小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

偏食外来(見習い)

2025年01月05日 15時01分07秒 | 乳幼児検診
神奈川県立子ども医療センターでは偏食外来(担当:大山牧子Dr.)を開設しています。
どんな診療をしているのか、大いに興味があります。
大山先生のレクチャーをWEB上で見つけ、視聴してみました。

初診で45分、再診で30分を書け、じっくり診療しているそうです。
これは病院だからできることで、開業小児科の当院ではとてもそんなに時間をかけられません。
また、多職種でチーム医療をしていることも特徴で、これも開業医では無理です。

そして相談内容は“好き嫌い”レベルではなく、
より広い“食べない・食べてくれない”という食事拒否レベルであることがわかりました。
世界的には「摂食障害」と定義されており、
好き嫌い・偏食のイメージより、病的状態です。

開業医でどこまでできるか、模索中です。
診療のエッセンスをいただくべく、WEB配信セミナーを視聴しました。
メモを備忘録として残しておきます。

****************************************

 1.食に関する神話

Q.  飲んだり食べたりはヒトの本能として備わっているものですよね?
 → 生まれた赤ちゃんは本能的に飲食できるわけではなく、学んで獲得する技能である。

Q.  離乳食はスプーン使用が原則?
 → 手づかみ食べが自然であり、食べ物に手を伸ばして、つかんで、自分の口に入れるという食事の基本がそこにある。

Q.  手づかみ食べは危険なのでは?
 → 安全に与えるポイントがある;
✓ 赤ちゃんがのけぞっていないこと(泣いていると仰向け反り姿勢になりNG)
✓ 赤ちゃんが自分から食べ物を口に入れること
✓ 大人が側で見守っていること

Q.  食事は1日3回が基本ですよね?
 → 朝起きてから寝るまでの時間を2.5時間で割った数が1日の食事回数。
・・・16か月〜3歳までは、早め早めに与えると、食事と食事の間隔を2.5時間から3時間あけるより食べる量が減ります。

Q.  食事はしつけの場だから、よくないことは叱らないといけない?
 → 4歳までの子どもの頭の中には「食卓では口から出したり落としてこぼしたりしてはいけない」という考えはありません。
・「ダメ!」と言うと、子どもは注目されたと思ってもっとやる。
・して欲しくない行動には反応しないのが原則。

2.小児摂食障害とは
(定義)
年齢にそぐわない経口摂取障害で、
医学的、栄養的、摂食技能の機能障害を合併する。
精神社会機能障害を持つ場合も持たない場合もある。
小児摂食障害の結果、WHOの身体機能構造障害、活動障害、生活状況における問題をきたす。

3.子どもの偏食は介入する必要があるのか

▶ 正常範囲の摂食状況
・好き嫌い(ピッキーイーター)
・食欲低下、興味がない
・食べるのが遅い(30分以上かかる)
・食べ物を口に入れたまま(フードポケッティング)
・日々の摂取量のうち30%程度までの幅は成長に影響しない。

▶ 小児摂食障害の頻度(アメリカ)
・小児全体の2-29%
・医学的な課題のある小児(※)の2-40%
※ 早産児、心肺疾患、先天異常、遺伝疾患、食物アレルギー、慢性疾患、神経発達症
・重度の認知障害のある児の80%

▶ 医学的介入を要する小児摂食障害
・身体構造機能障害をきたした場合
 ✓ 治療可能な疾患の治療:扁桃肥大、慢性便秘
 ✓ 栄養的課題を持つ場合:成長障害、微量元素不足
 ✓ 発達年齢相当の口腔運動技能を獲得していない場合
・活動障害、生活状況における問題をきたしている
 ✓ 集団・集団生活に入れない
 ✓ 毎日の食卓のトラブルで養育者の育児不安、負担感が高い場合
・これまで言われてきた小児集団の1-2%よりはるかに多い。

▶ 専門家へ相談の要否をスクリーニングするチェックリスト
(乳幼児摂食障害スクリーニング:0-4歳)
① お子さんはあなたにお腹が空いたことを知らせますか(※1)? No・YES
② お子さんはあなたから見て十分量を飲んだり食べたりしますか? No・YES
③ お子さんに飲んだり食べたりさせるのに(食べるのに)どのくらい時間がかかりますか(※2)?
  (5分以内あるいは30分以上) (5〜30分)
④ お子さんに飲んだり食べたりさせるために、何か特別なこと(おもちゃ、テレビ、ビデオ、YouTubeなど)をしていますか? YES・No
⑤ お子さんはあなたにお腹いっぱいだと知らせますか? No・YES
⑥ 上記の質問に答えて、あなたはお子さんの食事について心配がありますか? YES・No

