小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

卵・牛乳アレルギー除去解除の安全な開始量・維持量は?

2024年07月28日 07時17分49秒 | 食物アレルギー
乳児期に発症した食物アレルギー(卵・牛乳)の治療方針は、
一旦は症状が出ないレベルで除去し、
1歳過ぎに除去解除を試みるのがふつうです。
ただし解除の時期は重症度によりアレンジされますので、
必ず主治医の指示を守ってください。

では除去解除の際、どれくらいの量を試すのが適切なのでしょう?
ガイドラインでは一応、グラム単位で量の設定がされていますが、
その数字に関してはいまだに議論の対象で、
学会に参加していると今後もエビデンスにより変わる雰囲気が感じられます。

当院では、食物アレルギーの軽症例(皮膚症状のみ)だけを診療しています。
なのでグラム単位の指導はしていません。
除去解除、あるいは再開する際は、ケースバイケースではありますが、

・少量摂取で無症状、大量摂取で症状出現
 → 無症状レベルの量から漸増していく

・微量摂取でも症状出現
 → “舐める程度”からはじめ、漸増していく

ルールとして以下のことを指示します;

・同量を複数回試して症状が出ないことを確認する
・増量する際は2倍以内とする

つまり「石橋を叩いて渡る」イメージですね。
これらを守っていただければ、安全に除去解除が進められます。
・・・少なくとも私の経験では。

そんなタイミングで、以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・従来は域値(症状が出現する量)に近い量で開始していたが、症状が出現してしまうことが一定数いた。
・極微量開始法は、症状が出現するリスクが少ない。
・極微量開始・継続法でも、その後の耐性獲得(症状が出なくなること)が得られた。
・極微量開始・継続法は、安全に行うことができ、かつ耐性獲得もできる有効な方法である。

当院の方法との違いは、
微量摂取可能例はどんどん増量していかなくても、
症状が出現しない量を食べ続けることにより、
いずれ耐性獲得が期待できる、
という点でしょうか。

■ 経口免疫療法の至適開始量が判明〜卵・牛乳アレルギー
2023年12月06日:Medical Tribune)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。

▶ 閾値の1万分の1~10分の1で開始
 食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
 大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。

表. 開始量と維持量のパターンによる分類


▶ アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
 検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。

図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合

(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。


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糖質制限ダイエットは危険?

2024年07月26日 06時29分33秒 | 予防接種
私自身、もう5年以上糖質制限をしています。

といってもゆる〜い糖質制限で、主食(穀物)を食べないだけ。
言い方を変えると、「おかずだけ食べる」食生活です。

ストイックな糖質制限食者は、
天ぷらや揚げ物の衣も食べないそうですが、
私は食べる喜びを捨てるつもりはないので、
みんな一緒に食べています。

するといくつかのことに気づきました。
まず、和食のおかずは「しょっぱい」こと。
ご飯がはかどるための味付けになっているのです。

これは、日本人が米を主食に選んだ弥生時代に、
高血圧という国民病を抱えることになったと読んだことがありますが、
その通りだと思います。

それから、炭水化物を主食に選んだ時点で、
糖尿病という国民病も抱えることになりました。

炭水化物は消化吸収される際、ブドウ糖に分解されます。
つまり、甘いスイーツや菓子類を食べなくても、
米やパンやパスタでしっかり糖負荷がかかっているのです。
例えば、「うどんひと玉は角砂糖14個分」という題名の本がありましたね。

ですから、糖質制限は少なくとも「高血圧」「糖尿病」を回避する有効な方法と言えます。

そして過剰な糖質は脂肪となって蓄積されます。
油っぽいモノを食べると脂肪になるとイメージされやすいですが、
実は脂肪の元凶は糖質です。

実際にゆる〜い糖質制限を続けている私は、
標準体重を維持し続けています。

これは栄養学的のみならず、精神衛生上とてもよいこと。
ユニクロの衣服をきつさを感じることなく着用可能なのです。
メタボの中年はユニクロをスマートに着こなせませんよね。

…前置きが長くなりました。
私にとって糖質制限はよいことですが、
中には反対意見もあります。
これから数回、それらの記事を拾ってみます。

以下の記事で驚いたのは、
「油っぽいものを食べると太る」というイメージは、
砂糖業界が商業的に作り出したものである、という事実!

それから、
「糖が足りないときは脂肪やたんぱく質がそれを補う」
と説明しておきながら、
「糖が足りないと脂肪やたんぱく質が分解されて危険」
と否定的な説明もしており、
 (どっちなの?)
と、どう理解してよいのかわからない…。

それからそれから、
脂肪が分解されると生成されるケトン体を悪者にしていますが、
近年、脳はケトン体を栄養分として利用できることが判明したという、
科学的事実を付け加えておきます。

<ポイント>
・生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです。
・脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
・脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります。砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。
・脂質と糖、タンパク質は互いに変換できます。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます。
・糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です。
・脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます。肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます。使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です。血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。
・脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります。


■ 最悪の場合は死に至る…ラクに体重が減る「糖質制限ダイエット」に潜む危険すぎるリスク過度な減量は飢餓状態とほとんど変わらない
2022.6.8:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ラクに体重を減らせるとして「糖質制限ダイエット」が注目を集めている。コンビニなどでも「糖質」を表記する商品が目立つ。サイエンスライターの佐藤成美さんは「たしかに糖質制限をすれば体重を減らせるが、筋肉量の減少や脱水症状を引き起こすリスクがある。長期にわたって過度な糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もある」という――。
※ 本稿は、佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

