小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アレルゲンコンポーネント2021:PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)

2021年06月17日 16時02分48秒 | 予防接種
PFAS(ピーファスと読みます)は花粉-食物アレルギー症候群の略称です。
花粉と食物アレルギーがなぜ関係あるの?
と不思議に思う方、その通りですよね。

でも、自然界の摂理がこの病態を作っているらしいのです。
花粉が原因になるアレルギー疾患が、いわゆる花粉症です。
花粉の中のアレルゲン成分(アレルゲンコンポーネント)に人の免疫システムが反応して症状が出るというメカニズム。

一方、PFASに関係する食物アレルゲンは果物や野菜、すなわち植物由来が中心です。
樹木と植物・・・仲間ですよね。
その成分に似た構造があっても不思議ではありません。
事実、植物の進化の過程で生まれた、生存競争を勝ち抜くためのタンパクなどがそれに相当しています。

そして、花粉症を発症したヒトが、そのアレルゲン成分と似た構造を持つ果物や野菜と反応するのがPFASです。
この花粉症にはこの果物・野菜という関係が成り立つのも特徴といえます。
まず花粉症を発症して、それと関連する果物・野菜を食べると症状が出るようになるのが普通の経過です。
症状は口の中だけのことが多く、PFASは「口腔アレルギー症候群」とも呼ばれます。
アレルゲンはヒトの消化液でその分解されて立体構造が失われるとアレルゲン性を失ってしまいます。
なので消化吸収されてから全身性の症状を出すことはまれです。

小児臨床アレルギー学会2021の教育セミナーで、近藤康人先生(藤田保健衛生大学教授)からPFASについてレクチャーがありました。
知識のアップデートとして、視聴メモと私のコメントを記しておきます。

PFASの歴史
1942年に Tuft らがシラカンバ花粉症と果物(リンゴ、西洋なし、サクランボ)との関係を報告
1978年に Lowenstein らが花粉と食物の共通抗原性を証明

有名になったのはここ10-20年くらいの印象ですが、もう40年以上前に証明されていたのですね。

 シラカンバ花粉アレルゲン
シラカンバは Birch(学名:Betula verrucosa)

【Bet v 1(PR-10)】
・生体防御タンパク(Pathogenesis-relater protein)の一つで、花粉だけでなく種や実にも存在し、症状を誘発するが、Profilinと比べて種が限定される。

Bet v 2(Profilin)
・Pan-allergenと呼ばれ、多くの種に普遍的に存在しているため、様々な植物間で交叉抗原性の主な原因となっているが、症状を起こさないこともある。

シラカンバの主要アレルゲンは Bet v 1 というコンポーネントです。
これに反応する場合は、いろいろな花粉を一緒に検査しても、シラカンバだけで陽性になるパターンが多い。
一方、Bet v 2 に反応してシラカンバが陽性になる場合は、多数のほかの花粉でも弱陽性になるパターンが多くなります。
多数の似たアレルゲンが弱陽性の場合は、症状と関連しないことが多く、あまり意味がないと考えられています。

 生体防御タンパク(Pathogenesis-relater proteins: PR-P)
・生体防御タンパクとは、病原体攻撃または非生物的ストレスにより誘発される生体防御タンパク質。
・外敵から植物自身を守る働きをする。
・植物が病原体からの攻撃や、干ばつ、洪水、慣例などの攻撃を受けると、防御機構として誘発される。
・生体防御タンパクには17群が知られている。
・Bet v 1 はPR-Pの10番目(PR-10)に属する。

このPR-Pは植物が自分を守るために進化の過程で獲得したシステムであり、
全く同じでなくても似た構造の物質を、多種類の植物がもっているもの。

そしてこのような成分がアレルギーを惹起する性質を持つことがあると、
多種類の植物に反応してしまいます。

また、多種類に共通するアレルゲン構造は植物だけには限らず、
広く動植物に分布しています。
その視点から分類したものが「アレルゲンスーパーファミリー」です。


アレルゲンスーパーファミリー(食物アレルギー)
共通の起源から進化してきたタンパク質は同じファミリーに分類される。
共通の基本構造を有しているため交差抗原/交差反応を生じやすい。

