小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児でも1日1回で済む吸入ステロイド薬「レルベア®」登場

2024年12月10日 14時40分35秒 | 気管支喘息
現在、喘息治療の第一選択薬は吸入ステロイドです。
小児では飲み薬の抗ロイコトリエン薬が優先されますが、
やはり発作を繰り返して入院するような喘息児には吸入ステロイドが必要です。

吸入ステロイドはいろいろな形態の薬剤があり、大きく以下の3つに分けられます;
1.ネブライザー:電動吸入器を使うタイプ(パルミコート®)、
2.pMDI:霧状の薬液を噴霧しそれを吸い込むタイプ(キュバール®、アドエア・エアー®など)、
3.自分で息を吸い込むタイプ(アドエア・ディスカス®、フルタイド・ディスカス®など)

2024年8月に3にニューフェイスが登場しました。
その名は「レルベア®」。
従来の薬剤はすべて「1日2回吸入」でしたが、
レルベアは「1日1回吸入」でよいという特徴があります。
なお、成人用は10年以上前(2013年)にすでに発売されています。
今回新発売となったのは、その小児バージョンです。

これは便利ですね。
紹介記事を提示します;

<ポイント>
・商品名と仕様:小児用レルベア50エリプタ14吸入用、同50エリプタ30吸入用
・適応:気管支喘息
・成分:
(気管支拡張薬)ビランテロールトリフェニル酢酸塩
(ステロイド薬)フルチカゾンフランカルボン酸エステル
・1ブリスター中に、
 ビランテロール(VI)25μg+フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)50μgを含有
・用法用量:5歳以上12歳未満の小児に、1日1回1吸入投与(VI 25μg・FF 50μg)する。

▢ ビランテロール・フルチカゾン(レルベア)小児喘息に1日1回吸入でよいICS/LABA配合薬
北村 正樹=医薬情報アドバイザー
2024/09/20:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2024年8月23日、喘息治療配合薬ビランテロールトリフェニル酢酸塩・フルチカゾンフランカルボン酸エステル商品名:小児用レルベア50エリプタ14吸入用、同50エリプタ30吸入用)が発売された。1ブリスター中に、ビランテロール(VI)25μgおよびフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)50μgを含有している。同薬は、6月24日に製造販売が承認され、8月15日に薬価収載されていた。適応は「気管支喘息(吸入ステロイド薬および長時間作動型吸入β2刺激薬の併用が必要な場合)」、用法用量は「5歳以上12歳未満の小児に、1日1回1吸入投与(VI 25μg・FF 50μg)する」となっている。
 なお、同成分配合製剤としては、2013年9月、レルベア100(VI 25μg・FF 100μg)とレルベア200(VI 25μg・FF 200μg)が成人の気管支喘息で承認。2016年12月、レルベア100に成人の慢性閉塞性肺疾患(COPD)が追加承認された。
・・・
 日本で小児気管支喘息に使用可能なICS/LABA配合薬には、フルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)・ホルモテロールフマル酸塩水和物(フルティフォーム)、FP・サルメテロールキシナホ酸塩(アドエア)が承認されているが、いずれも1日2回の吸入投与が必要である。
 レルベア50は、1日1回吸入投与で小児喘息治療の利便性の改善による患者のアドヒアランスと喘息症状のコントロールの向上が期待できるICS/LABA配合薬だ。
・・・海外では、2024年8月現在、米国にて5歳以上の小児に対する喘息適応で承認されている。また、日本においては2024年6月、既存のレルベア100で12歳以上の小児気管支喘息に対して用法用量が追加承認された。
 重大な副作用として、肺炎(0.5%)のほか、アナフィラキシー反応(咽頭浮腫、気管支痙攣など)の可能性もあるので十分注意する必要がある。また、その他の副作用として主なものに、口腔咽頭カンジダ症、発声障害(各1%以上)などがある。
 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。
●既存の同成分配合製剤と適応や用法用量(対象患者を含む)が異なるので十分注意すること
●患者の吸入指導資材として、製薬会社から「小児用レルベア50エリプタの使い方」が提供されている
●患者、保護者またはそれに代わる適切な者に、急性の発作に対して使用しないことなど使用上の注意事項を指導すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」「重要な基本的注意」「特定の背景を有する患者に関する注意」を参照)
●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「重篤な心血管系事象」「副腎皮質ステロイド薬の全身作用(副腎皮質機能抑制、骨障害、眼障害など)」が挙げられている

・・・あれ、これを読んでも、従来の薬剤との比較がわかりません。
今までの薬のどの量に相当するのか?