▶ 油っぽい食べものはダイエットの敵なのか
 さて、三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質について、複合的に考えてみたいと思います。エネルギー源となるこれらの栄養素の熱量は、タンパク質や糖質では1gあたり4kcalなのですが、脂質は9kcalと倍以上にもなります。
 脂質のこの性質は生体内にエネルギーを蓄えるためには重要です。ただ、油といえば、連鎖的に太るとイメージされます。油や油を多く含む食べものはもっぱらダイエットの敵とされてきました。このようなイメージが染みついているのは、脂質のエネルギーが高いからなのでしょうか。
 生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです
 さて、脂質は皮下組織や内臓のまわりにある脂肪組織に蓄えられます。脂肪組織は体温の保持や体の保護にも重要です。脂肪組織には脂肪細胞という脂肪をためておくための特殊な細胞があり、細胞質に脂肪滴という脂肪のかたまりをもっているのが特徴です。

▶ 肥満によって脂肪細胞はどんどん増えていく
 脂肪細胞には、大きな脂肪滴がひとつある白色脂肪細胞と複数の脂肪滴がある褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞があり、役割が異なります。
 皮下組織にあって、脂肪をためる役割をしているのは白色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は首や肩の周りなどに多くあり、脂肪を代謝させエネルギーを産生します。ベージュ脂肪細胞は動物が長期間、寒冷にさらされると出現するという特徴があり、やはりエネルギー産生機能をもっています。
 白色脂肪細胞(以下、脂肪細胞)は、脂肪をためると直径70〜90µmほどの大きさになります(1µmは10-3mm)。赤血球の直径が8µmほどですから、脂肪細胞はかなり大きい細胞です。人類は、飢餓に備えて、このような細胞を獲得したものの、食べものが豊富になり、便利な時代となった今、栄養過剰摂取と運動不足でエネルギーは余るばかり。それでも、生体はエネルギーをためることはやめません。
 その結果、脂肪細胞は脂肪をどんどん取り込むことになりました。風船がふくらむように大きくなり、最大では直径100µmをこえるほどの大きさになります。太るとき、脂肪細胞は、「数は変わらずにどんどん大きくなる」という説と「数が増える」という説がありました。最近は、肥満によって脂肪細胞の数が増えることが明らかになってきました。

▶ 太る原因は糖質なのか、脂質なのか
 脂肪細胞の数は成人で約300億個、肥満者で400億から600億個といわれます。そしてこれらの脂肪細胞は体内最大の内分泌器官でもあります。脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます
 ここでまた本稿の冒頭の疑問点に戻ります。生物は余ったエネルギーを脂肪として蓄えるしくみがあり、それは脂質を含む食べものを食べたときばかりではありません。それなのに、脂質=太るというイメージが強いのはなぜでしょう。
 脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります
 砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・・・

▶ 糖質はどうやって代謝されているのか
 糖代謝について少し説明しておきましょう。デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。
 細胞に取り込まれたブドウ糖は、クエン酸回路、電子伝達系を経て、ATP(アデノシン三リン酸)が合成されます。ブドウ糖が二酸化炭素と水になるだけの反応ですが、何段階もの複雑な過程を経ることで、非常に効率よくエネルギーを引き出しています。糖代謝はさまざまな代謝の中心で、代謝の途中でできる中間代謝産物が脂質やタンパク質などほかの代謝経路とも相互に関わりあっています。
たとえば、ブドウ糖は解糖系の第1段階として、グリコーゲンに変化しやすい状態に変わり、ここでグリコーゲンといったりきたりします。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。

▶ なぜビタミン剤は疲労に効果があるのか
 脂質とタンパク質の代謝についても見てみましょう。
 中性脂肪はグリセロールと脂肪酸から構成されていますが、グリセロールは解糖系と関わっており、脂肪酸はアセチルCoAという物質でクエン酸回路と関わっています。タンパク質はアミノ酸に分解されると、アセト酢酸やピルビン酸を経てアセチルCoAになります。これらの中間代謝産物を介して、タンパク質の代謝と糖代謝も関わっています。
このことは、脂質と糖、タンパク質が互いに変換できることを意味します。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます
 生体内の代謝は化学反応の連続で、さまざまな代謝経路が相互に関わりながら非常に複雑なネットワークをつくっています。ネットワークを示した代謝マップは、東京など大都市の路線マップよりも複雑です。そして、このネットワークが間違えずにスムーズに機能することが「体調が良い」ことになるのです。
 三大栄養素の代謝にはビタミンが必要で、不足すると代謝が機能しにくくなります。ビタミン剤やビタミン入りのドリンクが疲労に効果があるといわれるのは、必要なビタミンを補い、代謝を促すからなのでしょう。

▶ 過剰な糖質制限ダイエットは低血糖を招く
 ここからは、低糖質ダイエットや糖質制限ダイエットについて詳しく考えてみたいと思います。
糖質とは炭水化物のうち、エネルギー源になるデンプンやその構成要素でもあるブドウ糖などをいいます。糖質制限ダイエットのブームで、糖質という言葉の意味が広く知られるようになったものの、太る原因や健康に悪いというイメージが強まりすっかり悪者になってしまいました。
 糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です
 糖質を控えるだけなら比較的簡単そうだし、おまけにカロリー制限はなく肉も満腹になるまで食べてもいい、ということで飛びつきたくなる気持ちもわかります。ただ、主要なエネルギー源である糖質を控えたら、どうやってエネルギーを得ることになるか、考える必要があります。
 脂質やタンパク質は糖質とともにエネルギーになります。糖代謝はエネルギー代謝の中心にあり、脂質やタンパク質の代謝と密接に結びついており、糖質が不足してもエネルギーをつくるしくみがあります。それなら糖質制限しても問題はなさそうと思ってしまいます。ところが、困ったことに、脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます
 もし、低血糖になれば脳はその影響を強く受け、昏睡こんすい状態になる危険もあり、時には死を招きます。