※1)母乳、人工乳、牛乳の場合は飲んで1時間すれば食事にできます。食事時間を決めて与えるようにすると2週間で空腹感のある生活になると言われています。食事時間を決めて、歌を歌いながら、手洗い、行進などしながら、椅子に座るようにしてみましょう。朝早起きすると、時間のデザインをしやすいです。
※2 )一食にかける時間が45分を超えると、食べることに費やすエネルギーの方が、食事エネルギーより増えてしまう。子どもの食事時間を調べた研究によると、1回の平均食事時間は20分、ゆっくり食べる子どもでも25分。食事時間は15〜30分(長くても40分まで)にしましょう。

 → 赤字の答えが2コ以上あれば、専門家受診を推奨

4.小児科医に対応できる範囲

・医学的要因:早産、心肺疾患、遺伝/染色体異常、頭蓋顔面奇形、神経発達症、消化器疾患・アレルギー(小児科医)
・神経発達症:自閉スペクトラム症、全般性発達遅滞、脳性麻痺/運動障害(小児科医、児童精神科医)
・消化器疾患:胃食道逆流、慢性便秘、好酸球性食道炎(小児科医、小児外科医)
自律神経調節不全(小児科医、児童精神科医)
 ✓ 睡眠障害
 ✓ 乳児期早期:睡眠覚醒レベルの異常から哺乳に苦労した既往。
 ✓ 検査では正常なのに吐きやすい。緊張すると吐く。
 ✓ 空腹という体のサインに鈍感/過敏(痛みとして感じる児も)
 ✓ 遊びだしたら夢中で食べることを忘れる。
 ✓ 食事は退屈で常に刺激を求める。
・栄養評価
 ✓ 成長曲線が標準カーブに沿っているか
 ✓ 沿っていなければ血液検査を:Hb, MCV, ALP, フェリチン、総鉄結合能、亜鉛、TTR、RBP、ビタミンB1、ビタミンC、25-HビタミンD
・栄養指導(小児科医、栄養士)
 ✓ 成長曲線に沿っていても、20品目以下なら微量元素欠乏のことがある
・摂食機能因子の評価・指導(小児科医、保育士、保健師、言語聴覚士、歯科医)
 ✓ 食べる機能の完成は2歳、2歳まで待って介入していると手遅れになる。

▶  “食べる機能”発達過程のつまづきと具体的なアドバイス
・哺乳・摂食障害が起こりやすい時期
・・・つまづきの月齢を知ると、今、目の前の子どもは何ヶ月相当の食べる機能を持っているか推測可能
① 反射飲みから随意飲みになる頃
 → 与えられるがままにではなく、空腹と満腹の感覚が出てきていわゆる飲みムラが出てくる。
② 乳汁からペースト状の固形食の時期
 → 食事摂取方法の大きな転換であり、口腔機能の適応を要する時期
③ なめらかなペースト状から粒や塊への移行期
 → 舌の前後運動での飲み込み(ゴックン)から、舌の側方運動(モグモグ)、舌の上下運動(カミカミ)も必要になる。

▶ スムーズな離乳食の進め方神奈川県小児保健協会HPより)
・・・いつから?なにを?どのように?

(いつから?)
・・・暦年齢ではなく、子どもの発達段階に合わせて
口を閉じるようになったら(口を開くようになったらではありません!)スプーンで与え始める
② 舌の動きに注目:前後 → 上下 → 側方 → グルグル回し、と上手になる。
③ 「前歯でひとくち大にかみ切る」から「奥歯(の出る場所)でかめる(粉砕)」に変わっている。
④ 以上を行いながら、同時におもちゃの持ち替えが始まる頃(6-8か月)から、固くてかめないモノで手づかみ食べの練習を始めましょう。
※ すべての段階で、食べた量ではなく、子どもの表情に注目!

(なにを?)
・・・ペースト食+手づかみ食べの食品
★ 手づかみ食べに関してはこちらをご覧ください。

(どのように?)
・・・スプーンで与える+手づかみ食べ
スプーンでの与え方のポイント;
① 乳児用スプーンを使う(ボールが浅い、持ち手が長い)
② 養育者はスプーンに少量の食事をのせ、水平に持って口の真ん中から入れる。
③ くちびる子を得てすぐの所、または舌の先端で止める。舌の前方1/3より奥に入れない。
④ 子どもがくちびるを閉じたら水平に引き抜く。

・心理的因子:精神社会的機能不全(小児科医、保育士、保健師、臨床心理士、児童精神科医)
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
4.食事の時、養育者と子どもの関係性がない
  
