著者:江部康二、東洋経済新報社(2005年発行)
江部先生はもともと漢方医で現在の肩書きは京都の高雄病院理事長。長年、アトピー性皮膚炎の診療に心血を注ぎ、理想を追い求めて最先端を行く医師です。
このシリーズを「自分のアトピー診療の集大成」と位置づけ、第一巻では「心と体」、第二巻の本書では「スキンケアと食生活」についてまとめています。興味のある第二巻から読みました。
高雄病院はいわば「アトピー治療の最後の砦、あるいは重症患者の駆け込み寺」です。アトピーに関しては、いろんな先生の講演や書籍を読んでいますが、江部先生の云うことが一番しっくりきて頷けます。彼の診療はアトピー治療のひとつの到達点を示していると思います。
江部先生はいろいろな治療法を検討し、よいとわかれば積極的に取り入れてきました。西洋医学、漢方医学、心身医学、絶食療法・・・そのバイタリティには頭が下がります。
でも、いまだに全てのアトピーを治せているわけではないと告白しています。これが現実なのでしょう。
ここまで微に入り細に入り患者に寄り添う診療ができれば、アトピーの改善率は上がるだろうなあ、というのが率直な感想です。特にステロイド軟膏の具体的な塗り方指導が素晴らしいと思います。ホント、お手本です。
しかし、今の日本の「薄利多売」の医療システムでは江部先生と同じレベルの診療をどこでも行えるわけではありません。
私も「アトピーのスキンケア」「ステロイド軟膏の上手な塗り方」「ステロイド軟膏の副作用を理解しましょう」などプリントを作成して説明・配布していますが、全部説明するとゆうに30分はかかってしまいます。
風邪患者が押し寄せる小児科開業医では無理な話。
さらに時間をかけて食生活や軟膏の塗り方を指導する診療をしても、「これ塗って」と軟膏を処方するだけと診療報酬が同じなのですから・・・。
誰もこの問題点にメスを入れようとしません。
十分話を聞いてもらえなかった、軟膏の塗り方を説明してもらえなかったという気持ちを抱える患者さんは医療不信に陥り民間療法に走ります。アトピービジネスが横行する土壌は日本の医療システムが作り出しているような気がします。
また、「ステロイドの副作用」について分析し、その対策をわかりやすく記しています。
メリハリをつけた正しい使用法を守ればこれほど有効な薬はないのに、マスコミが造り上げた「ステロイドは恐い薬」というモンスターのために患者自身が自分の首を絞めるに至る悪循環。
民間療法ではステロイドをやめた後に皮膚が赤くなって腫れ上がることを「ステロイドの毒が出る」と表現しますが、その本体は「リバウンド」と「ステロイド離脱皮膚炎」の2種類が存在する、軽症であれば離脱性皮膚炎のみで済むので一過性(民間療法で云う有効例・・・1割くらい)、重症であれば「リバウンド」で改善無く全身真っ赤になり病院へ駆け込むことになる、と説明。
プロトピック軟膏の使用法も詳しく書かれていて医師の私にも非常に参考になりました。高雄病院は日本中の病院の中でプロトピック軟膏の使用量が第一位。そのノウハウは貴重です。
「プロトピックを使うと皮膚がんになる」という迷信も小気味よく論破。
しかしマスコミが煽り、一度形成された世論を跳ね返すのは個々の医者には困難です。
この本が出版された後にも、2010年3月にもアメリカFDAが「プロトピックと小児皮膚がん」の問題を取り上げました。
「日本でプロトピックが普及しないのは小児科医がさぼっているから」と決めつけないで、使用可能な環境を整備する方が先でだと思います。
私自身のアトピー性皮膚炎診療はふつうに西洋医学から始まりました。
しかし、各学会作成の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」は「ステロイド軟膏を上手に使って良い状態を保てばいずれ治癒する」という方針であり、患者さんを満足させるほどQOL(生活の質)が上げられません。ひたすら軟膏を塗り続けても先が見えなくて疲弊していく患者さん・・・この治療に限界を感じ、漢方医学を取り入れるようになりました。
まだ十分使いこなしているとは云えないレベルですが、それでも以前より改善例が多くなってきたことを実感しています。
ステロイド軟膏で押さえつける西洋医学と、身体の中からジワジワ良くなる漢方医学。併用するとなお良いですね。
江部先生の診療を参考にしながら、このスタンスでもう少し追求していこうと思います。
★ 高雄病院がたくさんの職種のスタッフを抱えて「チーム医療」を実現できている理由の一つに「社会福祉法人」であることが挙げられます。
この「社会福祉法人」には税金がかからない!