▶ 意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクが高まる
 低血糖を避けるために体内では、まずは肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を補います。グリコーゲンはデンプンと同様ブドウ糖がつながった分子なので、分解すればブドウ糖になります。とはいえ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます
使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です
 血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。このような体を守るしくみを知ったうえで糖質制限ダイエットについて考えてみる必要があります。
 糖質制限をすると脂肪細胞の分解ということは起こるので、やせることはかなり期待できます。ただ、やせたといってもぬか喜びになるかもしれません。極端な糖質制限を続ければ筋肉まで分解され、生体にとって危険な状態になるからです。
 脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります

▶ 長期の糖質制限ダイエットはで死亡リスクが高まる可能性も
 実は飢餓や糖尿病でも、これと同じ状態が起こります。糖尿病は、糖代謝が制御できず、高血糖状態が続く病気です。糖尿病になると、体内にブドウ糖があってもブドウ糖を利用できなくなり、エネルギー不足に陥ります。
 糖質制限をしたときに起こるメカニズムはまだ十分には解明されていません。糖質制限をしてやせる理由のひとつに、ケトン体が栄養シグナル分子として、絶食などブドウ糖を利用できないときのエネルギー利用の調節にはたらいているためではないかと示唆されています。
 一方、長期にわたって糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もあります。糖質制限の効果には賛否両論があります。良い面も報告されていると同時に弊害も報告されています。健康になるのかどうかは今のところは疑問です。糖質をとりすぎている人は減らす必要はありますが、ブドウ糖は筋肉や脳を動かすエネルギー源として欠かせないものなので、適度に摂取することは必要です。
・・・


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積極的勧奨を再開したHPVワクチン(子宮頚がんワクチン)、接種率は?

2024年07月23日 06時10分18秒 | 予防接種
世界のワクチン接種率と比較すると、
周回遅れ以上に遅れている日本の状況、
昨年ようやく積極的勧奨が再開されましたが、
接種率は伸び悩んでいるという噂を耳にします。

さて、実際の数字はどうでしょうか?
以下の記事が目に留まりました。

<ポイント>
・WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値は「接種率90%」であるが日本はその半分にも満たない。
・日本における接種率は、
 個別案内世代(2004~09年度): 16.16%
 積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)・ 2.83%。
・2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定すると、
 個別案内世代(2004~09年度):28.83%
 積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16%


■ HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大
2024/07/22:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました); 
 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。・・・
 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。
 主な結果は以下のとおり。

・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。
 接種世代(1994~99年度):71.96%
 停止世代(2000~03年度):4.62%
 個別案内世代(2004~09年度):16.16%
 積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%

・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。
 接種世代(1994~99年度):71.96%
 停止世代(2000~03年度):4.62%
 個別案内世代(2004~09年度):28.83%
 積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16%

 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

<原著論文>
・Yagi A, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2422513.
<参考文献・参考サイト>
・大阪大学. このままではWHO目標値の半分以下に…積極的勧奨再開も効果薄? 伸び悩むHPVワクチン接種率
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赤ちゃんの熱中症対策

2024年07月22日 13時34分15秒 | 予防接種
梅雨が明け、猛暑日が続き、熱中症が心配な季節になりました。
高齢者の重症例が社会問題化していますが、
野外活動・スポーツをする子どもたちも稀ではありません。

つらさが訴えられない赤ちゃんのリスク因子を確認しておきましょう。
よく指摘されるのは、
大人が感じる気温とベビーカーに乗っている赤ちゃんの感じる気温には差があること。
地面やアスファルトからの照り返しで、3〜4℃高い温度にさらされているのです。
それを考慮した対策を立てる必要があります。

以下の記事を参考にポイントをまとめてみました;

<ポイント>
・一般的注意:
 ✓ 暑い時間帯の外出を避ける
 ✓ こまめに水分補給をする
 ✓ 風通しがいい服装にする
 ✓ エアコンで室温を24~28度くらいに保つ
 ✓ 外出時はこまめに休憩を取る
・とくに注意したいのは、車内に子どもだけ置き去りにすること。エンジンをかけてエアコンを入れていても、車内は熱中症を引き起こしやすい状態に。日中だけでなく、夜間も同じ。
・日中に屋外で長時間ベビーカーに乗せることも熱中症の危険が。ベビーカーの赤ちゃんは地面から近いため照り返しの熱を受けやすくなる。

■ まさか…こんなところで熱中症に?!赤ちゃんの熱中症対策Q&A
2024/7/16:たまひよONLINE)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・体温調節がうまくできない赤ちゃんが熱中症にならないためには、大人が注意してあげることが大事です。赤ちゃんの熱中症についてママやパパたちが気になることを、帝京大学医学部附属溝口病院の小児科医、黒澤照喜先生に聞きました。 


▶ 赤ちゃんの熱中症予防のために知っておきたいこと

 熱中症とは、体内に熱がこもり、体温が急激に上昇して引き起こされる症状のことです。赤ちゃんの場合、主な症状は機嫌が悪くなる、顔色が悪くなる、脱水症状や意識障害、ショック状態などで、最悪の場合、命を落とすことも。赤ちゃんは体の不調を言葉で伝えられないため、ママやパパが気をつけてあげることが必要です。 「熱中症を予防するには、まず暑い時間帯の外出を避ける、こまめに水分補給をする、風通しがいい服装にする、エアコンで室温を24~28度くらいに保つ、外出時はこまめに休憩を取る、などに気をつけましょう」(黒澤先生) また、熱中症が起こりやすい状況を知り、避けることも大切です。 
 「とくに注意したいのは、車内に子どもだけ置き去りにすること。エンジンをかけてエアコンを入れていても、車内は熱中症を引き起こしやすい状態に。日中だけでなく、夜間も同じです。 そして、日中に屋外で長時間ベビーカーに乗せることも熱中症の危険が。ベビーカーの赤ちゃんは地面から近いため照り返しの熱を受けやすくなります。こまめに赤ちゃんの様子に気を配りましょう」(黒澤先生)

▶ 教えて!熱中症対策の気になるあれこれQ&A

黒澤先生に、ママたちが気になる熱中症についての質問に答えてもらいました。

Q.室内でも熱中症になるの?

