小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子宮頸がんの予防に初の国際ガイドライン

2017年05月27日 08時24分15秒 | 医療問題
 HPVワクチン情報。
 世界の状況を知ってください(下線は私が引きました)。

■ 子宮頸がん一次予防に初の国際ガイドライン〜米国臨床腫瘍学会
2017.04.17:Medical Tribune
 米国臨床腫瘍学会(ASCO)は3月17日、子宮頸がんの一次予防(主にワクチン接種による発症予防)に関する初の国際ガイドライン(GL)をJ Glob Oncol(2017年3月17日オンライン版)に発表した。同GLでは「ターゲットとなる集団において、子宮頸がんの原因となる特定の型のヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するには、HPVワクチンの接種が最適な戦略であり、それに代わる予防戦略はない」として、地域で利用できる医療資源のレベルに応じたHPVワクチン接種の対象者や回数、間隔などの推奨項目が提示されている。なお、同GLの作成作業には米国の他、世界各国の専門家19人が参加。日本からは、自治医科大学さいたま医療センター産婦人科教授の今野良氏がASCOパネルメンバーとして参画した。医療資源レベルは高いが、HPVワクチン接種の積極的な勧奨が中止された状況にあるわが国で、同GLをどう捉えるべきか―。同氏の解説記事はこちら

◇ 医療資源レベルを4段階に分類
 今回のGLは、ASCOが昨年(2016年)発表した浸潤性子宮頸がんGL(関連記事)と、検診などによって早期に発見、治療するための推奨を示した子宮頸がん二次予防GLに続く、子宮頸がんの一次予防や診療に関する国際GLの1つとして策定された。
 これらのGLに共通するのは、国や地域の医療資源のレベルを
① basic(最小限)
② limited(やや不足)
③ enhanced (充実)
④ maximal(最も充実)
 の4段階に分類し、資源レベルに応じた推奨が示されている点だ。これは、利用できる医療資源の質や量によって子宮頸がんの発症率や死亡率が大幅に異なることに対応するため。子宮頸がん患者の85%、子宮頸がんによる死亡者の87%をアフリカや南米などの発展途上国が占めるとの報告もあり、ASCOは子宮頸がんを優先してGLを作成すべき疾患と位置付けていた。
 GLの対象は、世界各地の保健当局やがん対策の関係者、政策立案者、産婦人科医、小児科医および他のプライマリケア医など。GLの作成には米国の他、アジアやオセアニア、欧州、アフリカ、中南米など世界各国の医師および研究者が参加した。

◇ 医療資源レベルにかかわらず9~14歳女児への2回接種を推奨
 HPVワクチン接種による子宮頸がんの一次予防を主眼に置いた今回のGLでは、
①どのような集団に対して定期接種が勧められるか
②推奨される接種回数および間隔
③接種を優先すべき年齢層以外にもHPV感染を予防するためのキャッチアップ接種を行うべきか
④HPV感染の拡大阻止を目的とした男児へのワクチン接種は必要か
⑤特定の集団に対して勧められるワクチン接種戦略は
―の5つのクリニカルクエスチョン(CQ)を設定。1966~2015年に発表された論文(システマチックレビューも含む)や既存の関連GLのレビューに基づき、これらのCQについて推奨項目が示されている。その概要は以下の通り。

・利用できる医療資源の質や量にかかわらず、あらゆる環境において、9~14歳の女児に対してHPVワクチンを2回接種する。1回目から2回目までの間隔は6カ月以上開けるべきだが、12~15カ月の間隔を置いてもよい
・HIV陽性の女児には3回接種すべき
・医療資源レベルが「最も充実」または「充実」に分類される国や地域では、15歳を迎える前に1回目のみを接種した15歳以上の女児の場合は、26歳になるまでに2回目を接種してもよい。また、15歳を迎える前に1回も接種していない女児に対しては、26歳になるまでに3回接種すべき
・医療資源レベルが「やや不足)」または「最小限」に分類される国や地域では、優先すべき年齢層(9~14歳)の女児にワクチン接種を行っても医療資源に余裕がある場合は、1回しか接種していない15歳以上の女児に対して26歳までに追加接種を行ってもよい
・子宮頸がん予防を目的とした男児へのHPVワクチン接種について:
①医療資源レベルが「最も充実」または「充実」に分類される国や地域では、接種を優先すべき集団(9~14歳の女児)におけるワクチン接種率が50%に満たない場合、男児へのワクチン接種を考慮してもよい。一方、優先すべき集団での接種率が50%以上の場合には、男児にも接種をすべきか否かを支持するデータは不十分である
②医療資源レベルが「やや不足」または「最小限」の国や地域では、優先すべき集団における接種率が50%未満の場合、男児への接種を考慮しても良いが、優先すべき集団での接種率が50%以上の場合には男児への接種は推奨されない


