小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

意外なところに隠れているアレルゲン物質〜家のホコリにクルミ、洗顔料に小麦・トウモロコシ!

2023年08月14日 10時33分29秒 | 食物アレルギー
約15年前、食物アレルギーの原因というか、
感作ルートが明らかになりました。
それは「バリアの壊れた皮膚」、つまり湿疹です。

バリアの壊れた皮膚から侵入する物質(たんぱく質)を、
人の免疫システムは“敵”と見なして排除しようとします。
このやり取りが繰り返されると、
人の身体はその物質を受け付けない体質に変化します。
これがアレルゲンとアレルギーの関係であり、
皮膚から侵入 → アレルギー成立という現象を“経皮感作”と呼びます。

注目されたのが乳児湿疹です。
生後数ヶ月の赤ちゃんに湿疹が出てくると、
部屋の中に存在するアレルゲン物質が皮膚に付着を繰り返し、
“経皮感作”が成立してしまうのです。

乳児アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが多い現象が、
これで説明できるようになりました。
実際に乳児湿疹をしっかり治療すると、
食物アレルギー発生率が下がることが報告されています。

え、うちではしっかり掃除しているからそんなことは起こらない?

いえいえ、部屋の中にはダニアレルゲンや、
それを上回る卵の微粒子がたくさん存在しているのです。

▢ 100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出
100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されました。
しかも、鶏卵アレルゲンがダニアレルゲンよりも高濃度で検出されました。
エコチル調査パイロット調査に参加している子どもの寝具を掃除機で埃を吸い取り、埃中のチリダニアレルゲン、鶏卵アレルゲンの量を調べました100%の子どもの寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出され、それら全ての家庭でダニアレルゲン量よりも高濃度で検出しました。この研究成果は、2019年3月5日に日本アレルギー学会公式英文雑誌であるAllergology Internationalより発表されました。

さて近年、ナッツアレルギーが急増していることが関連学会で話題になっています。

▢ 食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?
堀向健太:医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

従来の食物アレルギーベスト3は、
1.鶏卵
2.牛乳
3.小麦
が定番でしたが、現在は小麦を抜いてナッツが3位に躍り出ました。
その中でもクルミの増加が著しい。
これはクルミの輸入量と比例しており、
クルミが日本人の食生活に浸透してきた弊害とも言えます。

さて、クルミのアレルゲンは室内に存在するのでしょうか?
答えは YES です。

▢ 家庭内のほこりにクルミアレルゲン
 比企野綾子(2023年07月18日:Medical Tribune
 日本では近年、クルミアレルギー患者が急増している。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの安戸裕貴氏、センター長の大矢幸弘氏らは、同センターアレルギーセンターを受診した小児の家庭内のほこりを調査した結果、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在を確認したと、Allergol Int(2023年6月29日オンライン版)に報告。「クルミアレルギー発症との因果関係を示すものではないが、家庭内のほこりにクルミアレルゲンが存在することが示された」としている。

◆ リビングルームと子供用ベッドからほこりを採取
 食物アレルギーの発症要因として、環境中の食物アレルゲンの存在が注目されている。これまでに大矢氏らは、3歳児の寝具を調べたところ、全例から鶏卵アレルゲンが検出されたことを報告している(Allergol Int 2019; 68: 391-393)。しかし、過去に環境中のクルミアレルゲンについて検討した研究はほとんどない。そこで今回、家庭内のほこりに含まれるクルミアレルゲンについて調査した。
 対象は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの外来を受診した小児(年齢中央値6.9歳、範囲1.6~16.6歳)の家庭のうち、食物アレルギーの患児がいる32家庭およびいない13家庭。食物アレルギーの内訳は、クルミアレルギーが11家庭、ピーナツアレルギーが13家庭、卵アレルギーが18家庭(複数回答あり)だった。
 家庭におけるクルミの摂取状況は、2021年8月と11月にアンケートを実施して調査。ほこり採取日前の6週間分について、週平均の摂取量を算出した。
 ほこりの採取はスタッフが各家庭を訪問し行った。リビングルーム、子供用ベッドの上のほこりを同一手法で採取し、ELISA法でほこり中のクルミアレルゲン量を測定した。
 クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1への感作については、ほこり採取日の前後1年以内に測定されたJug r 1特異的IgE値を用いた。

◆ Jug r 1感作陽性児の50%で、ベッドのほこりにクルミアレルゲン
 検討の結果、約3分の1の家庭(リビングルーム13家庭、子供用ベッド14家庭)で、家庭内のほこりから環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンが高レベル(200μg/g以上、最大6万μg/g)で検出された。
 また、家庭内におけるクルミの消費量が4g/週未満の家庭と比べ、4g/週以上の家庭ではリビングルームと子供用ベッドの両方でほこりに含まれるクルミアレルゲンの量が有意に多かった(順にP=0.0053、P=0.0025)。
 さらに、クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1に対する感作が陰性だった子供のベッド(9家庭)のほこりからは、クルミアレルゲンが検出されなかった。一方、Jug r 1に対する感作が陽性だった子供のベッドの半数(6家庭中3家庭)で、ほこりからクルミアレルゲンが検出された
 以上から、安戸氏らは「家庭内のほこりにはクルミアレルゲンが存在しており、小児のクルミアレルゲン感作と関連する可能性が示唆された」と結論。その上で、「昨今のクルミアレルギー患者の増加の一因として、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在が考えられ、今後注視していく必要がある」と付言している。

次は洗顔料に含まれるトウモロコシ成分で感作され、
トルティーヤを食べたらアナフィラキシー(重度のアレルギー症状)を発症した報告例を紹介します。

▢ 洗顔料のトウモロコシ成分に注意!トルティーヤでアナフィラキシーを起こした一例
・・・トウモロコシによるアナフィラキシーショック症例が、第52回日本皮膚免疫アレルギー学会(2022年12月16〜18日)で報告された。発表した京都府立医科大学附属病院皮膚科の谷口正和氏は、スクラブ洗顔料中のトウモロコシ成分による感作に注意を呼び掛けている。
◆ 摂取の15分後にアナフィラキシーを発現
 患者は51歳女性。幼児期からアトピー性皮膚炎を有していたが、食物アレルギーの既往はなかった。メキシコ料理店でトルティーヤ(トウモロコシ粉で作る薄焼きパン)を食べ、店を出て15分ほど歩いたときに頸部発赤、全身瘙痒、呼吸困難が出現、血圧低下がみられたため救急車を要請した。・・・原因精査の目的で京都府立大学皮膚科を受診した。
 谷口氏が血液検査を行ったところ、総IgEは3,075IU/mLと高かった。抗原特異的IgEではヤケヒョウダニとハウスダストIが高値(クラス6)を示したが、これはアトピー性皮膚炎の原因と考えられた。注目すべきはトウモロコシがクラス3と高い点であった。
◆ トルティーヤとトウモロコシアレルゲンがプリックテスト陽性
 次に、メキシコ料理店で供された玉ネギやチキン、トルティーヤやカルニータス(豚肉のラード煮込み)などに絞ってプリックテストを行った。すると、トルティーヤと「トリイ」トウモロコシ(診断用アレルゲン皮内エキス)のみ15分後判定で陽性だった。そして患者に日常生活を尋ねると、トウモロコシ成分の入った洗顔料の使用が判明した。また、前年までトウモロコシ入り食物繊維食品を摂取していたことも分かった。・・・再度のプリック検査を施行した。・・・陽性を示したのは、22品目中コーンスターチ、トウモロコシ缶詰、トウモロコシ生のみ。トウモロコシ含有洗顔料のスクラブパックは陰性だった
・・・
◆ 疑われるトウモロコシ含有洗顔料による感作
 以上から、本症例はトウモロコシアレルギーと診断された。以前は普通にトウモロコシを食べられていたので、トウモロコシ含有洗顔料で感作され、大量のトルティーヤでアナフィラキシーが生じたと谷口氏は考えた。感作経路は立証できなかったが、トウモロコシ摂取と洗顔料使用は控えるよう説明したという。
 一般に食物アレルギーの感作経路としては、
①経口:消化管粘膜で感作
②経気道:花粉に感作しそれに交叉性を持つ食物の摂取で症状が現れる
ーの両者が多数を占める。ところが近年、成人発症の食物アレルギーとして、
③経皮感作
が注目されている。健常な皮膚は分子量500 Da(ダルトン)以下の物質しか通過できない。トウモロコシの主なアレルゲンであるプロフィリンやLTP(lipid transfer protein)などはどれも9kDa以上で、本来、皮膚バリアを突破できないはずだ。・・・
 しかし、本症例にはアトピー性皮膚炎の既往があり、またスクラブ洗顔料で顔面をこすることで角質が除去され、バリア機能が低下していたそのため、食物抗原が皮膚を通過、経皮感作が成立してアレルギーを発症したのでないかと、同氏は推測している。
◆ 食品を含む洗顔料では食物アレルギーに注意する必要がある
 トウモロコシアレルギーの報告数は多くない1)。比較的まれな食物アレルギーといえるだろう。同大学病院皮膚科では、たまたま成人発症トウモロコシアレルギー症例を経験しており2)、容易にトウモロコシを疑うことができた。
 選考症例はトウモロコシ含有せっけんで洗顔しており、経皮感作後のアレルギー発症という流れも同じだった。今回の症例では、患者が日常使用していたスクラブ洗顔料にトウモロコシの穂軸の粒子が含まれていた。洗顔料はプリックテストで陽性にならず、トウモロコシ穂軸成分は入手できなかったため、経皮感作の証明はかなわなかった。しかし谷口氏は、食品成分を含有する洗顔料の使用については、食物アレルギーに細心の注意が必要だと述べている。