【黒澤先生より】 急激に気温や湿度が上がる時期には、体が暑さに慣れていないと室内でも熱中症になるケースがあります。以下のことに気をつけましょう。
・赤ちゃんを日当たりのいい窓際に寝かせっぱなしにしない
・エアコンを活用して、室温を24~28度くらいに保つ
・ときどき換気を行い空気を循環させて、気温・湿度を下げる
・赤ちゃんの服の枚数は大人より少なく

Q.ベビーカーや抱っこひもにつける携帯扇風機は熱中症対策になるの?
【黒澤先生より】 空気の流れができるので悪くないと思います。ただ、赤ちゃんがけがをしないようにきちんと安全対策がとられたものを選ぶことが大切です。赤ちゃんが扇風機を触ろうとしてベビーカーが転倒しないよう、使用時は目を離さないようにしましょう。

Q.ベランダなどのプール遊びで気をつけることは?
【黒澤先生より】 プールの水遊びでは、気づかないうちに脱水症状になってしまうことも。日ざしが強く気温が高い真昼の時間帯は避け、本人の体調に注意しながら、水分補給をする、短い時間で切り上げるなどの工夫をしましょう。

Q.赤ちゃんにも日焼け止めを塗ったり、UVカットの上着を着せたりしたほうがいいの?
【黒澤先生より】 日焼け止めやUVカットの衣類は紫外線を防いで日焼けを予防するためのもので、熱中症対策にはなりません。スキンケアとしては大切なので、外出時は日焼け対策をするといいでしょう。

Q.お出かけの時ベビーカーに取り付ける保冷マットは使ったほうがいいの?
【黒澤先生より】 保冷剤やベビーカーに敷くタイプの保冷マットなどは、熱を取ってくれるため、熱中症対策には有効です。ただし、だからといって暑い日にベビーカーに長時間乗せっぱなしにするのはNG。また、冷えすぎることもあるので、顔色や体の震えがないか気をつけましょう。
 このほか、おでこに貼るような冷却ジェルシートはメントールでスッとした感覚じがするだけで実際に熱は奪われないため、熱中症対策にはなりません
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Long-COVID(新型コロナ後遺症)と POTS(体位性頻脈症候群)

2024年07月21日 15時16分31秒 | 新型コロナ
先日、Long-COVID(新型コロナ後遺症あるいは新型コロナ後症状)に関するWEBセミナーを聴いていたとき、
「POTSを訴える患者さんが増えている」
という話が出ました。
私の知識の中になかったので、検索したところ、
以下の記事が目に留まりました。

意外だったのは、
・POTSには運動療法が推奨される。
一方で、
・POTS+ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)では運動は推奨されない。
というジレンマが存在すること、
つまり新型コロナ後遺症患者さんには運動が改善につながる例と運動すると症状が悪化する例が存在する・・・
鑑別診断をしっかりしないと患者さんがつらい思いをするリスクがあるということ。

<ポイント>
・「体位性頻脈症候群POTSポッツ):自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる。
・POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増した。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
・POTS患者のうち一部の人々は「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。
・PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えている。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もある。
・運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。

■ 立ち上がると動悸、めまい…コロナ後に増えた病POTSの「誤謬」
体位性頻脈症候群、推奨される運動療法で悪化するケースが続出

 ボート競技の英国代表チームに所属するウーナ・カズンズさんは、1年半にわたって新型コロナウイルス感染症の後遺症に悩まされた。新型コロナに感染したのは2020年の前半であり、初期症状は軽かったものの、それからは単なる疲れとは到底言えないほどの疲労感に苦しんだ。
「まるでひどく深刻な病気にかかったかのようでした」とカズンズさんは言う。それは「ドロドロとした深い脱力感」で、軽く体を動かすだけで症状は急激に悪化した。
 そして2021年末、ようやくトレーニングを再開できるところまでこぎつけた。長い回復期を耐えたカズンズさんに最後まで残った症状は、ごく軽度の「体位性頻脈症候群POTSポッツ)」だった。
 これは自律神経障害の一種であり、たとえば座っている状態から立ち上がったときなど、体勢を変えた後に心拍数が異常に上がることを特徴とする。POTSの患者が訴える症状は、めまい、疲労感、ブレインフォグ(脳に霧がかかったようにぼんやりする状態)、胃腸障害など多岐にわたる
 カズンズさんはPOTSとともに生きる数百万人の患者のひとりだ。米啓発団体ディスオートノミア・インターナショナル(国際自律神経障害の会)によれば、POTSの患者数は、新型コロナの流行が始まって以来、倍増したと推測されている。この病気の発症要因としては、妊娠、手術、そして新型コロナのようなウイルス性疾患などが知られている。
 POTS患者のうち一部の人々は、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」と呼ばれる疾患を併発している。これは運動後に症状が悪化する「労作後倦怠感(PEM)」を特徴とする。(参考記事:「コロナで注目の「慢性疲労症候群」、関連する腸内細菌を特定か」)
 PEMがある患者が無理を押して体を動かせば、症状の大幅な悪化につながりかねないが、POTSからの回復に向けた運動プログラムにおいては、まさにそれが推奨される場合が多い。その結果、POTSとME/CFSを併発している患者の多くから、運動に関する不適切な指導を受けたとの声が上がっている。
・・・
▶ 運動とPOTS
 トレーニングを再開する準備ができたと感じたカズンズさんは、主治医に相談したところ、自律神経障害を改善するための治療法は運動だと助言された。医師の賛成を得て、カズンズさんは週3回の運動から徐々にトレーニングに復帰した。
 トレーニングを続けて1年がたったころ、症状が大きくぶり返し、自律神経障害は軽度から重度へ悪化した。原因はトレーニングのし過ぎだとカズンズさんは言う。「要するに、自律神経障害とPEMが蓄積された結果だったのです」。カズンズさんをはじめ、多くのPOTS患者が実感しているのは、運動と自律神経障害の関係は、研究で示唆されている以上に複雑だということだ。
 米疾病対策センター(CDC)の最近の推計によると、現在、米国の成人の6%が新型コロナ後遺症の症状を抱えているという。新型コロナ後遺症患者の79%がPOTSの基準を満たしていたという研究もあり、患者や医療従事者は、症状の管理に運動をどのように取り入れるかについて、再評価が必要だと感じている。
 運動は現在、POTSの治療で第一の選択肢とされているが、新型コロナ後遺症患者を対象とした調査では、身体活動や運動などを主なきっかけとして85.9%が後遺症の症状の再発を報告した。また、患者からは、運動プログラムの一部は従うのが困難だったとの意見が出ている。
 これを受け、英国立医療技術評価機構(NICE)は、新型コロナ感染後の倦怠感の治療で段階的運動療法を用いるのは適切ではないかもしれないと注意を促している。新型コロナ以外のきっかけでPOTSを発症した人々にとっては、運動が有益な場合もあるが、多くの患者は、運動は症状を改善させる治療法として第一の選択肢になり得ないと気付いている。
 にもかかわらず、運動だけでは症状が良くならないことを身をもって証明しない限り、医師は薬の処方を検討してくれないと訴える声は少なくない。
「多くの医師が、必要な治療法は塩分、水分、運動だけだと考えています」と語るのは、2010年にPOTSを発症し、ディスオートノミア・インターナショナルを設立した、米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の神経学者ローレン・スタイルズ氏だ。「そうした考えは非常に時代遅れです」(参考記事:「コロナ後遺症に抗うつ薬が効く? 腸の炎症と脳の関係を解明」)