こちらに答えが書いてありました。

■ アドエア250を1日朝夕とレルベア100を1日1回吸入
■ アドエア500を1日朝夕とレルベア200を1日1回吸入

レルベア50はアドエア125に相当する計算になりますね。

アドエアの標準量は、小児では以下の通りです。
(乳幼児)アドエア50を1日朝夕
(学童) アドエア100を1日朝夕
すると、レルベアは乳幼児に相当する量の設定はなく、
学童以上で「アドエア100を1日朝夕吸入」してもコントロールが不十分な場合に
「レルベア50を1日1回吸入」が選択される
ということになりますか。

なんとも微妙な量の設定・・・。
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「小児気管支喘息診療ガイドライン2023」で何が変わったか?

2024年05月06日 08時53分57秒 | 気管支喘息
日本アレルギー学会認定専門医となってはや30年が経過しました。
思い起こせば、1994年に初めて日本でアレルギー疾患ガイドラインが登場しました。

それ以前は外国のガイドラインを参考にする日々…
英語で書かれたガイドラインを一生懸命読んだものです。
でも、なんか違う?
そう、日本の治療と世界の治療に違いがあったのです。
初めてできたガイドラインも外国のものを参考にしたため、
日本の実際の臨床現場と異なっていました。

例えば…外国ではβ-刺激剤は内服する習慣はありませんでしたが、
日本では当たり前のように処方されていました。

それから数年毎に改訂されてきましたが、
専門医にとっては“進歩”というより“現場に追いついてきた”印象が拭えません。
ようやく最近は“進歩”を反映させる改訂になってきた感があります。

ちなみに私の現在の気管支喘息診療は、

・風邪を引いて軽度の喘息発作が出るレベルでは、その都度十分な治療をする。
・風邪を引いて酸素飽和度が下がるような呼吸因難発作が出現する例では予防治療・定期治療を開始する。
・風邪を引かなくてもひと月に複数回、呼吸因難発作が出現する例も同様。
・治療は軽症の場合は内服薬(抗ロイコトリエン薬)、中等症の場合は吸入ステロイド薬を選択する。
・乳幼児に吸入ステロイド薬を処方する際は補助器具(スペーサー)を用いる、吸入手技を指導し合格点に達するまで繰り返し指導する、
・吸入ステロイド薬を使用していても発作が出る場合は吸入手技を再確認する。
・吸入ステロイド薬を使用している学童生徒は、年1回肺機能/FeNO(呼気中一酸化窒素)検査を行い、喘息の状態を数値化して本人家族と共有し、今後の治療を検討する。

といったところ。
そのガイドライン、2023年にも改訂され発刊されました。
さて、今回はどの辺が変わったのでしょうか…こちらにポイントがまとめられており、参考になりました;

■ 小児気管支喘息GL改訂、4つのポイントは

私が「フムフム」と頷いた箇所は、

1.治療の“評価”に焦点が当たったこと

・・・私は上記「肺機能/FeNO検査」の他に、WEB問診で症状&治療状況に関する詳細な質問に答えてもらっています;
(例)
・咳の出やすい状況はありますか?
・運動する・はしゃぐと咳き込みますか?
・薬の管理は誰がしていますか?
・処方された内服薬・吸入薬の実行率は何%ですか?
・治療に満足していますか?
・治療への要望はありますか?
…というわけで“合格”点をもらえそうですね。

2.幼児に対して吸入ステロイド薬でコントロールが今ひとつの時、次の一手は「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」の選択へ

・・・従来は幼児期に使用できる「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」が存在しなかったため記述がなかったのですが、近年「生後8ヶ月から使用可能なアドエア」「5歳から使用可能なフルティフォーム」が登場したため書き換えられました。

3.学童期に吸入ステロイド薬でコントロール不良の時、次の一手は「吸入ステロイド薬増量」ではなく「吸入ステロイド薬/気管支拡張薬配合剤」への変更

・・・これは私、ずっと前からやってました。

上記記事から一部抜粋・引用させていただきます;

ポイント① 患者を治療に参加させる
ポイント② 5歳未満でのICS/LABA使用に変化
ポイント③ 6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
ポイント④ スペーサーの一覧表が充実