トウモロコシ成分以外にも、洗顔料に入っている食物成分に感作されてアレルギー症状を誘発した例が報告されています。
有名なのが、2010頃話題になった「茶のしずく石けん事件」

▢ 『茶のしずく石けん事件』とは?食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!

▢ 茶のしずく石鹸(加水分解コムギ)によるアレルギー~小麦アレルギー

他のアレルゲンの報告例の紹介はこちらにも;

▢ 洗顔料に含有する食物抗原によるアレルギー~小麦以外の例

というわけで、今回のブログのポイントは、
・湿疹病変はしっかり治療してツルツルすべすべが望ましい。
・食品成分の入った洗顔料・スキンケア製品は避けるべし。
でした。

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その青っぱな、抗生物質が必要な副鼻腔炎ですか?

2023年08月13日 18時36分32秒 | 感染症
副鼻腔炎は一般的に「ちくのう症」と呼ばれています。

風邪症状に続く青っぱな、鼻づまり…
耳鼻科を受診すると例外なく「副鼻腔炎」として抗生物質を処方されます。
症状が長引くと、別の抗生物質に変更され、
それでも治らないと、また別の抗生物質へ変更、
それでも治らないと、気がつく元の抗生物質が処方されています。

抗生物質を乱用する開業医は高齢医師に多いとされていますが、
当地域では圧倒的に耳鼻科医が多い印象があります。

さて、青っぱな=ちくのう症、なのでしょうか。
実は「3割は細菌感染ではなく抗生物質無効」という報告があります。

▢ 急性副鼻腔炎の抗菌薬、3割の児で無効なわけ
 米・University of Pittsburgh School of MedicineのNader Shaikh氏らは、小児の急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療において、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって有効性が異なるか否かを検討するランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、3割の患児で抗菌薬の有効性が低かったとし、その理由が明らかになったとJAMA(2023; 330: 349-358)に報告した。
◆ 層別ランダム割付で、抗菌薬群とプラセボ群を比較
 急性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎は、症状の大部分が重複する。また、急性副鼻腔炎と診断された患児の中には、抗菌薬による治療効果がほとんど認められないケースがある。
 Shaikh氏らは、上咽頭からの細菌検出の有無や鼻汁の色によって、抗菌薬治療を行うか否かを判断できるかについて検討する目的でRCTを実施した。
 対象は、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに従い2016年2月~22年4月に米国のプライマリケア6施設で急性副鼻腔炎と診断された患児のうち、急性副鼻腔炎が持続または増悪した515例(2~11歳)。小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS、0~40点)の初回スコアが9点以上の者を組み入れた。症状の持続は11~30日間症状(鼻、咳、または両方)が改善しない例、増悪はウイルス性上気道炎から回復したとみられる患児で、症状改善から6〜10日の間に鼻や咳の症状が再燃した例、または新たに発熱が出現した例と定義した。
 対象を、抗菌薬群〔アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラネート(6.4mg/kg/日)〕とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、10日間経口投与した。色付き(黄色または緑色)の鼻水の有無および咽頭拭い液の細胞培養による細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌)の有無で層別化した。
 主要評価項目は、診断後10日間のPRSSスコアに基づく症状の程度とした。
◆ モラクセラ菌検出の有無は抗菌薬の有効性に関連せず
 515例のうち選別基準を満たした510例(2~5歳64%、男性54%)を解析したところ、平均PRSSスコアはプラセボ群(250例)の10.60点(95%CI 10.27~10.93点)に対し、抗菌薬群(240例)では9.04点(同8.71~9.37点)と有意に低かった(群間差-1.69点、95%CI -2.07~-1.31点)。
 症状消失までの期間は、プラセボ群の9.0日に対し、抗菌薬群では7.0日と有意に短かった(P=0.003)。
 上咽頭で細菌が検出された患児は355例(72%)、検出されなかった患児は138例(28%)だった。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、細菌検出児の-1.95点(95%CI -2.40~-1.51点)に対し、非検出児では-0.88点(95%CI -1.63~-0.12点)と、抗菌薬による治療効果が低いことが示された(交互作用のP=0.02)。
 色付きの鼻汁が出た患児は333例(67%)、透明な鼻汁が出た患児は163例(33%)。抗菌薬群とプラセボ群の平均PRSSスコアの群間差は、それぞれ-1.62点(95%CI -2.09~-1.16点)、-1.70点(同-2.38~-1.03点)で、鼻汁の色の有無で治療効果に有意差はなかった(交互作用のP=0.52)。
 さらに探索的解析の結果、治療効果の大部分はインフルエンザ菌と肺炎球菌の存在によるもので、モラクセラ菌検出の有無と抗菌薬の有効性に関連はなかった
 以上を踏まえ、Shaikh氏らは「上咽頭に細菌を保有していなかった28%の患児では、抗菌薬治療の効果が低かった。急性副鼻腔炎患児における抗菌薬の不適切使用を減らす合理的な方法は、処方を診断時に上咽頭に細菌を保有している患児に限定することである」と結論している。

つまり、副鼻腔炎(ちくのう症)かどうかは鼻水の色ではわからない、
青っぱなの場合でも、3割は細菌感染ではなく、
そのような例に抗生物質を投与しても経過は変わらない(自然に治るので効いた感じはあります)、
ということです。
抗生物質を多用するなら、細菌培養検査を併用すべきでしょうね。

同じ報告を紹介した記事が他にもありましたので引用します。
「抗生物質適正使用」という視点から、注目される内容なのでしょう。

▢ 鼻水の「色」によって抗生物質を使うのは誤り? 米国医師会雑誌が報告
 石原藤樹/「北品川藤クリニック」院長
2023/8/13:日刊ゲンダイ
 風邪症状が長引く原因のひとつが副鼻腔炎、いわゆる「蓄膿症」です。鼻の奥の副鼻腔と呼ばれる空洞に細菌などが増殖して炎症を起こし、膿がたまるのです。 
 蓄膿は鼻詰まりや頭痛の原因になりますし、喉の奥に流れ込んだ鼻汁が、咳や痰がらみなどを起こす場合もあります。長引く蓄膿はぜんそくを悪化させたりすることも知られています。
  通常、細菌感染に伴う蓄膿に対しては抗菌剤(抗生物質など)が使用されます。一番多く使われるのは抗生物質のペニシリンです。 
 ただ、“どういう患者さんに抗菌剤を使用するべきか”という点については、まだ専門家でも見解が分かれています。透明な鼻水に色が付き、黄色や緑色の粘稠(ねんちゅう)な状態になることは蓄膿の特徴のひとつとして考えられています。 
 それでは、そうした症状があれば抗菌剤を使用してよいのでしょうか?
 今年の米国医師会の医学誌に、小児の蓄膿症に対して、鼻水の色で抗菌剤を使用した場合と、鼻汁の細菌培養検査を行って原因となる菌が検出されたときに限って抗菌剤を使用した場合とを比較した、臨床試験の結果が報告されています。 
 それによると、培養で菌が検出された場合に限って抗菌剤を使用すると症状が早く改善しましたが、鼻水の色が変わった場合に抗菌剤を使用しても、そうした改善効果は見られませんでした鼻水の色での診断は、実際にはあまり当てにはならないようです。 

