近年、アトピー性皮膚炎の治療の進歩がめざましい。
いくつも新しい薬が認可されています。
振り返ると私が小児科医になった頃は、
ステロイド軟膏・外用薬のみでした。
約20年前にタクロリムス(商品名:プロトピック®)が登場した際、
「ステロイドの副作用を回避できる!」
「Life changing drug !」
ともてはやされました。
しかし塗布後の刺激感や使用量制限のため、
今ひとつ普及していません。
当院周辺にある皮膚科医院でも、
子どもにプロトピック®を使用しているクリニックは皆無です。
アトピー性皮膚炎の病態、かゆみのメカニズムが解明されてくると共に、
それらをピンポイント攻撃・ブロックする薬が開発されてきました。
抗体医薬としてのデュピルマブ(商品名:デュピクセント®)は痒みの伝達経路で作用するIL-4とIL-13をブロックする薬です。
<参考>
■ アトピー性皮膚炎に10年ぶりの新薬 その実力は?
皮膚科医の間では大変盛り上がっています。
抗体医薬はこれ以降もデビューを待っている新薬が目白押し。
軟膏・外用薬でもプロトピック以来の新薬
デルゴシチニブ(商品名:
コレクチム®)が2020年6月に登場しました。
<参考>
■ アトピー性皮膚炎の新しい治療薬「コレクチム軟膏」って何?
製造販売しているJTは小児用も申請していますので期待してます;
■ JT JAK阻害薬コレクチム軟膏の低濃度製剤を承認申請 小児アトピー性皮膚炎治療薬として
これらの新薬が登場してきた現在、
小児科クリニックである私のアトピー性皮膚炎診療は・・・
相変わらず「ステロイド軟膏・外用薬」中心です。
ただ、私の診療には以下のような特徴があります;
「ステロイド軟膏を塗ってよくなったらやめて保湿剤に切り替えてください」
という診療では、半分の患者さんが治癒に至らず放浪(ドクターショッピング)することになります。
アレルギー系学会での最新の治療法は、
「ステロイド軟膏・外用薬によるプロアクティブ療法」
が主流です。
改善を悪化を繰り返す患者さんには、
初期にステロイド軟膏・外用薬を集中塗布して1〜2週間で略治させ、
そこでやめないでよい状態を保ちながらゆっくり減らしていく方法です。
具体的には塗布間隔を1日おき→ 2日おき→ 3日おき→ 1週間おき、
と開けていくのです。
途中で湿疹が悪化したら、また集中塗布して略治させ、悪化因子の有無を確認して見つけたら排除し、同じことを繰り返します。
私はここで漢方薬を追加することが多いです。
体に合う漢方薬は、ステロイド軟膏・外用薬の減量をスムースにしてくれます。
この治療を赤ちゃんのアトピー性皮膚炎発症時期に適用すると、
8〜9割の患者さんが3〜6ヶ月でステロイド軟膏・外用薬をやめられます。
ただ、乾燥肌という体質は消えませんので保湿剤はその後も続ける必要がありますが。
とてもよい治療法なのですが、この治療法はあまり普及しているとはいえない状況です。
医師側の負担が大きく(とにかく診療に時間がかかる)、看護師スタッフの指導力も高いレベルが要求されます。
患者さん側にも3〜6ヶ月間はマメに通院していただくという負担が発生します。
さて、話を戻します。
上記新薬を総括した論説を見つけました。
著者は皮膚科医でも小児科医でもありません。
論文解説はプロですが、アトピー性皮膚炎については、
「皮膚症状が年齢により分布が異なるというのも小生全然知りませんでした」
というレベルの医師の感想と割り切ってお読みください。
<参考>
■ アトピー治療はリウマチ治療並みに激変!!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
Lancet(2020; 396: 345-360)にアトピー性皮膚炎の総説がありました。著者は英国、アイルランド、ドイツの皮膚科、アレルギー科の医師たちです。トップジャーナル総説でアトピー性皮膚炎が扱われたのは2005年以来です(N Engl J Med 2005; 353: 1069-1070)。今回15年ぶりのアトピー性皮膚炎総説を読んでその激変ぶりに仰天しました。
15年前の総説では牧歌的に、皮膚軟化剤(emollient:ワセリン、ヒルドイド、ケラチナミンなど)とステロイド塗布薬、プロトピック(タクロリムス)軟膏の使い分けなどに終始していました。
しかし翌2006年に「アトピー性皮膚炎の最大の遺伝子リスクは皮膚防御蛋白filaggrinを暗号化(encode)するFLG遺伝子変異である」ことがNature Geneticsで発表され、病態生理が解明、これがブレイクスルー(breakthrough)となり突如、すさまじい治療革命が始まりました。
Lancetセミナー「アトピー性皮膚炎」最重要点は下記15です。
- アトピー性皮膚炎の最大リスクは皮膚防御蛋白filaggrin暗号化のFLG遺伝子変異!
