第2弾は医学系雑誌の「小児の頭痛」特集号。
啓蒙書と違い、科学的根拠(エビデンス)に基づく記述が明解で心地よい。
お役立ち情報をメモメモ。
国際頭痛分類はトリプタン製剤を有効に使うためのスキルという視点から作られたものらしい。事前に基礎疾患の除外をストイックに行う必要があります。
小児に片側性が少なく、拍動性も少ないという現象は、本当にそうなのか、表現できないだけなのかという疑問が最後までつきまとうのは「痛み」という主観による症状で診断する疾患ですから仕方がないのでしょう。
片頭痛発作中の頭痛の性質に変化があることを教えていただきました。ピークに至る過程では拍動性、その後は炎症が中心になるので非拍動性になり、トリプタン製剤が効くのは前半の拍動性頭痛である、という記述は服用指導をする際のポイントになります。
トリプタン製剤が「小児適応がない」事実を受け入れ、学会の指診などを参考に手探りで使用するのが現状です。臨床現場としては、早くこのようなストレスなく診療できる環境にしていただきたいものです。
※ なお、頭痛=片頭痛ではありません。この項目のメモは「他の病気を除外した」という前提での記載とお考えください。
■ 片頭痛の症候と診断(神戸市立医療センター西市民病院小児科:安島英裕)
・1980年代に発売されたトリプタン製剤は、鎮痛剤ではないにもかかわらず片頭痛に著効し、片頭痛の発症機序として三叉神経血管説(Moskwitz)が正しいことを証明することになった。これ以降、片頭痛の研究や診療が飛躍的に発展した。
・1988年に国際頭痛分類初版が公開され、2004年に第2版へ改訂された。その中で「トリプタン製剤が有効そうな患者を捜すときは、この分類の前兆のある片頭痛や前兆のない片頭痛の診断基準に基づいて患者を診断しなければならない。」と記載されており、極論すればトリプタン製剤の使用を念頭に作成された典型的な片頭痛を診断する基準だとも解釈される。逆に診断基準から外れる例については、生命に関わり後遺症を残す可能性のある疾患を見逃さないことが大切である。
【前兆のない片頭痛の診断基準】(ICHD- code1.1)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある(注1)
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(注2-4)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性(注5・6)
2.拍動性(注7)
3.中等度~重度の頭痛
4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
1.悪心又は嘔吐(あるいはその両方)
2.光過敏および音過敏(注8)
E. その他の疾患によらない(注9)
(注)
1.1.1「前兆のない片頭痛」と2.1「稀発反復性緊張型頭痛」は時に鑑別が困難であると思われる。したがって、発作を5回以上経験していることを診断の要件とした。発作回数が5回未満の例は、それ以外の1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たしていても、1.6.1「前兆のない片頭痛の疑い」にコード化すべきである。
2.片頭痛発作中に入眠してしまい、目覚めたときには頭痛を認めない患者では、発作の持続時間を目覚めた時刻までとみなす。
3.小児では片頭痛発作の持続時間は1-72時間としてよいかもしれない(ただし、プロスペクティブな日記研究により、小児においては未治療時の発作持続時間が2時間未満であり得ることのエビデンスは、プロスペクティブな頭痛日記により確認する必要がある)。
4.発作が3ヶ月を越える期間にわたり15日/月以上生じている場合には、1.1「前兆のない片頭痛」としてコード化すると共に、A1.5.1「慢性片頭痛」(2006年に新しい基準が公表された)としてコード化する。
5.幼児の片頭痛は両側性である場合が多い。成人にみられる片側性の頭痛パターンは思春期の終わりか成人期のはじめに現れるのが通例である。
6.片頭痛はふつう、前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は、片側性か両側性かを問わず希であり、診断上の注意が必要である。
7.拍動性頭痛(pulsating)とは、ズキンズキンする(throbbing)、あるいは心臓の拍動に伴い痛みが変化することを意味する。
8.幼児の光過敏及び音過敏は、行動から推測できるものと思われる。
9.病歴及び身体所見・神経所見より頭痛分類5-12を否定できる、または、病歴あるいは身体所見・神経所見よりこれらの疾患が疑われるが、適切な検査により除外できる、または、これらの疾患が存在しても、初発時の発作と頭蓋疾患とは時間的に一致しない。
(著者の補足)
B. 頭痛の持続時間
小児の片頭痛は1-3時間で落ち着くことも多い。中には30分ほどのものもあるが、数十秒~数分の頭痛を繰り返す場合は二次性頭痛の可能性を考慮する。片頭痛が72時間を超えて持続する場合は、片頭痛の診断に「片頭痛発作重積」(ICHD- code1.5.2)を付記する。
C.