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
・一番効果があるのは「強制をやめる」こと
❌️ スプーンは必要?
 ✓ スプーンで食べさせると、顔を背ける、手で払いのけるなど嫌がる場合は、思い切ってスプーンや箸で与えることを一切やめましょう。
❌️ NGな言葉や態度
 ✓ 一口だけでも食べよう!
 ✓ おいしいよ〜
 ✓ せっかく作ったのに〜
 ✓ 何で食べないの?
 ✓ お腹空いてるはずだよね?
 ✓ 食べるかどうかをみんなで見ている
❌️ 食べ物の種類・量
 ✓ 食べないものを必ず置く
 ✓ 食べるものでも食べきれないくらいの量を置く

・食卓での親子の役割を決めることがポイント
・・・メニューは子どもの希望を鵜呑みにせず、親が決めることが大切。
✓ 親が決めること:いつ?どこで?なにを食べる?
✓ 子どもが決めること:食べるか食べないか、どうやって食べるか?

2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
 → 年齢に見合った、食事の時間・空間の調整が相当する

★ 食事環境の調整とアドバイス
・食事はすべて(3食も軽食も)、場所を決めて食べるようにしましょう。
・食事する環境に、気になるおもちゃ、テレビ、ビデオなどが目につかないようにしましょう。
・食事中は、他人が口の周りや手を拭かない。自分で拭きたがる場合は濡らしたタオルなどを置いて、いつでも自分で拭けるようにしましょう。
・食卓から下りてから、口を拭き、手を洗いましょう。
・キレイに食べさせようと、口周りや手を拭くのは感覚過敏の元になるかもしれません。
・食べ方や食べた量を話題にしないで、食べ物を話題にしましょう。兄姉などの食べっぷりをほめるのもよいでしょう。また、これを食べたら好きなアレを食べてもよいなどと、ご褒美にしないことも大切です。
・食器はシンプルに(キャラクター付きは❌️)、食べ物が目立つようにしましょう。自分の食べ物の領域をはっきりさせると落ちついて食べるお子さんもいます。シンプルな滑らないシリコンのランチョンマットをおくのもよいでしょう。
・スプーン、お箸を上手に使うことに集中しすぎず、楽しく食べることを優先しましょう。“手づかみ食べ”もOKです。
★ テーブル・椅子の調整
・食卓の高さは、子どものおへそと乳頭の間になるように。前腕が食卓につくくらいが子どもには食べやすいです。
・歩けるようになったら、椅子と食卓の調整を。お子さんの足首、膝、股関節の部分が90度になるように。足の裏が床に全部ついていることが大事。
・椅子が体に合わない場合、タオルやクッション、牛乳パックや雑誌を台にしたりして調整を。
★ 姿勢を安定させることが食事の基本
・姿勢は呼吸の次に大事なことです。
・“倒れないようにする”という指示から運動脳を解放し、食べる操作に専念できる。
・姿勢が安定すると呼吸を助ける。
・座位姿勢を安全にする。
・手と口の協調を安定させる。
・噛むための関節の可動範囲を拡げる。

▶ 生活リズム調整(食事環境調整の一環として)
・空腹を感じるような生活を。
 ✓ 生活リズム、食事を決まった時間に出す。
 ✓ 便秘対策
 ✓ 眠りの儀式:眠るまでの一連の行動を決める。
・食べ物を食べる場から食卓の皆が食事時間を楽しむ場へ。
 → 自律神経を整える役割(遊び・興奮の交感神経優位から、リラックスの副交感神経優位へ)

▶ 専門家によるチームプレイで対応
・摂食技能のエキスパート:言語聴覚士または作業療法士
・小児消化器専門医
・小児管理栄養士
・発達小児科医
・臨床心理士・ソーシャル・ワーカー


<参考>
食べない子ども・偏食への対応(2021年、大山牧子Dr.)
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ASD(自閉症スペクトラム障害)早期診断・療育のメリット〜1歳半検診の重要性

2022年07月24日 09時30分35秒 | 乳幼児検診
先日、発達障害に関するWEBセミナー(講師は神尾陽子Dr.)を視聴しました。
勉強にはなったのですが、一本調子で2時間近く話し続けるので、
どこがポイントなのかわかりにくく、集中力が持ちませんでした(^^;)。

まずは「フ〜ン、なるほど」と感じた点;
・発達障害は一つの診断名ですむことは少なく、いくつかの要素を持っていることが多い。
・療育開始が早いほど予後がよい。
・1歳半頃に徴候が現れるので、1歳半検診は重要。
・“共同注意”という概念を理解しチェックの際に用いるべし。
等々。特に“共同注意”に重点を置いて説明されていました。

