2023年度から学校医を引き受けることになり、
子どもの健康と病気の間のグレーゾーンについて調べています。
今回は小児肥満の基本を整理してみたいと思います。
確かに外来を受診するお子さんでも、
ときどき“ポッチャリ系”を見かけます。
ただ、肥満を主訴に受診することはまれで、
学校健診で指摘されたから受診、というパターンが多いですね。
こちらからも肥満の治療を勧めることは滅多にありません。
たいてい家族全員が“ポッチャリ系”なので、
病識(肥満が病的状態であること)がありません。
そのような子ども・家族に食事指導しても、
経験上、手応えがないことが多いからです。
相談を受けた場合の基本的な対応は・・・
血液検査で単純性肥満(ただ太っているだけ)なのか、
病気が隠れている症候性肥満、あるいは肥満症なのかを判定し、
生活指導をすることになります。
生活指導のメインは食事栄養指導になりますが、
詳しいことは管理栄養士さんでないと指導できないため、
在籍している総合病院の小児科に依頼することになります。
また、現在の食事指導にわたしは常々疑問を持ってきました。
日本の栄養管理は「バランス食」と「カロリー制限」ですが、
近年、欧米では「肥満の原因は炭水化物の過剰摂取」が常識化し、
タンパク質や脂質は制限しない方向に進んでおり、
日本はガラパゴス化しつつあります。
糖尿病の食事指導も同様ですね。
どの分野でもプロが採用・導入していることはホンモノです。
ダイエット〜減量のプロといえばボクサー。
ボクサーは試合前になると炭水化物を絶って厳しい減量に挑みますが、
タンパク質は摂り続けます。
巷で有名になったライザップも炭水化物制限ですね。
<参考>
① 「子どもの肥満」(日本小児内分泌学会)
② 「子どもの生活習慣病予防対策に関わる教育教材2014」(日本医師会)
③ 「今日からできる小児科外来肥満テキスト2014」(日本医師会)
④ 「学校医Q&A」(群馬県医師会)
⑤ 「親子で取り組む!子供の肥満診療」(南山堂、2021年発行)
▢ 小児の体格判定
(A) 体格指数
① カウプ指数(=BMI, Body Mass Index)=体重kg/(身長m)2
→ 日本人成人では25以上を肥満としているが、小児では年齢とともに変動するため、パーセンタイル基準値と比較し、90および95パーセンタイルを超えていれば肥満と診断する。
② ローレル指数=体重kg/(身長m)3 ×10
≧ 160:肥満
≧ 180:中等度肥満
≧ 200:高度肥満
※ 低学年の場合は身長により補正する必要がある(参考⑤)。
身長110-129cm:≧ 180で肥満
身長130-149cm:≧ 170で肥満
③ 肥満度=(実測体重ー標準体重※)/標準体重 ×100(%)
※ 標準体重は性別、年齢別、身長別に設定されている。
(B)体型指数
① 腹囲(臍高囲)(※)
※ 日本のメタボリックシンドローム診断基準(6-15歳)によれば、
小学生 ≧75cm
中学生 ≧80cm
であれば内臓脂肪量増加と診断する。
② 腹囲/身長 ≧ 0.5で内臓脂肪量増加
(C) 体脂肪率
① 皮下脂肪厚より算出する方法
皮脂厚計による方法
超音波による測定
② インピーダンス法
③ Dual Energy X-ray Absorptiometry(DEXA)法
(D) 成長曲線
▢ 子どもの肥満の定義
・(BMIではなく)肥満度で評価する。
・成人領域では、体脂肪量と相関性を示すBMI、および内臓脂肪量と相関性を示す腹囲が世界標準で使用されている。小児期の肥満診断の世界標準はBMIであるが、日本では学校保健安全法により自動性との身体計測が義務づけられているため、性別年齢別身長別標準体重の詳細なデータが入手可能であることから肥満度が用いられている。
・年齢により評価基準が異なる。
(乳児)肥満度法は用いない。症候性肥満以外は様子観察。
(幼児)≧ 15%:太りぎみ
≧ 20%:やや太りすぎ
≧ 30%:太りすぎ
(学童)< ー15%:やせ(※)
ー15〜20%:ふつう
≧ 20%:軽度肥満
≧ 30%:中等度肥満
≧ 50%:高度肥満
※ ー20%〜+20%を正常とする記載もある。
・簡易的に肥満度を確認する方法
・いつから肥満が起こってきているのかも大切な情報
▢ どのような肥満が治療対象になるか?
