小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児科医なら誰でも経験する「思春期早発症」のトラウマ

2024年07月01日 07時29分08秒 | 学校健診
私は小児科医です。
30年以上診療していますので、中堅というよりベテランという言葉が合うかもしれません。
かつ中学校の学校医も担当しています。

群馬県みなかみ町の学校健診で「下半身を覗いた」エピソードは、
学校医が思春期早発症をチェックする目的で行った診察行為であると報道されました。

この「思春期早発症」という病気、
ベテラン小児科医なら一度ならず経験していると思います。

数年前、「身長が伸びないので心配」と中学2年男子がお父さんに連れられて受診。
確かに中学校に入ってから、スパートがかかるはずの身長が止まったままです。
精密検査目的で、総合病院小児科に紹介状を書きました。

その後、紹介先の小児科担当医から返信が届きました。
その内容は…

・思春期早発症と診断
・すでに骨端線が閉じているので治療対象にならない

というものでした。

私は愕然としました。
「そうか、それがあったか…」
というのが素直な感想です。
もし彼が小学校の時にチェックされていたら…

その後、本人が別件で受診されたときにいろいろ聞いてみました。
すると父親から、

・小学4年生のとき、急に身長が伸びて、うっすら陰毛が生えてきた。
・少し早いかな、と思った。
・でも元気だし、身長が伸びるのはうれしかったので病院へ行かなかった。
・今回、病院へ行き、
「思春期はすでに終わっており、治療対象になりません」
と言われてガッカリした、後悔した。

というコメントがありました。

思春期早発症は思春期が早く始まり早く終わるため、身長が途中で止まってしまい、
一時期はみんなを追い抜きますが、最終的には低身長で終わってしまいます。
現在は治療薬があるので、治療条件を満たせば適応となり、
上記例も身長で悩まずに済んだかもしれません。

そうなんです。

もし彼の小学校の学校医が話題になったみなかみ町の医師であれば、
彼は早期に発見・診断され、治療を受けて最終身長がもう少し高くなれた可能性があります。

思春期を迎えた男子の二次性徴は、外見ではわかりにくいとされています。
「声変わり」が特徴的ではありますが、これは二次性徴完成期に出現します。

一方の女子は胸の膨らみから始まりますので、
母親が気づきやすい傾向があります。
小学校に上がった頃、胸の膨らみを心配して受診される女子は、
年に数人はいます。

では男子は何を持って疑うべきか…
それは「成長曲線」です。
標準曲線を大きく上回る値を取れば、
思春期早発症を含めたいろいろな病気の可能性を考慮し、
病院での精密検査を推奨します。

彼の小学校で「成長曲線」が検討されていたかどうかは不明です。
実はこの成長曲線、学校健診に導入されたのは数年前。
それまでは「点」で評価され、「線」では検討されなかったため、
見落としが多いので導入された経緯があります。

学校健診も進化しているのです。

何回も書いていますが、感情的に「セクハラ」と訴える人たちに、
「子どもの人権を守る」こととはどういうことなのか、
今一度考えていただきたい。

「デリケートゾーン、デリケートパーツをむやみに他人に見せない」
という性教育は大切ですが、
「健康・病気のチェックの際は、大切なところだからこそしっかり診察してもらう」
という教育が並行して行われないと、
本人が「病気の診断が遅れる」というデメリットを被ることになります。

健診ではデリケートゾーンもしっかり診察してもらうことが、
子どもの命を守ることにつながり、
ひいては子どもの人権を守ることにつながるのではないでしょうか。

「デリケートゾーンを他人に見せない」教育だけが一人歩きすると、
社会人の健康診断で女性は肌を見せない、
子宮頚がん検診の受診率が低いまま、
とう日本の悪しき習慣が改善されません。

<参考記事>

■ 群馬の学校健診問題で注目 見落としがちな「思春期早発症」の怖さ
2024/6/30:毎日新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 群馬県みなかみ町立小学校で6月に実施された健康診断で、複数の児童が70代の男性医師に下着の中をのぞかれたなどと訴え、町教育委員会は保護者らに謝罪した。学校健診を巡ってはさまざまな意見が飛び交うが、専門家からは学校健診の後退を懸念する声もあがる。 

◇「思春期早発症」とは? 
 今回問題となった健診を担当した男性医師は「思春期早発症」について診るため児童の下着の中を確認したと説明している。思春期早発症とはどのような病気なのだろうか。 
 群馬大医学部付属病院小児科の大津義晃講師(小児内分泌)によると、通常よりも思春期が早く始まる病気で、体が早期に成熟するため、一時的に身長が伸びた後に小柄のまま成長が止まってしまうほか、小学校低学年で陰毛が生えたり月経が始まったりし、本人の心理的負担も大きくなる。特に男の子の場合は、脳腫瘍など重大な病気が原因で起こるケースが7~8割を占めるという。 
 文部科学省監修の「児童生徒等の健康診断マニュアル」にも注意すべき疾病及び異常として掲載されているが、「同年代の子どもより一時的に身長の伸びが大きくなるので、周囲の大人は『大きくなったね』と喜び、病気を見落としてしまうことが多い」と大津講師。「身長に関しては、早期に治療を始めないと間に合わない。子どもの成長は取り戻せないので、早期発見が重要だ」と指摘する。 

◇「早発」の目安は? 
 思春期早発症の目安として、男の子の場合は小学4年までに陰毛が生える、女の子は小学1年までに胸が膨らむ、小学2年までに陰毛が生えるなどが挙げられる。陰毛や乳房、精巣の大きさの確認に加え、血液検査や頭部のMRI検査などで診断する。 
 大津講師は過去5年で小学校の健康診断を3回担当し、教職員の立ち会いのもとで思春期早発症の疑いのあった3人の下腹部を確認したことがあるという。その際は全員の健康診断が終わった後、児童を個別に呼び出して「体が大人になるのが早すぎる病気かもしれない」と説明し、児童の了承を得て陰毛の有無を確認した。保護者らのクレームも来ていないという。 
・・・

<参考サイト>(私のブログです)
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医師からみた学校健診

2024年06月30日 11時00分15秒 | 学校健診
群馬県みなかみ町の学校健診における「下半身を診た」騒ぎは、
ほとんどが“セクハラ”という視点から報道されています。
事前の説明がなかったので、生徒が驚いて騒いだのは無理もありません。

現実は、その学校医が小児科の内分泌専門医だったので、
思春期早発症のチェック(陰毛の有無を観察)もした、
というものでした。

さて私はこのトラブルを耳にしたとき、町の乳児検診を思い出しました。
基本的に小児科医が担当しますが、小児科医の数が少ないため、
他科の医師が担当することもあるのは学校医と同じ事情です。

そして他科の医師の間では小児科医の評判が悪いのです。
「小児科医は診察に時間をかけすぎる」
「そのために私(他科医師)は倍の人数を診察する羽目になる、不公平だ!」
と。

どういうことかおわかりですね。
小児科医の診察は他科医師より丁寧なのです。
(他科医師を批判するわけではありません)

ですからみなかみ市のトラブルを耳にしたとき、私は、
「説明なしに下腹部を観察するのは一般人にとってはありえない」
という感想とともに、
「そこまで診察するなんてすごい」という印象も少し持ちました。

下記記事の中で森戸先生が発言しているように、
「プライベートゾーンというのはむやみに見せてはいけないんだ、それは嫌だって言っていいんだ」
という教育が浸透してきた影響を指摘しています。
私はそれとともに、
「自分の健康を守るために、時にはプライベートゾーンを見せて診察を受けることも必要だ」
という教育も必要だと思います。

この辺をあやふやにしてきたために、
社会人女性の内科診察でも「下着を取る取らない問題」が延々と続き、
日本では子宮頚がんワクチン受診率が低いまま、
という弊害が発生し続けているのでしょう。


■ 小児科医が伝える「学校健診」の現状 小学校との打ち合わせの機会「ないことが多い」【学校健診問題を考える(下)医師の見方】
2024/6/26:Jcastニュース)より抜粋(下線は私が引きました);

 今、小学校における健康診断のあり方が問われている。 
 群馬県みなかみ町の小学校健診で、校医が児童の下着の中をのぞき下半身を視診したという報道をはじめ、脱衣のままの健診や下腹部の診察が問題となった。 
 児童が不安や不快を感じることなく、適切な健診を行うためには、何が必要なのだろうか。 
 2回シリーズの第2回では、小児科医に学校側と校医側の双方に求められる対応について、見解を聞いた。 

▶ 医師の専門分野「特に念入りに」は必要なし 
 どうかん山こどもクリニックの小児科医・森戸やすみさんはJ-CASTニュースの取材に、「配慮のない健診は昔の方が多かったと思う」としつつも、現在は「人権意識も高まり、子どもへの配慮が必要だというのが一般的に浸透してきたにも関わらず、昔ながらのやり方をする人もいます」と問題点を挙げる。 
 みなかみ町の校医は、自身の専門分野について診察したと話しているというが、森戸さんは、学校健診は「全国どこで受けても同じようなスクリーニングの健診が受けられるということが前提」だと説明する。 
 スクリーニングとは病気の可能性がないかどうかをチェックするもので、特定の病気を見つけるための「検診」ではない。こうした目的は、校医側も学校側も理解しておく必要がある。 「たとえば学校医が自分は心臓や呼吸器の専門家だからといって、心臓や肺の健診を特に念入りにやりますといったことは求められていません。事前に保護者と児童に提案があり『せっかくの機会なので、うちの子はそれも診てください』ということがあれば問題にならなかったと思います。ですが、前もって説明がないまま『自分は専門家なので診た』というのはよくなかったと思います」 
 学校健診には文部科学省と日本小児保健学会が作ったマニュアルがあり、「本来は健診の要請を受けた医師会や団体、あるいは医師個人が周知しておくべき」だとした。

▶ 学校側には児童や保護者への説明が求められる
 森戸さんは、学校側には打ち合わせの機会を設けてほしいと話す。 
 森戸さんによると、学校健診の際、「プライバシーを守るための衝立はこんな感じでいいですかとか、同性の先生が立ち会いますとか、そういうことを打ち合わせする機会がないことが多い」という。 
 健診の際以外にも、健診を受けられなかった児童や不登校児への対応に関する打ち合わせは事前にない、と話す。 
 健診は学校側に定められた義務。そのため、保護者や児童に対する「(学校健診を)どのように行うか、いつやるか、その目的は何か、配慮の方法といった説明は、学校側が主体となってしてほしいなと思います」(森戸さん)。 
 また、学校側が健診の目的や主体、文科省のマニュアルについて重視していない場合もある。それだけに、個々の学校ではなく文科省や自治体による保護者への説明や周知があってもよいのではないか、と提案する。

脱衣自体が問題になることは「正しい診断に結びつかない
 児童生徒への心情やプライバシーの配慮は当然必要だが、脱衣自体が問題になることは、正しい診察につながらないのではないか。森戸さんは、次のように見解を述べた。 「学校健診では、何百人、少なくとも何十人を一度に短時間で見なければいけません。その時に情報量が多くないと、正しい診断に結びつかないことがあります。たとえば背骨に側弯がないかどうかということは、着衣のままでは見落としがありえます」 
 また、アトピー性皮膚炎の悪化や傷、皮下出血から医療の忌避や虐待の発見につながることも少なくない。森戸さん自身も、子どもの身体に不自然なあざを発見し、虐待の発見につながった経験があると話した。 「なるべく脱衣でいることが望ましいですが、当然、脱衣のまま待っている必要はありません。すぐ脱げるような状態で、診察自体はプライバシーが保たれる状況で、同性の第三者の同席のもと行われるのがよいと思います」

▶ 学校健診をなくすことは「子どもにとってデメリットの方が大きい」
 SNSで一部上がっている学校健診は不要との意見に対して、森戸さんは「(学校健診に)代わるいい方法があるならやめてもいいと思うんですけど」としつつ、次のように話す。 「同じ年齢の子が大勢集まっているところで、一度にスクリーニングとして診察をするというのは大変効率がよく、保護者は医療機関に連れて行かずにすみ、子どもにとっても健康の問題が早期発見できてとてもいい制度だと思います。だからこそ、明治時代からずっと続いてきているので」 
 さらに、こう続ける。 「以前には医師による盗撮被害もあり、そういった問題のある医師がいるから、配慮のない学校があるから感情的にやめてしまおうというのでは、子どもにとってデメリットの方が大きいです。うまく運用する方法見つけるのが大人の役目ではないかなと思います」 
 今まで大きな問題として扱われてこなかった学校健診での配慮の問題。なぜ今、表面化してきているのか。森戸さんはそれはいい傾向だと見ている。 「子ども自身も、プライベートゾーンというのはむやみに見せてはいけないんだ、それは嫌だって言っていいんだ、疑問を呈していいんだっていうことが浸透してきたからではないかと思います」