 患者を治療に参加させる
 全体的な部分では、まず、薬物療法に関する第5章のタイトルが変更しました。以前までは「長期管理に関する薬物療法」でしたが、今回「長期管理」になりました。喘息の治療は薬物療法だけで完結するのではなく、増悪因子への対応、患者教育やパートナーシップの向上も必要なことを鑑み、「薬物療法」が削除されたということです。
 また、喘息の治療には常に見直しが必要で、「治療」「評価」「調整」のサイクルに沿って個々人に最適な形で治療することとなっていました。ただ、これには患者の積極的な参加が重要であることが指摘されており、今回、サイクルの中に「決定」という項目が入りました(図1)。これにより、医療者と患者が共同で治療・管理の意思決定を行いながら治療を進めることが強調されました。

図1 長期管理のサイクル(「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」を基に筆者作成。図2、3も)


5歳未満でのICS/LABA使用に変化
 今回の改訂で中でも注目したのは、吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA)配合薬の扱いが変わったことです。
 5歳以下の小児喘息の長期管理プランでは、重症度によって治療ステップが1から4に分類されています。中等症持続型の患者を対象とした治療ステップ3について、前回までは追加治療として「ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を併用」となっていましたが、今回「低用量ICS/LABAへの変更」を考慮することが追記されました(図2)。また、重症持続型に対する治療ステップ4の追加療法も、「β2刺激薬(貼付)併用、ICSのさらなる増量、経口ステロイド薬」を考慮するとされていたのが、「中用量ICS/LABAへの変更、ICSのさらなる増量」に変更されました。

図2 5歳以下の小児喘息の長期管理プラン


 小児で使えるICS/LABA配合薬には、サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル(商品名アドエアSFC)と、フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩水和物(フルティフォームFFC)の2種類があります。ただ、5歳未満の幼児を対象とした臨床試験は実施していなかったため、前回のガイドラインでは、5歳未満の長期管理プランでこれらの薬剤の記載がありませんでした。
 そんな中、SFCについて、生後8カ月〜4歳の気管支喘息患者を対象とした二重盲検比較試験で安全性が確認された結果、2020年11月にSFCの添付文書が改訂され生後8カ月から保険適用となりました。これを受け、今回のガイドラインも変更となりました。
 ただし、前述の二重盲検試験は8週間の実施なので、長期間使用の安全性に関するデータは乏しいです。同ガイドラインでは、「長期間のICS/LABA使用における安全性のデータは乏しく、漫然と使用せずにコントロール状態に応じてICS単独へ切り替えを考慮する」と注意を促しています。
 
6~15歳ではICSとICS/LABAの位置付けが逆転
 もう1つ、ICS/LABA配合薬で注目すべきなのが、6~15歳の長期管理プランの治療ステップ3、4の基本治療において、ICS/LABA配合薬とICSの位置付けが逆転し、最上位にICS/LABA配合薬が配置されたことです(図3)。

図3 6~15歳の小児喘息の長期管理プラン


 ICSで治療中にステップアップする際、ICS増量とICS/LABA配合薬のどちらが有用かというクリニカルクエスチョン(CQ7)では、「(両者の)有用性に明らかな差はなく、いずれも提案される」となっています。 しかし、ICS は用量依存的に成長を抑制することが知られており、ICS 増量よりもICS/LABA配合薬への変更の方が成長抑制の程度が低いことも指摘されています。ICS/LABA配合薬は、ICS単独に比べてピークフロー値(PEF)をより改善する報告もあり、成長抑制と合わせて勘案され、今回の記載になったのではないかと思います。

スペーサーの一覧表が充実
・・・
 生後8カ月から使用できるSFCには、ドライパウダー定量吸入器(DPI)と加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)があります。DPIは、薬剤が肺内に到達するためにある程度の吸気速度がいるので、一般には5歳以上で使用され、5歳未満ではpMDIが推奨されます。
 pMDIを使用する際に必要なのが、スペーサーです。これまでのガイドラインでは代表的なスペーサーについて3種類しか紹介されていませんでしたが、今回のガイドラインでは巻末資料にスペーサーの一覧表があり、9種類が記載されていました。さらに、それぞれの特徴が詳しく記載されています。
・・・

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スマホで10秒、小児喘息発症を予測

2019年02月24日 11時11分31秒 | 気管支喘息
 アレルギー疾患の究極の治療は、予防して発症させないことです。
 そのリスク因子はある程度絞られてきており、それらを用いて小児喘息発症を予測するツールが開発されたというニュースを紹介します。