気になるポイントを備忘録としてメモしておきます。

▢ 発達障害への対応
・発達障害は単独の診断名ではなく一つ以上の特性を示すことが多い(ASD+ADHD+DSD・・・)
・発達障害の大多数に併存精神障害を認める→ 支援は一律ではなく個別の特性に応じて行うべき
・発達障害の症状/特性は早期に始まり、ライフコースに渡る。
・対応はまず、養育者の理解を促すこと(育児支援、心理教育)
・そして自己理解へ(上手につき合う)

本来「病名」とは、それをつけることにより治療や生活指導に役立つもの。
いくつも病名がつくような病態なら、その付け方が適切ではないのでは?と思ってしまいます。

現在の精神疾患は「DSM-5」に基づいて分類・診断されていますが、
これは症状を集めて診断するアナログ的手法です。

その背景として、遺伝子診断が日進月歩の現代医学を以てしても、
精神疾患は分類しきれない・整理できないのが現状、と耳にしたことがあります。

いずれにしても、発達障害を含めて精神疾患の病名は、
遺伝子異常による分類が確立するまでは、
これからもコロコロ変わることが予想されます。

▢ ASD早期療育の中長期的なメリット
・一部(25%)にASD症状の著明な改善を認めた(改善群)。
・改善群全員が3歳までに療育を受けていた。
・一般的に開始が早いほうが効果が大きい。
・複雑化してからだと回復に時間がかかる。
・良好なメンタルヘルス(併存障害なし、服薬治療なし)。
・良好なQOL。

早期発見・早期療育が有効であることを強調されていました。
「早期薬物治療開始」ではありません。

▢ ASDはいつからわかるか?
・1歳前ではまだわからない。
・0歳からよく知っているからといって後の発達障害診断を否定できない。
・1歳6ヶ月〜2歳で十分な情報があればわかる。
・全般的な発達の遅れがあればわかりやすい。
・わかりにくい子どももいる(女児、こわがり、発達の良好な子)
・家族歴があればハイリスク。

最近、1歳半検診と3歳児健診を担当するようになったので、
発達障害について基本的なことを勉強中の私です。

1歳半検診でグレーゾーンの子どもを拾い上げ、
保険相談〜療育につなげることの重要性を再認識させていただきました。 

▢ 幼児期の主なASD症状

A. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互交流の障害
・“共同注意”が少ない。
・非言語的コミュニケーション(アイコンタクト、身振り、表情)が少ない。
・言葉の後れ、会話にならない、同じ言葉を繰り返す。
・ともだちをつくれない、ごっこ遊びをしない、ひとり遊び。

B. パターン化した行動、興味の限局、感覚過敏
・行動の切り替えの困難、初めての場所、ものへの不安、抵抗。
・新しいことを嫌がる、特定のもの、話題への没頭、興味
・聴覚、触覚などの感覚過敏

今まではなんとなくチェックしていた“指差し”が、
これほど重要であるとは・・・。
 
▢ 1歳時のASDスクリーニング
〜社会性をチェックし「出現しているはずの行動が出現していないこと」を問題視する。

(通常は1歳になるまでに出現している行動)
・アイコンタクト
・他児(兄弟以外)への関心
・微笑み返し
・呼名反応
・人見知り

(通常は1歳6ヶ月までに出現している行動)
・共同注意行動
・身近な大人の動作や言語の模倣

(あればASDを疑うべき行動)
・感覚的な遊びに没頭する
・音や触覚に過敏

▢ “共同注意”の概念
・他者とモノ・コトに向ける注意をシェアすること。
・自分の気持ちを他者の気持ちに重ねることの始まり。
・生後10ヶ月頃からみられるようになる。
 10ヶ月児の通過率:約50%
 1歳6ヶ月児の通過率:100%

▢ 実際の共同注意に関する質問項目

(質問)あなたが部屋の中の離れたところにあるおもちゃを指さすと、お子さんはその方向を見ますか?
★ 質問の意図:指差し追従(他人の指差しに応答する)できるかどうか

(PASS例)お母さんがモノを指さすと、
・指でさされたモノを見る。
・自分もそれを指でさす。
・それを見て、何かそれについて言う。
・もしお母さんがそれを指さして「ほら!」と言えば見る。

(FAIL例)お母さんがモノを指さしても、
・無視する。
・部屋中をキョロキョロ見回す。
・(モノではなく)お母さんの指を見る。

(質問)◯◯ちゃんは、興味を持ったモノを指をさして伝えますか?
★ 質問の意図:興味の指差し:要求の指差しではなく、興味を持っていることを表現するために指差しをするかどうか。1歳6ヶ月児の通過率100%。応答の指差しと区別する必要あり。