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教師から診た学校健診

2024年06月30日 10時22分37秒 | 学校健診
学校健診の方法と存在意義が揺れています。
トコトン意見を出し合って結論を引き出すよい機会だと思います。

ネット上で、2回に分けて「教師の見方」「医師の見方」を連続掲載している記事が目に留まりました。
賛否両論を公平に扱っていそうなので、紹介します。

▢ ポイント;

▶ 健診の際に学校側に必要な対応3点
(1)健康診断の方法について、学校医との打ち合わせを入念に行うこと   
(2)健康診断の方法は、児童生徒のプライバシーや心情に十分配慮した方法とすること(他の児童生徒に個人情報が漏れないように配慮すること、できるだけ着衣のまま健診を受けるなど)   
(3)健診の目的、方法を保護者と児童生徒に事前に説明すること。特にどのような疾患が見つかる可能性があるのか、をしっかりと事前に説明すること

 → 私個人(小児科医&学校医)の話になりますが、
(1)…養護教諭とメールで十分にやり取りします。
(2)…診察前後に着替えスペースがあるようなないような状態だったので「しっかり仕切りをして見えないスペースを作ってください」と要望しました。
(3)…事前に私が作成した説明プリントを、生徒家族に渡すことを提案しました。しかし、もうひとりの学校医の反対に遭い、却下され、養護教諭が発行する「保健便り」に簡易版が掲載されただけでした。

▶ 健診を担当する校医に求めたい対応3点
1つ目:打ち合わせ時に「○○のために、□□を△△のように診る」といった具合に健診内容を丁寧に説明してもらいたい。
2つ目:『どうしても、いやな検査があったら「やめてほしい」と言っていい』ということを、児童生徒本人に許可してほしい。
3つ目:健診に関する学校からの要望をできるだけ受容してほしい。

 → 私見ですが、
1つ目…事前にメールで養護教諭と綿密に連絡を取り合いました。
2つ目…「検診を受けるのは権利であって義務ではない」「イヤなら受けなくてよい」ことを事前に通知してあります。
3つ目…私の提案をことごとく拒否されましたが、私はそれを受け入れました。

皆さんに今一度考えて欲しいのですが、
「子どもの健康を守る」「子どもの人権を守る」
とはどういうことでしょうか?
「恥ずかしがる子は着衣診察」が理想ですか?

私は以下のように考えます。
・海外のように幼児期からの性教育を充実させ、デリケートゾーンは守ることを教える。
・健康・病気チェックの際は例外で、肌を見せることが必要な場合がある。
以上をないがしろにして事を進めると、トラブルが発生します。

例えば、子宮頚がんワクチン副反応問題。
この問題の根本原因を、私は「性教育の歯止め規定」だと思っています。
日本の性教育では「性交渉そのものを教えてはいけない」という暗黙のルールがあります。
つまり、性感染症予防にコンドームが有効、という授業に「性交渉」の説明はないのです。
このようなゆがんだ教育、あるいは教育不全状態のまま、
筋肉注射という未経験の痛みを伴う処置が見切り発車され、
受ける女子生徒達には不安・恐怖感がつのり、それをマスコミが増長して問題が大きくなったのです。

イギリスでは性教育がしっかりしており、
子宮頚がんワクチンがなぜ必要なのかを生徒自身に説明・納得してもらい、
接種率8割以上を維持していると聞いています。

性に関するタブーを少しずつ剥がしていく努力をしないと、
このような派生問題が今後も発生し続けることでしょう。


■ 問題相次ぐ「学校健診」 校医に求めるのは「いやな検査があったら『やめてほしい』と言っていい」許可【学校健診問題を考える(上)教師の見方】
2024/6/25:Jcastニュース)より抜粋(下線は私が引きました);
 小学校の健康診断をめぐる問題が相次いで報道されている。 
 説明のない脱衣や下腹部の診察がなされ、児童が不快感を訴えたことが発端だ。こうした不安や不快を児童が感じることなく、適切な健診を行うためには、何が必要なのだろうか。
 学校側と校医側の双方に見解を聞き、2回にわたって学校健診の現状と今後を考える。前半では、現役の小学校教師に、学校側と校医側のそれぞれにどのような対応や配慮が必要かを聞いた。 

▶ 24年5月末~6月に3件の学校健診の問題が報道 
 福岡県北九州市八幡西区の小学校で2024年6月5日に行われた健診では、医師に下腹部を触られたとして、児童が不快感を訴えたことが報じられた。医師は腸の音を聞くためにへそ周辺に聴診器を当てたと説明しており、市教育委員会は配慮が不足していた、としているという。 
 また、群馬県みなかみ町の小学校で4日に行われた健診では、医師が児童の下着の中をのぞき、下半身を視診していたことが報じられた。報道によると、医師は内分泌学を専門とし、成長を見るため必要な診察だった旨を主張。町教育委員会と学校は、文部科学省の指針に沿っていなかった、として保護者説明会で謝罪した。  さらに5月には、神奈川県横浜市内の小学校で、男性医師による上半身裸での診察があり、泣き出す女子児童もいたとするX投稿が波紋を広げた。この投稿は大きな注目を集め、メディアに取り上げられた。31日には、市立小学校339校のうち16校で上半身裸での健診をしていたと、市教育委員会が明らかにしたと報じられた。 
 もっとも、これらの問題に先立つ24年1月には、文部科学省が全国の教育委員会等へ、学校健診の際には児童のプライバシーや心情に配慮を求める通知を出している。
 それにもかかわらず、こうした問題が続出する事態となってしまった。適切な健診を行うには学校と医師はそれぞれ、どのような配慮や対応が必要なのだろうか。

▶ 学校側に必要な3つの対応
「学校における健康診断は、児童生徒の健康の保持増進を目的として行われるものです。これは、学校保健安全法によって規定され、言うまでもなく児童生徒が健康に日常生活を送ることができるように、行われるものです」 
 公立小学校の教師で、教育に関する書籍を多数執筆している山田洋一さんはJ-CASTニュースに、学校健診についてこのように説明する。 
 一方で、 「しかし、健康のためだからと言って、どんな検査の仕方であっても黙って受け入れるべきだというのは、適切ではありません」 と断言した。 
 直近で問題となった学校健診では、複数の児童が不快感を訴えたことが報じられている。山田さんは、「本来、心身の健康のために行われるべき健康診断で、心身不調の原因となるような扱いを受けるのは、不適切なことと考えられます」と述べた。 
 そのうえで山田さんは、健診の際に学校側に必要な対応として、次の3点を挙げる。
(1)健康診断の方法について、学校医との打ち合わせを入念に行うこと   
(2)健康診断の方法は、児童生徒のプライバシーや心情に十分配慮した方法とすること(他の児童生徒に個人情報が漏れないように配慮すること、できるだけ着衣のまま健診を受けるなど)   
(3)健診の目的、方法を保護者と児童生徒に事前に説明すること。特にどのような疾患が見つかる可能性があるのか、をしっかりと事前に説明すること

▶ 校医側には求めたい3つの対応
 一方で、健診を担当する校医に求めたい対応はどうか。 
 山田さんは1つ目として、打ち合わせ時に「○○のために、□□を△△のように診る」といった具合に健診内容を丁寧に説明してもらいたいと挙げた。そうすることで、養護教諭や担任教員からの児童生徒への丁寧な説明につながるという。 「通常、学校健診は短時間で行われるため、一人を診察する時間も極端に短くしなくてはなりません。もちろん、健診の目的や方法をその場で説明することは、現実的には無理です。しかし、児童生徒が安心して健診を受けられる環境づくりとして、健診の目的や方法の説明は必須です。代理的にであっても、不安なく健診をするための説明が、必要でしょう」 
 さらに、「こうした健診に対する安心、安全な環境づくりは、将来にわたって児童生徒が疾病の予防や早期発見に努める態度につながるもので、国民の健やかな営みを将来にわたって保障するものになるはずです」とも述べた。 
 2つ目は、「『どうしても、いやな検査があったら「やめてほしい」と言っていい』ということを、児童生徒本人に許可してもらえると、健診への安心度が高まります」と伝える。 「学校には、人に触られることを過度に嫌がる児童生徒、なれない環境、不安を感じる環境が極端に苦手な児童生徒などもいます。ぜひ、そうした児童への配慮にご協力を得られたらと思います」 
 3つ目は、「健診に関する学校からの要望をできるだけ受容していただけると、ありがたく思います」と挙げた。 
 なぜなら学校は医師に対し、短時間で多数の児童を診なければならない健診に来てもらうことを「たいへん申し訳なく思っています」。そのため、「児童生徒に関する個別の要望を伝えにくいと感じている場合も少なくありません」と状況を明かした。 「こうした状況を超えて、真に児童生徒の健康のための健診が具現できるように、できれば医師と学校とが対等な関係を結べるとよいと考えます」

▶ 問題の表面化の理由は「インフォームドコンセント」の考え方の浸透
 今回問題となったような健診の仕方は、今までも行われていたはずだ。実際、毎日新聞の報道によると、みなかみ町の校医は、全員ではなかったかもしれないが昨年も同様に診察したと記憶している旨話している。なぜ今、学校健診の問題が大きく取り上げられるようになったのか。 
 山田さんは、医師や看護師に十分な説明をしてもらい、納得のうえで医療行為を受ける「インフォームドコンセント」の考え方が普及してきたことが大きいと見解を示した。 「医師は、社会的信用が高く、その診療行為は聖域であり、『お任せする』のが当然のこと。疑問をもつことさえ許されない雰囲気が、日本の社会には長くありました」 
 山田さんはそう背景を説明した。インフォームドコンセントの考え方は30年ほど前から徐々に普及してきたといい、どの治療を選ぶのかといった診療の主体が患者にあるとする考え方が「当たり前」になってきた。  こうした考え方の変化が学校健診の場においても普及し、「『お医者さんのしていることだから、間違いない』という従来の考え方が払拭され、『不適切なのでは?』と疑問の声をあげやすくなった社会の状況が、その背景にあると考えられます」と山田さんはいう。 
 一方で、「コロナ禍を経験し、医療行為を含めた人との接触に関して、人々が敏感になっているということも言えるのではないでしょうか」とも述べる。 「日本の社会において、『当たり前』と考えられてきた人との距離や接し方が、見直されてきていると言えるでしょう」

▶ 学校健診は「すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味」で重要
 学校健診時の問題の頻出を受け、SNSでは学校健診は不要だ、やめるべきと言った声も上がっている。  山田さんは「確かに、短時間で多くの児童生徒の健診を行うことは、その精度が十分理想的なものだとは言えないでしょう」としつつも、次のように、学校健診の必要性を説明する。 「学校における健康診断で重大な疾患が見つかる例もあること、またこれだけ多くの児童生徒に漏れなく健診をし、疾病を早期に治療する機会を得る方法が、現状では他にないと言えます」 
 さらに、家庭状況や保護者の健康に対する考え方は、児童生徒ごとに異なる。つまり、「この程度でも、病院に受診させる」という家庭と、「どうして、こんなにひどくなるまで受診させなかったのだ」という家庭とが混在するのだ。 「そうした家庭状況に関係なく、すべての児童生徒を医療機関へとつなぐという意味において、学校における健康診断は、今なお重要な機会であることは間違いがありません」 
 またもう1点、虐待を受けている児童生徒の早期発見のためにも、学校健診は必要だという。 「外傷を見つける、虐待に起因する成長不全を見逃さない重要な機会として、学校における健康診断が機能していることを忘れてはならないと思います」

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学校健診は即刻、中止すべきである。

2024年06月30日 05時58分17秒 | 学校健診
という意見の記事が目に留まりました。
一部「?」という箇所もありますが、
不毛な感情論ではなく、科学的な検証に基づく意見なので、
あえて取りあげ、紹介します。

そもそも「集団検診は必要なのか?」という視点から検証し、
「日本の学校健診にはエビデンスがない!」と断言してます。

さて、日本でも乳児検診は順次集団検診から個別検診へ移行してきました。
これは流れ作業ではなく「ひとりひとりしっかり診察すべき」という視点です。

一方の学校健診は集団検診のまま。
一人に1分もかけない診察、その中で様々な疾患の可能性をチェックし、
もし見逃せば訴訟に発展して医師免許さえ危なくなる…
これは担当する医師から見ても相当“ブラック”な仕事です。
事実、あるアンケートでは「医師の82%が学校健診をやりたくない」との回答。

ではなぜ、学校健診が継続しているのか?
いろいろな要因が考えられますが、
一つの大きな要因は「コスト」と「手間」でしょうか。

個別検診にすると、膨大な時間とお金が必要になります。
自治体はそれを嫌がることでしょう。

現代の子どもは忙しい。親も忙しい。
その中で、時間を作って健診目的でクリニックを受診する…
生徒家族も嫌がることでしょう。

記事の中では、外国の事情と比較しています。
諸外国では疾患発見のメリットとコストを天秤にかけ、
「学校健診は意味がない」
というエビデンスに基づいて廃止されてきた経緯を紹介しています。