 この報告ではリスク因子として「両親の喘息歴、湿疹、喘鳴、かぜではない喘鳴、人種、2つ以上のアレルギー感作」の6つを採用していますね。しかし、リスクがわかったからといってすぐ予防に結びつかないところが悩ましい。
 「両親の喘息歴」「喘鳴」「風邪ではない喘鳴」「人種」は変えようがありません。
 現在のところ、アレルギー疾患予防で確立されつつあるのは「乳児アトピー性皮膚炎を完璧に治療することに夜食物アレルギー発症予防」のみです。湿疹をなくすことにより経皮感作を防げることがわかってきました。つまり残りの「湿疹」と「アレルギー感作」は予防に結びつけることが可能なリスク因子なのです。
 これを証明するために、国立成育医療センターで「PACI Study」が進行中です。
 
スマホで10秒、小児喘息発症を予測
2019年01月08日 メディカル・トリビューン
 わずか6項目をチェックするだけで小児喘息の発症リスクが数値で分かるツールが米国Cincinnati Children's Hospital Medical CenterのJocelyn M. Biagini Myers氏らによって開発された。2000年に開発され、広く使われているAsthma Predictive Index(API)よりも発症リスクの予測に優れているという。スマートフォンのアプリとしてダウンロードできる。詳細は、J Allergy Clin Immunol(2018年12月7日オンライン版)に掲載された。

低~中等度リスクの検出に優れる
 このツールは、両親の喘息歴、湿疹、喘鳴、かぜではない喘鳴、人種、2つ以上のアレルギー感作-の6項目をチェックするだけで小児喘息の発症リスクが研究グループが開発したPediatric Asthma Risk Score(PARS)で分かる。PARSは1~14、7歳時の喘息発症リスクが3~79%で表示される。
 Cincinnati Childhood Allergy and Air Pollution Study出生コホート(762例)のデータから小児喘息発症の予測に役立つ項目を抽出し、PARSを開発。PARSは感度0.68、特異度0.77だった。APIとPARSはともに高リスク児の予測には優れていたが、PARSの方が低~中等度リスクの検出力で上回っていた。
 さらに、有用性を確かめるため、別の出生コホートデータでAPIとPARSを試行した。PARSで40%未満の発症リスクだった症例の43%がAPIでは見逃されていた。同コホートでのPARSの感度は0.67、特異度は0.79だった。
 PARSは、最も多いにもかかわらず発症予測が難しかった低~中等度の発症リスクの検出に有用であることが明らかになった。また、低~中等度の発症リスク症例は、予防戦略のよい適応となる。
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妊娠初期に野菜を食べた妊婦の子、ぜんそく発症率が減少

2018年04月08日 18時17分19秒 | 気管支喘息
 喘息の発症を予防することは可能なのか・・・今までにもいろんな説が出ては消えてきました。
 喘息治療薬である吸入ステロイドを軽症の時から導入すると早く治るのではないかと期待された時期がありましたが、これは否定されました。

 ということで、以下のニュースには目を見張りました。
 妊婦さんが妊娠前期に野菜をたくさん食べることで、子どもの喘息の発症率が下がる、それも数%ではなく40%も!
 ほ、ほんとでしょうか。

■ 妊娠初期に野菜を食べた妊婦の子、ぜんそく発症率が減少
2018年04月07日:朝日新聞デジタル)より
 妊娠初期に野菜を多く食べた妊婦の子どもは、食べる量が少なかった妊婦の子どもに比べ、2歳になった時に息がゼーゼーするなどぜんそく症状の発症率が4割低いことがわかった。国立成育医療研究センターなどの研究チームが6日、発表した。
 妊娠16週までの妊娠初期に野菜の摂取量が最も少なかったグループ(1日当たりの摂取量78グラム)に比べ最も多かったグループ(同286グラム)の子どもは2歳時で、息がゼーゼーしたり胸がヒューヒュー鳴ったりするぜんそく症状の発症率が約4割低かった。
 野菜の中でもとくにホウレンソウや春菊、アスパラガスなど葉酸の多い野菜やブロッコリーやキャベツ、白菜などアブラナ科の野菜でその傾向が強かった。最も多く食べたグループの子どもは最も少ないグループの子どもより、ぜんそく症状の発症率が5割以上低かった。
 妊娠中後期の摂取量はぜんそく症状発生率と関係がみられなかった。