(PASS例)
・自分にとって面白いモノを指さして教える。
・お母さんの注意を興味あるモノに引くために指差しする。
例)空を飛んでいる飛行機、道路を通っている大きなトラック、地面の上を這っている虫など

(FAIL例)
・指差ししない、または、時々しか指差ししない。
・要求の指差しはするが、興味を指し示す指差しはしない。

(質問)◯◯ちゃんは、お母さんに何かを見てもらおうとして、モノを見せに持ってきますか?
質問の意図:要求ではなく、共有目的でモノを見せに持ってくるかどうか。1歳6ヶ月児の通過率:92.9%。

(PASS例)◯◯ちゃんはお母さんに見せようとして、
・**を持ってくる。
例)絵やオモチャ、自分が描いた絵、自分が摘んだ花、自分が見つけた虫など

(FAIL例)
・・・モノを持ってくるが、見せるためかどうかは分からない。
例)本(読んでもらうため)、オモチャ(動かす、修復のため)、お菓子(袋を開けて欲しいなど)

“共同注意”の概念は、
「興味のあること・モノを他人と共有することが楽しい、うれしい」
という「人間関係を気づく基本となる感情」なのですね。
 
▢ 日本語版「M-CHAT
・乳幼児期自閉症チェックリスト修正版。
・H30年度診療報酬改定により、検査D283:発達及び知能検査の「操作が容易なもの」(80点)として保険収載。
・対象年齢:16〜30ヶ月
・23項目 親記入式質問紙(はい・いいえ)
・日本語版の特徴:イラストの説明あり
・国内外の大規模研究で、健診場面での有用性が実証済み
 2段階(質問紙→ フォローアップ面接)>質問紙のみ・・・擬陽性例が減る
 2段階 陽性的中率 43〜46%(日本)、54%(アメリカ)
・海外の主要なガイドラインで推奨されている。

▢ A. 社会的障害(M-CHAT)
(園での友達関係)
・ひとり遊びを好む(周囲に子どもがいてもお構いなし、あるいは、周囲に子どもがいる場を避ける)
・自分からは仲間に入らないが、誘われると受け身的に参加する。おとなしい子や年下の子となら遊べる。
・自分から仲間に参加するが、自分のやり方を強要するのでケンカとなり、嫌がられる。
(情緒的反応性)
・他者に無頓着(マイペース)
・他者の気持ちに敏感だが(こわがり?)、意図は分からない。
(言葉の理解)
・言語理解は言語表出と比べて悪い(しゃべるけれども言われたことは理解できない)
・自分の関心のあることしか話さない。
・要求と関連して話しかける(質問に答えることもある)
・言語理解はしているが、答えられない。
・やりとりが目的の会話はできない。

▢ B. 限局・反復的様式と感覚反応(M-CHAT)
・苦手な感覚(聴覚・触覚・視覚・味覚・嗅覚)のために苦手な場面、活動がある。
・今している活動を止めることの抵抗、あるいは新しい活動への切り替えの困難・不安のために、集団生活がストレスになる。
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(備忘録)3歳児健診のポイント

2022年05月09日 20時43分25秒 | 乳幼児検診
<発達>

▢ 跳んだり、階段を1人で上がることができる。
閉じた丸を描ける
大小、長短、色がわかる
▢ 3語文以上を話し、自分の姓名・年齢を答えられる
▢ 同年齢の子どもたちと遊ぶことができる。


<概要>

・3歳は運動や社会性の発達の節目。
・発育面・発達面ともに個人差が大きくなる時期。
・食事・排泄などの基本的な生活習慣がほぼ自立する。
・単純なひとり遊びから複雑な小グループの遊びへ。
・自我が芽生えて「イヤ!」「自分でする!」といった自己主張をするようになる。
・身長は90cm越え。80cmで-2SD、100cmで+2SD。
粗大運動:走ったり跳んだり。片足立ちやケンケンといった平行感覚が身についてくる。
(他の例)三輪車をこげる。止まっているボールを蹴ることができる。
・微細運動:クレヨンを持って閉じた丸を書いたり、スプーンを上手に使ったり、ハサミを使うことができるようになる。
(他の例)衣服の着脱が自分でできる、紙を二つに折ることができる、箸が使える(子もいる)、こぼさずに食事ができる
・言語能力:物の名前や動作に関する言葉以外にも、大小や色などの抽象的な言葉の理解も進み、多語文による会話が可能となる。
・認知能力:ままごとでお母さんのふりをしたり、積み木を車に見立てて押したりといったことが可能となる。