植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(プロラミン)
・穀物のプロラミン:Tri a 19(小麦)など
・Bifunctional inhibitor:Hor a 15(大麦)など
・2Sアルブミン:Jug r 1(クルミ)など
・Non-specific lipid-transfer proteins(nsLTP)など

(クーピン)
・ビシリン:Pis s 1(エンドウ)など
・レグミン:Mac i 2(マカダミア)など

(Bet v 1-like)
・Bet v 1:Mal d 1(リンゴ)など

(Profilin-like)
・プロフィリン:Cuc m 2(メロン)など

動植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(EF-hand)
・植物 ポルカルチン:Bra r 5(菜の花)
・動物 パルブアルブミン:Gad c 1(タラ)など

動物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(Tropomyosin-like)
・トロポミオシン Pen m 1(ブラックタイガー)など

この辺から複雑化して混乱してきますね。

 Bet v 1 ホモログ(PR-10)のアレルゲン
Bet v 1 ホモログは生体防御タンパク(PR-10)なので、様々な植物にも存在する。
カバノキ科アレルギーの人は、リンゴなど様々な食品にアレルギーを起こす。

(花粉)
カバノキ科:Bet v 1(シラカンバ)、Aln g 1(ハンノキ)、Cor a 1(ハシバミ)、Car b 1(シデ)
ブナ科:Fag s 1(ブナ)、Que a 1(オーク)、Cas s 1(クリ)

(食物)
セリ科:Apo g 1(セロリ)、Dau c 1(ニンジン)
バラ科:Mal d 1(リンゴ)、Fra a 1(イチゴ)、Pru ar 1(アンズ)、Pru p 1(モモ)、Pru av 1(サクランボ)、Pyr c 1(ナシ)、Rub i 1(キイチゴ)
ナス科:Sola l 4(トマト)
マタタビ科:Act d 8(グリーンキウイ)、Act c 8(ゴールドキウイ)
マメ科:Ara h 8(ピーナッツ)、Gly m 4(大豆)、Vig r 1(緑豆)
カバノキ科:Cor a 1.04(ヘーゼル)
クルミ科:Jug r 5(クルミ)

★ Bet v 1 とMal d 1 のアミノ酸配列上の同一性は56%。

 Bet v 1 ホモログ:Bet v 1 とのアミノ酸相同性
Aln g 1(ハンノキ)とBet v 1(シラカンバ)の相同性は81%。この二つのコンポーネントとの相同性は以下の通り;
バラ科食物(リンゴ、モモ、アンズ、サクランボ、西洋梨、レッドラズベリー)→ 55-60%
セリ科食物(セロリ、ニンジン)→ 約40%
マタタビ科食物(キウイ)→ 約50%
ナス科(トマト)→ 45%
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)→ 75%
マメ科(ピーナッツ、大豆、緑豆)→ 43-49%

Bet v 1 の特徴
・生体防御タンパク質:様々な植物にも存在するため、バラ科食物などにアレルギーを起こす。
・OASの主な原因:IgEエピトープがタンパク表面上にあるため、Bet v 1 ホモログを含む食品を摂取した直後に口腔内でアレルギーを生じる。
・加熱や消化酵素に弱い:缶詰やジャムなど軽度の加熱処理が施されることで摂取可能になる。

 Bet v 1 ホモログとOAS(口腔内アレルギー症候群)
・Bet v 1 ホモログのIgEエピトープは構造的エピトープのため、加熱に弱い(=加熱すると食べられる)、消化酵素に弱い(=症状は口腔内限局)
・症状は「口腔内アレルギー症候群」(Oral allergy syndrome)として現れる:口唇や口腔内、のどや耳の奥のかゆみ、ぴりぴり感やチカチカという異常感覚。口唇や口腔内に軽微な浮腫を伴うことあり。