まず肥満は以下の4つに分けられる;
① 単純性肥満
② 症候性肥満
③ 肥満症
④ メタボリックシンドローム
このうち治療対象となるのは②③④である。
しかし、単純性肥満も、肥満症やメタボリックシンドローム発症の予備軍として早期から対応することが大切になる。
▢ 単純性肥満と症候性肥満
【単純性肥満】
・ほとんどがこちらで、原発性肥満とも呼ぶ。
・摂取エネルギー>消費エネルギー状態が続くと発生する。
・食事・おやつ・ジュースなどの過剰摂取、栄養バランスの悪さ、運動不足などによる。
・1970年代以降、食生活やライフ・スタイルの変化により子どもの肥満が急増し、現在1割を超える子どもが肥満になっている。
【症候性肥満】
・他の病気が隠れてていて肥満になるタイプで二次性肥満と呼ぶこともある。
・身長の伸びが悪くなるのが特徴(単純性肥満では身長もよく伸びる)。肥満があるのに身長の伸びが悪い(−1SD未満)の場合は、検査による症候性肥満の鑑別が必要になる。
・性成熟遅延も特徴(単純性肥満では性成熟促進傾向)であり、女児で13臍になっても乳房発育が始まらない例、男児で15歳になっても外性器成熟が始まらない場合は注意すべきである。
・症候性肥満の例;
(Prader-Willi症候群)低身長、筋緊張低下、精神発達遅滞、アーモンド様眼裂
(Turner症候群)低身長、卵巣機能不全、翼状頚、外反肘
(Cushing症候群)低身長、満月様顔貌、Buffalo hump
(偽性副甲状腺機能低下症)低身長、第4中手骨指趾短縮、皮下石灰化
(成長ホルモン分泌不全症)低身長、視床下部障害
(甲状腺機能低下症)低身長、知能低下、便秘
▢ 小児肥満の原因
1)食習慣
・朝食の欠食
・脂質の過剰摂取
・外食(特にファストフード):高脂肪+高ショ糖摂取
・清涼飲料水:高ショ糖摂取
・食卓の環境:孤食、個食、偏食、過食
2)生活習慣の変化
・近代社会の生活習慣の変化(運動量の減少、高脂肪食)の影響が大きく関与している。
3)運動不足
・日常生活の中の身体活動の減少
・座りがちな生活習慣
4)睡眠時間
・睡眠時間の短縮は肥満の危険因子(※)
(<8時間)オッズ比:2.87
(8-9時間)オッズ比:1.89
(9-10時間)オッズ比:1.00
※ 富山県における調査(Sekine et al. Chikd Care Health&Disease, 2002)
▢ 睡眠時間短縮が肥満につながるメカニズム
睡眠不足
→ 疲労 → 運動量減少
→ 食欲・代謝調節系の変化 → レプチン⇩/グレリン⇧ → 過食、エネルギー消費低下、食物嗜好の変化
→ 覚醒時間の増加 → 摂食機会の増加 → エネルギー過剰摂取
▢ 小児肥満の原因に基づく処方箋
・早寝・早起き・朝ごはん
・規則正しい生活
・1日60分以上の身体活動
▢ 肥満と肥満症
・肥満とは、脂肪組織が過剰に蓄積した状態(小児では肥満度≧20%)
・肥満だけでは病気ではない。
・肥満症とは、肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併する場合で、医学的介入を必要とする病態。
<肥満症の定義>
高度肥満(3点)
高血圧(6点)
睡眠時無呼吸など肺換気障害(6点)
2型糖尿病または耐糖能障害(6点)
腹囲増加または臍部CTで内臓脂肪蓄積(6点)
肝機能障害(4点)
高インスリン血症(4点)
高コレステロール血症(3点)
高中性脂肪血症(3点)
低HDLコレステロール血症(3点)
黒色表皮症(3点)
高尿酸血症(2点)
皮膚線条(2点)など。
→ 合計スコアが6点以上 → 小児肥満症
▢ 肥満は生活習慣病のリスク
・単純性肥満でもいろいろな病気・合併症のリスクがあり、検査が必要。
・生活習慣病(2型糖尿病、脂質異常症、高血圧)の原因となり、これらは動脈硬化を促進し、将来的に心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクを高める。子どもでも生活習慣病が見られ、動脈硬化が進行する(血管内皮機能の障害、内膜中膜肥厚が小児期にすでに出現)。
・脂肪肝や睡眠時無呼吸を起こすこともある。
・膝や腰に悪い影響を与える。
▢ 子どもの肥満は大人の肥満につながる?
