著者:荒浪暁彦先生、キュアアンドケア社(2010年発行)
漢方界では二宮文乃先生というカリスマ皮膚科漢方医がいらっしゃるのですが、荒浪先生は二宮先生の弟子。
最近人気者のようで、オリコンの病院人気チャート(というものがあるらしい)の第2位だそうです。
現在開業されて、一日に300人(!)診療し、その半分以上が乳幼児とのこと。
いかにも「売れ線狙い」のタイトルですが、何か得るものかないかと期待して読んでみました。
う~ん、無駄だったかなあ。
やはり一般向けの啓蒙書・宣伝書でした。
荒浪先生の学生時代(授業よりもサーフィンに夢中だった)のエピソードなんかに興味はありませんので(苦笑)。
以前、この荒浪先生の著書「漢方で治す!アトピー性皮膚炎」(2001年)を読んだことがありましたが、その方が内容があったような気がします。
まあ、でも参考になるところもありましたのでメモしておきます;
■ アトピーは赤ちゃんのうちに漢方薬を飲ませて、速やかに体質改善をしてしまうことが、この病気を撲滅する一番の近道だと思っています。
・・・小児科医にとって勇気づけられるお言葉です。
■ 現時点でのベストの治療法は、掻きむしらないようステロイド剤で痒みをとりながら、漢方薬で体質そのものを体内から改善させ、ステロイド剤不要の状態に持っていくことだと思っています。
私は皮膚科専門医としてステロイド剤の有用性は十分認識しています。ただ、体の中に原因がある皮膚の病気を、外側から塗って抑えるだけでは治らないという例をたくさん診てきました。外用剤のみでは治らない患者さんのために、ある先生はカウンセリングをしたり、安定剤を飲ませたり、食事指導をしたりします。たまたま私は体内から治す漢方治療に出会っただけです。
・・・私の発想と驚くほど同じです。皮膚科学会作成の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」(ステロイド軟膏で病勢を押さえつけてよい状態を保てばいずれ落ち着くという考え方)に準じて治療していてもよくならない患者さん。抗アレルギー薬もかゆみ止め程度の効果しか感じられない・・・体にあった漢方を飲んでいると中からよくなっていくことを実感して漢方治療にはまっていく・・・。
■ 明治時代に「西洋医学があれば漢方医学はいらない」と判断されたことは残念です。しかし、実はヨーロッパの人たちは、西洋医学の水準は日本の漢方医学の水準よりはるかに低い、と考えていたそうです。ヨーロッパでは漢方医学の効果が認められていて、日本がなぜ漢方薬を捨てたのか理解できない、と思っていたというのです(慶応大学の渡辺賢治先生の論文)。
■ 「漢方を飲んだけど効果なし」という患者さんへ
漢方薬は1種類だけではありません。生薬の組み合わせにより300種類以上存在します。
そして目の前の患者さんの病状に一番効く薬は1種類だけです。他の漢方薬は今ひとつだったり無効だったり。
漢方医の腕は「患者さんにドンピシャの薬を探し出す能力レベル」と云えます。
荒浪先生は、彼が神様と崇める二宮先生の診療をみていて「皮膚病に漢方が効く!」と体得したと思いきや、いざ自分の患者さんに処方しても効果が今ひとつという時期があったと告白しています。
※ 実は私も二宮先生の講演を聞いたことがあります。「女傑」というイメージの先生。
主に症例提示でしたが、「この患者さんにはこう考えてこのくすりを使ったら良くなった」と話されても「なぜそう考えたのか」の解説が省かれていたので・・・実はこのレベルで漢方初級者はつまずきがちなのです(苦笑)。気血水・虚実寒熱・五臓六腑などの理論を駆使するわけですが、如何に患者さんの病態の肝をつかむか、これが難しい。
「二宮先生が使用する漢方薬は他の先生とそう変わらないけど魔法のように効く」との噂を耳にしたこともあります。患者さんを診るとベストの漢方薬がすぐにわかってしまうのでしょう。達人です。
■ 漢方薬とサプリメントとの違い
