小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

モンテルカスト(シングレア®、キプレス®)の副作用情報

2017年09月28日 08時05分17秒 | アレルギー性鼻炎
 モンテルカストは小児喘息で頻用する薬剤です。
 今回、精神神経系の副作用情報記事に目がとまりました。

■ モンテルカストは精神神経系の副作用と関係している
Univadis Medical News2017.09.22:Smartmed/MSD
 『 Pharmacology Research & Perspectives 』に発表された新しい研究において、モンテルカストは精神神経反応と関係していた。そのような反応には例えば、うつ病攻撃性などがあり、子供では特に悪夢が頻繁に生じていた。
 この後ろ向き研究では、小児と成人におけるモンテルカストに関連するすべての医薬品副作用(ADR)を考察した。このADRのデータは2016年までオランダ薬剤監視センター「Lareb」と、世界保健機関(WHO)の国際データベース「VigiBase」に報告されたものであった。
 オランダのデータベースでは、モンテルカスト投与後に331件のADRが報告されていた。全報告例のうち45件(13.6%)が重篤なADRとして報告された。ADRで入院した事例は26例あった。最も頻繁に報告された有害事象は頭痛であり、報告オッズ比(ROR)は2.26であった。
 VigiBaseでは、モンテルカスト関連のADRが17723件報告されていた。Vigibase集団全体で最も頻繁に報告されたのはうつ病であり、RORは6.93であった。子供において最も多く報告された副作用は攻撃性であった(RORは29.77)。Vigibase集団全体でRORが最も高かったのは、攻撃性(24.99)、自殺念慮(20.4)、異常行動(34.05)、悪夢(22.46)であった。
 オランダのデータベースではアレルギー性肉芽腫性血管炎の患者が8人報告され、VigiBaseでは同患者が563人報告されたが、因果関係は確立されなかった。

<参照>
・Haarman MG, van Hunsel F, de Vries TW. Adverse drug reactions of montelukast in children and adults. Pharmacology Research & Perspectives. Published online 20 September 2017. DOI: 10.1002/prp2.34.


 当院は小児科・アレルギー科なので幼児の喘息患者さんもたくさん通院しており、モンテルカストを処方する機会も少なくありません。
 今のところ、「うつ」「攻撃性」「悪夢」といった訴えは目立ちませんが、今後はより注意して患者さんを診療したいと思います。
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スギ花粉症舌下免疫療法の錠剤登場(5歳から使用可能!)

2017年09月28日 06時15分44秒 | 花粉症
 現在、スギ花粉症舌下免疫療法は液剤のシダトレン®のみですが、満を持して錠剤が登場します。
 従来は12歳以上しかできませんでしたが、今回「小児に対し使用可能」とのことですから、小児科医の私としては期待が膨らむニュースです。

■ 鳥居薬、スギ花粉症向け免疫療法薬の国内販売が承認
2017/9/27:日本経済新聞
 鳥居薬品(4551)は27日、スギ花粉症向けのアレルゲン免疫療法薬「シダキュア スギ花粉舌下錠」の国内製造販売の承認を取得したと発表した。シダキュアは国内で初めて成人や小児に対し使用可能となった舌下錠で、14年10月から販売していた「シダトレン スギ花粉舌下液」よりも高力価の製剤という。販売時期は決まり次第発表する。


■ スギ花粉症薬、錠剤で承認取得 鳥居薬品  小児も服用可能に
2017/9/27:日本経済新聞
 鳥居薬品は27日、舌下から吸収して服用する錠剤のスギ花粉症薬について、厚生労働省から製造販売承認を取得したと発表した。アレルギー疾患の原因になるアレルゲンを低濃度で取り込み、花粉に対する過敏性を減少させる薬。対象患者の制限がなくなり、12歳以下の小児でも服用できる。液剤の従来薬に比べて剤形を工夫して保管しやすくし、利便性を高めた。
 「シダキュアスギ花粉舌下錠」の製造販売承認を取得した。服用方法は1日1回1錠、舌下に1分間錠剤を保持した後に飲み込む。3~5年にわたって服用を続ける必要がある。
 従来の液剤型の薬は冷蔵保存する必要があったが、錠剤にすることで室温保管できるようになり、持ち運びやすくした。対象年齢も従来薬は12歳以上に限っていた。


★ 追記(2017.9.29)
 5歳から使用可能だそうです。
 液体のシダトレン®は冷蔵庫保存が基本ですが、シダキュア®は錠剤なので室温保存が可能です。
 それから、シダトレン®は舌下に2分間保持でしたが、シダキュア®は1分間でOK。

■ 日本初、5歳から使える免疫療法薬 〜より幅広い適用年齢を有する舌下錠が承認
2017年09月28日:メディカル・トリビューン
 鳥居薬品は9月27日、スギ花粉症に対するアレルゲン免疫療法薬「シダキュアスギ花粉舌下錠(以下、シダキュア)2,000JAU、同5,000JAU」の製造販売承認を取得したと発表した。同薬は日本で初めて5歳以上の小児から使用できるスギ花粉症に対する舌下免疫療法薬で、「シダトレンスギ花粉舌下液(以下、シダトレン)」より高力価かつ利便性が高いという。
室温保存が可能、服薬も容易に
 同社では、2014年10月よりスギ花粉症に対する免疫療法薬・シダトレンを販売していたが、12歳未満は適用外とされていた。
 そのため、5歳以上から適用できるシダキュアの登場により、治療できる年齢層はより広がると見られる。
 また、シダトレンは冷蔵庫内など冷所での保存が必要で、舌下に滴下後、2分間保持してから服用しなければならなかったが、シダキュアは室温で保存ができ、服用の際、舌下に保持する時間が1分間で済むため、シダトレンより利便性が高いとされる。
 厚生労働省が2011年に報告した全国調査の結果によると、日本人のおよそ25%が花粉症に罹患しており、そのうち約70%がスギ花粉症であると考えられている。"国民病"ともいえる同疾患に対し、同社は「シダキュアが治療の選択肢を広げ、患者に貢献できることを期待している」と述べている。

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おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のMMRワクチン接種 3回 vs.2回

2017年09月27日 06時17分32秒 | 予防接種
 現在世界中で使われているおたふくかぜワクチンはの多くは「Jeryl Lynn株」です。
 この株は副反応は少ないのですが、効果も今ひとつというジレンマを有しています。

 アメリカの一部では2回接種者も罹患するため3回接種をしている州もあると聞いています。
 あ、紹介記事の文中にありました(^^;)。
 2回接種しても13年経つと免疫が低下し無効になっていくようですね。

■ 流行性耳下腺炎のMMRワクチン接種 3回 vs.2回/NEJM
ケアネット:2017/09/27
 麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の3種混合ワクチン(MMRワクチン)について、米国疾病予防管理センター(CDC)のCristina V. Cardemil氏らが大学生を対象とした検討で、3回接種者では2回接種者よりも流行性耳下腺炎のリスクが低下したことを明らかにした。米国では、小児期にMMRワクチンの2回接種がプログラムされている。しかし、大学生での流行性耳下腺炎のアウトブレイクがたびたび報告されており、2015年夏~秋にはアイオワ大学で集団発生が起きた。本報告は、そのアウトブレイクの後半に保健当局者がMMRワクチン接種キャンペーンを呼びかけ、3回目の接種に応じた学生の有効性を2回目の接種時期からの年数で補正を行い検討した結果で、2回目の接種時期が、今回のアウトブレイクよりも13年以上前であった学生は、流行性耳下腺炎のリスクが高かったことも明らかにした。これまで、MMRワクチンの3回投与が流行性耳下腺炎のアウトブレイクを制御するかについては明らかになっていなかった。NEJM誌2017年9月7日号掲載の報告。
2回目接種からの年数で補正後、接種回数別にワクチンの有効性を評価
 アイオワ大学では2015~16年の1学年の間に、学生2万496例のうち259例が流行性耳下腺炎と診断された。研究グループはFisher正確確率検定を用いて、MMRワクチンの接種状況と2回目接種からの年数に基づく未補正発生率を比較した。多変量時間依存性Cox回帰モデルを用いて、2回目の接種からの年数で補正後、接種回数別(3回 vs.2回、2回 vs.未接種)にワクチンの有効性を評価した。
3回接種群で発生率が有意に低下
 アウトブレイク前にMMRワクチン接種を2回以上受けていた学生は、98.1%であった。アウトブレイク中に3回目の接種を受けたのは4,783例であった。
 発生率は、3回接種を受けた学生(1,000人当たり6.7例)が2回接種の学生(同14.5例)よりも有意に低かった(p<0.001)。また、2回目接種を、アウトブレイク前2年以内に受けていた学生と比べて、13~15年前に受けていた学生では、流行性耳下腺炎のリスクは9.1倍高かった。16~24年前に受けていた学生では14.3倍高かった
 3回目のワクチン接種後28日時点で、流行性耳下腺炎のリスクは2回接種の学生よりも78.1%低下していた(補正後ハザード比:0.22、95%信頼区間:0.12~0.39)。
 2回接種 vs.未接種の比較検討において、2回目の接種から今回のアウトブレイクまでの年月が経っているほど、ワクチンの有効性が低下していることが示された。
 著者は、「結果は、MMRワクチンの3回接種キャンペーンが流行性耳下腺炎アウトブレイクの制御を改善したことを、また、免疫の減衰がアウトブレイクの拡大に寄与したと思われることを示すものであった」とまとめている。


<原著論文>
Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.

 各ワクチン株の有効率と副反応発生率を比較した表を提示します。
(ラジオNIKKEI感染症TODAY「定期接種化が期待される“おたふくかぜワクチン”」より)



 現在日本で使用されているワクチン株は「①星野株」と「②鳥居株」です。
 そして開発中の新MMRワクチンに採用されたのは「③Jeryl Lynn株」です。
 表を見ると、
 有効性:①・②>③
 副反応:①・②>③
 です。つまり「Jeryl Lynn株は副反応は少ないが有効性も今ひとつ」なのです。
 MMRワクチンに採用されると、2回接種が標準となりますが、すでにそれでは免疫が不十分という結果が海外で出ているわけです。
 
 この疑問に厚生労働省はどう答えるのでしょうか?

 なお、この表の中でひときわ副反応率が高いのが「Urabe統一株」です。
 これは中止に追い込まれた旧MMRワクチンの株ですね。
 本来は Urabe-Sanofi株、Urabe-微研株という効果と副反応のベストバランスと云うべき株が採用されたのですが、製薬会社が製造過程で勝手に製造法を変えてしまい、Urabe統一株という悪しき歴史を作ってしまったのです。
 
 近年でも化血研ほか、ワクチン製造に関する不正が相次いでいますが、体質は変わっていないと云うことですね。
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子どもと違う「高齢者の便秘」の特徴

2017年09月23日 16時13分51秒 | 医療問題
 「子どもの便秘」には日々つき合っていますが、高齢者の便秘に関する記事が目にとまりましたのでメモしておきます。

 私自身、40歳代までは毎朝回便だったのですが、50歳が近づくにつれて出が悪くなり、週に1くらい便通のない日が出てきました。それまでの生活リズムがくずれ、違和感を抱えたまま一日を過ごすことになかなか慣れませんでした。
 あるとき、NHK「ためしてガッテン」で「中年以降は便の出が悪くなり毎日出なくても異常ではない、便秘と考えなくてもよい」と専門家のコメントを聞き、「なんだみんなそうなんだ」とちょっと安心。
 でも、オリゴ糖を含めた食物線維を摂取するようつとめたり、オリーブオイルを毎日使ったりと食生活に気を遣うようになり、効果は実感しています。

 さて、将来はどうなっていくのか・・・高齢者の便秘について勉強しておきましょう。
 私がポイントと感じた箇所を列挙しておきます。

<高齢者の便秘には二つのタイプ>
1.排便回数減少型・大腸通過遅延型
 加齢により腸管運動機能が低下して蠕動運動が衰え便秘となります。そして、腸の内容物が停滞して腸管全体の動きが悪くなり便秘となります。
2.排便困難型・機能性便排出障害
 加齢により排便時に生ずる肛門周囲の筋肉の一連の動き(直腸内の便が腸管壁を伸展して直腸筋の収縮と内肛門括約筋の弛緩が起こり,随意的に外肛門括約筋が弛緩して肛門挙筋が収縮する)が障害され便秘となります。つまり高齢者では、直腸に便が到達して腹圧をかけても、排便反射が起こりにくいため便秘となり、残便感が強くなります。

<高齢者の便秘の原因>
・食物繊維や水分の摂取が不十分
※ ただし、食物繊維は高齢者に多い大腸通過遅延型の便秘では便秘を悪化させることもあるため、あくまで適切な量を。
・運動不足
・環境の変化
・基礎疾患による腸管運動機能の低下
・薬剤

■ 「高齢者の便秘をどう診るか(上)」
北里大学総合診療医学・地域総合医療学 木村琢磨
2017年08月24日:メディカルトリビューン

 対策としては「食べて運動する」と当たり前のことが書いてありますが、それがなかなかできなくなるのが高齢者ですよねえ。

■ 「高齢者の便秘をどう診るか(下)」
2017年08月29日:メディカル・トリビューン

 後半は「介護」の視点から、補助が必要だけど人間の尊厳を損なわないよう気遣いも必要、という難しい対応が必要なことが説かれています。

<追記> 2017.10.24
 最近公表された成人便秘の診療ガイドラインの紹介記事を見つけました。

■ 国内初の『慢性便秘症診療GL』の特徴は?
横浜市立大学附属病院肝胆膵消化器病学主任教授の中島淳氏に聞く
2017/10/20 日経メディカル
 
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インフルエンザワクチン、遺伝子組換え vs.不活化

2017年09月23日 15時25分23秒 | アレルギー性鼻炎
 インフルエンザワクチンの効果は他のワクチンと比べて低いことは周知の事実です。
 いろいろな理由が挙げられますが、それはさておき。

 研究者もウイルスに負けじといろいろな方法で有効なワクチンを開発中です。
 その中で、近年「遺伝子組み換ワクチン」が注目されています。
 現行の鶏卵培養ワクチンと比較したメリットは、

・卵の蛋白成分、ホルムアルデヒド、抗菌薬、防腐剤を含まないワクチンを製造することができる。
・鶏卵培養法では6ヵ月間かかる製造期間が、6~8週間に短縮できる。
・鶏卵培養で製造されるワクチンでは、製造過程でインフルエンザの抗原性に関わるヘマグルチニン(HI)をコードする遺伝子の変異が生じることでワクチンの有効性が低下する可能性が指摘されており、遺伝子組み換えワクチンの有効性が勝る。

 等々。
 関連記事を日経メディカルから;

■ インフルエンザワクチン、遺伝子組換え vs.不活化/NEJM
ケアネット:2017/07/12
 従来の不活化インフルエンザワクチンと比べて、遺伝子組み換えインフルエンザワクチンが優れた防御能を示したことが、米国・Protein Sciences社のLisa M. Dunkle氏らが行った第III-IV相の多施設共同無作為化二重盲検試験の結果、報告された。検討されたのは遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチン(RIV4)で、試験は2014~15年のインフルエンザシーズンに、50歳以上の成人を対象に実施された。標準用量の鶏卵培養4価不活化インフルエンザワクチン(IIV4)接種群よりも、確認されたインフルエンザ様疾患の確率が30%低かったという。なお、同時期のインフルエンザはA/H3N2型が主流で、ワクチン株の抗原性との不一致により多くの認可ワクチンについて効果の低下がみられたシーズンであった。NEJM誌2017年6月22日号掲載の報告。

50歳以上の成人9,003例を対象に無作為化試験
 試験は2014年10月22日~12月22日に、50歳以上の成人9,003例を登録して行われた。被験者を、RIV4(遺伝子組み換え赤血球凝集素[HA]量45μg/株、蛋白量180μg/接種)またはIIV4(同15μg、60μg)を接種する群に無作為に割り付け、ワクチン接種後14日以降に、発症がRT-PCR法で確認されたインフルエンザ様疾患(事前にプロトコルで規定されたあらゆるインフルエンザ株によるもの)に対する相対的なワクチンの有効性を比較した。被験者にインフルエンザ様疾患の症状がみられた場合、鼻咽頭スワブで検体を採取し、RT-PCRと培養検査でインフルエンザ感染の確定診断を行った。
 主要エンドポイントは、ワクチン接種後14日~インフルエンザシーズン終了(2015年5月22日)に、RT-PCRで確認・プロトコルに規定されていたインフルエンザ様疾患とした。

遺伝子組み換えのほうが、確認されたインフルエンザ様疾患の確率が30%低い
 9,003例のうち8,855例(98.4%)が試験ワクチンの接種を受け、有効性に関する追跡を受けた(修正intention-to-treat集団)。ワクチン接種後のデータを得られて安全性解析に包含されたのは8,672例(96.8%)。RIV4群とIIV4群のベースラインの特性は両群で類似しており、平均年齢は両群とも63歳、男性の比率はそれぞれ41.5%、41.6%であった。
 鼻咽頭スワブで検体を採取したのは、RIV4群809/4,328例(18.7%)、IIV4群822/4,344例(18.9%)。検出されたインフルエンザ株は234/1,631検体(14.3%)で、A/H3N2型が最も多く181例、B型が47例、A亜型不明が6例であった。
 per-protocol解析の追跡を完了した8,604例(95.6%、修正per-protocol集団)において、RT-PCRで確認されたインフルエンザ発病率は、RIV4群2.2%(96/4,303例)、IIV4群3.2%(138/4,301例)であり、インフルエンザ様疾患が確認された確率は、RIV4群がIIV4群よりも30%低かった(95%信頼区間[CI]:10~47、p=0.006)。
 修正intention-to-treat集団で行った有効性の事後解析では、RIV4群の発病率2.2%(96/4,427例)およびIIV4群の発病率3.1%(138/4,428例)は、相対的なワクチンの有効性が基本的に同一の30%(95%CI:10~47)であることが示された。なお、RIV4のIIV4に対する非劣性に関する主要解析、および事前規定の探索的優越性の基準は満たされたことが確認されている。
 RT-PCRで確認されたインフルエンザ様疾患の累積発生率は、インフルエンザシーズン中、RIV4がIIV4よりも有意に効果があることを示した(ハザード比[HR]:0.69、95%CI:0.53~0.90、p=0.006)。各インフルエンザ株についての相対的なワクチンの有効性に関する事後解析では、RIV4はA型に対しては36%(95%CI:14~53)の有効性を示したが、B型に対しては他のワクチンと有効性に違いがなかった。
 安全性プロファイルについては、両ワクチンともに類似していた。


<原著論文>
Dunkle LM, et al. N Engl J Med. 2017;376:2427-2436.

 ちょっと専門用語が並ぶ読みにくい記事ですね。
 この記事には専門家の解説・コメントが添えられていました。

■ 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)
臨床研究適正評価教育機構:2017/08/17
コメンテーター:小金丸 博(東京都健康長寿医療センター感染症内科医長)

 インフルエンザの流行の抑制を期待されているワクチンの1つが、遺伝子組み換えワクチンである。遺伝子組み換え法は、ベクターを用いてウイルスの遺伝子を特殊な細胞に挿入し、ウイルスの抗原性に関わる蛋白を細胞に作らせ精製する方法である。この方法では、卵の蛋白成分、ホルムアルデヒド、抗菌薬、防腐剤を含まないワクチンを製造することができる。また、鶏卵培養法では6ヵ月間かかる製造期間が、6~8週間に短縮できることが大きな利点となる。
 本研究は、2014~15シーズンに行われた、遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチン(RIV4)と鶏卵培養4価不活化インフルエンザワクチン(IIV4)の有効性を比較した第III-IV相のランダム化二重盲検実薬対照試験である。50歳以上の成人を対象とし、急性疾患に罹患している患者や免疫抑制治療中の患者は除外された。その結果、per-protocol解析を行えた8,604例において、RT-PCRで確定診断されたインフルエンザ発症率は、RIV4接種群が2.2%、IIV4接種群が3.2%であり、インフルエンザ様疾患が確認された割合はRIV4接種群がIIV4接種群より30%低かった(95%信頼区間:10~47、p=0.006)。修正intention-to-treat集団で行った有効性の事後解析でも同様の結果であった。
 本研究は、遺伝子組み換えワクチンと既存のインフルエンザワクチンである鶏卵培養不活化ワクチンを、head-to-headで臨床効果を比較したものである。鶏卵培養で製造されるワクチンでは、製造過程でインフルエンザの抗原性に関わるヘマグルチニン(HI)をコードする遺伝子の変異が生じることでワクチンの有効性が低下する可能性が指摘されており、遺伝子組み換えワクチンの有効性が勝る一因になっていると推察される。
 本研究の対象は50歳以上の成人であり、75歳以上の割合は12%程度であった。インフルエンザワクチンの恩恵を受けやすい高齢者、小児、妊婦、免疫不全者などに対する遺伝子組み換えワクチンの有効性や安全性については本試験では評価できない。
 研究が実施された2014~15シーズンは、インフルエンザA/H3N2の流行株とワクチン株の不一致がみられたシーズンであった。このようなシーズンでより有効性を示したことは評価できるが、流行株とワクチン株が一致した場合でも本試験と同様の結果が得られるのかはわからない。B型インフルエンザに対しては有効性に差がなかったという結果も興味深い。遺伝子組み換えワクチンは利点の多いワクチンでもあるため、安全性の評価も含めて、今後さらなる研究が待たれる。


 さあ、将来日本でも導入されるのでしょうか?
 この論文・記事にはアジュバントについて言及されていませんが・・・。
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「生後24時間以内にB型肝炎ワクチン接種を」米学会が声明

2017年09月23日 14時38分56秒 | アレルギー性鼻炎
 日本では健康児に対するB型肝炎ワクチンは生後2ヶ月以降に接種します。
 ただし、母親がHBウイルスキャリアの場合は最初の接種を生後12時間以内に設定されています。
 
 紹介する記事は、アメリカ小児科学会が“健康児”に対してB型肝炎ワクチン初回接種を生後24時間以内に行うべきであるという見解を出した内容です。
 その理由として「オピオイド系鎮痛薬の乱用の拡大に伴い注射器を介したB型肝炎の感染者が増加している」という日本にはないアメリカのお国事情があるようです。

■ 「生後24時間以内にB型肝炎ワクチン接種を」米学会が声明
HealthDay News:2017/09/19
 米国小児科学会(AAP)は8月28日、出生時体重が2,000g以上で健康状態に問題のない全ての新生児に対し、B型肝炎ワクチンの初回接種を生後24時間以内に行うべきとする見解を示した声明文(policy statement)を発表した。米国の一部の州では、オピオイド系鎮痛薬の乱用の拡大に伴い注射器を介したB型肝炎の感染者が増加していることから、自身が感染していることに気付いていない母親からの母子感染を確実に防ぐことが狙いだとしている。
 声明文をまとめた同学会感染症委員会のFlor Munoz氏は「B型肝炎ワクチンは乳児が生まれて初めて接種するワクチンとなる。B型肝炎ワクチンを接種しないまま産院を後にする新生児を1人も出さないことが重要。小児科医には、全ての妊婦に対して出生直後のB型肝炎ワクチン接種の必要性について説明することを勧める」と述べている。
 B型肝炎ウイルスに感染すると、肝臓が障害され、急性あるいは慢性の肝炎を発症する可能性がある。慢性化すると肝不全や肝がん、さらには死亡に至ることもある。同学会によると、母子感染を防ぐには出生直後のワクチン接種が有効だが、現在も米国では年間約1,000人もの新生児でB型肝炎ウイルス感染が確認されているという。こうした現状を踏まえ、同委員会のElizabeth Barnett氏は「このワクチンは出生の時点から乳児を重篤な感染症から守る重要なセーフティネットである」と強調している。
 また同氏によると、B型肝炎ウイルス感染者の多くで自覚症状がなく、周りから見ても普段と様子が変わらないことが多いため、感染に気付きにくい。しかし、感染している母親が乳児の世話をする過程で乳児に感染してしまう可能性もあるという。これに対し、B型肝炎ワクチンを必要回数(3~4回)接種すれば、乳児の98%はB型肝炎ウイルスに対する免疫を獲得できると推定されている。
 同委員会のKaren Puopolo氏は「オピオイド系鎮痛薬の乱用が全米に広がる中、一部の州ではB型肝炎ウイルスの新規感染者が増えている。出生直後の乳児は特に感染しやすい状態にあるため、生後すぐに初回のワクチンを接種して最大限の防御を行う必要がある」と述べている。なお、今回の声明文ではワクチン接種のほか、妊婦に対する分娩前のB型肝炎検査の実施も推奨されている。


<原著論文>
COMMITTEE ON INFECTIOUS DISEASES, et al. Pediatrics. 2017; 140: e20171870.
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学校の始業時間を遅らせれば830億ドルの経済効果

2017年09月23日 14時33分04秒 | 小児医療
 世界の中で比較すると、日本人が睡眠不足であることは時々メディアに取り上げられるようになりましたが、アメリカの子どもも事情は同じようです。

 先日、「若者の間でカフェイン中毒が増えている」という番組を見ました。
 「寝る間を惜しんで○○○をする」習慣が原因の一因であると分析していました。

 現代社会は急いで生きて、結局“死に急ぐ”ことになってしまうのですね。

■ 学校の始業時間を遅らせれば830億ドルの経済効果に?
HealthDay News:2017/09/21
 米国内の中学校や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせれば、10年以内に830億ドル(約8兆9640億円)の経済的な利益がもたらされる―。米国のシンクタンク、ランド研究所がこのような分析結果をまとめた報告書を発表した。始業時間が遅くなることで中高生の睡眠時間が増え、学業成績が向上し、仕事でも成功しやすくなるため、長期的に見て経済に好影響を与えることになるという。
 米国小児科学会(AAP)などの専門家団体は、思春期の若者の就寝や起床の生体リズムに合わせ、健康を保つのに必要な睡眠時間を確保するため、中学や高校の始業時間を午前8時30分以降とすることを推奨している。しかし、実際にはそれよりも早い始業時間の中学・高校が82%を占めており、始業時間の平均は8時3分だという。また、中高生で望ましい睡眠時間は8~10時間とされているが、7時間未満の中高生が最大で60%に上るとの報告もある。
 思春期の若者の睡眠不足は精神的にも身体的にも健康に悪影響を及ぼすだけでなく、集中力の低下や学業成績の悪化をもたらし、さらには自殺念慮を引き起こす可能性もあることが指摘されている。しかし、経済的な影響について検討されたことはなかった。そこで、同研究所は今回、中学や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせ、中高生の睡眠時間が増えることによる経済的な影響について分析した。
 その結果、米国47州の中学や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせることで得られる経済的な利益は、2年後までに86億ドル(約9288億円)、15年後までに1400億ドル(約15兆1200億円)と推定された。報告書の著者の1人で行動・社会学の上級研究者であるWendy Troxel氏は「長年にわたって、われわれはティーンエージャーの睡眠の問題について公衆衛生上の課題として議論してきた。しかし、経済的な側面からみても、この問題は極めて重要であることが分かった」と説明。始業時間の変更に伴いスクールバスの運行スケジュールの調整などに必要な費用は発生するが、期待できる経済効果は大きく、短期間で回収できるとしている。
 なお過去の研究では睡眠時間が平均で1時間長くなると、高校の卒業率が13.3%、大学への進学率が9.6%上昇すると推定されている。これらは学生が就く職業や収入などにも影響する。
 さらに、自動車事故による死亡例の20%が運転手の睡眠不足や疲労に起因していたとするデータもあることから、同研究所は「若年者の自動車事故は、労働市場や経済にも影響を与える」と付け加えている。
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アメリカにおける薬剤師による予防接種の実情

2017年09月19日 20時02分52秒 | 予防接種
 日本では予防接種は医師の仕事ですが、アメリカでは薬剤師や看護師が一部担当していると以前から聞いていました。
 日経メディカルに「ワクチン接種など薬剤師が予防医療に尽力;2017/9/19」という関連記事を見つけたので紹介します。

 やはり薬剤師なら誰でも接種できるわけではなく、一定の研修と試験ののちの資格取得なのですね。
 資格取得後にも研修が課せられていることは見習うべきです。
 日本の医師の中には我流で行い、トラブルを起こす事例を時々耳にしますので。
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片頭痛のポイント2017

2017年09月18日 06時45分43秒 | 医療問題
 多くの人が悩んでいる片頭痛。
 外国有名雑誌の総説を解説した記事を見つけましたので抜粋・紹介します。

■片頭痛は前駆期にトリプタン系薬を開始、制吐薬を併用せよ!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2017年09月14日;メディカル・トリビューン
 N Engl J Med(2017; 377: 553-561)に片頭痛の総説がありました。この著者Andrew Charlesは米・UCLA神経科のHeadache Research and Treatment Programのディレクターだそうで、特に片頭痛を研究しているようです。世界最新の片頭痛の総説です!
 この片頭痛総説の最重要点は下記8点です。

・前兆は視覚変化、痺れ、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚接触で不快感)
・50歳以上の頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛を考える
・生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
・片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めてまれ
・SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす! すぐに中止!
・トリプタン系薬は前駆期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
・片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
・CGRP(calcitonin gene-related peptide)受容体のモノクローナル抗体が治験中


1.50歳以上の頭痛は片頭痛ではない
 この総説によると片頭痛の初発は10~14歳から急増し35~39歳まで増加後に減少し、特に閉経後は減少するそうです。片頭痛は基本的に若年者の疾患であり、「50歳以上で始まる頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛」と考えます。
 片頭痛は、女性に多く男性の2~3倍で、ピークでは女性のなんと25%に発症しているというのです。女性の4人に1人が片頭痛というのには驚きました。また女性の25人に1人はなんと月間15日以上の慢性の頭痛があるそうです。
 "Migraine"の語源を調べたところ、ギリシャ語の"hemikrania"(片側の頭痛)が訛って"migraine"になったのだそうです。片頭痛の前兆として視覚変化(visual changes: 波線、輝点・暗点の出現)が有名ですが、痺れ(numbness、tingling)、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚を触ると不快感)などもあります。

2. 1時間以上続く前兆、72時間以上続く頭痛は片頭痛ではない!
 片頭痛の視野障害って、一体どういう風に見えるんだろうと思っていたのですが、YouTubeに動画がアップされていました。
 この総説によると、視覚、知覚、構音障害は徐々に進行するものの1時間以内に治まり、 「1時間以上続く前兆は片頭痛でなく、二次性頭痛を考えよ」とのことです。また片頭痛での頭痛や頸部痛は突然でなく、徐々に始まり4時間から72時間続きます。「72時間以上続く頭痛も片頭痛でなく二次性頭痛を考えよ」なのです。
 典型的片頭痛の症状は以下の通りです。

【典型的片頭痛の症状】
・4~72時間続く典型的な発作
・発作間には症状がない
・頭痛や頸部痛が突然でなく徐々に始まる!
・視覚、知覚、構音障害が徐々に進行し1時間以内に治まる!
・頭痛の前後にあくび、頸部痛、羞明、音過敏、疲労、気分変化がある
・片頭痛の家族歴がある

 一方、二次性頭痛を考えるのは以下のような症状のときです。
 50歳以上で発症する頭痛は片頭痛ではないのです!

【二次性頭痛を示唆する症状】
・新たな頭痛発症(特に50歳以上)!
・72時間以上続く頭痛 ・視覚、聴力、構音障害の変化が1時間以上続く!
・突然の頭痛、神経症状 ・神経検査で異常
・発熱、全身症状がある

3. 生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
 片頭痛を引き起こすライフスタイルとしては、「不規則な食事、不規則な睡眠、カフェインの不規則摂取、ストレス」があります。また女性では生理の前、生理中に多いのです。以上から片頭痛は環境、ホルモンの変化、日々の不規則な食事、カフェイン、睡眠と関係すると言えます。ですから運動は片頭痛を減らすには合理的(sensible)なアプローチです。
 患者への指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」でしょうか。どうしてもカフェインをやめられない場合は、不規則的でなく規則的に飲むべきのようです。ただし片頭痛に対するライフスタイルのRCT(Randomized Control Trial)はありません。
 カフェインと片頭痛がどう関連するのか「Up to Date」で調べてみました。カフェインは頭痛にある程度有効な場合もあるのですが、日常的にカフェインを摂取しているときは慢性片頭痛や鎮痛剤のrebound headacheを起こすというのです。
 毎日カフェインを摂取している場合の慢性片頭痛のOR(オッズ比:1より大きいと有害)は2.9(95%CI 1.5~5.3)、鎮痛薬のrebound headacheのORは2.2(同 1.2~3.9)だそうです。「へー」と思ったのはcaffeine withdrawalの最も多い症状が頭痛なのだそうです。ですから頭痛持ちの方はカフェインはやめた方がよさそうです。

4. 片頭痛診断には頭痛より光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つ!
 この総説に「片頭痛発作のタイムライン」の表がありました。片頭痛のきっかけは、食事、光、音、匂いなどが引き金になることがあります。片頭痛は、①前駆症状(Premonitory)期→②前兆(Aura)期→③頭痛期→④後発症状(Postdrome)期の順で進行します。機能的画像診断では視床、視床下部、脳幹、皮質の活性化が見られるそうです。
 ギザギザの歯車が見える前兆期の前に前駆症状期があります。この時期のみに起こる症状はあくび、頻尿などです。また前駆症状期から後発症状期まで継続する症状があります。頸部痛、疲労感、気分変化、光・音過敏性です。嘔気は前駆症状期で少し遅れて始まり後発症状期まで継続します。頭痛だけでなく頸部痛も起こりうることに注意です。
 また前兆期から頭痛期の前半まで続く症状に、視野変化、痺れ、構音障害、認知能低下、めまいがあります。
 頭痛は頭痛期のみにあります。片頭痛の程度は人によりさまざまで、①から④まで全てがそろうわけではありません。
 頭痛期から後発症状まで続くのは、アロディニアなどです。
 片頭痛の診断は頭痛よりも光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つそうです。前兆や認知機能不全、めまい、疲労感などがあると医師は画像診断をオーダーしがちですが、症状が徐々に始まり一過性であれば不要だそうです。頸部痛も片頭痛で多いそうで、頸椎病変と間違われ頸椎の画像診断が行われてしまいます。また、片頭痛は医師や患者により副鼻腔由来と間違われ「sinus headache」などと診断されます。
 以下に簡単な片頭痛の診断クライテリアがあります。これを見ると「仕事や勉強の忌避が最低1日ある」という条件があり、片頭痛の方に仕事や勉強を強要してはいけないんだなあと思いました。また、「へー」と思ったのは頭痛がないphaseでは羞明(photophobia)がより強いのだそうです。

【簡単な片頭痛のクライテリア】(ID Migraine validation study)
 このクライテリアは93%の陽性的中率(陽性の場合に真に陽性である確率)です。過去3カ月、最低、次の2つを伴う頭痛が存在する。
・嘔気あるいは胃部不快感(sickness to stomach)
・羞明(頭痛のないときは羞明がより強い)
・仕事や勉強の忌避が最低1日ある

 また前兆がない場合の片頭痛の診断クライテリアがあります。

【前兆なしの片頭痛の診断】 (ICHD-3:International Classification of Headache Disorders3版)
 次のクライテリアを満たす最低5回の頭痛発作があること。
・4~72時間続く頭痛(未治療または治療失敗の場合)
次のうち、最低2つの特徴がある
・片側性
・拍動性
・中等度から重度の頭痛
・頭痛の為、散歩や階段昇降などの日常動作を避ける
・頭痛発作中、最低次の1つがある;嘔気/嘔吐、羞明(photophobia)、音声過敏(phonophobia)

 私は今まで片頭痛って血管拡張による拍動でズキズキ(throbbing)すると思い込んでいたのですが、この20年でこれに対し疑問が持たれるようになった(refuted、反駁する)のだそうです。片頭痛の治療は血管を収縮させることではないというのです。なんと鼻粘膜血管収縮薬は片頭痛の原因になります。また片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めて稀だそうです。

5. SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす!
 私の場合、今まで片頭痛の患者にはトリプタン系薬(スマトリプタン、リザトリプタンなど)を処方してそれでおしまいでした。今回、この総説を読んで大変驚いたのは次のような片頭痛誘発薬があり、これらをまず中止せよということです! これらの中止で劇的に片頭痛が軽快する患者がいるそうです。
 この片頭痛を誘発する薬に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)が入っているのに仰天しました。よもやこんな薬が片頭痛の原因になるなんて思いもよりませんでした。また血管を収縮させる鼻粘膜充血除去薬、なんとオピオイドが含まれているのにも驚きました。オピオイドは、週1回か2回の内服でも片頭痛をひどくすることがあるのだそうです。知らないということは恐ろしいことだとつくづく思いました。

【片頭痛を誘発する薬】
・SSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)
・PPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど)
・経口避妊薬 ・閉経後HRT(ホルモン補充療法)
・鼻粘膜血管収縮薬(ナファゾリン、テトラヒドロゾリン・プレドニゾロン配合、トラマゾリン)
・オピオイド

6. トリプタン系薬は前駆症状期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
 片頭痛の治療にはトリプタン系薬(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン)がやはり有効です。しかし1錠700円から900円以上もしますから、つい患者は使用開始を遅らせがちだというのです。米国の保険会社は1カ月当たりの処方量を制限していますが、これはエビデンスに基づきません。トリプタン系薬は頭痛が始まる前に開始した方がより有効です。ですから前駆症状のときに開始するよう説明せよとのことです。
 トリプタン系薬が著効しない患者は、頭痛が既に中等度以上になってから内服するためと思われます。こうなるとmedication-overuse headache(MOH)と言って、月15回以上頭痛があってトリプタン系薬を10日以上使用する患者が出てきます。効かないので薬を継ぎ足すためです。ポイントは「前駆症状のときにトリプタン系薬を開始せよ!」です。トリプタン系薬が奏効しない場合は、NSAIDs併用が有効な場合があります。
 制吐薬(メトクロプラミドなど)も重要でありERでは非経口投与も可です。嘔気がある場合、トリプタン系薬はスマトリプタンなら経鼻、皮下注も可能です。
 頭痛薬の効果は以下のような感じです。NSAIDsはアスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセンなどです。小生、今まで頭痛薬としてまずアセトアミノフェンを出すことが多かったのですが、「あまり効かないんだなあ」と知りました。これからは頭痛にはまずNSAIDsを出してそれからトリプタン系薬にしようと思いました。

・トリプタン系薬:2時間で頭痛軽減16~51%、頭痛消失は9~32%
・アセトアミノフェン:2時間で頭痛軽減19%、 頭痛消失 9%
・NSAIDs:2時間で頭痛軽減17~29%、頭痛消失7~20


7. 片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
 次に片頭痛の治療でなく予防です。片頭痛が週1回以上、月4回以上起こる場合は予防治療を行います。特に、β遮断薬のプロプラノール、ARBのカンデサルタンは40%で有効です。「なんでARBのブロプレスなんだい?」と思って調べたのですが、よく分かりませんでした。経験的にブロプレスに辿り着いたのでしょうか?
 また抗痙攣薬のトピラマート (商品名トピナ)や三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(商品名トリプタノール)、ノルトリプチリン(商品名ノリトレン)が使われます。
 トピラマートは食欲抑制作用もあるので、特に肥満患者に使用します。三環系抗うつ薬は不眠のあるような患者に使うと良いそうです。ただし同じ抗うつ薬と言ってもSSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)は片頭痛誘発薬ですので要注意です。
 米国ではボツリヌス毒素も使用されるのですが、日本国内では顔面痙攣には適応があるものの片頭痛には承認されていません。またneuromodulationと言って、眼窩上神経を電気刺激するCefaly deviceと呼ばれる機器があり、米食品医薬品局(FDA)で片頭痛予防に推奨されています。この孫悟空の冠みたいな道具を毎日20分、前額部に装着するのだそうです(外部リンク参照)。
 また最近の動向として、神経伝達物質のneuropeptideであるCGRP(calcitonin gene-related peptide)が片頭痛を誘発するのだそうで、CGRP受容体に対するモノクローナル抗体が片頭痛に有効であるとして現在、PhaseⅡ、Ⅲの段階だそうで間もなく市販されそうです。

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糖尿病に糖質制限食の是非

2017年09月17日 08時26分52秒 | 医療問題
 数年前からプチ糖質制限(ご飯や穀類を避ける)中の私。
 体重はそれほど変わりませんが、たんぱく質をたくさん摂るようになったためか、体の組成が変わり筋肉質になったような気がします。

 知り合いに糖尿病患者さんがいますが、彼女は糖質制限はしていません。
 糖質制限すれば血糖値は上がらなくなるので問題はいなずですが、なぜでしょう?
 その理由は、薬(インスリン/経口血糖降下剤)を使用しているからです。
 インスリン使用者が糖質制限を行うと低血糖が必発で危険なため、「したくてもできない」のです。
 糖尿病患者に糖質制限食を導入するために、場合によっては入院して栄養管理を行い、慎重にインスリンを減量する必要があります。
 しっかりやれば今までできなかった「インスリン減量」という夢を実現できます。

 一方、現在行われている「カロリー制限食」では、残念ながら糖尿病の薬を減らすことは困難です。

 さて、糖尿病患者に対する糖質制限食についての記事を紹介します。
 牽引役の山田先生、江部先生を取材したバランスのとれた内容だと思います。
 私なりに抽出したポイントを列挙;

1.糖質制限に伴うタンパク質摂取の増加が、腎機能のさらなる低下を招きかねないため、腎機能を把握し、腎に悪影響を来す可能性を説明する。
2.糖質制限開始1~2カ月は低血糖に注意を払う必要があり、糖質制限開始と共に処方薬の見直しを。
3.カロリー制限食と混同し、糖質だけでなくその他の食物の摂取も控えてしまう人がいるため、注意すべきは摂取カロリーの不足。タンパク質と脂質の摂取を促し低栄養の回避を。

 
 「糖質を食べなければ血糖値は上がらない」というのはわかりやすいのですが「中性脂肪は脂質をたくさん食べると上がるわけではない」という謎が私の中でありました。
 糖質制限食提唱者は「糖質を食べないと中性脂肪も減る」と言うのです。

 私自身、牛肉・豚肉の脂身も制限なく食べていますが、中性脂肪はなぜか糖質制限前より低下しています。
 図らずも自分の体で実証してしまいました。

 では、無制限に脂質を摂取しても良いものか・・・と言う疑問に記事の中の江部先生のコメントが役に立ちました。
 「肉の脂身などに含まれる飽和脂肪酸の摂取を抑えて、できるだけ魚介類に多い多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やすよう脂肪酸構成に配慮した食事を勧める。魚と肉は1対1の比率で、ハムやベーコンなどの加工肉はできるだけ避ける。

 なるほど。

■話題の糖質制限、糖尿病患者に使う?使わない?
2017/8/9 日経メディカル
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