小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「(スギ花粉)舌下免疫療法講習会」に参加してきました。

2013年12月01日 07時52分37秒 | 花粉症
 近年、アレルギー分野では「免疫療法」がトピックス。
 免疫療法とは、アレルゲンを避けるのではなく、積極的に取り込むことによりアレルギー疾患を治す治療法です。

 約5年前に登場した食物アレルギーの「経口免疫療法」はインパクトがありました。
 それまでの食物アレルギーの治療法は、自然に治る(耐性獲得)まで原因食物除去を続ける消極的な方法しかありませんでした。
 そこに登場した経口免疫療法は「食べさせて治す」という真逆の発想。
 食べて治すって・・・食べたら症状が出ちゃうでしょう?
 と考えますよね。
 そのとおりです。
 ただ食べればよいと考えるのは早計で、危険を伴います。
 その食べる量の決定やスケジュール管理には専門的な知識が必要なのです。
 とくに「急速経口免疫療法」と呼ばれる方法は原則入院治療、症状が出ないあるいは軽症症状にとどまるレベルの極微量から始め、日単位でどんどん増量していき、数週間~数ヶ月の間に食べられるようにするという荒療治。
 全国の主要アレルギー医療機関から重症食物アレルギー患者に適用して目を見張る効果が報告されました。
 それ以降、症例数が多くなる過程で各施設でバラバラだったプロトコール(治療スケジュール)が整いつつある一方で、アナフィラキシー・ショックなど重篤な症状が発生するリスクが排除できず、また治療失敗例・副作用例も報告されるようになりました。
 これらの事情を鑑み、日本小児アレルギー学会は「現時点では一般診療として推奨しない」との見解を発表しています。

 さて、「舌下免疫療法」とは、舌の下にアレルゲンエキスを含ませることにより耐性を獲得させ、アレルギー疾患を治す方法です。
 これは従来行われてきた「減感作療法」と呼ばれる治療法の変法です。
 減感作療法はアレルゲンを皮下に注射する方法ですが、副作用のリスクが高いため病院で行われる処置であり、患者さんは3年以上毎週~各週~各月で通院する必要があり、多大な労力を要しました。

 この度承認された舌下免疫療法薬は、スギ花粉エキス剤シダトレンスギ花粉舌下液」(鳥居薬品)。
 その液体を舌の下に滴下し2分間そのままの状態を維持した後に飲み込みます。
 これを1日1回、2-3年間続けるのです。
 最初の2週間は「増量期」として少量から初めて少しずつ増やし、「維持期」となる3週目からはずっと同じ量を維持します。
 皮下接種法と比較して副作用の頻度/程度ともに軽く、自宅治療が基本です。
 心配な副作用であるアナフィラキシーの報告はほとんどありません(ゼロではありませんが)。
 ただし、新薬なので最初の1年間は2週間分しか処方できないルールがあり、つまり患者さんは2週間毎に医療機関を受診しなければなりません。発売2年目にはこのルールは解除されますので、1ヶ月処方が可能になります。
 この治療法のつらいところは、春以外の症状がない季節でもずっと通院し、毎日自宅治療を続ける点です。数年間のうちに脱落者が半分以上発生しているのが現状です。
 さらに、高濃度のスギ花粉エキスなので保険診療でも治療代がそれなりにかかると囁かれています(価格未公表)。

★ 現時点で公開されている情報
 シダトレンスギ花粉舌下液200JAU/mLボトル、同2000ボトル、同2000パック(鳥居薬品):標準化スギ花粉エキス原液として、スギ花粉症の減感作療法に用いる新投与経路医薬品。類薬はないが、皮下注射液は国内承認済み。
 用法・用量は、増量期として投与開始後2週間、1週目200JAU/mL、2週目2000JAU/mLの用量を1日1回、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込む。その後5分間はうがい・飲食を控える。増量期終了後、維持期として2000JAU/mLを1日1回1mL、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲む込む。海外での承認はない。