▶ 運動が悪影響をもたらす場合
 多くの研究で示されている通り、運動は心臓を効率よく動かし、体により多くの血液を作るよう促すことによって、POTSの症状を軽くする場合がある。
 POTSの運動プログラムでは、患者はまずボート漕ぎ、水泳、リカンベントバイク(背もたれに寄りかかってペダルを漕ぐ運動器具)といった、仰向けの姿勢で行う有酸素運動に取り組む。このやり方であれば、直立の姿勢をとることによる症状の悪化を防げるからだ。加えて患者は、血液をより効率的に心臓に戻すのを助ける筋力トレーニングも行う。
 しかし、どんな薬もそうであるように、運動にも注意点はある。たとえば、適切な量と強度を見極めなければならないことや、POTSと併発することの多い、運動してはならない疾患の有無を確かめることなどだ。ME/CFSのような疾患の場合、運動が体調の大幅な悪化をもたらすことがある。(参考記事:「コロナ後遺症の「倦怠感」、運動していい人とダメな人の違いとは」)

 POTSの症状に対する運動の効果を調査した主要な研究のひとつでは、3カ月間の運動プログラムを終了した患者のうち、71%がすでにPOTSの基準を満たさなくなっていた。ただし、この研究では、登録した参加者251人のうちプログラムを完了したのは103人のみと、脱落者の割合が約6割にのぼった。同研究ではまた、POTS患者に多く見られる自己免疫疾患など、ほかの病気を持つ患者が除外されていた。
・・・
▶ 個々のニーズを探る
 POTSの運動プログラムを有用と感じる患者も一部にはいるものの、それは推奨されているよりもはるかにゆっくりとしたペースで行い、投薬も併せて取り入れた場合に限られる。
 POTSを発症する前は競技スノーボードの選手だったスタイルズ氏の場合、運動は症状の緩和にはつながらなかった。しかし、自己免疫疾患との診断を受け、定期的な免疫グロブリンの静脈内点滴などの治療を受けるようになると、「寝たきりの状態からアイススケートができるまでに回復しました」と氏は言う。「薬物療法のおかげで、少しずつアスリートとしての自分に戻ることができたのです」
 POTS患者の多くは、同時にME/CFSの基準も満たしており、その中には新型コロナ後遺症の患者も少なくない。ME/CFSの代表的な症状はPEM(労作後倦怠感)であり、体を動かし過ぎてから数時間から数日間、リンパ節の腫れ、関節や筋肉の痛み、微熱といったインフルエンザのような症状が現れることも多い。
「臨床医としての私の仕事は、患者がPEMを持っているのか、いないのかによって大きく異なります」と、米パシフィック大学の理学療法研究者トッド・ダベンポート氏は言う。「そこが非常に重要な臨床上の判断ポイントとなります」
 アラバマ州の研修医レディさんの場合、最初の数カ月はただ我慢しながら過ごし、その間、症状は徐々に悪化していった。やがて医師や家族の勧めで理学療法を始めたものの、あるとき一気に体調が悪くなり、光や音などのわずかな刺激にも耐えられず、1カ月間ベッドに寝たきりになった。
 カズンズさんもまた、症状の再発により、何カ月も家から出られない状態が続いた。だが、投薬を含む治療を受けた後は、水泳や散歩といったちょっとした運動を取り入れつつ、より普段の暮らしに近い日々が送れるようになった。
「私は自分の体の声に耳を傾け、体が求めることをするよう努めています」とカズンズさんは言う。「私が求めるのは、運動との幸せで健康的な関係を築く方法を見つけて、気持ちよく過ごすことだけです」
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カナダの性教育

2024年07月01日 08時37分05秒 | いのち
「日本の性教育は遅れている」と指摘されて久しいですが、
海外の一例として、カナダの性教育を取りあげた記事が目に留まりましたので紹介します。

この記事の中で「男の性欲」「女の性欲」という言葉が何度も出てきます。
性欲…性交渉による快感を得たいという欲望、と思われますが、
実は動物には「性交渉による快感」は存在しないことになっているのです。
知ってました?