<チェックポイント>

▢ 母子手帳の確認
・胎児・新生児期の異常の有無
・成長曲線
・これまでの健診の問題点の有無
・予防接種歴

▢ 診察室での観察・反応
・姿勢:直立の姿勢
・運動機能:走行、両足跳び、手を使わずに階段上り
・あいさつ(言葉と動作)・・・親より先に子どもに声がけ
・会話(名前と年齢を聞く)
・体の部位(指さし)
・指示動作可能(お口を開けて)
・診療拒否、多動、親が制止不能、視線が合わない、奇声を出すなどに注目
→ ★ 問題行動の分類へ

▢ 一般診察
・顔面:顔貌(表情・反応)、眼(斜視、眼振、視線の合い方)、口腔(扁桃、歯の数、う蝕→ ★ う蝕へ)
・頚部:リンパ節、腫瘤、甲状腺
・胸部:胸部変形、心音(心雑音、不整脈)、呼吸音
・腹部:肝脾腫、腫瘤、ヘルニア
・皮膚:血色、緊張度、発疹、色素異常
・泌尿生殖器:ヘルニア、停留精巣
・四肢:O脚、X脚、反跳膝


★ 問題行動の分類
・正常な発達過程にみられる問題行動:攻撃性、反抗的行動、トイレトレーニング
・生活の尋常でないストレスによる問題行動:暴力行為の目撃、絶えず夫婦仲が悪い、自分の兄弟が慢性疾患を持っている、望まれずに生まれてきた子ども、悲劇的な出来事を経験したコミュニティの一員など
・生来の疾病により問題行動:注意欠陥・多動症、行為障害、うつ病、広汎性発達障害など

★ う蝕
・3歳は乳歯列が完成、安定していく時期であり、食事が多彩になる時期でもあるため、う蝕が発生しやすい。
・虐待や発達障害の発見の端緒となることがある。

★ 虐待
・複数あるいは不自然な傷やアザの有無について観察する。大きな傷にもかかわらず兄弟にされたというのは虐待を隠蔽する方便のことがある。
・行動の異常をきっかけとして虐待が見つかることがある(発達障害が原因のこともある)。

★ 発達障害
・強いこだわりや落ち着きのなさだけでなく、言葉の遅れや認知の発達の遅れを伴うなど、複数の逸脱が見られる場合に注意する。
・発達障害を1度の診察で確実に診断することは困難である。


<よくある質問>

Q. トイレトレーニングが思うように進まない
A. 個人差があること、失敗を怒らず成功を誉める対応の原則を説明する。

Q. 言葉の遅れ
A. 「言語理解の遅れ」「有意語が少なく2語文が出ない」「対人関係や行動面に異常がある」場合は専門家に紹介する。それらができているようなら次第に言葉が出てくることが多い。絵本の読み聞かせをする、子どもの目を見て優しくゆっくりと話しかけるようにするなどをアドバイスする。

Q. 落ち着きがない
A. 言葉の遅れがなく遊びに集中でき、指示を理解して完遂できる場合、特定の場面でのみ落ち着きがない場合は問題がない。それ以外は慎重に経過観察する。

Q. かんしゃく持ち
A. 発達過程で一過性にみられるものである。
 かんしゃくの程度が強く、特異なこだわりやささいな出来事で手のつけられないパニックを起こす場合は広汎性発達障害の可能性を疑う。


<参考>
原朋邦:編集(南山堂、2018年発行)
(Youtube動画)けんたろう
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(備忘録)1歳6ヶ月健診のポイント

2022年05月09日 20時43分01秒 | 乳幼児検診
<概要>

・1歳6ヶ月は“key age”「発達が質的に変化する時期」「赤ちゃんから人間へのダイナミックな変化を遂げる時期」「間脳支配から大脳皮質優位の支配へ」
・成長曲線がなだらかになり(体重増加は月に100〜200gあればOK)、身長約75cm、体重約10kg、体格はやや細身。
・乳歯が平均15本。
・一人で上手に歩けるようになる。
・指を使って小さいものをつまんだり、スプーンで食べたりすることができる。
・意味のある言葉「マンマ」「ブーブー」などを3語以上使えるようになり、指さしで周囲の人に要求をしたり周囲の人の指示を聞いたりという相互交流ができるようになってくる。
・早産児・低出生体重児では1歳6ヶ月までは修正月齢を考慮して身体発達や発達評価をすることが望ましい(平岩幹男Dr.)。


<チェックポイント>

▢ 一般診察
・大泉門:閉鎖していることを確認
・皮膚:母斑、白斑、カフェオレ斑、血管腫、毛巣洞
・体型:脊柱側弯、胸郭の異常
・胸部聴診:心雑音
・腹部:腹部腫瘤、鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、停留精巣、外陰部異常
・眼:対光反射と眼球運動(斜視、網膜芽細胞腫など)