もうひとつ。

▢ 鼻腔ぬぐい液の細菌検査で小児での抗菌薬使用の削減へ
2023年08月07日:Medical Tribune)(HealthDay News 2023年7月26日)
 副鼻腔炎が疑われる小児には、その原因菌であることが多い3種類の細菌の検査をすることで、不要な抗菌薬の処方を回避できる可能性を示したランダム化比較試験(RCT)の結果が報告された。このRCTは米ピッツバーグ大学小児科学およびクリニカル・トランスレーショナル・サイエンス教授のNader Shaikh氏らが実施したもので、詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月25日号に掲載された。
 副鼻腔炎は小児に頻発する疾患で、鼻づまりや鼻水、不快感、呼吸困難などの症状が現れるが、治療しなくても治る場合が多い。しかし、現状では、抗菌薬が有効な患児を予測する良い方法はなく、必要のない患児にも抗菌薬が処方されることがある。Shaikh氏は、「抗菌薬の効かない耐性菌は重大な公衆衛生上の問題だ。不必要な抗菌薬の処方を減らすべきだ」と話す。また、「抗菌薬には下痢などの副作用を伴うことがあるが、腸内細菌叢に対する抗菌薬の長期的な影響についてもよく分かっていない。したがって、小児の症状の原因が細菌感染ではない場合、抗菌薬で治療することのメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性もある」と指摘する。
 今回のRCTでは、2016年2月から2022年4月の間に副鼻腔炎に罹患した2〜11歳の小児510人(2〜5歳が64%、男児54%)を対象に、副鼻腔炎の主な原因菌とされる3種類の細菌〔肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)〕への感染や、色(黄、緑)の付いた鼻汁の有無で抗菌薬の使用によりもたらされるベネフィットが異なるのかが検討された。対象者は、10日にわたって抗菌薬(アモキシシリン90mg/kg/日・クラブラン酸6.4mg/kg/日)を投与する群(254人)とプラセボを投与する群(256人)のいずれかにランダムに割り付けられた。また、試験開始時と終了時に対象小児から鼻腔ぬぐい液を採取し、3種類の細菌の検査を行った。
 その結果、小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS)で評価した症状スコアの平均点は、抗菌薬群の方がプラセボ群よりも有意に低く〔9.04点対10.60点、群間差−1.69、95%信頼区間(CI)−2.07〜−1.31〕、また、症状が寛解するまでの時間も抗菌薬群の方が有意に短いことが示された(7.0日対9.0日、P=0.003)。鼻腔ぬぐい液から対象とした細菌が検出されなかった小児(抗菌薬群73人、プラセボ群65人)では、プラセボ群と比較した症状スコアの差が−0.88点(95%CI −1.63〜−0.12)であったのに対し、細菌が検出された小児(抗菌薬群173人、プラセボ群182人)でのスコアの差は−1.95点(同−2.40〜−1.51)であり、細菌が検出されなかった小児に抗菌薬を投与しても、細菌が検出された小児と同程度のベネフィットは得られないことが示された。こうした結果から、鼻腔ぬぐい液を用いた細菌検査は、抗菌薬投与の効果が期待できる小児を特定し、効果が期待できない小児に対する抗菌薬の処方を回避できる、シンプルかつ効果的な方法であることが示唆された。
 さらにShaikh氏によると、医師たちの間では一般的に黄色あるいは緑色の鼻汁は細菌感染のサインと考えられているが、今回の研究では、鼻汁の色の有無により、抗菌薬の効果に有意な差は認められないことが示された。このことは、鼻汁の色を基に抗菌薬の処方を決めるべきではないことを意味する
 Shaikh氏らは、鼻腔ぬぐい液を使って副鼻腔炎の原因菌の有無を迅速に検査できる検査法の開発に興味を示しており、「われわれの研究結果は、診断の向上や抗菌薬処方の削減のために、副鼻腔炎の症状が認められる小児の治療に細菌検査を導入することを支持するものだ」と述べている。
 一方、付随論評の著者の一人で米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学教授のAaron Milstone氏は、「現状では、抗菌薬の有効性を判断する上で役立つ、安価で広範に導入できる検査法は存在しない」と話す。また、鼻の中に存在する細菌が、必ずしも重症の感染症の兆候を示すわけではないことを指摘し、「もし、小児の鼻腔ぬぐい液の迅速検査が利用できるのであれば、必要以上に頻繁に検査が行われるようになり、抗菌薬の使用頻度が減るどころか増える可能性がある」との見方を示す。さらに、そのような検査法は、メリットが小さいにもかかわらず医療コストの増大につながる可能性もあるとしている。
 Milstone氏によると、ほとんどの副鼻腔炎は自然に治癒する。また、下痢などの抗菌薬の副作用は、親や子どもにとっては副鼻腔炎の症状よりもつらい場合もある。同氏は、「副鼻腔炎は極めて高頻度に生じる疾患だ。また、抗菌薬の効果が得られたとしても、その効果はさほど大きなものではない。したがって、子どもが副鼻腔炎を発症した場合、親は子どもの回復を辛抱強く待つ必要があり、それには時間がかかることを理解しておくべきだ」と話している。

<原著>

さて、小児科医である私はどの様に治療しているのかを公開します。
私は青っぱなの患者でも抗生物質は基本的に使いません。
その代わりに漢方薬を処方します。
風邪の初期の水っぱな(透明鼻汁)には小青竜湯、
何日か経過し、白く濁った鼻水になったら葛根湯加川芎辛夷へ変更、
それでもよくならなくて、青っぱなになったら小柴胡湯を併用、
小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷を2週間投与しても治りきらない場合は、
辛夷清肺湯を2週間投与。
…全例とは言いませんが、だいたいこれで治ります。
とくに、小柴胡湯+葛根湯加川芎辛夷の組み合わせは著効例が多い印象があります。

あ、漢方薬を飲ませるコツもアドバイスしていますが、
どうやっても飲めない患者さんは、たぶん耳鼻科へ流れていると思われます。


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新型コロナワクチンを接種すると「超過死亡」が減ることが証明されました。

2023年08月13日 16時27分46秒 | 予防接種
ある感染症に対して、そのワクチンが効いているのかどうか、
実はこれを判定するのは簡単なことではありません。

血液中の抗体価を測ればわかる、という意見もありますが、
その抗体が「感染を阻止する」とイコールとは限りませんし。

誰もが納得するデータとして“超過死亡”という数字があります。
これは、ワクチン接種者と非接種者を何万人、何十万人単位でその死亡数を比較し、
統計学的に有意差があるかどうか評価する方法です。

ワクチンを接種した10万人と
ワクチンを接種しない10万人、
この2つのグループを比較して、
死亡率に差があったかどうか?

・・・差がなければ「ワクチン無効」と言えますし、
ワクチン接種者で死亡率が低ければ「ワクチン有効」
ワクチン接種者で死亡率が高ければ「危険なワクチン」
と判断されます。

シンプルでわかりやすい。
そんな解析報告を扱う記事が目に留まりました。

結論は、
 新型コロナウイルスワクチンによる死亡確率は、
 デルタ変異株が流行した2021年7~9月で17.3%、
 オミクロン変異株が流行した2022年1~6月で36.2%と100%を大きく下回り、
 ワクチン接種に伴う死亡リスクの増加を認めることはありませんでした。
・・・つまりワクチンは有効であり安全、ということ。