チンパンジーは繁殖期になると、
メスのおしり(外性器)が赤く目立つようになります。
「性交、OKですよ〜」
というサインですね。
それを見たオス(ボスざる?)が近づいてきます。
行為に及ぶかと思いきや、なんとメスの外性器に指を入れるのです。
そこの状態(温度?湿度?)を確認し、
「まさに今この時」
と判断して初めて性交に及ぶとのこと。
「まだ準備不足」
と判断すれば性交に至りません。

つまり、動物にとっては純粋に「性交=繁殖行為」であり、
そこに快楽や快感は存在しません。

ライオンがハーレムをつくり、
一頭のオスが複数のメスに種付けするというシチュエーションがあります。
男性にとっては憧れの風景…と思いきや、
なんとオスは3日間に200回も性交を行うらしいんです。
…人のオスにできる?〜死んでしまう。

ではなぜ、人の性交渉には快感が与えられたのでしょう。
これがために、悩んだり、犯罪が起きたりしています。

先日NHKのドキュメンタリーで「性」を科学的に扱っていました。

・ヒトは2足歩行をはじめたことで骨盤が小さくなり、子どもを未熟な状態で産まざるを得なくなった。
・そのため子育てに手がかかり、女性だけでは無理なので、“絆”を発明し、“快感”が与えられ、男性とカップルで子育てするようになった。
・この“絆”こそが“愛”の原型である。

というような内容でした。
前置きが長くなりましたが、「カナダの性教育」の記事に話を戻します。

<ポイント>
・カナダの女子中学校の性教育では2年生でまず「自分が初めてセックスをするとしたらどんなシチュエーションか」を考える授業をする。3年生ではコンドームの使い方を実際に模型に着用する授業や、マスターベーションについての説明もある。
・セックスはあくまでも、恋愛などの相手との関係性の流れの中にあり、コミュニケーションの一貫である、ということを先に教わる。
・日本の性教育では性感染症や妊娠の危険や避妊については教えてくれるけど、じゃあそもそもその原因となるセックスというものが一体どういう場面で始まってしまうのか、それってどんな状況かについて教えないし、考える機会もない。

記事はこちら;

■ 中2で「初めてのセックスはどんな状況か」を考えさせる
…日本と全然違うカナダの性教育最初に「相手とのコミュニケーションの一環である」ことを学ぶ
田房 永子:漫画家
2022/11/11:PRESIDENT Online)より一部抜粋;

 海外の学校ではどのような性教育が行われているのでしょうか。漫画家の田房永子さんは「ある女性がカナダの中学校の性教育で、『初めてのセックスはどんなシチュエーションかを考えてくる』という宿題を出されたという話に衝撃を受けた」といいます――。

▶ 「男性の性欲は女性のそれとは比べものにならない」のか
 日本の小中高では、第二次性徴として女性には「生理」があり男性には「射精」がある、と性教育でならうのが一般的だと思います。
 生理は生殖にまつわることで、射精は生殖にまつわりながら性欲と切り離せない機能。それを男女の“対”として教わることで、暗に「女性には性欲がない、もしくは男性に比べてわざわざ教えるほどでもないくらい弱い」かのような印象が刷り込まれているように思います。
 それにより男女がお互いの無理解は深まり、溝を複雑化させているんじゃないか。私はそう思ってきました。
 男性のように射精とセットになっていないだけで、生理と別のところにちゃんと性欲は存在しているし、「男性のほうが女性より性欲強い」とかそんな簡単じゃなくないか?
 状況とか体調とかによってぜんぜん変わるし、個人差も相当ありますよね?
 どうも教科書で習ってきたことと、実際の出来事のつじつまが合わなすぎるんですよね。どう思います?
・・・
 私にとってはその「男の性欲は女のそれとは比べ物になりませんよ」というコメントで会話が終了してしまうことこそが「生理と射精セットにして教えることによって女性の性欲ないことになってる問題」そのものなわけです。

▶ カナダの性教育に受けた衝撃
 そういうようなことを先日、トークイベント(B&Bで行われた『どうして男はそうなんだろうか会議』(筑摩書房)刊行記念)で話しました。
 その会場にお客さんとして来ていた、ちゃんまりさんという女性が話してくれたカナダの性教育に衝撃を受けました。
 日本の性教育ではまず、男女の体の違いや第二次性徴、精子と卵子と精子の受精についてを習います。だけど、ちゃんまりさんが通っていたカナダの女子中学校の性教育では2年生でまず「自分が初めてセックスをするとしたらどんなシチュエーションか」を考える授業をするんだそうです。
 セックスはあくまでも、恋愛などの相手との関係性の流れの中にあり、コミュニケーションの一貫である、ということを先に教わるんだって。

▶ 中2の宿題「初めてのセックスのシチュエーションを考える」
 一番最初に出た課題が「自分の初めてのセックスはどんなシチュエーションか考えてくる」というもので、それが宿題で出され、ちゃんまりさんは寮の食堂で考えていたそうです。小学校までは日本にいたちゃんまりさん、「セックスというものは男性が誘ってくるもの」という前提で課題を記入していたら、寮母さんがそれを見てこう言ってきたんだそうです。
「女性側から誘うこともあるよ」
 ちゃんまりさんは「ええー! そうなんだ! 女性にも性欲があっていいんだ」とビックリした、というお話でした。
 私は聞いていてブワーッと鳥肌が立ちました。それ、それだよ、それやねん、それですねん!

