小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「性教育は幼児期から」(包括的性教育の試み)

2024年06月30日 13時36分16秒 | いのち
第30回日本保育保健学会(2024年)で「性教育は幼児期から」(北山ひとみ氏)という講演をWEB視聴しました。

世界と比較して日本の性教育が遅れていることは知っていましたが、
その現状を知ることができました。

ふだんの診療に役立ちそうなことがいくつも出てきました。

「ヨーロッパ性教育スタンダード」の「2〜3歳」の解説で、
自分自身の身体と性器を詳細に研究し、他の子どもと大人に見せる
自分の性器で気持ちよくなるので、わざと自分の性器に触れ始める
ということが“正常発達”として紹介されていることに驚きました。

日本では「困り事」として相談されることがあるエピソードですが、
これからは「そこまで発達したのですね、喜んでください」
とコメントすることにします。

その後、4〜6歳になると、
公共の場で性器などを見せたり触ったり、あるいは他の人の性器を触ると大人が避難することを学ぶ
ので大丈夫です、と。

それから、幼児期には下品な言葉を発して喜んでいる子どもをよく見かけますが、
これも“正常発達”と捉えています:
“汚い言葉の段階”:何か言葉でいうと周りの人々に反応が起こることに気づく。これはエキサイティングで楽しいので、同じ言葉を繰り返す
クレヨンシンチャン系のつぶやきがあっても心配ない?

それからそれから、オランダの性教育資材を発信・提供しているルトガーズ研究所が、
「お医者さんごっこ」のルール4つを解説しているという話がありました。

お医者さんごっこのルール
1.自分がイヤなときは参加しない。
2.相手がイヤがるときは無理に誘わない。
3.痛いことはしてはいけない。
4.からだのあらゆる穴には何も入れてはいけない。

…4が妙にウケました。
日本では“なかったことにする”とか“見て見ぬふりをする”、
性に関する子どもの行動・エピソードに真摯に向き合い、
それに対応する方法を提案しているのが素晴らしいと思いました。

やはり子どもが興味を持ったタイミングで正しい知識を授けるのがよいですね。
また、ジェンダー観は「両親のジェンダー観の影響を受ける」とされ、
当然とは思いながらもきびしい言葉だな、と思いました。

しかし「からだの権利」の解説では、
現実とのギャップに“机上の理想論”と聞こえざるを得ませんでした。

園児に対しての教育の実際も紹介され、
子どもたちの変化のみならず、
職員や家族の変化も生じたことを興味深く聴きました。


<備忘録>

■ 日本の性教育
・日本は「性教育後進国」「性産業先進国」
・最近の動き;
(2017年)刑法性犯罪の改正(110年振り!)
(2020年)「性犯罪・性暴力対策の強化の方針の決定について」
 → その一環として文科省が「生命(いのち)の安全教育」
 2023年から全国の公立小中高校で実施、幼児教育でも
(2023年)「強制性交罪」から「不同意性交罪」へ変更

■ 世界の性教育
(2009年)「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(対象:5歳以上)
(2010年)「ヨーロッパにおける性教育スタンダード」(対象:0歳から)
(2018年)「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」改訂版
(2020年)「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の改訂版ガイダンス出版

★ 「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の日本語版は2017年発行、日本語改訂版発行は2020年

■ 日本の性教育・ジェンダー理解のレベル
(2019年)国連子どもの権利委員会からの勧告;
「思春期の女子および男子を対象とした性と生殖に関する教育が学校の必修カリキュラムの一部として一貫して実施されることを確保すること」
 → 文科省:学習指導要領における性に関する学習内容はほとんど変わらず “歯止め規定
・2023年のジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム):125位/146か国

★ 参考図書0歳からはじまるオランダの性教育(リヒテルズ直子著、2018年発行)
・ボーダーラインの尊重…自分の望まないことに「ノー」と言うよう幼児期から教えられている。
・性教育の目的:自他の尊重、社会的責任、非差別・インクルージョン。
・性をタブー視せず、性についてオープンに話せる状況を早い時期に形成する。
・保育者・教員は指導者(教える)から支援者(支える)的存在へ慣れるよう研修。

■ 文科省「生命(いのち)の安全教育」の問題点
・性暴力に関する学びの際、「プライベートゾーン」を「水着でかくれるところ」と表現しているが不十分ではないか?
・「からだの権利」を認識できる内容にアップデートできないか、資材を作成中
※ からだの権利:自分のからだの事を決めることができるのは自分だけという意識。同意と境界、尊重ができる。

■ 包括的性教育とは?
・性(セクシュアリティ)を、からだとこころ、人間関係、社会とのつながりなど、
 いろいろな角度から幅広く学ぶ教育
・「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」8つのキーコンセプト;
 1.人間関係
 2.価値観、人権、文化、セクシュアリティ
 3.ジェンダーの理解
 4.暴力と安全確保
 5.健康と幸福のためのスキル
 6.人間のからだと発達
 7.セクシュアリティと性的行動
 8.性と生殖に関する健康
…日本の性教育のイメージは8だけ?

■ 幼児期の性的発達の特徴(by 「ヨーロッパ性教育スタンダード」)
(幼児前期)1〜3歳
・自らが母親とは別の存在であることを自覚する
・対象の分化(親以外の存在に関心を示す表現)
・3歳になれば、仲間関係や自分とは違った性との分化ができる
(幼児後期)3〜6歳
・自己意識の表明の時期…「ぼくがやる」「私のもの」
・自分の意志や考えを主張する“反抗”
・世界を感じる感受性が好奇心や自発性を生み出す土壌となる
 → 自己意識を形成し、一定の価値観を獲得していく時期

■ 「ヨーロッパにおける性教育スタンダード」(池谷氏)
・子どもの性心理的発達を0歳から始まる5つの発達段階として捉える
1.発見と探求の段階:0〜1歳と2〜3歳
2.規則の学習、遊びと友達関係の段階:4〜6歳
3.恥ずかしさと初恋の段階:7〜9歳
4.前思春期と思春期の段階:10〜11歳と12〜15歳
5.大人期への変わり目の段階:16〜18歳

■ 発見の段階:0〜1歳
・子どもの性的発達は誕生から始まる。
・乳児はすっかり自分の感覚に集中する。感覚を通して気持ちのいい、安全な感覚を経験できる。
・乳児を抱きしめ撫でることで、健康な社会的・情緒的な発達の基礎を据える。
・乳児は自分の周りの世界を発見するのにかかりきりになる。
・乳児はまた自分自身の身体を発見しつつある。

■ 好奇心/自分の体の探求:2〜3歳
・自分自身と自分の体に気づきつつある。
・自分や他の子どもと大人じゃ違うようだということを学ぶ(自分のアイデンティティを発達させる)。
・自分が男子か女子かを学ぶ(自分のジェンダーアイデンティティを発達させる)。
自分自身の身体と性器を詳細に研究し、他の子どもと大人に見せる
自分の性器で気持ちよくなるので、わざと自分の性器に触れ始める
・まだ身体的接触に対して大きなニーズがある。誰かの膝に乗るのが好きで撫でられることを楽しむ。
・“すべきこととしてはいけないこと”(社会的規範)について学びはじめる。

■ 規則の学習:4〜6歳
・集団生生活の中で人々の大きなグループと、より接触するようになり、ますますどう行動すべきか(社会のルール)を学ぶ。
公共の場で性器などを見せたり触ったり、あるいは他の人の性器を触ると大人が避難することを学ぶ
 → 公共の場で裸で歩き回ったり性器を触ったりしないようになる。
・自分自身と他の人々の体を探求することは、より遊びの文脈で表現される。
(性のゲーム)「お医者さんごっこ」などを、はじめはオープンに、後にはこっそりとする。
“汚い言葉の段階”:何か言葉でいうと周りの人々に反応が起こることに気づく。これはエキサイティングで楽しいので、同じ言葉を繰り返す
・生殖に非常に興味を持ち「赤ちゃんはどこから来るの?」といった質問を際限なくする。
・たいていの子どもは自分の体に関して恥ずかしさを経験し始めて、境界線を引き始める。
・自分が男子か女子であることを知り、いつもそうであろうとする。
・「男子がすること」「女子がすること」についてはっきりした考えを創り上げる(ジェンダーの段階)。
・他の子どもと、時には自分の性のメンバーである男子や女子と友だちになる。
・友達関係と誰かが好きなことを「愛してる」と結びつけて考える。これはたいていセクシャルの欲求と環状とは関係がない。単純に誰かが好きだという言い方である。
・2歳半〜3歳で、ほとんどの子どもが自分の性別を認識する。
 → (大人を見ながら)性別役割分業意識と行動をつくっていく。
 男女の性別に自らを自己分類することで、
 性別に応じた世界を創り上げていく。
  ↓
 相対する性への嫌悪と排除へ向かう可能性
 自らの性の言語化=ジェンダー用語(男ことば、女ことば)の意識化
 → 特に女性嫌悪の意識と排除の態度・行動へ

■ 子どもたちに伝えたいこと

1.からだを肯定的に受け止める
・自分の体は自分のもの
・外性器は日常的な存在(正確な名称を学ぶ)
 名前があるということはそのものの存在を認識すること
 とくに女性の性器はきちんと認識されてこなかった
  → 女性のものではなかった
・性器観:名称、入浴、トイレ
 “性器タッチ” “性器さわり” (“いじり”とは言わず)
・自分のいのちの成り立ち、どこからどうやって生まれてきたのか?
 その前に、性器の名前を学習する