▢ 体格:成長曲線に沿って伸びている
・絶対値より伸び方が重要。

▢ 粗大運動:一人で上手に歩ける
・90%が一人で歩けるようになる時期(歩行できない子どもは全体の2%とも)。
・“上手に歩ける”とは10m以上転ばずに安定して歩けるという意味。
・1歳頃の“high guard”歩行から“low guard”歩行へ。
・shuffling baby(いざりっこ):お座り→ ハイハイ→ つかまり立ち→ つたい歩き→ 歩行がふつうの発達だが、ハイハイをせずにいざり移動(座位のまま移動)から歩行にいたる場合は歩行開始が遅れることがある(1歳半で歩行不能でも2歳頃までに可能となる)。日本における頻度は約3%。
・環境因子により歩行が遅れる事例もある。
(例)歩くのが遅いと心配した保護者が歩行器を使用して無理に歩かせようとしている。
(例)自宅に捕まれる場所がなくつたい歩きがしっかりできていないため歩行ができない。
1歳6ヶ月で上手に歩けない児は専門機関へ紹介。low guard 歩行の場合は経過観察。

▢ 微細運動:小さいものを指でつまめる。積み木を2-3個積める。鉛筆で殴り書きをする。
・微細運動のチェックは軽度の脳障害の判定に有用である。

▢ 言語:意味のある言葉をいくつか話せる。簡単な指示を理解できる。
・「ママ」「ブーブー」など5つ程度の単語を話せるようになる。意味のある単語が出ない場合は、聴力障害、言語理解ができているかどうかについて評価する。
(例)「ポンポンどこ?」と聞いて腹部を指さしできれば、聴覚・言語理解・指示の理解ができていることがわかる。
(例)診察の終わりにこちらの「バイバイ」に「バイバイ」で返してくれば、身振りや動作の意味を理解し模倣する能力が確認できる。
・全く反応がない場合は、知的発達や聴覚の異常などの可能性を疑い、保護者の手に負えないほど無秩序に動き回って拒絶的だったり、験者と視線がほとんど合わないときなどは発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など)を考慮する。
言葉は模倣により覚えるので、保護者がハッキリした大きな声でゆっくり話すようにする。

▢ 社会性:周囲への関心を持つ。興味のあるものを指さして示す。模倣ができる。
・要求の指さしや模倣は、ASD(autism spectrum disorder, 自閉症スペクトラム障害)の識別度が高い項目である(M-CHAT:modified checklist for autism in toddlers, 乳幼児期自閉症チェックリスト)。

▢ 事故予防
・行動範囲が広くなるので事故が多くなる。
・喫煙者がいる場合、タバコ誤飲にリスク、受動喫煙の有害性を指導し、保護者の禁煙支援を提案。

▢ 予防接種
・接種漏れの有無を確認し、有る場合は背景に有る保護者の事情に耳を傾ける。

▢ 虐待のサイン
・複数の外傷の有無
・痩せ、無表情
・親の無関心、児への高圧的な態度
・親子の様子に違和感

「ちょっと気になる子」
・周産期既往歴:極低出生体重児、重症仮死、新生児けいれん、無呼吸
・粗大運動:歩行の遅れ、歩き方がおかしい、high guard歩行
・微細運動:スプーンを使おうとしない。積木で遊べない。
・言語発達:単語が出ない。
・診察所見:全体的に筋肉が柔らかい・硬い、頭が大きい・小さい(あらゆる年齢で頭囲の2SDは3cm)。
・社会性:応答の指さしが十分にできない。視線が合わない、落ち着きがない、周囲に無関心、など。
・生活習慣:離乳が未完了、摂食行動(噛む、飲み込む、吸うなど)が下手、偏食が著しい。

→ 上記が気になる場合は「経過観察健診」が必要となる。症状や所見によるが、2〜3ヶ月後、遅くとも6ヶ月後(2歳頃)に。


<健診結果と事後措置>

運動発達の遅れ → 保健機関や療育機関、病院に紹介
・言語理解の遅れに加え、運動発達の遅れ(歩行未開始)、微細運動の遅れ(積み木が積めない)、遊びや基本的な生活行動の発達の遅れ(おもちゃを用いて遊ぶことができない、スプーンを使って食べる・簡単なお手伝いをするなどの行動が見られない) があれば全般的な精神運動発達遅滞が疑われるので医療機関を紹介する。
・歩行開始の遅れのみで、言語理解が良く知的発達が良好である場合は追跡観察で粗大運動の発達を再評価する。