- アトピー性皮膚炎の7割で黄ブ菌定着、皮膚バリア破壊、引っかきで悪化(itch-scratch cycle)
- アトピー性皮膚炎の最大の危険因子はアトピー性皮膚炎の家族歴
- Atopic march:アトピー性皮膚炎→喘息、花粉症などへの進展。真菌、ウイルス疾患合併もあり
- 軽症アトピーは当初3~7日は局所ステロイドでコントロール、以後皮膚軟化剤(ワセリンなど)で維持
- プロトピック軟膏は初期数日痒み、灼熱感あるがステロイドのように皮膚萎縮起こさぬ
- 新塗布薬:PDE4阻害薬(crisaborole)、JAK1/2阻害薬(ジャカビ)、PanJAK阻害薬(コレクチム)
- 痒みは抗IL-4Rα(デュピクセント)、抗IL-31Rα(nemolizumab)、抗JAKで軽快
- 全身治療にシクロスポリン、MTX、アザチオプリン、ミコフェノール酸、IL-4Rα抗体、JAK阻害薬
- 局所塗布で改善しない場合、紫外線療法も考慮
- 悪化因子:毛織物、アルカリ洗剤、天候、感染、精神ストレス、食物、吸入粒子など
- 診断は痒み、典型的分布、慢性皮膚炎、アトピー歴・家族歴のうち3つ必須
- 目の下のしわ、黒い眼周囲、手掌・足底のしわ、円錐角膜、眉毛外側薄い、白内障も
- 幼児は顔面、体幹の発疹、2歳以上から関節屈側へ
- 妊娠中の局所塗布薬はOK、全身治療は要注意!
今回、Lancetを読んでアトピー性皮膚炎治療がまるで関節リウマチ並みの治療体系に変貌しているのを目の当たりにし、すっかり浦島太郎の気分でした。 誠に医学は日進月歩です。
・・・・・
1. アトピー性皮膚炎の最大リスクは皮膚防御蛋白filaggrin暗号化のFLG遺伝子変異!
アトピー性皮膚炎の最大の遺伝子リスクは皮膚防御蛋白filaggrinを暗号化(encode)するFLG遺伝子変異です。これは2006年のNature Geneticsの下記の論文で発表されました。 これを契機としてスカイロケットのようなすさまじい革新が始まったのです。
Palmer CN, et al. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis, Nat Genet2006;38:441-446.
FLG遺伝子は前蛋白のprofilaggrinを暗号化しており、これが皮膚防御蛋白filaggrinに変化します。FLGの機能喪失型変異(loss-of-function mutation)によりホモ接合(homozygous)でも、ヘテロ接合(heterozygous)の場合でも蛋白表出が50%減少します。ホモでもヘテロでも50%減少しますから、それでアトピー性皮膚炎の罹患率が高いのかなあと思いました。
当初、このFLG遺伝子変異は欧州人、日本人、漢族で見つかりましたが、その後バングラデシュ、アフリカ系米国人でも発見されました。しかしサハラ以南のアフリカでは稀です。
2.アトピー性皮膚炎の7割で黄ブ菌定着、皮膚バリア破壊、引っ掻きで悪化(itch-scratch cycle)
・・・・・この総説によると幼児のアトピー性皮膚炎の分布は顔と体幹、2歳を過ぎると関節屈側に分布するようになるとのことです。
アトピー性皮膚炎でFLG loss-of-functionによるfilaggrin欠損が見られるのは20~40%にすぎません。アトピー性皮膚炎はfilaggrin欠損のみが原因ではなくて、表皮バリアー破綻、皮膚微生物叢(skin microbiome)変化、Type 2-skewed immune dysregulationなどの複合的要因によります。
filaggrin欠損により皮膚バリアが脆弱化して炎症、T細胞浸潤を起こし黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染により皮膚バリアが破壊され炎症を起こします。
・・・・・ アトピー性皮膚炎の主役はTh2免疫反応です。Th2免疫反応とはマクロファージが花粉、ダニ、ほこりに接するとヘルパーT細胞を刺激してTh2(2型ヘルパーT)細胞が出来てアレルギー反応を起こします。Th2がインターロイキン(IL)-4とIL-13を活性化してB細胞からIgEを産生するのです。局所Th2免疫反応はさらに皮膚バリアを破壊し掻痒、微生物叢変化によりS. aureusの増殖を起こします。
一方、ウイルスや細菌を担当するのがTh1免疫反応です。マクロファージがウイルスや細菌に接するとヘルパーT細胞のうちTh1を活性化してインターフェロン(IFN)-γ経由でB細胞が抗体をつくります。Th1細胞やTh17細胞系の抑制はアトピー性皮膚炎の治療につながりません。