1)片側性:
片頭痛がいつも同じ部位で起こる人は少なく、発作のたびに部位が変わる方が多い。頭の両側が痛くても痛みに左右差があるならば片側性とし、左右差がない場合や頭全体が一様に痛い場合は両側性とする。時に片側性、時に両側性の場合は両者を記載する。成人では片側性が60%、両側性が40%であると報告されている(Silbersteinら)。小児では両側性が多いが、本当に左右差がないのか、それを表現できないだけなのかは不明である。筆者の施設では片側性が40%であり、小学校高学年以降に片側性が増える。
片頭痛は三叉神経の支配領域である前頭側頭部に発生し、頭頂部痛もよくある。ただし後頭部痛は三叉神経の支配領域から外れ、とくに小児では片側性、両側性を問わず希であるため二次性頭痛の鑑別が必要である。
2)拍動性:
拍動性は幼少時には少なく、50歳以上でも不明確になるので血管の硬度なども影響するかもしれないが、本当に拍動性ではないのか、表現できないだけなのかは不明である。小学校低学年では拍動性を訴える児が増える。この拍動性の痛みは片頭痛の始まりからピークにかけてみられ、この時点ではトリプタン製剤が著効するが、ピークを過ぎると痛みの主体は血管性から血管周囲や神経の炎症へと変化して拍動性が失われ、非拍動性の頭痛に変化する。また、片頭痛が軽く経過すると拍動性にならず終わることもある。これを機械的に診断基準に当てはめると、片頭痛患者の多くが拍動性/非拍動性頭痛の両者を経験するため、緊張性頭痛を持つという結果になってしまう。
3)中等度~重度の頭痛:
筆者は寝込むほどのつらい頭痛を重度、寝込むほどではないが勉強や遊びがつらいと感じる頭痛を中等度、生活に支障のない頭痛を軽度と表現してもラテ居る。本人の訴える重症度と生活支障度に乖離があるものは精神疾患の可能性も視野に入れる。
D.
1)悪心または嘔吐
小児は悪心がなくても嘔吐する場合がある。繰り返す嘔吐がいじめの対象になることもあるので注意が必要である。成人では悪心はあっても嘔吐の頻度は減ってくる。小児周期性症候群(code 1.3)、腹部片頭痛(code 1.3.2)では嘔吐や腹痛が強すぎて片頭痛に気づいていないことも多い。
2)光過敏および音過敏
両者が揃わないと1項目とならないが、小児では両者が揃わないことが多い。付録診断基準の前兆のない片頭痛(code 1.1)では、悪心、嘔吐、光過敏、音過敏、臭過敏のうち2項目あれば診断基準Dを満たすので、こちらを用いてもよい。
光過敏は、片頭痛痔の症状として「まぶしいから電気を消して欲しい」と訴える、頭から布団を被って寝込む、などがみられ、片頭痛の誘発因子としては強い光や水面に反射する光やネオンなどが挙げられる。
音過敏は、片頭痛の症状として「周りの音や友人の声が気に障る」などの打った江波みられ、片頭痛の誘発因子としては大きな声や音などがある。教師が日光の差し込む窓際に経って大声で怒鳴った際に片頭痛が起きる児もいる。
臭過敏は、片頭痛時の症状として、ふだんは気にならない花や香水やタバコの臭いが気になる、などがみられ、片頭痛の誘発因子として不快な臭いなどがみられる。プールの消毒液の臭いが苦手な児もいる。
【前兆のある片頭痛】
成人も小児も前兆がない方が多く、前兆がある場合も毎回ではない。
片頭痛は「三叉神経血管説」で説明できるが、前兆は「皮質拡張性抑制」という別の機序が加味され、発症機序に異なる点があるため、それぞれ別の片頭痛として扱う。前兆には視覚症状、感覚症状、言語症状の三つがあり、その責任病巣は大脳皮質である。
・視覚症状・・・陽性徴候:閃輝暗点、 陰性徴候:視覚が低下あるいは消失
・感覚症状・・・陽性徴候:チクチクする異常知覚、陰性徴候:感覚鈍麻(小児期ではあまりない)
・言語症状・・・陽性徴候:ない、陰性徴候:失語性言語障害(小児期ではあまりない)
◇ 予兆
前兆の有無にかかわらず、片頭痛の数時間ないし1-2日前から生じる以下の症状は予兆と呼ばれる。
頭痛が起こりそうという予知感、首や肩のこり、生あくびが多い。ほかに活動性更新、疲労感、倦怠感、意識消沈、うつ、集中困難、光や音に対する過敏性、悪心、満腹感、下痢、霧視、顔面蒼白など。
◇ めまい
片頭痛に伴うめまいは vertigo も dizziness もあり、予兆としても前兆としても記載される。
◇ 片頭痛の誘発要因
・血管が拡張する状況:人混み、高温、多湿、運動、発汗
・ストレス:緊張から解放されてホッとしているときにおきやすい。成人では週末に、小児では下校時や下校後。
・運動:階段を昇るときなどにおきやすい。
・睡眠:片頭痛はぐっすり休むことで改善することが多い。不規則な時間帯の睡眠や、睡眠不足や睡眠方は片頭痛の誘因となる。
