小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「花粉症にはホメオパシーがいい」

2010年02月21日 08時37分15秒 | 花粉症
帯津良一、板村論子著(風雲舎、2006年)

この季節になると、花粉症関連本を読みたくなります。
今回は医学書からちょっと外れて「ホメオパシー」という新分野の啓蒙書を選びました。
帯津先生は癌の治療で有名な方で、よくTVにも出演されています。
癌患者を「病んだ一人の人間」としてサポートする素晴らしい存在です。

期待して読みましたが・・・正直言ってガッカリしました。
「ホメオパシー」は今から約200年前にドイツ人医師サミュエル・ハーネマンが体系づけた、近年全世界に広がりつつある施術ですが、現代科学の視点からは王道を外れている感を否めません。
西洋医学の限界の逃げ道にしか見えず「魔女の妙薬とどこが違うんだ?」と突っ込みたくなります。
一応その概要を記しておきます;

■ 基本的な考え方「プルーピング」:
 健康な人に投与するとある症状を引き起こす物質は、その症状を発現する病気を治療することができる。
(例)マラリアの治療薬キニーネを服用するとマラリアに似た症状が惹起され、その後治癒する現象。

■ 治療薬(『レメディ』と呼ばれています)は希釈を重ねても薬効が消えるどころか、かえって効力(ポテンシー)が増す。
(例)レメディには「6c」とか「30c」とかの表示がついています。「30c」とは、100倍希釈を30回繰り返したことを意味します(なんと10の6乗倍)。元の物質(薬効分子)はほとんど含まれていません。

■ 希釈した薬を激しく振ることにより薬効が高くなる(!?)。

 ・・・限りなく薄めて「ただの水」になったものを「振る」とよく効く薬になる? 
 この辺までくると「怪しい」と思わざるを得ません。

■ 治療薬(レメディ)は65%が植物由来で、その他動物や鉱物からも作られる。
 中にはトリカブトや毒ニンジンなど強い毒性のあるものも含まれ、亜ヒ酸や水銀も使用されています。
 
 ・・・実は漢方でもトリカブトを加工して毒性を無くした「附子」という生薬を用いています。一般の方は不安になるかもしれませんが、医師の私とっては「毒をも飼い慣らした医学」として逆に信頼が生まれます。歴史的には水銀やヒ素も用いられて時代がありましたが、こちらは危険なことが判明して淘汰・消滅しています。
 残念ながら「ホメオパシー」はまだそこの領域に達していないと云わざるを得ません。


 帯津先生は「場の医学、エネルギー医学」と位置づけられていますが、説得力がありません。
 私には「未完成の経験医学」に見えてしまいます。
 200年の歴史しかない未完の経験医学なら、2000年の歴史を持つ完成された経験医学である漢方を選択しますね。

コメント
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