小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

2023年秋、中国で流行した“謎の肺炎”はマイコプラズマだった…

2024年08月24日 06時45分01秒 | 感染症
…ことを思い出しました。
初めてこのニュースを聞いたときに、
「コロナとは別のパンデミックか?」
と驚きましたが、記事を読んでみると、
「それまで抑制されてきた他の感染症が猛威を振るっている」
状況と分析されていました。

この辺を扱った堀向健太Dr.のコメント記事を紹介します。

<ポイント>
・マイコプラズマは一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因。
・マイコプラズマ肺炎は発熱、咳、倦怠感などが主な症状で、頑固な咳がもっとも有名、しかし症状が比較的軽いケースも多く、社会活動を続けるため「歩く肺炎」とも呼ばれる。
・潜伏期間が一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで通常2~3週間(インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日)。
・2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があり、その主因はマイコプラズマだった。北京では、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していた。
・マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性がある。
・マイコプラズマ肺炎の治療には抗生物質が用いられ、しかし一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がない。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されるが、中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたした。
・マイコプラズマに対するワクチンはありません。

現在、臨床現場で困っているのは「薬剤耐性」と「抗生物質供給不足」ですね。
具体的にいうと、治療の際に「薬が効かない」「薬が手に入らない」という状況です。


■ 久しぶりに始まったマイコプラズマ肺炎の流行。先に流行した世界各地の状況はどうだったのか?
堀向健太:大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
2024/8/13:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 近年、コロナウイルス、インフルエンザ、溶連菌、アデノウイルスなど、さまざまな感染症が流行する中、新たに流行が始まったのが『マイコプラズマ肺炎』です。東京でも、マイコプラズマ肺炎が、大きく増えてきています。

マイコプラズマ肺炎の流行状況:東京都感染症情報センター 

 マイコプラズマは決して新しい感染症ではありません。
 一般的な肺炎の20%から30%を引き起こす原因として知られており、特に6歳以上の子どもの肺炎では、半数以上がマイコプラズマが原因だという報告もあります。

 ではなぜ、マイコプラズマ肺炎が注目されているのでしょうか?

▶ マイコプラズマ肺炎が数年ぶりに世界的に流行し、日本でも増加が予想されていました

 マイコプラズマ肺炎は通常、3~7年ごとに流行し、その流行は1~2年続くことが知られています。しかし、ここ数年はマイコプラズマ肺炎の流行がありませんでした。特に大きな流行としては8年ぶりです。

 他の感染症と同じように、コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染症対策を徹底して、感染が収まっていたことも一因でしょう。長期間流行がなかったため、多くの人がマイコプラズマに対する免疫を十分に持っていない状態になっているのです。これは、インフルエンザでも同様の現象が起きています。

 2023年の秋、中国で「原因不明の肺炎」が流行しているという報道があったことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

 この感染症の原因は、マイコプラズマではないかと考えられ、そして中国の北京では、2023年9月に患者数が急増したことが報告されました。実に、外来患者の25.4%、入院患者の48.4%、呼吸器疾患患者の61.1%がマイコプラズマ肺炎に感染していたとされています。

 さらに、マイコプラズマ肺炎の流行は世界各地、デンマーク、フランス、オランダなどの国々でも症例が増加しました。日本でも増加することが十分予想されていたのです。

▶ マイコプラズマ肺炎は軽症でも感染を広げる可能性があり、「LAMP法」という高精度な検査が保険適用となっています

 マイコプラズマ肺炎の症状は、一般的な肺炎と似ています。発熱、咳、倦怠感などが主な症状です。その中でも、頑固な咳がもっとも有名です。しかし、マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」とも呼ばれ、症状が比較的軽いケースも多いため、気づかないうちに感染を広げてしまう可能性があります。

 最近まで、小児科外来でマイコプラズマ肺炎の確定診断を行うことは、時間と手間がかかる作業でした。しかし、最近になって新しい検査方法「LAMP法」が普及してきています。LAMP法は、マイコプラズマを高い精度で検出できる方法で、最近になって保険適用も認められました。最大の利点は、高い感度(検出力)にあります。つまり、マイコプラズマを見逃す確率が低いのです。しかし、LAMP法にも課題があります。この検査は通常、専門の検査機関で行われるため、結果が出るまでに数日かかることがあるのです。

 また、マイコプラズマは肺炎だけでなく、体のさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があるため、のどや鼻の検査だけでは見逃してしまう可能性もあります。・・・

▶ マイコプラズマ肺炎の治療に必要な抗菌薬が不足気味です。大規模な流行になった場合、適切な治療が困難になる可能性をはらんでいます

 マイコプラズマ肺炎の治療には、抗生物質が用いられますが、一般的な肺炎に使用される「βラクタム系」抗菌薬は効果がありません。代わりに、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されます。

 しかし、ここにも問題があります。中国でマイコプラズマが流行した際、マクロライド系抗生物質に耐性を持つマイコプラズマが多数確認され、治療に支障をきたしました

 日本でも過去に同様にマイコプラズマ耐性化が問題視されました。最近は耐性率が低下してきていますが、注意は必要でしょう。さらに、テトラサイクリン系抗生物質はマイコプラズマに有効性が高いものの、妊婦や8歳未満の小児への使用が難しいという課題もあります。

 そして、抗菌薬や咳止めなど、基本的な薬剤が不足していることも大きな問題です。大きな流行になるほど、適切な治療を行うことが難しくなることが予想されます。

 薬剤データベースを確認すると、最もよく使われる『クラリスロマイシン』の多くが、出荷停止や限定出荷になっていることがわかります。

▶ マイコプラズマは予防接種がありません。基本的な感染対策を行いながら、症状が続く場合は医療機関に相談しましょう

 残念ながら、マイコプラズマに対する予防接種はありません。しかし、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策で感染のリスクを下げることができます。

 潜伏期間が、一般的な呼吸器の感染症を起こすウイルスに比較すると長めで、通常2~3週間です。例えば、インフルエンザA型が1.4日、RSウイルスが4.4日、多い鼻風邪の原因であるライノウイルスが1.9日であることを考えると、長く感じるでしょう。逆に、数日前に家族が発熱や咳があって他の家族が同じような症状が今日始まったのであれば、マイコプラズマらしくはないということも言えます。

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