小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

貧血は感染防御の武器だった!

2020年07月28日 21時00分36秒 | 予防接種
7月後半の四連休は、どこへも出かける予定がないので、ふだんは手に取らない本を読んだり映画を見たりして過ごしました。
本棚にはインテリア化している科学啓蒙書もたくさんあり、ときどき斜め読みをはじめるのですが、すぐに飽きてしまうものが多く(特に日本語力のない文章には耐えられない性格なので)、期待をしないで下記の本を手に取って読み始めたところ、面白くて最後まで読み切りました。

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議(吉田たかよし著)講談社現代新書、2013年



中でも最終章「鉄を巡る人体と生物の攻防」は、ふだんから抱いていた、
「感染症が長引くと貧血になるのはなぜだろう?」
「不足している栄養素は美味しく感じるはずなのに、鉄が豊富なレバーを食べる気にならないのはなぜ?」
という素朴な疑問に対する回答であり、目からウロコが落ちました。
要約すると・・・

・地球上で最も多い元素は鉄であり、その質量の1/3を占める。
・鉄は最も安定した元素である。鉄元素は陽子を26個有し、その複雑な軌道により軽い元素(酸素や水素など)にはできない複雑なことが可能になる。
・鉄を最も有効利用したシステムが酸素を人体に取り込むヘモグロビンである。ヘモグロビンは肺で酸素と緩く結合し、組織で酸素を手放すという離れ業ができる。これは単純な酸化還元反応では不可能である。
・実は細菌/病原菌も人体同様、鉄を利用して生きている。人体に入り込んだ細菌/病原菌は、人体から鉄を奪い取って繁殖しようとする。人体は「それは許さん!」と鉄を守るシステムを作り上げた。
・さらに人体は「鉄を不足気味に維持することで自分の身を病原菌から守る」という戦略をとっている。つまり人体にとって「貧血気味」は標準の状態なのである。だから「鉄欠乏性貧血」を安易に鉄剤投与で治療すると、細菌感染が増える可能性がある。栄養状態が悪いと基礎体力が無いので、そこに鉄剤を投与すると病原菌にやられてしまうケースがアフリカほかで複数報告されている。日本では極端なダイエットをしている若い女性が危ない。生理が止まるレベルの悪い栄養状態に鉄剤を投与すると、細菌感染のリスクが増えてしまう。
・人の母乳にはラクトフェリンという、鉄を含んだ究極の感染対策物質が20%も含まれている。一方、育児用ミルクの原料である牛乳には2%しか含まれていない。どちらが赤ちゃんの健康に有利なのかは一目瞭然。
・“鉄の惑星”に住む人間も細菌も鉄に依存して生きており、生き残るために鉄の争奪戦をしているのである。

といったところ。

でも生きている地球から見ると、
「人間って、地球をむしばむ迷惑な寄生生物」
そのものだな、とつくづく感じます。

<メモ>

・地球は「水の惑星」ではなく「鉄の惑星」である。
地球に最も多い元素は鉄であり、地球の重量の1/3を占めている。
豊富にある元素である鉄を人体に取り込むシステムをなぜ構築しなかったのか不思議であり、理由があるはずである。

人体は必要最小限の鉄しか持たないことによって感染症の予防に役立ている(シンガポール国立大学:デリック・セク・トング・オング博士)。
人体に何か欠陥があって鉄が不足してしまうのではなく、病気を防ぐためにわざと鉄を不足させているというのが人体の実態である。
細菌にとって鉄は生きていくために不可欠な元素であり、鉄が人体に豊富にあると細菌が繁殖しやすくなり、感染症に罹りやすくなる。そのため、苦しくても鉄を不足させ、病原菌を兵糧攻めにしているのである。特に女性は子宮から病原菌に感染しやすいため、たとえ貧血になってでも鉄を多少は不足気味にしておく方が有利と考えられる(鉄・差し控え戦略)。
人体の中で、病原菌との鉄の奪い合い競争が常に繰り広げられている。