 今回のGLは子宮頸がん予防に関するものであるため、HPVに起因した他のがんや疾患については文献レビューが行われていないが、同GLでは「男児にHPVワクチンを接種することで、男性のHPV関連がんなどの予防という直接的なベネフィットが得られる可能性はある」と説明。ただ、接種率の程度によっては女性の子宮頸がん予防の効率を悪化させる可能性もあり、費用効果の面では女児への接種率を向上させた方が男児への接種を導入するよりも優れていることが明らかになっていることを付記している。なお、ASCOパネルメンバーの今野氏によると、男児へのHPVワクチン接種に関しては「子宮頸がん以外のHPV関連がんやコンジローマなどの良性疾患を含めた費用効果ならびにジェンダーニュートラルの教育効果を考慮すると、医療資源がある国では推奨される」との見解で一致したという。
 この他、同GLではHPVワクチンの接種率を向上させる上で、プライマリケア医や小児科医が重要な役割を果たしうることを強調。「小児患者やその親と長年にわたって関係を持つプライマリケア医や小児科医に対し、HPVワクチンの有効性や安全性について教育することによって、子宮頸がん予防対策で最大のリターンが得られる」と記されている。
 今回のGLを作成した専門家委員会の委員長であるSilvina Arrossi氏は、プレスリリースで「HPVワクチンが登場してから10年以上が経つが、医療資源レベルが高い米国をはじめワクチン接種率が不十分な地域は依然として多い」と指摘。「ASCOは引き続きHPVワクチン接種プログラムの導入を推進し、子宮頸がんによって命を落とす女性を減らす取り組みに注力していく」としている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

じんましんにステロイドは無効?

2017年05月20日 06時13分24秒 | 医療問題
 蕁麻疹の治療の第一選択は抗ヒスタミン薬(≒抗アレルギー薬)です。
 改善しない場合は抗ヒスタミン薬の種類を変え、それでもよくならないときはステロイド薬を併用する、というのが一般的な知識であり、これは日本皮膚科学会作成の「蕁麻疹診療ガイドライン」に明記されています。



 というところに、下記報告が目にとまりました。
 抗ヒスタミン薬にステロイド薬を追加投与しても、偽薬と経過が変わらなかったという衝撃的な内容です。
 現行の蕁麻疹診療に一石を投じることになるのでしょうか。

■ 急性蕁麻疹にステロイドは無効
(2017.05.12 Medical Tribune)
 急性蕁麻疹に対しては第2世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)が第一選択薬として推奨されているが、ステロイドの追加が有用である可能性も指摘されている。このほどフランス・Toulouse University HospitalのCaroline Barniol氏らは、救急部(ED)を受診した急性蕁麻疹の患者100例を対象に前向きランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を実施した結果、痒みの消失または治癒に至るまでの期間短縮に関して、ステロイドを追加しても抗ヒスタミン薬単独を上回る効果は得られなかったとAnn of Emerg Med(2017年5月3日オンライン版)に発表した。

◇ レボセチリジンにプレドニゾン追加とプラセボ追加を比較
 対象は18歳以上で血管性浮腫が認められない急性蕁麻疹の患者とし、アナフィラキシー症例、ED受診前5日以内の抗ヒスタミン薬またはステロイド投与例は除外した。年齢中央値27歳の計100例を、抗ヒスタミン薬(レボセチリジン5mgを1日1回5日間経口投与)に追加してステロイドを投与する群(プレドニゾン40mgを1日1回4日間経口投与)またはプラセボを投与する群に50例ずつランダムに割り付けた。
 主要評価項目はED受診から2日後の止痒効果とし、0~10の痒みスコアで判定した。副次評価項目は皮疹の消失、再燃、有害事象とした。