アトピー性皮膚炎ではS.aureus(黄色ブドウ球菌)が主に定着しています。メタ解析では正常皮膚で39%、アトピー性皮膚炎では実に70%で見られます。皮膚が正常に近づくとS.aureusも減少します。初期に非S.aureusのstaphylococcusが皮膚に共生(commensal)するとアトピー性皮膚炎のリスクが減少し、S.aureusが共生するとリスクが増加します。事程左様にS.aureusはアトピーを悪化させるのです。
S.aureusは皮膚バリアの破綻、Th2免疫活性化の直接の抗炎症(proinflammatory)作用があります。またMalassezia(癜風)も皮膚炎症を悪化させます。癜風はときどき外来患者さんの背中に見かけます。白い脱色斑が多くカビの一種です。重症アトピー性皮膚炎ではMalassezia抗原に対しIgE反応があります。
皮膚炎症はアトピー性皮膚炎で最も重要な(central)原因です。特にCD4表出によりT細胞浸潤が見られます。細胞間に液体が貯留して海綿化(spongiosis)しT細胞が浸潤します。表皮防御能破綻によりalarminが放出され炎症性表皮樹状細胞(dendritic cell)と2型免疫反応が活性化します。Th2によりIL-4とIL-13が放出されB細胞がIgEを産生するのです。
アトピー性皮膚炎の主症状は痒みであり引っかく(scratch)ことにより皮膚バリアが破壊されアレルゲンや刺激物が皮膚に浸透しアラーム信号が活性化して、Itch-scratch cycleが始まります。引っかくことによりますます悪循環に陥るのです。 へー、「itch-scratch cycle」って言うんだなあと思いました。この悪循環を絶つためにも痒みを抑えなければなりません。
アトピー性皮膚炎患者ではさまざまなアレルゲンに対するIgEが上昇しています。しかしアレルゲンを避けることにより、アトピー性皮膚炎が改善するのかはよく分かりません。食物アレルゲンでフレアを起こしますが、たいていの食物アレルギーは小児期で改善し食事介入が改善につながるのかも分かりません。
病巣部でない正常皮膚のサイトカインも2型免疫に傾き(skew)、自然免疫(innate immunity)と新生血管のマーカーが過剰表出されます。アトピー性皮膚炎ではNK(natural killer)細胞活性は減少しています。一方、病巣部皮膚ではkeratinocyte活性とT細胞浸潤に関連する遺伝子が活性化されTh2関連のIL-4、IL-10、IL-13、またTh22関連のIL-22が表出されます。
求心性ニューロンのType2 IL-4 receptor subunit α(IL-4Rα)が発見されましたが、これはType 2 免疫反応と神経学的掻痒に関与するのです。デュピクセントによるIL-4Rα阻害で痒みが治まるのはこれを裏付けるものです。
3. アトピー性皮膚炎の最大危険因子はアトピー性皮膚炎の家族歴
アトピー性皮膚炎の最大の危険因子は家族歴にアトピー疾患、とりわけアトピー性皮膚炎があることです。遺伝傾向は強く双生児では75%です。・・・・・アトピー性皮膚炎でFLG loss-of-functionによるfilaggrin欠損が見られるのは20~40%にすぎません。34の遺伝子loci(座)が報告されましたがそれでも遺伝の20%しか説明できません。
・・・・・FLG以外では染色体5q31.1のtype 2 cytokine clusterのlocus(座の単数)があります。これはIL-4、IL-13、RAD50などのサイトカイン表出を行います。また染色体11q13.5は2つの遺伝子EMSYとLRRC32の間にあり多彩なアトピーの表現型に関与します。この2つの蛋白の表出、機能が影響されると思われます。
表皮防御不全はアトピー性皮膚炎では常に見られます。表皮からの水分漏出、Ph変化、透過性亢進、保湿低下、脂質含有量低下です。これはfilaggrin欠損だけでなく搔破(scratching)にもよります。またS.aureus、Malassezia yeasts(癜風菌)も関与します。
4. Atopic march:アトピー性皮膚炎→喘息、花粉症などへの進展。真菌、ウイルス疾患合併もあり
アトピー性皮膚炎とアトピー疾患との関連は確立されています。特に重症、早期発症のアトピー性皮膚炎は喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーのリスクは高いのです。