PFAS(pollen-food allergy syndrome)の概念
・花粉-食物アレルギー症候群とは、花粉感作後に、花粉と交叉抗原性を有する植物生食物を経口摂取してアレルギー症状を来す病態
・PFASは口腔咽頭症状に限局することが多く、口腔咽頭症状を主徴とすることから「口腔アレルギー症候群」(oral allergy syndrome)とも呼ばれる。

□ PFAS一覧表

PFASの指導・管理上の注意点
・摂食時に口腔違和感を感じる食品(果物・野菜)の除去
・Bet v 1 ホモログを含む食品の“しぼりたてジュース”を不用意に一気に大量に飲むことを避ける
・加熱処理した野菜や果物の加工食品は食べてもよい
・果物(植物)のコンポーネント含有量は以下の状況で異なる;
 品種間
 季節および熟成度
 部位(上部・下部)
 生育過程、貯蔵過程で受けるストレスの程度


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アレルゲンコンポーネント2021:小麦

2021年06月15日 08時26分36秒 | 予防接種
アレルゲンコンポーネント情報アップデート、二つ目は小麦です。
レクチャーの講師は相原雄幸先生。

昔から小麦のアレルゲン検査の結果は実際の症状との一致率が低いことが指摘されてきました。
陽性でも症状が出ないことがあったり、
陰性でも症状が出ることがあったり、
せっかく検査したのに結果と患者さんを前にして、説明に困るという状況。

小麦の一成分であるω5グリアジンが検査できるようになると、
その悩みが一部解消しました。

では、レクチャーのメモと私のコメントです。


食物アレルギーの原因食物(食物アレルギー診療の手引き2017→ 2020)
1.鶏卵(39.0%→ 35%)
2.牛乳(21.8%→ 22%)
3.小麦(11.7%→ 11%)


ベスト3はこの3年間では入れ替えがありません。
4位以降ではクルミが増えたというデータがあります。


新規発症の原因食物中の小麦の順位(ベスト5)
0歳:3位
1-2歳:圏外
3-6歳:圏外
7-17歳:4位
18歳以上:2位


三大食物アレルゲンは乳児期に発症し、大人になる前に治るイメージがあります。
しかしこのデータを見ると、小麦に関しては小学生以上で新たに発生する食物アレルギーの上位に食い込んでいることがわかり、意外な事実です。

同様に、鶏卵も3-6歳、7-17歳での新規発症が第5位という事実に驚きました。
なお、牛乳は1歳で2位、1-2歳で4位、それ以降は圏外という結果は頷けるものです。


□ FDEIAの原因食物(食物アレルギーガイドライン2016)
1.小麦(62%)
2.甲殻類(28%)
3.ソバ(3%)
4.魚(2%)
5.果物(1%)
6.牛乳(1%)


FDEIAとは「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という長い病名の略です。
食べ物だけでは症状が出ない、
運動だけでは症状が出ない、
しかし特定の食べ物+運動という状況でアナフィラキシー(激しいアレルギー症状)が出るという病態。

不思議ですよね。
運動すると食べたものの吸収がよくなるので症状が出やすいと説明されています。
しかし運動すると血流が筋肉に集中して消化管は乏血状態になることが想定され、
すると消化吸収力は落ちるのではないか、と私は疑問に思っています。

以前から、FDEIA原因のメインは小麦とされていました。


小麦タンパク画分とイムノキャップ特異的IgE測定項目
              
小麦 → 水溶性タンパク(小麦、f4)
   → 不溶性タンパク(グルテン、f79) → アルコール溶解 → グリアジン ー ω-5グリアジン(f419)Tri a 19
                       → アルコール不溶 → グルテニン ー 高分子グルテニン Tri a 26


このフローはアレルゲンコンポーネント検査項目同士の位置関係をわかりやすく表しています。
特異的IgE抗体検査において、
・小麦 ・・・水溶性タンパクに対する抗体
・グルテン・・・水不溶性タンパクに対する抗体
・ω-5グリアジン・・・水不溶性かつアルコール溶解するタンパクに対する抗体
となります。