▢ コロナワクチンと超過死亡との関係は? 米研究チームが専門誌で報告
 青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰
2023/8/13:日刊ゲンダイ)より抜粋;
 インターネット上では、「新型コロナウイルスワクチンの接種による超過死亡」といった情報をしばしば見かけます。超過死亡とは、集団の死亡率が一時的に増加し、本来的な死亡率の期待値を超えてしまう現象のことです。しかし、ワクチン接種と超過死亡の関連については、質の高い研究データが限られていました。そんな中、新型コロナウイルスワクチンの死亡リスクを調査した研究論文が、ワクチンに関する専門誌に2023年2月7日付で掲載されました。 
 一般的に、ワクチンを接種した人では、健康状態が良好な傾向にあり、ワクチンの効果とは無関係に死亡リスクが低く示されることがあります。そのため、この研究では単純な死亡率を比較せず、超過死亡に関するデータを用いて検討が行われました。 
 具体的には、米ウィスコンシン州のミルウォーキー郡において観察された新型コロナウイルス感染症による死亡率を、新型コロナウイルス感染症以外の原因による死亡率で割り、感染症による超過死亡の確率を算出しています。さらに、新型コロナウイルスワクチン接種者の超過死亡の確率を、未接種者の超過死亡の確率で割り、同ワクチンによる相対的な死亡確率が見積もられました。死亡確率が100%を上回れば、ワクチンによる死亡リスクの増加を認めることになります。 
 解析の結果、新型コロナウイルスワクチンによる死亡確率は、デルタ変異株が流行した2021年7~9月で17.3%、オミクロン変異株が流行した2022年1~6月で36.2%と、100%を大きく下回り、ワクチン接種に伴う死亡リスクの増加を認めることはありませんでした
  論文著者らは「死亡に対するワクチン接種の実質的な予防効果が認められた」と結論しています。 

実は、ワクチンが超過死亡を減らしていたかどうかという検討は、
過去にインフルエンザワクチンでも行われています。

私が子どもの頃、インフルエンザワクチンは「定期接種」で、
集団接種するのが当たり前の時代でした。

しかしあるときから「ワクチン反対運動」が盛んになり、
1980年代に定期接種は中止に追い込まれました。
ワクチンの副反応を大々的に扱ったメディアの影響です。

その後、アメリカの研究者から研究報告が発表されました。
日本のワクチン定期接種期の超過死亡と、
日本のワクチン任意接種期の超過死亡を比較したのです。
もちろん、任意接種期は接種率が大きく低下していました。

すると、高齢者の超過死亡がワクチン定期接種期は低くなっていたことが判明しました。
つまり、子どもを中心とするワクチンの集団免疫により、
高齢者の命が守られていたのです。

この論文をこちらの記事で扱っていたので、一部を抜粋します;

 かつてインフルエンザワクチンも罪悪視され根強い市民運動による反対の時代がありました。小生自身もそう思い患者さんにワクチン接種を勧めることはありませんでした。これがどのような結果を招いたか2001年のN Engl J Medに下記の米国の論文が掲載されました。原著論文(original article)で小生にとって人生最大の衝撃だったのがこの論文です。


 かつて日本国内ではインフルエンザに対し小中学校でのワクチン接種が1987年まで義務となっていました。しかし副作用事例にマスコミや市民が過剰反応し、それ以降は任意接種となりました。厚生労働技官も人の子ですから批判に耐えられなかったのでしょう。
 小生もインフルエンザワクチン接種は意味がないと思い込み患者さんに勧めることはありませんでした。日本の多くの医師も同様だったと思います。
 これがどのような恐るべき結果を引き起こしたか、なんと米国の研究者によって発表されたのが上記の論文なのです。日本の厚労省の死亡統計を詳しく調べ上げて書かれた論文で「民主主義が常に正しいとは限らない」ということを小生痛感しました。
 この論文の要点は次の3点です。

・ 日本では1962年から1987年まで小中学校でのインフルエンザワクチン接種が義務だった。
・ 1987年の中止により、日本の全死亡率および高齢者の肺炎死亡率が上昇した。
・ ワクチン強制接種はherd immunity(集団免疫)により、老人の死亡率を抑制していた。

 私たちがインフルエンザワクチンを小中学生にしなかったことにより集団免疫が起こらず多くの高齢者を死に追いやっていたのです。2001年にこのN Engl J Medの論文を読んだとき、小生これは国内で大問題になると思いました。しかしこの論文はマスコミからは完全に黙殺され話題になることはありませんでした。自分たちが音頭を取ったことの結末にマスコミは責任を取らなかったのです。このとき以来小生、日本のマスコミが信じられないのです。ニュースで疑問があるときは必ずBBC、CNN、France2などを確認しております。

私もこの記事を書いた医師同様、マスコミを信用しなくなりました。
読者の不安を煽る内容の方が発行部数が伸びるので、
ワクチンの効果を報道せず、副反応だけ強調して報道するのです。
医療界ではマスコミのことを“マスゴミ”と揶揄して呼んでいます。

近年では、HPVワクチン報道もありました。
副反応を強調して報道し、HPVワクチンは「積極的勧奨中止」に追い込まれました。
上記記事の中にこのような文言があります;

子宮頚がんワクチン反対運動によりこの10年で、
国内で子宮頸がんに10万人以上が罹患し、
3万人が無駄に亡くなったことになります。

この責任はマスコミに一部あることは明らかでしょう。
本来なら刑事告発されてもおかしくない、そう思います。

現在、ワクチンの効果を報道する際には、副反応も同時に報道する義務があるそうです。
賛成意見と反対意見を両方扱わなくてはいけないらしい。
ん、ワクチン副反応報道の際、ワクチンの効果をキチンと報道していたのですか?



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ついに登場する“日本製”新型コロナワクチン「ダイチロナ®」(第一三共製薬)

2023年08月12日 06時13分45秒 | 予防接種
先日、新型コロナワクチンを接種してきました。
これで5回目です(すべてファイザー社製)。
今回は「医療関係者枠」としての接種です。

翌日朝、接種した腕の重痛さと悪寒で目が覚めました。
「やばい、熱が上がるのかな?」
と心配しましたが、36℃台後半にとどまり、
悪寒も午前中のうちに消えて、そのまま普通に診療できました。

さて、現時点での新型コロナワクチン、
以前より接種するモチベーションが下がりまくっています。
どう考えるべきでしょうか?

ひとつの答えは、
「接種しないと重症化リスクが高い人は接種すべし」
もっと極端に言うと、
「接種しないと死んでしまう高齢者は接種すべし」
というもの。

小児はどうでしょうか。
「子どもは罹っても軽症で済む」
ことはもはや常識になっています。
しかし、季節性インフルエンザよりは死亡者が多いという報告もあります。

「季節性インフルエンザに罹りたくなくて予防接種をする」
という考えの人は、それより危険な、
「新型コロナワクチンを接種する」
選択はありでしょう。

さて、新型コロナは変異し続けています。
前項で扱ったように、
日本ではオミクロン株系統のXBB株が多いのですが、
アメリカ、イギリス、中国では、
XBB株の変異株であるEG.5株が主流になりつつあります。

新たな変異株が出現するたびに、
「現行ワクチン、新しい変異株に効くの?」
という素朴な疑問が生まれます。

今のところ、発症阻止率は当初よりだいぶ低くなりましたが、
重症化予防率はそれなりに維持されているようです。
私の最近のワクチン効果のイメージは、
・発症阻止率:接種後は7割に一過性に上昇するが、数か月後には5割以下になる。
・重症化予防率:7割に上昇し、接種後半年くらい持続する
です。

さて、変異株が出現すると、それに対応するワクチンが迅速に作ることができるのがmRNAワクチンの特徴です。
現在、ファイザーとモデルナ社がXBB株対応ワクチンを作り、
アメリカで認可されました。
秋には日本にも入ってきます。

そんな事情を扱った、開業医のメルマガから情報を抜粋させていただきます。

▢ 谷口恭の「その質問にホンネで答えます」2023.8.7【Vol.116】 
 新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)のワクチンがまたややこしくなってきています。
 結論から言えば、
・ 第一三共が開発したmRNA型ワクチン「ダイチロナ」は厚労省が販売を承認した。
・ 塩野義製薬が開発した「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」は継続審議となった(販売が認められなかった)

となります。
 コロナワクチンについては本メルマガでも繰り返し取り上げていますが、ここでもう一度現時点で分かっていることを復習しておきましょう。比較的新しく、それなりの規模のものでエビデンスレベルが高い研究は過去にも紹介した米国退役軍人を対象とした医学誌「British Medical Journal」に掲載された論文です。
ポイントを振り返っておくと次のようになります。
・デルタ株の頃に比べオミクロン株に対しては効果は堕ちているが、mRNA型ワクチンは依然有効。
・モデルナ社製の方がファイザー社製のものよりも入院率を下げるという意味で効果が高い。