▶ 性欲にもいろいろな感情や欲求がある
 日本の性教育では性感染症や妊娠の危険や避妊については教えてくれるけど、じゃあそもそもその原因となるセックスというものが一体どういう場面で始まってしまうのか、それってどんな状況かについて教えないし、考える機会もない。そういうことを教えてくれる教員にあたらないかぎり。
 ちゃんまりさんは「日本では性欲=エロティックなものってことになっているけど、本当は性欲の中には『さみしい』であったりいろいろな感情や欲求が入ってるはず」と話してくれました。
 本当にそうだと思う!
 エッチなものを見たり触れたりした時に体から湧いてくる欲求を「性欲」と呼ぶとしたら、誰かと性的接触を交わらせたいという欲求は「性行為欲」って感じで、またちょっと違くない? と私も思ってた!
 「性行為欲」の中には、相手に対して「性欲」をしっかり感じて行う、というだけではなくて、さみしい、つらい、みたいな感情がもとになって行動に移す時もあるだろう。「友達がもう経験済みだから自分もやらなきゃ」という焦りだったり、「相手の欲求に応えてあげたい」とか「応えないといけない空気」とか。時には自暴自棄な状況なこともあるだろうし、相手にマウントをとりたくて性行為を誘うとか。
 それは男性でも女性でも、相手の性別も関係なく、セックスというものをする時の動機とか衝動って、「性欲=エロい気持ち」という一つだけでは本来片付かないくらいいろいろあるんじゃないだろうか。
 ちゃんまりさんが通っていたカナダの女子校では、そのコミュニケーションとしてセックスを考える授業を2年生で行い、3年生ではコンドームの使い方を実際に模型に着用する授業や、マスターベーションについての説明もあったそうです。
 ちゃんまりさんはWEBラジオでその話をしているので、詳しく知りたい方はぜひ聴いてみてください。(ちゃんまりとめいのMellowing Coke!)

▶ 相手の性別、性的同意の基準…考えるきっかけに
 「自分が初めてセックスをする状況って一体どんな感じか?」を中学生で考えるってすごい。そこで「セックスすることがぜんぜん想像できないな」と思う人もいるだろうし、相手の性別とかも自分で認識することができるし、自分の性的同意の基準みたいなものを、漠然とでも想定することができる。実際にセックスすることになった時「これは違う」とか分かりやすいんじゃないかと思う。
 実際に日本の学校でそういう授業をするなんて、先生たちの負担が大きいし今すぐは難しすぎると思うけど、自分1人でも「自分が初めてセックスをする時ってどんなシチュエーションだろう」と想定してみることは、男子にとっても女子にとっても必要だから、大人がその機会を設けてあげるのはいいことだと思いました。

▶ 女性にも「我慢できない」があるのではないか
 性のお悩み相談で「彼がコンドームをしてくれない」という質問をよく見ます。回答は「避妊してくれない相手とはすんな」の一択なわけですが、こういう時、男性が避妊してくれないのと同じくらい、女性側が「我慢できない」状況になってしまうケースも危険性がある。男性のほうが「ゴムないからやばいよ」って言ってるのに、女性が「いいから」みたいなこと。
しかし「女性側の性欲が高まってしまった時に、性感染症と妊娠の危険性をどう回避すればいいのか」っていう質問はあまり見たことがありません。
それも、生理と射精がワンセット性教育からの、暗に漂う「女性の性欲はない」認識からの、つまり「女性側が性感染症と妊娠の危険から自分の身を守れなくなるほど性欲が高ぶることはない」というような前提があるおかげで、女性側はそういうケースを表立って言いづらい空気っていうのはあると思う。
・・・
 日本の性教育やセックスにまつわる話って、男性だけに性欲があって、女性はいつでも受け身で常に自分の身を守ることを第一にしているものだ、という現実とは違う設定が土台になりすぎてる。それによって話さなければいけないことが言えなかったり、現実に起こることを「ない」ことにしなきゃいけなかったりする。
 男性は「性欲があります」ってことを自ら言わなくても、「ある」という前提で世の中が回っている。それによって困っている男性もいると思うけど、その存在は無視されている。 一方、女性は「ない、弱い、薄い」という前提で世の中が回っている。そのくらい隠されているほうが助かる女性も多い。でも私は窮屈さを感じてきた。
・・・
 性教育やなんかでは、女性は男性の猛り狂う性欲から自分の身を守らなければならない、みたいなところばかり教わっているから、いつも自分の性欲を否定されているような気持ちになる男性もいるのかな、と思います。ぜんぜん違うかもですが。
 性欲が高ぶっちゃう時があるとかないとかは男女ともに個人差であり、状況にもより、でも男女の身体のつくりや機能はまったく違う部分があって、妊娠に至っては女性が心身に受ける深刻さはそれこそ男性のそれとは比べものになりません。だからそこは当然ちゃんと教わらなきゃいけない。だけどセックスって楽しいものでもある。自分の性欲と相手の性欲が合致した時ってめちゃくちゃうれしいし、愛があふれることもある。
 反面、性暴力になってしまうこともある。その被害がどういうものなのか、どういうことをしたら加害になってしまうのか。それを理解するためにも、その「どういうセックスを自分は望んでいるか」という自分の欲求について思いをはせることって大切じゃないだろうかって思います。

余談ですが、女性が性行為の際にエクスタシーに達し、体がピクつくことを経験された方がいらっしゃると思います。
あのピクつきは男性の射精と同じ生理現象なんだそうです。
つまり、外性器は違うけれど、感受性は変わらないということ。

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小児科医なら誰でも経験する「思春期早発症」のトラウマ

2024年07月01日 07時29分08秒 | 学校健診
私は小児科医です。
30年以上診療していますので、中堅というよりベテランという言葉が合うかもしれません。
かつ中学校の学校医も担当しています。