例えば、アメリカの予防医学作業部会(USPSTF)で小児に推奨されている検査項目は以下の通り;
A(検査推奨):HIV・梅毒、血液型不適合とB型肝炎ウイルス(対象者が妊娠している場合に限定)
B(検査推奨):不安、うつ病、クラミジア、淋菌、B型肝炎ウイルス、親密なパートナーによる暴力、弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)、肥満(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)
・・・あれ?側弯症がないですね。共通した項目がほとんどありません。
逆に、日本では行っていない血液検査が入っています。さらに、不安・うつ病のチェックや性感染症など、健康を直接悪化させる切羽詰まった項目ばかり。

純粋に日本でも
「学校健診、やる価値があるのか?」
を検討すべきタイミングであると私も感じました。

診察の際の着衣・脱衣問題などは問題の本質ではありません。
私が検索した範囲では、外国では、
「病気があるかどうか判断するのだから、肌を見せて当たり前」
という文化があるようです。

日本では成人して会社の検診を受けるときも、
女性が下着を取る・取らないでもめていますね。
また、子宮頚がん検診の受診率も低いままです。

これは「恥じらいの文化」という日本特有のものかもしれません。
しかし、世界標準を目指すなら、
「デリケートゾーンは大切にする」
ことと並行して、
「病気の有無をチェックするときは大切なところもしっかり診てもらう」
と、子どもの頃から教育すべきでしょう。


■ 日本の医師は「利権」のために児童を虐待している…群馬の「陰毛視診」問題で若手医師が抱いた違和感
2024/6/24:President online)より抜粋(下線は私が引きました);
 群馬県みなかみ町の小学校で、70代の男性医師が、本人や保護者の合意を得ずに、児童の下半身を視診していたことが、問題になっている。医師の大脇幸志郎さんは「男性医師は『視診しなければ診断を誤る』と話しているようだが、理解できない。そもそも学校健診の大半はエビデンスがない」という――。 
・・・
▶ アメリカの基準なら「日本の学校健診は過剰」 
 健康診断に意味があったかどうか、健康診断をするグループとしないグループを追跡した試験がたくさん行われています。 
 そうした試験結果をまとめる専門家団体の米国予防医学作業部会(USPSTF)が、どんな診察なら適切かをまとめています。 
 結論から言いますと、USPSTFを基準にすると、日本で行われている学校健診は大幅に過剰です。

▶ 検査が推奨されているのは「HIV・梅毒の検査」など 
 例えば、前述の文部科学省通知では「特に留意が必要」なものとして「脊柱の疾病」「胸郭の疾病」「皮膚疾患」「心臓の疾病」をあげています。 
 ただ、USPSTFはこれらの検査を支持していません。 
 USPSTFが「小児(Pediatric)」または「思春期(Adolescent)」に対して検討している検査は55件。 
 そのうち一斉検査に対して最高ランクの「A」がついているもの(つまり、検査するよう推奨しているもの)は、HIV・梅毒の検査と、対象者が妊娠している場合に限って血液型不適合B型肝炎ウイルスの検査だけです。 
 次の「B」ランクも検査推奨ですが、これにあたるのは「不安」、「うつ病」、「クラミジア」、「淋菌」、「B型肝炎ウイルス」、「親密なパートナーによる暴力」、「弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)」、「肥満」です(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)。 

▶ 日本の学校健診にはエビデンスがない 
 日本では、「学校保健安全法施行規則」において学校健診の内容が決められています。 
---------- 
一 身長及び体重 
二 栄養状態 
三 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態 
四 視力及び聴力 
五 眼の疾病及び異常の有無 
六 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無 
七 歯及び口腔の疾病及び異常の有無 
八 結核の有無 
九 心臓の疾病及び異常の有無 
十 尿 
十一 その他の疾病及び異常の有無 
---------- 
 一見して、USPSTFの推奨とほとんど一致していないことがわかると思います。  
「脊柱及び胸郭の疾病」に含まれる側弯症はUSPSTFでは「I」ランク、つまり検査が有効であるというエビデンスがないと判定されています。 
 もちろんなんでもアメリカに合わせるのがいいわけではありません。 
 ただ、USPSTFは詳細なデータを公表していますが、日本の学校保健安全法施行規則にはなんのエビデンスも添えられていません。 

▶ 古い時代の健診がズルズル続いているだけ 
 ちなみに、前述の文科省通知で参照している「児童生徒等の健康診断マニュアル」には引用文献がひとつも挙げられていません。 
 なぜ日本の学校健診はこんな残念なことになっているのでしょう。 
 その理由は、リストに「結核」があることから察せられます。 
 このリストの原型ができたのは1958年。 
 要するに、データに基づいて健診の「利益」と「害」をちゃんと評価するという思想がまだなかったころに学校健診のやりかたを細かく決めたまま、検証されることもなくズルズル続いているのです。

▶ 世界では健診の見直しが進んでいる 
 一方、世界的には健診のあり方を見直す動きが進んでいます。1960年代以降、世界保健機関(WHO)やアメリカ、カナダの団体が健診の検証を呼びかけたことが、USPSTFなどの事業につながりました。その運動の中にいたデイヴィッド・サケットという人がのちに「エビデンスに基づく医学の父」と呼ばれるようになります。 
 一方、日本の学校健診はエビデンスに基づいていません。「診察はやればやるほどよい」という安直な考えがまかり通り、冒頭に紹介したようなトラブルを引き起こしています。
・・・
 また、無駄な診察のために大量の公的資金と貴重な医療従事者の労働力が費やされていることも問題です。
  私はまず学校健診を完全に廃止すべきだと思います。効果不明で逆効果の疑いさえある健診によって、リソースが無駄遣いされるだけでなく、子供の心身を危険にさらしているからです。 
 そのうえで、健診の効果を検証するために、それぞれの検査項目が本当に必要なのかどうか、検査するグループとしないグループを作って比較する必要があります。この試験を実行するためには、前提として一斉健診が廃止されていなければなりません。 
・・・

---------- 
大脇 幸志郎(おおわき・こうしろう) 医師 
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。 
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運動器検診(学校健診の一部)の意義と問題点

2024年04月26日 08時14分13秒 | 学校健診
整形外科医の書いた子どもの運動器障害の本を読みました。

編著:柏口新二、著:梅村悟、笠次良爾

学校医として担当する学校健診の参考になるかと購入したのですが、
そこには運動器検診の意義と問題点が記されており、
とても勉強になりました。
後半の各疾患の解説も読みましたが、一旦覚えても忘れそう…。

現在の学校健診には内科診察の他に、運動器検診が組み込まれています。
そこで発見される病気は、ほとんどが小児科医の扱わない整形外科疾患です。

なぜか?

2000年代になって、子どもの運動能力は二分化しました。
一方は、ゲームに明け暮れて運動不足、基本的な運動能力の低下した子どもたち。
もう一方は、スポーツクラブチームに所属し、練習のしすぎで身体を壊す子どもたち。
それを問題視した整形外科医達が主導して、
「学校健診でそれらをチェックしよう」
とねじ込んできたのです。

しかし、学校医の中で整形外科医はたったの5%しかいません。
先日耳にした、
「整形外科医に聞きました、学校医をやりたいですか?」
というアンケート調査では、
「ふだんの診療が忙しいのでやりたくない」
という結果だったそうな。
…これを聞いて、愕然としました。
担当する医師達は、
「ふだんの忙しい診療に穴を開けて身を削って健診を担当している」
のに。

運動器検診を学校健診に導入した張本人達は、
それを担当することなく、
現場の混乱を“高みの見物”している!? …怒りさえ感じました。

昨今、学校健診の着衣・脱衣問題が話題になっています。
「健診ごときで上半身裸になるのはおかしい」
という論調です。

しかし、感情論で反対する人々は、
発見される病気の代表である「側弯症」のことをどこまで知っているのか疑問に思うことがしばしば。
思春期に発症する「特発性側弯症」は無症状です。
しかし成長に伴い急激に進行し、将来手術が必要になることがあります。
発症初期は生徒の背中から背骨をじっくり見て、疑うレベル。
それを発見して専門医につなぐのが学校健診の役割です。

それを「服の上から判断しろ」というのは無理な話です。
例えるなら、
「まだ痛みのない虫歯を口を開けないで探せ!」
と云っているようなもの。

そう、学校健診は、
「症状がない状態で健康に問題がないかどうか」
を判断する、繊細な作業なのです。

しかし、見切り発車的に始まった「運動器検診」、
混乱の原因が“非専門医による診察”だけではなく、
発見された後の「事後措置」があやふやなままであることも大きな要因です。

この本の中でも、養護教諭へのアンケート調査結果からあぶり出された、運動器検診の課題として4つを上げています;

1.検診前の保険調査票の問題
・運動器検診の各項目について家庭であらかじめ保護者がチェックすることになっているが記入漏れが多い。
・配布された調査票のチェック欄がわかりにくく、レイアウトも使いづらいことが一因。

2.検診時の二次検診受診基準の曖昧さ、学校医の専門科の問題
・基準が曖昧なため二次検診受診勧告の比率が学校により大きく異なる。
・しゃがみ込みテストと片足立ちテストができない生徒に二次検診を勧告することが適切?…紹介されて診察する整形外科医も戸惑っているという現状。
・学校医は内科医や小児科医が担当することが多く、運動器を扱う整形外科医は少数。

3.検診後の事後措置の基準が不明瞭
・しゃがみ込みテストと片足立ちテストができない生徒に対して、何をどのように指導すればよいのかが決められていない。
・そもそも無症状で日常生活にも支障がないので、経過観察のチェックポイントや病院受診を勧める基準もわからない(※ 1)

4.全体として業務量と所要時間のアンバランス、想定疾病がわからない、そもそも検診の必要性について疑問が残る
・運動器検診が導入されて診察に時間がかかるようになったけど、学校健診に使用される時間は変わらない…1時間に100人くらいこなす医師もいるらしい(私は1時間半に60人が限界です)
・その準備や設定に当たる現場の養護教諭が疲弊している。
・チェック項目を詰め込んで、しかし非専門医の診察、かつ時間制限のある学校健診(運動器検診)がひつようなのか?…もし必要と考えるなら適切な診察方法と所要時間を提示すべきである(私見)

問題視されている“しゃがむ” “片足立ち”の解説部分を抜粋しておきます;

【しゃがめない】
・原因の第一は「足関節の硬さ」です。しかし、足関節のストレッチを行い、柔軟性が改善されてもしゃがめない子が多いです。
・そのような子どもは、臀部や腰部など、骨盤の周りの筋の柔軟性が低下し、仙腸関節や腰の骨など能書きが悪くなっていることがあります。そのため骨盤周りの筋へのアプローチも重要となります。

【片足立ちができない】
・バランスの問題(平衡感覚)だけではなく、姿勢や筋力の問題が大きく関わっています。人間の重心は骨盤あたり(仙骨前面)にあります。子どもは大人と比べると重心が相対的に高い位置にあるため不安定です。
・そのうえ姿勢が悪いと骨盤が過度に前屈したり後傾したりしてさらに不安定となります。その結果、重心の位置が安定せず片足立ちが不安定になります。
・また、大臀筋や内転筋、腰部・腹部の筋など骨盤を安定させる筋の弱化も問題となります。

ウ〜ン、問題提起しているこの本に解決法を期待したのですが…残念ながら引用文だけでは「だからどうすればいいの?」の答えになっていません。
検索した結果見つけたこちらからイラストを引用しておきます。





うん、どのタイミングで「整形外科要受診」なのか明確に書かれていて参考になります。
私はこの内容を担当している中学校の養護教諭に情報提供しました。

また、日本側弯症学会宛に、
・学会として側弯症検診・運動器検診の現場の混乱をどう捉えているのか?
・専門医の視点から「着衣診察」で側弯症検診が可能かどうか?
に関して見解を公表すべきではないかと問いかけました。
…現在検討しているとの返答をいただきました。


<参考>
(日本学校保健会)のP25にストレッチ法が解説されていました。
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やっぱり成長曲線!