・不規則な食事:とくに朝食抜きは低血糖刺激により昼食前に片頭痛をおこしやすい。
◇ 片頭痛の経年変化
片頭痛は15-20歳前後で発症することが多く、25-30歳頃に頭痛のつらい時期があり、40歳を過ぎると痛みの程度は徐々に軽くなり、寝込む機会も減り、嘔吐も少なくなる。
■ 小児の片頭痛治療(宇多野病院小児神経科:白石一浩ほか)
・小児の片頭痛に対するトリプタン製剤、予防薬は保険適用外使用であり、使用にあたっては説明、同意が必要である。よって、原則は「薬の使用は必要最小限に」となる。
【急性期治療】
・アセトアミノフェン(カロナール®):保険適用は「小児の鎮痛薬」。
・イブプロフェン(ブルフェン®):保険適用は「小児での急性上気道炎に関連する解熱・鎮痛薬」。
・鎮痛剤投与が必要なとき:遊びを止めるほどの頭痛が1時間以上継続したとき、眠れないほどの強い頭痛の時。
・トリプタン製剤:海外の小児に於いて、プラセボ対照群を置いた検討で有効性が報告されているのは、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)とリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)の3つである(※)。
・日本頭痛学会の「慢性頭痛の診療ガイドライン」では、小児のトリプタン製剤について「体重40kg以上、12歳以上の小児であれば、成人と同量のトリプタン製剤を使用可能と考える」を見解を述べているが、現時点ではすべてのトリプタン製剤の添付文書に「小児等での安全性は確立していない」と記載されている。
・エビデンスを考えると、小児片頭痛の急性期治療として、アセトアミノフェン(10kg/kg/回)もしくはイブプロフェン(5mg/kg/回)が推奨される。両者で効果が不十分な場合、筆者は以下の条件でトリプタン製剤の使用を考慮している;
①感じが小学校高学年以上で、片頭痛と診断できる。
②体重が40kgを越えている。
③てんかん、心疾患の既往がない。
使用薬剤は海外でのエビデンスの高いリザトリプタン(マクサルトRPD®)、もしくはゾルミトリプタン(ゾーミッグ®RM)の口腔内崩壊錠か、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)を成人量で使用している。
【予防的治療】
・筆者は、鎮痛剤乱用を防ぐ意味から、週に2回以上になる症例では予防的治療を提案している。
・プラセボ対照群との比較で有効性が報告されているのは、7歳以上でのプロプラノロールと6歳以上でのトピラマートのみである。日本の小児片頭痛の予防薬についての検討はほとんどない。
・筆者は、小学生までは、まずシプロヘプタジン(ペリアクチン®)かアミトリプチリン(トリプタノール®)を使用している。中学生以上では、上記2剤に加えて、塩酸ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)を考慮している。
今、必要なのは、「頭痛時には早めに薬を飲んで学校へ」ではなく「頭痛時にはゆっくり家で休みましょう」と言える社会をまずおとながつくることである。
※ トリプタン製剤の小児使用に関するエビデンス;
□ スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®):12-17歳の738例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。使用量は20mg。
□ リザトリプタン(マクサルト®):6-17歳の96症例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。投与量は40kg未満では5mg、それ以上では10mg。プロプラノロールとの併用は禁忌である。
□ ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®):6-18歳の32症例で、プラセボ対照群との比較において、ゾルミトリプタン2.5mg内服群では頭痛改善率が有意に高かったと報告されている。
啓蒙書と違い、科学的根拠(エビデンス)に基づく記述が明解で心地よい。
お役立ち情報をメモメモ。
国際頭痛分類はトリプタン製剤を有効に使うためのスキルという視点から作られたものらしい。事前に基礎疾患の除外をストイックに行う必要があります。
小児に片側性が少なく、拍動性も少ないという現象は、本当にそうなのか、表現できないだけなのかという疑問が最後までつきまとうのは「痛み」という主観による症状で診断する疾患ですから仕方がないのでしょう。