小麦の水溶性タンパク中のコンポーネント
・α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター Tri a 15, 28, 29, 30(Baker's Asthma)
・アシル-CoAオキシダーゼ
・ペルオキシダーゼ
・脂質輸送タンパク質(LTP) Tri a 14


この中で注目すべきは最初の「α-アミラーゼ/トリプシンインヒビター」です。
このコンポーネントはパン屋さんの喘息の原因になると昔から有名でした。
食べるのではなくパンを作っている過程で小麦粉末を吸い込むと喘息発作が出るという病態。


小麦およびω-5グリアジン特異的IgE抗体価の感度&特異度
・小麦:     感度100%、特異度28.2%
・ω-5グリアジン:感度76.2%、特異度87.4%


アレルゲン検査項目の「小麦」の限界を証明する数字です。
「小麦」の感度100%とは、すべての小麦アレルギー患者さん(100人中100人)が陽性になることを意味します。
「小麦」の特異度28.2%は、「小麦」陽性でも100-28.2=71.8%は小麦を食べても無症状であることを意味します。
すると、検査する価値が微妙になります。

一方の「ω-5グリアジン」では、
「ω-5グリアジン」の感度76.2%とは、小麦アレルギー患者さんの100-76.2=23.8%は陰性に出てしまう、
「ω-5グリアジン」の特異度87.4%は、この検査が陽性の場合、87.4%が食べると症状が出ます。

さて、どちらの検査が有用でしょうか。
現在は小麦アレルギーを強く疑った場合、まず「小麦」を調べ、
陽性であった場合は「ω-5グリアジン」を追加検査することが推奨されています。


 即時型小麦アレルギー診断フロー

小麦 0.7未満 → 小麦アレルギー症状の既往 なし → 摂取開始を検討
                        あり → 経口負荷試験
   0.7以上 → ω-5グリアジン 3.5未満 → 経口負荷試験
                  3.5以上 → 小麦アレルギーと診断


小麦アレルギー完全除去症例への負荷試験対応

即時症状の既往 なし → 小麦 クラス1以下 → ω-5グリアジン クラス0 → 中等量
                      → ω-5グリアジン クラス1以上 → 少量
           → 小麦 クラス2以上 → 少量
即時症状の既往 あり → アナフィラキシー既往なし → 少量
             アナフィラキシー既往あり → 専門医療機関への紹介を考慮


ω-5グリアジンを経時的に測定することにより、
小麦アレルギーの耐性化(食べられるようになること)の指標としても有用です。


FDEIA(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)
・「食物アレルギーの診療の手引き2017」では特殊型に分類されていたが、
「食物アレルギーの診療の手引き2020」では特別扱いが外された。

・定義の変更(食物アレルギー診療ガイドライン2016)
1.食物摂取後の運動によってアナフィラキシーが誘発される
2.食物摂取、運動単独では症状の発現はない。
3.即時型アレルギーの既往がある場合や、食物経口免疫療法後などは含まない。
食物経口免疫療法後にFDEIA症状を発現する例が増えたため。

・新しい分類案
Primary:従来のもの
Secondary:経口免疫療法後、経皮/経粘膜感作、その他


一時期「経口免疫療法」がブームとなりアレルギー界を席巻しました。
しかし副作用が無視できず、一般臨床で行うことは危険と判断され、
現在は「研究目的」という位置づけに収まっています。

この「経口免疫療法」後、耐性獲得(食べられるようになること)しても、
運動が組み合わさるとアナフィラキシーを起こす例が報告されるようになり、
新たな病態として認識されるに至りました。


FDEIAと小麦
FDEIAの原因食物(日本国内);食物アレルギー診療ガイドライン2016より
1.小麦(62%)
2.甲殻類(28%)
3.ソバ(3%)
4.魚(2%)
5.果物、牛乳(各1%)

FDEIAの原因食物(世界);PubMed2016より
1.小麦(49%)
2.エビ/カニ(16%)
3.野菜(10%)
4.果物(8%)
5.ナッツ(3%)
6.卵、魚、牛乳(各1%)


FDEIAの原因食物は小麦が最多、次が甲殻類であることは世界共通ですが、
諸外国では第3位に野菜が入っているのに対し、日本ではベスト5の圏外ですね。
なぜなんだろう?