指示が入らない → 保健機関や療育機関、病院に紹介
・応答の指差しがみられない(絵を指差すことができない)
→ 以下の可能性を考慮(1回の評価では不正確なこともあるので追跡観察を行い、言語発達の遅れが続く場 合は療育機関や医療機関を紹介する)
① 聴力障害
② 精神発達遅滞
③ コミュニケーションの発達の遅れ(自閉スペクトラム症)
④ 養育環境の問題

(アドバイス)
・やり取り遊びや関わり遊びを増やして「もっと」「もう1回」という要求を引き出す。
・生活リズムを一定にして生活の見通しを持たせ、要求を引き出す。
・「どっち?」と二者選択をさせ、手差しから指差しを教える。

指示は入るが言葉が少ない → 2歳児健診あるいは2歳時に電話でフォロー
・有意語が2語以下
→ 有意語がないあるいは 2 語以下であっても、言語理解が良く、社会性の発達が良好である(言葉は話さないが、応答の指差しが可能で、 視線がよく合い、言語のみの指示に的確に従うことができる)は表出性言語遅滞の可能性が高い。家族歴があればさらに可能性は高まる。通常3歳までに言葉表出が伸びることが多く、無理に言語表出を促す必要はないが、2歳時にフォローアップを行い、 ことばの発達を確認することが望ましい。

(アドバイス)
・動作に言葉を添える。「くっく、履こうね」など
・「〜とって」などお手伝いをさせながら単語のチェックを氏、指差しして教える。

視聴覚などの理学的異常所見あり → 他機関紹介

社会性・行動の異常所見あり → 要再評価&保健機関や療育機関、病院に紹介
・名前をよんであいさつをしても視線が合わない、物のみに注意が向き相手に注意を向ける様子(共同注意)が見られない、 言語指示のみでなくジェスチャーを交えたやりとりも全く成立しない場合は、コミュニケーションの発達の遅れ(自閉スペクトラム症)が疑われる。
・この年齢の子どもは緊張してやりとりに応じられないことが良くあるが、これらの様子が目立つ場合は再評価が必要である。フォローアップを行い、医療機関や療育機関へ紹介する。
・子どもが親の膝上でじっとしていることができず再々降りようとしたり、好き勝手に遊び回ったりする場合は多動と判定する。この時期の多くの子どもは多動であるが、明らかに場面に応じた行動抑制ができない場合、多動的行動特性の他に、知的発達のおくれ(状況判断ができていない)や自閉スペクトラム症(自己中心性、新規場面への不慣れ)の可能性を考慮する必要がある。

運動機能異常
<判定基準>
・歩容の異常:動揺歩行、墜下性歩行、尖足歩行など
O脚:両足内踝をつけて膝部離開4横指以上(O脚)→ 生理的なO脚が見られる時期であるが、両足内踝をつけて立位をとったときに膝部に3横指の離開がみられた例は、家庭で経過観察し増悪したら医療機関で精査するように指導する。膝部離開が 4 横指以上の例は二次健康診査へ紹介する。
・胸郭・脊柱の変形:強度の胸郭変形、明らかな側弯


<この時期に発見されやすい異常と疾病>

・知的能力障害
・自閉スペクトラム症
・言語発達遅滞
・構音障害
・斜視
・う蝕
・養育環境の不良に伴う発達の異常


<よくある質問>

Q. 食事に関する問題:手づかみ食べ、少食、偏食
A. 
・“手づかみ食べ”は感触を楽しんでいる状態と割り切る。いつまでも遊んでばかりで食べないときは無理強いせずに一旦食事を片付ける。
・少食・偏食対策:食材を細かく刻む、すりおろす、混ぜ込むなどの工夫で食べやすく調理する、新しい食材を食べられたときはしっかりほめる。

Q. かんしゃく、夜なきがひどい。
A. 自我が芽生えて自分の思い通りにならないために癇癪を起こすことは、順調に発達している証拠。不快な事の有無を確認し、いろいろ手を尽くしても泣き止まないときは忍耐強く見守る(いつかは泣き止む)。
★ 肌と肌が触れあうように抱くと泣き止むことが多い(アフリカのお母さんのつぶやき)。


<参考>

原朋邦:編集(南山堂、2018年発行

▢ 乳幼児検診マニュアル第6版
福岡地区小児科医会乳幼児保健委員会:編集(医学書院、2019年

▢ 1歳6ヶ月検診:秋山千枝子(あきやま子どもクリニック)
(日本小児科学会)

(厚生労働省)

平岩幹男(国立研究開発法人国立成育医療研究センター)
小児保健研究 第76巻第6号、2017(527-531)
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