◇ 痒み消失、再燃、副作用がプラセボと同等
 ED受診2日後に痒みスコアが 0(完全消失)であった患者はステロイド群62%に対してプラセボ群76%であった〔群間差(Δ)-14%、95%CI -31~4%〕。結果はプロトコル違反15例を除外した感度解析でも同様であった。また、ベースラインから2日後までの痒みスコアの低下パターンは両群で同等であった。

 2日後に皮疹が消失した患者はステロイド群の70%に対してプラセボ群では78%であった(Δ-8%、95%CI -25~9%)。また、再燃が認められた患者はステロイド群30%に対してプラセボ群24%で(Δ6%、95%CI -11~23%)、大部分(89%)が5日以内の再燃であった。
 有害事象の評価では、ステロイド群12%およびプラセボ群14%に軽度の副作用が認められたが、投与中止に至るものはなかった。主な副作用は疲労(7例)、鎮静(眠気、3例)、不眠(2例)、ディスペプシア(2例)で、重篤な有害事象は認められなかった。

◇ ステロイドの副作用への懸念も
 Barniol氏らは以上の結果から、急性蕁麻疹によるED受診例において、ステロイドは抗ヒスタミン薬による治療効果を増強しないと結論付けた。
 同氏は「第2世代のH1抗ヒスタミン薬は副作用を伴わずに急性蕁麻疹を治療できるというエビデンスがあるにもかかわらず、迅速な症状軽減にはステロイドが最も有効だと考える医師が多い」と述べ、「今回の結果は、抗ヒスタミン薬とステロイドの併用を合併症のない急性蕁麻疹に対するファーストライン治療として支持するものではない。ステロイドは短期投与なら臨床的に重要な毒性を引き起こさないとしても、頻回投与や長期投与では有害作用を引き起こす可能性がある」と警告している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジカ熱(2017年5月現在のまとめ)

2017年05月14日 06時24分17秒 | 感染症
 昨年、とくにリオデジャネイロ・オリンピックの際に話題になったジカ熱。
 情報がある程度揃ってきたので、この辺でもう一度まとめておきたいと思います。

 私が特徴あるいはポイントと感じるのは以下の通り;
1.本人は軽症で済むが、妊婦が感染するとお腹の赤ちゃんに小頭症が発症する。これは風疹(本人は軽く済むが妊婦が感染すると胎児に「先天性風疹症候群」を発症する)と似ている。
2.蚊を媒介する感染症であるが、ヒトーヒト感染もあり得る。それも症状がなくなったあとも精液中にはしばらく出るため、性交渉は危険である。日本脳炎ウイルスも蚊を媒介とするが、ヒトーヒト感染はないところが異なる。
3.「ジカ熱」という病名から高熱が出るとイメージがあるが、微熱あるいは無熱のこともあるので「熱が出ないから大丈夫」とは言えない。
4.確定診断は症状・一般検査ではできない。ジカ熱を疑った場合は保健所を介して検査を依頼する。ウイルス分離・遺伝子検出には急性期は血清、急性期以降は尿(および精液)が適切である。
5.現時点では特効薬・ワクチンはない。

 参考にした資料は、忽那賢志(くつなさとし)先生( 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)の書いた以下のHPです;
・「感染症解説〔II〕 ジカ熱」忽那賢志(アステラス製薬)
・「話題の感染症・ジカ熱」忽那賢志(モダンメディア、2016)
今日の臨床サポート「ジカ熱」忽那賢志
感染症TODAY「ジカ熱ウイルス感染症」忽那賢志(ラジオNIKKEI)
・「蚊が媒介する感染症について」忽那賢志の講演スライド

 なお、下線は私が引いたものです;


<ジカ熱>

 ジカ熱はフラビウイルス科のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である.ジカ熱を媒介する蚊は主にネッタイシマカヒトスジシマカである.ジカ熱は2013年のフランス領ポリネシアを経て,現在は中南米で400万人規模といわれる大流行を起こしている.
 妊婦がジカ熱に感染すると胎児の小頭症発症のリスクが高くなることが関連付けられており,2016年2月1日,WHOは国際的な公衆衛生上の脅威となる緊急事態を宣言した.
 ジカ熱の潜伏期は2~7日であり,微熱を含む発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,眼球結膜充血,皮疹などの症状を呈する.診断は,血液・尿等からのウイルス分離や,RT‐PCR法によるウイルス遺伝子検出,ペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を用いる.ジカ熱の合併症として,罹患後にギラン・バレー症候群を発症する症例が報告されている.