2024年03月28日 14時45分27秒 | 学校健診
成長曲線シリーズ第三弾。
関連本は医療関係者向けが多いのですが、珍しく一般向けの啓蒙書が新書版で発行されていました。

子どもの異変は「成長曲線」でわかる(小林正子著、小学館新書、2023年発行)

医学書では正常より異常に焦点を当てて解説されることが多く、学校健診で境界例に遭遇すると「この子は異常なのか?正常なのか?」と迷い、フリーズしてしまうことがあります。

本書の著者は医師ではないので、少し視点が異なります。
病気に関する記載は十分とはいえませんが、正常のバリエーションや正常と異常の間の「グレーゾーン」について詳しく書かれており、理解が深まりました。

一番大きな気づきは、
「思春期早発症はスペクトラムである」
ということ。
思春期を迎えると身長の伸びがスパートしますが、それが早く来る子ども(早熟型)ほど低身長に終わる傾向があり、遅く来る子(晩熟型)はゆっくり長く成長するので最終身長が高くなる傾向がある、という事実。
ですから思春期早発症は超早熟型という位置づけとなり、昔は様子を見るしかありませんでしたが、現在は治療介入ができるようになったのです。

さて、私がフムフム…と頷いたポイントをまとめてみました。

<ポイント>

・思春期の身長スパート開始の平均は、女子は9歳半頃、男子は11歳前後。ただし、
① 小柄な子ではやや遅め(女子では10歳半頃)
② 大柄の子(97パーセンタイル付近)は早め(女子では9歳頃)

・思春期の身長スパートと初潮の関係:
✓身長スパートが始まってぐんぐん身長が伸びているときには初潮はまだ見られず、その伸びが少し緩やかになったかな、そして体重も少し増えてきたかな、という時に初潮が発来する。
✓スパートの時期により初潮までの期間が変わる。身長スパートが標準だと、その2年半〜3年後に初潮を迎え、身長スパートが遅いと3年以上後になる(中には4〜5年後も)。近年の平均初潮年齢は12歳2-3ヶ月。
① 身長スパート開始が標準(9歳半前後) → 初潮まで2〜3年
② 身長スパート開始が標準より早い → 初潮まで2年以内
③ 身長スパート開始が標準より遅い(10歳以降) → 初潮まで3年以上

・身長スパートの開始が早い(早熟型)と大きな伸びが見られるが、最終身長は以前のパーセンタイルよ基準線より低いレベルとなる傾向が認められる。反対に、身長スパート開始が遅い(晩熟型)と最終的に身長が高くなる傾向がある。ただし、最初から大柄の子は早熟であっても背が高くなる。

・思春期女子のからだの変化:身長が急に伸び始める身長スパートの頃にはすでに胸がほんの少し膨らんでいるが、この頃に女子としての成熟が始まり、身体に脂肪の占める割合が増えて、徐々に女性らしい体つきに変わっていく。平均的には9歳を過ぎると男子より脂肪の占める割合が多くなる。
しかし身長の伸びる速度が最大になるまでは、その変化はあまり急速ではない。身長が最大に伸びる頃(最大発育期)、体重もスパートを開始し、やがて身長の伸びが少し穏やかになったかな?と思う頃、初潮がみられる。
初潮を迎えると女性ホルモンの分泌が高まり、その働きで脂肪の占める割合がさらに増加する。一般的に、女性の体脂肪率は男性より10%ほど高い。

・思春期男子のからだの変化:男子は体重30kgを超えた頃から少しずつ男性ホルモンが出始め、体重がスパートする頃は脂肪に対して除脂肪(骨、筋肉、血液など)が顕著に増えていく → 男性ホルモンの働きで次第に男らしい姿へ。

・本格的な筋トレは身長増加が済んでから:身長が伸びる時期は骨が非常に弱くなっており、「骨端線」に過度な負荷がかかると、大事な骨の成長部分が損なわれてしまう危険がある。そのため骨が盛んに伸びている時期は、ウエイトトレーニングなどで関節を傷めることのないよう、運動の仕方に注意することが必要である。骨がウエイトトレーニング負荷に耐えられるようになるまで待つ必要がある。

・思春期早発症は正常発育とはっきり区別できる病態ではなく、連続性がある(スペクトラム)。早熟型は低身長で終わることが多く、晩熟型は早熟型を追い抜く傾向があるが、思春期早発症は“超早熟型”といえるかもしれない。

・思春期早発症は小学生のうち(男子11歳前、女子9歳前)に発見すべし。中学生では遅い。それまで特に大柄でなかった子が急に身長が伸びるので本人も家族も喜びがちであるが、中学生になる前に伸びが止まり、最終的には低身長になってしまう。気がついたらできるだけ早く小児科医を受診して専門医につないでもらい、治療が間に合ってうまくいけば平均的な身長に達することが期待できる。

・幼児期からの肥満は小児肥満にリンクし、夏休みの体重増加も肥満にリンクする。夏休みに不規則な生活を送ると太るが、反対に規則的な生活を心がければやせるチャンスでもある。

・身長を伸ばすポイントは「ぐっすり眠って成長ホルモンをしっかり分泌させること」。
第二次世界大戦までの日本人の畳に座る生活様式は、足の発育にはマイナスだった。戦後、テーブルと椅子の生活になり、栄養事情もよくなったことから、日本の子どもの成長はめざましい伸びを示し、その大部分は足の伸びが寄与していた。ところが、平均身長は1998年〜2000年を境に低下傾向へ転じた。
これは発育段階で最後に伸びるはずの足が十分に伸びきらず、身長スパートが終了してしまったためで、その原因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及によるパソコンや携帯電話やスマートフォン、ゲーム機といった電子機器の登場である。
スマホの長時間使用は、睡眠に悪影響を及ぼす(睡眠時間減少、ブルーライトにより脳が覚醒し睡眠の質が悪化)。深い睡眠が得られない → 成長ホルモンは分泌されない → 身長が伸びない。つまり、身長が伸びる時期にスマートフォンやゲーム機を夜遅くまでいじる生活をしていると、身長の伸びが妨げられる。

・オスグッド病は骨が弱い成長期に大腿四頭筋を使いすぎると発症する。腰椎分離症も骨の弱い成長期に下肢の筋肉を使いすぎると起こる疲労骨折のなれの果てであり、それを放置すると椎間板に負担がかかって傷ついてしまう腰椎すべり症に進展する。

備忘録代わりのメモを記しておきます。

<メモ>

(P17 )2016年(平成28年)に児童生徒の健康診断において、従来の身長・体重・座高の測定項目から座高が削除され、その代わりに身長・体重の測定値をグラフに表すこと、すなわち「身長・体重成長曲線」の作成が文部科学省から学校に対して推奨されるようになった。

(P20)…使用したデータは2000(平成12)年度の「乳幼児身体発育値」と「学校保健統計値」で、0〜18歳の現在のパーセンタイル基準値には、この年度の値を使うことが学会で申し合わされています。

(P25)…パーセンタイル基準線は母子健康手帳で使われています。…帯のようになっていて、帯の中には「各月・年齢の94%の子どもの値が入ります」と書いてあります。上の境界線が97%パーセンタイル、下の境界線が3パーセンタイルにあたります。
…数値だけ眺めていてもわからないことが、グラフ化することで一目瞭然となり、またそれを見た人の共通理解が得られるのです。

(P29 )身長が一番下の3パーセンタイルを大きく下回ったり、次第に離れていく場合は、成長ホルモン分泌不全などが疑われますが、二次的なものが原因であることもあります。
(例)扁桃腺肥大やアデノイド肥大 → 睡眠時無呼吸症候群となり深い睡眠が得られない → 成長ホルモン分泌抑制
…身長が低学年から急に伸びるときは、いわゆる「思春期早発症」が疑われます。身長がドンドン伸びていくので、子どもも保護者も喜びがちですが、早期に身長が止まり、最終的には極端な低身長になる可能性があります。
…グラフの異常は、からだだけでなく心の不調を表すこともあります。

(P32)3歳付近から肥満が発症すると、小学校に入ってさらに肥満度が上がってしまうという調査結果があります。

(P33)身長の伸びが低年齢(女子9歳前、男子11歳前)から急に始まり、女子なら初潮が始まり、男子は髭が生えたり声変わりが起こると、思春期早発症の疑いがあります。
…本来のからだのリズムは、夏は体重が増えないはずなのに、生活習慣の乱れから大幅に増えてしまう子がいます。そうすると体のリズムが乱れたまま、肥満になっていく可能性があります。

(P34)思春期の身長スパート…小柄な子ではやや遅め(女子では10歳半くらい、男子はさらに1年程度遅い)ですが、大柄の97パーセンタイル付近の子は9歳辺りから基準線が上がってきます。…身長スパートは時代が進むにつれて開始時期が早まってきましたが、現在はほぼ落ちついて、女子は9歳半頃から、男子は11歳前後からが平均的な身長スパート開始となっています。

(P36)女子の場合、身長スパートの時期から初潮が発来する時期がだいたいわかります…身長スパートが始まってぐんぐん身長が伸びているときには、初潮はまだ見られません。その伸びが少し緩やかになったかな、そして体重も少し増えてきたかな、という時に初潮が発来します。現在の初潮発来平均年齢は12歳2-3ヶ月です。身長スパートが標準だと、初潮が2年半〜3年後、身長スパートが遅いと3年異常、中には4〜5年後という子もいます。

(P38)身長スパートの開始が早いと大きな伸びが見られますが、やがて止まり、それ以後は伸びが少なくなるために、最終身長は以前のパーセンタイルよ基準線より低いレベルとなります。反対に、身長スパートが遅いと最終的に身長が高くなる傾向があります。ただし、1〜2割程度の例外があります。

(P42)人生の中で身長がとりわけ伸びる時期が2度あります。最初の大きな伸びは、生まれてからの1年間です。
・身長約50cmで生まれた新生児は、生後1年間で約1.5倍の75cmになります。
・4歳になる頃には、生まれたときの約2倍の1mに達します。
・4歳からの身長の伸びは年間約5〜6cmです。
・思春期スパートは、身長も伸び、体重も増える人生最後の発育急伸期です。それまで男女差がほとんどなかった体格に、9歳〜9歳半になると変化が現れます。
・女子は4年生あたりから身長がスルスル伸びて男子を追い抜いていきます。この頃には胸が少し膨らんできますが、これが第二次性徴の始まりです。
・男子は女子より1年半から2年遅れて身長スパートが始まります。遅れてスパートしても、その発育速度の幅は女子より大きいので、やがて女子を追い抜くことになります。
・日本の高校3年生の平均身長は、
(男子)170.8cm
(女子)158.0cm
…しかし現在(2021年)の平均値は過去の最も高い値に比べて、男女ともに数mm下がっています。

(P47)(男子の場合)97パーセンタイルに近い子どもは慎重が10歳付近でスパートし、3パーセンタイル付近の子どもは12歳付近でスパートします。つまり、身長の高い子どもは早熟、小柄な子どもは晩熟傾向と言えます。

(P48)昔は出生体重は3kg、身長50cmが平均でしたが、現在は体重・身長ともに下がってきています。その理由として、
・多胎児が多くなった
・計画出産の影響
・妊娠中の母親のダイエット
などが考えられます。

(P50)小学生となり体重が30kgくらいになると、男女でからだの「中身」に違いが現れ始めます。脂肪と除脂肪(骨や筋肉、血液など)の比率が男女で異なってくるのです。
女子は平均的には9歳を過ぎると、同じ体重増加でも、男子より脂肪の占める割合が多くなります。身長が急に伸び始める身長スパートの頃には、すでに胸がほんの少し膨らんでいますが、この頃に女子としての成熟が始まり、身体に脂肪の占める割合が増えて、徐々に女性らしい体つきに変わっていきます。
しかし身長の伸びる速度が最大になるまでは、その変化はあまり急速ではありません。身長が最大に伸びる頃(最大発育期)、体重もスパートを開始します。やがて身長の伸びが少し穏やかになったかな?と思う頃、初潮が見られます。
初潮を迎えると女性ホルモンの分泌が高まり、その働きで脂肪の占める割合がさらに増加します。一般的に、女性の体脂肪率は男性より10%ほど高くなっています。

(P52)男子は体重30kgを超えた頃から少しずつ男性ホルモンが出始めます。そして体重がスパートする頃は。脂肪に対して除脂肪(骨、筋肉、血液など)が顕著に増えていきます。男性ホルモンの働きで、次第に男らしい姿に変わっていくのです。
ここで忘れてはならないことは、身長が伸びる時期は骨が非常に弱くなっていることです。骨はぐんぐんと長軸方向へ伸びますが、骨密度が増しているわけではありません。また、骨には「骨端線」と呼ばれる細胞分裂する部分があり、そこに過度な負荷がかかると、大事な骨の成長部分が損なわれてしまう危険があります。そのため骨が盛んに伸びている時期は、ウエイトトレーニングなどで関節を傷めることのないよう、運動の仕方に注意することが必要です。激しい筋トレは身長が十分に伸びてからでも遅くありません。

(P54)女子と男子では、スパートの時期は異なりますが、9割ほどが身長 → 体重の順でスパート開始となります。
女子の場合、体重スパートは一般的に身長スパートより2年ほど後になります。これは身長の最大発育期とほぼ同時くらいです。
男子の場合も身長から先に始まりますが、体重はその後1年くらいが一般的で、中には身長のすぐ後から体重がスパートすることもあります。
しかし1割弱ですが、体重が身長よりも先にスパートする例も見られます。女子の場合、体重が先にスパートすると初潮が早く発来する傾向があり、そうなると身長はあまり伸びないことになります。