2.女性と男性が対等であること
・保育者のジェンダー感覚が、子どもたちにも影響する。
・家庭の中ではどうでしょう?
 子どもたちにとって保護者はロールモデル
 お互いを尊敬し合い慈しみ合う関係を育てること
・本当の意味での対等・平等な関係が、人との豊かな関係をつくる

■ からだを肯定的に受け止めるために大切にしたいこと

1.プライベートパーツと“からだ観”
・自分だけが持つからだ、自分だけがわかる感覚、自分だけが触っていいところ
・断りなく見られたり触られたりしないこと=プライベート
・身体全体がプライベートパーツであるという“からだ観”

2.「境界」(バウンダリー)と「同意」「尊重」
・からだの周りにある境界 そこに同意なく侵入してくることはいけないこと
・「なんかへん」「あれ?」と感じるタッチはダメなタッチ。
・必要がないのに近づいてきてのタッチ。
・グルーミング(やさしく近づいてきて手名づける)の手口。

3.相手を尊敬・尊重する力を
・人間関係の形成、相手のパーソナルスペースやバウンダリー(境界)を尊重するために
 → 子ども自身が尊敬・尊重されること

4.「からだの権利」を学ぶ(↓)

■ からだの権利(浅井春夫「人間と性の絵本」より)
1.からだのそれぞれの器官・パーツの名称や機能について十分に学ぶ。
2.だれもが自分のからだのどこを、どのように触れるかを決めることができる。
3.親、大人による虐待や搾取、性的虐待や性的搾取から守られる。
4.からだが清潔に保たれて、ケガや病気になったときには治療を受けることができる。
5.こころとからだに不安や心配があるときには、相談できるところがあり、サポートを受けることができる。
6.ここまでの事ができていないときには、「やっってください!」と主張することができる。

■ 性暴力・性被害を防ぐ
・どんな人が性暴力を行うのか? …知っている人の場合もある
・いいタッチとダメなタッチ、さらに「何かヘン」 → 注意!
・イヤなタッチをされたとき  → 注意!
・安心できる大人:
 イヤなこと、イヤなタッチをされたとき話を聞いてくれる
 信頼できる大人 3〜5人
 そのうちひとりは家族以外の人を
・子どもが被害を伝えてきたら…
・“性的虐待順応症候群”にならないために
 訴えを聞いた大人の心得

■ 幼児への性教育を行うときの基本的な考え方
・分ける必要のないところで男女分別しない。
・からだっていいな、からだて不思議だな、という感覚を持つことができるような内容に。
・具体的な生活場面に即した話題から、見る・聞く・触るなど具体的にやってみるなど子どもたちが楽しく取り組める内容に。
・1人ひとりの捉え方を大切に。
・保護者とともに進める。

■ 幼児への性教育のテーマ4つ
1.からだをケアする
・肯定的な視点で自らのからだ観の基礎を築く。
・健康と命の大切さに迫る課題。
・排泄器、性器の違いによる洗い方、拭き方
2.性器の呼び方
・特に女子の排泄器、性器の呼び方  → (例)ヴァギナ、女の子の性器
3.性被害の防止
・プライベートパーツを理解する。
・「うれしいタッチ」と「イヤなタッチ」の違いがわかる。
4.女子と男子
・違いを強調するのではなく、両性のほとんどが同じであること。


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世界的に女子の思春期の始まりが早くなってきている

2024年06月30日 12時12分17秒 | いのち
私は小児科医ですが、
「日本思春期学会認定性教育講師」という資格もあり、
その周辺の情報も常にアンテナを張って集めています。
先日、下記の記事が目に留まりましたので紹介します。

内容は「世界的に女子の思春期発来時期が早まってきている」という報告です。
その理由・原因はいろいろ推測されているものの、明確にはわからず、
「社会の変化」というアバウトな表現になっていました。

思春期が早く来れば、当然本人も家族も戸惑い、
対応が必要になります。
外見が大人に見えても、中身は年齢相当の子どもですから、
周囲の環境作り・配慮が必要です。

<ポイント>
・早い時期からの生殖機能の発達は、女性の体と心の健康に深刻な影響を及ぼす可能性がある。世界的に女の子の間で、思春期が始まる平均年齢が、1977~2013年の間に10年ごとに3カ月ずつ早まっている。
・米国では、乳房の成長と月経のいずれも始まる時期が早まっている。初潮を迎える年齢が早まり、生理周期が規則正しくなるまでにより長い時間がかかるようになっている。早い時期(11歳未満)に初潮を迎える人の割合はほぼ倍増し、16%に達した。
・このような現象が起きている理由については、現時点ではわかっていることよりも疑問の方が多い。多くの異なる要因が重なった結果であり、全体に関わる要素としては、過去200年における世界の変化が挙げられる。
・肥満の女子は、通常体重の女子よりもエストラジオール(エストロゲンの一種)の濃度が高い。特に果物や野菜が少なく、動物性タンパク質や高度に加工された食品が多い食事は「エストロゲンなどの性ホルモンの濃度が高くなる。スナック菓子、デザート、揚げ物、ソフトドリンクを多く含む「不健康な食事」の摂取は、女子の思春期早発症と関連がある。
社会的または経済的な困難に関わる幼少期のつらい経験や、虐待などのストレスも、思春期早発症の要因となり得る。思春期が始まるタイミングは、ストレスの影響を受けやすい。思春期の開始に影響を与える「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」がストレス反応の制御にも関わっているためである。
・日常的に使われる製品に含まれるフタル酸エステル類ビスフェノールといった内分泌かく乱物質が、こうした変化に関わっている可能性を示唆する研究も増えている。環境中に広く存在する多くの内分泌かく乱物質は、エストロゲンと似た作用を持っている。
・早く思春期を迎える女子は、速いスピードで成長し、その後、早めに成長が止まる。そうした子どもは、思春期が通常の時期に訪れた場合と比べて、最終的な身長が低くなる。
・思春期が早めに訪れることにより、乳がんのリスクのほか、成人後の肥満のリスクも高まる。高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、コレステロール異常、心血管疾患になる可能性も高まる。
・思春期早発症の女の子はうつ病、ストレス、不安のレベルが高く、適切なボディイメージを持つことが出来ず、感情の調整に多くの課題を抱える。
・思春期の始まりが非常に早い、あるいは進むスピードが速い場合には、それが単なるタイミングの問題であって、脳腫瘍などの病的な原因がないことを確認する必要がある。単なるタイミングの問題であれば「薬によって一時停止ボタンを押す」ことも可能である。そうしたケースでは「GnRHアゴニスト」という種類の薬を使用して思春期のスピードを緩め、身長の伸び悩みなどの有害な影響を防ぐ場合もある。


■ 早まり続ける女の子の思春期、なぜ? 早すぎる子の困難と対処法は
世界的に10年ごとに3カ月ずつ若年化、「思春期早発症」には治療薬も
2024.06.26:National Geographic)より抜粋(下線は私が引きました);

★ 思春期早発症とは第二次性徴が平均より2~3年早く現れることを指す。日本では女の子の場合、乳房の発達が7歳未満あるいは7歳6カ月未満で始まるなどの定義がある。

 思春期が始まる平均的な年齢は、20世紀以降、下がり続けており、中には6〜7歳から胸の発達が始まる女の子もいる。こうした早い時期からの生殖機能の発達は、女性の体と心の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があると専門家は言う。
 世界的に女の子の間で、思春期が始まる平均年齢が、1977~2013年の間に10年ごとに3カ月ずつ早まっていることが、2020年に医学誌「JAMA Pediatrics」に掲載されたレビュー論文で示されている。つまり、この傾向が今も続いていれば、思春期が合計で1年以上も早まっていることになる。女の子の場合、思春期の最初の兆候は乳房の成長であり、月経の始まり(初潮)はそのあとに起こる。
 2024年5月29日付けで医学誌「JAMA Network Open」に掲載された新たな研究によると、米国では、乳房の成長と月経のいずれも始まる時期が早まっているという。1950~2005年の間に米国で生まれた女性7万1341人のデータからは、初潮を迎える年齢が早まり、生理周期が規則正しくなるまでにより長い時間がかかるようになっていることがわかった。同研究で対象となった55年間で、早い時期(11歳未満)に初潮を迎える人の割合はほぼ倍増し、16%に達した
これは十分な証拠に裏付けられた世界的な現象です」と、米ブラウン大学ウォーレン・アルパート・メディカルスクールの小児科准教授リサ・スウォーツ・トポー氏は言う。このような現象が起きている理由については、現時点では「わかっていることよりも疑問の方が多い」状態だと、氏は述べている。「多くの異なる要因が重なった結果であり、全体に関わる要素としては、過去200年における世界の変化が挙げられるでしょう」
 年齢にかかわらず、思春期が始まるきっかけとなるのは、脳の視床下部による「性腺刺激ホルモン放出ホルモンGnRH)」の分泌だ。GnRHは脳下垂体を刺激して黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンを分泌させ、思春期の開始を促す。女の子の場合、これら2種類のホルモンが卵巣にシグナルを送ることで、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が始まり、それが乳房の発達、陰毛の発生、月経の開始、体型の変化につながる。
・・・
▶ 思春期が早まる原因
 これはさまざまな要因が関係する問題だと、専門家は言う。まずひとつには、1970年代以降、肥満の児童の割合が増えていることが挙げられる。一部の研究では、女子の「思春期早発症」(通常の範囲より早く始まる思春期)と肥満との関わりが指摘されている。
「肥満はインスリン、インスリン様成長因子1(IGF-1)、レプチンといったさまざまなホルモンの血流への放出と関連しています」・・・これらのホルモンは食欲や満腹感、体脂肪の蓄積などに影響を与えるほか、 思春期のタイミングを変化させる可能性がある。
 また、肥満の女子は、通常体重の女子よりもエストラジオール(エストロゲンの一種)の濃度が高いことが研究でわかっており、これが乳房の発育や思春期の早期化に関わっていると推測される。
 子どもたちの食事の質もまた、何らかの影響を及ぼしていると考えられる。特に果物や野菜が少なく、動物性タンパク質や高度に加工された食品が多い食事は、「エストロゲンなどの性ホルモンの濃度が高くなることと関連があります」と、米シンシナティ小児病院医療センターの小児科教授フランク・ビロ氏は指摘している。(参考記事:「「超加工食品」でたばこ並みの依存性が判明、渇望や禁断症状も」)
 事実、中国の研究者らが3種類の食事(伝統的な食事、不健康な食事、高タンパクの食事)を比較した研究では、スナック菓子、デザート、揚げ物、ソフトドリンクを多く含む「不健康な食事」の摂取は、女子の思春期早発症と関連があることが示された。
 このほか、社会的または経済的な困難に関わる幼少期のつらい経験や、虐待などのストレスも、思春期早発症の要因となり得る。2023年に医学誌「Psychoneuroendocrinology」に発表された研究によると、幼少期のストレスレベルが高いと、思春期早発症のリスクが高くなるという。
思春期が始まるタイミングは、ストレスの影響を受けやすいのです」と語るのは、米コーネル大学心理学部准教授ジェーン・メンドル氏だ。「思春期前の時期にストレスや逆境を経験した子どもは、思春期が早く始まる可能性が高くなります」
 その原因を説明する仮説のひとつは、思春期の開始に影響を与える「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」がストレス反応の制御にも関わっているため、というものだ。
 また、コロナ禍において、画面を見ている時間の増加、社会的孤立、運動不足、健康的な食品を食べる機会の減少といったストレス要因が、米ニューヨーク市の女子で近年、思春期早発症が増えていることと関連している可能性を示唆する研究もある。

▶ 内分泌かく乱物質などの影響
 一方、日常的に使われる製品に含まれるフタル酸エステル類ビスフェノールといった内分泌かく乱物質が、こうした変化に関わっている可能性を示唆する研究も増えている。
環境中に広く存在する多くの内分泌かく乱物質は、エストロゲンと似た作用を持っています」とソファー氏は言う。その結果、そうした化学物質に多くさらされることで、生殖機能の発達に変化が現れる。
 たとえば、2023年に医学誌「BMC Medicine」に発表された論文では、女子の思春期早発症の原因のひとつとして、防汚剤や塗料、ワックス、つや出し剤、電子機器、食品包装材など多くの日用品に含まれる有機フッ素化合物PFCsPFASと総称される)にさらされることが挙げられている。(参考記事:「台所や食事に潜む「永遠の化学物質」PFAS、自分で避けるには?」)
 2023年に医学誌「Environmental Health Perspectives」に掲載された研究では、胎児から小児の時期に、居住環境で大気汚染の粒子状物質PM)にさらされた量が多かった女子は、少なかった女子よりも生理が早く始まる傾向にあると結論づけている。
 これらの要因が組み合わされることで、一部の女の子に思春期早発症が現れているのではないかとビロ氏は述べている。

▶ 心や体への影響
 こうした生殖機能の発達の変化は、将来的に体や感情へ影響を及ぼす可能性がある。短期的には、「早く思春期を迎える女子は、速いスピードで成長し、その後、早めに成長が止まります」とビロ氏は言う。そうした子どもは、思春期が通常の時期に訪れた場合と比べて、最終的な身長が低くなることがある。
 長期的に見ると、思春期が早めに訪れることにより、乳がんのリスクのほか、成人後の肥満のリスクも高まると、ビロ氏は指摘する。そのほか、高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、コレステロール異常、心血管疾患になる可能性も高まるという。
・・・
 研究からは、思春期早発症の女の子はうつ病、ストレス、不安のレベルが高く、適切なボディイメージを持つことが出来ず、感情の調整に多くの課題を抱えることがわかっている。
・・・思春期早発症の女の子は、同級生からのいじめにあう可能性が高く、また心の準備ができていないうちから性的関心を向けられることもある。
「人は外見をもとに彼女たちの年齢を高く見積もります」とビロ氏は言う。「12歳の子が15歳のように見えることもありますが、彼女たちの感情と行動は12歳のそれなのです」
 こうした外見の変化によって、教師や両親を含む大人たちが、彼女たちに実年齢よりも成熟した行動を期待してしまう場合もある。自分よりも年上の仲間と付き合い始めると、思春期を早めに迎えた女の子は、飲酒や性交渉などの危険な行動に及ぶ可能性があるとメンドル氏は言う。

▶ 変化に対応する
 成熟が早すぎると思われる女の子には、医師の診察を受けさせるべきだとビロ氏は言う。大半のケースでは、単に発達の状態を確認し、予想される体や感情の変化についての助言を受けるだけに終わるだろう。
「思春期の始まりが非常に早い、あるいは進むスピードが速い場合には、それが単なるタイミングの問題であって、脳腫瘍などの病的な原因がないことを確認する必要があります」とトポー氏は言う。脳内の異常により、思春期が早く訪れることもあるからだ。トポー氏によると、単なるタイミングの問題であれば、「薬によって一時停止ボタンを押す」ことも可能だという。
 そうしたケースでは、医師が「GnRHアゴニスト」という種類の薬を処方して思春期のスピードを緩め、身長の伸び悩みなどの有害な影響を防ぐ場合もある。研究では、そうした薬は、思春期早発症を経験した女子の最終的な身長(18歳時)を伸ばす効果が示されている。
 思春期がいつ始まるかにかかわらず、親は子どもにできる限り標準的な経験をさせることが重要だ。外見の年齢が12〜13歳でも実際には8歳なのであれば、食事や睡眠習慣に関して8歳の子と同じようにする必要がある。
「たとえ外見が年上に見えたとしても、子どもを年相応に扱うことは非常に重要です」とトポー氏は言う。そうすれば、女の子は自分の体に快適さを覚え、自尊心を保ち、肉体的にも感情的にも自分を大切にできるようになる。
・・・
「思春期、特に月経については、社会的に恥ずかしいこととして捉えられている面が多々あります」とメンドル氏は指摘する。「思春期への移行に対する偏見を減らすことが重要です」(参考記事:「古代エジプトではパピルスを利用、月経にまつわる沈黙と羞恥の歴史」)
 そのためには、親が思春期についてオープンに話をし、自分の経験を分かち合うことが助けになる。
 メンドル氏は言う。「そうした経験から子どもが何かを学べれば、思春期によりうまく対処できるようになるでしょう。それが、過去、現在、未来の自分は連続しているという感覚を持つことにつながるのです」


そうそう、みなかみ市の学校健診で学校医が下半身を診たのは、
「思春期早発症」
のチェックという理由でした。
それに関連して、というワケではありません。

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医師からみた学校健診

2024年06月30日 11時00分15秒 | 学校健診
群馬県みなかみ町の学校健診における「下半身を診た」騒ぎは、
ほとんどが“セクハラ”という視点から報道されています。
事前の説明がなかったので、生徒が驚いて騒いだのは無理もありません。

現実は、その学校医が小児科の内分泌専門医だったので、
思春期早発症のチェック(陰毛の有無を観察)もした、
というものでした。

さて私はこのトラブルを耳にしたとき、町の乳児検診を思い出しました。
基本的に小児科医が担当しますが、小児科医の数が少ないため、
他科の医師が担当することもあるのは学校医と同じ事情です。

そして他科の医師の間では小児科医の評判が悪いのです。
「小児科医は診察に時間をかけすぎる」
「そのために私(他科医師)は倍の人数を診察する羽目になる、不公平だ!」
と。

どういうことかおわかりですね。
小児科医の診察は他科医師より丁寧なのです。
(他科医師を批判するわけではありません)

ですからみなかみ市のトラブルを耳にしたとき、私は、
「説明なしに下腹部を観察するのは一般人にとってはありえない」
という感想とともに、
「そこまで診察するなんてすごい」という印象も少し持ちました。

下記記事の中で森戸先生が発言しているように、
「プライベートゾーンというのはむやみに見せてはいけないんだ、それは嫌だって言っていいんだ」
という教育が浸透してきた影響を指摘しています。
私はそれとともに、
「自分の健康を守るために、時にはプライベートゾーンを見せて診察を受けることも必要だ」
という教育も必要だと思います。

この辺をあやふやにしてきたために、
社会人女性の内科診察でも「下着を取る取らない問題」が延々と続き、
日本では子宮頚がんワクチン受診率が低いまま、
という弊害が発生し続けているのでしょう。


■ 小児科医が伝える「学校健診」の現状 小学校との打ち合わせの機会「ないことが多い」【学校健診問題を考える(下)医師の見方】
2024/6/26:Jcastニュース)より抜粋(下線は私が引きました);

 今、小学校における健康診断のあり方が問われている。 
 群馬県みなかみ町の小学校健診で、校医が児童の下着の中をのぞき下半身を視診したという報道をはじめ、脱衣のままの健診や下腹部の診察が問題となった。 
 児童が不安や不快を感じることなく、適切な健診を行うためには、何が必要なのだろうか。 
 2回シリーズの第2回では、小児科医に学校側と校医側の双方に求められる対応について、見解を聞いた。 

▶ 医師の専門分野「特に念入りに」は必要なし 
 どうかん山こどもクリニックの小児科医・森戸やすみさんはJ-CASTニュースの取材に、「配慮のない健診は昔の方が多かったと思う」としつつも、現在は「人権意識も高まり、子どもへの配慮が必要だというのが一般的に浸透してきたにも関わらず、昔ながらのやり方をする人もいます」と問題点を挙げる。 
 みなかみ町の校医は、自身の専門分野について診察したと話しているというが、森戸さんは、学校健診は「全国どこで受けても同じようなスクリーニングの健診が受けられるということが前提」だと説明する。 
 スクリーニングとは病気の可能性がないかどうかをチェックするもので、特定の病気を見つけるための「検診」ではない。こうした目的は、校医側も学校側も理解しておく必要がある。 「たとえば学校医が自分は心臓や呼吸器の専門家だからといって、心臓や肺の健診を特に念入りにやりますといったことは求められていません。事前に保護者と児童に提案があり『せっかくの機会なので、うちの子はそれも診てください』ということがあれば問題にならなかったと思います。ですが、前もって説明がないまま『自分は専門家なので診た』というのはよくなかったと思います」 
 学校健診には文部科学省と日本小児保健学会が作ったマニュアルがあり、「本来は健診の要請を受けた医師会や団体、あるいは医師個人が周知しておくべき」だとした。

▶ 学校側には児童や保護者への説明が求められる
 森戸さんは、学校側には打ち合わせの機会を設けてほしいと話す。 
 森戸さんによると、学校健診の際、「プライバシーを守るための衝立はこんな感じでいいですかとか、同性の先生が立ち会いますとか、そういうことを打ち合わせする機会がないことが多い」という。 
 健診の際以外にも、健診を受けられなかった児童や不登校児への対応に関する打ち合わせは事前にない、と話す。 
 健診は学校側に定められた義務。そのため、保護者や児童に対する「(学校健診を)どのように行うか、いつやるか、その目的は何か、配慮の方法といった説明は、学校側が主体となってしてほしいなと思います」(森戸さん)。 
 また、学校側が健診の目的や主体、文科省のマニュアルについて重視していない場合もある。それだけに、個々の学校ではなく文科省や自治体による保護者への説明や周知があってもよいのではないか、と提案する。

脱衣自体が問題になることは「正しい診断に結びつかない
 児童生徒への心情やプライバシーの配慮は当然必要だが、脱衣自体が問題になることは、正しい診察につながらないのではないか。森戸さんは、次のように見解を述べた。 「学校健診では、何百人、少なくとも何十人を一度に短時間で見なければいけません。その時に情報量が多くないと、正しい診断に結びつかないことがあります。たとえば背骨に側弯がないかどうかということは、着衣のままでは見落としがありえます」 
 また、アトピー性皮膚炎の悪化や傷、皮下出血から医療の忌避や虐待の発見につながることも少なくない。森戸さん自身も、子どもの身体に不自然なあざを発見し、虐待の発見につながった経験があると話した。 「なるべく脱衣でいることが望ましいですが、当然、脱衣のまま待っている必要はありません。すぐ脱げるような状態で、診察自体はプライバシーが保たれる状況で、同性の第三者の同席のもと行われるのがよいと思います」

▶ 学校健診をなくすことは「子どもにとってデメリットの方が大きい」
 SNSで一部上がっている学校健診は不要との意見に対して、森戸さんは「(学校健診に)代わるいい方法があるならやめてもいいと思うんですけど」としつつ、次のように話す。 「同じ年齢の子が大勢集まっているところで、一度にスクリーニングとして診察をするというのは大変効率がよく、保護者は医療機関に連れて行かずにすみ、子どもにとっても健康の問題が早期発見できてとてもいい制度だと思います。だからこそ、明治時代からずっと続いてきているので」 
 さらに、こう続ける。 「以前には医師による盗撮被害もあり、そういった問題のある医師がいるから、配慮のない学校があるから感情的にやめてしまおうというのでは、子どもにとってデメリットの方が大きいです。うまく運用する方法見つけるのが大人の役目ではないかなと思います」 
 今まで大きな問題として扱われてこなかった学校健診での配慮の問題。なぜ今、表面化してきているのか。森戸さんはそれはいい傾向だと見ている。 「子ども自身も、プライベートゾーンというのはむやみに見せてはいけないんだ、それは嫌だって言っていいんだ、疑問を呈していいんだっていうことが浸透してきたからではないかと思います」

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教師から診た学校健診

2024年06月30日 10時22分37秒 | 学校健診
学校健診の方法と存在意義が揺れています。
トコトン意見を出し合って結論を引き出すよい機会だと思います。

ネット上で、2回に分けて「教師の見方」「医師の見方」を連続掲載している記事が目に留まりました。
賛否両論を公平に扱っていそうなので、紹介します。

▢ ポイント;

▶ 健診の際に学校側に必要な対応3点
(1)健康診断の方法について、学校医との打ち合わせを入念に行うこと   
(2)健康診断の方法は、児童生徒のプライバシーや心情に十分配慮した方法とすること(他の児童生徒に個人情報が漏れないように配慮すること、できるだけ着衣のまま健診を受けるなど)   
(3)健診の目的、方法を保護者と児童生徒に事前に説明すること。特にどのような疾患が見つかる可能性があるのか、をしっかりと事前に説明すること

 → 私個人(小児科医&学校医)の話になりますが、
(1)…養護教諭とメールで十分にやり取りします。
(2)…診察前後に着替えスペースがあるようなないような状態だったので「しっかり仕切りをして見えないスペースを作ってください」と要望しました。
(3)…事前に私が作成した説明プリントを、生徒家族に渡すことを提案しました。しかし、もうひとりの学校医の反対に遭い、却下され、養護教諭が発行する「保健便り」に簡易版が掲載されただけでした。

▶ 健診を担当する校医に求めたい対応3点
1つ目:打ち合わせ時に「○○のために、□□を△△のように診る」といった具合に健診内容を丁寧に説明してもらいたい。
2つ目:『どうしても、いやな検査があったら「やめてほしい」と言っていい』ということを、児童生徒本人に許可してほしい。
3つ目:健診に関する学校からの要望をできるだけ受容してほしい。

 → 私見ですが、
1つ目…事前にメールで養護教諭と綿密に連絡を取り合いました。
2つ目…「検診を受けるのは権利であって義務ではない」「イヤなら受けなくてよい」ことを事前に通知してあります。
3つ目…私の提案をことごとく拒否されましたが、私はそれを受け入れました。

皆さんに今一度考えて欲しいのですが、
「子どもの健康を守る」「子どもの人権を守る」
とはどういうことでしょうか?
「恥ずかしがる子は着衣診察」が理想ですか?

私は以下のように考えます。
・海外のように幼児期からの性教育を充実させ、デリケートゾーンは守ることを教える。
・健康・病気チェックの際は例外で、肌を見せることが必要な場合がある。
以上をないがしろにして事を進めると、トラブルが発生します。

例えば、子宮頚がんワクチン副反応問題。
この問題の根本原因を、私は「性教育の歯止め規定」だと思っています。
日本の性教育では「性交渉そのものを教えてはいけない」という暗黙のルールがあります。
つまり、性感染症予防にコンドームが有効、という授業に「性交渉」の説明はないのです。
このようなゆがんだ教育、あるいは教育不全状態のまま、
筋肉注射という未経験の痛みを伴う処置が見切り発車され、
受ける女子生徒達には不安・恐怖感がつのり、それをマスコミが増長して問題が大きくなったのです。

イギリスでは性教育がしっかりしており、
子宮頚がんワクチンがなぜ必要なのかを生徒自身に説明・納得してもらい、
接種率8割以上を維持していると聞いています。

性に関するタブーを少しずつ剥がしていく努力をしないと、
このような派生問題が今後も発生し続けることでしょう。


■ 問題相次ぐ「学校健診」 校医に求めるのは「いやな検査があったら『やめてほしい』と言っていい」許可【学校健診問題を考える(上)教師の見方】
2024/6/25:Jcastニュース)より抜粋(下線は私が引きました);
 小学校の健康診断をめぐる問題が相次いで報道されている。 
 説明のない脱衣や下腹部の診察がなされ、児童が不快感を訴えたことが発端だ。こうした不安や不快を児童が感じることなく、適切な健診を行うためには、何が必要なのだろうか。
 学校側と校医側の双方に見解を聞き、2回にわたって学校健診の現状と今後を考える。前半では、現役の小学校教師に、学校側と校医側のそれぞれにどのような対応や配慮が必要かを聞いた。 

▶ 24年5月末~6月に3件の学校健診の問題が報道 
 福岡県北九州市八幡西区の小学校で2024年6月5日に行われた健診では、医師に下腹部を触られたとして、児童が不快感を訴えたことが報じられた。医師は腸の音を聞くためにへそ周辺に聴診器を当てたと説明しており、市教育委員会は配慮が不足していた、としているという。 
 また、群馬県みなかみ町の小学校で4日に行われた健診では、医師が児童の下着の中をのぞき、下半身を視診していたことが報じられた。報道によると、医師は内分泌学を専門とし、成長を見るため必要な診察だった旨を主張。町教育委員会と学校は、文部科学省の指針に沿っていなかった、として保護者説明会で謝罪した。  さらに5月には、神奈川県横浜市内の小学校で、男性医師による上半身裸での診察があり、泣き出す女子児童もいたとするX投稿が波紋を広げた。この投稿は大きな注目を集め、メディアに取り上げられた。31日には、市立小学校339校のうち16校で上半身裸での健診をしていたと、市教育委員会が明らかにしたと報じられた。 
 もっとも、これらの問題に先立つ24年1月には、文部科学省が全国の教育委員会等へ、学校健診の際には児童のプライバシーや心情に配慮を求める通知を出している。
 それにもかかわらず、こうした問題が続出する事態となってしまった。適切な健診を行うには学校と医師はそれぞれ、どのような配慮や対応が必要なのだろうか。

▶ 学校側に必要な3つの対応
「学校における健康診断は、児童生徒の健康の保持増進を目的として行われるものです。これは、学校保健安全法によって規定され、言うまでもなく児童生徒が健康に日常生活を送ることができるように、行われるものです」 
 公立小学校の教師で、教育に関する書籍を多数執筆している山田洋一さんはJ-CASTニュースに、学校健診についてこのように説明する。 
 一方で、 「しかし、健康のためだからと言って、どんな検査の仕方であっても黙って受け入れるべきだというのは、適切ではありません」 と断言した。 
 直近で問題となった学校健診では、複数の児童が不快感を訴えたことが報じられている。山田さんは、「本来、心身の健康のために行われるべき健康診断で、心身不調の原因となるような扱いを受けるのは、不適切なことと考えられます」と述べた。 
 そのうえで山田さんは、健診の際に学校側に必要な対応として、次の3点を挙げる。
(1)健康診断の方法について、学校医との打ち合わせを入念に行うこと   
(2)健康診断の方法は、児童生徒のプライバシーや心情に十分配慮した方法とすること(他の児童生徒に個人情報が漏れないように配慮すること、できるだけ着衣のまま健診を受けるなど)   
(3)健診の目的、方法を保護者と児童生徒に事前に説明すること。特にどのような疾患が見つかる可能性があるのか、をしっかりと事前に説明すること

▶ 校医側には求めたい3つの対応
 一方で、健診を担当する校医に求めたい対応はどうか。 
 山田さんは1つ目として、打ち合わせ時に「○○のために、□□を△△のように診る」といった具合に健診内容を丁寧に説明してもらいたいと挙げた。そうすることで、養護教諭や担任教員からの児童生徒への丁寧な説明につながるという。 「通常、学校健診は短時間で行われるため、一人を診察する時間も極端に短くしなくてはなりません。もちろん、健診の目的や方法をその場で説明することは、現実的には無理です。しかし、児童生徒が安心して健診を受けられる環境づくりとして、健診の目的や方法の説明は必須です。代理的にであっても、不安なく健診をするための説明が、必要でしょう」 
 さらに、「こうした健診に対する安心、安全な環境づくりは、将来にわたって児童生徒が疾病の予防や早期発見に努める態度につながるもので、国民の健やかな営みを将来にわたって保障するものになるはずです」とも述べた。 
 2つ目は、「『どうしても、いやな検査があったら「やめてほしい」と言っていい』ということを、児童生徒本人に許可してもらえると、健診への安心度が高まります」と伝える。 「学校には、人に触られることを過度に嫌がる児童生徒、なれない環境、不安を感じる環境が極端に苦手な児童生徒などもいます。ぜひ、そうした児童への配慮にご協力を得られたらと思います」 
 3つ目は、「健診に関する学校からの要望をできるだけ受容していただけると、ありがたく思います」と挙げた。 
 なぜなら学校は医師に対し、短時間で多数の児童を診なければならない健診に来てもらうことを「たいへん申し訳なく思っています」。そのため、「児童生徒に関する個別の要望を伝えにくいと感じている場合も少なくありません」と状況を明かした。 「こうした状況を超えて、真に児童生徒の健康のための健診が具現できるように、できれば医師と学校とが対等な関係を結べるとよいと考えます」

▶ 問題の表面化の理由は「インフォームドコンセント」の考え方の浸透
 今回問題となったような健診の仕方は、今までも行われていたはずだ。実際、毎日新聞の報道によると、みなかみ町の校医は、全員ではなかったかもしれないが昨年も同様に診察したと記憶している旨話している。なぜ今、学校健診の問題が大きく取り上げられるようになったのか。 
 山田さんは、医師や看護師に十分な説明をしてもらい、納得のうえで医療行為を受ける「インフォームドコンセント」の考え方が普及してきたことが大きいと見解を示した。 「医師は、社会的信用が高く、その診療行為は聖域であり、『お任せする』のが当然のこと。疑問をもつことさえ許されない雰囲気が、日本の社会には長くありました」 
 山田さんはそう背景を説明した。インフォームドコンセントの考え方は30年ほど前から徐々に普及してきたといい、どの治療を選ぶのかといった診療の主体が患者にあるとする考え方が「当たり前」になってきた。  こうした考え方の変化が学校健診の場においても普及し、「『お医者さんのしていることだから、間違いない』という従来の考え方が払拭され、『不適切なのでは?』と疑問の声をあげやすくなった社会の状況が、その背景にあると考えられます」と山田さんはいう。 
 一方で、「コロナ禍を経験し、医療行為を含めた人との接触に関して、人々が敏感になっているということも言えるのではないでしょうか」とも述べる。 「日本の社会において、『当たり前』と考えられてきた人との距離や接し方が、見直されてきていると言えるでしょう」

▶ 学校健診は「すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味」で重要
 学校健診時の問題の頻出を受け、SNSでは学校健診は不要だ、やめるべきと言った声も上がっている。  山田さんは「確かに、短時間で多くの児童生徒の健診を行うことは、その精度が十分理想的なものだとは言えないでしょう」としつつも、次のように、学校健診の必要性を説明する。 「学校における健康診断で重大な疾患が見つかる例もあること、またこれだけ多くの児童生徒に漏れなく健診をし、疾病を早期に治療する機会を得る方法が、現状では他にないと言えます」 
 さらに、家庭状況や保護者の健康に対する考え方は、児童生徒ごとに異なる。つまり、「この程度でも、病院に受診させる」という家庭と、「どうして、こんなにひどくなるまで受診させなかったのだ」という家庭とが混在するのだ。 「そうした家庭状況に関係なく、すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味において、学校における健康診断は、今なお重要な機会であることは間違いがありません」 
 またもう1点、虐待を受けている児童生徒の早期発見のためにも、学校健診は必要だという。 「外傷を見つける、虐待に起因する成長不全を見逃さない重要な機会として、学校における健康診断が機能していることを忘れてはならないと思います」

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学校健診は即刻、中止すべきである。

2024年06月30日 05時58分17秒 | 学校健診
という意見の記事が目に留まりました。
一部「?」という箇所もありますが、
不毛な感情論ではなく、科学的な検証に基づく意見なので、
あえて取りあげ、紹介します。

そもそも「集団検診は必要なのか?」という視点から検証し、
「日本の学校健診にはエビデンスがない!」と断言してます。

さて、日本でも乳児検診は順次集団検診から個別検診へ移行してきました。
これは流れ作業ではなく「ひとりひとりしっかり診察すべき」という視点です。

一方の学校健診は集団検診のまま。
一人に1分もかけない診察、その中で様々な疾患の可能性をチェックし、
もし見逃せば訴訟に発展して医師免許さえ危なくなる…
これは担当する医師から見ても相当“ブラック”な仕事です。
事実、あるアンケートでは「医師の82%が学校健診をやりたくない」との回答。

ではなぜ、学校健診が継続しているのか?
いろいろな要因が考えられますが、
一つの大きな要因は「コスト」と「手間」でしょうか。

個別検診にすると、膨大な時間とお金が必要になります。
自治体はそれを嫌がることでしょう。

現代の子どもは忙しい。親も忙しい。
その中で、時間を作って健診目的でクリニックを受診する…
生徒家族も嫌がることでしょう。

記事の中では、外国の事情と比較しています。
諸外国では疾患発見のメリットとコストを天秤にかけ、
「学校健診は意味がない」
というエビデンスに基づいて廃止されてきた経緯を紹介しています。

例えば、アメリカの予防医学作業部会(USPSTF)で小児に推奨されている検査項目は以下の通り;
A(検査推奨):HIV・梅毒、血液型不適合とB型肝炎ウイルス(対象者が妊娠している場合に限定)
B(検査推奨):不安、うつ病、クラミジア、淋菌、B型肝炎ウイルス、親密なパートナーによる暴力、弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)、肥満(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)
・・・あれ?側弯症がないですね。共通した項目がほとんどありません。
逆に、日本では行っていない血液検査が入っています。さらに、不安・うつ病のチェックや性感染症など、健康を直接悪化させる切羽詰まった項目ばかり。

純粋に日本でも
「学校健診、やる価値があるのか?」
を検討すべきタイミングであると私も感じました。

診察の際の着衣・脱衣問題などは問題の本質ではありません。
私が検索した範囲では、外国では、
「病気があるかどうか判断するのだから、肌を見せて当たり前」
という文化があるようです。

日本では成人して会社の検診を受けるときも、
女性が下着を取る・取らないでもめていますね。
また、子宮頚がん検診の受診率も低いままです。

これは「恥じらいの文化」という日本特有のものかもしれません。
しかし、世界標準を目指すなら、
「デリケートゾーンは大切にする」
ことと並行して、
「病気の有無をチェックするときは大切なところもしっかり診てもらう」
と、子どもの頃から教育すべきでしょう。


■ 日本の医師は「利権」のために児童を虐待している…群馬の「陰毛視診」問題で若手医師が抱いた違和感
2024/6/24:President online)より抜粋(下線は私が引きました);
 群馬県みなかみ町の小学校で、70代の男性医師が、本人や保護者の合意を得ずに、児童の下半身を視診していたことが、問題になっている。医師の大脇幸志郎さんは「男性医師は『視診しなければ診断を誤る』と話しているようだが、理解できない。そもそも学校健診の大半はエビデンスがない」という――。 
・・・
▶ アメリカの基準なら「日本の学校健診は過剰」 
 健康診断に意味があったかどうか、健康診断をするグループとしないグループを追跡した試験がたくさん行われています。 
 そうした試験結果をまとめる専門家団体の米国予防医学作業部会(USPSTF)が、どんな診察なら適切かをまとめています。 
 結論から言いますと、USPSTFを基準にすると、日本で行われている学校健診は大幅に過剰です。

▶ 検査が推奨されているのは「HIV・梅毒の検査」など 
 例えば、前述の文部科学省通知では「特に留意が必要」なものとして「脊柱の疾病」「胸郭の疾病」「皮膚疾患」「心臓の疾病」をあげています。 
 ただ、USPSTFはこれらの検査を支持していません。 
 USPSTFが「小児(Pediatric)」または「思春期(Adolescent)」に対して検討している検査は55件。 
 そのうち一斉検査に対して最高ランクの「A」がついているもの(つまり、検査するよう推奨しているもの)は、HIV・梅毒の検査と、対象者が妊娠している場合に限って血液型不適合B型肝炎ウイルスの検査だけです。 
 次の「B」ランクも検査推奨ですが、これにあたるのは「不安」、「うつ病」、「クラミジア」、「淋菌」、「B型肝炎ウイルス」、「親密なパートナーによる暴力」、「弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)」、「肥満」です(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)。 

▶ 日本の学校健診にはエビデンスがない 
 日本では、「学校保健安全法施行規則」において学校健診の内容が決められています。 
---------- 
一 身長及び体重 
二 栄養状態 
三 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態 
四 視力及び聴力 
五 眼の疾病及び異常の有無 
六 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無 
七 歯及び口腔の疾病及び異常の有無 
八 結核の有無 
九 心臓の疾病及び異常の有無 
十 尿 
十一 その他の疾病及び異常の有無 
---------- 
 一見して、USPSTFの推奨とほとんど一致していないことがわかると思います。  
「脊柱及び胸郭の疾病」に含まれる側弯症はUSPSTFでは「I」ランク、つまり検査が有効であるというエビデンスがないと判定されています。 
 もちろんなんでもアメリカに合わせるのがいいわけではありません。 
 ただ、USPSTFは詳細なデータを公表していますが、日本の学校保健安全法施行規則にはなんのエビデンスも添えられていません。 

▶ 古い時代の健診がズルズル続いているだけ 
 ちなみに、前述の文科省通知で参照している「児童生徒等の健康診断マニュアル」には引用文献がひとつも挙げられていません。 
 なぜ日本の学校健診はこんな残念なことになっているのでしょう。 
 その理由は、リストに「結核」があることから察せられます。 
 このリストの原型ができたのは1958年。 
 要するに、データに基づいて健診の「利益」と「害」をちゃんと評価するという思想がまだなかったころに学校健診のやりかたを細かく決めたまま、検証されることもなくズルズル続いているのです。

▶ 世界では健診の見直しが進んでいる 
 一方、世界的には健診のあり方を見直す動きが進んでいます。1960年代以降、世界保健機関(WHO)やアメリカ、カナダの団体が健診の検証を呼びかけたことが、USPSTFなどの事業につながりました。その運動の中にいたデイヴィッド・サケットという人がのちに「エビデンスに基づく医学の父」と呼ばれるようになります。 
 一方、日本の学校健診はエビデンスに基づいていません。「診察はやればやるほどよい」という安直な考えがまかり通り、冒頭に紹介したようなトラブルを引き起こしています。
・・・
 また、無駄な診察のために大量の公的資金と貴重な医療従事者の労働力が費やされていることも問題です。
  私はまず学校健診を完全に廃止すべきだと思います。効果不明で逆効果の疑いさえある健診によって、リソースが無駄遣いされるだけでなく、子供の心身を危険にさらしているからです。 
 そのうえで、健診の効果を検証するために、それぞれの検査項目が本当に必要なのかどうか、検査するグループとしないグループを作って比較する必要があります。この試験を実行するためには、前提として一斉健診が廃止されていなければなりません。 
・・・

---------- 
大脇 幸志郎(おおわき・こうしろう) 医師 
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。 
----------

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新型コロナ罹患後症状を再定義(2024年6月)

2024年06月25日 06時18分51秒 | 新型コロナ
コロナ罹患後症状(旧呼称:コロナ後遺症)について知識を整理している際、
こんな記事が目に留まりました。

米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

…確かに、今まで定義が各国でまちまちだったため統一した基準で報告されず、
データを集積・解析することが難しかった面があります。
例えば、罹患後症状の頻度が5〜70%、とか。

さて、従来の定義は以下のようでした;

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過した時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

では記事の内容を見てみましょう。

現在の日本ではWHOの基準を引用して説明されることが多いのですが、
今回の提案でも概ね内容は同じです。
ただ、発症までの期間と持続期間の数字が、
・発症・症状消失後、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・症状持続期間は3ヶ月以上
と少し異なりますね。
  
(上記記事から一部抜粋:下線は私が引きました)
 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。
 Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。…本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。
 本定義によると、
Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する
としている。
 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。
 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。
 主な症状は以下のように記載されている。

・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。
・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。

 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。

・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。
・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。
・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。
・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。
・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。
・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。
・・・

※ NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

<参考文献・参考サイト>
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子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際」

2024年06月24日 06時58分23秒 | 新型コロナ
現在は「後遺症」ではなく「罹患後症状」と呼ぶことになりました。
その理由は、コロナ感染後の体調不良は後遺症だけではなく、
別の病気がたまたまそのタイミングで発症した、
“紛れ込み”の可能性も低くないからです。

当院は「コロナ後遺症診療医療機関」です。
研修の一環として以下のレクチャーを視聴しました。

■ 子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際
堀越裕歩Dr.(東京都立小児総合医療センター総合診療部)

知識の整理に役立ちました。
また、後遺症外来のチェックポイントもわかりました。

一つ新しい情報として生活指導(Pacing)があります。
簡単に云うと「頑張らない」「無理しない」こと。

ふつう、ケガの後のリハビリテーションは、
失われて機能を取り戻すために一生懸命に励む、
というイメージがありますが、
これをコロナ罹患後症状に当てはめてはいけない、
もし負荷が大きいと、その後の体調不良の増悪が必至で、
寝たきりになってしまうそうです。

これは罹患後症状をたくさん診療している平畑先生も強調していました。

備忘録としてメモ書きを残しておきます。

■ コロナ後遺症/罹患後症状の状況
・急性の新型コロナ感染症から回復した人で、
 だるさや息苦しさが続くことが報告された。
・軽い感染でも、長引く症状(倦怠感、嗅覚障害、疼痛など)が報告された。
・現在200以上の多彩な症状が報告されている。

■ コロナ罹患後症状の定義
・WHOが「Post COVID-19 condition(PCC)」と定義 ・・・日本語訳が「コロナ罹患後症状」
① コロナ罹患後3ヶ月以内に発症
② 2ヶ月以上遷延する
③ 他の疾患が否定されたもの
・日本では、コロナ罹患後に起きた前後関係にある症状を、
 コロナとの因果関係を問わずにひっくるめて、
 “コロナ罹患後症状”と呼んでいる。



■ 小児でよくある症状
・痛み系
 頭痛、四肢の痛み、腹痛、胸痛、背部痛など
・感覚器系 
 味覚異常嗅覚異常など(わからない、違うように感じる)
・その他
 だるい、集中できない(Brain Fog =頭に霧がかかる)、疲れやすい、息苦しい、
 立ちくらみ、力が入らない、朝が弱い、薄毛など

■ 小児の罹患後症状:思春期小児でのリスク因子(イギリス、2022)
・思春期後半>思春期前半
・女子>男子
・もともとの身体的、メンタルの健康が低い

■ 小児の罹患後症状:ノルウェーからの報告(JAMA)
・対象年齢:12〜25歳
・コロナPCR陽性者、陰性者の6ヶ月後のコロナ罹患後症状の有無
・コロナPCR陽性者 vs 陰性者=48.5% vs 47.1%と有意差なし。
・リスク因子:症状が重い、身体的活動性が低い、寂しさがある
→ コロナ罹患後症状は存在するのか?

■ 都立小児総合医療センター・コロナ後遺症外来のデータ(2022)
・対象:24名
・年齢:中央値12.5歳
・男女比:男70.8%、女29.2%
・時期:デルタ株期37.5%、オミクロン株期62.5%
・コロナワクチン2回接種済み:37.5%

コロナ発症から罹患後症状が出るまでの期間
 (7日未満)29.1%
 (7-28日以内)50.0%
 (29-56日以内)12.5%
 (57-84日以内)8.3%
 → 8割が罹患後1ヶ月以内

症状
 倦怠感・易疲労感:16名
 頭痛:12名
 異常味覚:7名
 異常嗅覚:7名
 四肢以外の痛み:6名
 Brain Fog:5名
 味覚消失:4名
 嗅覚消失:4名
 脱毛:3名
 四肢の痛み:3名
 咳嗽:3名
 呼吸苦:2名
 下痢:2名
 力が入らない:1名
 悪心・嘔吐:1名
 不眠:1名
 知覚麻痺:1名
 幻聴・幻覚:1名
・・・統計学的の優位にデルタ株期に多い症状は「異常味覚」
 統計学的に優位にオミクロン株期に多い症状は「Brain Fog」

学校欠席期間
 (なし)37.5%
 (4週未満)20.8%
 (4-8週)16.7%
 (9-12週)12.5%
 (>12週)12.5%
 → 4割が1ヶ月以上欠席していた。

予後(フォロー期間の中央値 4.5ヶ月)
 (寛解/治癒)29.2%
 (改善)54.2%
 (不変)4.1%
 (増悪)0%
 (不明)12.5%
 → 8割以上がよくなっている。

■ コロナ後遺症外来・初診時の確認事項
・コロナ感染既往(検査方法)
・コロナワクチン接種歴
・コロナ急性期症状・重症度
・コロナ罹患後症状のはじまりと経過
 ✓ 罹患してから持続?
 ✓ 罹患後急性期症状は改善して一旦元気になったが、〇週間後から増悪
 ✓ 増悪時期のイベント(新学期開始など)

■ コロナ後遺症外来・問診内容
・身体的疾患、アレルギーの有無
・発達歴、人見知りの有無、対人関係、学校での成績、不登校歴
・前医の投薬歴:鎮痛剤の効果、漢方薬への反応
・生活歴:前にできていて今できなくなったこと、起床や就寝時間、
     睡眠障害の有無、食欲、抑うつ

■ コロナ後遺症外来・器質性疾患の除外
・身体診察
・症状に応じて以下の検査をオーダー:
 ✓ 血液:一般検査の他に甲状腺機能、亜鉛(皮膚症状、脱毛症状があるとき)
 ✓ 検尿
 ✓ 胸部レントゲン
 ✓ 心電図
 ✓ 呼吸機能検査
 ✓ 脳MRI
 ✓ 起立性調節障害(OD)テスト
 → 異常がなければ安心材料として説明できるメリットも

■ コロナ後遺症で紹介された患者の3割が別の病気
(例)
・倦怠感 → 鉄欠乏性貧血
・呼吸苦 → 気管支喘息
・母子分離不安 → 広汎性発達障害
・戸締まり不安 → 強迫神経症

■ コロナ後遺症外来・初診時のアプローチ
・まずは器質性疾患のスクリーニング(除外診断)
・実際の診療は不登校児の対応に近い
 ✓ 学校は無理強いしない
 ✓ 生活リズムで昼夜逆転しないように
 ✓ OD症状で朝が弱いときは、ODに応じたアドバイス
・見通し(だいたい3-6ヶ月でほとんどの子がよくなります)を伝えることが一番大切
・・・本人家族はこの点を一番不安に思っている。
・コロナと関係ない不登校の場合も8割程度が復帰できていることを伝える。

■ コロナ後遺症外来・困っていることへの対応
・痛み系  → 鎮痛剤(なぜか腹痛にもアセトアミノフェンが効く?)
・倦怠感  → 生活の Pacing を指導、できることをする
・起立性調節障害 → 生活指導、投薬
・嗅覚・味覚系 → 違うモノに感じているときはイメージトレーニング、
        耳鼻科に紹介(ステロイド点鼻、亜鉛など)

■ コロナ後遺症外来・本人への接し方
・コロナ罹患後症状で“つらい”ということを理解する。
・つらいことへの共感的な態度を取る。
・・・間違っても「サボっている」などの責めるような言動は避ける
・本人のできる範囲で参加しやすい環境を整える。
(例)オンライン授業など

■ コロナ後遺症外来・生活の Pacing 
・症状に合わせて、日常活動と休養のバランスを取るリハビリの方法で、
 様々な慢性疾患で用いられている。
・できないことは無理せず、できる範囲に生活の強度を合わせる。
・過度の活動は、その後に強い疲労感が来るので避ける。
・現実的な目標を設定するとよい。
(例)午後に調子がよいなら、午後に少し散歩をする。

■ コロナ後遺症外来・Pacing のコツ
1)本当に身体的に動けないタイプ
・倦怠感が強くて、移動が車椅子や松葉杖歩行
・神経学的な診察や検査は異常なし
 → 身体的症状に基づいて目標を設定
2)精神的不調がメインで身体的には大きな制約がないタイプ
・症状の割には、困った感、切迫感がない。
・学校へは行けないけど、習い事の運動はできる。
 → モチベーションが上がる活動を勧める。

★ ペーシング(Pacing)の少し詳しい説明

後遺症が疑われる子どもに接する周囲が気をつけるべきこと;
・着替えること、お風呂に入ること、学校に行くことなど、
 今までできていたことが困難になることがあります。
・元の生活に戻れないのは「怠けているから」「甘えているから」ではありません。
・まずは周囲が本人のつらい症状を理解し、受け入れる姿勢を示しましょう。
・頑張りすぎると、症状がぶり返し、動けなくなることもあります。

回復に向けてのリハビリ方法に「ペーシング」があります。
ペーシングとは、症状に合わせて、日常の活動と休養のバランスを取るリハビリの方法です。
①今日、すべきことは?
②今日、やりたいことは?
③他の日に延期できることは?
④周りに頼めることは?
などを考え、無理をせず過ごすことが大切です。

・日々の活動で気をつけること
✓ 無理せずできる範囲のことをする
✓ 頑張りすぎない(余力を残す)
✓ 自分のペースで活動する
✓ 周りに手伝ってもらう
✓ 元の生活に戻るためには時間を要することを理解する

・回復のため心がけたいこと
✓ 十分な睡眠をとる
✓ バランスのよい食事を摂る
✓ できる範囲で少しずつ体を動かす
✓ 周囲とコミュニケーションを取る
✓ リラックスできる習慣を見つける
✓ 日々の活動や趣味の時間を少しずつ増やす

・無理せず回復するための3つのP(イギリスのNHSが推奨)
Plan:1日または1週間の計画を立てよう
・「タスク(やるべきこと・課題)」と「やることが難しいこと」は何かを明らかにする。
・一つのことが終わったら休憩を取る等、無理をしない。
Pace:自分のペースで過ごそう
・コロナ罹患前と同じとは考えず、スローダウンを心がける。
・「やり過ぎる」前に休む。
Priorities:優先順位を立てよう
・「やるべきこと」だけでなく「自分の楽しいと思うこと」
 「好きなこと(音楽を聴いたり、ペットの世話をすることなど)を取り入れる。

■ コロナ後遺症外来・不登校について
・文化省調査(2020年度);
 小学生:1.0%、中学生:4.1%、高校生:1.4%
・コロナ罹患によるストレス、感染対策による制限や
 社会の雰囲気による心理的な影響がトリガー?
・親は心配しているので以下のことを伝える;
 ✓ コロナにかかわらず不登校はよくあること
 ✓ ほとんどが復帰していける
 ✓ 今は一時的に体や心へのケアが必要

■ コロナ後遺症外来・時にはコロナと切り離して考える
・身体や精神疾患、発達障害などがあると、
 コロナ罹患後症状のリスクで、
 コロナと関係なしに症状を呈してくることがある。
・コロナに罹ったことは変えられないので、
 すべてコロナのせいでよくならないと固定的に捉えると前に進めない。
・コロナはキッカケだったかもしれないけど、
 今ある症状とは関係ないでしょうと説明して、
 通常の思春期の問題として診療していく。
 
■ 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎
(chronic fatigue syndrome, CFS / myalgic encephalomyelitis, ME)
・定義(NICE guideline 2021)
 ✓ 3ヶ月以上の症状の持続
 ✓ 活動によって疲労の増悪、休養で完全に回復しない
 ✓ 睡眠で回復しない、睡眠の障害
 ✓ 認知障害(Brain fog)
・活動が過剰だと、疲れてしまい増悪する
 → 疲れない程度に活動を制限(すると徐々に改善に向かう例が多い)

■ 小児精神科に紹介する目安
・自殺企図、希死念慮、自傷他害など
・精神症状が遷延する
(例)幻覚、など
・強い抑うつ、その他の精神疾患が疑われる
・コロナ罹患後症状が長引き、精神的ケアが必要

■ 患者と家族の不安に寄り添う
・できなくなったことよりも、できることに目を向ける。
ほとんどの小児は快方に向かうことを伝える。
・Positive なメッセージを伝える。

■ コロナ罹患後症状の自然歴
コロナ罹患後・・・
(2ヶ月以内)倦怠感、味覚・嗅覚異常 10-20%
(3ヶ月以内に2ヶ月以上の症状がある) 1-2%
 リスク因子:中学生以上、女子、身体/精神疾患あり
 不登校が問題になる(都立小児では約3割)
(6ヶ月以内)80-90%くらいが改善、あるいは治癒
 改善しない場合:発達障害、OD、不登校

■ コロナ罹患後症状の対応のまとめ
1)器質性疾患の否定
2)痛みの管理、生活のPacing、不登校管理、OD管理
3)ほとんどが時間経過でよくなること、
  できる範囲のことをやること、
  楽しいことを見つけること、等を伝える。
4)長引く場合は、発達の評価などを考慮


<参考>
▢ 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き
 別冊「罹患後症状のマネジメント」第3版
(厚生労働省、2023年)
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子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の疫学ほか」

2024年06月23日 15時46分41秒 | 新型コロナ
当院は「新型コロナ後遺症相談医療機関」に指定されています。
知識のアップデートとして下記講演を視聴しました;

勝田友博Dr.(聖マリアンナ医科大学)(2023.10.1)

知りたいことを教えてくれる有意義なレクチャーで、
知識の整理に役立ちました。

おや?と感じた点;
(聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来のデータより)
・コロナ後遺症疑い」として紹介される患者の1/4の最終診断は別の疾患であった。
・投薬は対症療法薬のみで、解熱鎮痛剤が一番多かった。
・約1/4に精神科領域(精神科・心理師)の介入が必要だった。

・・・つまり、「小児科医にできることは“傾聴”以外にあまりない」というさみしい結論。

以下は備忘録(メモ書き)です。

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過して時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

■ 小児 Long COVID の定義(「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」より)
・以下のような症状(少なくとも一つは身体的な症状)を
 子どもまたは若年者(17歳以下)の小児が有する状態
① COVID-19であることが検査によって確定診断された後に継続して、
 または新たに出現した症状
② 身体的、精神的、又は社会的な健康に影響を与える症状
③ 学校、仕事、家庭、人間関係など小児の日常生活に何らかのかたちで支障をきたす症状
④ COVID-19の診断がついてから最低12週間持続する症状(・・・必ずしもすべてこれで評価されていない?)
(その間、症状の変動があってもよい)

■ Long COVID 想定される病態(諸説あり)
・急性期に生じた臓器障害(特に肺)の遷延
・体内残存微量のウイルスによる持続感染に伴う症状
・ウイルスによる血液凝固機能亢進と血管損傷
・ウイルスによるレニン・アンギオテンシン系の調節障害
・ウイルスに対して賛成された交代による宿主組織に対する交差反応(免疫調節障害)
〜以上の複数の病態が複合的に関与している可能性もある。
★ 小児はもともと機能性身体症状を呈することが多く、
 心理社会的ストレスに伴い心身症となりやすい。

■ 小児 Long COVID のリスク因子
・思春期
・女性(?)
・重症COVID-19罹患
・肥満
・アレルギー疾患合併
・長期療養歴
・身体的精神的健康不安
〜以上の複数の因子が併存している可能性あり。

■ 小児 Long COVID の有病率(メタアナリシス)
・有病率:1.6〜70%
・コントロール群(非罹患群)でも類似症状あり ・・・紛れ込みの可能性も

■ 小児 Long COVID の臨床症状(21 studiesのメタアナリシス)
・有病率:25.2%
・三大症状:気分障害、倦怠感、睡眠障害

■ 小児 Long COVID の臨床症状〜出現時期(UKの報告)
・有病率:4.4%
・三大症状
(倦怠感)急性期からずっと続く
嗅覚障害罹患2週間後くらいから出現し続く
(頭痛)急性期が一番強く漸減傾向

■ 小児における Long COVID 日本国内のデータ(ただし半数は入院患者)
・有病率:4.0%
・主な症状:
(発熱)30%
(咳嗽)30%
(嗅覚障害)17%
(倦怠感)16%
(味覚障害)14%
(腹痛)9%
(頭痛)8%
(下痢)8%
(悪心・嘔吐)5%

■  Long COVID はワクチンで予防できるか?
1.2回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.64)。
2.2回接種 vs 1回接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、1回接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.60)
3.1回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン1回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクは変わらない(OR:0.90)

■  Long COVID は発症後のワクチン接種で改善できる?(2023年の報告)
〜さまざまな報告があり、一定の結論は出ていない。
(改善)20.3%
(悪化)20.5%
(不変)54.5%

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の治療内容
投薬なし(傾聴)  ・・・ 45%
アセトアミノフェン ・・・ 35%
イブプロフェン   ・・・ 7%
ロキソプロフェン  ・・・ 7%
プロプラノロール  ・・・ 7%(体位性頻脈症候群に対して)
ミドドリン     ・・・ 3%(起立性調節障害に対して)

■ コロナ後遺症を主訴に紹介された患者(42名)の最終診断
・23.8%(約1/4)は他疾患
(LC)16名
(OD+LC)8名
(POTS+LC)5名
(MIS-C+LC)1名
(OD+POTS+LC)2名
(心身症)8名
(IBS)1名
(ADHD+ASD)1名

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の通院状況
(終了)74%
(継続)17%
(自己中断)7%
(逆紹介)2%
・・・外来follow終了までの期間はさまざまで一定しないが、半年程度が一番多い。

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来における精神科・臨床心理士による介入割合
(臨床心理士)19%
(精神科)10%
(なし)71%
・・・約1/4は心理系の介入が必要であった。

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新型コロナの「罹患後症状」〜その3.循環器症状

2024年06月23日 11時12分42秒 | 予防接種
前項目で新型コロナ罹患後症状の呼吸器症状について記しました。
この項目では循環器症状に対する医療側のアプローチについて、
診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント
を参考にポイントを列挙します。

循環器合併症で注意すべきは心筋炎ですね。
ワクチン副反応でも有名になりましたが、
実際にCOVID-19に罹患した場合の方が、
頻度も重症度も高いのが事実です。

それを疑った場合は速やかに専門医あるいは高次病院へ紹介することが、
開業医の役割でしょう。


<循環器症状へのアプローチ>

■ 概要
・COVID-19罹患に伴い、急性冠症候群(急性心筋梗塞や不安定狭心症)、
 心不全、不整脈、脳梗塞、血栓塞栓症などの循環器病が、
 感染急性期に合併するだけでなく、急性期以降においても発症したとの報告があり、
 急性期以降も循環器病が合併する可能性に常に留意する必要がある。

■ 科学的知見
・(海外からの報告)COVID-19罹患5〜7ヶ月後までに43〜89%
(胸痛5〜76%、動悸5〜68%、呼吸困難感18〜88%、湿疹10〜20%)に認められる。
・日本国内ではその頻度は少ないかもしれない。
・中等症以上のCOVID-19罹患者で、心筋傷害マーカーが陽性になった例においては、
 心筋炎などによる心筋傷害の可能性も考慮して経過観察する。

■ 循環器症状の診療フローチャート

■ プライマリ・ケアにおけるマネジメント
・COVID-19罹患に伴う心筋傷害の報告もあり、とくに心筋炎については、
 急激な心機能低下や致死性不整脈が生じる場合も少なくないため、
 緊急対応が必要となる可能性も考慮する。

■ 専門医・拠点病院への紹介の目安・タイミング
・胸部X-ray、心電図で異常所見を認める場合
BNP 100pg/mL以上、あるいはNT-proBNP 400pg/mL以上



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新型コロナの「罹患後症状」〜その2.呼吸器症状

2024年06月23日 10時46分42秒 | 予防接種
前項目で新型コロナ罹患後症状の概要を記しました。
これからは各症状に対する医療側のアプローチについて、
診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント
を参考にポイントを列挙します。

ガイドラインの「呼吸器症状」の項目を読んでみての感想ですが・・・
当たり前のことしか書いてありません。
・原因はわからない。
・治療薬もない。
・・・という悲しい現実が浮かび上がりました。


■ 呼吸器系の罹患後症状
・呼吸困難感・息苦しさ、咳嗽、喀痰、咽頭痛などが多い(⇩)。
・酸素飽和度(SpO2)低下を伴う場合も、伴わない場合もある。
・問診・診察で鑑別診断が絞り込む(除外診断)
・必要に応じて検査を行う;
(例)胸部X-ray、心電図、血液検査(CBC、BNP、CPK、Dダイマーを含む)、酸素飽和度測定など
・以上を行っても原因がわからない場合や、3〜6ヶ月症状が持続する場合は専門医に紹介する。


■ 呼吸器症状の推定されるメカニズム
・呼吸困難感の機序は多様であり、肺実質障害や心血管障害、筋力低下、基礎疾患の悪化などが含まれる。しかし、心肺機能に異常を認めない例も多い。
・咳嗽も遷延することがあるが頻度は低い。迷走神経を介した、あるいは脳内の神経炎症による可能性が指摘されている。気管支喘息や咳喘息の鑑別が必要であり、過換気症候群の報告もあり、心理的なトラウマの関与が指摘されている。
・肺機能検査異常の頻度は急性期の重症度に依存し、特に肺拡散能が障害されやすい。
・中等症以上のCOVID-19患者では、罹患12〜24ヶ月後であっても、およそ1/3の例でCT画像の異常が認められる。
・肺病変が生じる機序は明確ではないが、SARS-CoV-2特異的なメモリーT細胞とB細胞が血液よりも肺の局所に多く、CD8陽性T細胞が高齢者の遷延する肺機能異常と関連しているとの報告がある。また、肺血管の微小血栓や炎症性の微小血管障害が生じる。

■ 呼吸器症状へのアプローチ

■ フォローアップ
・呼吸器系の罹患後症状は、呼吸困難感・息苦しさ、咳嗽などが主である。
・これらが遷延することが多い一方、明らかな呼吸器・循環器疾患が認められない場合も少なくない。
・基礎疾患(特発性肺線維症など)のある患者では、既存疾患が増悪し重症化することがあるので要注意。
・遷延する労作性の呼吸困難感で,通常のCT検査や肺機能検査で異常がない場合、肺血栓塞栓症を念頭に検査を行う。
・対症療法を行っても3〜6ヶ月異常症状が持続する場合は、呼吸器専門医への紹介を検討する。

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