アトピー性皮膚炎から喘息、花粉症(hay fever)などへの進展を「atopic march」と言います。米国の調査ではアトピー性皮膚炎では健常者に較べ結膜炎が著明に増加します〔オッズ比(OR)4.38、95%CI 1.39~13.79〕。角結膜炎、円錐角膜(keratoconus)、白内障などが起こります。またアトピー性皮膚炎ではeosinophilic oesophagitis(好酸球性食道炎)のOR 2.85(95%CI 1.87~4.34)です。
アトピー性皮膚炎では細菌、真菌、ウイルス感染をしばしば合併します。前述したようにS.aureusはアトピー性皮膚炎で特に膿痂疹(impetigo)様病変(有痛性のしみ出る病変で黄色痂疲を伴う)のある場合、最もよく合併する細菌です。
ウイルス疾患でよく合併するのは伝染性軟属腫(molluscum contagiosum)、単純性ヘルペス(herpes simplex)、帯状疱疹、尋常性疣贅(warts)です。アトピー性皮膚炎はまた精神的ストレス、自尊心(self-esteem)低下、不眠を伴います。システマチックレビューではうつ、不安、自殺傾向もあります。心血管リスクのrelative risk ratioは1.15(95%CI 1.09~1.21)です。湿疹の重症さとリンパ腫の相関もあります。
小児疾患でQOL(生活の質)に影響を及ぼすのは、アトピー性皮膚炎は実に脳性麻痺に次ぐ2位です。生産性も低下し、欠勤(absenteeism)や出勤疾病(presenteeism:出勤しても仕事をしない)もあります。Presenteeismと言うのは小生初めて聞きました。
5. 軽症アトピーは当初3~7日は局所ステロイドでコントロール、以後皮膚軟化剤(ワセリンなど)で維持
軽症のアトピー性皮膚炎では昔ながらの保湿剤(moisturizer、emollient)やステロイド塗布薬を用います。この辺りについてはN Engl J Med (2005; 353: 1069-1070)のアトピー性皮膚炎総説がよくまとまっていますので以下に引用します。
治療の最大のポイントは、当初集中的に(burst)3~7日は局所ステロイドを怖がることなく使用してとりあえずアトピーをコントロールしてしまうことです。その後は皮膚軟化剤(moisturizer、emollient:ワセリン、ホウ酸亜鉛華軟膏、ヒルドイド、ケラチナミンなどでしょうか)のみで寛解を維持するのです。
もし再発したら強力(potent)または中等度(moderate)の局所ステロイドを5日間まで使用します。これでうまくいかなければ週末療法(weekend therapy)を行います。即ち強力(potent)局所ステロイドを以前アトピーがひどかった部分に土曜日、日曜日のみ塗布して再燃を抑えます。
あるいはプロトピック軟膏(タクロリムス)を使用します。顔のアトピーが続くとき、局所ステロイドの代わりにプロトピック軟膏を1日2回3週間、その後皮膚炎が軽快するまで1日1回使用します。プロトピック軟膏はステロイドのような皮膚萎縮を起こさないからです。
ステロイド外用薬の強弱は以下の通りです。原則として顔に使うのは中等度から弱いステロイドのみです。顔に強力ステロイドを使用すると尋常性痤瘡(にきび)や酒皶(しゅさ、赤ら顔)を起こします。
・・・・・
【ステロイド外用剤の強弱分類:日本皮膚科学会、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018】
・最強(the strongest):デルモベート、ダイアコート、ジフラール
・かなり強力(very strong):リンデロンDP、マイザー、ネリゾナ、テクスメテン、トプシム、アンテベート、フルメタ、ビスダーム、パンデル
・強力(strong):エクラー、メサデルム、ボアラ、アドコルチン、リンデロンV、ベトネベート、フルコート
・中等度(mild):リドメックス、レダコート、アルメタ、キンダベート、ロコイド、グリメサゾン、オイラゾン
・弱い(weak):プレドニゾロン
局所ステロイド塗布薬は抗炎症治療として第一選択でありリスクは少ないとのことです。ただし不適切な使用により皮膚萎縮、顔面痤瘡(にきび)、紫斑、線条、血管拡張、色素変化などが起こります。強力ステロイドで血管収縮が起こります。
伝統的に塗布薬は1日2回を推奨しますが、1日1回に比べ優れているかは分かりません。急性期には局所ステロイド塗布は希釈し湿潤したドレッシングで覆い皮膚透過を助け皮膚を湿潤化させます。
6. プロトピック軟膏は初期数日痒み、灼熱感あるがステロイドのように皮膚萎縮起こさぬ
ただ今回2020年のLancetによると局所calcineurin inhibitor(タクロリムス:プロトピックやpimecrolimus)の効果は中等度~強力ステロイド塗布薬と同等かやや劣るとのことです。この薬剤は初期数日、灼熱感、痒みがあり、また高価なのが欠点です。ただステロイドのように皮膚萎縮を起こさないので間擦部や顔の使用には便利です。
局所ステロイドや局所calcineurin inhibitorは以前皮膚炎がひどかった部分に週2日ほど炎症を減らすために使用するとよいそうです。
7. 新塗布薬:PDE4阻害薬(crisaborole)、JAK1/2阻害薬(ジャカビ)、PanJAK阻害薬(コレクチム)
2016年米食品医薬品局(FDA)はPDE4阻害薬crisaborole軟膏を認可しました。現在、国内でもこの治験(ファイザー)が行われていますが、まだ商品名は決まっていません。これは細胞内酵素phosphodiesterase 4阻害薬で、2歳以上の軽症から中等度のアトピー性皮膚炎に使用されます。Phase 3 trialで32%の患者がprimary endpointのclearまたはほぼclearを達成しました(ISGA; Investigator's Static Global Assessment scoreで0または1)。しかしこの結果はvehicle(賦形剤、媒剤)の効果の18~25%に比べ、少し優れる程度だそうです。
現在JAK-STATと脾臓tyrosine kinase pathwayの阻止薬の局所製剤が開発されつつあります。ルキソリチニブリン(ジャカビ:JAK1/2阻害薬、国内では内服のみ)クリーム2回/日はJAK1とJAK2阻害ですが賦形剤やトリアムシノロンクリームよりも優れていました。ルキソリチニブリンによる4週後の湿疹改善は71.6%、賦形剤で15.5%、トリアムシノロンで59.8%でした。Phase 3 トライアルが進行中です。
「JAK阻害薬」って何だろうと調べてみました。JAKは、ATPからリン酸を細胞内蛋白に移動させるtyrosine kinaseです。 最初、これはなんと「JAK; just another kinase」と名付けられました。 ・・・ところがこの酵素が重要な働きをすることが次第に分かり、Janus kinase と 大層な名前に変更になりました。Janusというのは2つの顔を持ったローマ神です。JAKはサイトカインの受容体に2分子がくっついて作用するのでそれで二面神ヤヌスの名前になったようです。
・・・Pan-JAK阻害薬デルゴシチニブ(コレクチム軟膏、日本たばこ、2019.10承認)は日本でのphase 3トライアルで、16歳以上の中等度~重症のアトピー性皮膚炎患者158人で、modified EASI(mEASI)でデルゴシチニブ群が-44.3%、賦形剤で-1.7%でした。mEASI 50(ベースラインから50%改善)が前者51.9%、後者11.5%、mEASI 75(75%改善)は前者26.4%、後者5.8%でした。
16歳以上の中等度~重症アトピー性皮膚炎の日本人352例でデルゴシチニブ使用4週でmEASI 50(ベースラインから50%改善)が31.5%、mEASI 75(75%改善)が10.9%でした。24週でmEASI 50が42.3%、コントロール群22.7%、52週でそれぞれ51.9%、27.5%でした。
8. 痒みはデュピクセント(抗IL-4Rα)、Nemolizumab(抗IL-31Rα)、抗JAKで軽快
ヒスタミンは肥満細胞(mast cell)や好塩基球(basophil)から放出され掻痒源となりますが、抗ヒスタミン薬が痒みも含めてアトピー性皮膚炎を改善するかはっきりしません。
最近、治療の進歩からサイトカイン抑制により痒みが治まることが分かってきました。IL-4Rα阻害薬(デュピルマブ、デュピクセント、8万3,152円/1本、2018年薬価収載)やJAK阻害薬、IL-31Rα阻害薬(nemolizumab)などのサイトカイン抑制により痒みが治まるのです。
痒みはデュピルマブ(ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体でTh2炎症反応を抑制)によるIL-4Rα阻害や下流のJAK阻害で軽快します。
Type2 サイトカインのIL-4、IL-13、TSLP、IL-31は痒みを起こします。求心性ニューロンのType2 IL-4 receptor subunit α(IL-4Rα)が発見されましたが、これはTh 2免疫反応と神経学的掻痒に関与するのです。デュピルマブによるIL-4Rα阻害で痒みが治まるのはこれを裏付けるものです。
またTh 2 免疫細胞はIL-31を放出しIL-31受容体subunit α(IL-31Rα)やTRPV1-expressingまたはTRPA1-expressing neuronを直接刺激して痒みを起こします。Nemolizumabはヒトモノクローナル抗IL-31Rαであり、痒みは著明に改善します。IL-31Rαがアトピー性皮膚炎の痒みに大きく関与すると思われます。
9. 全身治療にシクロスポリン、MTX、アザチオプリン、ミコフェノール酸、IL-4Rα抗体、JAK阻害薬
局所塗布やphototherapyで改善しない場合、関節リウマチのような全身療法(systemic treatment)が行われるようになりました。ただしステロイド全身投与はフレアに対する短期間のみとします。
アトピー性皮膚炎の全身治療としてはまさかのシクロスポリン、メトトレキサート(MTX)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト:プリン拮抗)やphototherapyをはじめ、ヒトモノクローナルIL-4Rα抗体デュピルマブや経口JAK阻害薬(バリシチニブ:オルミエント)が使われるようになりました。
また局所塗布薬もJAK1/2阻害薬のルキソリチニブリン(ジャカビ、国内では内服のみ)や2019年10月日本で承認されたPan-JAK阻害薬デルゴシチニブなど聞いたこともないような新薬が続々と出現しています。
・・・全身療法で広く使われるのはシクロスポリン、MTX、アザチオプリン、ミコフェノール酸です。しかしこれらの長期にわたるはっきりした効果は不明でありhead-to-head比較(薬対薬のガチンコ対決)もありません。
シクロスポリンは欧州15カ国、オーストラリア、日本で承認されましたが、それ以外の薬剤は適用外使用(off label indication)として使われています。
・・・・・シクロスポリンは特にRCTで最も確実な効果、安全性が確認されています。6~8週の治療でベースラインから55%の改善が得られます。ただ効果発現は早いのですが蓄積により終末臓器(end-organ)毒性や悪性腫瘍のリスクがあり、従ってほとんどのガイドラインで1~2年以内の使用としています。
アザチオプリンとMTXは効果的で比較的安全であり重症アトピー性皮膚炎の小児でも使用されます。遅効性でありアザチオプリンは4~8週、MTXは8~12週で最大の効果があります。関節リウマチで使うMTXがよもやアトピー性皮膚炎でも使われるなんて小生、思いもよりませんでした。アザチオプリン2週の治療で37%改善、プラセボで20%でした。ミコフェノール酸の使用に確実なエビデンスはありませんが比較的安全なので選択肢として考慮されるとのことです。
経口JAK阻害薬も使われるようになりました。アトピー性皮膚炎ではIL-4、IL-13以外にも多彩なサイトカイン、免疫経路が関与しており経口JAK阻害薬はサイトカイン、成長因子、ホルモン受容体シグナル経路を阻止するため有用(promising)です。経口JAK阻害薬はアトピー性皮膚炎に対し高い効力を示しまた即効性で、痒みは最初の1~2週で改善し臨床症状は2~4週で改善します。しかし長期使用で関節リウマチでの使用のように免疫系抑制、造血系への影響、血栓形成が危惧されます。
バリシチニブ(オルミエント:1日1回4mg、2mg 2,722.7円、4mg 5,274.9円、国内の適応は関節リウマチのみ)はJAK1、JAK2阻害薬ですが2つのPhase 3が行われました。 4mg /日で1つのトライアルではEASI 75(75%改善)はバリシチニブ群で24.8%、プラセボ群8.8%、他のトライアルでバリシチニブ群21.1%、プラセボ群4.4%でした。2 mg/日では効果は乏しかったようです。副作用は鼻咽頭炎、頭痛、CPK上昇、上気道炎などです。
ウパダシチニブは選択的JAK1阻害薬でPhase 2ですが16週で全ての臨床症状が改善しました。30mg /日でEASI 75(75%改善)は69%、プラセボ群で10%でした。副作用は尋常性痤瘡、CPK上昇、鼻咽頭炎などです。
Abrocitinib(国内未発売) も選択的JAK1阻害薬ですがJADE MONO-1トライアルでは12歳以上387人をabrocitinib 200mg/日、100mg/日、プラセボに分けました。12週で100mg群の23.7%、200mg群の43.8%がIGA(investigator's global assessment)でclear(0)またはほぼclear (1)を達成しました。EASI 75は100mg群で39.7%、プラセボ群17.9%、200mg群で62.7%、プラセボ群11.8%でした。
JADE MONO-2も同様の成績です。391人でIGA 0または1を達成したのはabrocitinib 200mg群で38.1%、100mg群28.4%、プラセボ群9.1%。EASI 75達成は200mg群61.0%、100mg群44.5%、プラセボ群10.4%でした。患者のアンケートでもこれらのトライアルで特に掻痒の軽減は最初の48時間で得られました。abrocitinibの副作用は嘔気、頭痛、鼻咽頭炎が多く血小板中央値の用量依存性減少、帯状疱疹、単純ヘルペス増加が見られこれらは全てのJAK阻害薬に共通です。
10. 局所塗布で改善しない場合紫外線療法も考慮
局所塗布で改善しない場合、4~8週の紫外線療法(phototherapy)も考慮します。Narrow-band ultraviolet Bとmedium-dose ultraviolet A1が使われます。ただし蓄積による皮膚障害、皮膚がん発生に注意します(特にultraviolet A1)。
11. 悪化因子:毛織物、アルカリ洗剤、天候、感染、精神ストレス、食物、吸入粒子など
・・・・アトピー性皮膚炎を悪化させる刺激物は数多くあります。毛織物(wool fabrics)、アルカリ系洗剤(alkaline detergents)、天候、感染、精神的ストレス、食物、吸入粒子、アレルゲンとの皮膚接触などです。エビデンスに基づく回避策はありません。上記の毛織物は意外でした。セーターなど着るとアトピーが悪化するのです。また皮膚は弱酸性ですからpHがかけ離れたアルカリせっけんで皮膚が荒れます。
表皮バリアの欠損がアトピー性皮膚炎の鍵であり乾燥肌(xerosis)を伴います。トライアルはありませんが保湿剤(moisturisers:ワセリン、ケラチナミン、ウレパール、パスタロンなどでしょうか)は防御能を改善します。Cochraneのシステマチックレビューでは保湿剤で皮膚湿潤、乾燥化減少、痒み、炎症が減少しました。
保湿剤は極力芳香剤や余計な含有物のないものを推奨します。刺激とアレルゲンを避けるためです。患者に日に2~3回、入浴後などに自由に使わせます。 西伊豆のALTが使っていたようなバスオイルを含め入浴剤のエビデンスはありません。
せっけんの代わりに芳香剤フリーで中性から低pHのクリーナーを推奨です。なお抗菌薬や消毒薬(antiseptic)含有の塗布薬のエビデンスはありません。
12. 診断は痒み、典型的分布、慢性皮膚炎、アトピー歴・家族歴のうち3つ必須
アトピー性皮膚炎は確定診断のテストが存在しません。診断は臨床医の評価がゴールドスタンダードです。臨床症状、重症度、経過が極めて多彩(heterogenous)なのです。診断補助のため幾つかのクライテリアがあり、小児疫学研究にはthe UK Working Party criteria、臨床ではThe Hanifin and Rajka criteriaとその簡易版があります。
HanifinもRajka(ライカ)も変わった名前なのでルーツを調べたところ、Hanifinはアイルランド、Rajkaはハンガリーでした。カメラのライカはハンガリー人だったのですね。 下記がHanifin & Rajkaのクライテリアです。基本的特徴4つのうち3つを満たしMinor features 23のうち、3つ以上存在することが条件です。
【Diagnostic Standard of Hanifin & Rajika】
A. 下記の3つ以上の基本的特徴(basic featues)の存在は必須
(1)痒み
(2)典型的形態と分布:
・成人の関節部屈側の苔癬化(flexural lichenification)
・幼児、小児では顔面、関節部伸側の発疹
(3)慢性、再発する皮膚炎
(4)アトピー歴または家族歴(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)
B. 下記3つ以上のminor featuresの存在
(1) 皮膚乾燥化(xerosis)
(2) 魚鱗癬(icthyosis)、手掌の過剰なしわ(palmar hyperlinearity)、毛孔性苔癬
(3) 皮膚即時反応(type I)
(4) 血清IgE上昇
(5) 早い年齢での発症
(6) 易皮膚感染(Staphylococcus aureus、herpes simplex)、細胞免疫低下
(7) 非特異的手・足の皮膚炎
(8) 乳頭湿疹
(9) 口唇炎
(10) 再発性結膜炎
(11) Dennie-Morgan infraorbital fold
(12) 円錐角膜(keratoconus)
(13) 前囊下白内障(anterior subcapsular cataracts)
(14) Oribital darkening (目の周囲が黒い)
(15) 顔面蒼白(facial pallor)、顔面発赤(facial erythema)
(16) 白色粃糠疹(いわゆる「はたけ」、pityriasis alba)
(17) 前首ひだ(anterior neck folds)
(18) 発汗で痒み
(19) 脂肪族溶剤加ウール(wool ad lipid solvents)に対する不寛容
(20) Perifollicular accentuation
(21) 食物アレルギー
(22) 環境、感情的因子で悪化
(23) 白色皮膚描記症、消退遅延(delayed blanch)
13. 目の下のしわ、黒い眼周囲、手掌・足底のしわ、円錐角膜、眉毛外側薄い、白内障も
上記のHanifin & Rajikaのminor featuresのうち、眼の下にしわができる(Dennie-Morgan infraorbital fold )とかパンダのように眼の周囲が黒くなる(orbital darkening)、手掌、足底の過剰なしわ(hyperlinearity)、眉毛外側が薄い(Hertoghe's sign)、円錐角膜(keratoconus)は小生、全然知りませんでした。ネットで画像検索するとすぐ出てきます。また前囊下白内障(anterior subcapsular cataracts)がありますがこれは目が痒くて こするためなのでしょうか?
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14. 幼児は顔面、体幹の発疹、2歳以上から関節屈側へ
また皮膚症状が年齢により分布が異なるというのも小生全然知りませんでした。幼児の急性病変は境界不鮮明な浮腫を伴う発赤、水疱、皮膚びらん(excoriation)、漿液性浸出液などが特に顔面、頬、体幹に出現し被髪部(nappy area)にはありません。
2歳以上では湿疹はより限局化、慢性となり発赤は薄く、乾燥肌(xerosis)となり関節屈側で苔癬化(lichenification)します。
ポイントは幼児では顔面、体幹に発疹ができ、2歳以上から関節屈側の発疹が出ることだなと思いました。
思春期以降では湿疹はより広範となるか、限局化し手、瞼(eyelids)、関節屈側(flexure)などに見られます。 成人では慢性の手の湿疹のみだったり頭頸部、体幹上部、肩、頭部などに見られます。
また形態的なバリアントとして
・follicular type(毛包性):毛包性丘疹の集簇でありアジア、アフリカ系で多い
・prurigo(痒疹)type :長期経過でびらん性丘疹と硬結結節
共通する特徴としては
・乾燥肌 ・初期からの発症(典型的には生後2年以前)
・アトピー性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)の既往または家族歴
・IgE高値
非特異的特徴として
・手掌、足底の過剰なしわ(hyperlinearity)
・下眼瞼のしわ(Dennie-Morgan infraorbital folds)
・Hertoghe's sign(眉毛外側が薄い) などがあります。
15. 妊娠中の局所塗布薬はOK、全身治療は要注意!
妊娠中のアトピー性皮膚炎に対するemollients (湿潤剤)、Class Ⅱ、Ⅲ局所ステロイド塗布、calcineurin inhibitors、Ultraviolet A1やnarrow-band ultraviolet B使用に制限はありません。しかし全身治療には注意が必要です。短期の全身ステロイド投与、シクロスポリンは綿密な観察を行えば比較的安全だが、アザチオプリンは避けるべきです(国内では2018年に「妊婦では治療上の有益性が危険性を上回る場合に投与可能」となりました)。