・鉄は元素の中で原子核が最も安定している。
鉄の原子番号は26であり、原子核には26個の陽子がある。この「陽子数26」より少なくても多くても原子核は不安定になる。
138億年前に宇宙が誕生した当初は、陽子が1個の水素と陽子が2個のヘリウムしかなかった。その後恒星内部で核融合が起こり、水素→ ヘリウム→ 炭素といった具合に徐々に重い元素が造られ、最も安定した鉄を目指して反応が進んできた。
鉄より重い元素は超新星爆発の時に、その巨大なエネルギーによって造らるようになったが、まだ存在する量は少ない。

・命を構成する元素は軽い元素中心
重い元素である鉄は地球内部に沈み込んでいったため、生命は地球表面に取り残された軽い元素(水素、酸素、炭素、窒素、イオウ、リンなど)を使って造られた。しかし複雑な形態・高度な機能を造るには重い元素も必要だった。原子核を回る電子軌道が複雑になると、複雑な性質を持つことができるためである。

・酸素の運搬役に必要な条件
生体が酸素を取り入れるだけなら、ただくっつける酸化すればいいが、酸化すると酸素を引きはがすのが難しくなり、酸素の運搬には不向きである。肺で酸素を取り込み、全身の細胞に酸素を運んで渡すためには、「結合」と「切り離し」がスムーズにできる性質が必要である。

鉄を有効利用したお手本のヘモグロビンとミオグロビン
ヘモグロビンは、ヘムという分子とグロビンというタンパク質が結合してできている。
ヘムには鉄が1原子だけ存在しており、この鉄の持つ複雑な電子軌道を利用することにより、肺で穏やかに酸素をくっつけ、体内の深部で酸素を切り離して細胞に酸素を届けることが可能になった。
筋肉で同じような役割を担っているのがミオグロビンである。筋肉を動かすときは、大量に酸素が必要になり、赤血球のヘモグロビンから酸素を効率よく受け取らなければならず、ここでミオグロビンが働く。   
ミオグロビンの中心部には鉄芽備えられており、この電子軌道によってヘモグロビンから酸素を奪い取る(ヘモグロビンより酸素と強く結合するため)。エネルギーが必要なときは、筋肉細胞内でミオグロビンから酸素を引きはがして使う。

・酸素の運搬には鉄が鉄板?
生命全体で見ると、酸素の運搬に鉄が利用されるケースが圧倒的に多く、哺乳類は例外なく鉄を使用している。
イカやタコなどの頭足類、カニやエビなどの甲殻類はヘモグロビンではなくヘモシアニンという物質を使って酸素の運搬をしているが、これは鉄の代わりにが使われている。

・生体における鉄の基本的な役割は酸化還元反応を起こすための触媒
全身の細胞は無数の酸化還元反応により生命が維持されているが、その中には鉄を利用した酵素が少なくない。これらの酵素活性を担う最も大切な部分に鉄がはめ込まれている。やはり、鉄が持つ複雑な電子軌道を利用して酵素活性が生み出されている。

・病原菌が人体内で増殖するには、人体の中から鉄を奪い取ることが必要
現在、地球上で見つかっている生命の中で、鉄が無い状態で生きられる生命はほぼ皆無である。
人間に寄生して生きる病原菌にも当てはまり、病原菌が体内で増殖するには、人体から鉄を奪い取ることが不可欠。一方人体は、病原菌に鉄を奪われたら病気になってしまうので、そうはさせじと鉄を奪われない仕組みを発達させた。その中心にあるのがトランスフェリンである。

・酸素を運ぶヘモグロビン、鉄を運ぶトランスフェリン
トランスフェリンは鉄を輸送する役割を担う。トランスフェリンは強力に鉄と結合することで、病原菌に鉄を奪われないようにしてくれる。そして鉄を必要としている人体の細胞には鉄を与えることができる優れた性質を有する。酸素におけるヘモグロビンの役割を、そっくりそのまま鉄に置き換えたのがトランスフェリンといえる。トランスフェリンは鉄の供給を断つことで病原菌を兵糧攻めにして弱体化を図る戦法をとる。