I.病原体
 ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する.同じくフラビウイルス科に属するウイルスとして,デングウイルス,黄熱ウイルス,日本脳炎ウイルス,ダニ媒介性脳炎ウイルスなどがある.デング熱のように複数の血清型はなく,単一の血清型のみである.

II.感染経路
 ジカ熱を媒介する蚊は,主にネッタイシマカ(Aedes aegypti )とヒトスジシマカ(Aedes albopictus )である.日本にはネッタイシマカは生息していないが,ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布している.このため,日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こりうる
 性交渉によって男性から女性,男性から男性に感染したと思われる症例も報告されている.当初,性交渉による感染例は全体のごく一部であると考えられていたが,決して稀ではないようである.回復から2カ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり,現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である.無症候性感染者から性交渉で感染したと考えられる事例もあり,症状がない患者も流行地から帰国後は8週間性交渉をしない,あるいは性交渉時にコンドームを使用することをCDCは推奨している.また輸血による感染例も報告がある.

III.疫学
 ジカウイルスは,1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され,ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された.実際のジカ熱症例は2007年までにウガンダ,ナイジェリア,カンボジア,マレーシア,インドネシアからの報告があった.2007年ミクロネシア連邦のヤップ島でジカ熱の最初の大規模なアウトブレイクがあり,約300名の感染者が出た.2013年9月よりフランス領ポリネシアで始まったジカ熱の大流行は,ニューカレドニア,クック諸島にも波及し,感染者は3万人以上にも上ると推計されている.2015年6月にブラジルで渡航歴のないジカ熱症例が報告され,その後,急激に中南米で流行が広がった.現在,東南アジアや中南米を中心に世界46カ国がジカ熱の流行国としてWHOに指定されている.
 日本ではこれまでに9例の輸入例が報告されている.PHEICが宣言される以前には2013年12月および2014年1月の症例はフランス領ポリネシアから帰国後の症例と,2014年8月のタイのサムイ島から帰国後の症例であった.PHEIC宣言以後は,全て中南米からの帰国後の症例である.
 また,中南米以外にもタイ,インドネシア,マレーシア,ベトナム,フィリピン,モルディブでもジカ熱の症例が報告されており,これら日本人観光客の多い南アジア・東南アジアの地域にもジカウイルスが潜在しているものと考えられる.

IV.臨床症状
 ジカウイルスに感染した場合,約80%が不顕性感染であると考えられている.ジカウイルスに感染した者のうち,約20%の患者が2~7日の潜伏期間を経て症状を呈する.ジカ熱の臨床症状として頻度が高いのは,微熱を含む発熱,関節痛,皮疹(紅斑・紅丘疹),眼球結膜充血である.これ以外にも頭痛,筋肉痛,後眼窩痛などの症状がみられることもある.ジカ熱の臨床症状を表1に示す.



 ジカ熱という疾患名ではあるが,発熱は微熱程度のことが多く,全く発熱を呈さないこともある.発熱がないからといってジカ熱を除外することはできない点に注意が必要である.
 一般的に軽症例が多く,入院を要することは稀である.これまでにジカ熱が原因で死亡した例は報告されていない.またデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない.ジカ熱の症状は通常1週間以内に消失する.

V.合併症
 稀にジカ熱罹患後にギラン・バレー症候群(GBS)を発症することがある.フランス領ポリネシアでは,2013年から2014年のアウトブレイクで3万人以上がジカ熱に感染したと推計されるが,42人のジカ熱感染後のGBS症例が報告されている.この42例では,ジカ熱と思われる症状が出てからGBSの症状が出現するまでの期間は中央値6日であった.またGBS発症から症状のピークに達するまでの期間も中央値6日であった.29%の症例で人工呼吸管理を要した.その他,ジカ熱の合併症として髄膜脳炎や脊髄炎を呈した症例が報告されている.

VI.鑑別診断
 ジカ熱と同じ蚊媒介感染症であるデング熱とチクングニア熱に臨床像が似ている.また,近年は流行地域もこの2つの感染症と大部分が重複しており,デング熱やチクングニア熱を疑った際には,ジカ熱も鑑別診断として考慮する必要がある.デング熱,チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違いを表2に示す.