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吸入ステロイドは小児の骨折を増やさない。

2018年02月12日 07時24分51秒 | 気管支喘息
 私が専門とするアレルギー分野では、ステロイド薬は治療の中心となる薬です。
 しかし一般の方にとって「ステロイド薬」は「副作用」が気になる薬の代表格。
 確かに、全身投与(内服や注射)では作用させたいターゲットを絞れないので、全身臓器の副作用が問題になります。
 アレルギー分野では、ターゲットを絞った局所製剤が開発されています。
 例えば喘息では吸入剤、アトピー性皮膚炎では軟膏、アレルギー性鼻炎では点鼻薬、等々。
 これらの局所ステロイド剤では、全身臓器の副作用が起きないよう工夫されているのです(ゼロではありませんが)。

 メディア報道も含めて、この点(全身投与と局所投与)が区別できていないことが、今でも混乱の根源です。

 さて、最近目にとまった論文を紹介します。
 ステロイド剤の副作用としての「骨折」は全身投与による「骨粗鬆症」由来です。
 吸入ステロイド剤を小児に使用した場合でもそれが問題になるのか否か、を検討したもので、結論から申し上げると「問題なかった」という想定内の内容です。
 カナダからの報告;

■ 吸入ステロイドは小児の骨折を増やさない 〜カナダのネステッドケースコントロール研究
2017/12/8:日経メディカル

 しかし小児喘息における吸入ステロイド剤の副作用問題は絶えず話題になります。
 その都度検証され、2014年には小児アレルギー学会が見解を発表しています。

■ 小児の吸入ステロイド療法に関して学会が見解 〜「漫然と高用量ICSで継続治療しない」
2014/2/27:日経メディカル

 当院では慢性化した小児喘息患者には吸入ステロイド剤を導入し、標準量でコントロールができない場合は多剤併用とし、それでもコントロール不良であれば総合病院へ紹介しています。
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喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?

2018年02月10日 06時36分08秒 | 気管支喘息
 長引く咳には喘息が隠れていることがあります。
 しかし、いわゆる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を伴う呼吸因難発作が全例で見られるわけではありません。
 では非典型例をどうやって診断するのか?
 それは「肺機能検査」であり、「呼気NO(FeNO)検査」であります。
 これらの検査は数字で客観的に評価が可能です。
 
 肺機能検査は、末梢気道の状態が評価できます。
 喘息患者では、発作状態でなくても末梢気道が健常者より狭くなっているのです。
 当院でも肺機能検査をやっています。小学生以降、検査可能です。

 FeNOは喘息の本態である「好酸球性炎症」の程度を反映します。
 しかし、当院では導入しておりません(器械が100万円もするので)。

 そのFeNOに関する記事を紹介します。
 内容はCOPDと喘息のオーバーラップ例にFeNOを検査すると喘息の要素がどれくらい関与しているかわかるので便利であり、原因不明の遷延性咳嗽例でFeNOが上昇していれば吸入ステロイドが有効かもしれない、とのこと;

※ 下線は私が引きました。

■ 喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?
2017年12月12日:メディカル・トリビューン
◇ 研究の背景:FeNOは好酸球性炎症を反映する検査指標
 呼吸器内科では、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を測定することがある。特殊な機器が必要だが、検査自体は驚くほど簡単である。詳しい機序は割愛させていただくが、FeNOは好酸球性炎症を反映するもので、数値が上昇しているほど「喘息らしい」といえる。判断基準についてはいろいろな意見があるが、37ppb以上ではその可能性が高いと考えてよく※、50ppbなら間違いなく好酸球性炎症ありと判断してよいだろう。
 近年、喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップ(asthma and COPD overlap;ACO)という疾患概念が登場している。日本呼吸器学会はこのオーバーラップ疾患のガイドラインについて、11月にパブリックコメントを募集していた。これら閉塞性肺疾患を診断する上で、FeNOはかなり役立つのだ。では、どう役立つのか。
 COPDの治療の根幹は、吸入長時間作用性抗コリン薬である。この薬は気管支平滑筋を弛緩させて、気道を広げる。それによって長期的に1秒量が底上げされる効果が得られる。ひいては、COPD患者の増悪リスクや死亡リスクも軽減する(N Engl J Med 2008;359:1543-1554)。一方、喘息の治療の根幹は、吸入ステロイド薬(ICS)である。気道の好酸球性炎症を緩和して、気管支攣縮を抑制する。これによって、喘鳴や呼吸困難感などの呼吸器症状を軽減し、さらなる喘息発作のスパイラルを断ち切ることができる。
 もしCOPDと喘息の両者が合併しているとしても、目の前の患者がどのくらいの割合でそれらを有しているかはすぐには分からない。それらを見分ける指標としてFeNOはある程度有効と考えられているわけだ。すなわち、FeNOが高ければ喘息コンポーネントがあるといえる。たとえCOPDらしい患者でも、FeNOが高ければICSが有効かもしれない好酸球性炎症には薬理学的に吸入長時間作用性抗コリン薬よりもICSの方が効くだろう、そういう簡単な考えである。
 さて、慢性咳嗽や非特異的呼吸器症状を呈する患者においても、この手法は妥当だろうか。つまり、よく分からない呼吸器疾患患者でFeNOが上昇しておれば、ICSは効くだろうか。この疑問に一石を投じたのが今回紹介する研究である(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)。

