させることで、その脅威をはるかに長期間持続させることを今回の研究結果は示しているという。免疫記憶細胞は、肺炎、髄膜炎、寄生虫症などの感染症から体を守る働きをする。
 「つまり、はしかに感染すると、以降3年間は、通常では死因にはならないと思われる何らかの病気で命を落とす恐れがあるということだ」と、論文共同執筆者のプリンストン大のC.ジェシカ・メトカーフ(C.Jessica Metcalf)助教(生態学・進化生物学・公共問題)は説明する。
 感染症の中で伝染性が最も高いものの一つであるはしかは通常、発疹や発熱を引き起こす上、肺感染症、脳腫脹、けいれん発作などの危険な合併症の原因となる恐れがある。
 はしかワクチンが約50年前に導入されて以後、欧米では、はしかの死亡率が低下し始め、それとともに他の感染性疾患による死亡例も減少傾向を示したと研究チームは指摘する。
 論文によると、ワクチン接種の開始前と開始後とで欧米の子どもの死亡例を詳しく調査した結果、「はしか感染後の平均約28か月に及ぶ『遅延期』を考慮すると、はしかの罹患(りかん)率と他の病気による死者数との間に非常に強い相関関係がある」ことが見て取れたという。
 論文主執筆者で米エモリー大学(Emory University)医学部学生のマイケル・ミナ(Michael Mina)氏は「はしかワクチンは、はしか自体の予防だけにとどまらない恩恵をもたらすことを、今回の研究は示唆している」と述べ、「これは、世界の健康のための、費用的にも最も効率の良い医療行為の一つだ」と続けた。同氏はプリンストン大で博士課程修了後の研究者として今回の研究に取り組んだ。


 やはり、怖い感染症なのですね。
 日本では現在、MR(麻疹・風疹)ワクチンを2回接種することが予防接種法で推奨されていますので、小児に流行する可能性は皆無です。
 ただ、中年以降で予防接種の器械がなかった人達には数年単位で小流行がいまだに話題になります。
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