小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子どもの頭痛

2022年09月04日 17時40分02秒 | 予防接種
ここで扱う“頭痛”は、風邪や副鼻腔炎、髄膜炎など感染症や頭部打撲による「原因のある急性頭痛」(二次性頭痛)ではなく、頭痛発作を繰り返す、あるいは慢性の頭痛である「片頭痛・緊張性頭痛」(一次性頭痛)です。

小児科の当院でも、時々頭痛の相談を受けます。
問診で「二次性頭痛」でないことを確認できれば、痛み止めを処方して、
「痛くなり始めたら飲んでね、痛みが完成するまで待つと効かないよ」
とアドバイスします。

基本はアセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®坐薬)で、
効果が今ひとつの場合はイブプロフェン(ブルフェン®)が一般的。
ただ、この2剤でも手応えがない場合、
困ったことに“次の一手”がないのです。

一方、大人の片頭痛薬は日進月歩で、
トリプタン製剤や近年では抗体医薬も開発され、
その著しい効果が注目されています。

小児に使用できる頭痛薬は限定されているのが現状です。
どうも、片頭痛治療の分野では小児は置いてけぼりをされている印象が否めません。

このブログでも繰り返し取りあげてきました;
①(2014.3.14)「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)
②(2014.3.23)「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)
③(2017.9.18)「片頭痛のポイント2017
④(2018.5.3)「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?
⑤(2121.8.1)「子どもの片頭痛 アップデート2021

ここで小児の片頭痛の特徴を再度、押さえておきましょう;

<小児の片頭痛>

疫学
・世界統計では小児全体で3.8〜13.5%、学童生徒では1.7〜21.3%
・日本の統計(Gotoら)では小学生で3.5%、中学生で5.0%
・就学前は男児>女児、小学生では男児≒女児、思春期以降は男児<女児
・周期性嘔吐症(自家中毒)、腹部片頭痛からの移行例が少なからず存在する。
・家族集積性:母親が片頭痛65%、父親が片頭痛17%
・頭痛の種類と頻度(東山・舘野:2000年報告);
 (頭痛名)  (頻度)(平均年齢)(年齢範囲)
 片頭痛     21%  11.0    7-15
 筋収縮性頭痛  35%  10.5    7-15
 ODに伴う頭痛  16%  13.1   10-15
 ストレス性頭痛 14%  11.8    7-15
 分類不能    14%   6.4    4-9
※ OD=起立性調節障害、「ODに伴う頭痛」と「ストレス性頭痛」は緊張型頭痛 

症状

・頻度:多くても月に4回程度
※ 月に16日以上ある場合は群発頭痛、慢性連日性頭痛を考える。慢性連日性片頭痛では複数の頭痛が合併している可能性も考慮する(例:前兆のない片頭痛+慢性緊張型頭痛+薬物乱用頭痛など)。
※ 週に3日以上鎮痛剤を使う場合は薬物乱用性頭痛を考える

・誘因:低気圧、寝不足あるいは過眠、まぶしい光、騒音、臭い、ストレスおよびストレスからの解放、激しい運動、炎天下、天候・気温・気圧の変化、チョコレートやチーズなどの特定の食物、アルコール、空腹、高山(2000m以上)、月経(思春期女児)、アレルギー疾患、鼻炎・副鼻腔炎、歯科疾患の合併・共存、鎮痛剤やカフェインの過剰内服、など

・経過:予兆 → 前兆 → 頭痛発作
予兆)疲労感、気分変調・なんとなく変な感じ、首こり・肩こり、生あくび、集中力低下、過食、感覚過敏、頭がボーッとするなど
前兆)前兆出現後60分以内に頭痛が発現
 視覚症状:閃輝暗点が最多、ほかに感覚症状・言語症状
発作)強い頭痛(典型的には拍動痛、両側性の前頭側頭部痛が多い)、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏
※ 小児では腹部症状、顔面蒼白、突然無口になる、啼泣など頭痛以外の症状が前面に出ることが多い。
※ アロディニア(異痛症、異常感覚):眼周囲、頭皮、前腕部などに起こる痛み、不快なピリピリ感、違和感。手や腕のしびれ感、動きにくさ、など
回復)一晩寝ると翌朝には軽快(ただし月経関連頭痛は持続時間が長い)