◇ 研究のポイント1:典型的な喘息患者を除外
 この研究は、非特異的呼吸器症状を有する患者を対象としており、典型的な喘息患者は除外されている。具体的には、未診断の18~80歳で、咳嗽や呼吸困難感などの呼吸器症状を伴い、気道可逆性が20%未満の患者を組み入れている。
 典型的な喘息を除外できているのかは少し疑問が残るが、呼吸器疾患のある患者で気道可逆性10%などのように厳しい基準を設けると、結構な頻度で組み入れができなくなる。咳喘息や好酸球性気管支炎では気道可逆性が中途半端な値になることもあり、10%近辺の数値になることもある。議論の余地はあるかもしれないが、ICSが効果的な典型的喘息ではない非特異的集団を対象にしたいという意図は伝わる。
 試験デザインは、二重盲検プラセボ対照比較試験である。治療群に投与されたのはベクロメタゾン(商品名キュバール)である(1日当たり800μg)。プラセボと1:1でランダムに割り付けられた。また、FeNO測定値は25ppb、40ppbの2値で区切って3群に層別化している。1次エンドポイントは、喘息コントロール質問票(ACQ7)の平均スコア変化とした。ACQ7は喘息の症状を患者に問診したもので、QOLを反映していると思ってもらえればよい。FeNOが高い群においてACQ7の変化が大きいと、ICSの効果があると考えられるわけだ。
 1年余りの試験期間仲に294例の患者が登録され、148例がICS群、146例がプラセボ群に割り付けられた。吸入薬の研究では吸入手技の問題もあってプロトコル違反が多くなるのだが、本研究ではそういった除外例を加味すると214例が解析対象になった(ICS群114例、プラセボ群100例)。

◇ 研究のポイント2:原因が好酸球性炎症らしい患者ほどICSが効果的
 結果は、ベースラインのFeNOと治療集団の間には有意な相関性が見られ、ベースラインのFeNOが上昇するごとにICS群はプラセボ群よりもACQ7の変化が大きくなった(P=0.044)。つまり、非特異的呼吸器症状の原因が好酸球性炎症らしい患者であるほど、ICSが効果的だったということだ。

表. ACQ7の変化

(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)

 実は、今回の研究とは"逆の観点"が過去に報告されている。逆というのは、ステロイドが効果を発揮する咳嗽(咳喘息、好酸球性気管支炎、アトピー咳嗽など)と発揮しない咳嗽の患者のFeNOを調べ、その測定値にどのくらい差があるか見たものだ(Chest 2016;149:1042-1051)。治療結果から先にアプローチして、FeNOをアウトカムにしている。
 この研究によると、ステロイド反応性咳嗽のFeNO値中央値はステロイド不応性咳嗽よりも有意に高い水準だった〔32.0 ppb (四分位範囲19.0~65.0ppb) vs. 15.0 ppb(同11.0~22.0ppb), P<0.01〕。このステロイド反応性咳嗽の診断において、FeNO 31.5ppbをカットオフ値にすると、感度・特異度はそれぞれ54.0%、91.4%で、陽性的中率89.3%、陰性的中率60.0%だった。
 つまり、ステロイドの有効性から見た解析でも、FeNOを層別化した解析でも、類似の結果が得られているといえる。