 さて、この薬剤を処方するには医師免許の他に、学会指定の講習会を受けて処方資格を取得する必要があります。
 つまり医院・病院ならどこでも処方してもらえるわけではなく、アレルギー専門医かつ講習会受講者がいる病院でなければダメなんです。いずれ処方可能医師リストがネット上に公開される予定と聞いています。

 2013.11.30に東京で開催された日本アレルギー学会の最終日にこの講習会がありました。
 事前登録制で1000人限定。私は691人目の受付でした。学会参加費17000円の他に、さらに参加費3000円を徴収されます(高いなあ)。
 時間前に会場へ行くと、人であふれて何となくものものしい雰囲気。
 「会場に入る際は購入した青いテキストを提示してください。確認できなければ入場できません。
 と声高に叫ぶ係員の脇から行列を作ってぞろぞろ入場する医師達。
 「途中入場・退出はできませんのでトイレは事前に済ませておいてください。
 と叫んでいる係員もいました。
 「なんだなんだ?缶詰状態にして新興宗教の集会でも始まるのか?
 といぶかる私。
 定刻から遅れること約10分、ようやく講習会が始まり3人の演者の講演を聴講しました。

★ プログラム
 「舌下免疫療法の実際と対応」
  司会: 増山 敬祐(山梨大学医学部 耳鼻咽喉科頭頸部外科)
 1.舌下免疫療法のためのアレルギー性鼻炎の正しい診断法
     米倉 修二(千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科)
 2.舌下免疫療法の実際
     後藤 穣(日本医科大学 耳鼻咽喉科学)
 3.舌下免疫療法のadverse effects (アナフィラキシー対策)
     中村 陽一(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター)


 基本的な知識の解説が中心で、実際のノウハウは乏しい印象。
 ちょっと肩すかしを食らった気分です。

 質疑応答で気になったQ&A;
・皮下免疫療法を行っている患者さんが舌下免疫療法への切り替えを希望された時に、どのように移行するのがよいか?
・エキスを2分間口に含ませた後に飲み込むとあるが、吐き出した方が副作用が少ないのではないか?
 しかし「これからの検討課題です」と明確な回答はありませんでした。
 講演の中で、口腔粘膜の違和感や痒みや嘔気など軽度の副作用の頻度は決して少なくはないというお話でしたが、その副作用が出た場合の対策も示されませんでした。中止すべきか減量すべきか吐き出し法に代えるべきか・・・?

 まあ、講習会は物々しい割りには実際の診療に今ひとつ直結しない感がありましたが、兎にも角にもこれで私も処方できる資格が取得できたことになります。よかったよかった。
 発売は来年予定。
 スギ花粉症に悩まされてQOLが障害されている患者さんに役立つことができれば、と考えております。
 私自身もスギ花粉症患者なので試みたいところではありますが、残念ながら禁忌事項に該当してしまいました。
 ダニに対する舌下錠も研究開発されているとの情報もあり、すると通年性アレルギー性鼻炎や喘息の診療も将来大きく変わるかもしれない・・・こちらも期待が膨らみますね。

<参考HP>
スギ花粉アレルゲンエキスを用いた舌下投与による減感作(免疫)療法薬の治験薬製造までの道(鳥居薬品)・・・エキス剤の販売元です。
花粉症の根治もある「舌下免疫療法」からiPS細胞で注目の再生医療までを全網羅 ここまで治る!“超”先端医療(ダイヤモンドオンライン)
 ・・・この中でスギ花粉エキス舌下免疫療法の有効率が示されています;
「舌下免疫療法で治療した場合治療を受けた患者の7~8割は症状が軽くなる、と大久保教授。このうちの1割は症状がなくなるという。これは根治するということだ。5割は症状が半分くらいに軽くなり、ピークの1週間だけ薬を飲んだり、症状が出たときだけ服用できる。あと2割は症状が軽くなり、残り2割は治療前と変わらない。症状が変わらない2割はアレルギーよりも過敏症など別の原因が考えられる。」
【花粉症の新対策】根本治療できる!?舌下減感作(舌下免疫)療法とは(ブログ)
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