 WDEIAと小麦抗原プロテイン解析
・小麦やグルテンよりも、ω-5グリアジン特異的IgE抗体は陽性率が高く(80%)、小麦とω-5グリアジンを同時に測定することが有用である。
・小麦特異的IgE抗体が陰性、ω-5グリアジン特異的IgE抗体陽性、というパターンもあり得る。
・しかし小児ではω-5グリアジン陽性率が低いため、診断上の有用性は成人と比較して限定的である。

ω-5グリアジンがFDEIAの診断根拠となる」と一時期騒がれましたが、小児例ではそれほど有用性はなく、現在は負荷試験を含めて総合的に診断することになっています。


 化粧品による経皮感作「“茶のしずく”石けん事件」
・化粧品の加水分解小麦タンパクによる経皮・経粘膜感作

・2009年に福富らが報告(Fukutomi Y et al. JACI 127:531-533, 2011)
加水分解小麦配合の洗顔石けんにより感作され、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)誘発
原因抗原は「グルパール19S」
食物抗原に対する耐性獲得は可逆的である。
経皮感作の証明。
感作中止により多くは改善。
・・・などの教訓が得られた。


この「茶のしずく石けん事件」は衝撃的でした。
その少し前から、「二重抗原曝露説」という考え方がアレルギー学会で広まり、
 口から入ると消化吸収され栄養分として取り込める(経口免疫寛容)
 皮膚から入ると排除すべく免疫システムが働く(経皮感作)
と画期的ではあるがホント?と専門家が悩んでいるときに、
この「茶のしずく石けん事件」が発生し、
いみじくも二重抗原曝露説を現実的に証明してしまったのです。

それから、
「食物アレルギーの原因は経皮感作がメインである」
との考え方が広まり、乳児湿疹・乳児アトピー性皮膚炎を今まで以上に熱心に治療するようになり、
その結果、食物アレルギーの発生率減少および幼児期以降の喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症の発症も抑制できるのではないかと考えられるに至りました。

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アレルゲンコンポーネント2021:ナッツアレルギー

2021年06月13日 16時10分19秒 | 予防接種
近年、アレルギー検査の精度がどんどん上がってきています。
従来は検査で陽性でも実際に食べると無症状だったり、弱陽性でも強い症状が出たり、
今ひとつ信頼できない検査レベルでした。

ある食材の中にはアレルゲンとなりえる成分(コンポーネント)がいくつもあります。
強い症状を引き起こすコンポーネント、
症状をほとんど生じないコンポーネント、
などの特徴がわかってきました。
それを検査に応用できると、診断精度が上がります。

まだ、すべてのアレルゲンでコンポーネント診断ができませんが、
2021年6月時点で以下のコンポーネントが検査できるようになっています。

卵白
・オボムコイド
牛乳
・α-ラクトアルブミン
・β-ラクトグロブリン
・カゼイン
小麦
・ω-5グリアジン
大豆
・Gly m 4
ピーナッツ
・Ara h 2
ラテックス
・Hev b 6.02
クルミ
・Jug r 1(2018年保険適用)
カシューナッツ
・Ana o 3(2018年保険適用)

先日、WEB配信された日本小児臨床アレルギー学会2021の中に、
「アレルゲンコンポーネントをもちいた食物アレルギー診療のいま」
という教育セミナーがあり、
聴講して知識のアップデートができましたのでメモを残しておきます。

まずはナッツアレルギー(演者は北林耐先生)から。


□ 食物アレルギーの原因食物の変遷

(2015年)
 1. 鶏卵
 2. 牛乳
 3. 小麦
 4. ピーナッツ
 5. イクラ
 6. エビ
 7. キウイ
 8. クルミ
 9. ソバ
 10. 大豆

(2018年)
 1. 鶏卵
 2. 牛乳
 3. 小麦
 4. クルミ
 5. ピーナッツ
 6. イクラ
 7. エビ
 8. ソバ
 9. カシューナッツ
 10. 大豆