・トランスフェリンとシデロフォアによる鉄の争奪戦
しかし病原菌も黙っていない。病原菌の一部はトランスフェリンに対抗する機能として、シデロフォアという物質を作り出した。シデロフォアはトランスフェリン同様、鉄と結合する物質で、病原菌が鉄を使えるように細胞内で鉄を輸送することができる。こうして人体はトランスフェリン、病原菌はシデロフォアと、それぞれ異なる武器を持って激しい鉄の争奪戦を繰り広げている。

・貧血は感染対策の武器である。
病原菌との戦いを有利に進めるため、人体はトランスフェリンに加えて捨て身作戦も遂行する。それは「体内の鉄分をわざと減らす」ことであり、人体自らが死なない程度に鉄を減らす作戦である。
月経による貧血も、実はある意味、人体が意図的に作り上げているという側面がある。
人体は必要以上に鉄を吸収しないように、吸収率を抑制するメカニズムをわざわざ発達させてきた。

・感染対策に活躍するヘプシジン
鉄の吸収を制限する方法のひとつとして、人体はヘプシジンという物質をつくりだした。
ヘプシジンは抗菌作用を持っており、人体が細菌に感染すると、肝臓で合成される量が増加し、細菌が体内で増殖するのを抑える。さらにヘプシジンは腸に作用し、鉄の吸収にブレーキをかける作用も有する。
細菌に感染したときは、貧血のダメージより感染症のダメージの方が大きいので、増加したヘプシジンにより鉄の吸収が大幅に抑えられ、これにより細菌を兵糧攻めにしている。
細菌に感染していない平時であっても、ヘプシジンにより鉄の吸収はある程度ブレーキがかけられているため貧血になりやすい。これが多くの女性に貧血をもたらしている原因のひとつである。

・女性の鉄欠乏性貧血は地球上に生き残るための戦略
女性に月経があるのも、子宮を清潔な状態に保つことで卵巣采からの病原菌の侵入を阻止することが理由のひとつと考えられている。
ただし、これだけでは不十分なので、さらに体内の鉄分が少ない状態に維持することで、病原菌が繁殖しにくい環境を保つ側面もある。
人間の味覚は、ある成分が不足すると、それを多く含む食べ物が無性に欲しくなる仕組みが脳にあるといわれている。例えば、苦い漢方薬でさえもその成分が必要になると患者さんは美味しいと感じる。
すると、貧血の際にはレバーを美味しく感じるはずだが、実際にはレバーを受け付けない女性が多い。これは人間が本能的に、鉄が過剰になるよりは不足気味になるよう味覚を調節しているのではないか。

・瀉血は迷信ではなくれっきとした医療行為
中世ヨーロッパでは病気になった患者の血を抜き取る瀉血と呼ばれる治療が盛んに行われていた。ヒルに血を吸わせる治療法もあった。その後長い間、瀉血は全く意味のないものだと批判されてきた。
しかし鉄不足状態にすれば病原菌は繁殖しにくくなるため、意味のある治療法と考えられる。抗生物質がなかった中世においては価値のある治療だったのかも知れない。
現代医学は、瀉血は体内から鉄分を減らすという意味では有効な手段であり、すべてが迷信と決めつけてはいけないと考えている。