・(mRNA型ワクチンでなく)ウイルスベクターワクチンは効果が低い。
 mRNA型ワクチンは歴史が浅く、副作用については充分に検討されているとは言えず、そういう意味では「リスクが高い」のですが、コロナに関して言えば有効性が他の種類のワクチンより高いのも事実です。ただし、これは全体でみたときの話であり、個人レベルの話になれば個別に検討せねばなりません。
 mRNA型ワクチンの長所として「すぐに新しいタイプの製造ができる」という点が挙げられます。従来のワクチンがオミクロンには効果が乏しいことが分かればすぐにオミクロン対応型ワクチン(BA.1対応型及びBA.4-5対応型)が開発されました。
・・・
 そして、BA.1またはBA.4-5型では現在流行しているXBB型には効果が乏しいことが分かったわけですが、するとすぐにファイザー社もモデルナ社もXBB対応型の1価ワクチンを開発しました。すでに日本政府は両社から購入することを決定しています。
 新しいウイルスの型が流行し、それに対応できるワクチンが開発され、そして日本政府は迅速に購入を決めたわけです。
・・・
 さて、ここで話を第一三共のダイチロナの話にうつしましょう。このワクチン、僕はてっきり現在流行しているXBB型にも対応しているのかと思いきや、まったくそういうわけではなく、なんと武漢株(起源株)用のワクチンだといいます。
 はっきり言ってこんなワクチン、使い物になりません。いったい誰が好き好んで3年前に流行した型のワクチンをうちたがるのでしょう。
・・・
 谷口医院ではコロナ重症化リスクのある人に対してはこの秋のワクチンの話をしますが、接種するならモデルナかファイザーのXBB対応型のタイプを推薦します。”愛国派”の人たちには申し訳ないですが、第一三共のワクチンは現時点では意味がありません。
 では塩野義製薬のワクチンはどうでしょうか。残念ながらこちらは継続審議(現時点では販売が許可されない)となりましたが、安全性を証明できれば将来性はあると思います。現在mRNA型ワクチンについては「安全だ」とは言い切れないと僕は思っています。接種する際には「ベネフィットがリスクを上回っている」ときだけにすべきです。
 つまり「mRNA型ワクチンの安全性はよく分からないけれど、それでも接種しなければ重症化して死んでしまうかもしれない」という人(あるいはその家族)が検討すべきワクチンです。
 他方、塩野義の「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」についてはまだよく分かっておらず(米国ノババックス社製と同じタイプ)、もしかすると将来「mRNA型ワクチンよりも安全」で、なおかつ効果もそれなりにあることが証明されるかもしれません。そういう意味で期待はしたいですが、安全性・有効性がはっきりするのは当分先になるでしょう。
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代理母出産の今(2023年8月)

2023年08月12日 04時37分29秒 | 医療問題
代理母出産…日本ではあまり肯定的に語られませんが、
世界を見渡すとビジネスとして成り立っています。

実は知り合いの女性が、ウクライナで代理母出産を経験した話を聞きました。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まる直前にウクライナ入りし、
赤ちゃんを受け取ったタイミングで侵攻が始まり、
命からがら逃げてきた、という驚くべきストーリーでした。

それ以来、
「代理母出産、日本の状況・世界の状況はどうなっているんだろう?」
という素朴な疑問を持ち続けてきました。

世界の現状を伝える記事が目に留まりましたので、紹介します。

<ポイント>
・代理母出産は急速に増えている。
・増加の背景には、非伝統的な家族形態に対する社会の見方の変化や医療技術の進歩がある。不妊症の広がりや子どもをもちたい同性カップルの増加し、それに加えて、著名人らの支持や専門病院の増加のおかげで生殖の選択肢としての認知度が高まってきたことが背景にある。
・代理母出産には2種類ある;
1.妊娠代理出産(ホストマザー)…体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して妊娠・出産する。
2.伝統的代理出産(サロゲートマザー)…代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産する。
・費用は国により異なるが、500万円~1000万円(~2000万円)が多い。
・代理母出産の利用を公表した有名人;クリッシー・テイゲン(モデル)、のエリザベス・バンクス(女優)、アンダーソン・クーパー(ジャーナリスト)、パリス・ヒルトン、カーター・リウム、クリスティアーノ・ロナウド(サッカー選手)、キャメロン・ディアス(女優)
・世界各国の状況:
(アメリカ)1970年代からビジネスモデルが始まったが、代理出産産業は厳しく規制され、ネブラスカ州やルイジアナ州、ミシガン州など、代理出産を違法としている州もいくつかある。ニューヨーク州では2021年2月に発効した法律で合法化されたばかり。
(イギリス)代理母がボランティアの場合のみ代理出産が認められており、報酬をともなう代理出産は違法になる。
(カナダ)同上。
(ウクライナ)昨年2月にロシアの侵攻を受ける前まで、米国に次いで世界で2番目に大きい代理出産市場だった。侵攻以降は、ジョージア(グルジア)とキプロスが需要を吸収し、一部はメキシコを中心とした中南米が吸収している。
・代理母になりたい人と代理母を探している人の出会いを支援するオンラインサービスも登場している。

う~ん、もはやこの勢いは止められない感じですね。
倫理的な判断は保留のまま…。

▢ 代理出産が世界的ブームに セレブも続々利用、市場規模2032年に10倍へ
Mary Whitfill Roeloffs | Forbes Staff
2023.07.22:Forbes Japan)より抜粋;
商業的な代理出産が世界的なブームの様相を呈している。米調査会社グローバル・マーケット・インサイツによると、市場規模は2032年に1290億ドル(約18兆円)と2022年比で10倍近くに膨らむ見通しだ。不妊症の広がりや子どもをもちたい同性カップルの増加のほか、著名人らの支持や専門病院の増加のおかげで生殖の選択肢としての認知度が高まってきたことが背景にある
女性にお金を払って自分の子どもを産んでもらう代理出産をめぐっては、裕福な人らによる女性の搾取につながるという倫理的な懸念もある。
・・・
インドの調査会社IMARCは代理出産が広がっている理由として、医療技術の進歩や非伝統的な家族形態に対する社会の見方の変化を挙げている。
・・・
◆ 費用はいくらかかる?
代理出産には、体外受精した受精卵を代理母の子宮に移植して妊娠・出産する「妊娠代理出産(ホストマザー)」と、代理母の子宮に人工授精で精子を注入して妊娠・出産する「伝統的代理出産(サロゲートマザー)」の2種類がある。
ニューヨーク州保健局によると、米国でホストマザーを利用する場合、弁護士費用や医療費、仲介業者への手数料、代理母への報酬などを合わせて6万〜15万ドル(約840万〜2100万円)かかるという。CNBCによると、費用はジョージアでは4万〜5万ドル(約560万〜700万円)、メキシコでは6万〜7万ドル(約840万〜980万円)程度とされる。
・・・
◆ 各国の状況は?
米国では1976年に初めて合法的な代理出産契約が結ばれたとされ、1980年に合法的に報酬が支払われた初の代理出産が行われた。ワシントン・ポストによると、1983年時点で代理出産は儲かるビジネスになっており、国内に10の仲介業者が存在していた。費用は2万〜4万5000ドルほどだったという。
グローバル・マーケット・インサイツによると、不妊治療の進歩、子どもをもつ年齢の高齢化、非伝統的な家族の増加などを背景に代理出産産業は成長を続けている。
米国の代理出産産業は厳しく規制され、ネブラスカ州やルイジアナ州、ミシガン州など、代理出産を違法としている州もいくつかある。ニューヨーク州では2021年2月に発効した法律で合法化されたばかりだ。カナダと英国では代理母がボランティアの場合のみ代理出産が認められており、報酬をともなう代理出産は違法になる。
ウクライナは昨年2月にロシアの侵攻を受ける前まで、米国に次いで世界で2番目に大きい代理出産市場だった。ニューヨーク・タイムズは、ロシアの脅威が現実のものになるなか、妊婦たちが転居を余儀なくされたり、外国の夫婦が代理母と会って赤ちゃんの安全を確保するため、危険を冒して紛争地に入ったりしていると昨年5月の記事で伝えている。
CNBCによると、以降は主にジョージアとキプロスが需要を吸収しているという。一部の需要はメキシコをはじめとする中南米にも流れているとみられ、メキシコのリゾート地カンクンの業者は、ウクライナでの戦争の影響で昨年の代理出産契約数は前年比20〜30%増えたと話している。
代理母になりたい人と代理母を探している人の出会いを支援するオンラインサービスも登場している。昨年、不妊治療を専門とする医師のブライアン・レビンと元代理母のブリアンナ・バックが立ち上げたマッチングアプリ「Nodal」は、マッチングプロセスに代理母側がもっと主体的に関われるようにするもので、代理母を探している家族に代理母が直接連絡をとることができる。