群馬県みなかみ町の学校健診で「下半身を覗いた」エピソードは、
学校医が思春期早発症をチェックする目的で行った診察行為であると報道されました。

この「思春期早発症」という病気、
ベテラン小児科医なら一度ならず経験していると思います。

数年前、「身長が伸びないので心配」と中学2年男子がお父さんに連れられて受診。
確かに中学校に入ってから、スパートがかかるはずの身長が止まったままです。
精密検査目的で、総合病院小児科に紹介状を書きました。

その後、紹介先の小児科担当医から返信が届きました。
その内容は…

・思春期早発症と診断
・すでに骨端線が閉じているので治療対象にならない

というものでした。

私は愕然としました。
「そうか、それがあったか…」
というのが素直な感想です。
もし彼が小学校の時にチェックされていたら…

その後、本人が別件で受診されたときにいろいろ聞いてみました。
すると父親から、

・小学4年生のとき、急に身長が伸びて、うっすら陰毛が生えてきた。
・少し早いかな、と思った。
・でも元気だし、身長が伸びるのはうれしかったので病院へ行かなかった。
・今回、病院へ行き、
「思春期はすでに終わっており、治療対象になりません」
と言われてガッカリした、後悔した。

というコメントがありました。

思春期早発症は思春期が早く始まり早く終わるため、身長が途中で止まってしまい、
一時期はみんなを追い抜きますが、最終的には低身長で終わってしまいます。
現在は治療薬があるので、治療条件を満たせば適応となり、
上記例も身長で悩まずに済んだかもしれません。

そうなんです。

もし彼の小学校の学校医が話題になったみなかみ町の医師であれば、
彼は早期に発見・診断され、治療を受けて最終身長がもう少し高くなれた可能性があります。

思春期を迎えた男子の二次性徴は、外見ではわかりにくいとされています。
「声変わり」が特徴的ではありますが、これは二次性徴完成期に出現します。

一方の女子は胸の膨らみから始まりますので、
母親が気づきやすい傾向があります。
小学校に上がった頃、胸の膨らみを心配して受診される女子は、
年に数人はいます。

では男子は何を持って疑うべきか…
それは「成長曲線」です。
標準曲線を大きく上回る値を取れば、
思春期早発症を含めたいろいろな病気の可能性を考慮し、
病院での精密検査を推奨します。

彼の小学校で「成長曲線」が検討されていたかどうかは不明です。
実はこの成長曲線、学校健診に導入されたのは数年前。
それまでは「点」で評価され、「線」では検討されなかったため、
見落としが多いので導入された経緯があります。

学校健診も進化しているのです。

何回も書いていますが、感情的に「セクハラ」と訴える人たちに、
「子どもの人権を守る」こととはどういうことなのか、
今一度考えていただきたい。

「デリケートゾーン、デリケートパーツをむやみに他人に見せない」
という性教育は大切ですが、
「健康・病気のチェックの際は、大切なところだからこそしっかり診察してもらう」
という教育が並行して行われないと、
本人が「病気の診断が遅れる」というデメリットを被ることになります。

健診ではデリケートゾーンもしっかり診察してもらうことが、
子どもの命を守ることにつながり、
ひいては子どもの人権を守ることにつながるのではないでしょうか。

「デリケートゾーンを他人に見せない」教育だけが一人歩きすると、
社会人の健康診断で女性は肌を見せない、
子宮頚がん検診の受診率が低いまま、
とう日本の悪しき習慣が改善されません。

<参考記事>

■ 群馬の学校健診問題で注目 見落としがちな「思春期早発症」の怖さ
2024/6/30:毎日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 群馬県みなかみ町立小学校で6月に実施された健康診断で、複数の児童が70代の男性医師に下着の中をのぞかれたなどと訴え、町教育委員会は保護者らに謝罪した。学校健診を巡ってはさまざまな意見が飛び交うが、専門家からは学校健診の後退を懸念する声もあがる。 

◇「思春期早発症」とは? 
 今回問題となった健診を担当した男性医師は「思春期早発症」について診るため児童の下着の中を確認したと説明している。思春期早発症とはどのような病気なのだろうか。 
 群馬大医学部付属病院小児科の大津義晃講師(小児内分泌)によると、通常よりも思春期が早く始まる病気で、体が早期に成熟するため、一時的に身長が伸びた後に小柄のまま成長が止まってしまうほか、小学校低学年で陰毛が生えたり月経が始まったりし、本人の心理的負担も大きくなる。特に男の子の場合は、脳腫瘍など重大な病気が原因で起こるケースが7~8割を占めるという。 
 文部科学省監修の「児童生徒等の健康診断マニュアル」にも注意すべき疾病及び異常として掲載されているが、「同年代の子どもより一時的に身長の伸びが大きくなるので、周囲の大人は『大きくなったね』と喜び、病気を見落としてしまうことが多い」と大津講師。「身長に関しては、早期に治療を始めないと間に合わない。子どもの成長は取り戻せないので、早期発見が重要だ」と指摘する。 

◇「早発」の目安は? 
 思春期早発症の目安として、男の子の場合は小学4年までに陰毛が生える、女の子は小学1年までに胸が膨らむ、小学2年までに陰毛が生えるなどが挙げられる。陰毛や乳房、精巣の大きさの確認に加え、血液検査や頭部のMRI検査などで診断する。 
 大津講師は過去5年で小学校の健康診断を3回担当し、教職員の立ち会いのもとで思春期早発症の疑いのあった3人の下腹部を確認したことがあるという。その際は全員の健康診断が終わった後、児童を個別に呼び出して「体が大人になるのが早すぎる病気かもしれない」と説明し、児童の了承を得て陰毛の有無を確認した。保護者らのクレームも来ていないという。 
・・・

<参考サイト>(私のブログです)
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