小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

アレルギー体質の人に新型コロナワクチンを接種したらどうなったか?

2021年09月20日 06時51分26秒 | 予防接種
新型コロナウイルスワクチンの「接種要注意者」の項目に「アレルギー体質」があります。
すると、
「私は喘息があるから・・・」
「私はアトピー性皮膚炎があるから・・・」
「私は食物アレルギーがあるから・・・」
「私は花粉症があるから・・・」
と心配されている方が多いと思います。
花粉症はもう40%が患者という国民病でもあります。

「アレルギー体質」とひとくくりにすると漠然とした不安が生まれます。
その解消のためには、まずアレルギーの正しい知識が必要です。
アレルギーは「特定のアレルゲンと反応する」という性質があります。
なんにでも反応するわけではありません。

例えば、
喘息ならダニ・ホコリ
食物アレルギーなら卵とか牛乳とか小麦とか特定の食材
花粉症ならスギとかカモガヤとかブタクサとか・・・
それ以外には反応しないのです。

ですから、新型コロナワクチンのハイリスクは、
「新型コロナワクチンに入っている成分にアレルギー反応を起こす人」
に限定されるのです。

そこで注目されたのが「ポリチレングリコール(PEG)」です。
これは、ワクチンのコアな成分(mRNA)が壊れないように包む袋の役割を担っています。

しかし小児アレルギー診療を30年してきましたが、
「あなたはポリエチレングリコール・アレルギーです」
と診断したことはありません。
なぜって、アレルギーの血液検査項目に「ポリエチレングリコール」がないからです。

そして、ポリエチレングリコールは数多くの化粧品や医薬品に含まれているのが現実です。
つまり、化粧品が合わない、医薬品でアレルギーの経験がある、
といった人たちの中にポリエチレングリコール・アレルギーが紛れ込んでいる可能性があります。
それは簡単な問診では絞りきれません。

なので、「アレルギー体質」が「接種要注意者」にされている裏事情があります。
現実に「成人女性に副反応が多い」と報告されているのは、化粧品が関連している可能性があります。

さて、実際に「アレルギー体質」の人に新型コロナワクチンを接種したらどうなったか?
を調査した報告があります;

アレルギー高リスク者、コロナワクチンによるアレルギー発症率は?
・・・イスラエル・Sheba Medical CenterのRonen Shavit氏らは、アレルギーに対し高いリスクを有する患者について、ファイザー製の新型コロナワクチン(BNT162b2)のアレルギー反応/アナフィラキシーの影響について調査を行った。その結果、アレルギー性疾患の病歴を持つほとんどの患者は、医療施設で実装できるさまざまなアルゴリズムを使用すれば安全に接種できることが示唆された。
 研究者らは・・・アレルギー患者8,102例を対象に前向きコホート研究として、詳細なアンケートを含むアルゴリズムを使用したリスク評価を実施。アレルギーに対し高いリスクを有する患者を「アレルギー性が高い」とし、医学的管理下で接種が行われた。

・アレルギー性が高い患者と定義付けされたのは429例で、そのうち304例(70.9%)は女性、平均年齢±SDは52±16歳だった。
・BNT162b2ワクチンの初回投与後、
 420例(97.9%)に即時型アレルギー反応はなく、
 6例(1.4%)には軽度のアレルギー反応が、
 3例(0.7%)にはアナフィラキシーが出現した。
・調査期間中、アレルギー性が高い患者218例(50.8%)が2回目のBNT162b2ワクチン接種を受けたところ、
 214例(98.2%)にはアレルギー反応がなく、
 4例(1.8%)で軽度のアレルギー反応がみられた。
・ほかの即時型および遅延型アレルギーの発現状況について、アレルギー性が高い患者群を一般集団と比較しても同等だった(遅延性のかゆみや発疹の発症は除外)。
(ケアネット 土井 舞子)

<原著論文>

アナフィラキシーも出現していますが、報告は「アルゴリズムに沿って行えば問題ない」と結論づけています。
日本でも希ながらアナフィラキシーが発生していますが、アドレナリン投与(エピペン®筋注)ですべて事なきを得ています。

私は小児科医なので予防接種をほぼ毎日子ども達に接種しています。
そして常にアナフィラキシーのリスクを想定しながら行っています。
私の診察には予防接種の際にアドレナリン(ボスミン®)が用意されています。

1回目にアレルギー反応を起こした人に2回目を接種したらどうなったか、という報告もあります;