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HPVワクチンの最新情報(2023年5月)

2023年08月11日 21時31分40秒 | 予防接種
HPVワクチンの積極的勧奨が復活し、
当院にも少しずつ接種希望者が来院されるようになりました。

「いろいろ話題になったワクチンですが、疑問・質問がありましたらどうぞ」
と接種前に本人と家族に聞くのですが、おしなべて
「特にありません」
「大丈夫です」
という返答です。
あれだけ騒いだのに、ホント、“喉元過ぎれば熱さを忘れる”ですねえ。

ワクチン反対運動の影響も検証する必要があります。
「ワクチン反対運動によりこの10年で、
 国内で子宮頸がんに10万人以上が罹患し、
 3万人が無駄に亡くなった」
とのことです。

さて、この辺であらためてHPVワクチンの知識を整理しておこうと思ったところ、
ちょうどよい総説が目に留まりましたので、引用させていただきます。

私にとって新しい情報として、
「HPVワクチン接種回数の減少」
があります。
日本では従来、3回接種が基本でしたが、
2023年4月から「シルガード9」が使用可能となった時点で、
条件付きで「2回接種」でもOKになりました。

世界の趨勢は「1回接種」でもOKという流れになっているようです。
まあ、HPVワクチンは高価なので、
経済的な事情も絡んでいるものと思われます。

▢ NEJM総説:子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)
 西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2023年06月25日:Medical Tribune)より一部抜粋;
N Engl J Med(2023 May 11; 388: 1790-1798)にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン総説がありました。著者はアトランタにある米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)の医師たちです。 国内ではHPVワクチン接種は反対運動によりこの10年、極めて低調でしたが2~3年前からようやく上昇に転じました。この総説で小生一番驚いたのは「子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPV(Human Papilloma virus)である」という点です。ワクチンの安全性は極めて高く1億3,500万回投与で時に失神、まれにアレルギー程度でした。その効果は圧倒的でHPV感染を8割以上減少させました。肛門会陰がんに至ってはなんと100%予防可能でなんとしても推奨したいワクチンです。国内では女性にしか接種していませんが米国では2011年から男子にも接種しています。
 N Engl J Med「HPVワクチン」総説の最重要点は以下の8点です。
  1. 子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPVである。呼吸器乳頭腫、口部咽頭がんも起こす。
  2. HPVワクチンの安全性は高い。2021年、1億3,500万回投与で時に失神、まれにアレルギー。
  3. 性器HPV感染は子宮頸がんスクリーニングでの細胞診+HPVテストで判明。21歳未満は検診しない。
  4. HPVワクチンは2016年から米国ではGardasil 9のみ。国内も2023年4月よりこれを使用。
  5. 接種12年でHPV感染は14~19歳で88%、20~24歳で81%減。肛門会陰がん100%予防。
  6. 国内対象は小学6年から高校1年女性。1997~2007年出生者も。米国では男子にも。
  7. 実は単回投与でも長期有効で単回投与の国が増加。HPV既感染には無効。
  8. HPV既感染者でもワクチン接種でその他の種類のHPVを予防できる。

1. 子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPVである。呼吸器乳頭腫、口部咽頭がんも起こす。
・・・
 世界で一番寿命が短い国は、アフリカ南部のレソトで平均寿命は50.7歳です。世界全体の平均寿命は73.3歳、日本は2021年に男性81.5歳、女性86.9歳です。・・・
 HPV性器感染は米国で最も多い性疾患です。感染は子宮頸部の上皮組織に始まり、性活動により感染します。たいてい感染に気付かず9割は1~2年内に治癒するか、または気付かなくなります。HPV感染は普通無症状であり、その治療法はありません。
 肛門性器疣贅(anogenital warts)は扁平、丘疹またはカリフラワー状に発育し視診で診断されます。・・・再発性呼吸器乳頭腫症(recurrent respiratory papillomatosis)は小生、今回初めて知りました。・・・咽頭、声門に発育し、嗄声、stridorで発症します。嗄声の原因でこんなものも考えるとは知りませんでした。性器HPV感染は子宮頸がんスクリーニングでの細胞診+HPV testで判明します。
 HPVのタイプによっては持続感染し子宮頸がん(HPV原因が91%)や腟(75%)、大陰唇(69%)、ペニス(63%)、肛門(91%)などの肛門性器がん(anogenital cancers)やさらには口腔咽頭(oropharynx)がん(70%)を起こします。最初の感染は初体験の年齢でしばしば始まりますが、子宮頸がんは感染後数十年を経過して発症します。
 HPVは200以上の種類があり約40種類が粘膜上皮に感染します。12種類は発がん性(oncogenic)または高リスク、8~12種類がおそらく発がん性と思われます。
 HPV16が最もがんの高リスクです。大変驚いたのは子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPVだというのです。今まで小生HPVが原因となるのは子宮頸がんの部分集合だと思っておりました。世界でHPV16と18が子宮頸がんの約70%を占めます。またHPV6と11は肛門会陰部のwartsと再発性呼吸器乳頭腫症の全ての原因ですが、ただしそこでの発ガン性はありません。
 米国で2016~19年にHPV由来のがんは3万7,300例でした。米国でHPV由来で最も多いがんは子宮頸がんであり年間1万1,100例、口腔咽頭がんはほとんどが男性で1万4,800例です。現在米国で一番多いHPV由来病変は口腔咽頭がん(HPV-16)なのです。米国で過去数十年で子宮頸がんは減少してますが、口腔咽頭がんは増加しているのです。米国で子宮頸がんは特に黒人とヒスパニック系女性に多く、一方、口腔咽頭がんは白人男性に多いとのことです。
 世界で毎年69万例のがんがHPV由来であり、子宮頸部がんが一番多く特に子宮頸がん検診が一般化していない中・後進国に多いとのことです。
 まとめますと、子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPVです。呼吸器乳頭腫症で嗄声、口腔咽頭がんも起こし、現在米国で一番多いHVP由来がんは口腔咽頭がんです。

2. HPVワクチンの安全性は高い。2021年、1億3,500万回投与で時に失神、まれにアレルギー。
 HPVワクチン15年の経験では安全性は極めて高く、2021年米国で1億3,500万回投与されましたが、副作用は他のワクチンの接種でもよくあるような失神程度(血管迷走神経失神でしょうか)でまれにアレルギー反応があります。大規模調査で、死亡、自己免疫疾患、神経学的合併症はありませんでした
 国内ではHPVワクチン接種は2013(平成25)年4月の定期接種開始後、HPVワクチン反対の市民運動でほぼ休止状態となりました。数年前までは西伊豆町役場でHPVワクチンを申し込むと「えっ!本当にやるんですか?」と聞き直される始末でした。
 しかし下記の厚生労働省のサイトによると2020(令和2)年ごろからようやくHPVワクチン接種者が増加し始めました。今後急速に子宮頸がんは減少していくでしょう。
 現在、国内の子宮頸がん罹患者は毎年約1万1,000人、死亡者は3,000人です。2022年の交通事故の死者数が2,610人ですから、それよりも多いのです。この総説によると、なんと子宮頸がんのほぼ全ての原因はHPVだそうですから、ワクチン反対運動によりこの10年で、国内で子宮頸がんに10万人以上が罹患し、3万人が無駄に亡くなったことになります。
・・・
 まとめますとHPVワクチンの安全性は極めて高く、米国で2021年、1億3,500万回投与で時に失神、まれにアレルギーが起こる程度でした。

