小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アトピー性皮膚炎と入浴

2015年10月09日 06時13分14秒 | アトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎患者さんにとって、入浴は「体を清潔にする」メリットと「皮脂を落とすので乾燥する」デメリットがあります。
 メリットを活かしつつデメリットを解消するには「保湿ケア」が欠かせません。
 日本では毎日が当たり前の入浴ですが、アメリカの小児科学会が提示したガイドラインには「入浴は数日に1回でもOK」と記されています。

■ 小児アトピー性皮膚炎「場合により入浴は2~3日に1回でもOK」
 米小児科学会が非専門医向けGL
2014.11.26:メディカル・トリビューン

 米国小児科学会(AAP)が皮膚科やアレルギー科を専門としないプライマリケア医向けのアトピー性皮膚炎(AD)に関するガイダンス“Atopic Dermatitis: Skin-Directed Management”を発表(pediatrics 2014年11月24日オンライン版)。ADケアの行動計画として,ステロイド外用剤の使用の目安や十分な保湿などの日常的なケアに関する勧告を記載した。本人が入浴を楽しめない場合などにはその頻度を2~3日に1回とすることなどを推奨している。

□ 「ADへの早期介入でアレルギーマーチの進展が予防できる可能性」
 アレルギー患者の増加に伴いAD患児は増えているとAAP。ADは再発を繰り返す湿疹が特徴であり,患児本人やその家族はもちろん診療に当たる医師もフラストレーションを感じることがあると述べている。
 一方,治療薬の中心となるステロイド外用剤への誤った認識や不安などから,十分な治療効果が得られていない場合もあると指摘。AD患児の多くを診療している皮膚科やアレルギー科を専門としない小児科医が,ガイダンスにより最新のエビデンスに基づく情報でAD患児のケアの質を向上させたいと背景を説明している。
 ガイダンスでは,2008年頃からADは皮膚バリア機能の原発性の異常によるとの仮説を裏付ける報告が行われており,AD治療には皮膚の直接管理(skin-directed management)が特に重要との見解を示している。一方,食物アレルギーとの関連については「複雑な関わりがあるが,その関連が強調されすぎているようだ」と指摘。「真の食物によるADはまれ」で,食物アレルギーが確定診断されていない場合,卵アレルギーなどの一部の例外を除き「ADにおける除去食の意義を支持するエビデンスは少ない」との政府機関(NIAID)ガイドラインの見解を紹介している。
 一方,ADを起点に喘息やアレルギー性鼻炎を発症する「アレルギーマーチ」については,早期にADの至適治療が行われることで進展を抑制できる可能を示す報告があると説明。また,皮膚の直接管理を実施しているにもかかわらず,十分な治療効果が得られない場合にはアレルギー性接触性皮膚炎(ACD)の可能性も考慮に入れるべきと述べている。
 ガイダンスではAD管理のゴールは皮膚バリア機能の修復と維持を目標としたスキンケアの継続を基本に掲げ,行動計画を示した。項目の一部は次の通り。

・子供が入浴を楽しんでいれば毎日10~15分,ぬるめのお湯に浸かっても良い。もし入浴を楽しんでいない,あるいは(保護者が)水分が子供の皮膚に刺激を与えていると感じる時には入浴を2~3日に1回にする。石けんは刺激の少ないものを汚れた場所,入浴の最後にのみ使用する
・入浴後には体の水分は軽く押さえて取り,湿ったままにしておく
・保湿剤(クリームまたは軟膏が望ましい,ガイドラインでは別途「クリームは添加剤がアトピー症状の刺激になることがある」と説明している)を顔と体全体に塗布する。処方された外用剤および保湿剤は入浴後数分以内,皮膚が完全に乾かないうちに使用すべき
・処方された外用剤は赤みや湿疹病変が無くなるまで続ける。2週間経っても湿疹が改善しない場合には医師に相談する
・湿疹がきれいになった後も顔全体,全身の保湿を継続する


□ 入浴回数「十分な検討なく議論が続いている」
 ガイダンスでは,AD患児の適切な入浴回数については十分な検討がなく,議論が続いていると指摘。入浴後に保湿が行われていれば,湯船に浸かることや毎日の入浴はAD患者にとってベネフィットがあるとの報告を紹介し,個別の入浴回数は患児の状態や本人の入浴に対する意欲に応じて調節すべきとの見解を示している。

□ 日本では政府がAD治療の格差解消に取り組み
 日本では国民の10人に1人がADに罹患していると推計されている。2010年頃から政府がアレルギー情報センター公式サイトなどを立ち上げ,日本皮膚科学会による治療ガイドラインの情報などを国民や医療関係者に提供。ADを取り巻く問題について「特にステロイド外用薬に対する一部の偏った情報により,ステロイド忌避,拒否症の患者が増加し,さらに医学的根拠のない治療法が一部の医師あるいは医師以外のものによってなされ,患者を肉体的,精神的,経済的に苦しめている実情がある」と説明,問題の解消に取り組む姿勢を示している。さらに,今年6月にはアレルギー疾患医療の均てん化などを盛り込んだアレルギー疾患対策基本法が施行されている。