・結核患者に鉄を投与すると症状が悪化する
肺結核を長く患っていると鉄分が不足することは古くから知られていた。
1861年にフランスの医師トルソーが発表した「臨床医学の講義」という書籍に記載された文章であり、当時医の常識を根底から覆す理論であった。
案の定、彼の学説は当時の医学会に受け入れられず、認められたのはそれから1世紀後であった。
ソマリアの難民キャンプでは栄養状態が悪く貧血になる患者が多かった。治療として鉄剤を与えると貧血は改善したが、40%近くの人が貧血より遙かに深刻な結核やマラリア、ブルセラ症などの感染症を発症することが観察され、分析の結果トルソー医師の主張が正しかったことが証明された。
アフリカのマサイ族でも同様のことが起こった。彼らはほぼ全員、軽い貧血である。彼らの食事はほとんど牛乳や牛乳で作られたヨーグルトなどの乳製品だけ。牛乳には鉄分が少ししか含まれていないのでどうしても貧血になる。そこで彼らを健康にしようと鉄剤が配布された。すると貧血は解消したが、90%近くがアメーバ赤痢に感染してしまった。マサイ族はボーマと呼ばれる牛の糞で作られた家に住んでおり、牛の糞には赤痢アメーバが住み着いており、いわば赤痢アメーバに囲まれているようなもの。その対策としての食生活は長い歴史が生み出した民族の知恵だったのだろう。
ニュージーランドの先住民であるマオリ族では、赤ちゃんの低栄養状態による貧血に対して鉄剤を与えたところ、髄膜炎など深刻な感染症が7倍に増えた。
以上より、栄養状態を改善する前に鉄剤を与えることは、病原菌にエサを与えるようなもので、感染症のリスクを増やす行為となり得る。まずは栄養状態と衛生環境の改善を図り、鉄剤の投与はその後に行うべきである。

・極端なダイエットをしている若い女性に鉄剤を投与すると、細菌感染のリスクを増やす。
偏った食生活のためにタンパク質が不足し、その結果、体内でトランスフェリンが作れなくなるため、風邪をこじらせやすい。
極端なダイエットをしていれば、免疫力が低下するので、第一段階のウイルス感染事態を起こしやすくなり、さらにトランスフェリンが低下すると細菌に鉄が奪われてしまうため、第二段階の細菌感染に移行しやすくなる。

・母乳には最強の感染対策物質であるラクトフェリンが20%も含まれている。
トランスフェリンと名前が似ているラクトフェリンは、構造もよく似ており、やはり鉄と結合する能力がある。ラクトフェリンの鉄に対する結合力はトランスフェリンの100倍もあり強力である。つまりそれだけ強力に鉄が細菌に奪われるのを防ぐことができる。
ちなみに、牛乳にもラクトフェリンが含まれているが、その濃度は2%程度で人乳の10分の1に過ぎない。赤ちゃんの健康を考えれば、母乳の方が有利である。

・動物が傷口をペロペロなめるのは、ラクトフェリンの効果などにより細菌が繁殖するのを抑えるためである。
母乳の他にも、涙や唾液にもラクトフェリンが含まれ、リゾチームなどと共に病原菌から体を守っている。

・傷口に卵白を塗ると化膿しにくい理由。
鉄を巡る病原菌との駆け引きのために、鳥の卵の構造にも工夫がされている。
鳥のヒナが健康に育つためには鉄が不可欠であり、鳥類は鉄分を卵の真ん中にある卵黄に集中させるという戦略をとった。一方、卵白にはコンアルブミンという強力に鉄と結合する成分を12%配置し、病原菌に鉄が奪われるのを防いでいる。
外側の卵白には鉄を置かずに内側の卵黄に隠し持ち、卵白にはコンアルブミンで細菌ににらみをきかせる戦略である。
ルネサンス期にスイスの医師&錬金術師であるパラケルススは、傷口に卵白を塗ると化膿しにくいことを発見した。それ以来、抗生物質が発見されるまで、感染の治療には卵白が積極的に用いられてきた。卵白に含まれるコンアルブミンに病原菌が増殖するのを防ぐ効果があることを利用したのである。
現在は抗生物質があるので、医師から鉄剤を処方された場合は服用して問題ない。

・鉄不足による症状
鉄が不足するとヘモグロビンが作れないだけではなく、全身の細胞が分裂しにくくなる。そのため、貧血に加え、舌や口腔、食道や胃腸など、細胞分裂が激しく行われている部分に障害が出る。

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蕁麻疹の傾向と対策2020(千貫祐子Dr.)