サプリメントが一つの素材だけであるのに対して、漢方薬は数十種類の素材を組み合わせて作られています。相性のいい成分を何種類も組み合わせて相乗効果を高め、それらの成分が体の中でもっとも効果を発揮するように作られています。自然素材の薬効を、医療で使えるレベルにまで効果を高めたものが漢方薬です。
「サプリメントや健康食品は流行るけど消えるのも速い」とよく聞きます。そういう意味では、漢方薬は2000年以上生き残り進化してきた治療法と云えます。数年で消える健康食品とは訳が違います。
■ 赤ちゃんに飲ませる方法
母乳栄養の赤ちゃんにはお母さんに飲んでもらい、母乳を通して赤ちゃんに飲ませます(経母乳投与)。
母乳でない赤ちゃんは、ミルクや果汁に混ぜて飲ませます。ミルクに混ぜると味がまずくなり、ミルク嫌いになると思われる方もいらっしゃいますが、赤ちゃんのアトピーは「脾虚」(胃腸虚弱)を改善する漢方薬が治療の主体となり、甘い飲みやすい薬が多いので、今までに特に問題を感じたことはありません。
・・・どの小児科の教科書を読んでも「クスリをミルク本体に混ぜるのはタブー」を記されています。私は試したことがありません。
★ 重症例(実は編集者の一人)の治療手記も参考になりました;
漢方薬を飲み始めて1ヶ月後には見た目にもよくなってきていることがはっきりとわかりました。劇的によくなると云うよりは、良くなったり悪化したりの波を繰り返しながら、だんだんと悪化の波のぶれ幅が狭まって改善していったように思います。
不思議なことですが、当初苦くて飲みづらいと感じた煎じ薬も、慣れると云うだけでなく飲んでいるうちにだんだんと美味しく感じるようになります。疲れたときに甘いものや酸っぱいものを食べると体にしみ通るように感じられるのと同じで、飲みながら「体が欲している」「薬が効いている」ということが実感できます。漢方は食事と同じ、きちんと飲み続けなくてはいけない、と云われるのもわかるような気がしました。
乳幼児のアトピーの病態の根底には「脾虚」があること、それをサポートして病態が複雑化する前に治してしまいましょう、という提言に勇気をもらいました。今の自分の方向性は間違っていないと。
一度、荒浪先生の講演を聞いてみたいなあ。
漢方界では二宮文乃先生というカリスマ皮膚科漢方医がいらっしゃるのですが、荒浪先生は二宮先生の弟子。
最近人気者のようで、オリコンの病院人気チャート(というものがあるらしい)の第2位だそうです。
現在開業されて、一日に300人(!)診療し、その半分以上が乳幼児とのこと。
いかにも「売れ線狙い」のタイトルですが、何か得るものかないかと期待して読んでみました。
う~ん、無駄だったかなあ。
やはり一般向けの啓蒙書・宣伝書でした。
荒浪先生の学生時代(授業よりもサーフィンに夢中だった)のエピソードなんかに興味はありませんので(苦笑)。
以前、この荒浪先生の著書「漢方で治す!アトピー性皮膚炎」(2001年)を読んだことがありましたが、その方が内容があったような気がします。
まあ、でも参考になるところもありましたのでメモしておきます;
■ アトピーは赤ちゃんのうちに漢方薬を飲ませて、速やかに体質改善をしてしまうことが、この病気を撲滅する一番の近道だと思っています。
・・・小児科医にとって勇気づけられるお言葉です。
■ 現時点でのベストの治療法は、掻きむしらないようステロイド剤で痒みをとりながら、漢方薬で体質そのものを体内から改善させ、ステロイド剤不要の状態に持っていくことだと思っています。
私は皮膚科専門医としてステロイド剤の有用性は十分認識しています。ただ、体の中に原因がある皮膚の病気を、外側から塗って抑えるだけでは治らないという例をたくさん診てきました。外用剤のみでは治らない患者さんのために、ある先生はカウンセリングをしたり、安定剤を飲ませたり、食事指導をしたりします。たまたま私は体内から治す漢方治療に出会っただけです。
・・・私の発想と驚くほど同じです。皮膚科学会作成の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」(ステロイド軟膏で病勢を押さえつけてよい状態を保てばいずれ落ち着くという考え方)に準じて治療していてもよくならない患者さん。抗アレルギー薬もかゆみ止め程度の効果しか感じられない・・・体にあった漢方を飲んでいると中からよくなっていくことを実感して漢方治療にはまっていく・・・。