・成人肥満になるリスクは、
(幼児期肥満)25%
(学童前期肥満)40%
(思春期肥満)70-80%
・乳児肥満の多くは自然に解消される。
・学童肥満 → 思春期肥満 → 成人肥満と移行する例は、3-5歳時にすでに肥満である例が多い。
・肥満の一次予防という観点からは、幼児期からの対応・介入が必要である。
<学童期肥満>
・肥満発生頻度は、就学時4%台 → 学童後期で10%台へ増加。
・学童肥満児発生頻度は、この40年間で3-4倍に増加。
・学童肥満の4割は成人肥満に移行する。
<思春期肥満>
・思春期肥満の70%は成人肥満に移行する。
・思春期肥満は、代謝異常(高脂血症、脂肪肝、2型糖尿病など)の出現率が上昇する(思春期におけるインスリン感受性の変化)。
<発達障害を伴う肥満>
・発達障害の多くは環境への適応障害があり、その結果として不安の増加、自己評価の低下、運動の減少につながる。
・食べることに満足を見いだすようになると、肥満傾向になる。
▢ 小児肥満の問題点
1)メタボリックシンドローム
・動脈硬化、糖尿病合併症、脂肪肝のリスク。
・心筋梗塞、脳卒中につながる。
2)心理的問題
・体型へのコンプレックスから自分に自信が持てなくなる。
・自尊感情の低下、消極的な性格、気分が落ち込みやすいなどが見られることがある。
3)学校で起こる問題
・いじめの対象 → 劣等感を持つ → 無気力 → 不登校 → 心理的ストレス → 過食
4)運動嫌い
・肥満のため体が思うように動かず運動嫌いになりがち。
・室内遊びの増加、日常動作の減少につながる。
5)早熟傾向、最終身長の低下
6)妊娠・分娩の異常
・低出生体重児、子宮内発育不全のリスク。
・出生後に栄養過多になると、成人して生活習慣病になりやすい。
▢ 小児(6-15歳)のメタボリックシンドローム診断基準(2007)
①があり、②-④のうち2項目を有する場合にメタボリック症候群と診断する。
① 腹囲 ≧ 80cm(※1)(※2)
② 血清脂質
中性脂肪 ≧ 120mg/dl and/or
HDLコレステロール < 40mg/dl
③ 血圧
収縮期圧 ≧ 125 mmHg
拡張期圧 ≧ 70mmHg
④ 空腹時血糖 ≧ 100mg/dl
※ 1)腹囲/身長が ≧ 0.5であれば項目①に該当するとする。
小学生では腹囲 ≧ 75cmで項目①に該当するとする。
※ 2)内臓脂肪蓄積の評価(臍レベルのCTスキャン)
・内臓脂肪面積 ≧ 60cm2(成人では100cm2以上)
▢ 医療機関受診の目安
・肥満度判定曲線や成長曲線を利用し、身長に比べて明らかに体重が多い、もしくは体重増加傾向が続いているときは一度医療機関を受診すべし。
・介入が早いほうが改善しやすい。
▢ 小児肥満の治療
・食事療法
・運動療法
・行動認知療法
※ 肥満度≧50%の高度肥満児においては、すでに肥満に起因ないし関連する健康被害を合併した肥満症を来していることもあり、その場合は高次医療機関へ紹介する。
▢ Family-based cognitive behavioral therapy(家族に基盤をおいた認知行動療法)
1)セルフモニター
・ライフ・スタイルなどを自分でモニターする。
2)刺激のコントロール
・食べ過ぎや運動不足の原因となる刺激を除くように環境を整備する。
3)自己評価
・自分で食事や運動に関する手近な目標を決めて自分で評価する。
4)最終目標として、肥満に関連した事柄のすべてについて意識改革をする。
<家族の方へ>
① 子どもと親が一緒に取り組んでください。子どもに減量を強いるのではなく、親(祖父母)もできることをして協力しましょう。
② 肥満や日常生活への考え方を積極的に変えていきましょう。
③ 記録をつけ、生活を振り返ることで、問題となっている考え方・行動パターンの解決方法を探りましょう。
▢ 高度肥満児対策
1)目標設定
① 肥満度をそれ以上増加させない
② 肥満度を中等度(<50%)にする
・通院は初期は1ヶ月に1回、効果が現れたら数ヶ月に1回。
・効果判定は成長曲線で確認する。
・急激な減量は好ましくない。