(P56)身長は朝高く、夜低くなります…こうした身長に見られる一日の変化を日内変動といいますが、それは座高の変化に起因しています。

(P57)思春期の身長スパートにおいて、からだの上体と下体では伸びる時期が異なります…結論として、身長スパートは、まず足が伸び、次いで座高が伸び、最後にまた足が伸びて、やがて止まるといえるでしょう。もちろん例外はありますが、最後の足の伸びる期間が非常に大切です。
ところが近年、最後の足の伸びるはずの時期に「足が伸びない」現象が顕著になっています。男女とも30年前の親世代より「身長に占める足の長さの割合」が減少しており、実際の数値としては、男子17歳で約1cm縮んでいます。

(P59)身長が1年間に1cm未満しか伸びなくなったときに「止まった」と定義されています。一般的には、身長は思春期スパートで大きく伸びた後は次第に伸びが鈍り、18歳くらいで止まる(女子はもう少し早い)といういうことになります(例外あり)。

(P60)身長が止まる時期の目安:男子なら声変わりをした後、女子であれば初潮が発来した後に、徐々に伸びる量は減っていき、やがて止まる時期が訪れます。
一般的には、身長スパートが始まり、1〜2年して最大発育期を迎えて大きく伸び、その後伸びが少し穏やかになった頃が、思春期(第二次性徴)が後半に入ってきた印です。
ただし、最大発育期の後の生活の仕方も重要で、睡眠不足や食事内容、運動の仕方も影響を与えます。

(P64)身長の日内変動:身長は夜より朝の方が高く、起床時が最大ですが、30分後には1cm程度縮み、起床後4〜5時間後に完全に縮み終わります。
伸び縮みするのは「座高」であり、主な部分は「脊椎」です。脊椎は椎骨と呼ばれる骨が連結したもので、成人では合計で31〜32個あり、この椎骨の間には脊椎にかかる負担をやわらげるクッションの役割をする椎間板があり、この柔らかい椎間板の部分が伸び縮みするのです。

(P68)身長・体重の発育は同時に促進されるのではなく、それぞれ増加する季節が異なります。北半球の温帯地域においては、身長は春から夏にかけて伸びが促進され、体重は秋から冬に増加し、夏はほとんど増えません。
日本列島は南北に長く、身長の季節依存は北から南に行くに従って減少し、逆に体重の季節依存性が増すと報告されています。
夏の体重増加は異常な季節変動です。ほとんどの動物にとって、蒸し暑い気候の中では食欲も落ち、動くことも苦痛になります。しかし1970年代にルームエアコンが家庭に普及してきたおかげで、夏でも涼しく快適な環境で過ごせるようになりました。子どもたちは夏休みにルームエアコンのある屋内にいれば食欲も落ちず、学校のある期間と比べて生活習慣も乱れ、からだに脂肪が蓄積しやすくなり、そうした夏休みを繰り返すと肥満になる傾向があります。

(P80)発育段階の初期に急激に発育する思春期早発症は、男女関係なく、程度の差はあるもののそれほど珍しくない病気です。たまたま身長スパートが早く訪れただけということもありますが、こういう場合は、女子であれば3年生の終わりから4年生の初め頃に初潮が来て、そのうち成長が止まり、150cmに満たなかったというケースも多いのです。

(P85)愛情遮断性小人症:子どもが親からの愛情を感じることができず、精神的ストレスが大きくなると、それが原因で成長ホルモンが分泌されにくくなり、睡眠が阻害されたり、食欲がなくなったりして発育遅延を起こすことがあります。

(P98)小学生で肥満度が50%を超える高度肥満の子は、3歳時点で既に肥満であり、さらに3歳以前から発症していることがわかっています。…つまり肥満は、乳児期から始まり、それが改善されずに小学生に持ち越して、やがて高度肥満になる確率が高いということです。

(P102)1日5分だけでも縄跳びをしよう、一緒に30分歩こう、ラジオ体操をしよう、と少しずつでよいので、子どもに声をかけてからだを動かすように促しましょう。

(P104)第二次世界大戦までの日本人の畳に座る生活様式は、足の発育にはマイナスでした。戦後、テーブルと椅子の生活になり、栄養事情もよくなったことから、日本の子どもの成長はめざましい伸びを示し、その大部分は足の伸びが寄与していました。
ところが、平均身長は1998年〜2000年を境にだんだんと低下しています。…これは発育段階で最後に伸びるはずの足が十分に伸びきらず、身長スパートが終了してしまったためと考えられます。
その原因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及によるパソコンや携帯電話やスマートフォン、ゲーム機といった電子機器の登場です。

(P106)2017年の調査では、スマホ所持率は、
(小学生)1割以下
(中学生)95%
(高校生)98%

(P108)スマホの長時間使用は、睡眠時間減少だけではなく、電子機器が発する強い光で脳が覚醒し、睡眠の質が悪くなります。深い睡眠が得られなければ、成長ホルモンは分泌されませんから、当然身長が伸びません。つまり、身長が伸びる時期にスマートフォンやゲーム機を夜遅くまでいじる生活をしていると、身長の伸びが妨げられるのです。
よく眠れなければ朝起きるのがつらくなり、そうすると朝食を摂らない、学校に行っても集中できない、頭痛やめまいなどの不定愁訴を打ったエレなど、身長だけではない、様々な問題を引き起こします。
スマホを与えるときは、一定のルールを決めることが大切です。
✓夜は使わない
✓1日30分〜1時間以内
使い方を間違えると、いろいろよくないことにつながり、身長も伸びなくなることも、子どもにぜひ伝えて欲しいと思います。
身長を伸ばすには、ぐっすり眠って成長ホルモンをしっかり分泌されることが絶対条件です。日中はよく光を浴び、夜はできるだけ強い光を避けるようにしましょう。

(P109)成長ホルモンは眠ってから1時間後、それも夜中の12時〜1時頃に最も分泌されるので、中学生や高校生でも、遅くても12時前には寝るようにしたい者です。
小学生は9〜10時間の睡眠を取らなければ、身体の機能は十分に発達しませんので、9時頃には寝かせるのが理想です。

(P110)身長スパートを遅らせて身長が伸びる期間を長くする方法;
✓子どもを早く寝かせる。夜、TVやスマホ、ゲーム機の光を長時間浴び続けていると、その刺激で第二次性徴がどんどん進んでしまうという報告があります。
✓適度な運動やバランスの取れた食事。…バランス感覚や持久力、筋力をつける最適な時期があります。そして“やり過ぎ”は禁物、骨に負担がかかり、伸びる身長も伸びなくなってしまいます。

(P111)小学生で高度肥満児は、乳児期から肥満であり、親も肥満であることが多く、これは家庭の生活習慣が「太る生活習慣」になっている可能性があります。太っている子はとにかく食事回数が多いものです。…子どもがいつでも
何でも好きなものを食べていいという生活習慣が身についてしまうと、治すのは困難になり、高い確率で肥満になります。


(P113)コロナ禍の期間は、子どもの肥満が明らかに増えました。

(P114)子どもの肥満改善のポイントは「早寝・早起き・朝ご飯」です。それが乱れるのは、たいていは寝る時間が原因です。遅寝になると、早く起きられず、朝ご飯もゆっくり食べられない、一日中ボーッと活力のない生活になってしまう、学習能力が落ちてしまい勉強する意欲も湧かないなど、すべてが悪循環になってしまいます。

(P114)運動が嫌いな子は親が誘って一緒に歩いたり、1日5分だけでもよいので外に出てエネルギーを発散させることが大切です。(P116)また、ラジオ体操などを利用して、親も一緒に身体を動かす習慣をつけましょう。最初は休日だけでもかまいません。…寝る前にストレッチや柔軟体操をするのも,身体を動かす習慣をつけるという意味では大切です。

(P116)夜食は寝る時間の2時間前まで。ご飯を食べると消化するのに1時間半〜2時間かかります。

(P122)骨がつくられる大事な時期は18歳までで、それまでにつくられた骨が弱いと、そこから改善することは難しいことがわかっています。

(P124)1人で食事している子は「切れやすい」ことがアンケート調査でわかりました。…“孤食”は決まったものしか食べないため、栄養の偏りが生じるだけでなく、自分は誰からもかまってもらえない、みてもらえないという不満感や不安感を生むのでしょう。“孤食”児は、頭痛や吐き気など不定愁訴を訴える子の割合が高いこともわかっています。…(P125)孤食を続けていると愛情不足となり身体的にも精神的にも悪い影響が現れます。

(P129)現代の子どもたちは、運動やスポーツが得意な子どもと、ほとんど屋内で過ごし、運動は学校の体育の授業だけ、という運動に無関心な子どもとの二極化が進行しています。

(P139)身長スパート中にウエイトトレーニングを続けると、骨に過度の負担をかけ続けることになり、その結果、骨端線が閉じてしまい、身長の伸びが停止する可能性があります。…アメリカ大リーグで活躍している大谷翔平選手は、高校時代に監督から「まだ骨が成長段階にあるから、1年生の夏までは野手として起用して、ゆっくり成長の階段を上らせる」という方針を告げられ、変化球などの練習はしなかったそうです。

(P143)スキャモンの発育曲線…からだの臓器や器官は一様に発達するわけではなく、それぞれ発達する時期が異なることを示しています。


1.神経型:脳・脊髄・視覚器・頭囲が含まれます。生まれてから最も早く発達し、6歳時で20歳時の約90%、12歳で100%に達します。…12歳までは、様々な基本的動作、運動を日常的に行い、からだを器用に動かす能力や、リズム感やバランス感覚を高めることが重要です。
2.リンパ型:リンパ腺、胸腺、 扁桃腺などが含まれます。学童期に急速に発達し、12歳頃がピークで成人の1.8倍くらいになり、その後次第に落ちて成人の状態になるという、特徴的な曲線を描きます。
3.一般型:身長・体重、呼吸器、消化器、腎臓などの臓器、筋肉や骨、血液量などの発育発達が含まれます。…この時期は体力や持久力をつけることに適しています。
4.生殖型:子宮、卵巣、睾丸、前立腺などの生殖期間の発達で…小学校前半
まではほとんど発達せず、第二次性徴期(思春期)には急激に発達し、男女のからだの変化も顕著になってきます。

(P146)発達には「至適時」があり、機能の発達する時期に、それに関連した働きかけをすることが、最も効果的です。そのため、スキャモンの発育曲線で見たように、非常に早い神経系の発達に合わせて、
(幼児期)運動能力の基本となる、歩く・走る・跳ぶ・投げる・泳ぐ・滑る、などの動作をまず習得し、
(小学生)多様な動作(運動)をできるようにする…
子どもの運動能力が伸びやすい5〜12歳頃までの時期を「ゴールデンエイジ」とも読んでいます。

(P147)からだへの働きかけの基本的順序
1.小学校低学年までに
・動作の習得(いろいろな動作ができるようになる)
・運動の基本的動作を身につけることが大切:走る、蹴る、跳ぶ、スキップする、投げる、受ける、打つ、滑る、泳ぐ、など
・専門的に行うのではなく、いろいろな種目を幅広く
2.小学校高学年から中学時代
・粘り強さの獲得(持久力をつける)
・身体も大きくなり、免疫力も上がる時期
3.身長が最大発育期を過ぎた後で力強さを獲得藤功
・骨がウエイトトレーニングなどの負荷に耐えられる。

(P148)…力強さを獲得するピークは、身長が最も伸びる時期の後に来ます。そして、力強さはピーク後も発達量が大きく落ちることはありません。筋力をつけるためのウエイトトレーニングや過度な運動は骨の細胞分裂に損傷を与え、骨端線が閉じてしまったり、怪我をしたりする恐れもあることから、身長が大きく伸びている時期には控えるべきです。

(P151)オスグッド病の背景:大きな骨では成長軟骨層が中枢側と末梢側の両方に存在し、それぞれで骨の長さを伸ばしていきます。成長軟骨層は筋肉の収縮力により引っ張られて徐々に痛みや変形を起こすことがあり、その最も典型的なのは膝のオスグッド病と呼ばれる骨端症です。大腿四頭筋の力が膝蓋腱を介して成長軟骨層を引っ張り、引っ張られた結果、骨が持ち上がり、見た目でも突出がわかるほどになります。