 ジカ熱は熱帯・亜熱帯で流行している感染症であることから,これらの地域で流行しているマラリア,腸チフス,リケッチア症,レプトスピラ症,住血吸虫症,A型肝炎などの発熱疾患も,同様に鑑別診断として考慮すべきである.

VII.検査・診断
 ジカ熱に特徴的な検査所見はない.本邦の輸入例3例のうち2例では,軽度の白血球減少・血小板減少が確認されているが,海外での報告は少ない.
 ジカ熱の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出,またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる.
 発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが,ジカ熱の発熱期間はデング熱に比べて短く,血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている.血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されるため,急性期を過ぎた症例では血液検体と同時に尿検体も採取することが望ましい.抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する.2~3週間隔での採取が望ましい.
 これらの検査は行政検査として行われる.ジカ熱を疑った場合には,保健所を介して検査を依頼する.

VIII.治療
 現在のところ,ジカ熱に対する特異的な治療はない.それぞれの症状に対し対症療法を行う.デング熱との鑑別ができていない時点では,NSAIDsの使用は避けた方が良い.

IX.予防
 現在のところ,ジカ熱に対するワクチンはない.ジカ熱の流行地域では防蚊対策を徹底することが重要である.具体的には以下のような対策がある.

・ 肌の露出が少ない服を着る(長袖・長ズボン・帽子).
・ 蚊が嫌う成分であるペルメトリンを含有した服を着用する.
・ DEETを含有した忌避剤を使用する(日本にはDEET含有の忌避剤は最大で12%のものしかないため2時間毎に塗り直す必要がある).
・宿泊時は蚊帳を使用する.

 男性から女性への性交渉で発症しうると考えられているが,どのくらいの期間精液にジカウイルスが残存するかは,現時点では不明である.発症から62日後も精液からジカウイルスが検出されたという事例もある.アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は,ジカ熱に関連して性交渉について以下のように推奨している.

ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠する可能性がある場合は,無症状であれば流行地域から帰国後8週間経過するまで,ジカ熱に合致した臨床症状がある,またはジカ熱と確定診断された場合には,流行地域から帰国後6カ月経過するまで性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.
・ ジカ熱流行地域に渡航した男性の女性パートナーが妊娠している場合は,妊娠中は性交渉をしない,もしくは性交渉の際にコンドームを使用すること.

X.ジカ熱と小頭症との関連
 2015年末頃からブラジルで小頭症の新生児の増加が報告されるようになり,ジカ熱の流行との関連が疑われるようになった.死亡した小頭症の胎児の脳組織からジカウイルスが検出された事例や,ジカ熱に感染した妊婦のうち29%でなんらかの胎児の異常が認められたという報告などが続き,CDCは妊婦のジカ熱感染と小頭症との関連があると正式に声明を発表した.
 Laviniaらは,ジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴について報告している(表3).



 この報告によると,60%は1st trimester,14%は2nd trimesterのときに妊婦がジカ熱に感染していたと考えられる.小頭症の中でも重症例(頭周囲長<-3SD)に該当する症例が71%であった.また先天性内反足(14%),先天性関節拘縮(11%),網膜異常(18%)などを認めたほか,半数で神経学的検査異常(49%),全例で神経画像検査異常を認めた.
 フランス領ポリネシアでの流行における解析では,非流行時には1万人の新生児出生当たりの小頭症新生児の出生は2人であるのに対し,ジカ熱に感染した妊婦が小頭症の新生児を出生する頻度は1万人当たり95人と算出された.すなわち,妊婦がジカ熱に感染することによって新生児が小頭症となるリスクはおよそ50倍となる.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

喘息治療の吸入ステロイドは「大きく深く」吸いましょう。

2017年05月05日 06時55分34秒 | 気管支喘息
 喘息治療に用いる吸入ステロイド薬にはたくさん種類があります。
 しかし統一規格はなく、各製薬会社が「自分の所の吸入器(デバイス)がベストです!」と開発競争が盛んです。

 それが混乱の原因にもなっています。
 各デバイスで吸入方法が微妙に異なり、指導・実施に迷いが生じがち。

 当院では小児適応のあるDPIのフルタイド、アドエアとpMDIのキュバールを採用しています。
 表を見ると、各デバイスの吸い方は、

(DPI:フルタイド、アドエア)→ 強く深く「スッ〜と」
(pMDI:キュバール)→ ゆっくり

 となっています。
 この二つ、具体的には違うのでしょうか?