片頭痛発作中の頭痛の性質に変化があることを教えていただきました。ピークに至る過程では拍動性、その後は炎症が中心になるので非拍動性になり、トリプタン製剤が効くのは前半の拍動性頭痛である、という記述は服用指導をする際のポイントになります。
トリプタン製剤が「小児適応がない」事実を受け入れ、学会の指診などを参考に手探りで使用するのが現状です。臨床現場としては、早くこのようなストレスなく診療できる環境にしていただきたいものです。
※ なお、頭痛=片頭痛ではありません。この項目のメモは「他の病気を除外した」という前提での記載とお考えください。
■ 片頭痛の症候と診断(神戸市立医療センター西市民病院小児科:安島英裕)
・1980年代に発売されたトリプタン製剤は、鎮痛剤ではないにもかかわらず片頭痛に著効し、片頭痛の発症機序として三叉神経血管説(Moskwitz)が正しいことを証明することになった。これ以降、片頭痛の研究や診療が飛躍的に発展した。
・1988年に国際頭痛分類初版が公開され、2004年に第2版へ改訂された。その中で「トリプタン製剤が有効そうな患者を捜すときは、この分類の前兆のある片頭痛や前兆のない片頭痛の診断基準に基づいて患者を診断しなければならない。」と記載されており、極論すればトリプタン製剤の使用を念頭に作成された典型的な片頭痛を診断する基準だとも解釈される。逆に診断基準から外れる例については、生命に関わり後遺症を残す可能性のある疾患を見逃さないことが大切である。
【前兆のない片頭痛の診断基準】(ICHD- code1.1)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある(注1)
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(注2-4)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性(注5・6)
2.拍動性(注7)
3.中等度~重度の頭痛
4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
1.悪心又は嘔吐(あるいはその両方)
2.光過敏および音過敏(注8)
E. その他の疾患によらない(注9)
(注)
1.1.1「前兆のない片頭痛」と2.1「稀発反復性緊張型頭痛」は時に鑑別が困難であると思われる。したがって、発作を5回以上経験していることを診断の要件とした。発作回数が5回未満の例は、それ以外の1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たしていても、1.6.1「前兆のない片頭痛の疑い」にコード化すべきである。
2.片頭痛発作中に入眠してしまい、目覚めたときには頭痛を認めない患者では、発作の持続時間を目覚めた時刻までとみなす。
3.小児では片頭痛発作の持続時間は1-72時間としてよいかもしれない(ただし、プロスペクティブな日記研究により、小児においては未治療時の発作持続時間が2時間未満であり得ることのエビデンスは、プロスペクティブな頭痛日記により確認する必要がある)。
4.発作が3ヶ月を越える期間にわたり15日/月以上生じている場合には、1.1「前兆のない片頭痛」としてコード化すると共に、A1.5.1「慢性片頭痛」(2006年に新しい基準が公表された)としてコード化する。
5.幼児の片頭痛は両側性である場合が多い。成人にみられる片側性の頭痛パターンは思春期の終わりか成人期のはじめに現れるのが通例である。
6.片頭痛はふつう、前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は、片側性か両側性かを問わず希であり、診断上の注意が必要である。
7.拍動性頭痛(pulsating)とは、ズキンズキンする(throbbing)、あるいは心臓の拍動に伴い痛みが変化することを意味する。
8.幼児の光過敏及び音過敏は、行動から推測できるものと思われる。
9.病歴及び身体所見・神経所見より頭痛分類5-12を否定できる、または、病歴あるいは身体所見・神経所見よりこれらの疾患が疑われるが、適切な検査により除外できる、または、これらの疾患が存在しても、初発時の発作と頭蓋疾患とは時間的に一致しない。
(著者の補足)
B. 頭痛の持続時間
小児の片頭痛は1-3時間で落ち着くことも多い。中には30分ほどのものもあるが、数十秒~数分の頭痛を繰り返す場合は二次性頭痛の可能性を考慮する。片頭痛が72時間を超えて持続する場合は、片頭痛の診断に「片頭痛発作重積」(ICHD- code1.5.2)を付記する。
C.