(P152)腰椎分離症の背景:ふくらはぎの柔軟性低下は大腿部の柔軟性低下より先行して小学校高学年頃に目立ち、大腿部の柔軟性低下は中学生になる頃に強くなります。足の筋肉の柔軟性が下がった時期に走る、跳ぶ、投げるなどの全身運動の場合に腰への負担が大きくなります。…中学生時には、腰の骨は大人のような強さ(骨密度)になっていないため疲労骨折が起こりやすく、疲労骨折が治らないと骨に亀裂ができてしまい、腰椎分離症と呼ばれる状態に進んでしまいます。サッカーや野球のトップ選手では腰椎分離症を持つ割合が40%以上と報告があります。…さらに近くの椎間板に負担がかかって傷ついてしまい、上下の腰の骨を支えきれなくなり腰椎すべり症という状態が起こりうること、亀裂部が衝突を繰り返すことで盛り上がり神経の通り道(脊柱管)を狭くしてしまうこともあります。

<参考>
・「発育グラフソフト」(ダウンロード)…本書で紹介されている、簡単に成長曲線が描けるソフト(Microsoft Excelで使用)


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しつこく「成長曲線」について

2024年02月02日 07時29分12秒 | 学校健診
しつこく「成長曲線」について探求していきます。
日本外来小児科学会2023でも成長曲線の教育講演がありました。

▢ ここまでわかる成長曲線
 虎の門病院小児科 伊藤純子Dr
(2023.⒐9:第32回日本外来小児科学会)

そのメモ書きを備忘録として残しておきます。

◆ 成長障害の定義
以下の1and/or2により成長障害と定義する;
1.低身長:同年齢・同性の子に比べかなり背が低い子
・身長が同性同年齢の標準身長の平均 -2SD以下
2.成長速度低下:年間成長速度がとても遅い子
・成長速度が同性同年齢の標準の平均 -1.5SD以下
 =年間の伸びが4㎝以下ならどの年齢でもこれに該当する
・病気をより反映するのは成長速度>低身長

◆ 身長は正規分布をしており、±2SD内に95.5%が入る。母子手帳はSDと異なるパーセンタイル表示を採用しており、下限ラインの3パーセンタイルは −2SDと微妙にずれる。
・−2SDを下回る児は2.3%(40~50人に1人)
・−2.5SDを下回る児は0.62%(160人に1人)

◆ 成長の評価は点としての実測値だけでなく線としての成長率も重要である。
・出生後1歳までが最も高い:20~25㎝/年
・思春期までは穏やかに低下する:-1.5SDは4㎝を下回らない。
・思春期に入るとスパートが認められる:10㎝/年

◆ 体重は正規分布をとらない。大きい方に偏っている。

◆ 体重の評価には肥満度判定曲線を用いる。
・母子手帳にも掲載されている。

◆ 小児期の成長要因を分析する
・小児期でも乳児期・幼児期・思春期では成長にかかわる要因が異なる;
(Infancy)栄養、インスリン、IGF-1
(Childhood)成長ホルモン、甲状腺ホルモン
(Puberty)性ステロイド

◆ 栄養障害は後を引く…
・乳児期に母乳不足で体重増加不良に陥った場合、それが身長にも影響を及ぼすと、栄養状態を改善しても身長が元のレベルには戻りにくい現象が観察されている。
・つまり低栄養はその後の発育にも大きく影響する。

◆ 成長曲線を活用すべし!
・成長曲線が最もよく病気の原因・経過を語っている。
・明らかな成長率低下がある場合は、必ず何かがある。
成長曲線の描き間違いは意外に多い…何歳何か月まで正確に書き込む習慣を。
(例)小学5年生女子で125㎝は低身長?
 …生まれた月で評価が異なる;
 (3月生まれ→10歳0カ月)-1.8SD  …正常範囲
 (4月生まれ→11歳0か月)-2.8SD  …低身長を疑う
★ 立位と臥位、朝と夕方でも身長は変わる。

◆ 成長障害の原因による分類
※ 下線は成長ホルモン療法の適応(最近増えてきている)
1.内分泌疾患
 ・成長ホルモン分泌不全症
 ・甲状腺機能低下症
 ・クッシング症候群
 ・思春期早発症、など
2.染色体異常
 ・ターナー症候群
 ・SHOX異常症、など
3.骨・軟骨の異常
 ・軟骨無形成症
 ・軟骨低形成症、など
4.奇形症候群
 ・Prader-Willi症候群
 ・Noonan症候群
 ・Silver-Russell症候群
5.低出生体重に関連したもの
 ・SGA性低身長症、など
6.心理社会的原因
 ・愛情遮断症候群
 ・虐待、など
7.慢性疾患・栄養障害・薬剤性、など
 ・腎不全
 ・先天性心疾患
 ・クローン病
 ・栄養障害、など
8.体質的なもの(これが最多で7~8割を占める)
 ・体質性低身長
 ・体質性思春期遅発症、など

◆ 成長障害の診断チャート(アクチュアル小児科診療:小児プライマリケア「低身長」より)

1)身長・体重の計測、成長曲線の作成
 ↓ 身長が -2.5SD以下(家族が気にしているときには -2.0SDでもよい)
 ↓ かつ/または
 ↓ 成長率の低下
2)病歴・身体所見…この部分の検討が大切
 ↓ 目標身長(Target Height が低い)→ 家族性低身長症
 ↓ 在胎週数に比して低身長・低体重 → SGA性低身長症(※)
 ↓ 体幹・四肢のバランスの異常   → 骨系統疾患
 ↓ 特異顔貌・小奇形など      → 奇形症候群・染色体異常
 ↓ 低体重・偏った食事       → 栄養障害
 ↓ ステロイド等成長障害をきたす薬剤 → 薬剤性成長障害
 ↓ 他の慢性疾患の病歴・所見   → 他の慢性疾患による成長障害
 ↓ 家庭環境の問題        → 虐待、愛情遮断症候群
3)IGF-1、甲状腺ホルモン等の測定
 骨年齢の測定
 ↓ 甲状腺ホルモン低値などの異常 → 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患
 ↓ 女児で成長障害が強いとき染色体検査 → ターナー症候群
 ↓ IFG-1低値、骨年齢の遅延
4)GH分泌刺激試験
 2種類以上で低反応(※※)→ 成長ホルモン分泌不全性低身長(GHD)
 正常反応          → 体質性低身長?
 (成長率低下が明らかな時はさらに専門医での精査が必要)

※ SGAであってもターナー症候群やGHD併発の可能性については検討が必要
※※ 器質性病変があって分泌低下が重度の時は1種類でも可

◆ 目標身長(target height)
(父親の身長+母親の身長 ± 13)/2
…1990年ごろまではこの数値に世代間身長差を考えて2㎝を加えていたが、1990年以降成人身長の伸びが頭打ちとなり、近年の小児に対しては加える必要がなくなっている。
 日本では成人身長の低下が始まっており、それは低出生体重児の比率と関係している。

◆ 低出生体重児増加の原因
・出産年齢の高年齢化
・不妊治療の進歩/多胎妊娠の増加
・新生児医療の進歩に伴う早期分娩介入(人工早産)の増加
・予定帝王切開率の増加
・やせている女性の増加(※)/妊娠中の体重増加抑制に対する厳しい指導(※※)
※ 先進国では肥満増加が問題になっているにもかかわらず、日本女性のBMIは低下傾向。
※※ 産婦人科学会が反省中?

◆ 家族性低身長の定義
明確なものはないが、以下の定義がよく使用されている;
1)父または母の身長が、その年代の身長SDの -2未満
2)目標身長の計算式による数値が -1.5SD未満

◆ SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療
・日本でも2008年より保険診療が認められたが、条件が厳しい(厳しすぎる?)
・SGA児の特徴:約85~90%が2歳になるまでに正常身長( -2SDスコア以上)に catch-up するが、catch-up しなかった約10~15%は小児期を低身長のまま経過し、多くは成人身長も低身長に終わる。

<成長ホルモン治療対象となるSGAの定義>
・出生時の体重および身長がともに在胎週数相当の10パーセンタイル未満、かつ出生体重または出生身長のどちらかが在胎週数相当の -2SD(約3パーセンタイル!)未満

<GH治療開始時のSGA性低身長症基準(年齢・成長)>
・「出生時」の条件を満たし、かつ現在次の3つの条件を満たす;
 ✓暦年齢が3歳以上
 ✓身長SDスコアが -2.5SD 未満
 ✓成長率SDスコア(治療開始前1年間の成長速度)が 0SD 未満

◆ SGA性低身長症に対する成長ホルモン治療
・成長ホルモンを投与することにより、3年間で約1~1.5SD身長を改善することができる(-2.5SD児 → -1.5SDへ)。
・早期治療が望ましい。3歳から治療すれば学齢である程度追いつく。
・開始前には他の疾患除外が必要(成長ホルモンの検査など)。
・しかしSGA児は思春期が早く進む傾向があり、成人身長は-2SD(+α)程度で終わることも多いのが現実である。
・成長ホルモン投与量の調節は検査値や成長速度を見ながら思春期の進みに注意して行うので、専門医による管理が必要。
・SGA性低身長に対する成長ホルモン治療は保険診療なので原則3割負担(医療費補助がない場合)となり医療費がかさむ。

◆ 成長ホルモン分泌不全性低身長症の特徴
・出生時は正常だが、その後成長率が低下傾向。
・2歳以降 -2SD を下回ってきて、年々、身長SDが低下してくる。
・成長速度は2歳以降一貫して -2SD と低く、これが年々身長SDが低下してゆことにつながっている。
★ まれに脳腫瘍が隠れていることがあるので注意!…脳腫瘍と診断される数年前から成長速度が鈍る例が多い。

◆ 成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)の分類

(病因分類)  (発症時期) (主な原因)      (頻度)
遺伝性      出生前   GH1遺伝子異常      まれ
               GHRH-R遺伝子異常
               下垂体転写因子異常(Pit1など)     
器質性(先天性)       脳形成異常        まれ
特発性      周生期   新生児仮死        ~70%
               骨盤位出生
器質性(後天性) 乳児期~  脳腫瘍、頭部外傷、    ~20%
         小児期   放射線照射

◆「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版」(財団方針日本学校保健会)において、成長曲線・肥満度曲線上、医学的対応が必要とされている項目
・+1SD以上の身長増加
・-1SD以上の身長減少
・-2.5SD以下の低身長
・+20%以上の肥満度増加
・-20%以上の肥満度減少
…これにより見落としが少なくなった。

◆ ターナー症候群
・性染色体のモノソミー
・低身長や卵巣機能低下をきたすことが多く、心臓や腎臓の合併症も多い。
・病気というより体質と説明した方がよい(染色体は変えられない)。
・成長ホルモン治療を開始しても標準身長になかなか追いつかない。これはターナー症候群の標準成長曲線が異なるためであり、そちらで評価すると身長SDは改善しており(しかしほかの児童の成長には追い付かない)、GHは有効である。
・GH治療後ターナー症候群の成人身長は144.1±4.9㎝(無治療より約5㎝高くなる)。

◆ 正常の性発達と内分泌機構(視床下部-下垂体-性腺系)
(視床下部)ゴナドトロピン分泌刺激ホルモン(GnRH)
 ↓ +
(脳下垂体)ゴナドトロピン(Gn、性腺刺激ホルモン):LH、FSH
 ↓ +
(性腺)
 卵巣:卵胞ホルモン(エストラジオール)→ 二次性徴、成長スパート、骨成熟
 精巣:男性ホルモン(テストステロン)→ 二次性徴、成長スパート
★ 思春期のスイッチを押すのは「キスペプチン(Kisspeptin)」(日本人が発見、命名はアメリカ人)

◆ 一般外来で思春期のステージを評価することは難しい
・男子は外見では判断困難
・女子では12歳で乳房発育があるか、月経はあるかがポイント

◆ 思春期の内分泌検査
・思春期前はLH、性ステロイドとも測定感度以下
・ゴナドトロピン(LH、FSH)と性ステロイド(男子はテストステロン、女子はエストラジオール)の両方のバランスを見ることが基本。
・正常値は年齢ではなく思春期のステージにより異なる(付記された「正常値」を基準に評価しない)。

◆ 二次性徴発現時期の範囲(およそ5~95パーセンタイル)
(男子)
・精巣腫大開始:9.5~11.0~14.0
・陰毛発生時期:10.5~14.0
・最大成長スパート:11.0~15.0
・変声・腋毛発生:12.0~16.0
(女子)
・乳房腫大開始:8.0~10.0~13.0
・最大成長スパート:9.0~13.0
・陰毛発生時期:9.0~14.5
・初経:    10.0~14.5

◆ 二次性徴発現時期の正常・異常の線引き
以下の参考年齢より2~3歳(1SDが約1年と考える)早ければ早発、遅ければ遅発
(男児)
・精巣腫大:11歳
・恥毛・陰茎発育:12歳
・成長最大スパート:13歳
・腋毛・変声
(女児)
乳房発育:10歳
・成長最大スパート:11歳
月経:12歳