 薬の側からみると、粒子径はDPI>pMDIであり、DPIは流速が速くないと肺の奥の方まで到達しませんので「強く深く」という表現になっているのですね。
 この二つを同じように指導できないものだろうか?
 と以前から考えてきた結果、現在は

「大きく深く吸いましょう」

 と指導するようになりました。

 なお、子どもにpMDIを使用する場合は、吸入補助器具(スペーサー)を用いるのがふつうです。大人で指導される「オープンマウス法」「クローズマウス法」ではほとんど吸入できないとされています。

 これらのことを扱った記事を紹介します。
 大林先生は吸入指導の本も書いている有名な方です。

■ 吸入は「強く吸う?」それとも「はやく吸う?」
大林 浩幸(東濃中央クリニック)(日経メディカル:2016/11/29)
 吸入指導をしていて常日頃から感じているのですが、吸入の仕方や息止めなどの吸入手技操作に対する表現、あるいは通気口やマウスピースなどのデバイスのパーツ部分の表記がメーカーごとに異なっていることに不便を感じています(表1、表2、表3参照)。

DPI(ドライパウダー式吸入デバイス)別の表記一覧


pMDI(加圧噴霧式定量吸入デバイス)別の表記一覧


SMI(ソフトミスト式吸入デバイス)別の表記一覧


 ドライパウダー型吸入薬のデバイスを別のドライパウダー型に変更した時に、患者さんに「強く深く」を「はやく深く」の吸い方にするには、どのように変えれば良いのかと聞かれ、答えに詰まったこともありました。
 また、薬剤師の先生方への講習会やロールプレーイングの際に、デバイスの部分の呼称が薬剤師ごとにバラバラであることがしばしばあります。おそらく患者さんに様々な伝わり方をしているのではないかと考えさせられます。
 表現が異なると、意味合いが正しく伝わらないことがあり、ピットホールが生じる要因の素地になります。吸入デバイスをよく知り、用語や表記が意味するところを理解することが、患者さんの疑問に答えられる第一歩です。


<参考>
キュバール吸入方法の説明会(当院ブログ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妊婦感染症による先天性障害「TORCH(トーチ)症候群」

2017年05月03日 06時53分31秒 | 小児医療
 赤ちゃんには何の罪もないのに、生まれつき障害を抱えてしまう感染症。
 最近では先天性風疹症候群が社会問題になりましたが、他にもあります。
 私が学生の頃(30年前)からTORCH(トーチ)症候群として有名でした。
 
 T:Toxoplasma(トキソプラズマ)
 O:Others(その他:梅毒、HIV、HCV、HBV等)
 R:Rubella(風疹)
 C:Cytomegalo(サイトメガロ)
 H:Herpes simplex(単純ヘルペス)

 この中で、風疹とHBV(B型肝炎)のみワクチンで予防可能です。
 他の感染症を予防する手段はあるのでしょうか?
 以下の報告によると、

トキソプラズマ:肉の生食や猫の糞から感染することが多い。食生活や育児、ペットの飼育に関する指導が必要になる。「生肉やレアステーキ、ローストビーフ、生ハムなど加熱不十分な肉を食べないように」「妊娠中に子猫を飼わない、猫の糞を触らない」といった指導。

サイトメガロウイルス:集団生活を送っている子どもの体液(唾液や尿など)との接触が最大のリスクとなる。集団生活では密に子どもが接するため、唾液などに触れる機会が多く、そこで感染した子どもに妊婦が接すると新たな感染を起こす。そのため、「子どもと食べ物や食器を共用しない」「上の子がいる場合、おむつ替えの後は手洗いを徹底する」などの指導が有効。

 と記されています。これらを励行すると、感染リスクが1/10に減るそうです。

 生肉は食中毒対策としても避けた方がベター。
 屋内で猫を飼っている家庭はアウト。
 子育て中のお母さんは子どもから風邪をよくもらいますが、それを阻止する予防対策をふだんから習慣づけることが大切ですね。

■ 見逃される先天性感染症「TORCH症候群」
2017/4/3:日経メディカル

 もう一つ、上記記事でも触れられているサイトメガロウイルス対策の記事を。
 近年、妊婦の抗体保有率が低下傾向・・・つまり妊婦が初感染して胎児が感染し障害を抱えるリスクが高くなってきていることが報告されています。