・・・ナッツ類の躍進が読み取れます。
クルミは8位から4位へ、カシューナッツは11位から9位へ。
より細かく見ると・・・


□ ナッツアレルギーの変遷と年齢別頻度

・原因食物としてナッツ類の占める割合;
(2012年)2.0%
(2015年)3.3%
(2018年)8.2%

・年齢別食物アレルギー原因食物(2018年)
(1-2歳)1.鶏卵、2.魚卵、3.ナッツ、4.牛乳、5.果物
(3-6歳)1.ナッツ、2.魚卵、3.ピーナッツ、4.果物、5.鶏卵
(7-17歳)1.果物、2.甲殻類、3.ナッツ、4.小麦、5.鶏卵


・・・ナッツアレルギーは増加傾向にあり、
幼児期は常にベスト3に入っていて要注意です。
ここで一つ注意点、ピーナッツは名前からナッツ類の仲間と思い込みがちですが、
実は豆類でピーナッツの仲間ではなく大豆に近い食品です。


□ アレルゲン表示の変更

・現在、表示義務のある「特定原材料」7品目、
表示推奨される「特定原材料に準ずるもの」21品目が制定されている。

・ナッツ類では、「特定原材料に準ずるもの」の項目に、
それまでのクルミ、カシューナッツに加えてアーモンドが追加された。


□ ナッツアレルギーの内訳(2018年調査);
 1. クルミ(62.9%)
 2. カシューナッツ(20.6%)
 3. アーモンド(5.3%)
 4. マカダミアナッツ
 5. ヘーゼルナッツ
 6. カカオ
 7. ピスタチオ
 8. ココナッツ
 9. ペカンナッツ


・・・以前はナッツと言えばアーモンドというイメージでしたが、
現在はクルミがダントツですね。スウィーツに使われるようになったからかな。


□ ピーナッツとクルミの交差反応率

・ピーナッツが他の豆類(エンドウ豆、レンズ豆、インゲン豆)と交差反応する確率は5%

・クルミが他のナッツ類(ブラジルナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ)と交差反応する確率は37%


前述したように、ピーナッツはナッツの仲間ではなく、豆類に分類されます。


□ 植物学的分類によるピーナッツ、ナッツ類の位置づけ

・バラ亜綱ーマメ目ーマメ科ーラッカセイ属ーピーナッツ
・バラ亜綱ーバラ目ーバラ科ーサクラ属ーアーモンド
・バラ亜綱ームクロジ目ーウルシ科ーカシューナットノキ属ーカシューナッツ
・バラ亜綱ームクロジ目ーウルシ科ーカイノキ属ーピスタチオ
・バラ亜綱ーヤマモガシ目ーヤマモガシ科ーマカダミア属ーマカダミアナッツ

・マンサク亜綱ークルミ目ークルミ科ークルミ属ークルミ
・マンサク亜綱ークルミ目ークルミ科ーペカン属ーペカンナッツ
・マンサク亜綱ーブナ目ーカバノキ科ーハシバミ属ーヘーゼルナッツ

・ビワモドキ亜綱ーアオイ目ーアオギリ科ーカカオ属ーカカオ
・ビワモドキ亜綱ーサガリバナ目ーサガリバナ科ーブラジルナッツ属ーブラジルナッツ


学術的分類によると、上位3項目まで一緒だと近縁種として交差反応が起きやすいと言われています。
つまり、カシューナッツとピスタチオ、クルミとペカンナッツ(ピーカンナッツ)の組み合わせです。
どういうことかというと、
「カシューナッツで症状が出る人はピスタチオでも出る可能性大」
「クルミで症状が出る人はペカンナッツでも出る可能性大」
だから要注意、です。