私の考察:なんでもかんでもICSではダメだが・・・
 FeNOはICSの効果を担保してくれるバイオマーカーであると私自身も確信している。実際、これぞという診断ができない、FeNOが40ppbの患者にICSを処方すると、慢性咳嗽がピタリと止まることがある。咳喘息を診ているのかもしれないが、咳喘息やアトピー咳嗽の基準に合致しない例も結構いる。そういう取りこぼし例の全例にICSを投与しても問題ないのかどうかは分からない。「過ぎたるは及ばざるがごとし」の可能性もあるので注意が必要だ。ICSは副作用が少ないと思われているが、嗄声や口腔内カンジダ症などは結構多い。致死的な影響はないため、さほど気に留めない医師は多いと思うが、なんでもかんでもICSを処方して無用な合併症を増やすのはよくない
 今回の臨床研究でいえることは、FeNOが高値であることがICSを使用する後押しになるということであって、慢性呼吸器症状を呈している原因不明の疾患に、試しにICSを処方してよいと断言するものではない。
 ただ、国内のガイドライン(日本呼吸器学会『咳嗽に関するガイドライン第2版』2012年)では、症状から咳喘息かアトピー咳嗽を疑ったときに、ICSを2週間トライするという手法が容認されている。診断の付かない呼吸器疾患において、どのラインからICSを処方するかという問題は、いまだコントロバーシャルなのだ。
 実地診療ではせめて好酸球性炎症を疑えるラインに到達したいところなので、やはりそのためにはFeNOを測定することをぜひとも試していただきたい。

※日本人のFeNOの正常上限は37ppbと考えられている(Allergol Int 2011;60:331-337
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5年ぶりに改訂した小児喘息ガイドライン(JPGL2017)

2018年01月23日 06時02分10秒 | 気管支喘息
 日本の小児喘息ガイドライン(GL)が改定されました。
 私はアレルギー専門医ですが、GLをあまり読みません。
 なぜかというと、GLが作られる前から小児喘息診療をしてきた私にとっては「GLが臨床現場にだんだん近づいてきた」歴史だからです。言い換えると、世界標準の欧米GLと実際の日本の喘息診療とを比べながら、その中間を記してきた歴史でもあります。

 さて、今回の出来はどうでしょうか?
 日経メディカルの紹介記事から(下線は私が引きました);

■ 5年ぶり改訂の小児喘息ガイドライン、どこが変わった?
 小児喘息へのツロブテロール貼付剤は2週間まで
 LABA単剤での処方はNGに、乳幼児喘息での診断的治療を明記

2018/1/23 :日経メディカル


私の印象を○△×で表すと・・・

[全体]
(○)Minds方式に準拠し、長期管理に関する薬物治療、急性増悪(発作)への対応から8つのクリニカルクエスチョンを設定し、エビデンスに基づいて推奨度とエビデンスレベルを記載。
(○)2歳未満の「乳児喘息」を削除し、5歳以下をひとくくりとして「乳幼児喘息」に。小児喘息を5歳以下と6~15歳の2区分に整理。
(△)「喘息発作(asthma attack)」という用語を「喘息の急性増悪(発作)(acute exacerbation)」へ変更。

[長期管理に関する薬物療法]
(○)吸入ステロイドの成長抑制への影響などについてクリニカルクエスチョンで解説。
(○)長時間作用性β2刺激薬の経口・貼付薬を長期管理薬から外し、新たなカテゴリーである「短期追加治療」に用いる薬として位置付け。
(△)長時間作用性吸入β2刺激薬の単剤使用を長期管理薬から外し、吸入ステロイドとの配合薬のみを推奨。
(○)長期管理に関する薬物療法プランのステップ4の追加治療(6~15歳)に抗IgE抗体を追記。
(○)乳幼児に対する「診断的治療」を推奨。

[急性増悪(発作)への対応]
(△)短時間作用性β2刺激薬の吸入液の推奨使用量を増加。5歳以下は0.3mL、6~15歳は0.3 ~0.5mLに。
(○)急性増悪(発作)の強度と治療との関係をより簡便に捉えられるように、新たに「治療のための発作強度判定」の表を作成。


おおっ、結構高評価ですね。
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アスリートの“運動誘発性喘息”は見つけにくい。

2018年01月18日 08時06分54秒 | 気管支喘息
 先日、日本小児アレルギー学会に参加し、思春期喘息のシンポジウムを聞いていて「思春期喘息のコントロールが悪いのは、コンプライアンス/アドヒアランスだけの問題ではなく、症状に患者本人も気づかないためである」ことを聞いて目から鱗が落ちました。