<font size="3">■ サイトメガロウイルス感染、早期発見への挑戦
2017/4/4:日経メディカル
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風邪に短期間ステロイド使用(?)の功罪

2017年05月03日 05時27分49秒 | 感染症
 風邪にステロイド薬を投与することは、小児科では滅多にありません。
 免疫反応を抑制する薬剤なので、免疫反応の暴走を和らげる効果が期待できる一方で、免疫力抑制により感染症が悪化する危険もあるからです。
 私が処方する場合は、喉頭炎(クループ症候群)に1日分するくらいでしょうか。

 まずは風邪にステロイド薬を投与して効果があったという報告を紹介します。
 急性咽頭痛(=風邪の初期)患者さんに強力なステロイド薬(デキサメサゾン)を単回投与した場合、48時間後の咽頭痛消失率が27%から35%へ8%増加した、という内容です。

■ 急性咽頭痛、デキサメタゾンで有意に改善/JAMA
2017/04/27:ケアネット
 急性咽頭痛で抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者に対し、経口デキサメタゾンの単回投与が、48時間後の症状完全消失に効果があることがわかった。なお24時間後の症状完全消失については、有意な改善はみられなかったという。英国・Nuffield Department of Primary Care Health SciencesのGail Nicola Hayward氏らが、英国プライマリケアベースで565例を対象に行った、プラセボ対照無作為化二重盲検試験で明らかにしたもので、JAMA誌2017年4月18日号で発表した。急性咽頭痛はプライマリケアで最も多い症状の1つで、それに対する不適切な抗菌薬投与も少なくないのが現状だという。
◇ 24時間、48時間後の症状完全消失の割合を比較
 研究グループは、2013年4月~2015年4月にかけて、南・西イングランドのプライマリケア診療所42ヵ所で、急性咽頭痛の症状があり、抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者565例を対象に試験を行った。被験者を2群に分け、一方には経口デキサメタゾン10mgを、もう一方にはプラセボをそれぞれ投与し、28日間追跡した。
 主要評価項目は、24時間後に症状が完全消失した人の割合。副次評価項目は、48時間後に症状が完全消失した人の割合や、中等症・重症症状の持続期間などだった。
◇ 抗菌薬の遅延処方有無にかかわらず、デキサメタゾンが2日後症状完全消失に効果
 被験者の年齢中央値は34歳(範囲:26.0~45.5歳)、女性の割合は75.2%だった。
 結果、24時間後に症状が完全消失した人の割合は、プラセボ群が17.7%(277例中49例)に対し、デキサメタゾン群は22.6%(288例中65例)と、両群で有意差はなかった(相対リスク[RR]:1.28、95%信頼区間[CI]:0.92~1.78、p=0.14)。
 一方、48時間後の同割合は、プラセボ群が27.1%(277例中75例)に対し、デキサメタゾン群は35.4%(288例中102例)と有意に高率だった(RR:1.31、95%CI:1.02~1.68、p=0.03)。抗菌薬を遅延処方されなかった人についても、48時間後の同割合はそれぞれ27.2%、37.6%と、デキサメタゾン群で高率だった(RR:1.37、95%CI:1.01~1.87、p=0.046)。
 その他の副次評価項目には、両群で有意差はなかった。

<原著論文>
Hayward GN, et al. JAMA. 2017;317:1535-1543.

 次に、風邪にステロイド薬を投与するリスクを解析した報告を紹介します。
 米国では5人に1人と、結構安易に処方されているようです。
 その結果、短期間の投与にもかかわらず、敗血症他のリスクが非投与例の2-5倍に高まるという内容です。怖いですね〜。