■ 明治時代に「西洋医学があれば漢方医学はいらない」と判断されたことは残念です。しかし、実はヨーロッパの人たちは、西洋医学の水準は日本の漢方医学の水準よりはるかに低い、と考えていたそうです。ヨーロッパでは漢方医学の効果が認められていて、日本がなぜ漢方薬を捨てたのか理解できない、と思っていたというのです(慶応大学の渡辺賢治先生の論文)。
■ 「漢方を飲んだけど効果なし」という患者さんへ
漢方薬は1種類だけではありません。生薬の組み合わせにより300種類以上存在します。
そして目の前の患者さんの病状に一番効く薬は1種類だけです。他の漢方薬は今ひとつだったり無効だったり。
漢方医の腕は「患者さんにドンピシャの薬を探し出す能力レベル」と云えます。
荒浪先生は、彼が神様と崇める二宮先生の診療をみていて「皮膚病に漢方が効く!」と体得したと思いきや、いざ自分の患者さんに処方しても効果が今ひとつという時期があったと告白しています。
※ 実は私も二宮先生の講演を聞いたことがあります。「女傑」というイメージの先生。
主に症例提示でしたが、「この患者さんにはこう考えてこのくすりを使ったら良くなった」と話されても「なぜそう考えたのか」の解説が省かれていたので・・・実はこのレベルで漢方初級者はつまずきがちなのです(苦笑)。気血水・虚実寒熱・五臓六腑などの理論を駆使するわけですが、如何に患者さんの病態の肝をつかむか、これが難しい。
「二宮先生が使用する漢方薬は他の先生とそう変わらないけど魔法のように効く」との噂を耳にしたこともあります。患者さんを診るとベストの漢方薬がすぐにわかってしまうのでしょう。達人です。
■ 漢方薬とサプリメントとの違い
サプリメントが一つの素材だけであるのに対して、漢方薬は数十種類の素材を組み合わせて作られています。相性のいい成分を何種類も組み合わせて相乗効果を高め、それらの成分が体の中でもっとも効果を発揮するように作られています。自然素材の薬効を、医療で使えるレベルにまで効果を高めたものが漢方薬です。
「サプリメントや健康食品は流行るけど消えるのも速い」とよく聞きます。そういう意味では、漢方薬は2000年以上生き残り進化してきた治療法と云えます。数年で消える健康食品とは訳が違います。
■ 赤ちゃんに飲ませる方法
母乳栄養の赤ちゃんにはお母さんに飲んでもらい、母乳を通して赤ちゃんに飲ませます(経母乳投与)。
母乳でない赤ちゃんは、ミルクや果汁に混ぜて飲ませます。ミルクに混ぜると味がまずくなり、ミルク嫌いになると思われる方もいらっしゃいますが、赤ちゃんのアトピーは「脾虚」(胃腸虚弱)を改善する漢方薬が治療の主体となり、甘い飲みやすい薬が多いので、今までに特に問題を感じたことはありません。
・・・どの小児科の教科書を読んでも「クスリをミルク本体に混ぜるのはタブー」を記されています。私は試したことがありません。
★ 重症例(実は編集者の一人)の治療手記も参考になりました;
漢方薬を飲み始めて1ヶ月後には見た目にもよくなってきていることがはっきりとわかりました。劇的によくなると云うよりは、良くなったり悪化したりの波を繰り返しながら、だんだんと悪化の波のぶれ幅が狭まって改善していったように思います。
不思議なことですが、当初苦くて飲みづらいと感じた煎じ薬も、慣れると云うだけでなく飲んでいるうちにだんだんと美味しく感じるようになります。疲れたときに甘いものや酸っぱいものを食べると体にしみ通るように感じられるのと同じで、飲みながら「体が欲している」「薬が効いている」ということが実感できます。漢方は食事と同じ、きちんと飲み続けなくてはいけない、と云われるのもわかるような気がしました。
乳幼児のアトピーの病態の根底には「脾虚」があること、それをサポートして病態が複雑化する前に治してしまいましょう、という提言に勇気をもらいました。今の自分の方向性は間違っていないと。
一度、荒浪先生の講演を聞いてみたいなあ。