3. 性器HPV感染は頸がんスクリーニングでの細胞診+HPVテストで判明。21歳未満は検診しない。
 子宮頸がん検診は21歳未満では行わないことがコンセンサスです。25歳まで遅らせることもあります。
 性器HPV感染は子宮頸がんスクリーニングでの細胞診+HPV testで判明します。子宮頸がん検診はHPV検査単独法と、細胞診・HPV検査併用法があるようです。子宮頸がんの原因はHPVがその原因のほぼ全てですから「擦過細胞診」でなく「HPV検査単独法」でもよいのでしょう。
 ただし「HPV検査単独法」は厚生労働科学研究において運用方法の検討が続いていることから、現時点において検診として位置付けられていません。細胞診で異常があったらHPV検査も行うようです。
 まとめますと、性器HPV感染は頸がんスクリーニングでの細胞診+HPVテストで判明します。現在HPVテスト単独法は検診として位置付けられていません。

4.HPVワクチンは2016年から米国ではGardasil 9のみ。国内も2023年4月よりこれを使用。
 HPVワクチンの歴史は2006年に4価ワクチンGardasil(Merck社)が発売され、HPV16、18、6、11の4種類に対応していました。2009年には2価ワクチンCervarix(GlaxoSmith-Kline Biologicals社)、HPV16、HPV18に対応しました。
・・・
 Merck社は2014年にGardasil 9を発売しHPV16、18、6、11に加えて31、33、45、52、58を追加、これによりHPV関連がんの90%に対応できるようになりました。2016年からは米国市場で出回っているのはGardasil 9(国内:シルガード9)のみとのことです。日本国内でも2023年4月から国内ではこの9価ワクチンが定期接種(公費)となりました。
 まとめますと、HPVワクチンは2016年から米国ではGardasil 9(国内:シルガード9)のみです。国内も2023年4月よりこれを使用することになりました。

5.接種12年でHPV感染は14~19歳で88%、20~24歳で81%減少。肛門会陰がん100%予防。
 HPVワクチン接種の効果は圧倒的でした。ワクチンによる抗体量は自然感染に比べて高いのです。2006年の接種開始からわずか4年で14歳から19歳の女性でHPV関連性器感染は56%減少しました。さらに接種開始12年でHPV感染は14歳から19歳で実に88%減少、20歳から24歳で81%減少しました。また肛門会陰疣贅、再発性呼吸器乳頭腫症も減少しました。4価ワクチンは肛門会陰部がんをなんと100%予防します。
 これらの劇的効果はワクチンプログラムによる集団免疫(herd immunity)によると思われます。
 2008~09年と、2015~16年の比較でHPV16、18由来の子宮頸部前がんは20歳から24歳で77%減少したのです。15歳から26歳でワクチンは子宮頸部前がん(cervical precancers:表皮内前がん≧2またはadenocarcinoma in situ)を最低96%予防できます。
 まとめますと、接種12年でHPV感染は14~19歳で88%、20~24歳で81%減肛門会陰がん100%予防と圧倒的効果があります。

6.国内対象は小学6年から高校1年女性。1997~2007出生者も。米国では男子にも。
 国内ではHPVワクチン接種は小学校6年から高校1年の女性が対象です。
 日本国内でも2023年4月から、この9価ワクチン(シルガード9)が定期接種(公費)となりました。
 以前の2価ワクチン(サーバリックス)は3回接種(0、1、 6カ月後)、4価ワクチン(ガーダシル)も3回接種(0、2、6カ月後)でした。 
 2023 年 4 月からの 9 価ワクチンの「シルガード 9」は、1 回目を小学校 6 年生から 15 歳 誕生日前日までに受けた場合は 2回接種(0カ月、6 カ月)で完了、1 回目と 2 回目の 接種は少なくとも 5 カ月以上あけ、5 カ月未満の場合、3 回目の接種が必要です。 接種を 15 歳になってから受ける場合は 3 回接種(0 カ月、2 カ月、 6 カ月後)します。2 回目、3 回目がそれぞれ 1 回目の 2 か月後と 6 か月後にできない場合、2 回目は 1 回目から1 カ月以上、3 回目は 2 回目から 3 カ月以上あけます。 つまり 15 歳未満の場合は初回接種のあと 6 カ月後に 2 回接種。15 歳以上の場合は 3 回です。
 なお平成9年から平成18年(1997年4月2日から2007年4月1日)生まれの女性、つまり令和5(2023)年現在で16歳から26歳の女性で、反対運動により接種を受けられなかった場合、公費でHPVワクチンを受けられます。
 ただしこのキャッチアップ接種の期間は令和4(2022)年4月1日から令和7(2025)年3月31日までの3年間です。
 ワクチン接種による有効性は長く、4価ワクチンで5年後の予防効果減少はありませんでした。米国では2006年から11歳または12歳以上のHPV接種がルーチンに行われており9歳からでも可能です。ワクチンは9歳から15歳での抗原性も高かったのです。また2011年からは男子にも行われるようになり米国で2021年、女子の79%、男性の75%が最低1回の接種を受けています
 現在までの米国での接種率は女性64%、男性60%です。
 また以前接種を受けていない場合、キャッチアップとして26歳まで接種が推奨されています。理想的には性活動が始まる以前の接種が推奨です。
 2019年には27歳から45歳にも9価ワクチンが米食品医薬品局(FDA)により推奨されました。ただ2019年からの新型コロナウイルス感染症の流行で接種率は低下しています。
 まとめますと、国内で接種対象は小学6年から高校1年女性ですが、2023年4月よりシルガード(9価)が公費接種となり15歳未満は2回接種(0、1~2カ月後)、15歳以上は3回接種(0、1~2、6カ月後)です。1997~2007出生者で未接種の場合もキャッチアップ接種が可能です。ただし令和4(2022)年4月1日から令和7(2025)年3月31日までの3年間です。米国では男子にも行われています。

7.実は単回投与でも長期有効で単回投与の国が増加。HPV既感染には無効。
 HPVワクチンは当初3回投与でしたが効果が長期継続することから、より少ない投与数が検討されました。単回投与では抗体量は低いのですが予防効果は10年以上続きました
 1つのトライアルでは2価または9価ワクチンの単回投与は2、3回投与に対して非劣性(non inferior)でした。9価ワクチン単回または2価ワクチン単回投与は18カ月のフォローでHPV16、18に対する予防効果は97.5%でした。
 単回投与の効果にエビデンスがあることから2022年WHOは年齢によっては単回投与の選択肢も推奨し、単回投与する国々が増加しているとのことです。
 なおワクチン接種時、既に存在するHPV感染には効果がありません。
 なおHIV感染があるとHPV接種による抗体上昇は少ないようです。しかし16歳から26歳のHIVのMSM(men who have sex with men)で肛門扁平上皮病変はHPV接種を受けた者で高い効果を示しました。
 米国では現在HPV由来のがんは口腔咽頭がんが最多でありHPV16によります。このがんに対するRCT(ランダム化比較試験)はまだありませんがFDAは2020年、今後研究を継続する条件で、口腔咽頭がんに対するHPVワクチンを認可しました
 まとめますと、HPVワクチンは、実は単回投与でも長期有効で単回投与の国が増加しています。HPV既感染者には無効です。

8.HPV既感染者でもワクチン接種でその他の種類のHPVを予防できる。
 この総説には次のような冒頭症例があります。さて、あなたならどうする?
「24歳女性。過去HPVワクチン接種歴なし。18歳で性活動(sexual activity)を初体験、過去3人の男性パートナーがいる。HPVワクチンをどうするか?」
 筆者の回答は次の通りです。
「この患者はHPV接種を受けておらず24歳なのでキャッチアップ接種3回投与を推奨する。以前接種していない場合は26歳まで、また27歳から45歳でもキャッチアップ接種(catch-up vaccination)を推奨する。既にHPV感染していたとしても、ワクチン接種によりその他の種類のHPVを予防できる。子宮頸がんのスクリーニングは不要」
 まとめますと、HPV既感染者でもワクチン接種でその他の種類のHPVを予防できます。
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男性にもHPVワクチンを!