 そういえば昔、こんな患者さんを経験したことがありました。
 中学3年生で、水泳部のキャプテン。
 数年来喘息発作がなく、その時点では悪化時受診となっていました。
 ある日受診した際、「タイムが伸びなくて後輩達に抜かれて焦っている」という相談を受けました。
 でも泳いでいるときに苦しくなったりはしないそうです。
 診察時も喘鳴を聴診器で検出できません。
 「試しに練習前に発作止めの吸入をしてみようか?」
 と提案し、実行してもらいました。
 すると次に受診時、
 「タイムトライアルで記録がぐんと伸びました。体も動きました。」
 との報告。
 というわけで、本人が意識していないけど運動誘発性喘息を治療的診断できたのでした。
 一般に「水泳は喘息発作を起こしにくいスポーツなので、喘息児の体力作りに適している」と言われていますから、意外な発見でした。

 学会を聴講して「思春期喘息は肺機能検査など客観的な指標を用いて管理する必要がある」ことを学びました。
 そんな、わかりやすそうで捉えるのが結構難しい「運動誘発性喘息」の解説記事を紹介します。

■ アスリートには気管支喘息が多いって本当?
2017/11/14:日経メディカル

■ 意外と難しい運動誘発性喘息の診断
2017/12/14:日経メディカル
 
■ 適切な喘息診療が金メダリストを生む…かも
2017/12/26
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小児喘息への抗コリン薬追加で呼吸機能改善

2017年12月08日 16時49分08秒 | 気管支喘息
 喘息発作の治療薬には2種類あります。
 ひとつは交感神経を刺激して収縮していた気管支平滑筋を弛緩させる「β-刺激薬」。
 もうひとつは、副交感神経を遮断して気管支平滑筋を収縮させない「抗コリン薬」。

 現在メインで使用されているのはβ-刺激薬です。
 が、ときどき抗コリン薬が話題になります。
 今から15年くらい前にも、ちょっとブームになったと記憶しています。
 他の薬剤でコントロール不良の難治性喘息に抗コリン薬を追加したら効果があったという位置づけ。

 下記報告の中の「チオトロピウム」とはスピリーバ®のことです。

■ 小児喘息への抗コリン薬追加で呼吸機能改善【海外短報】
2017年11月30日:メディカル・トリビューン
 小児の重症喘息に対するチオトロピウム(吸入抗コリン薬)追加は呼吸機能の改善に有効であると、国際共同研究グループがJ Allergy Clin Immunol(2017; 140: 1277-1287)に発表した。
 成人および思春期の中等症~重症喘息患者を対象にした試験で、吸入ステロイド薬(ICS)単独または他の維持療法との併用へのチオトロピウム追加の有効性が示されている。同グループは、小児の重症症候性喘息に対するチオトロピウム追加の有効性と安全性を評価する初めての第Ⅲ相ランダム化比較試験を実施した。
 同試験には17カ国の92施設が参加。高用量ICS+1種類以上のコントローラー(長期管理薬)または中用量ICS+2種類以上のコントローラーを使用している6~11歳の401例をチオトロピウム5μg吸入群、同2.5μg吸入群またはプラセボ吸入群に割り付け、1日1回12週間投与した。
 その結果、プラセボ群と比べてチオトロピウム5μg群では、主要評価項目である投与後3時間以内の最大1秒量の有意な改善が認められた(5μg群139mL、P<0.001、2.5μg群35mL、P=0.27)。また、5μg群ではトラフ1秒量も改善した(5μg群87mL、P=0.01、2.5μg群18mL、P=0.59)。チオトロピウムの安全性と忍容性はプラセボと同等であった。
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重症喘息に新規抗体薬テゼペルマブ(tezepelmab)登場

2017年11月23日 08時13分29秒 | 気管支喘息
 喘息に対する「抗体薬」には2009年に登場したオマリズマブ(商品名:ゾレア皮下注用)とメポリズマブ(商品名:ヌーカラ)がありますが、新たにテゼペルマブ(でいいのかな?)が登場します。
オマリズマブはIgE、メポリズマブはIL-5をターゲット、テゼペルマブは胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)という聞き慣れないサイトカイン(化学物質)をターゲットとします。
 紹介する記事では、テゼペルマブは軽症アトピー型喘息患者の早期型および晩期型喘息反応を防止する、と報告されています。
 あれ? 重症喘息が対象ではないのですね。

■ 新規抗体薬、コントロール不良喘息の増悪抑制/NEJM
ケアネット:2017/09/19

 この記事に対する専門家のコメント。
 薬効を期待する反面、モノクローナル抗体の宿命で、高い薬価を懸念しています。

■ 喘息のモノクローナル抗体治療に新星あらわる
解説:倉原優 氏
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