■ 経口ステロイド​の短期投与で主要有害事象が約2~5倍に/BMJ
2017/04/24:ケアネット
 米国の民間保険加入の成人患者では、約5例に1例が経口副腎皮質ステロイド薬の短期投与を処方されており、主要有害事象である敗血症、静脈血栓塞栓症、骨折のリスクが、非投与例の自然発生率の約2~5倍に高まることが、米国・退役軍人省臨床管理研究センターのAkbar K Waljee氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2017年4月12日号に掲載された。経口副腎皮質ステロイド薬の慢性的な使用は、心血管、筋骨格、消化器、内分泌、眼疾患、皮膚、神経系への広範な作用などの合併症をもたらす。一方、その短期的な使用と関連するリスクの特徴は、十分には知られていないという。
◇ 3年間に約150万例の約20%に処方、有害事象をSCCSで評価
 本研究は、米国における経口副腎皮質ステロイド薬の短期投与の処方状況を調査し、主要有害事象(敗血症、静脈血栓塞栓症、骨折)との関連をレトロスペクティブに評価するコホート試験および自己対照ケースシリーズ(SCCS)である(米国退役軍人省などの助成による)。
 民間の保険金請求の全国的なデータセットを用いて、2012~14年に登録された成人(18~64歳)のデータを収集した。30日未満を短期投与と定義し、経口副腎皮質ステロイド薬の投与例と非投与例の有害事象の罹患率を調べた。さらに、薬剤導入後30日以内および31~90日の有害事象の罹患率比の解析を行った。
 154万8,945例が調査の対象となり、このうち32万7,452例(21.1%)が、3年間に1回以上の短期投与の外来処方を受けていた。ベースラインの平均年齢は、投与群が非投与群に比べ高齢で(45.5[SD 11.6] vs.44.1[SD 12.2]歳)、女性(51.3 vs.44.0%)、白人(73.1 vs.69.1%)、合併症数が多かった(すべてp<0.001)。また、使用率は太平洋側地域(12.4%)が最も低く、東南中部(29.4%)や西南中部(27.6%)が高かった。
◇ 20mg、6日投与で、30日時の敗血症リスクが5倍以上に
 投与群の投与日数中央値は6日(IQR:6~12日)で、7日以上の投与を受けたのは47.4%(15万5,171例)だった。プレドニゾン換算1日用量中央値は20mg/日(IQR:17.5~36.8mg/日)で、40mg/日以上の投与を受けたのは23.4%(7万6,701例)だった。70.5%が1コース、20.7%が2コース、8.8%が3コース以上の投与を受けた。
 投与群の最も頻度の高い症状は、上気道感染症、椎間板障害、アレルギー、気管支炎、(気管支炎を除く)下気道疾患で、これら5症状が全体の約半分を占めた。また、処方を行った医師は、家庭医と一般内科医が最も多く、救急救命医、耳鼻咽喉科医、整形外科医による処方も多かった。投与群で1,000人年当たりの発生頻度が最も高かったのは骨折(21.4件)で、次いで静脈血栓塞栓症(4.6件)、敗血症による入院(1.8件)の順であった。
 SCCSの結果、非投与群と比較して、すべての用量の投与開始から5~30日に、敗血症による入院が5.3倍に増加し(プレドニゾン換算用量中央値:20mg/日、投与日数中央値:6日、罹患率比:5.30、95%信頼区間[CI]:3.80~7.41)、静脈血栓塞栓症は3.33倍(17.5mg、6日、3.33、2.78~3.99)、骨折は1.87倍(19mg、6日、1.87、1.69~2.07)に増加し、いずれも統計学的に有意な差が認められた(すべてp<0.001)。また、3つの有害事象はいずれも31~90日に罹患率比が低下したが、有意差は保持されていた(敗血症による入院:2.91、2.05~4.14、静脈血栓塞栓症:1.44、1.19~1.74、骨折:1.40、1.29~1.53)(すべてp<0.001)。
 プレドニゾン換算用量が<20mg/日、20~39mg/日、40mg/日以上の場合(投与日数中央値:5~7日)も、投与開始5~30日には、3つの有害事象はいずれも有意に頻度が高く(罹患率比:1.77~7.10、40mg/日以上の敗血症[p=0.004]を除きp<0.001)、31~90日の罹患率比は40mg/日以上の敗血症(5~30日の4.98[p=0.004]から31~90日に5.20[p=0.003]へ上昇)を除き低下した(罹患率比:1.40~5.20)が、<20mg/日の静脈血栓塞栓症(p=0.10)を除き有意差は保たれていた。
 著者は、「低用量(<20mg/日)でもほぼ同等のリスクがみられ、至適な使用法を同定するためにさらなる検討を要する」とし、「これらの薬剤の処方および有害事象のモニタリングにいっそう注意を払うことで、患者の安全性が改善される可能性がある」と指摘している。

<原著論文>
Waljee AK, et al. BMJ. 2017;357:j1415.

 この報告の投与期間は中央値6日間でした。
 なお、3日以内なら免疫力抑制を考慮しなくてよい、というのが小児科医の一般知識であることを申し添えておきます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする