小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

魚アレルギー(アップデート2023年②)

2023年02月23日 16時09分08秒 | 食物アレルギー
ふたたび魚アレルギーのアップデート。

第23回食物アレルギー研究会で、
近藤康人Dr(藤田医科大学ばんため病院)によるレクチャーを聴講しましたので、
メモを残しておきます。

近藤先生のレクチャーは今までに何回も聞いたことがありますが、
理論派というか、重箱の隅をつつくような内容で、
いつも驚かされ、
「そ、そこまで必要ですか?」
と聞きたくなる私です。

今回は診断のコツと食事指導を中心に話されました。

▢ 魚アレルギーの年齢別症状傾向
・乳幼児期は皮膚症状中心
・学童期以降はアナフィラキシーや口腔アレルギー症状も見られるようになる

▢ 魚アレルギーの内訳
・真の魚アレルギー
・ヒスタミン中毒
・アニサキスアレルギー

▢ ヒスタミン中毒
・魚が死ぬとヒスタミン産生菌が繁殖する。
・魚肉中のヒスチジン(アミノ酸の一種)が菌により分解されてヒスタミンになる。
・ヒスタミンを多量に含む魚を食べた直後~1時間以内に、
 吐き気、顔面紅潮、発汗、頭痛、発熱、蕁麻疹などを起こす。
・ヒスタミン感受性には個人差がある。成人より小児の方が影響を受けやすい。
・ヒスタミン過敏症状は調理法により変わる。アルコールや酸(レモン、酢)を一緒に接種すると吸収が促進される。

▢ ヒスタミンの性質
・ヒスタミンは加熱調理しても壊れない。
・凍結中は安定している。
・冷凍中は増えないが、解凍すると酵素の作用により増える。
・10℃よりも25℃~35℃で増えやすい。

▢ 魚肉中のヒスチジン含有量
・赤身魚で多い
(例)キハダマグロ、ブリ、カツオ、マカジキ、マサバ、メバチ、カタクチイワシ
・白身魚で少ない
(例)アンコウ、マダイ、イシガレイ、メバル、マフグ、ヒラメ、メカジキ
※コイは白身魚ではあるが多め

▢ 魚アレルギーの主要アレルゲンはβ-パルブアルブミンである。
・β-パルブアルブミン:Gad c 1, Onc m 1, Sal s 1等:陽性率60-90%
・アルドラーゼA:(省略):13-37%
・β‐エノラーゼ:(省略):10-56%
・コラーゲンーα:Lat c 6, Sal s 6:陽性率22%

▢ パルブアルブミン(PA)
・ほぼすべての魚種の筋肉中に広く存在する
・両生類や鳥類の筋肉中にも存在するCa結合性蛋白質
・加熱や酸の処理に安定

▢ アレルギーは白身魚の方が起きやすい
(赤身魚)回遊魚は絶えず大量の酸素を必要とすることから、筋肉中にミオグロビンを多く持つため、赤身になる。
(白身魚)身動きせずに獲物を待ち伏せして狩猟する白身魚は、赤身魚に比べると、酸素の消費量はとても低いため、筋肉は赤身魚ほどミオグロビンを含まないため、白身になる。

▢ パルブアルブミン(PA)含有量
(PA高値)キンメダイ、トビウオ、ウスメバル、アカムツ、マアジ、イサキ、マダイ、アカカマス
(PA低値)ギンザケ、メカジキ、カツオ、メバチマグロ、キハダマグロ

★二つ前の項目(千貫祐子Dr)紹介のPA含有量データと比較してみましょう;
マアジ(11.6-19.7)
ハモ(5.7-13.7)
ウナギ(10.2)
メバル(8.9-9.8)
アカアマダイ(3.9-9.6)
キンメダイ(6.9)
イサキ(4.4-6.8)
トビウオ(2.8-6.5)
マイワシ(2.6-3.4)
マサバ(2.4)
メバチマグロ(0.33)
カツオ(0.25)
トラフグ(0.1‐0.2)
・・・あれ、アカウオ関連のメバルが近藤Drの紹介データには入っていませんね。こんな風に比較しないとわからないことがあります。

▢ ほかの魚との交差反応性
・魚アレルギー患者が別の魚を食べたときにアレルギーを起こす確率(臨床的交差反応性)は~50%。
・硬骨魚類アレルギー→ほかの硬骨魚類アレルギー:~50%
          →軟骨魚類アレルギー:<5%
・食事指導に魚の生物学分類は利用できるか? → No!
 生物学分類表は魚のアレルゲン性と一致していない。
 魚の生物学分類は真の進化の過程を反映していない。
 見た目で(胸鰭に対する腹鰭の位置)分類されている。

▢ 魚除去食での栄養学的問題
・ビタミンD摂取不足→卵黄、きくらげ、干しシイタケで補充
 もしくは、カツオの缶詰やメカジキが食べられれば補うことができる
・n-3系多価不飽和脂肪酸(EPAやDHA)の摂取不足
・カルシウム不足→牛乳などで補充

▢ 症状の出やすい魚
・タイやカレイが高率…PA高値
・カジキ、カツオ、ツナ缶は低率…PA低値
・多魚腫に反応する場合もPAが原因であることが多く、カツオ、カジキ、マグロ、ツナ缶などから試すのがよい。

▢ 魚アレルギーの食事生活指導
・カツオ、いりこなどのだしの除去は不要なことが多い。
・ツナ缶は高温高圧処理で低アレルゲン化されており、多くの場合摂取可能である。
・学校行事で魚市場などへ行く際は、魚アレルゲンを吸入すると呼吸器症状を起こしうるので、マスク着用など防御対策が必要。
・カルシウム、ビタミンDの補充は前述

▢ エビアレルギーの診断に特異的IgEは信頼できない。

▢ エビアレルギーの原因はトロポミオシンファミリーであり、相同性が高いが、
 臨床的交差反応リスクとトロポミオシンのアミノ酸配列の相動性は一致しない。

▢ エビアレルギー患者の臨床的交差反応性:
・カニアレルギー:64.7%
・イカアレルギー:17.5%
・タコアレルギー:20.3%
・ホタテアレルギー:19.6%

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木の実類アレルギー(アップデート2023年)

2023年02月23日 14時44分19秒 | 食物アレルギー
第23回食物アレルギー研究会(2023年)で「木の実類アレルギー」のレクチャーがありましたので、メモを書き留めておきます。

木の実類アレルギーは近年増加し注目されています。
輸入量・摂取量がそのまま反映されているようです。

よく相談を受けるのが、
「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
とか、
「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
等々。
※ピーナッツ(落花生)は厳密にはナッツ類ではなく豆類です。

さて、これらの要望にどう応えればよいのでしょう、
というテーマを頭に入れつつ、聴講しました。

▢ 木の実類アレルギーの有病率
・アメリカ:(小児)2.3%、(成人)0.4%
・日本:(1歳)0.1%、(6歳)3.3%

▢ 木の実類は食物アレルギーの原因第三位(2020年のデータ)
・過去15年間で約7倍に増加した。
・木の実類の中でも、クルミ(7%)とカシューナッツ(2.9%)の増加が著しい。
・木の実類によるアナフィラキシー報告も増えている。

▢ 木の実類アレルギーの発症年齢
・アメリカ:3.0歳(中央値)
・スペイン:6.5歳(平均値)
・ポルトガル:3.1歳(平均値)
・日本:(クルミ)3.5歳/(カシューナッツ)5.0歳(中央値)
・・・しかし日本では1‐2歳の新規発症食物アレルギーの原因食物において木の実類は第二位。
→卵牛乳小麦より発症年齢は遅く、乳幼児期に新規発症することが多い。

▢ クルミとカシューナッツは経口負荷試験で陽性に出やすく重篤化しやすい。

▢ 年齢とともに複数の木の実類に反応する例が増えてくる。
・二つ以上のナッツにアレルギーのある例は約60%(小児例、2020)。

▢ ピスタチオとカシューナッツの関係
・ピスタチオアレルギーの97%がカシューナッツアレルギー
・カシューナッツアレルギーの83.3%がピスタチオアレルギー

▢ ペカンナッツとクルミの関係
・ペカンアレルギーの97%がくるみアレルギー
・クルミアレルギーの75%がペカンアレルギー

▢ アレルゲンコンポーネントによる診断
・Prolamin内の2S albumin類が有用
(例)Ana o 3(カシューナッツ)、Jug r 1(クルミ)…すでに検査可能
   Cor a 14(ヘーゼルナッツ)…next coming!
・Cupin内のVicilins(7S globulin)類
(例)Mac i 1(マカダミアナッツ)…next coming!
・Cupin内のLegumins(11S globulin)類
(例)Pur du 6(アーモンド)…next coming!

▢ マカダミアナッツ特異的IgEはアナフィラキシーの予測に有用

さて聴講後、最初の疑問は解けるでしょうか?

「兄弟がクルミでアナフィラキシーを起こして心配だからこの子も調べてほしい」
→血液検査でクルミ特異的IgEを検査し、陽性なら Jug r 1 を追加検査して判定可能

「ピーナッツ(※)で症状が出るので、保育園からすべてのナッツ類の検査を受けるよう言われた」
→現在検査フローが確立されているのは、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミの3つ。
 それ以外は参考程度で、経口負荷試験(実際に食べて症状が出るかどうか判定)が必要になる。

という答えになります。

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魚アレルギー(2023年アップデート①)

2023年02月23日 13時04分49秒 | 予防接種
魚アレルギーは、結構複雑で一口に説明することが難しい。
さらに新しい事実が次々に出てくるのでアップデートする必要あり。
今回、島根医科大学の千貫DrのWEBレクチャーを聴講したら、
「あれ、そうだったんだ」
とうなづける内容が盛りだくさんだったので、メモ書きを残しておきます。

・アトピー性皮膚炎に合併する魚アレルギーの臨床症状はOAS(oral alergy syndrome, 口腔アレルギー症候群)が多く、原因アレルゲンはパルブアルブミンと思われる。

・魚のFDEIA(food dependent exercise induced anaphylaxis, 食物依存性運動誘発アナフィラキシー)の原因アレルゲンはゼラチン(コラーゲン)と思われる。

・経験ではアカウオに反応する症例が圧倒的に多い。アカウオとは、メヌケ類の流通上の名称で、一例をあげるとアラスカメヌケはカサゴ目フカサゴ科(あるいはメバル科)メバル属に属する海水魚でパルブアルブミン含有量が多い。

・各魚に含まれるパルブアルブミン量は多い順に、
マアジ(11.6-19.7)
ハモ(5.7-13.7)
ウナギ(10.2)
メバル(8.9-9.8)
アカアマダイ(3.9-9.6)
キンメダイ(6.9)
イサキ(4.4-6.8)
トビウオ(2.8-6.5)
マイワシ(2.6-3.4)
マサバ(2.4)
メバチマグロ(0.33)
カツオ(0.25)
トラフグ(0.1‐0.2)

→ アカウオ(メバル属)で症状が出る場合は、湿疹をタイトコントロールし、パルブアルブミン含有量の少ない魚(メバチマグロ、カツオ)から試すのがよい。

・各魚に含まれるコラーゲン量は多い順に、
キンメダイ(3.5)
ウナギ(2.3)
マサバ(1.5)
メバチマグロ(1.4)
カツオ(1.0)

・魚アレルギー(平均14.6歳)とアニサキスアレルギー(平均64.3歳)は40歳を境にきれいに分かれる(千貫Drの経験)。


・・・私の経験でも「アカウオ」を食べて症状が出た患者さんがいました。当時は「アカウオって何?」くらいの知識しかありませんでしたが、上記のようなバックグラウンドがあったのですね。
 また、何を食べても症状が出てしまう魚アレルギー患者さんの治療方針も参考になりました。
 「皮膚をつるつるにきれいにして、メバチマグロとカツオから試し始める」
明日からの診療に役立ちそうです。
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