2020年07月12日 06時07分31秒 | 予防接種
じんましんはよく相談を受ける病気です。
しかし、その実体はなかなか理解されていません。

じんましん=アレルギーというイメージが強く、
「原因を知りたいので検査をしてください」
と受診されます。

しかし、犯人がわかるアレルギー性じんま疹は全体の1割に過ぎません。
残りの9割ははっきりした原因が同定できないのです。

ところが、治療は抗アレルギー薬が有効なので、
原因のアレルギーが特定できないまま、抗アレルギー薬が処方されています。
なんだか混乱しますね。

なお、抗アレルギー薬という呼称は日本のみで、
欧米では「抗ヒスタミン薬」と呼ばれています。

また、じんましんに塗り薬は効きません。
なぜかというと、自然に消えてしまうのがじんましんの特徴だからです。
じんましんが出ている場所の皮膚病ではなく、
体の内側からあちこちの皮膚に顔を出す全身の病気と捉えていただきたいと思います。
ですから、他院を受診して強いステロイド軟膏が処方されている患者さんを見ると、
「?」と私は思ってしまいます。

実は私もじんましん体質です。
特に風呂上がりに目立ち、シャンプーを替えたら軽減したので、
一部はシャンプーが合わなかったと考えています。
今でも完全に縁が切れたわけではなく、
ちょっと掻いてしまうと掻いたところが線状に赤く腫れ上がります。
これは「機械性じんま疹」に分類され、現象を「皮膚描記症」と言います。

さて、先日じんましんに関するWEBセミナーがあり、
知識をアップデートすべく視聴しました。
概ね従来の理解通りでしたが、
「このタイプのじんましんには抗ヒスタミン薬推奨度はこれくらい」
「このタイプのじんましんはこのくらいで治る」
という目安が述べられており、とても参考になりました。

<メモ>
・じんましんと血管性浮腫:
(じんましん)真皮の浅いところに水が溜まる、数時間で消える。
(血管性浮腫)真皮の深いところに水がたまる、消えるまで数日かかる。

・ガイドラインでは、
6週間以内で治まるのを「急性蕁麻疹」
6週間以上続くのを「慢性じんま疹」
と分類している。

・アレルギー性のじんましんは約5%しかない。

★ 抗ヒスタミン薬連用の推奨度とエビデンス
推奨度:
 1(強い推奨)
 2(弱い推奨)
エビデンスレベル:
 A(高い)
 B(低い)
 C(とても低い)

機械性じんま疹(人工じんま疹)1B

コリン性じんま疹1B
コリン性じんま疹は「踏み台昇降運動15分」で誘発可能、
全身温熱発汗試験(特発性後天性全身性無汗症の鑑別目的)でも誘発可能。

アレルギー性じんま疹:ー(連用の推奨/エビデンスともになし!、頓用は2C

寒冷じんま疹1B

日光じんま疹1B

アスピリンじんましん(不耐症)2C
 NSAIDsは禁忌。COX1阻害作用が弱いアセトアミノフェン少量なら可、
 COX2阻害選択性が高いエトドラク、メロキシカムが使える患者もいる。

特発性じんま疹1A
 抗ヒスタミン薬の効果判定は1〜2週間内服した上で判断する。
 慢性じんま疹の治癒までの期間は2〜6年
 内服ステロイドを使用するのは日本だけである。皮膚科専門医以外で処方されているセレスタミンは推奨できない。
 国際ガイドラインでは抗ヒスタミン薬増量でも無効の場合、オマリズマブ、シクロスポリンの併用を検討。


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食物負荷試験に取って代わる検査が登場する?

2020年07月01日 12時39分51秒 | 予防接種
私は小児科専門医、かつアレルギー学会認定専門医ですので、食物アレルギーの相談をよく受けます。
乳児期発症の食物アレルギーは卵、牛乳、小麦が多く、基本は除去です。

乳児期発症の食物アレルギーは治ることが多く、時期を見て除去解除を試みます。
皮膚症状のみの軽症例では自宅で行っていただき、
心配な患者さんはクリニック内で食べていただき、1時間様子を見ます。

しかし、アナフィラキシー・ショックを起こす重症例は、開業小児科医では危険なので扱えません。
総合病院小児科に紹介して、有事の際に対応可能な万全の体勢を取って行う食物負荷試験を依頼しています。