2023年08月11日 21時13分10秒 | 予防接種
HPVワクチンは名前から何の病気を予防するのかイメージしにくいため、
従来は「子宮頚がんワクチン」と呼ばれてきました。
ようやく最近、HPVワクチンと言っても通じるようになりました。

さて、HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉を介して女性に感染します。
つまり、男性が持っているわけですね。

では、男性には病気を引き起こさないのでしょうか?
そんなことはありません。
男性もHPV感染を契機に、中咽頭を中心に種々の癌を発症します;

・子宮頸がん(HPV原因が91%)
・腟(75%)
・大陰唇(69%)
・ペニス(63%)
・肛門(91%)などの肛門性器がん(anogenital cancers)
・口腔咽頭(oropharynx)がん(70%)

ただ、圧倒的に女性の子宮頚がんが多いので、
今まで注目されてきませんでした。

しかし世界を見渡すと、
HPVワクチン接種率を80%以上維持している国々は、
すでに「21世紀のうちに子宮頚がんは撲滅できる」と考え、
次の一手を開始しています。

そう、男性への接種です。

なぜ日本では盛り上がらないのでしょう?
それは“国民が無知だから”です。

女性対象にHPVワクチンを開始する際も、
啓蒙活動が後手に回ったため、
「子宮頚がんを減らす」というありがたい効果は軽んじられ、
副反応ばかりが話題になり、一旦中止に追い込まれました。

男性を対象に「HPVワクチンを接種しましょう」と呼びかけても、
「ん、何それ?」
ですよね。

でも、機は熟しました。
日本でも男性対象にHPVワクチン、接種しましょう!

そんな内容を扱った記事を紹介します。

▢ 中咽頭がん予防、男性にもHPVワクチンを
 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸がんだけでなく中咽頭がんの原因にもなる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会神奈川県地方部会、神奈川産科婦人科学会、日本小児科学会神奈川県地方会は、7月13日にHPVワクチンによるがん予防をテーマに関連3学会ジョイントセミナーを開催。その中で、…「HPV関連中咽頭がんの予防には男性へのHPVワクチン接種が重要だ」と訴えた。
◆ 40歳代から増加、60歳代でピークに。男性は女性の4倍
 中咽頭がんの原因としては喫煙・飲酒、HPV感染があり、HPVによって引き起こされる中咽頭がんは全体の約半数を占める男女比は4:1と男性に多い出現部位は、口蓋扁桃と舌根に特異的で、HPV16型が88%と高率である。
 HPV関連中咽頭がんの発症年齢を見ると、40歳代から増え始め、60歳代でピークを迎える。非HPV関連中咽頭がんの発症ピークが70歳代であるのに対し、やや若年で発症する傾向が見られる。
 山下氏は「HPV関連中咽頭がんの発症は、生産年齢人口と重なることが大きな問題だ」と指摘する。
◆ HPV関連中咽頭がんが世界で急増、日本は20年で約3倍
 米国では、子宮頸がんの年齢調整罹患率が1975年と比べ2019年に半減。その一方で、中咽頭がんに関しては、女性ではほぼ横ばいだが、男性では1995年を境に急増し、2019年には1975年の2.2倍となった。
 日本の状況を見ると、中咽頭がんの罹患率は男女ともこの20年で約3倍と急増。
・・・
 各国の中咽頭がん罹患率を示したデータからは、先進国で罹患率が高い傾向がうかがわれる。この点について、山下氏は「今後、HPV関連がんの問題は、子宮頸がんから中咽頭がんに移行していく可能性がある」と危惧する。
◆ 中咽頭がんでは検診が確立していない
 HPV関連がんの予防戦略として、
①教育と啓発
②HPVワクチン接種(一次予防)
③検診(二次予防)
―を三位一体で進めていくことが重要とされている。しかし、中咽頭がんでは、初期変化が陰窩と呼ばれるくぼみ部分の基底細胞で起こるため偽陰性になりやすく、前がん病変の概念が確立されていないといった事情から、子宮頸がんとは異なり検診という手立てを講じることができない。したがって、予防はワクチン接種に頼らざるをえない。
 山下氏は「男性を含めたワクチン接種により、HPV関連中咽頭がんを予防することが非常に重要だ」との考えを示した。
◆ 男性で高い口腔内HPV保有率
 折舘氏は、男性へのHPVワクチン接種の現状と将来展望について講演。男性へのHPVワクチン接種の根拠となる海外データを紹介した。
 米国民保健栄養調査(NHANES)によると、18~69歳の成人における口腔内HPV保有率は、2011~14年には女性の3.3%に対し男性では11.5%と高かった。同様に、HPV高リスク型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68型)の保有率も、女性の1.2%に対し男性では6.8%と高かった。
 「口腔内HPV保有率が男性で高いとの結果は、中咽頭がんが女性に少なく、男性に多いことの説明になる」と同氏。
◆ ワクチン接種で、HPV16型の口腔内感染リスクが有意に80%低下
 HPVワクチンの接種により中咽頭がんは予防できるのか。現時点で、頭頸部がんの発症予防または再発予防における4価/9価HPVワクチンの有効性と安全性を評価した臨床研究データはないという。しかし、疫学研究ではHPVワクチン接種と口腔内HPV保有率との間に負の相関が示されている。
 折舘氏は、欧州で行われたHPVワクチン接種とHPV口腔内感染率との関連を検討したシステマチックレビューおよびメタ解析の結果を報告。関連研究6件(8~53歳の男性1万5,250例)の解析では、HPVワクチン接種によりHPVワクチンがカバーする型の口腔内感染リスクが46%有意に低下することが示された〔リスク比(RR)0.54、95%CI 0.32~0.91、P=0.02〕。また、4件(1万3,285例)に絞ったメタ解析では、HPV16型の口腔内感染リスクが有意に80%低下することが示された(同0.20、0.09~0.43、P<0.0001)。
 同氏は「男性へのHPVワクチン接種により、中咽頭がんの発症に関与しうるHPV16型を含むワクチン型の口腔内感染を予防できる」と述べた。
◆ 2100年までに推計で男性約79万例が中咽頭がんを回避
 では、HPVワクチン接種で、中咽頭がんはどの程度予防できるのか。折舘氏は、HPVワクチン接種の長期的影響をシミュレーションした数理モデルを紹介した。
 米国におけるHPVワクチン接種率は、2019年には女性で61.4%、男性で56.0%。この接種率が維持された場合、男性の中咽頭がんは2030年代半ばごろにピークを迎えた後、減少に転じ、2100年には10万例当たり4例にまで減少することが見込まれるという。その間に回避できる男性の中咽頭がんは約79万例に上ると推計される。
・・・
 同氏は「HPV関連中咽頭がんは男性に多いため、HPVワクチン接種は男性においても重要な意味を持つ」と強調し、講演を終えた。

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新型コロナは終わらない~新たな変異株、その名は「EG.5」

2023年08月11日 11時30分03秒 | 予防接種
新型コロナは2023年5月8日以降に発生数が漸増しており、
「すでに第9波に入っている」
という指摘もあります。
ちなみに、日本での現在流行している株(2023年7月)は以下の通り;
 ▼XBB.1.9系統 37%
 ▼XBB.1.16系統 36%
 ▼XBB.2.3系統 15%

そんな中、海外から新たな変異株の報告が飛び込んできました。
その名は「EG.5」というXBB株から派生したもの。
アメリカではすでにメインとなっており、
17%がこの株とのこと。
他にもイギリス、中国、そして日本でも広まっているそうです。

幸いなことにEG.5株は重症化リスクは高くなく、
しかし感染力が強いため広がりやすく、
WHOは「VUM=監視下の変異ウイルス」に指定して、
注意深い監視が必要と提言しています。

また、XBB株由来であれば、
現在のオミクロン株用ワクチンがある程度有効であることが期待されます。

▢ 新コロナ変異株「EG.5」、米国で主流に
2023.8.10:CNN.co.jp)より抜粋;
米国で新型コロナウイルスの新たな変異株「EG.5」が主流になっている。米疾病対策センター(CDC)の最新の推計によると、全米の新型コロナ感染者の約17%がEG.5で、次いで「XBB.1.16」が16%となっている。
EG.5はオミクロン株の一種であるXBBの派生型。元々のオミクロン株のように大きく変異したものではなく、ウイルスが少しずつ変異したもの。EG.5にはEG.5.1という派生型があり、こちらも急速に広がっている。

人間が持つ抗体に対する派生型の抵抗力を研究している米コロンビア大学のデビッド・ホー博士は、EG.5などの変異株はこれまでのウイルスと異なる症状、あるいは重篤な症状を引き起こしていないようだと指摘する。

EG.5は米国だけでなく、アイルランドやフランス、英国、日本、中国でも急速に広まっている。世界保健機関(WHO)は9日、EG.5のステータスを「監視中」から「注目すべき変異株」に引き上げた。・・・





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