◆ 思春期早発症の主要症状
1.二次性徴の早発
(男子)
・9歳未満で精巣(3~4ml以上)・陰茎・陰嚢などの明らかな発育開始
・10歳未満で陰毛発生
・11歳未満で腋毛・ひげの発生や変声
(女子)
・7歳6か月未満で乳房発育(※)
・8歳未満で陰毛発生、または小陰唇色素沈着等の外陰部成熟、腋毛発生
・10歳6か月未満で初経
※乳房の診であれば「早発乳房」として経過観察
2.身長増加促進(骨成熟の促進)

◆ 思春期早発症早期発見の重要性
・女子では大部分が特発性だが、男子では頻度は低いものの大部分が腫瘍による。
・骨成熟促進により成人身長(最終身長)が低くなる恐れがある。
・二次性徴の早期発現が人格成熟および社会生活上の支障になりうる。

◆ 男性ホルモン(テストステロン)、女性ホルモン(エストラジオール)の骨への作用
・性ステロイドは骨成長促進・骨成熟促進・骨密度増加作用がある。
・成長板の癒合を起こしているのはエストロゲン。
・テストステロンの一部の代謝物がエストラジオールである。
・骨への作用はエストラジオール>テストステロン。
・そのため、女子の方が思春期が早く始まり早く終わる。

◆ 思春期早発症の原因分類
1.GnRH依存性(=真性、中枢性)思春期早発症
 1)特発性(女子に多い)
 2)頭蓋内腫瘍などの器質的疾患、放射線照射
2.GnRH非依存性(=仮性)思春期早発症
 1)男子:hCG産生腫瘍(胚細胞腫、胚芽腫)など
 2)女子:機能性卵巣嚢腫など
 3)男女共通:McCune-Albright症候群、副腎疾患など

◆ 思春期早発症の治療
1.GnRH依存性(=真性、中枢性)思春期早発症
・GnRHアナログによるゴナドトロピン分泌抑制(主にリュープロレリンの4週毎の注射)
・二次性徴の抑制は容易だが、成人身長改善は困難(性ステロイドを止めると身長も止まるため)
・無治療でも身長予後のよいタイプもある
2.GnRH非依存性(=仮性)思春期早発症
・原因疾患の治療(腫瘍摘出など)
・抗アンドロゲン、抗エストロゲン剤も用いられるが、必ずしも有効ではない。

◆ 思春期遅発症
・思春期遅発の目安;
 ✓男子:14歳までに二次性徴が見られない
 ✓女子:13歳までに乳房の発育がない、または15歳までに月経が起こらない
・低身長を主訴として受診することも多い。

◆ 思春期遅発症の分類
1.(特発性)思春期遅発症
・いわゆる「おくて」、男子に多い。
14歳になっても二次性徴の見られない場合に言う。
・主訴が低身長であることがしばしばある。
・10歳代前半までは中枢性性腺機能低下症との鑑別が困難。
・必要な検査をして性腺機能低下症の疑いがなければ様子観察する。
2.性腺機能低下症
・原発性(=高ゴナドトロピン性):Turner症候群、Klinfelter症候群など
・中枢性(=低ゴナドトロピン性):Kallmann症候群(嗅覚障害合併)、下垂体近傍腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫など)

◆ 性腺機能低下症の治療
① 原発性(=高ゴナドトロピン性):
・性ステロイドを段階的に補充する。
・早く補充しすぎると成人身長が早く止まってしまう。
・遅いと成熟の遅れによる精神的な影響や骨密度低下の問題が出てくる。
② 中枢性(=低ゴナドトロピン性)
・①と同じ治療をすることが多いが、ゴナドトロピン補充の方がより生理的(妊孕性)

◆ 骨年齢
・診断や身長予測に非常に重要であるが正確に評価するのは簡単ではない。
・左手の骨の20箇所(管骨13、手根骨7)それぞれの骨成熟度合いを標準図と比較
 ✓Greulich&Pyle法(米国):年齢で評価し平均
 ✓Tanner Whitehouse2(TW2)法(英国):男女別にスコアに換算して合計数値を年齢に換算する。日本人用に標準化された換算表あり。日本人用でのRUS(管骨)法が身長との関係が強い。

◆ ホルモン測定の「正常値」の落とし穴
・小児のホルモン正常値は年齢・性別・思春期のステージにより大きく変化する。
・成長ホルモン基礎値の測定は診断的価値が低い。
・IGF-1(ソマトメジンC)の測定は必須だが、正常値の幅が広く、年齢、栄養状態により変動が激しい。
 正常値=GH正常、ではないし、
 低値 =GH分泌低下、でもない。

◆ 成長ホルモン負荷試験の落とし穴
・実は精度の低い検査である。
・GH分泌には波があるので、何回か行えば必ず低反応に出会える。
・GHはGH分泌刺激ホルモンとソマトスタチンによる抑制とにより調節され、脈動的に分泌される。
・どの分泌刺激試験を使っても再現性が低く、正常者で低反応を示すことが約20%ある。
・思春期直前に成長率が一時的に低下する時期があるが、この時に検査するとGHは低反応になりやすい。性ステロイドが上がってくると改善する。

◆ 特発性成長ホルモン分泌不全性低身長に対するGHの効果
・治療開始後しばらくは成長率は著明に改善する。
・しかし -2SD~-1SDに達すると標準成長曲線に沿うことが多い(どんどん背が高くなるわけではない、患者さんのイメージする「正常の平均」には到達しない)。
GH補充療法実施者の成人身長の平均は-2SD程度とされる。つまり、半分は-2SD以下ということになる(40%で-2SDを超えない)。治療後成人身長の平均は、
(男子)160.3㎝
(女子)147.0㎝
・思春期発来時の身長が低いと成人身長が低くなる→早期発見早期治療が必要。

◆ GHは“身長が伸びる魔法の薬”ではない。
・GHは未治療では身長が極めて低くなってしまう疾患の身長をある程度改善する薬。
・十分な投与量が必要であり、少量の投与では効果がない。
(GH分泌不全性低身長症)0.175㎎/㎏/週(生理的補充量)
(ターナー症候群や軟骨無形成症)0.35㎎/㎏/週(薬理的投与量)
・成人身長改善に関しては、思春期発来が壁になっており、治療開始時に平均身長との差が大きいと治療効果が限られるため、早期治療が望まれる。

◆ 成長ホルモンが保険適用となっている疾患の「小児慢性特定疾患研究助成事業」助成基準

  (対象疾患)       (小児慢性助成基準)(保険診療診断基準)

成長ホルモン分泌不全性低身長症   -2.5SD      -2.0SD

脳腫瘍等器質的な原因による     -2.0SD以下
成長ホルモン分泌不全性低身長症    または       同左
                成長速度が-1.5SD以下

ターナー症候群            同上        同左

プラダーウィリー症候群        同上        同左

軟骨異栄養症            -3.0SD以下     同左

慢性腎不全に伴う低身長       -2.5SD以下     同左
 
ヌーナン症候群           -2.0SD以下     同左

SGA性低身長症            なし       -2.5SD以下

◆ 低身長児に「そのうち伸びるよ」と言っていいか?
・「そのうち伸びる」のは低身長児の中の「体質性思春期遅発症(いわゆる“おくて”)のみであり、他に原因があるときは当てはまらない。
・「そのうち伸びる」と様子を見ていたが伸びないので受診、しかしすでに骨端線が閉鎖し成人身長に達してしまっていると取り返しがつかない…安易に用いてはならない言葉。

◆ サプリメントは有効? → ❌️
・たくさんの研究により、成長ホルモンを最も強く刺激する薬でさえ成長促進効果を持たないことが判明している。つまり、
(成長ホルモンを刺激する薬)≠(身長を伸ばす薬)
ということ。
・では、成長ホルモンそのものを正常身長児に投与するとどうなる?
→ 自分の成長ホルモン分泌が低下する(体がいらないと判断する?)。だからもし身長を稼ぐとしたら正常分泌量の倍以上を投与しなければ無駄。

<参考>

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学校健診と成長曲線

2024年02月01日 14時12分33秒 | 学校健診
学校健診から「座高測定」が外され、
「成長曲線」が導入されたのは2014年だそうです。
そう昔のことではありません。
逆に言うと、2014年までは身長と体重を点として評価するのみで、
線として評価してこなかったということになります。

成長曲線とは、横軸に年齢を、縦軸に身長と体重をプロットして作成するグラフです。
母子手帳の後ろの方に付録としてついているので、
親になると見覚えのあるグラフだと思います。

学校健診の場では、内科診察の際にこの成長曲線を参照します。
遺伝要素や病気による影響がないかどうかを検討する有用な材料です。
身長・体重は標準の成長曲線に乗っているか?
身長・体重のバランスはどうか?
等々。

成長曲線を眺めるだけで、隠れている病気の存在が浮かび上がることがあります。
わかりやすい解説サイトが目に留まりましたので、参照&一部引用させていただきます。

 長崎大学小児科准教授 伊達木澄人
(ラジオNIKKEI:小児科診療 UP-to-DATE)

◆ 標準曲線からどの程度離れているかを評価する方法には、
① パーセンタイル
② SD(標準偏差)
の二つがある。
小児科診療の現場ではSDを用いることが多いが、
なぜか学校健診ではパーセンタイルを用いている。
…専門学会と文部省に問いたい、この辺の無駄なギャップ、何とかなりませんかねえ。

◆ 学校健診の際、測定した身長・体重は養護教諭(保健室の先生)によりパソコンソフトに入力され、
自動で成長曲線が描かれる。

◆ パソコン得意の自動検索条件により検索がかけられ、
成長曲線に問題ありと疑われる例は検出さっる。
自動検索条件は以下の9つ;

① 身長の最新値が97パーセンタイル以上(統計学的な高身長)
② 過去の身長Zスコアの最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい(身長の伸びが異常に大きい)
③ 身長の最新値が3パーセンタイル以下(統計学的な低身長)
④ 過去の身長Zスコアの最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい(身長の伸びが異常に小さい)
⑤ 身長の最新値が -2.5Zスコア以下(極端な低身長)
⑥ 肥満度の最新値が20%以上(肥満)
⑦ 過去の肥満度の最小値に比べて最新値が20%以上大きい(進行性肥満)
⑧ 肥満度の最新値が -20%以下(やせ)
⑨ 過去の肥満度の最大値に比べて最新値が20%以上小さい(進行性やせ)

以上9つの検索条件から、以下の異常を検出;

1.高身長(97パーセンタイル以上)・・・チェック項目①
・児童100人中2-3人はこの群に属するが、ほとんどの場合は病気ではない体質的家族性の高身長。
・身長が成長曲線に沿っていて、随伴症状(※)がなければ、基本的には経過観察可。
・まれに高身長を伴う疾患(Marfan症候群、Klinfelter症候群)が含まれる可能性あり。
※ 随伴症状:発達遅滞、思春期未発来、側湾など。

2.身長の伸びが異常に大きい・・・チェック項目②
・思春期早発症、甲上腺機能亢進症、単純性肥満症などの鑑別が必要。
【思春期早発症】
・生理的範囲の思春期早発傾向の児との鑑別が難しいため、専門医の判断を要することが多い。
・病的な思春期早発症は早期の成長停止につながり、成人身長の低下に至る可能性がある。若年齢、低身長合併例では要注意。
【思春期遅発症】
・二次性徴の出現、身長スパートが一般生徒に比べて遅れ、中学・高校生になって伸びる生理的な体質をいう。
・遅れて身長スパートが出現したとき、一般生徒の成長率は既に停滞する時期にあるので、この群に当てはまってしまうことがあるが、この場合は学校健診での経過観察でよい。
・ただし、中学3年生で身長スパートが来ていない児童生徒は性腺機能低下症の鑑別が必要(二次性徴の確認)。

3.低身長(3パーセンタイル以下)・・・チェック項目③と⑤
・身長が成長曲線に沿っていて、随伴症状がなければ経過観察可。
・チェック項目⑤に当たる -2.5SD以下の極端な低身長があれば、医療機関受診を指示。
・低身長+肥満 → 症候性肥満の可能性あり要精査。
(例)Cushing症候群、偽性副甲状腺機能低下症

4.身長の伸びが異常に小さい・・・チェック項目④
・治療の必要のない思春期遅発症が多く含まれるが、早期診断・治療が必要な疾患(※)の可能性もあるため、医療機関受診を指示。
※ 脳腫瘍、後天性甲状腺機能低下症(萎縮性甲状腺炎)、Cushing症候群、愛情遮断症候群(虐待)、クローン病、その他全身性消耗性疾患。