このたび、鶏卵アレルギーの負荷試験に取って代わる検査が登場したという記事を拝見しました。
特異的IgE抗体の抗原親和性(抗原に結合する能力の強弱)を測定することにより、高ければ症状が出やすい、低ければ症状が出にくいことを証明し、臨床応用すればリスクを伴う食物負荷試験を回避できる、つまり開業医における食物アレルギーの診療の幅が広がる可能性があるのです。
大きな期待を寄せ、保険適応になるのを待ちたいと思います。

鶏卵アレルギー、負荷試験に代わる新検査法
 鶏卵は食物アレルギーの代表的な原因食物であり、鶏卵アレルギーの確定診断には食物経口負荷試験が欠かせない。しかし、アナフィラキシーなどの危険を伴うことから、より負担が少ない検査法の開発が求められている。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏、徳島大学先端酵素学研究所生態防御病態代謝研究分野教授の木戸博氏らの研究グループは、食物経口負荷試験に代わる鶏卵アレルギーの新しい検査法に関する応用研究を実施、結果をJ Allergy Clin Immunol Pract(S2213-2198(20)30285-3)に報告した。IgE抗体の"質"を評価する検査法だという。

世界初の技術で、特異的IgE抗体の抗原親和性を測定
 鶏卵アレルギーの主なアレルゲンは、卵白を構成するオボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、オボトランスフェリンなどの蛋白質。その中で、オボムコイドは最もアレルゲン活性が強く、鶏卵アレルギー患者のほとんどがオボムコイドに対する特異的IgE抗体を保有している。経口摂取したオボムコイドは、患者の持つオボムコイド特異的IgE抗体と結合することでアレルギー症状を引き起こす。
 現行のオボムコイド特異的IgE抗体価測定検査では、抗体価が非常に高い場合は鶏卵アレルギーをある程度の確率で予測できるものの、抗体価が17.5UA/mL未満などの低値だと、食物経口負荷試験でアレルギー症状の出現を確かめなければならない。
 木戸氏らは、高密度集積カルボキシル化プロテイン(DCP)チップを用いて特異的IgE抗体の抗原親和性を測定する技術を世界で初めて開発し、応用研究を実施している。特異的IgE抗体の抗原親和性とは、IgE抗体がアレルゲンと結合する能力のこと。今回、共同研究グループは鶏卵アレルギーの診断精度の向上を目指して、IgE抗体価の低い小児において鶏卵アレルギーの発症とオボムコイド特異的IgE抗体の抗原親和性との関連を調べた。

IgE抗体の"量"と"質"がアレルギー発症に関連
 対象は、国立成育医療研究センターにおいて2013年11月〜19年1月に加熱卵白の経口負荷試験を行った2〜3歳の幼児のうち、試験開始前4カ月以内に血液検査を行い、オボムコイド特異的IgE抗体価が低値(0.7〜17.5UA/mL)を示した59例。オボムコイド特異的IgE抗体の抗原親和性については、保存していた血液を患児家族の同意を得て使用し、徳島大学先端酵素学研究所でDCP法により測定した。
 その結果、食物経口負荷試験でアレルギー症状が出現した児は出現しなかった児に比べて、IgE抗体の抗原親和性が高いことが分かった。すなわち、鶏卵アレルギーの発症には、血中のIgE抗体の"量"(IgE抗体価)と"質"(IgE抗体の抗原親和性)の2つが関連していることが明らかになった。
 また、IgE抗体価およびIgE抗体の抗原親和性を検査することで、食物経口負荷試験とほぼ同じ精度でアレルギーを診断できることも発見した。

より安全な診断が可能に
 今回の結果から、研究グループは「食物経口負荷試験は実際にアレルギー物質を体内に入れることからアナフィラキシーを引き起こす可能性があるが、血中のIgE抗体の"量"と"質"を組み合わせた検査ではそうした心配はない」と結論。その上で、「本研究がさらに進み、この検査法が一般診療で利用できるようになれば、食物アレルギー診断がより安全に実施可能になる」と期待を示した。

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