コロナワクチン、1回目でアレルギー出現も2回目接種できる?
  海外では新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン接種後のアレルギー反応は2%も報告され、アナフィラキシーは1万人あたり最大2.5人に発生している。国内に目を向けると、厚生労働省の最新情報1)によれば、アナフィラキシー報告はファイザー製で289件(100万回接種あたり7件)、モデルナ製で1件(100万回接種あたり1.0件)と非常に稀ではあるが、初回投与後に反応があった場合に2回目の接種をどうするかは、まだまだ議論の余地がある。
 今回、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのMatthew S Krantz氏らは、ファイザー製またモデルナ製ワクチンの初回接種時にアナフィラキシーまたは遅発性のアレルギー反応を経験した被接種者において、2回目接種の安全性を検証するため投与耐性について調査を行った。その結果、2回目の接種を受けた患者の20%で軽度の症状が報告されたが、2回目接種を受けたすべての患者が安全に一連のワクチン接種を完了したことを明らかにした。また、必要に応じて将来も新型コロナのmRNAワクチンを使用できることも示唆した。
 本研究は、2021年1月1日~3月31日に米・マサチューセッツ総合病院、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院、・・・が合同で後ろ向き研究を実施。
ファイザー製またはモデルナ製ワクチンに対してアナフィラキシー反応を示し、
(1)初回投与4時間以内に発症 
(2)少なくとも1つ以上のアレルギー症状を有した
(3)アレルギー/免疫専門医へ紹介された
人が患者として定義づけられた。アナフィラキシーはブライトン分類およびNIAID/FAAN(米国・国立アレルギー感染症研究所/ Food Allergy and Anaphylaxis Network criteria)の基準のうち、1つ以上を満たすものとした。
 主要評価項目は2回目接種の耐性で、
(1)2回目の投与後アナフィラキシー症状がない
(2)症状が軽度、自然治癒したおよび/または抗ヒスタミン薬のみで解消した症状、のいずれかと定義した。
(結果)
・参加者は189例(平均年齢±SD:43±14歳、女性:163例[86%])だった。
・評価されたmRNAワクチンの初回投与反応のうち、モデルナ製を投与したのは130例(69%)、ファイザー製は59例(31%)だった。
・最も頻繁に報告された初回投与反応は、
 紅潮または紅斑で53例(28%)、
 めまい・立ちくらみは49例(26%)、
 接種部位のうずき・ヒリヒリ感は46例(24%)、
 喉の圧迫感は41例(22%)、
 じんましんは39例(21%)、
 喘鳴または息切れは39例(21%)だった。
・32例(17%)はアナフィラキシーの基準を満たしていた。
・参加者のうち159例(84%)が2回目の接種を受け、前投薬として抗ヒスタミン薬(30%)を投与したのは47例(30%)だった。
・初回投与後にアナフィラキシーと診断された19例を含む159例が2回目の投与に耐えられた。
・32例(20%)は2回目の接種によるアナフィラキシーや遅発性のアレルギーを報告したが、自然治癒・症状軽度および/または抗ヒスタミン薬のみで解決した。
 研究者らは、「今回の報告は初回投与後にアナフィラキシーや遅発性のアレルギー反応を報告する患者に対し、ファイザー製またはモデルナ製ワクチンの2回目の投与の安全性を支持する。初回投与後に反応を示した多くの被接種者がすべて真のアレルギー反応ではないか、または非IgE依存性アレルギー反応だったため、症状が前投薬で軽減できた」と主張した。
(ケアネット 土井 舞子)
<原著論文>

な、なんと1回目接種後アナフィラキシー経験者も含んでいる!
ちょっと日本ではできない研究ですね。
それでも、「問題なく接種を終了できる」と結論づけています。

今回の新型コロナワクチン接種事業でわかったこと、一般の方に周知されたことがたくさんあります。
・筋注は思ったほど痛くない(その瞬間は)
・ワクチンの副反応は起こって当たり前
・効くワクチンは副反応も強い
・思春期女子はバタバタ倒れる(迷走神経反射)

私が小児科医になった頃は、接種後に熱が出ただけでも大騒ぎでした。
なのでインフルエンザワクチンは効果よりも副反応を優先して作られました。
つまり効果を犠牲にしても、副反応の少ないワクチンです。
そのため、インフルエンザワクチンの有効性は50%止まり。