□ ピーナッツ、ナッツ類のアレルゲンコンポーネント

・一つのナッツの中に複数のアレルギーを起こす成分(アレルゲンコンポーネント)が存在することが証明されている。

・アレルゲンコンポーネントは食材の種類を超えて共通の構造を持つことが多く、その視点からの分類も成り立つ。

・共通の構造の例;
 プロラミン(LTP、2Sアルブミン)
 クーピン(7Sグロブリン、11Sグロブリン)
 PR10
 プロフィリン
 オレオシン

・現在保険適用されている検査項目では、
 ピーナッの Ara h 2 → 2Sアルブミンの仲間
 カシューナッツの Ana o 3 → 2Sアルブミンの仲間
 クルミの Jug r 1 → 2Sアルブミンの仲間 

・Ana o 3:感度87.5%、特異度70.3%
・Jug r 1:感度87.6%、特異度75.0%
と報告されています。

要は、植物には進化上、似通った構造が存在し、その一部がアレルゲンとして作用する(アレルゲンコンポーネント)、
だから複数のナッツに反応することもあり得る、という理解でよろしいかと。


□ アレルゲンコンポーネントの特徴と傾向
全身症状: プロフィリン < PR-10 < LTP < 貯蔵タンパク(※)
安定性(熱・消化)プロフィリン < PR-10 < LTP、貯蔵タンパク
交差性:  貯蔵タンパク < LTP < PR-10 < プロフィリン
含有量:  貯蔵タンパク >> プロフィリン、PR-10、LTP
※ 貯蔵タンパク:2Sアルブミン、7Sグロブリン、11Sグロブリン、プロラミンなど


貯蔵タンパクの中の「2Sアルブミン」が要注意!
前述のように、ナッツのアレルゲンコンポーネント検査項目はすべてこの「2Sアルブミン」に属しています。


□ クルミアレルギーの診断フロー
疑われたときは特異的IgE抗体でクルミJug r 1 を検査;

クルミ 0.35 未満 かつ Jug r 1 0.35 未満 → 摂取開始を検討
          かつ Jug r 1 0.35 以上 → 経口負荷試験

クルミ 0.35 以上 かつ Jug r 1 1 未満 → 経口負荷試験
          かつ Jug r 1 1 以上 → クルミアレルギーと診断
(数値の単位は UA/mL)


数値でフローを作っていただくと診断はスムースに進むと思われます。


□ カシューナッツアレルギーの診断フロー
疑われたときは特異的IgE抗体でカシューナッツAna o 3 を検査;

カシューナッツ 0.35 未満 かつ Ana o 3 0.35 未満 → 摂取開始を検討
              かつ Ana o 3 0.35 以上 → 経口負荷試験

カシューナッツ 0.35 以上 かつ Ana o 3 2.5 未満 → 経口負荷試験
              かつ Ana o 3 2.5 以上 → カシューナッツアレルギーと診断
(数値の単位は UA/mL)

★ Ana o 3 はピスタチオアレルギーの診断にも同様に使用可能

★ カシューナッツアレルギーのある患者が原因不明のアナフィラキシーを起こした場合は、ペクチンを原因物質として想起する必要がある。ペクチンは添加物として種々の食品に使用されている(ジャム、ヨーグルト、アイス、スムージー)が、とくに温州ミカンに多く含まれる。


□ ピーナッツアレルギーの診断フロー
疑われたときは、特異的IgE抗体でピーナッツAra h 2 を検査する;

ピーナッツ 0.35 未満 → 摂取開始を検討

ピーナッツ 0.35 以上 50 未満 →  Ara h 2 4.0 未満 → 経口負荷試験
                →  Ara h 2 4.0以上 → ピーナッツアレルギーと診断 

ピーナッツ 50以上  → ピーナッツアレルギーと診断


ピーナッツアレルギーでは Ara h 2 陽性の場合、強い症状が出る傾向があると判定されます。
ただ、陰性でもまれに強い症状が出ることがありますので、100%安心はできないのが玉に瑕です。


□ ピーナッツアレルギーが重篤になる理由(2009年の論文より)
IgE免疫系を介することなく、補体経路を活性化して大量のC3aを産生し、マクロファージ、肥満細胞および好塩基球を刺激してPAFまたはヒスタミンを放出させる。
この機序とIgEを介した肥満細胞の脱顆粒が同時に起こることで、ピーナッツによる誘発症状が重篤になる。
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