診断】★ ICHD-3(国際頭痛分類第3版)の診断基準(18歳未満)
・持続:2〜72時間(成人:4〜72時間)
・部位:片側性あるいは両側性の前頭側頭部痛(後頭部はない)
・程度:中等度から重度で動作により増悪
・性質:拍動性(脈打つ頭痛)
・他症状:悪心・嘔吐、光過敏・音過敏
※ 診断基準にはないがニオイ過敏もよくある
・家族歴:多い(特に母親)
・前兆:視覚症状、感覚症状、言語症状
※ 出現後60分以内に頭痛が発現する

→ 小児でよく見られるのは典型的前兆を伴う片頭痛

鑑別診断】片頭痛と緊張型頭痛の違い

        (片頭痛)  (緊張型頭痛)
発作的頭痛:    +       ー
持続時間:   1〜72時間   30分〜7日間
頭痛の部位: 片側性〜両側性  両側性
       前頭・側頭部   後頭・頭全体
頭痛の性状:   拍動性    圧迫・締めつけ感
頭痛の程度: 中等度〜重度   軽度〜中等度
日常生活:   支障あり    影響は少ない
運動・風呂:  悪化、不可能   軽快傾向
随伴症状:  前兆、悪心・嘔吐  肩こり・筋緊張
       光・音・臭い過敏  めまい感
家族歴:    多い      少ない

※ 成人の片頭痛の持続は4〜72時間
※ 典型的な前兆のある片頭痛は全体の20〜30%にとどまる。
※ 肩こりは緊張性頭痛のみならず片頭痛の約70%に合併・前駆する。

片頭痛の診断は“片側性”や“前兆”などのよく知られた症状よりも、体動による悪化、嘔気・嘔吐、光・音・臭い過敏、日常生活の支障度、家族歴を重視した方が正確である。

合併症
・成人領域:うつ病、精神疾患(不安障害など)、虚血性脳血管障害、てんかん、発達障害、アレルギー疾患(気管支喘息など)

治療

片頭痛発作時
・暗めの涼しい静かな部屋で頭を冷やして安静にさせる。
・鎮痛剤投与:頭痛早期(嘔吐開始前、アロディニア出現前)が基本。
 アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®):10mg/kg/回
 イブプロフェン(ブルフェン®):5mg/kg/回
・制吐剤:鎮痛剤と併用する
 ドンペリドン(ナウゼリン®)
・トリプタン製剤:小児保健適応なし

予防治療
・適応:片頭痛発作が頻回(鎮痛剤使用が週2回または月10回以上)、鎮痛剤の効果不十分、頭痛持続時間が長い(半日以上)、嘔吐合併が多い、頻度の多い緊張型頭痛の併存例、薬物乱用頭痛合併例、心理・社会的要因の関与が大きい例、など。
・年少児にはシプロペプタジン(ペリアクチン®)2-4mg/日
・小学校高学年以上の年長児にはアミトリプチリン(トリプタノール®)10-20mg/日・・・緊張型頭痛にも有効
・成人領域では従来アミトリプチリン、バルプロ酸、プロプラノロール、ロメリジンなどが使用されてきたが、近年抗体医薬の有効性が高く評価されつつある。
・予防薬投与の基本:最低1-2ヶ月間の投与後に効果判定する。原則夜1回少量な衣服で開始し、最低3-6ヶ月続け、中止はゆっくり漸減する。

生活指導】誘因の回避
・朝寝坊、昼寝、寝過ぎ、寝不足を避ける。
・休日でも早起きして朝食は必ず食べる。
・炎天下での帽子やサングラスの着用。
・人混みや満員電車を避ける。
・ゲームやテレビの制限。
・適度の運動やマッサージ、頭痛体操
・生理周期の正確な把握

予後
・10年後の経過で、片頭痛持続:41.8%、寛解:38.2%、緊張性頭痛に変化:20%



まあ症状や頻度はわかるのですが、どのテキスト・資料を読んでも、
「アセトアミノフェンかイブプロフェン」
しか記載がなく、
「トリプタン製剤は小に適応がないので他に有効薬がない場合に患者家族に十分説明し、同意書を作成して使用すべし」
というスタンスです。

そこで漢方使いの私は考えました。
漢方薬で頭痛に対処しよう、と。
調べてみると、じつは頭痛は漢方の得意分野であることがわかってきました。
長くなってしまったので、続きは次回へ。


<参考>
▢ 市民公開講座「小児の頭痛」
 東邦大学佐倉病院小児科:舘野昭彦、小島泰子
▢ 小児・思春期の頭痛患者;誰が診るのか?如何に診るのか? 一次性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛)の診断と治療(第53回日本小児神経学会総会) 
 荒木清
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