今回、新型コロナワクチンは mRNA という新しい方法で作成されました。
これが成功裏に終われば、きっと将来、 mRNAのインフルエンザワクチンも登場することでしょう。

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新型コロナ感染症に対するステロイドの使い方(タイミングが重要)

2021年09月13日 07時40分27秒 | 予防接種
日本ではデキサメサゾンというステロイド薬が新型コロナ感染症の治療薬として認可されています。
入院患者が中心ですが、最近外来患者レベルでも使用する傾向があり、私はちょっと心配しています。
なぜなら、ステロイド薬は功罪併せ持つ使い方にコツのある薬剤だからです。

デキサメサゾンは感染症の薬として長い間使われてきた古顔です。
四半世紀前、勤務医だった私は、
重症化したウイルス感染症や抗生物質で勢いを止められない細菌感染症にこの薬を使っていました。
とくにウイルス感染症では抗ウイルス薬の種類は限られているため、
未知のウイルス感染症で重症化した場合はステロイド薬とガンマグロブリン製剤(≒抗体製剤)で対応するしか方法がありませんでした。

その古い薬が、新型コロナ感染症で再び脚光を浴びています。

ステロイド薬が感染症に用いられる目的は「炎症抑制」です。
感染症ではウイルスや細菌が増殖して体に害を与えます。
すると我々の体が反応してそれを排除する免疫システムが稼働します。
病原体と免疫システムのせめぎ合いの結果、そこに炎症が起きます。
その炎症が制御できる範囲を超えて暴走すると、重症化の一因となります。

「サイトカインストーム」という単語はこれを表現する専門用語の一つ。
また、マイコプラズマ肺炎の肺炎部位には病原体のマイコプラズマはいませんが、
マイコプラズマと免疫システムの戦いの結果生じた炎症が肺に病巣を作り、
これを「免疫発症」と呼びます。

ステロイドは免疫の暴走を止める薬です。
ですから、サイトカインストームや免疫発症の際に有効です。
しかし、免疫系を抑えるので、ウイルスや細菌の増殖を止める力はなく、むしろ増殖を助長します。

ちょっと複雑ですね。

つまり、感染症には2つの側面、病相があり、
1.病原体増殖期
2.炎症拡大期
に分けられます。

新型コロナ感染症で言えば、
・風邪症状のみで1週間で治る→ 1
・発症1週間以降に肺炎を発症し重症化→ 2
となります。

それに対する治療は、
1 → 抗ウイルス薬
2 → ステロイド薬
になります。
しかし現時点で有効な抗ウイルス薬は存在しません。
なのでタイミングを計って2の治療をすることになります。

ステロイド薬の投与のタイミングが重要です。
早すぎるとウイルスの増殖を助長して重症化を招く可能性があり、
遅すぎるとステロイド薬で止められないほど炎症が強くなってしまう。

もし、新型コロナ患者に外来でステロイド薬を処方するなら、
医師は慎重にタイミングを計る必要があります。
「とりあえずビール」のごとく、
「とりあえずステロイド」と処方すると患者さんが痛い目に遭います。

ステロイド薬はアトピー性皮膚炎に対する治療にも軟膏として使われています。
以前、久米宏のニュース番組で否定的報道がされたため「ステロイド忌避症」が蔓延し、
治療に支障をきたし社会問題になりました。
これは不適切な治療(不十分な強さや量、自己流)がはびこったため、
十分な効果が発揮されなかったことが一因です。

ステロイドは有効な薬です。
ただ「正しい使い方」がポイント。
自己判断で使ったりやめたりせず、プロとしての医師の管理下に使用すれば大丈夫です。

最近の記事をいくつか紹介します。
内容を読むとイギリスが発表した「RECOVERY試験」の投与法;
デキサメタゾン6mgを呼吸不全が生じてから、5日以上10日以内投与
が標準となっているようですが、
現時点でも、適切な使用のタイミング、使用量、使用期間は流動的で手探り状態のようです。


COVID-19への全身性ステロイド投与は、抗ウイルス薬に先行させるべきではない
倉原優:近畿中央呼吸器センター(2021/09/07:日経メディカル

コロナへのステロイド、及び腰も勇み足もNG? 聖路加国際病院呼吸器センター医長の西村直樹氏に聞く
小板橋律子=日経メディカル(2021/09/07:日経メディカル

コロナ重症例に有効なデキサメタゾン、投与されない患者も
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