ふつうの医院・病院は収益の4割以上が税金として消えていきます(涙)。当院も例に漏れません。そのお金が手元に残り、人件費に割くことができれば・・・理想の医療を追求できそうな気がします。
江部先生はもともと漢方医で現在の肩書きは京都の高雄病院理事長。長年、アトピー性皮膚炎の診療に心血を注ぎ、理想を追い求めて最先端を行く医師です。
このシリーズを「自分のアトピー診療の集大成」と位置づけ、第一巻では「心と体」、第二巻の本書では「スキンケアと食生活」についてまとめています。興味のある第二巻から読みました。
高雄病院はいわば「アトピー治療の最後の砦、あるいは重症患者の駆け込み寺」です。アトピーに関しては、いろんな先生の講演や書籍を読んでいますが、江部先生の云うことが一番しっくりきて頷けます。彼の診療はアトピー治療のひとつの到達点を示していると思います。
江部先生はいろいろな治療法を検討し、よいとわかれば積極的に取り入れてきました。西洋医学、漢方医学、心身医学、絶食療法・・・そのバイタリティには頭が下がります。
でも、いまだに全てのアトピーを治せているわけではないと告白しています。これが現実なのでしょう。
ここまで微に入り細に入り患者に寄り添う診療ができれば、アトピーの改善率は上がるだろうなあ、というのが率直な感想です。特にステロイド軟膏の具体的な塗り方指導が素晴らしいと思います。ホント、お手本です。
しかし、今の日本の「薄利多売」の医療システムでは江部先生と同じレベルの診療をどこでも行えるわけではありません。
私も「アトピーのスキンケア」「ステロイド軟膏の上手な塗り方」「ステロイド軟膏の副作用を理解しましょう」などプリントを作成して説明・配布していますが、全部説明するとゆうに30分はかかってしまいます。
風邪患者が押し寄せる小児科開業医では無理な話。
さらに時間をかけて食生活や軟膏の塗り方を指導する診療をしても、「これ塗って」と軟膏を処方するだけと診療報酬が同じなのですから・・・。
誰もこの問題点にメスを入れようとしません。
十分話を聞いてもらえなかった、軟膏の塗り方を説明してもらえなかったという気持ちを抱える患者さんは医療不信に陥り民間療法に走ります。アトピービジネスが横行する土壌は日本の医療システムが作り出しているような気がします。
また、「ステロイドの副作用」について分析し、その対策をわかりやすく記しています。
メリハリをつけた正しい使用法を守ればこれほど有効な薬はないのに、マスコミが造り上げた「ステロイドは恐い薬」というモンスターのために患者自身が自分の首を絞めるに至る悪循環。
民間療法ではステロイドをやめた後に皮膚が赤くなって腫れ上がることを「ステロイドの毒が出る」と表現しますが、その本体は「リバウンド」と「ステロイド離脱皮膚炎」の2種類が存在する、軽症であれば離脱性皮膚炎のみで済むので一過性(民間療法で云う有効例・・・1割くらい)、重症であれば「リバウンド」で改善無く全身真っ赤になり病院へ駆け込むことになる、と説明。
プロトピック軟膏の使用法も詳しく書かれていて医師の私にも非常に参考になりました。高雄病院は日本中の病院の中でプロトピック軟膏の使用量が第一位。そのノウハウは貴重です。
「プロトピックを使うと皮膚がんになる」という迷信も小気味よく論破。
しかしマスコミが煽り、一度形成された世論を跳ね返すのは個々の医者には困難です。
この本が出版された後にも、2010年3月にもアメリカFDAが「プロトピックと小児皮膚がん」の問題を取り上げました。
「日本でプロトピックが普及しないのは小児科医がさぼっているから」と決めつけないで、使用可能な環境を整備する方が先でだと思います。
私自身のアトピー性皮膚炎診療はふつうに西洋医学から始まりました。
しかし、各学会作成の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」は「ステロイド軟膏を上手に使って良い状態を保てばいずれ治癒する」という方針であり、患者さんを満足させるほどQOL(生活の質)が上げられません。ひたすら軟膏を塗り続けても先が見えなくて疲弊していく患者さん・・・この治療に限界を感じ、漢方医学を取り入れるようになりました。
まだ十分使いこなしているとは云えないレベルですが、それでも以前より改善例が多くなってきたことを実感しています。
ステロイド軟膏で押さえつける西洋医学と、身体の中からジワジワ良くなる漢方医学。併用するとなお良いですね。
江部先生の診療を参考にしながら、このスタンスでもう少し追求していこうと思います。
★ 高雄病院がたくさんの職種のスタッフを抱えて「チーム医療」を実現できている理由の一つに「社会福祉法人」であることが挙げられます。
この「社会福祉法人」には税金がかからない!
ふつうの医院・病院は収益の4割以上が税金として消えていきます(涙)。当院も例に漏れません。そのお金が手元に残り、人件費に割くことができれば・・・理想の医療を追求できそうな気がします。