5.肥満(肥満度20%以上)・・・チェック項目⑥⑦
・現在、小学校高学年〜中学生における肥満の割合は全体の10%前後であり、多くの生徒がこの群に該当する。
・現実的な対応として、軽度肥満(肥満度20%以上〜30%未満)は学校での栄養生活指導が望ましい。
・それでも改善のない場合、進行性の肥満、高度肥満(肥満度50%以上)は医療機関受診を指示する。これらの肥満群の中には生活習慣病(※)が含まれており、成人肥満、動脈硬化性疾患の予防のためにも早期の医療的介入が望まれる。
※ 高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、高血圧、脂肪肝など。

6.やせ(肥満度ー20%以下)・・・チェック項目⑧⑨
・軽度のやせ(肥満度 -20%以上〜 -30%未満)は進行性でない限り、学校での栄養生活指導で経過観察を基本とする。
・重度のやせや進行性やせを伴う場合は病気(※)を疑う。
※ 神経性やせ症、過度な運動、その他全身性消耗性疾患。
・思春期やせ症は致死率の高い病気である。
・近年、部活動による過度の運動負荷と相対的栄養不足のため、やせに加えて月経異常とそれに伴う骨密度の低下、繰り替えず骨折を伴う児童生徒が増えてきている。

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学校医の憂鬱2024

2024年01月28日 07時53分30秒 | 学校健診
昨年から某中学校の校医を担当することになりました。
それを引き受けるにあたり、以前から気になっていたことを養護教諭に相談しました。

それは「内科診察時の着衣・脱衣問題」です。
先日も話題になりました;

▢ 学校健診「原則着衣」は誤解招く、日医 - 文科省通知巡る一部報道受け
 学校での健康診断に関する文部科学省の通知を受けて一部報道で「原則着衣」と表現されていることについて、日本医師会の渡辺弘司常任理事は24日の定例記者会見で、「普通に服を着ていても診てもらえる」などと児童生徒や保護者らに誤解を招きかねないとして通知内容の適切な解釈の必要性を指摘した。
 また、日医は都道府県医師会と連携し、適切な実施方法を全国の学校医に理解してもらい、学校健診が円滑に実施されるよう取り組んでいく考えを示した。 
 通知は文科省が22日に発出し、同時に「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備の考え方」も示した。 
 その中で、検査や診察時の服装について正確な検査や診察に支障のない範囲で、原則として体操服や下着などの着衣、またはタオルなどで身体を覆い、児童生徒らのプライバシーや心情に配慮することとしている。  
 また、検査や診察時の場合では、正確に実施するため医師が必要に応じて体操服や下着、タオルなどをめくって視触診したり、それらの下から聴診器を入れたりする場合があることを、児童生徒や保護者にあらかじめ説明するよう求めている。 
 渡辺氏は会見で、「こうした具体的なやり方を児童生徒があらかじめ分かっていれば心配は軽減され、健康診断がやりやすくなり、その精度も確保される」と説明した。 
 また、学校健診はスクリーニングの目的があるため見落としをできるだけ避ける必要があると指摘。保護者が下着の着用を求める場合には、診断範囲が減少することについての共通の理解が必要で、「その調整は学校側にある」との考えも示した。

私は小児科医ですが、
受診される患者さんの内科診察では上半身脱衣が基本です。
診察内容として、
・視診:皮膚の状態の観察、胸郭のかたちの観察
・聴診:心臓の拍動音、肺の呼吸音
が必要だからです。

皮膚の状態は見なければわかりません。
胸骨の凹凸も見なければわかりません。
背骨の曲がりも見なければわかりません。

心電図検査では上半身脱衣状態ですよね。
Tシャツを着たまま心電図を記録した人、いますか?
服の上からでは微妙な心雑音は聞き取れませんし、
服の下から聴診器を入れる方法では聴診場所が不正確になります。

口を開けずに虫歯の診断ができますか?
本人は無症状なら不可能ですよね。

つまり、着衣状態で健康か病的かを判断しろと言われても無理なんです。

しかし、
「思春期なんだから健診ごときで上半身裸になるなんてやり過ぎでは?」
という意見がまかり通っています。

そこには「無症状状態で病的状態を発見する難しさ」への理解が皆無です。
そして着衣状態で内科検診をして、のちに病気が見つかると、
「健診で病気を見逃された」
と訴えられ、医師は困り果てています。

「建前だけの健診」を受けるけど、
「何かあったら医者のせい」
「見落としたら医者のせい」
という魂胆に嫌気が差します。

診察を受ける側も、診察をする側も、
双方いやな思いをしている学校健診は撤廃すべきでしょう。
乳児健診も個別化が進んでいるのに、
学校健診は集団検診のまま。
なぜ、こんな無意味なことを続けるのだろう?

私は昨年、学校側へ提案しました。

・私が作成した健診の意義(前述の内容)を説明したプリントを各家庭に配布する。
・それを読んでいただいた上で、内科診察を希望するかどうか生徒家族に選択してもらう。
・脱衣診察を希望する生徒のみ内科診察を受ける。
・着衣診察を希望する生徒は、かかりつけ医で内科診察をしてもらう。

ここで気づきました。
かかりつけ医で健診をすると、お金がかかります。
その希望者が多ければ、集団学校検診より多大の費用が必要になります。

つまり、多くの問題を抱えながらも学校健診が残っているのは、
時間と費用の節約だったのですね。

さて、前述の私の提案は却下されました。
同じ中学校を担当するもう一人の学校医が反対したためです。
そして私は男子のみの内科診察を担当し、
女子はもう一人の学校医が担当することになりました。

まあ、これが根本的な解決になっていないことは明らかです。

・同性医師の診察
・検査機器の導入

なども提案しましたが、これも却下されました。

生徒家族からのクレームが恐くて着衣診察を容認している空気がイヤでたまりません。
キチンと診察の内容と意義を説明し、理解していただいた上で選択してもらう・・・
医療界では常識の「インフォームドコンセント」を学校健診でもぜひ、実施していただきたい。

私は今年(2024年)も同じ方針です。


<参考>
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学校健康診断、内科診察の着衣・脱衣問題 〜開業小児科医のつぶやき〜

2022年07月31日 06時14分32秒 | 学校健診
ふと、中学校の学校医の依頼が舞い込みました。
引き受けるつもりですが、以前から気になることがあります。

それは「内科診察の際の着衣・脱衣問題」。

思春期女子はデリケートな世代で、
「学校検診で上半身裸にされた」
とトラウマになったり、
「学校検診で男性医師に胸を触られた、セクハラ行為だ!」
とクレームが出てきたりで、
結構メディアを賑わせています。

何が問題なのか、
どうするのがベストなのか、
私なりに調べ考えてみました。

医師の側から見ると、
批判的な発言の背景には、
学校健診が何を目的に行われているのか理解が足りない、
と思われる場面が多々あります。

まず、学校検診の内科診察では何を診ているのか?

1.心臓と肺の異常の有無
2.胸郭異常の有無
3.脊柱側弯の有無

等々。
これは学校医が勝手に決めることではなくて、
児童生徒等の健康診断マニュアル」(平成27年、日本学校保健会)で決められています。
その項目一覧表です;


「脊柱・胸郭」「心臓」はすべての学年に入っている項目であり、
省略することはできません。

一つ一つ見ていきましょう。
まず1の「心臓と肺の異常の有無」。
これは聴診器を皮膚に直接当てて心臓の音を聞きます。
聴診器とは音を増幅して聞く器械であり、
周囲が静かでないと聞き落とすことがあります。
むろん、服の上からでは摩擦音などが混じり、感度と精度が落ちます。
聴診器を当てる場所は以下の通り;


(「聴診の基本」)より

心臓の位置と聴診部位がわかるイラストですが、
実際の肌感覚がわかりにくいのでもう一つ、

(「基礎看護技術I」)より

上図のように、心音の聴診部位は左胸(女性では乳房)を横切ります。
つまり、
・聴診部位がブラジャーで隠れていたり、
・直接見えない状態で聴診器を不正確な部位に当てたり、
・Tシャツの上から聴診器を当てたりすると、
本来のオーソドックスな診察より情報量が不足し、
病気の見落とし率が上がります。

ふつうの外来診察でも恥ずかしがって心臓の聴診が十分できないことがあります。
そんなとき私が思うことは、
「乳腺組織がなければこのストレスがないのになあ」。

話を元に戻します。
実際の学校健診時はこんな感じ;

(「学校検診マニュアル」沖縄県南部地区医師会)より

皆さん、心電図検査を受けたことはありますか。
検査の際に、上半身裸になりますよね。
それと同じことです。

2の胸郭異常について。
胸の中央が凹む漏斗胸、逆に盛り上がる鳩胸などがあります。
基本的に目で見て(視診で)判断する病気であり、
重度の場合は手術を考慮します。
これもTシャツや運動着で上半身が見えない場合は、診断できません。

3の脊柱側弯について。
これが問題なんです。
健康調査票(保健調査票、問診票)で事前に家庭でチェックするようになりましたが、所詮素人なので「見逃し率27%」と報告されています。
医師が観察する際は「前屈位で肩甲骨の高さが7mm以上左右差」があるかないかを検出する必要があります;

(「学校検診における運動器健診の実際」栃木県医師会 長島公之先生)より

このような微妙なレベルなので、背中に下着とか服があれば情報不足で判断しきれません。

さて、側湾症とはどんな病気なのでしょうか。
こちらにわかりやすく書いてありますので参考にしてください。

概略を述べますと、
学校検診で見つかる側湾症は原因不明の「特発性側弯症」が多く、
思春期では女子に圧倒的に多く、成長が止まるまで進行する傾向があります。
頻度は思春期女子の2-3%(思ったより高い?)。
症状はまず審美上の問題、そして腰痛や肺機能低下など。
軽症は経過観察ですが、重症になると手術が必要になることがあります。



つまり、
・側湾症は思春期女子に多く、
・進行性であり、
・重度の場合は手術が必要になる病気である、
という中学生女子をターゲットにしたかのような病気です。
学校検診は、この特発性側弯症を早期発見して手術を回避するという役割があるのです。

しかし、恥ずかしいという理由で着衣のまま学校診断が行われると「見逃し」が発生し、訴訟問題(学校医が訴えられる!)に発展したこともあります。


1の「見落としリスク」は家庭での27%より低いものの、医師の視診でも17%と報告されています。どのように診察したのか、不明です。

注目すべきは2の「思春期女児に対する実施の難しさ」です。
学校検診を毎年うけていたのですが、風邪で受診した病院で「脊柱側弯症」と診断されてしまいました。
「えっ、学校検診では引っかからなかったの?」というのが自然の反応ですが、学校医は「思春期の女子に裸の背中を出させることはできず、脊柱健診はしていない」と回答したとのこと。
生徒・保護者の希望により着衣での診察を容認したことが逆に攻められているのです。

じゃあ、どうすればいいんですかあ?
・・・なんだか、揚げ足を取られているような印象。
まあ、学校健康診断が儀式化され、やっつけ仕事になっているという現状があぶり出されたトラブルですね。

学校健診の目的を「病気を症状を自覚しないレベルで早期発見する」
に置くなら、オーソドックスな診察法(脱衣)をすべきでしょう。
それを望まないなら着衣でも何でもどうぞご自由に、と言いたくなります。
その場合は、あとで病気が見つかっても学校医に責任をなすりつけないでください。

と喉まで出かかっているのですが、ケンカ別れになってもまずいので、学校側へいくつか提案してみました。

・女子の診察は女医が担当するよう手配する。
 → 需要に見合う女医さんの数が足りません。

・器械(モアレ画像)を導入する。
 → 全国的には導入する学校がありますが、まだ一般的と言うほど普及はしていないようです。



・事前の説明プリントで「病気を見逃さないための内科診察は脱衣が基本です。希望により着衣も可能ですが、情報不足により病気を見落とすことがあります」と家族・本人に周知してもらい、実際の診察の際は希望スタイルで行う。
 → これが双方の事情を斟酌した現実的な選択でしょうか。

こちらの東京都議会への陳情書によると「児童生徒には学校健診を受ける権利がありますが、義務はない」と断言しています。
つまり「受けたくなければ受けなくてもよい」のです。

これは画期的な解釈!
もう一つ選択肢が思い浮かびました。

・診察を受けたくなければ拒否してくださってかまいません。
 → その代わりにかかりつけ医で健診を受けて書類を書いてもらってください。

上記陳情書には「人権侵害」とか「セクハラ行為」とかの強い言葉が並んでおり、学校健診の意義についてはほとんど触れていません。
こういうクレームのハードルが低くなったご時世で、形骸化・儀式化された学校健診に私は意義を感じられません。

学校健診は流れ作業で“やっつけ仕事”で済ませることもできますが、
“自覚のない(つまり自ら受診しない)病気を早期発見”する重要なシステムとして、細心の注意を払って行うべきものと捉えることもできます。

生徒と保護者は何を求めているのでしょうか?
早期発見の価値を認めず、儀式としか捉えていないと感じるのは、
私だけ?

ああ、引き受けたくなくなってきたなあ・・・。

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