・肥満の背景を考慮した生活指導をする。日常生活の中で児が実行可能な目標を1-2個設定させるとよい。目標達成できない場合も、叱るのではなく達成できない原因をともに考え、児が自分の問題として改善に取り組めるよう支援する。
2)食事療法
・成長期においては摂取エネルギーを極端に制限せず、バランスを整えることを優先する。
・成長期は身長が伸びるため、今の体重を維持するだけで肥満度が改善する。
・フードモデルによる指導はハードルが高く実践できないことが多い。
・まず食事調査を行い、そこから改善できる点を具体的に指導すると継続しやすい。
<具体的な食事指導>
・腹八分目を心がける。
・タンパク質と食物線維はたくさん食べてもよい。
・糖質はへらす。ご飯(炭水化物 → 糖質)もおかわりは控える。
・脂肪・脂質を減らす。
・食事は1日3回(朝食もしっかり食べる)。
・よく噛んで食べる(一口20回)。
・もう少し食べたいときは野菜を食べよう。
・おやつは1回100kcalを目安にする。
(100kcalの例)
小おにぎり1個、ロールパン1個、ふかしいも1個、トウモロコシ1/2個、
ヨーグルト1個、枝豆一皿、果物1個、チーズ1個
・おやつの袋菓子は器に入れて分けて食べる(一袋食べない)。
・夕食を食べたらすぐに歯磨きしてその後は食べない。
▢ 1日の摂取エネルギーの目安(kcal)
(男子) (女子)
小学校1-2年生 1650 1450
小学校3-4年生 1950 1800
小学校5-6年生 2300 2150
中学生 2600 2300
3)運動療法
・有酸素運動がお勧め。運動をすると、最初に炭水化物が使われ、運動時間が20分以上になると脂肪が使われるようになる。
・食事摂取カロリーの80-90%は日常生活で消費している。のこりの10-20%を運動で消費するイメージ。
・運動効果の持続は2日間が限度なので、1日おきに運動すべし。
<具体的な運動指導>
・肥満児はもともと運動習慣のない児が多いため、まずは楽しく体を動かすことから始める。
・家事の手伝いのような日常の作業で、気軽に体を動かす習慣をつけることも大切。
・エレベーターを使わずに階段を使う、早足で歩く、バス・電車の一駅分歩いてみる、など生活習慣の改善にもトライすべし。
・お勧めの運動は、なわとび、ジョギング、ランニング、自転車、水泳、テニス、野球、サッカー、ダンスなど。屋内でできる腹筋やストレッチ、ラジオ体操も役立つ。
・ほんのり汗をかく程度の運動が適当(心拍数120-140/分)。
・1日10-15分程度から漸増し、最終的には1日60分程度の運動を目標にする。
・あるいは、30分以上(10分×3でもOK)&週3回以上が目標。
・関節痛や腰痛が現れた場合は運動を中止し整形外科などを受診させる。
▢ 100kcal を消費するための運動量(厚生省公衆衛生局)
(男子) (女子)
散歩 28分 35分
ジョギング 12分 15分
山歩き 24分 31分
サイクリング 21分 27分
なわとび 18分 23分
バドミントン 11分 14分
テニス 14分 18分
水泳 12分 15分
ラジオ体操 21分 26分
4)行動療法
・「肥満は体質」 → 「肥満は習慣」へ意識改革を試みる。
▢ 肥満の診療の実際
・中等度肥満(肥満度≧30%)は合併症のリスクが高いため血液検査を行う。
【血液検査項目】
総コレステロール、中性脂肪、HDL-chol、LDL-chol、
(空腹時)血糖、HbA1c、尿酸、ALT
・生活記録グラフを記録し、2週間〜1ヶ月毎に通院。
・小児肥満症の診断基準、成長曲線、肥満度曲線を作成して示し、今自分がどのあたりにいるかハッキリ認識させる。
・要治療の肥満症であれば、将来起こりうる動脈硬化(血管が傷つくこと)による病気について説明する(たとえば70-80臍で起こりうる脳卒中が40-50臍でも起こるかもしれない、など)。
・今の時期に健全な生活を取り戻せば、十分に間に合うことを説明する。
<参考>
・生活記録グラフと記入方法(「今日からできる小児科外来肥満テキスト」のP36-37)
<参考>
■ 小児肥満症の診断基準(朝山光太郎:肥満研究2002:8:504-211より)
「今日からできる小児科外来肥満テキスト」のP33-34