 最近、当院では看護師スタッフによる「スキンケア指導」をはじめました。
 ポイントは、
・入浴の際、体は泡で洗う。
・保湿剤は毎日塗る。
・塗り薬は少量をすり込むのではなく、少しベタ付くくらいたっぷり塗る。
 の3点。
 これをしっかりやるだけで、同じ薬を処方しても改善度が全然違います!
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米国学会推奨のアナフィラキシー診療

2015年10月08日 06時57分30秒 | 食物アレルギー
 アナフィラキシーの際に使用する薬剤はエピネフリン。
 これは蘇生に使う薬でもあり、医師でも使用を躊躇するもの。
 しかし、重症化するまで待つと予後が悪くなる可能性もあり、天秤にかけて「エピネフリンが必要であるにもかかわらず投与されなかった場合のアウトカムの方が,不要かもしれないが投与された場合のアウトカムよりも深刻であることが考慮された」として早期使用が選択されるべきだという推奨です。

■ 確診できなくてもアナフィラキシー疑えばエピネフリン投与を
 米の専門学会が合意に基づく推奨
2015.08.13:メディカル・トリビューン

 米国のアレルギー・喘息・免疫を専門とする学会であるAmerican College of Allergy, Asthma and Immunology(ACAAI)は8月6日,救急外来(ED)に搬送されたアナフィラキシーが疑われる患者に対しては,確診できない場合でもエピネフリンを投与すべきとする同学会専門家委員会の合意に基づく推奨をAnn Allergy Asthma Immunol(2015年8月6日オンライン版)で公表した。

□ NIAIDなどの基準満たさなくても投与を推奨
 アナフィラキシーは全身性かつ致死性のアレルギー反応で,救急医療スタッフが対応に苦慮することの多い病態である。そこでACAAIは2014年11月,アレルギーおよび救急医療の専門家から成る委員会を招集。最新文献のレビューを行い,EDでのアナフィラキシー治療における問題と治療改善のための対策について議論した。
 その結果,
①迅速かつ正確な診断が難しい
②初期対応でエピネフリンが使用される頻度が低い
③フォローアップが適切に行われていない
-ことなどが重要な問題として挙げられた。また,これらの問題を踏まえ,EDに搬送された患者でアナフィラキシーが疑われる場合には,米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)/食物アレルギー・アナフィラキシーネットワーク(FAAN)が示す診断基準※を完全に満たさなくてもエピネフリンを投与すべきとの推奨が示された。
 この推奨を示した背景について,専門家委員会は「(アナフィラキシーと診断された場合だけでなく)重症のアレルギー反応やアナフィラキシーに急速に進行する可能性がある場合でもエピネフリン投与の適応となる。したがって,エピネフリンを投与すべき全ての患者がNIAID/FAANの診断基準を満たすことにはならない」と説明している。

□ 軽症でも一部の患者には投与を推奨
 また,アナフィラキシーでは当初は症状が軽症でも多臓器にわたる症状を伴う重篤な病態に急速に進行する可能性があるが,ほとんどのGLでアナフィラキシーに進行する可能性のあるアレルギー反応の重症度が明確に示されていないことを専門家委員会は指摘。このことが,軽症から中等症のアレルギー症状に対する治療選択を難しくさせているとして,「症状が軽症であっても,過去に経験した重篤なアレルギー反応の誘因となった物質に曝露した場合には,ファーストライン治療としてエピネフリンを投与すべき」との推奨も示された。
 さらにEDでアナフィラキシーの治療を受けた患者は,その後アレルギー専門医に紹介し,経過観察を継続して行うべきとの推奨も示された。
 専門家委員会委員長で米・Emory UniversityのStanley M. Fineman氏は「EDの医師から『ガイドラインの診断基準を満たさない患者にはエピネフリンの投与を躊躇してしまう』という悩みを聞いたことがある」と自身の経験を紹介。今回の推奨では「エピネフリンが必要であるにもかかわらず投与されなかった場合のアウトカムの方が,不要かもしれないが投与された場合のアウトカムよりも深刻であることが考慮された」と説明している。
(岬 りり子)

※ NIAID/FAANのアナフィラキシー診断基準では,①「皮膚あるいは粘膜における急性症状」と「呼吸困難,低血圧または末梢器官における障害」②アレルゲンである可能性が高い物質への曝露後に以下のうち2つ以上の症状が急速に発現した場合;皮膚あるいは粘膜における症状,呼吸困難,低血圧またはそれに関連した症状,消化管症状③アレルゲンと判明している物質への曝露後(数分~数時間後)に血圧が低下-のいずれかを満たした場合に「アナフィラキシーである可能性が極めて高い」と判断される。
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