1)片側性:
片頭痛がいつも同じ部位で起こる人は少なく、発作のたびに部位が変わる方が多い。頭の両側が痛くても痛みに左右差があるならば片側性とし、左右差がない場合や頭全体が一様に痛い場合は両側性とする。時に片側性、時に両側性の場合は両者を記載する。成人では片側性が60%、両側性が40%であると報告されている(Silbersteinら)。小児では両側性が多いが、本当に左右差がないのか、それを表現できないだけなのかは不明である。筆者の施設では片側性が40%であり、小学校高学年以降に片側性が増える。
片頭痛は三叉神経の支配領域である前頭側頭部に発生し、頭頂部痛もよくある。ただし後頭部痛は三叉神経の支配領域から外れ、とくに小児では片側性、両側性を問わず希であるため二次性頭痛の鑑別が必要である。
2)拍動性:
拍動性は幼少時には少なく、50歳以上でも不明確になるので血管の硬度なども影響するかもしれないが、本当に拍動性ではないのか、表現できないだけなのかは不明である。小学校低学年では拍動性を訴える児が増える。この拍動性の痛みは片頭痛の始まりからピークにかけてみられ、この時点ではトリプタン製剤が著効するが、ピークを過ぎると痛みの主体は血管性から血管周囲や神経の炎症へと変化して拍動性が失われ、非拍動性の頭痛に変化する。また、片頭痛が軽く経過すると拍動性にならず終わることもある。これを機械的に診断基準に当てはめると、片頭痛患者の多くが拍動性/非拍動性頭痛の両者を経験するため、緊張性頭痛を持つという結果になってしまう。
3)中等度~重度の頭痛:
筆者は寝込むほどのつらい頭痛を重度、寝込むほどではないが勉強や遊びがつらいと感じる頭痛を中等度、生活に支障のない頭痛を軽度と表現してもラテ居る。本人の訴える重症度と生活支障度に乖離があるものは精神疾患の可能性も視野に入れる。
D.
1)悪心または嘔吐
小児は悪心がなくても嘔吐する場合がある。繰り返す嘔吐がいじめの対象になることもあるので注意が必要である。成人では悪心はあっても嘔吐の頻度は減ってくる。小児周期性症候群(code 1.3)、腹部片頭痛(code 1.3.2)では嘔吐や腹痛が強すぎて片頭痛に気づいていないことも多い。
2)光過敏および音過敏
両者が揃わないと1項目とならないが、小児では両者が揃わないことが多い。付録診断基準の前兆のない片頭痛(code 1.1)では、悪心、嘔吐、光過敏、音過敏、臭過敏のうち2項目あれば診断基準Dを満たすので、こちらを用いてもよい。
光過敏は、片頭痛痔の症状として「まぶしいから電気を消して欲しい」と訴える、頭から布団を被って寝込む、などがみられ、片頭痛の誘発因子としては強い光や水面に反射する光やネオンなどが挙げられる。
音過敏は、片頭痛の症状として「周りの音や友人の声が気に障る」などの打った江波みられ、片頭痛の誘発因子としては大きな声や音などがある。教師が日光の差し込む窓際に経って大声で怒鳴った際に片頭痛が起きる児もいる。
臭過敏は、片頭痛時の症状として、ふだんは気にならない花や香水やタバコの臭いが気になる、などがみられ、片頭痛の誘発因子として不快な臭いなどがみられる。プールの消毒液の臭いが苦手な児もいる。
【前兆のある片頭痛】
成人も小児も前兆がない方が多く、前兆がある場合も毎回ではない。
片頭痛は「三叉神経血管説」で説明できるが、前兆は「皮質拡張性抑制」という別の機序が加味され、発症機序に異なる点があるため、それぞれ別の片頭痛として扱う。前兆には視覚症状、感覚症状、言語症状の三つがあり、その責任病巣は大脳皮質である。
・視覚症状・・・陽性徴候:閃輝暗点、 陰性徴候:視覚が低下あるいは消失
・感覚症状・・・陽性徴候:チクチクする異常知覚、陰性徴候:感覚鈍麻(小児期ではあまりない)
・言語症状・・・陽性徴候:ない、陰性徴候:失語性言語障害(小児期ではあまりない)
◇ 予兆
前兆の有無にかかわらず、片頭痛の数時間ないし1-2日前から生じる以下の症状は予兆と呼ばれる。
頭痛が起こりそうという予知感、首や肩のこり、生あくびが多い。ほかに活動性更新、疲労感、倦怠感、意識消沈、うつ、集中困難、光や音に対する過敏性、悪心、満腹感、下痢、霧視、顔面蒼白など。
◇ めまい
片頭痛に伴うめまいは vertigo も dizziness もあり、予兆としても前兆としても記載される。
◇ 片頭痛の誘発要因
・血管が拡張する状況:人混み、高温、多湿、運動、発汗
・ストレス:緊張から解放されてホッとしているときにおきやすい。成人では週末に、小児では下校時や下校後。
・運動:階段を昇るときなどにおきやすい。
・睡眠:片頭痛はぐっすり休むことで改善することが多い。不規則な時間帯の睡眠や、睡眠不足や睡眠方は片頭痛の誘因となる。
・不規則な食事:とくに朝食抜きは低血糖刺激により昼食前に片頭痛をおこしやすい。
◇ 片頭痛の経年変化
片頭痛は15-20歳前後で発症することが多く、25-30歳頃に頭痛のつらい時期があり、40歳を過ぎると痛みの程度は徐々に軽くなり、寝込む機会も減り、嘔吐も少なくなる。
■ 小児の片頭痛治療(宇多野病院小児神経科:白石一浩ほか)
・小児の片頭痛に対するトリプタン製剤、予防薬は保険適用外使用であり、使用にあたっては説明、同意が必要である。よって、原則は「薬の使用は必要最小限に」となる。
【急性期治療】
・アセトアミノフェン(カロナール®):保険適用は「小児の鎮痛薬」。
・イブプロフェン(ブルフェン®):保険適用は「小児での急性上気道炎に関連する解熱・鎮痛薬」。
・鎮痛剤投与が必要なとき:遊びを止めるほどの頭痛が1時間以上継続したとき、眠れないほどの強い頭痛の時。
・トリプタン製剤:海外の小児に於いて、プラセボ対照群を置いた検討で有効性が報告されているのは、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)とリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)の3つである(※)。
・日本頭痛学会の「慢性頭痛の診療ガイドライン」では、小児のトリプタン製剤について「体重40kg以上、12歳以上の小児であれば、成人と同量のトリプタン製剤を使用可能と考える」を見解を述べているが、現時点ではすべてのトリプタン製剤の添付文書に「小児等での安全性は確立していない」と記載されている。
・エビデンスを考えると、小児片頭痛の急性期治療として、アセトアミノフェン(10kg/kg/回)もしくはイブプロフェン(5mg/kg/回)が推奨される。両者で効果が不十分な場合、筆者は以下の条件でトリプタン製剤の使用を考慮している;
①感じが小学校高学年以上で、片頭痛と診断できる。
②体重が40kgを越えている。
③てんかん、心疾患の既往がない。
使用薬剤は海外でのエビデンスの高いリザトリプタン(マクサルトRPD®)、もしくはゾルミトリプタン(ゾーミッグ®RM)の口腔内崩壊錠か、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)を成人量で使用している。
【予防的治療】
・筆者は、鎮痛剤乱用を防ぐ意味から、週に2回以上になる症例では予防的治療を提案している。
・プラセボ対照群との比較で有効性が報告されているのは、7歳以上でのプロプラノロールと6歳以上でのトピラマートのみである。日本の小児片頭痛の予防薬についての検討はほとんどない。
・筆者は、小学生までは、まずシプロヘプタジン(ペリアクチン®)かアミトリプチリン(トリプタノール®)を使用している。中学生以上では、上記2剤に加えて、塩酸ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)を考慮している。
今、必要なのは、「頭痛時には早めに薬を飲んで学校へ」ではなく「頭痛時にはゆっくり家で休みましょう」と言える社会をまずおとながつくることである。
※ トリプタン製剤の小児使用に関するエビデンス;
□ スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®):12-17歳の738例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。使用量は20mg。
□ リザトリプタン(マクサルト®):6-17歳の96症例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。投与量は40kg未満では5mg、それ以上では10mg。プロプラノロールとの併用は禁忌である。
□ ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®):6-18歳の32症例で、プラセボ対照群との比較において、ゾルミトリプタン2.5mg内服群では頭痛改善率が有意に高かったと報告されている。